2018/06/01 のログ
■モルガーナ >
「いやはや……こうして長い階段を上るのは何年振りかの」
彼女は龍だ。
空を舞うものであり、塔をもってしても届かぬ天空から地上を睥睨する者であった。
女帝ともなれば塔の頂点にて君臨する者であり人の形であること自体あまり良い顔はされない。
……わざわざ歩いて頂上に向かうと口にしただけでも従者に渋い顔をされてしまう。
「一歩ずつ踏みしめるこの感覚……嫌いではないのじゃが」
扉を開け、夜風を胸に吸い込み一息つくとつぶやく。
先ほどまでただ駆動音と靴音のみが響いていた静かな世界は背後。
今は地平まで見渡す限り大地と海と空、そして幾戦の星が見える。
耳に届くのは風音と時計塔の針が僅かに軋む音、
扉が開いたことに驚き飛び立ったのか遠ざかっていく鳥の羽音と
夜を裂くその細い鳴き声……
世界は光と音で満ちている。
「人の生とは実に驚きに満ちておるの。
生き急ぐ者達はこれほどまでに世界が鮮やかなのか。
成程道理、鮮華火のようである事にもうなずける」
風に吹かれる髪をかき上げ、手すりに少し体重を預ける。
今日は少し風が強い。夕刻ごろに雨が降った名残だろう。
ご案内:「大時計塔」に無灯 平次さんが現れました。
■モルガーナ >
自分はそれほど故郷に対して愛情を持っているタイプではないと思っていた。
けれどふとした瞬間やはり元居た世界を物差しとして引き合いに出して判断している自分に気が付く。
あの場所はこの場所よりももっとずっと高い場所にあり、ずっと遠くまで見えた。
あの頃は文字通り見渡す限り全てが彼女の掌の中だった。
何処までも予定通りで、淡い色に彩られた世界こそが彼女にとっての世界だった。
「……不思議なものじゃの」
あちらに比べてこの世界は随分と狭く小さいようだが
あの時よりもずっと、世界は広く鮮やかに見える。
何処までも予定調和であった世界は
今や彼女の掌を飛び出し、その舞台は演者がそれぞれ回している。
あるものは平穏に過ごし、またあるものはその日の糧を他者に求め……
そうやって其々の毎日を粛々と積み重ねる事で。
そして今、自分もまた独りであり、世界の演者の一人。
ある意味今この瞬間初めて
自分が異なる世界の漂流者であるという事を強く実感した。
■無灯 平次 > ―――言ってはなんだが、青年は学校の事情に詳しい方ではない。
ここが立ち入り禁止なら誰も入らないと踏んで、一人で暇をつぶすにはもってこいだと思い込んでいた。
しかし青年の思惑とは裏腹に、ここへ足を運ぶ生徒は少なくない。
そんなことも露知らず、青年はびっこを引きながら階段を上る。
「だから体育なんて……ああ、三日は続くなぁこれ」
堂々と独り言を言える環境は気持ちがいい。
不意に発した言葉が誰かの耳に入ることはないし、そのことで余計なトラブルを招くこともない。
言葉の一つが、一挙一動が、不幸の引き金となる。そしてその銃身は、いつだってヒトだ。
はっきり言ってストレスなのだと、青年は今日も退屈を消化するための場所を探す。
日当たりのいい場所で昼寝して、今日も一日終えてしまおう。
何かの間違いでうっかり落ちても―――これだけ高ければ落ちてる間に、覚悟も決まるだろう。
(こんだけ人生を贅沢に使えるって身分っていうのは、実は幸せ者なのかもねえ)
ぎぃ、と扉が開く音。
「……うわ、先客か。失敗したなあ」
独り言のつもりで放った言葉が、少女の背後から聞こえてくるだろう。
■モルガーナ >
「……んぅ?」
物思いに耽っていたからだろうか。
背後の音に気が付くのが遅れ、耳に届く言葉に我に返る。
最近こうして物思いの耽ることが多くなった。齢だろうか。
等と他愛もない事を想いながらゆっくりと振り返る。
「む、主の気に入りの場所であったか。
済まぬが今は先客有りじゃ。
生憎であったの?
