2018/01/30 のログ
ご案内:「常世博物館(小イベント開催中)」にアリスさんが現れました。
■アリス >
大勢の人で賑わう常世博物館。
そこを見て回っている次第で。
つい最近まで友人一人としていなかったぼっち暦の長い自分には一人博物館も余裕。
むしろ楽しめる。
今は大変容について記述されたコーナーを見ている。
■アリス >
この世界における南極は既に消滅している。
知識としては軽く知っていたけれど、詳細を知れば凄絶だ。
地球全体に時空の歪みが発生し、門が開かれ、世界は大混乱。
《始原の門》から怪異? が大量発生したとも。
つい先日、ゴブリンに襲われた時の恐怖を思い出して小さく身震いした。
■アリス >
ポケットから携帯デバイスを取り出してトモダチに常世博物館に来てるよ、とメール。
ついでにTwister(最近登録したSNSの一種)に博物館なう、と書き込んでおいた。
フォローしてる人もフォローしてくれてる人も少ないけど。
心がぼっちダークサイドに支配されかけてきたので気分転換。
立体映像とプロジェクションマッピングで当時の始原の門周りの環境を再現したコーナーに来た。
なかなか興味深い。今、南極はどうなっているのだろう。
■アリス >
そして、歴史は順路に沿って移り変わる。
異能者の大量出現。
私はいじめられたストレスが爆発して異能に目覚めた。
しかし、異能の存在がなかったら私は今も本土でいじめられっ子のままだったのだろうか。
告発者による魔術の暴露。
異能者が世界に爆発的に増えた時期に、魔術の存在を広めた存在がいたらしい。
これは何故、このタイミングで魔術を世界に広めたのかがまたミステリアス。
施設で研究された時に私自身に魔術の素養はないことがわかったけれど。
神秘に対する憧れは消えていない。
うーん、なかなか楽しい。
博物館恐るべし。撮影禁止じゃなかったらバシバシ撮っているのに。
■アリス >
展示物は異界大戦のコーナーに切り替わる。
異界大戦。それは怪異と異邦人と、神秘を知ったショックに混乱する世界を惨劇に巻き込む。
ありとあらゆる悪徳が肯定され、恐怖と捻れた正義が血を流し続ける。
……しまった、ここはちょっと展示物がグロい。
ちょっと具合が悪くなってきた。足早に通り過ぎよう。
……どこか休憩できるところはないものか。
ご案内:「常世博物館(小イベント開催中)」に簸川旭さんが現れました。
■簸川旭 > 「よりによってここの担当なんてな……繁忙期だからって、これは僕の仕事じゃないが……」
展示場の端の椅子に座り、会場の様子を眺めている青年がいた。
展示物からは可能な限り目を逸し、口を抑えている。
その容姿は黒髪に痩身、顔色は青白くあまり気分が良さそうには見えないだろう。
独り言のように何やら文句をつぶやいていた。
そうしていると、足早に展示スペースから去っていく金髪碧眼の少女が目に留まる。
様子からしてあまり気分が良さそうには見えない。彼自身もそのような有様ではあったが。
椅子から立ち上がると、青年は少女に声をかけた。
「どうかされましたか?」
青年が胸に提げているプレートが揺れる。
博物館の職員であることがわかるだろう。
■アリス >
口元を押さえてどこか休憩できる場所がないか探していると、青年に話しかけられた。
…博物館の職員さんだ。
「えっと……ちょっと、異界大戦の時の資料とか見てたら具合が悪くなって…」
「休憩したいんですけど、そういう場所はどこにありますか?」
ポケットを探る。何か落ち着ける気の利いたものでも入っていないかと思ったけれど。
便利なものは何もない。
そもそも自分は物質創造系の異能だからいざという時の備えをあまりしない。
「座れると非常に助かります」
青い顔で青年に言った。
■簸川旭 > 「……なるほど。それは気分が悪くなって当然ですね。僕もあれは嫌いなので」
少女が異界大戦の資料を見て気分を悪くしたと聞くと、青年も目を伏せがちに言う。
展示物が嫌いなどと職員にあるまじき言葉を吐きながら彼女の顔色を青年は伺った。
「わかりました。医務室はここから少し遠いので……すぐ近くに休憩所があります。そこにご案内します」
医務室は遠い。しかも今日は特別展示で人がごった返している。
人混みの中を歩かせるのは更に気分を悪くさせるかもしれない。
