2017/09/18 のログ
■神代 理央 > 「…ええ。詳細は添付した報告書をご覧下さい。それと、人は要らないので物を送って下さい。……そうです。安物で構わないので。どうせアフリカに送り損ねた物が余っているでしょう?ただ、島に送るルートには注意して下さい」
幾分冷たさを感じる夜風が吹く時計塔の展望台。その一角で、ぼんやりと光る通信端末相手に淡々と語りかける少年が一人。
「それと、以前お願いした口座の件は……そうですか。分かりました。ああ、此方の資金は大丈夫ですよ。何時も潤沢なお小遣いを頂いていますから」
周囲に気を配ってはいるが、会話内容そのものを聞かれても問題無い様に言葉を選ぶ。
いざとなれば、腕につけた風紀委員の腕章で適当に誤魔化す事も出来るだろう。
「………へえ?中々良い案だとは思いますが、益々風紀委員としての仕事が増えそうですね。…はは、冗談ですよ。まあ、やり過ぎには注意して下さい。私も、まだ風紀委員としては下っ端も良いところなので。そちらの様に、現金で頬を叩くにも限界がありますよ?」
少年らしく、可愛げのある笑みを零しながら語りかけるも、その目は全く笑っていない。音声のみを相手に伝える機械相手に、表情筋を鍛える努力をしようとは思わないし。
「……ええ、はい。それでは、このあたりで失礼します。何せ、今いる場所は少し寒いもので。長電話をすると風邪を引いてしまいます。……そうですね。詳細は必要無いですが、概要くらいは頂ければ。ええ、それでは失礼します」
少し強い風が少年の制服を靡かせたのと同時に、通信端末は光を失い周囲は闇に包まれる。
展望台を照らすライト以外の光源も無く、穏やかな夜闇の中で金髪の少年は小さく溜息を吐き出した。
■神代 理央 > 通信端末を懐に仕舞い込み、夜風の冷たさに僅かに身震いする。
そのまま展望台の端まで歩を進め、手摺から身を乗り出す様に広大な常世島を睥睨した。
「…異能だの魔術だの、かつての人類が想像もつかぬ世の中になったとしても、所詮眺める風景は同じか。それを残念と思うべきか、進歩に思いを馳せるべきかは知らんがな」
科学と異能、魔術の交差する此の島も、こうして俯瞰してみれば繁栄を極めた都心の夜景が映るのみ。
無論、此の島で行われている実験やあらゆる試みは世界を凌駕するに相応しいものではあるが、その努力もこうして見ると未だ一歩踏み出さぬ人類の姿を見せつけられている様な気がする。
「…なんて、大層な事に思いを馳せるのは神か権力者くらいで十分、か」
ふと苦笑いを浮かべれば、持ち込んだ缶コーヒーのプルタブを捻って封を開ける。若干温くなった缶コーヒーを口に含めば、その纏わり付くような甘さに小さく安堵したように息を吐き出した。
ご案内:「大時計塔」に和元月香さんが現れました。
■和元月香 > そんな相手の目の前の虚空に現れる、
金に光る異世界の文字で出来た魔法陣。
相手が魔術を少しでも修得していたなら、
明らかに異質な魔力が目の前に薄く広がるのを、
相手が武術に少しでも覚えがあるのなら、
周囲の空気が歪むのを発動の数秒前から確認できただろう。
それほどまでに、分かりやすぎる気配と共に魔術は発動した。
しかし、魔法陣のから茶髪の少女...月香はまるで落ちるかのように現れ...。
「ちょっ、わっ!!」
相手の方へ、バランスを崩して倒れ込んでくるだろう。
■神代 理央 > 漸く初級の魔術の欠片が行使出来る様になった程度。
さりとて、魔力の気配を探知する事だけはそれ相応に修練を積んできた。
僅かに目を細めれば、少年は己の異能を発動させようとする。展望台が悲鳴を上げる程の重量を持った金属の異形が、召喚され――ようとしていた。
――少女が降ってくるまでは。
「……は?って、おい、ちょっ…!」
何事かと身構えたまでは良かったが、その後相手が此方に倒れ込んでくることまでは予想していなかった。
敵か味方か。というより、そもそも誰なのか全く判断つかないまま、何とか彼女を受け止める事には成功し―
「……その、何だ。怪我は無いか?」
未だ混乱したまま、取り敢えず受け止めた相手に視線を落として声をかけてみる。
尤も、未だ空から降ってきた相手が誰なのか、少年は把握出来ていないのだが。
■和元月香 > 「うぅ~...。あぁ...さいっあく...」
相手のコーヒーブレイクに乱入するように現れた月香は、
誰に受け止めてもらっているのかも分からないまま肩を落とす。
筋肉をつけねば、と数日前の事件から決意して訓練施設で夜になるまで自動ロボを殴り続け。
ぼんやりしながら【転移】をしたら見事ミスったのである。
