2017/09/02 のログ
ご案内:「大時計塔」に時坂運命さんが現れました。
■時坂運命 > 学生街、異邦人街、歓楽区、そしてスラム……
この島に訪れてもうすぐ半月。まだ訪れていない場所の方が多いくらいだ。
それほどに広いと感じていたはずの島を一望できてしまうその場所は、
この島のどこよりも空に近かった――。
眼下に広がる街を見下ろす少女は、長い夜闇色の髪を風に揺らしながら独り静かに夜に沈む世界を見据える。
腰掛けた手すりの幅は狭く、少しでもバランスを崩せば地面へと真っ逆さまに落ちてしまうのだろう。
けれど、それを懸念するそぶりもなく、白い湯気が立ち上るティーカップを傾けた。
「もうじき夏も終わり、秋がやって来る。
やっぱり、紅茶は温かい物に限るね……」
一口含めば、甘く温かなミルクティーが冷えた体を温める。
■時坂運命 > 夜の世界には、昼間よりもはっきりと見える物もある。
煌びやかな場所は歓楽区。
明りがちらほらとしか灯らない場所は学生街。
そして、逆に――。
「ああ、今度はあの辺りかな……」
空いた左手をスッと伸ばし、歓楽区の先、薄暗い一角を指さした。
それと同時に、パッと一瞬光が放たれる。
まるで何かが爆発したかのような、そんな光だった。
少女が指さしたそこはスラムと呼ばれる辺りだった。
「こんな夜中でも、随分と賑やかな場所があるようだね。
あれが例の危ない場所と言う辺りかな……。
――ふむ、ここまで堂々と武器の使用がされているとは。
異能だけでも危険なのに、まったく……怖い島だね」
誰かに語りかけるように、少女は独り言とクスクスと言う楽しげな笑い声を凝らした。
ご案内:「大時計塔」にHMT-15さんが現れました。
■HMT-15 > この島の中でもひときわ目立つ建造物、それがこの時計台だ。
それは誰に指示されるわけでもなく時を刻みまた鐘を鳴らして人々に時間を知らせる。
しかし今夜はその時計台が奇妙な挙動を起こす。
それは定刻でもないのにいきなりチャイムが鳴ったのだ。
深い夜だからか馴染みのメロディーは
不気味な旋律として夜空へ消えていく。
無論時計台に一番近い屋上にいたならばかなり煩い事間違いなしだろう。
■時坂運命 > 小さな火花が燻り弾ける様子を観覧席から眺めては、一つずつ指差して予想を立てる。
見事に言い当ててしまうが故に、まるでその指の先が破壊を招いているようにも見えるが、
「うん、今度はあっち―― あれ? ……外れちゃった」
百発百中とはいかないらしいそれは、所詮不完全な予知でしかない。
見えている数百通りの未来から想定し選んだ答えだ、経験と勘で補えるのにも限界はある。
外れたと言うのに、少女は何故か嬉しそうに笑みを深めてカップを傾ける――はずだった。
突然、頭上で鼓膜を破らん勢いの音が降り注ぐ。
聞きなれたメロディだと気付く前に、思わず手にしていたカップを落とし、
両手で耳を塞ぎ周囲を見渡す。
「ん゛ー……、凄い音だね。 でも、こんな時間に鳴る予定は無かったはずなのだけれど」
■HMT-15 > 「失礼。聴覚は損傷していないか?」
突如時計台の上の方から少女に向けて
無機質な声質の声が投げかけられる。
その声の発生源は時計台上部のまさしく時計盤。
そこに備わっている小さな戸から奇妙なロボットが
屋上を見下ろしていた。
そして間もなくそのロボットは時計盤から少女のいる屋上へと飛び降りる。
着地の際に少し地面が抉れてしまうが特に気にしている様子はない。
「時計台のメンテナンスをしていたんだが誤ってチャイムを鳴らしてしまった。
帰ったら報告しなければならない。
・・・ところでキミはこんな所で何をしていたんだ?」
少女を見上げて尋ねる。少女の珍しい身なりから
ロボットの好奇心が刺激されたようだ。
■時坂運命 > 「あー、あー……、あ。
うん、なんとか無事なよう――」
耳に手を添えながら調子を確かめ、無事が確認できれば声がした方へ顔を上げた。
笑みを浮かべた顔は一度固まり、キョトンと目を丸めて何度か瞬きを繰り返す。