彼はそう判断し、先導するように少女の前に立って歩き始めた。
彼自身、この場を離れる理由になるということで内心は喜んでいるらしく、どこか晴れやかな表情さえ浮かべていた。
それを隠しきれていない。
物の数分もすれば、中規模のスペースへと着いた。職員用に用意された休憩所だ。故に他の客はいない。
幾つか椅子や机などが並ぶ小部屋である。
「とりあえずここでお休みください。まだ気分が悪いようでしたら医師を呼んできますので」
と、金髪碧眼の少女に対して椅子を手で指す。
■アリス >
展示物が嫌い? 自分と同じでああいうのがちょっと苦手な人なのだろうか。
しかし職員の方が展示物を嫌いと言い切るのは凄い。
「ありがとうございます」
小さく頭を下げて青年の後をついて歩き始める。
表情はわからなかったけれど、歩幅で急いでいるか、喜んでいる印象を受けた。
自分も早歩きについていく。
職員用休憩スペースにつくと、指示された椅子に座って深呼吸をした。
「ありがとうございます、助かりました」
弱々しい笑顔で頷いて。
「それにしても、職員用の? 休憩室を使わせてもらえるなんて」
■簸川旭 > 少女に職員用の休憩室まで案内したことについて問われると、青年はややバツが悪そうに天井を仰ぐ。
「……普通の休憩室だと他の来観客や職員の目があって僕がサボっていることがバレてしまうから、特別だ。
ああ、サボッているというのは語弊がある。気分の悪い来観客の救助も仕事の内だな。医務室も休憩室もちょっと遠いのは本当だし」
彼女に対してそう答えた。
先程までの丁寧な口調は消え、かなり砕けたものとなっていた。
職員用に用意されたウォーターサーバーで紙コップに水を入れると、それを彼女に差し出した、自身の分は既に手に持っている。
「言っただろう、あの展示は僕も嫌いだって。今日みたいな仕事も本当は担当じゃあない。
さっき休んだばかりだったんだが、偶然君が通りかかってくれて、僕としても丁度良かったわけだ。……ああ、この話上に言わないでくれよ」
青年の顔色は先程よりだいぶマシなものとなり、自身も椅子に座って寛いでいく。
ここまで連れてきた理由は、自分も休みたかったからということである。
ある意味彼女が口実になってくれた、ということだ。
そんな理由を彼女に話してしまいながら、青年は水を口にした。
「気分はマシになったかな」
■アリス >
「……そうなの? じゃあ、仕方ないわね」
相手に合わせてこっちも普段の口調に戻した。
青年はかなり年上だけど、丁寧な日本語は苦手だからと自分に言い訳した。
紙コップの水を受け取ると、お礼を言って一口。
「へえ。望まない仕事というわけね……」
「告げ口なんてしないわ、私だって助かったんだもの」
「歴史的資料となるとああいうのも年齢制限なしで展示されるのね」
「ヒロシマで見たゲンバクシリョーカンと同じものを感じるわ」
気分について聞かれると笑顔で。
「ええ、おかげで大分落ち着いたわ。あと少し休んだら大丈夫」
「ええと……」
青年のネームプレートを見る。しかし難しい漢字で読めない。
■簸川旭 > 「原爆資料館……ああ、僕も行ったよ。確か小学校の修学旅行だったかな。
でも驚いたな。そんな懐かしい名前を聞くなんてな。この時代にもまだあるのか……、
結局大変容が始まって以降は日本に帰ってないからな。今はどうなってるのかもよく知らない。」
話を聞くと、酷く感慨深そうに青年は言った。
というには、度が過ぎるほどであった。何故ならば、青年は涙すら流し始めていたためである。
最後の言葉は、彼女に向けたものというよりは独り言であろう。
「……ああ、すまない。なんでもないんだ。ちょっと懐かしくなって。
大変容については惨劇とは切り離しては語れない。あれも歴史的な資料として公開してるんだ。
……僕は見るのもごめんだけどな。あのときに死んでしまった人たちのことを考えると、どうしても吐き気がする。
もう数十年の前の話らしいから、現代の人間にとってはただ過去の話かもしれないが……」
まるで自分が過去の人間であるかのように青年は呟く
一人で鬱々と語っていると、彼女がネームプレートに視線を注いでいるのにようやく気づく。
涙を拭い、プレートを手で持って彼女の問いに答える。