最も妾は他の客が居ろうとも気にせぬでの。
主も好きに過ごすが良い」
口元を扇子で隠しながら目を細める。
失敗したという事は誰もいない場所にでも行きたかったのだろう。
■無灯 平次 >
「ああいや、お気に入りとかそういうんじゃなくてですね。
そもそも俺、ここ来るの初めてですし」
自分とそんなに年齢が違うようには見えないが、
その口ぶりから実は年上だとか、たぶん偉い人なのだろう。
こういう時はとりあえず、便利で便利な敬語で接するに限る。
「こうまあ……いい感じに昼寝とかできる場所ないかな~って来たワケでですね。
……あの、お嬢様は結構な頻度でここにいらすんです?」
左足の痛みは我慢して、普通に歩いているように見せる。
どこか適当な壁に腰かけて、座った姿勢から外を見上げた。
■モルガーナ >
「そうか、主は此処に来るのは初めてか。
それは独り占めの邪魔をしてしまったかの?
こういう場所の空気は別格じゃ。夜は特に。」
僅かに微笑み、手すりから離れ少し塔に寄る。
こうすれば少し夜景がきれいに見えるだろう。
なんとなしに文字盤を見上げると丁度分針が僅かに動き鈍い音を立てた。
「ほぅ、お嬢様……くふ。良い響きじゃの。
中々親しみの持てる呼称じゃ。
確かにここであれば穏やかに眠れよう。
少々床が固い点だけが難点じゃな
……いや、妾も此処に来るのは今日が初めてじゃ」
初めて仲間じゃのと上機嫌に口にしながら
振り返り再び目下の景色へと目を向ける。
■無灯 平次 >
「なるほど、おたがい初犯同士ってワケですね。
お嬢様が縄張りや風紀にうるさい人じゃあなくて良かった。
俺が独りになりたいのも、それが落ち着くからです。
ストレスから解放されてさえいれば、それでいいので」
”無”を体現したような青年の表情は、
天真爛漫にも取れるその振る舞いを見ているうちにかすかに和らいでいた。
地位は圧倒的に違うのかもしれないが、少なくとも共犯関係である。
道連れと言えば悪いイメージがつきがちだが、青年にとってはそう悪いものでもなかった。
「いいですよね、ここ。
景色もそうですけど、あなたの言う通り空気もいい。
混沌とした空気の中にいるもんだから、なおのこと。
空でも飛べたら、ずっとこんな気分でいられるのかも」
■モルガーナ >
「規則を守らせるのは官吏の仕事じゃ。
ストレスか……うむ。
どうにも此方はストレスの種類も豊富じゃの。
それはともかく存分に休める場所を見つけるのは良い事じゃな」
いかにも常にストレスに晒されていますといった表情の彼は
彼なりにそう感じるだけの事情があるのだろう。
それを癒すための多少の規則違反程度とやかく言うに値する事でもない。
それに共犯関係ならとやかく言われる事もなし。
僅かに浮かんだ表情の変化に口の端をわずかに吊り上げると空を仰ぐ。
「うむ、澄んでおるの。
こうしてみると空も海も随分と透明なものじゃ……。
ふふ、空を夢見るものは何処の世界も変わらぬか」
こんな空気を飛んでいられるなら
飛べないものにとってそれはさぞかし耽美な夢に映るだろう。
■無灯 平次 >
「官吏……ねえ。なるほど」
やっぱりか、といった様子で小刻みに頷いた。
偉い人と話す機会なんて一生ないと思っていたし、
自分なんかと会話が成立するわけがないとも思っていたが
今からでも焦ったりへりくだったりすればいいのだろうか。
もういいや、めんどくさい。
左足の痛みも落ち着いてきたのでゆっくりと立ち上がり、
『お嬢様』の方を向いて口を開く。
「お嬢様は異世界出身……なのでしょうが、
実は『お姫様』の方が正しかったりするのでしょうか?」
女王様、よりはそちらの方がしっくる来る。そんな気がした。
■モルガーナ >
「何やら合点がいったといったような様子じゃな。
まぁ別に隠す必要もないのじゃが。
む、足はもう良いのか?」
立ち上がる姿にふと疑問を投げる。
流石に足を引きずっているのは目につくものだ。
元々そんな歩き方をする人もそう多くはないだろう。
とは言え本人が気にしないように振舞う以上
あくまで軽い調子でしか尋ねはしないけれど。
「姫か。確かにそう呼ばれておった時期もあったが……
とは言え今この場においては一介の学生に過ぎん。
あまり堅苦しく考える必要はなかろうて」
最も個人的に敬意を表すのであれば吝かではないがの?と
冗談を口にしながら少し腰をかがめて片手で服の裾をつまむ。
此方の世界ではこうするのだったか。
■無灯 平次 >
「はぁ、こっちは割と隠したかったんですけど……これでもまだダメか。
ま、ただの筋肉痛なんで。三日も休めば治るでしょう」
無駄に頑丈なくせに、ちょっと走るだけでも重労働。
ヘンな体質に生まれてきたものだと自嘲しつつ、
左足のつま先を地面につけてぐりぐりと動かしてみせた。
「……上の人から降りてきて貰えないと、
俺たちみたいなのは固まるしかありませんからね。
そう考えておられるのでしたら、こちらも一介の学生として―――」
こほん、と咳払い。本人がそう望むのであれば、
こちらも学友として振る舞うべきなのだろうし、
そうある方が自分としても楽だと青年は考えた。
「俺は、無灯 平次(むとう へいじ)。ここに来て三年経つけど……
まあ、特に何か持ってるわけでもないよ。君の名前は?」
■モルガーナ >
「ふむ、筋肉痛とな?