親切で働き者な人間を探して見上げた先に、重厚な機械がいたのだから仕方がないというものだ。
「……これは、驚いた」
見た目通りの重量を持っている相手が着地すると、時計塔が軽く揺れた気がする。
「機械が流暢に日本語をしゃべるとは、また面妖な。
絡繰り人形……いや、現代風にはロボットと言うんだったかな?」
大きな独り言を口にして、鋼鉄の体躯をきょろきょろと一頻り眺めてから、
「ああ、うんうん。
気にすることは無いよ、誰しも失敗はあるものだから。
その反省を次に生かすことが重要なんだ、ときっと君の上司も言ってくれるに違いないさ。
そして、僕は気まぐれに街の夜景を肴に紅茶を飲んでいたところでね」
ここが立ち入り禁止かどうか、そこには触れずに流して笑顔を向けた。
■HMT-15 > 「確かによく驚かれる。機械が言葉を喋ることが
そんなに珍しいのか?」
彼女の大きい独り言を受けてロボットもまた
彼女を見上げてそう返す、表情一つ変えずに。
正確には変える表情がない。
「そうだ。普通の機械と違ってニューロAIは
ミスをする。仕方がないことだ。」
彼女のフォローに乗っかる形で頷きながら
そんな戯言を。少なくとも機械であるのだから
もう少ししっかりするべきなのだが・・・
「なるほどティータイムか。それにしても
何故人間はこうお茶を好むんだ?理解に苦しむ。
飲料用液体と見れば水と同じだろう。」
紅茶でも水でも水分補給という観点で見れば確かに一緒だ。
あいにくこのロボットはそういう側面でしかものを見れていないようだ。
■時坂運命 > 「よいしょっ、と」
ひょいと手摺から下りて、宙ぶらりんだった両足を床に着く。
驚いてうっかり転落なんてしてしまったら、大問題だろうし。
「うん、僕は初めて見たよ。
……まぁ、携帯端末とか、パソコンだとか、
そう言う物にすら驚いているレベルだから、
あまり基準にはならないんだろうけど」
表情も声音も変化はない文字通り機械的な反応。
興味深い存在を前に、少女は楽しそうに腕を組んで見下ろす。
「そのニュー…AI? と言うのは知らないけれど、君は作られてどれくらい経ったのかな?」
真面目だけど言い訳をする妙な人間らしさ、ますます興味深い。
「人間には嗅覚、味覚、視覚と外部から情報を得る器官が多いからね。
そして、意識や趣向で好き嫌いが出るわけで……
それが個性の始まりなのかもしれない。 僕の場合はそれが紅茶――」
ふと、思い出したようにあたりを、特に床を見渡して。
視線が止まった先には割れて砕けたティーカップが落ちていた。
「あぁ、結構気に入っていたのに……」
欠片を拾い上げて肩を落とし、苦笑を浮かべる。
■HMT-15 > 「やはりこの島ではHMTはメジャーではないようだ。」
彼女の初めて見たという言葉にそんな反応を。
本土ではこのロボットと全く同じ姿のロボットが
様々な現場で活躍しているはずだが如何せんこの島では全く見ない。
「ニューロAI、人間と思考形態が似ている人工知能だ。
作られてからの年数は・・・データが破損しているため参照できない。」
一瞬フリーズした後にそう返答する。
この島に来る以前のデータは大方破損してしまっているため
参照できる記憶はごくわずかだ。
「なるほど、だからこそ人間は面白い。興味深い。」
ロボットにとって人間とは非合理的な存在であると共に
理屈では説明しきれない未知の領域。
それを受けて発されたこの言葉と共に
ロボットは自身のアイカメラを輝かせていたかもしれない。
そして割れたティーカップを見つつ落ち込む彼女を見つめて
「先ほどのチャイムで割れてしまったのか・・・。
そのことについては謝罪する。しかし形のあるものは
いつか壊れるものだ。」
反省して謝るかと思えば直後に言い訳を連ねる。
■時坂運命 > 「この島以外では、君のようなロボットは僕が知らないだけで沢山いるみたいだね……。
うーん、人工知能かぁ。学習して人間に近づいて行くことが目的なのかはさておいて。
データって言うと記憶みたいなものかな?