...その事件、というのは目の前の少年がばっちり当事者だったりする。
月香はまだそれに気づいていない。
「あーっと、すみません、ありがとうで.....ッッ!?」
しかし、何とか顔を上げると目が合うだろう。
予想外の相手との予想外の遭遇で、半笑いのまま固まる。
■神代 理央 > 少女を受け止めた代償は大きな物だった。
具体的には、空けたばかりの缶コーヒーが宙を舞い、そのまま展望台の下へとダイブを決めたのだ。
翌日、清掃係が憤怒しながら片付ける様を多くの生徒が目撃したとか何とか。
とはいえ、それはほんの少し未来の話。
視界に映る少女の茶髪に若干の既視感を覚えながらも発動しかけた異能を解除していた。
取り敢えず相手に怪我が無い事に安堵の溜息を零しつつ、此方に声をかけた彼女に視線を向けて―
「別に礼を言われる程でも………いや、違うな。取り敢えず、空から降ってきた事について、事情聴取の後、生徒指導室に叩き込んでおくべきか?」
此方とて予想外過ぎる相手である。驚いた様に数度瞬きした後、深い溜息と共に小さく首を傾げてみせた。
■和元月香 > 人の、しかも同一人物の飲料を二回連続で駄目にするというとんでもない事をやらかしてしまった。
しかしそれに、まだ気づくことは無く。
「うわわわわそれだけはご勘弁!!!」
生徒指導室、という言葉に反射的に悲鳴を上げる。
それから若干疲れたような笑みを浮かべて、「数日ぶり」などと呟いてみる。疲れてはいない。
「...まさか君のとこにダイブしちゃうなんて...。
あの、マジで申し訳ない...」
しがみついたまま、そう謝る。
それからコーヒーの行方に気づき、更には頭を下げた。
しがみついたまま。
■神代 理央 > 「…相変わらず、生徒指導室には弱いみたいだな。叩けば埃が出るような事をしなければ、別に大した事もないだろうに」
悲鳴を上げた彼女にクスリと小さく笑みを浮かべてみせる。
数日ぶりだと呟かれれば「ん」と軽く相槌を返すだろう。
「此の島にも慣れたつもりだったが、流石に空から人が落ちてくるとは思わなかったよ。…まあ、別にそこまで謝る事じゃない。互いに怪我も無いんだし、それで良いじゃないか。……ところで、いつまでその体勢でいるつもりだ?」
頭を下げる相手に気にしなくても良い、と言葉を返しつつ、今更ながらしがみつかれたままの体勢に気が付き、身を引こうかと数瞬迷う。
しかし、急に動いては相手も危なかろうと、取り敢えず声をかけてみる。思春期の男子としては、流石にこの体勢は些か――いや、大分恥ずかしいものであるし。
■和元月香 > 「...それはそう、なんだけど~...」
ごにょごにょと言葉を濁し、複雑そうに視線を逸らす。
脳裏に浮かぶ両親と姉の姿。
彼らは自分を矯正するためにこの学園に入れたのだ。
強い異能を持った、真面目な子供にするために。
生徒指導室行きがバレたら.....仕送りが断絶されかねない。
「優しいんだね、ありがと。
...私も半年経つけど毎日新鮮なことばっか起きるよ、未だに」
同意するように頷く。
そして、しがみついたままだったのに気づいて慌てて身を引いた。
直後、からかうようににやり、と唇を歪ませる。
「わ、すまんね。
...ちょっと照れてる?」
■神代 理央 > 「まあ、内申点や評価を下げたくなければ悪い事はバレない様にすることだ。バレた時のリスクは承知の上でな」
此の島に来る者には様々な事情があるとはいえ、生徒指導室行きを望む奇特な生徒はいないだろう。
言葉を濁す彼女の事情は知る由もないが、風紀委員としてかけるべき忠告を彼女に投げかけるだろう。
その内容は、中々に風紀委員らしからぬものであったが。
「尤も、駄目になった缶コーヒー代くらいは気にして欲しいものだがな。…此の島の日常に慣れてしまったら、卒業して島の外に出た時、物足りないかもしれないな?」
日常に異能や魔術が溢れている此の島と、島の外では日常生活を謳歌するにも色々と違いがあるだろう。余り島の生活に浸りすぎるのも考えものかな、と思ってみたり。
素直に身を引いた彼女に小さく安堵の息を零すが、次いで投げかけられた言葉には思わず反応してしまう。
「照れてない!その…あれだ!お前を支えたままでは体勢が不安定だった!それだけだ!」
僅かに頬を赤らめつつ、2、3歩程後ずさる。
後ずさった体勢のまま、ぶんぶんと勢い良く首を振った。
■和元月香 > 「.....あんまやましい事してるつもりは無いけど...」
一概にそうとも言えず、月香はコクリと苦い顔で頷いた。
そして同時に、彼はただの真面目じゃないんかななどと思ったりして。
「...それは弁償する!!