「ああ……僕は簸川旭(ひのかわ あきら)だ。一応学生で、図書委員。博物館の職員だ。本当はもっと別の仕事なんだが。
君も学生なのか? その様子だと博物館に来るのは始めてみたいだけど」
金髪碧眼の少女にそう尋ねた。
彼女の砕けた口調についても、旭は全く気にした素振りはみせなかった。
■アリス >
「今は閑散としていたわ、原子爆弾よりも目立った脅威が身近な世界だものね」
「それでも史料としては興味深……って、ど、どうしたの?」
彼は涙を流していた。
まるで何かを悼むかのように。
「……そんな…」
「あなたの年齢からしたら、生まれる前くらいの話でしょう?」
続けて『なのに』と言いかけて口を噤んだ。
感情に理由を問うには、自分はあまりに若かった。
デリケートな問題かと思うと、詮索し切れなかった。
歯切れも悪くハンカチを差し出す。
異能で作ったものではなく、AAとママがイニシャルを刺繍してくれたものを。
「ヒノカワ アキラ……簸川さんね」
「私はアリス。アリス・アンダーソン。四月から常世学園の一年生よ」
「学籍だけある状態で、宙ぶらりんだけど。博物館自体は楽しんでいるわ」
■簸川旭 > 「アリス・アンダーソン……入学前ってことだな。じゃあ、まあ一応僕は先輩になるわけか。……ああ、大丈夫だ。大丈夫だから」
彼女の自己紹介を聞く。差し出されたハンカチについては大丈夫だ、と辞退した。
自分の涙に驚いた様子には、すぐには答えない。
「僕からしてみれば、この島も今の世界も、あり得ない事だらけだ。君が何のために入学したのかは知らないけど、注意した方がいい。
知ってるかもしれないが、治安がいい場所だけじゃないし、時折……というか今もだが、化物もでる。
異能だか魔術だか知らないが、それで好き勝手にする奴だっている。正直大嫌いだ、そういう奴らは。
だから……先輩としていうなら、遊ぶのは学園地区とか学生街にしておいたほうがいい。変な場所には行かないことだ。
学園生活を楽しむだけなら、それで十分だと僕は思う。今日みたいに、博物館に寄って文化的な活動をしていればそれでいい」
一応の、先輩らしい忠告などを旭は語る。時折言葉の中ににじみ出るものは、憎しみにも近い色彩を帯びている。
訳の分からない連中に関わるなとか、落第街には近づかないほうがいいなど、そう言った言葉も告げて。
「……僕が急に泣き出すやつだと思われたら困るから、一応さっきのことにも答えておくよ。
僕が生まれたのは20世紀……丁度、大変容が始まる直前の時代だ。だから、僕は大変容以前の地球に生きていた。
大変容の日に異能に目覚めたらしくてさ、そのまま僕は意識を失った。
そして次に目覚めた時には、大変容も何もかも終わってて、この島の研究所のベッドに寝かされていたってわけだ。
冷凍睡眠状態だったってことらしいが……まあ要するに浦島太郎だな。君が知ってるかどうか知らないけどな。まあ、それだけのことだよ。
別にそこまで珍しい話じゃない。大変容の時はそれこそ時空が歪んでたって話だしな」
水を全て飲み干すと、旭は紙コップをぐしゃ、と握りつぶした。
「自分の親や家族が死んだ出来事についての展示なんて、そりゃ見たくないってわけだ。
はあ……子供相手に何語ってるだか。すまないなアリス。聞き流しておいてくれよ」
■アリス >
「そうね。簸川先輩と呼んだほうがいいかしら?」
ハンカチを戻しながら、相手の話を聞く。
学生街に両親と住んでいるけれど、両親が住処に学生街を選んだのは治安の問題があるのかも知れない。
そんなことを彼の話からぼんやり考えた。
「……怪異、会ったわ。亜人に追いかけられた」
「風紀のロボットに助けられたけど……怖かったわ」
目の前の青年から滲み出る憎悪は、どんな種子から芽吹いたのだろう。
どんな土で育ち、どんな水を受け、どうしてここまで根深くなったのか。
その答えが本人の口から語られた。
「リップバーン・ウィンクル……浦島太郎…?」
聞き流してと言われるには、あまりにも重たい言葉だった。
大変容以前から生きていた人。
冷凍睡眠の異能を持つ青年。
異能を憎む異能者。
「……うん」
視線を下げて言葉少なくそう答えておいた。
彼は間に合わなかったんだ。
何もかもに遅れてしまって。長い後日談に生きている。
家族がいない世界に取り残された自分を想像した。
なんだか、それだけで泣きそうになった。