ふむ、記憶が欠けるくらい、君も中々大変な仕事を任されていると」
固まった様子に一瞬壊れてしまったかと内心焦ったが、返答が来てホッと息をつく。
「僕もそう思う。 笑ったり、泣いたり、喜んだり、怒ったり。
愛したり、憎んだり、迷ったり、足掻いたり、抗ったり、諦めたり。
正義とか悪とか掲げてみたり、途中で間違っていたと気付いても意地を張ったり。
本当、面白いよね人間って」
機械は感情を持つのか、技術者ではない少女にはわからない。
それでも、こちらを映したカメラの向こう側に、
強い好奇心を感じ取ったのはきっと気のせいではないのだろう。
少女は楽しそうに笑みを浮かべ、歌うように言葉を並べて語った。
「……うん、その通りだね。
無理に直しても、度が過ぎれば継ぎはぎだらけで不格好になるだけだ。
ふふふ、君はとても聡く優秀なロボットのようだね」
楽しげにそう言うと、次の瞬間には名残惜しむこともなく欠片をぽいっと放り投げていた。
■HMT-15 > 「その認識で間違いない。情報はすべてデータという
単位で管理している。それと確かに色々な仕事を任されている。
まあ今日のものは別だが。」
時計台を見上げつつそう呟く。
そもそも仕事については任されているというよりは
押し付けられている方が適切であろう。
しかし機械は不満は言わないし人間とは違いそれが機械の在り方だからだ。
「そういうキミも中々興味深い。
特にその服装は・・・宗教関係か?」
彼女を見上げながらじっくり観察しつつそんな事を。
勿論ただの好奇心だ。
「・・・キミは切り替えが早いな。感心だ。」
一転してカップの破片を放り投げて楽しげに振る舞う彼女にそう呟きかける。
■時坂運命 > 「ふーん、単位ねぇ。
別なんだ……今日のお仕事は、時計塔の整備だっけ?
普段はどんなお仕事をしてるんだい?」
データ、情報、単位と聞いて一応頷いてはいたが、今一理解していない顔だった。
難しい話は置いといて、ロボットである彼がどんな仕事を請け負っているのか、
そっちの方が興味がある。
「それは光栄だね。 ああ、うん。僕はシスターさんなんだ。
神様に仕える敬虔なる信徒と言う奴だよ」
問われれば軽くスカートの裾を摘んでひらひらと揺らして答える。
あまりにも一般的なシスターとは懸け離れた人物像の少女だが、本人は気にせず笑うだけ。
「なぁに、ただ愛用のカップが割れたなんて些細なことに
いつまでも拘っていられないだけだよ。
それに、君の正論に励まされたってのもある。 ありがとう」
パッパッと軽く手を払って、冗談とも本気とも取れそうな言葉を連ね、
最後の一言にはパチリと左目を閉じてウインクを飛ばした。
■HMT-15 > 「普段の任務は風紀委員会から直接下りている。
内容は治安維持が多い。」
見た目からは想像しにくいがこれでも対異能兵器。
島の警備や事件が起こった時の鎮圧がメインの任務だ。
ただしここでいう治安維持とは必ずしも悪人のみの始末を対象としているものではない。
「ということは神サマに会った事があるのか?」
興味津々な様子でそんな事を尋ねる。宗教関係には
疎いせいでこのような疑問が浮上してしまう。
機械でも全知全能の存在については気になるようだ。
「・・・?こちらこそありがとう。
過ぎた事を気にしない姿勢は重要だ。」
言葉を言っただけなのにお礼を言われた事に
若干戸惑いつつこちらもお礼で返す。
また彼女のウィンクという仕草が気になったのか
顔を傾けつつ自身の左目を閉じたり開いたり。
■時坂運命 > 「風紀委員というと、自警団のようなものだったかな?
へぇ、君のような存在も委員会とやらに関わっているんだね。
治安維持となると、例のスラムと呼ばれるような場所とか、
危ないことも多いのだろうね……」
意外だと言わんばかりに何度か頷いて相槌を打つ。
心配しているような口とは裏腹に、思考の端では別のことを考えていた。
今後、場合によっては敵対されることもあるかもしれない、と。
「あははっ、流石の僕もお目通りしたことはないかな。でも、存在はしている。
次元が異なってるから、会えないって感じかな?