確かにねぇ、いっそ島に永住するって手段選ぶのもありか...。
仕事とか、成人すれば結構あるだろうし」
キリッとして宣言する。
そしてうーむ、と悩んでから
さらりとずっと島に留まるかもしれないと告げた。
この島は何だかんだ凄く楽しい。退屈しない。
ここを手放して退屈な場所へ戻るのは、凄くもったない気がしたのだ。
しかしながら、その表情は、
たちまちにやにやとからかいの笑みに変わる。
「神代君って結構ウブなんだね!!
ふふふ、へへへ、可愛い可愛い」
ひたすら小突きながらからかってみようか。
■神代 理央 > 「あんま、ってことは、少しはやましいことをしている自覚はあるみたいだな。まあ、聞かなかった事にしてやるから、現行犯で捕まらない様にな」
彼女の表情を暫し眺めた後、小さく肩を竦める。
此方とてそれなりに悪どい事にも手を染めているし、何より彼女がルールを守ろうと守らまいとそれは彼女の自由だ。
現行犯ならば風紀委員としての仕事を果たすが、そうでなければそれを咎める事も、諌める事もしないだろう。
「冗談だよ。缶コーヒー1本くらい気にするほどでも無い。
確かに、此の島なら異能や魔術持ちなら仕事に困る事は無いだろうし、そうでなくても普通の仕事はあるだろう。そういう選択肢も、悪くないんじゃないか?」
勇ましく宣言する彼女に苦笑しながら首を振る。
そして、将来について語る彼女に相槌を打ちながら、己はどうするのだろうとふと考える。
父の後を継ぐのか、違う生き方があるのか。そういえば、そんな事考えた事なかったな、とぼんやり思考する。
その思考も、彼女が浮かべる笑みを見れば直ぐに霧散する事になるのだが。
「……成る程?空から落ちてきたお前を態々受け止めてやったのに、その恩を仇で返すか。罪状は何が良い?公務執行妨害か?それとも風紀委員に対する侮辱か?書類は何でも準備してやろう。好きなものを選べ」
ニッコリと、不気味な程に温和な笑みを浮かべながら淡々と言葉を紡ぐ。
そのついでに、此方を小突く彼女の腕を掴もうと手を伸ばすが―
■和元月香 > 「........う、うんー。了解しました...」
僅かに視線を逸らして、了承する。
少なくとも一般人に害を与えたりするようなことはしていないし、
これからもするつもりはない。
歓楽街のしつこい勧誘をちょっとあしらったり
突然出てきた怪異をちょっと潰したりはしたけれど。
「先生とかなりたいなー。
魔術じゃなくて、普通の先生」
何となく考えてこなかった将来。
思いを馳せてみれば、ふとその職業が浮かび上がった。
この魔術や異能に溢れた学園で敢えて一般教養を教えるのはなかなか楽しいかもしれない。
この世界に来た、異邦人などに。
「んもーッ!お堅いんだから!ちょっとからかっただけじゃないのよ!
.....だから風紀委員連行はやめてくださいマジで」
ふざけた口調でぷりぷり怒りながらも、最後はマジトーンだ。
ちなみに伸ばされた腕は、間一髪でこっちが握って何とか押しとどめている。
「あとそれと!!