実は経験したことがないのよな……
大事無いのであればそれに越したことはないが、はて」
大丈夫という風に振舞う姿を見て
少しだけ首をかしげた。
筋肉が痛いとはさぞかし歩きにくい事だろう。
「一理あるの。
こちらに来てからというものの
そんな事を気にしない者ばかりでな。
あ奴らに関しては多少は主を見習うべきじゃ。
……それにしても3年か。此処で3年とはさぞかし濃い経験なのじゃろうな」
思い出して少し眉をひそめて見せるも一応目の前の彼も先輩にあたるわけで……。
彼女の中にはそもそも誰かに対して敬意を払う感覚が
少し……いや、かなり希薄なため
特に態度が変わることもなかった。
正直言って人の事をどうこう言えた立場でもない。
「ああ、妾は此方の言語ではモルガーナというらしい。
もともと固有名を持たぬでな。好きに呼ぶが良い」
鷹揚な仕草で扇を振る辺り
本当に人の事を言えない。
■無灯 平次 >
「モルガーナ、ね。今はそう呼ぶ。
なんかいい呼び方が思いついたらそっちで呼ぶかも」
「あはは……どうだろ。俺はたまに、そういう風に振る舞える人のことを
羨ましく思うことがあるよ。あれがあれで生きやすいのか、
それとも後々苦労することになるのかは知らないけどさ」
というか後輩だったのかと呟いたが、
そも自分のような放蕩先輩が尊敬してもらおうなどと考えたりはしない。
年齢関係なくきちんと務めを果たせる人こそが尊敬されるべきなのであり、
先輩というだけで無条件で尊敬して貰われるのはかえって不気味だ。
「まあ色々あったよ。数年前は事件も多かったし、
その中のいくつかにも巻き込まれてたりしてな。今は結構落ち着いてる。
自分から首を突っ込まなければ、学生生活も安定するんじゃないかな」
―――普通はそうだ。
事件が向こうから飛び込んでくることなんて、そうない。
モルガーナは、きっと大丈夫だろう。
青年は、鼻の頭を人差し指の第二間接あたりでこすった。
■無灯 平次 >
「……ああそっか、夕飯食べてなかったんだった」
腹の虫の抗議を聞いて、ようやく思い出す。
「俺、そろそろ降りるよ。ここにいたってことは、お互いに秘密だね。
それじゃ、また明日」
そう言って、青年は扉に向かって歩き出した。
若干歩き辛そうだが、身体のバランスを取ろうとする掛け声は軽い。
(たまの幸運も、ありえなくはないかな)
ばたん、と扉が閉まる音。
ご案内:「大時計塔」から無灯 平次さんが去りました。
■モルガーナ >
「うむ、食事はしっかりととるが良い」
その背中を見送ると再び空を見上げる。
夕方降った雨に洗われた空は星を湛え、きらきらときらめいて……
「明日もまた、良き日になるとよいの」
そんな呟きが小さく彼女の口から洩れた
ご案内:「大時計塔」からモルガーナさんが去りました。