代わりに、通信は来るかもしれない。
僕が神の信徒である限りはね」
機械らしい声で、そんなことを言うものだから思わず声を立てて笑った。
ロボットである彼から見て、宗教と言うものがどう見えているのか、聞いてみたいものだ。
「うんうん、後ろ向きより前向きに。
人生後悔しても仕方のないことだらけなんだぜ」
戸惑ったり、こちらの真似をして返すしぐさは純真無垢な子供を見ているようで微笑ましかった。
少女は楽しそうに笑いながら、「ウインクをすれば、大概の事は笑って流してもらえる」
なんて冗談みたいなことを教えるのだった。
■HMT-15 > 「スラム・・・。
そのような島の裏側には近づかない事を推奨する。
闇に飲まれ染まることがあればいずれ消される事になる。」
警告や心配しているというわけでもなく
あくまでアドバイス程度に彼女にそう言う。
その意味は単純に善良な生徒が悪い者に変わるというだけではない。
島の暗部へ入り込む事によって
自らに隠れていた闇が露呈する可能性があるということだ。
悪人であろうが表の世界で猫をかぶっていれば問題が起こることはない。
「キミは見たこともない存在を信じ肯定するのか?」
如何にも不思議そうな挙動で彼女を見上げて
そう素直な疑問を抱く。
「後悔するのは人間の大きな特徴だ。
置かれている現状を再確認して行動を起こす方が
有益であるのに何故かそこで立ち止まる。」
同時に彼女によって教えこまれたウインクの
意味についてはふむふむといった様子で頷いていた。
どうやら信じこんでしまったようだ。
■時坂運命 > 「……ご忠告どうもありがとう!
僕はただの一般人だからね、そんな危険な所とは一生無縁でいたいものだよ」
アドバイスをニッコリと笑顔で受け、お礼を言った。
その言葉が嘘か本当かは、きっと彼には分らないことだろう。
「そうだよ、見たことも会ったこともなくても、
神様が僕を愛していることに変わりはないからね。
僕が信じようが信じまいが、その存在は確かにそこに在る。
君が仮に猫を見たことが無いからと言って、猫と言う動物が存在しないことにはならないだろう?
……それに、宗教家って者は神の教えに共感するとか、感動したとか、
そう言う気持ちで神を信じ敬っているようなものだしね」
肩を竦めて苦笑し、そう言う質問は他の宗教家にはしないようにと苦言した。
そうしないと、下手をすれば戦争待ったなしだ。
「人は後悔して、感傷に浸るんだよ。
それがどれだけ大切なことだったかを認識して、悔むんだ。
心があるから、立ち止まらないと壊れてしまうんだよ」
こっちの冗談、もとい悪戯心満載の教えを信じてしまうロボットを見て、
少女は今日一番の良い笑顔を浮かべていた。
■HMT-15 > 「そうあるべきだ。」
彼女の言葉を受けて無機質にそう一言だけ。
勿論このロボットに彼女の考えている事など
わかるはずもない。
「む。そういう見方もあるか。
ただし猫は見たことが無かったとしても
出会おうとすれば出会えるが神サマは違う。」
ロボットはそう反論するものの
大変容で変わってしまった世界を考えれば
もはや神でさえも完全に否定できる存在ではない。
世界は不安定なのだ。
そして彼女の助言には承知したと言わんばかりに大きく頷く。
「やはり人間は休息が必要か。
確かに任務が無い時の自由というのは素敵なものだ。」
果てがない空を見上げてその言葉を発したロボットは
恐らく今日一番人間臭いだろう。
直後の彼女の溢れんばかりの笑顔の真意については
残念ながら理解できていない。
■時坂運命 > 飾らない、無骨であっさりとした返しは、感情が見えない。
それに救われた形で少女は話を進める。
「いやいや、この世には未知が溢れているのだからそうとも言い切れないぜ?