もうひとつ、私君に謝らなきゃいけなかった!」
話を無理やり逸らすように、そう切り出す。
抵抗するように叫んでいるので、真剣さは伝わってこないかもしれないが...。
「...この前、大丈夫だった?
ごめんね」
少し声の大きさを落とすと、
すまなさそうに微笑んで謝った。
■神代 理央 > 「分かれば宜しい。物分りの良い奴は好きだぞ。説得する面倒がないからな」
幾分力を抜いて、誂うような口調で言葉を返す。
彼女と言葉を交わすのはまだ二度目だが、見る限り此方の手を煩わせる様な悪巧みはしていないだろう。
もししていたら、自分の見る目が無かっただけであるし、全力で叩き潰すまでだが…そうならないことを祈るばかりだ。
「先生…?お前が?いや、悪くはないかもしれないが…生徒からは人気だけど、保護者や教頭辺りからクレームつけられそうだな。何となくだけど」
彼女の人となりや距離感の掴み方は、確かに生徒と教師という関係上非常に有用なものだろう。
そして、その距離感を宜しく思わない堅苦しい連中に目の敵にされそうなイメージが湧き上がり、無意識にクツクツと笑みを零した。
「からかうネタと内容には十分気をつける事だな。俺は、お前が停学になろうが自宅謹慎になろうが一向に構わないし、そうする事は容易な立場であることを忘れるな」
職権乱用も甚だしいが、そんな事気にするものかとばかりに尊大な笑みを浮かべる。
してやったり、と生意気そうな態度を浮かべつつ、押しとどめられた手を離そうと少し身を捩る。
「……突然何だ。缶コーヒーのことなら別に気にして…」
突然叫ばれたので、驚いた様な表情を浮かべながら思わず動きを止める。
そんなに生徒指導室が嫌だったのかな、と思っていたが―
「…ああ、その事か。別に、お前が気にする事じゃない。お前の所持品に無遠慮に手を出した俺の責任だ。具合が悪くなったとかそういう事も無いし、気にしなくて良い」
確かに、あの後体調が悪くなったとか、頭痛がするといった事はない。少しだけ、異能を発動する時に何かが疼くような感覚はあるが、些細な事だろうと気に留めていなかった。
「…寧ろ、此方からも聞きたいくらいだ。あの本は一体何なんだ?場合によっては、生徒指導室より面倒な事に成りかねない物な気がするんだが」
■和元月香 > (説得って物理的な意味なのかな???)
そう思ったが、言葉にしない。
身の危険を感じたからだ。
とりあえず「アッはい」と返事しておこう。
今の所大した悪巧みをするつもりはない。
そんな暇があったらアンパンを食べたい。
その悪巧みが楽しそうなら、あっさり掌を返す可能性が無いとは言い切れないが。
「つまりおふざけが過ぎる先生になりそうだと?
.....確かにね。って何笑っとんねん」
それは認めるしかない。
人にものを教えるのは好きだが、多分ふざけてないとやってけない。
テンション的な意味で。
それで頭の硬い連中に目の敵にされようが何処吹く風なのだが、
何故か笑いを漏らす相手には不審そうな目を向ける。
「分かりましたよ...ご代官様~...」
(職権乱用だー!!こいつー!!)
しかし文句は言えず。
なかなかいい性格をしているようだ。
呆れたように、しかし少し笑みも含ませてため息をついた。
「いやいや、あっさり見せた私も悪かったんで。
あれがめっちゃ危険なこと、知ってたのにね。
大丈夫そうで安心した」
たはは、と苦笑して頭を掻いた。
まさかあんなに力を増幅させているとは、と
今は煤だらけになってむくれているあの本を思い出す。
「.....何と説明していものやら...。
端的に言えば禁書庫に迷い込んで、取り憑かれたっていう経緯。
私もあれの詳しいことはよく分かんない!
