2018/01/31 のログ
■簸川旭 > 「ああ、あまり深刻にならないでくれ。言っただろ、珍しい話じゃないんだ。
正確な数はわかっていないらしいが、大変容で死んだのは当時の人口の半分近くだとも言われてるんだ。家族友人が死んだなんて、珍しくない。
君も見ただろうが、気持ちの悪くなるような災厄とか戦争とか……僕はそういうのを全く見ずに来たんだ。
むしろマシだったとさえ言えるかもな。気づいたら漫画やアニメの中でしか存在しないはずの異能とか魔術とか……神様さえ、いる世界になってた。
その事実さえ受け入れればいいだけなんだから。楽なもんだよ。ある意味では俺も異邦人的なものなのかもしれないな」
アリスが少女だから、そして現代に生きる者だからということもあるのだろう。
短く言葉を紡いだ彼女に向けて、旭は笑い声さえ交えて見せて答えた。
やや早口なのは、感情の高ぶりをごまかすためで。
「正直言って、今の有様の世界は嫌いだし、元の時代に帰りたい。だが、もうこうなってしまったのはどうしようもないんだ。
別に異能者とか魔術師とか、異邦人が憎いわけでも嫌いなわけでもない。ただどうしようもない思いだけがあるってだけでね。
多分、異邦人もこういう思いを抱えてるんだろう。だから珍しくないんだ。あいつらだって、多くの場合元の世界に帰れないんだからな……」
珍しくない。
珍しくない。
そう自分に言い聞かせるように旭は呟いた。
「湿っぽい話になったな……現代の子供に聞かせてもなんというか、正直困るだろ?
僕の話ばっかりしてしまったから今度は君の話を聞かせてくれよ。20世紀の話とか、この島のことについてぐらいなら応えられるつもりだ。
異能とか魔術とかは……専門のやつに聞いてくれ。僕はよくわからない」
自分の話ばかりした、湿っぽい話をしたとやや気まずそうな表情を浮かべる。
世界についての憎悪を今を生きる人間に聞かせてもどうしようもないことなのだから。
ごまかすように今度は君の話をとだけ言うと、一枚の名刺を差し出した。今時名刺などなかなか見るものではない。
それには、彼の名前と、図書委員会:遺物管理員と書かれていた。
「こっちが本業で、今日のは手伝いなんだ。
何か変なアーティファクト……危険な魔導書とか、呪具とか、そういうものを見かけたり話を聞いたりしたら教えてくれ。
それを封印するのが僕の本業。それが博物館に収蔵されたら、危険がないように封印してるんでね。
流石にそろそろ仕事に戻らないと怪しまれる……ここはオートロックだ。他の職員がやってくる前に出といてくれよ。じゃあな」
それだけ言い残すと、旭は逃げるようにして部屋を後にした。
■アリス >
今日、惨劇を資料で知った。
けど、今聞いたのは生の声だ。
マシだったとさえ言える。
そう言い切れるようになるまでに、どれほどの懊悩があったのだろう。
そして涙を流すほどに、振り切れていない過去でもある。
「私は……異邦人の知り合いはいない」
「だから、異邦人のことも詳しくないし、簸川先輩のことも伝聞以上のことはわからない」
「でも……」
顔をくしゃり、と歪めて。
どうしようもない。
彼は言った。
そう、どうしようもないんだ。
彼にとってこの世界は行き止まりに等しいのだから。
名刺を受け取ると、強く頷いて。
「また会ったら、私の話をするから……」
「だから、また会ってね。簸川先輩」
そう言って立ち去る青年を見送り、自分も空になった紙コップを無害な気体に分解して部屋を去っていった。
ご案内:「常世博物館(小イベント開催中)」から簸川旭さんが去りました。
ご案内:「常世博物館(小イベント開催中)」からアリスさんが去りました。