異界を繋ぐ門の先に、案外神様は住んでいるのかもしれない。
人間が認識できていないだけでね。
……まぁ、『神様が見つかって会えるようになりました』
と言われて会いたいかと聞かれれば――
ふふふ、僕は黙秘させてもらおう」
不安定な世界を楽しめと言うように、笑ってもしもの話をしていたが、
妙な沈黙と顰めた顔で言葉は締めくくられた。
素直にうなずく相手には、素直でよろしいと頷き返し。
「へぇ、君にもそういう感覚はあるんだね」
真面目で働き者なロボットと言う印象からは考えられない言葉だ。
カメラが向けられた空を追うように見上げ、また視線をロボットへ戻し首を傾げる。
■HMT-15 > 「ボクは出会えるのなら神サマには是非会ってみたい。
聞きたいことが山ほどある。」
全てを超越して何にも縛られていないであろう存在。
それに対して疑問が尽きるわけがない。
そしてロボットの機械らしくない言葉に反応を示した彼女に対して
「この広い世界にはボクの知らない興味深いものが溢れていて
それらを感じることができる。
自由とはそういうものだと解釈している。」
視線を戻して彼女を見上げながら
そう語る彼の声は相変わらずの低音な機械音声だが
心なしか生き生きしているように感じられるだろうか。
そういった意識も任務一つで押さえ込まれるが
彼にとってそれは否定できるものではないし否定すべきものでもない。
それがこのロボット、兵器の存在意義だから。
■時坂運命 > 「知識欲に溺れる学者でもないだろうに。
……いや、科学の申し子のAIなら普通のことなのかな?」
意外そうで実はおかしなことではない。
そう思えばなるほどと納得して頷くだけだった。
「うん、そうだね。
自由とは自分の意思のままに振舞うことだ。
君の知的探究心を満たすために、これからも与えられた自由時間を有効活用したまえ」
機械的な声から感情を読み取ることは難しい。
感情と言っていいのかもわからないが、言葉の節々から感じ取れる物はあった。
それを見て、子供を見守る教師のような心境で少女は笑みを浮かべた。
「人間相手じゃないからかな、
久しく……少しだけ自由に話せた気がするよ。
――さて! もう遅いし僕はそろそろ家に帰るね」
そう言って背を向けたが、返る前に片づけはしておこう。
割れたカップの欠片を拾えるだけ拾ってハンカチに包む。
「そうだ、最後に聞いても良いかな?
君にも名前があるなら、教えてほしいんだけど」
包み終える頃、ふと思い出したように言った。
■HMT-15 > 「・・・勿論だ。」
彼女から告げられた言葉に無機質な声での反応。
しかしその中身は自らの電子回路に言い聞かせるように。
得た知識や機械ゆえの考え方で大人のようにふるまうこともあれば
その好奇心ゆえに子供のようになることもある。
科学の生み出した人工知能とは不思議なものだ。
「こちらこそ色々と考えられるいい機会だった。
ふむ、ボクの方もそろそろ戻るとするか。」
上にそびえる大きな時計盤を見つつロボットも引き上げる準備を進めていき
同時にカップの欠片を拾う作業の手伝いもしていく。
また彼女に名前を聞かれれば
「ボクはHMT-15、イチゴウと呼んでくれ。
キミの名前は?」
彼女の透き通るような紫色の瞳を見上げつつ
名乗る時に左目を閉じて早速教わったウインクという動きを実践する。
■時坂運命 > 神の存在を確信しているらしい少女は、淡々とした静かな呟きを聞いて一度目を伏せる。
機械と言う無生物から、心が生まれるなら……
彼の創造主は人間と言うことになるのだろうか。
人間は、神を超えようとしているのか……。
ああ、それはなんて、なんて――
伏せた目を開き、よりいっそう笑みを深め、横目で科学の結晶を見た。
「ふむふむ、HM……イチゴウ君だね。」
名乗られたアルファベットは途中で放棄して、教えてもらった呼び名を固定する。
こちらに放たれたウインクを見れば、パァと嬉しそうに笑顔を輝かせ。
「僕の名前は『時坂 運命』。
一般人で、優等生で、どこにでもいる、どこにだっていてしまうただのシスターさんだよ。
呼ぶ時は、トキサカさんでも、サダメちゃんでもかまわないけど、
ウンメイさんなんて言うドラマチックな呼び方をお勧めしていたりするんだ」
胸を張って声高に、舞台役者のように手振りを加えながら自己紹介をした。
勿論ウインクを返すことも忘れない。
そして、スカートの裾を摘んで持ち上げ、深くお辞儀をしたならば幕引きの合図になる。
「じゃあ、引き続きお仕事がんばってねイチゴウ君」
短い別れの言葉と楽しそうに笑顔を残して、少女は階段を下って行った。
ご案内:「大時計塔」から時坂運命さんが去りました。
■HMT-15 > 神とはある意味で人間の拠り所である。
そうすれば神すらも
人間が作ったと言えるかもしれない。
全ては人間の弱い心が生み出したとも。
「ウンメイさん・・・、なるほど。
ではまた会おうウンメイさん。」
ドラマチックに別れを告げる運命に対して
彼もまた彼女に別れを告げる。
そして彼女が去ると間もなく彼もまた階段を降りていくだろう。
漆黒の夜空はいつしか昇る日によって照らされかけていた。
ご案内:「大時計塔」からHMT-15さんが去りました。