自我持ってる精神汚染系の魔術書ってことぐらいだよ」
.....としか、言いようが無い。
■神代 理央 > 妙に物分りの良い返事をするようになった彼女に若干首を傾げつつも、まあ良いかとばかりに鷹揚に頷く。
因みに、彼女の予想とは違い「説得」はあくまで説得だ。
それが実力行使に至るまでの時間が極端に短いだけで、一応説得はする。一応。
「或いは、何方が生徒で何方が教師か分かりにくい先生、ってところかな。
…ああ、悪い悪い。何だか、教育ママにヒステリーを起こされても軽く受け流してそうなのが容易に想像ついてさ」
彼女の視線に気が付けば、あっさりと笑みを零していた理由を語る。悪いと言いつつ、その笑みを止めようとはしていないのだが。
「良し、正義は成されたな。これからは、俺の機嫌を損ねぬように真面目に学生生活を謳歌すると良い」
最早代官どころか暴君であるが、それが己だとばかりにフフン、と笑みを浮かべる。
やはり他人に愛想を振りまくより、こっちの方が気が楽だなあと内心で思っていたりするが、流石にそれを口に出すことは憚られた。
「そんな危険なモノがスクールバッグに無造作に入っているとは俺も思わなかったよ。やはり女性の持ち物に安易に触れるべきでは無かったな…。これからは、仕事の時も注意するとしよう」
彼女に気にさせ過ぎるのも本意では無い。安心した、と頭を掻く彼女に、軽い口調と冗談を含ませた言葉を返す。
とはいえ、本の正体について語る彼女には、真面目な表情を見せて―
「精神汚染系の魔術書、ねえ。今のところ汚染された自覚が無いのは、お前があの時庇ってくれたからだろうか。だとしたら、此方こそ礼を言うべきだろうな。あの時は有難う。そして、すまなかった。お前も、あの時黒い霧に包まれただろう。あの後、身体の不調などは無かったか?」
確かに、あの黒い霧に包まれた時は過去の記憶にある辛かった事。思い出したくない事が掘り起こされる様な感覚に陥った。
だが、その後自分に訪れた感覚―というより思い出そうとした記憶―は少し違った様な気がするのだが―。
何にせよ、終わった事を気にしても仕方が無い。
寧ろ、自分を庇ってくれた彼女に対して、小さく頭を下げて礼を述べる。
そのまま、何か身体の不調は無かったかと気遣うような口調で尋ねるだろう。
■和元月香 > 「モンペはちょっとめんどそうだなぁ...。
なんか学校に乗り込んできそうだなー。
ま、気にしないけどね!」
笑いすぎだよーと言いながら自分も笑っている。
教師もやっていればなれるものだろう。問題無い。
本格的に目指してみようかなぁ、なんて嘯いて。
「へ、へへー!」
その暴君さたるや、もはや平伏してしまいそうなほど。
流石に地面にふすことはなかったが、わざとらしい声を上げながら
頭を直角90度に下げて敬う姿勢を取る。
...一種のカリスマ性か。
「無造作に入れてたのは悪かったって...。あれ勝手についてくるし、かばるから出かける時他に仕舞う場所無いんだよー...」
はぁぁ、と大げさな溜息をつく。
いつの間にか黒い本がスクバに入っていた時の衝撃は忘れない。
そういえば最初は「ストーカー」などと呼んでいたのだったか。
「大して汚染を持続する力は無いみたいで、
あの闇が触れている時だけみたいだよ。
でも、最悪吐き気ぐらいかと思ってたんだけどな...」
紛れもなくこの島に、世界に慣れてしまったせいで
魔力が徐々に強まっているのかもしれない。
珍しく真剣に考え込む月香は、
相手の謝罪と感謝、そして気遣いに気がつくのが少し遅れた。
「...え?ああ、平気だよ。
あと謝んないでよー!私が一番謝らなくちゃダメなんだし。
あんな目に遭わせた要因は、私に違いはないし」
慌てて取り繕ったせいでどこか薄っぺらいように見える笑み。
平気じゃないことなんて、ほぼ無いから。
この程度何も感じないと暗に伝えてみようか。
それから、黒い本の気が立っていたのは紛れもなく自分のせいで。
少しだけ、がらんとした感覚を感じた。
■神代 理央 > 「そこは多少なりとも気にするべきだと思うんだが…。お前の上司とか先輩とかはさぞや大変な思いをするだろうな。今から、未来のお前の上司に哀悼の意を捧げておこう」
彼女が本気で教師を目指すなら、就任祝は上司に渡す胃薬セットにしておこうと心に決める。
とはいえ、冗談を零しながらも将来の夢を得た彼女には素直に祝福の意を込めた笑みを向ける。表情だけで、応援とか祝福の言葉をかけることはないのだが。
「……いや、そこまでしなくても構わないんだが。同じ学年なんだから其処までしなくても……そう言えば、お前幾つなんだ?」
敬われるのは大好物だが、流石に時と場所にもよりけり。
深夜の時計塔で女子に頭を下げられても妙ちくりんな絵になるだけで寧ろ気恥ずかしい。
そのついでに、ふと気になった彼女の年齢を聞いてみる。女性に年齢を尋ねるのは云々と実家の使用人から聞いた気はするが、そこは持ち前の傲岸さでスルーである。
「勝手についてくるとは、随分と懐かれたものだな。見た目の愛嬌があれば、まだ可愛げもあっただろうに」
勝手についてくる本というのも中々にシュールなものだ。
此の島では本一冊手に取るのも命がけか、と彼女につられて小さな溜息を一つ。
「ふむ……その精神汚染がどんな種類のものかにも寄るんじゃないか?或いは、俺の魔術の耐性が低くて、必要以上のダメージを負ってしまったとか」
あの闇に包まれた時の頭痛は正直思い出したくない。
似たような症状といえば、女番長と交戦して異能を短時間で連続使用した際の頭痛くらいか。
自分にとって異能の発動自体が精神汚染に繋がるとは考えたく無かったが、魔術に対しての知識と実力が未だ低い事は事実。
その事実を認めつつ、考え込む彼女に意見を投げかけたが―
「…そうは言っても、お前に迷惑をかけたことは事実だ。だからこそ、あの件でお前に謝られるのは本意では無いし、寧ろ止めて欲しい。そうでなければ、此方の気が済まないからな」
頭を上げて彼女の表情に視線を移せば、その笑みを見て少し困った様に眉を顰める。
魔術や武術の適性が低くても、人の表情を伺う術は大人達の相手で鍛えられてきた。だからこそ、彼女の表情が言わんとしている事が分かってしまう。
分かってしまうからこそ、あの霧に包まれて平気だという彼女の過去はどの様なものだったのかと思いを馳せてしまう。
自分が知りようも無い彼女の過去や事情ではあるのだが、それでも無意識に、気遣うような表情と共に僅かに首を傾げてみせるだろう。
■和元月香 > 「哀悼って死んでるじゃないですかーやだなー」
多分原因はストレスによる発狂死だろうか。
かるーく言ってはいるが割と大問題な気が。
将来の夢、というには計画という言葉がふさわしい。
大して熱意は無いものではあるが、目的は出来たのはいい成果だ。
「え?17」
いきなり年を聞かれ、きょとんとして答える。
背が低いだけで、大体同年代なのではと月香は考えていたのだが。
「えー?懐かれるってかあれもうストーキングだよ?
シャワー中入られた時はお湯かけたね、まじで」
中身が性別不明なので不可抗力だった。
そう真顔で語る月香。
「...うーん、耐性か。それもあるかもね。
種類はわかんないなー。他にどんなのあるか知らないし」
学生の身だし、こんな魔術を扱うのは実は初めてに近い。
月香はこの本のことを、きっとまだ全然知らないでいたのだと思った。
「そっか。ならもう謝んない」
そうあっさり言えば、朗らかに笑った。
平気だから、と付け加えて。
そして、月香は彼の表情の変化に気づくとふっと笑みを漏らして、
「やっぱり根は優しいね」
とにこにこしながら言った。
■神代 理央 > 「…そうだな。哀悼は言い過ぎだったな。いや、他に適切な言葉が思いつかなくてな…」
胃薬と一緒に精神安定剤もセットにしておこう、と脳内のメモ書きに付け加える。
しかし、目的を得た彼女に対して自分はまだ将来について漫然とした思いしか抱いていない。そう思うと、眼前の彼女が少しだけ羨ましく、そして眩しく見えた。
「……余り変わらないとはいえ、歳上だったのか、お前…。いや、些細な違いではあるんだが…」
同年代、というよりも同じ年か下手したら年下では無いかと考えていただけに、何とも言い難い複雑な表情を浮かべる事になる。
学年が同じとはいえ、人生の先輩として敬語でも使ってみるべきかと悩んだが、脳内会議によって一瞬で却下された。
「シャワー浴びてる時に入ってくる本って、ホラーなのかコントなのか判断に迷う所だな。というか、本にお湯かけて大丈夫…大丈夫そうだな。あの本は」
飼い主がいなくなって寂しがるペットの様なものなのだろうかと、本の実情を知らない少年は面白そうに笑みを浮かべる。
「出来れば詳しく調査したいところだが…藪蛇かもしれないな。一般の生徒に危害を加えない様に、取扱には注意してくれ。俺から言える事はそれくらい、だな」
少し考え込む様に視線を宙に向けるが、知らない事を考えても仕方が無い。
所有者である彼女に、取扱には注意してくれと頼むことしか出来なかった。
「ん、分かれば宜しい。
……別に、優しくなんてない。少しお前の体調とか、その辺が気になっただけだ。勘違いするんじゃない」
にこにこと笑みを浮かべる彼女に、フンと鼻息を鳴らしてそっぽを向く。
元より、他人を気遣うより踏み潰す方が自分の性格だと自覚はあった。それ故に、彼女からの言葉には緩く首を振った。
■和元月香 > 「死と同義って事?
私が教師になったら?」
何故か少しにやつきながら尋ねる。
軽くは考えているが、いつものこと。
月香はいつだって楽しさ優先で生きているから。
「あ、年下なんだ。
あ、そうなんか...。敬語はいいよ」
何だかなめられていたような、そんな気がする。
しかし背は低いほうだし、顔つきは童顔だし、
おまけに言動はこの有様なので年下と思われても仕方ないのかもしれない。
「日に炙っても平気だったよあれ。
さり気にしぶといんだよねー」
自分を主としている魔術書についてとんでもない事を言っているが、
大体取り憑かれたので好んで使役しているわけではない。
この力を使いこなし本を制御するために普通に所持しているのだ。
「出来るだけ使わないようにしてるから!
私あれなくても充分自衛策はあるからね」
えっへんと胸を張る。
主に武術関係無し、喧嘩仕込みのようなタコ殴りと
初歩魔術、それから今日誤作動した空間魔術。
あの黒い本には敵わないが、上手く使いこなしているのでそれなりの力はあるのだ。
「まぁ、普通に比べたら優しくはないだろうけどね」
だが優しいとこもあるんだな、って感じだよと薄く笑う。
あとお前ツンデレなの?と尋ねかけて我慢する。
先日ぶりにあった2人の時計塔での語らい。
それは夜明けまで続いてしまったのだった。
月香は少し目を腫らしながらも、けろりとした表情で翌朝の講義に出席することになるだろう。
ご案内:「大時計塔」から和元月香さんが去りました。
■神代 理央 > 「同義というよりも、そうなる可能性が高過ぎるんじゃないかと思ってな。…何だか、随分と楽しそうだな?」
彼女の表情を見て不思議そうに首を傾げつつ、まあ彼女が楽しそうならばそれで良いかと緩く首を振る。
「正直、同じ年か年下かと思ってたよ。…それじゃあ、お言葉に甘えて敬語は封印させて貰おうかな。正直、今更堅苦しい言葉遣いに戻すのも肩が凝るしな」
敬語はいい、と言う彼女に少しほっとしたように息を吐き出す。
敬語自体は別に構わないのだが、初対面から此の口調で話し続けた相手に、今更敬語を使うのは此方も余り良い思いではないし。
「火にも水にも強い本って、もうわけが分からないな。
…ん、それなら良い。出来れば、その自衛策とやらが発揮される様な行動は取らないで欲しいけどな」
胸を張る彼女に安心した様に頷きつつ、一応注意だけはしておく。
夜の歓楽街や落第街など、治安の悪そうな場所にはなるべく近付かないでくれと念を押す。尤も、最後は彼女が自由に判断することなので、強く強制はしないが。
「全く…。そうやって余り人をからかうもんじゃない。からかうなら、相手と場所と時間を選ぶ事だな」
朝日が地平線から顔を出すまで、そんな軽口を含んだ穏やかな時間を共に過ごす。
このエリアの清掃係が訪れる前には互いに帰路に着く事になるのだろう。
因みに、此の日は睡眠不足からか魔術や異能の実習で失敗が続き、担当講師に「珍しい事もあるものだ」と笑みを浮かべられる事になるのだった。
ご案内:「大時計塔」から神代 理央さんが去りました。