2015/08/01 のログ
久藤 嵯督 > 「……ん? ああ、どこの怪獣が暴れまわっているかと思えば……」

虹色に変色させた瞳を元の黒に戻して、立ち止まっているライガを呼び止めた。
……その前にブルーデスジュースにフタをしておく。うっかり嗅がせてしまっては俺の責任だ。
誰かが通報しようにも、自分がおまわりさんなのだから始末に終えない。
自分の手錠を自分に掛けてみるか? 在り得ない話だ。

「よう、ライガ。随分とお疲れのようだな。何かあったか?」

ライガ > 「ああ嵯督か、……え?あれ?
え?もしかして刺激臭がしたのって」

相手の顔を見て久しぶりと声をかけようとして、手に持っている謎のボトルとを交互に見る。
ボトルからはなんかこう、本能的に危険を感じるほどのヤバさを感じた。

「いやちょっと外交関係の書類漬けで。いつものことだけどさ、大した話じゃないよ。
ただ子供の異能者の鉄砲玉量産してたグループ1個潰したんで、夏休み明けに、転入生何人か来るかもね」

あたりをきょろきょろと見まわし、周囲から見えにくい位置に移動する。

「そういや、断っておきたいことがあるんだ。
……身体に異常、あったわ」

久藤 嵯督 > 「開けるなよ……死にたく無ければな。
 奨学金は下りるのか? 先日の落第生引き上げは公安の方でごっそりと落とされていたようだが……」

別に脅しで言ってるワケではないということは、自分の釈然とした態度を見ればわかることだろう。
しかし形振り構わずに生徒を集める必要が出てくるとなると、いよいよこの常世島の寿命が見えてくる。そうでないことを祈るばかりだ。
ブルーデスジュースはカバンに仕舞っておいて、本題に集中することとしよう。

「だろうな」

驚くでもなく心配するでもなく、ただ、事実を事実として受け止める。
研究機関の出でだった時点で、そのような事の一つや二つ、とっくに覚悟している。
無論それがたとえ数少ない仲間であってもだ。こちとら地獄なんて場所は、三駅ほど前に通過してきた。

休憩所周辺に糸を張り巡らせて、物理的な盗撮・盗聴は行えないよう領域化する。
魔術的なアプローチは、ライガの方でなんとかしてくれている……といいのだが。

「さて、詳しく聞かせて貰おうか」

ライガ > わかったよ、と手を胸の前に上げてこたえる。匂いの時点で危険を感じたので深くは問うまい。

「さあねえ。希望者だけだし、一般枠じゃないかと思ってる。
一応、入学審査の前に公安風紀、あと財団で引き抜き介入できる穴は作っておいたけど、落第街の住人みたいなのじゃなくてもともと拉致られた連中だしさ。
素性はほぼ問題ないと思うよ。……グレーの奴は危ういんで海外の養育施設に任せてるみたいだけど。

じゃ、話す前に。一応結界張っとくか。
──“西天に昇りし銀の王よ、ひとたび我等を護りたまへ”──魔拳《風衝回廊》」

小さく唱えて両手を広げれば、周囲の空間がゆがみ、呪紋が浮かび上がった半透明のカーテンが出現する。
だいぶ前に嵯督を介抱した時に使った、風の結界。もっとも相手の記憶にはおそらく残っていないだろうが。
それは外からの光を一部吸収し、風景をごまかす魔術。
内側からの音声は、木々のざわめきや風の音くらいにしか聞こえないだろう。
無人の休憩所に、わざわざ魔術をぶつける奴がいるとも思えないし。
張り終わると息を小さくはいた。

「異常は2つ。
まず、融合してた悪魔の断片が表に勝手に出てきちゃって。
なんでかわからないけど、半分くらい意識あったんで、風紀委員会事務に退去依頼出したら荒事屋が来てさ。
思い出したくないって言って、大部分は伏せることに成功したけど、運がよかったのかもね。
……ま、若干迂闊だったのは反省してる。次は君を間に挟むか、直接頼むさ」

久藤 嵯督 > 「……うーむ」

気を失っていたものの、細胞のどこかで感じた事のあるような感覚だけはある。
遺伝子をどこまでも捻じ曲げた”無形”ならではの感覚なのだろうが、
そもそも認識していなかったことなど、記憶へ表層化されたりはしない。
体の既知感の正体を掴めぬまま、話は進んでいく。糸の反応の方も未だ、異常を検知してはいない。『門』の反応もだ。

「そうか……いや、半分の意識でよくやった方だ。まあ、今度からはボタン一つで俺にSOS信号を出せるようにしておけ。
 携帯でも無線機でも良いが、どっちがいい?」

自分は出来れば無線機の方が良い。が、携帯の方が何かと便利な気もする。
それ自体に重要な情報を残していなければ、わざわざハッカー対策を講じる必要もないだろう。

「で、もう一つの方は?」

ライガ > もしかして、感づかれたかな? いや、意識はなかったと思う。
風の結界はともかく、解除魔術のほうは本当に拙いので可能ならば伏せておきたいと考える。
あの時はとっさで体が動いてしまったのだ。思えば静佳を介抱した時といい、自分にもまだ、『人間』の部分が残っているのだと、改めて実感する出来事であった。
まあ、それはさておき。

「ああ、携帯買ったのかー。じゃ、そうしておくよ。信号だけなら怪しまれないだろうし。
ま、大した断片じゃなかったのが幸いだったよ」

もう一つの方だけど、と言いかけると掛けていた眼鏡を外す。
黄金色の眼、ぱっと見た限りはいつもの様子だが、瞳に映る風景は、なぜか両方ともに曇り空であった。

「……空を見るとね、雲が近づいて見えるようになったんだ。
雲一つない青空でも、遠くの方に見えるし。
研究区で見てもらったんだけど、どうも魔眼が発現する前兆みたいな症状があるらしくって。
今のところは特に変わったことはないけど、一応視界操作の魔術を抑える眼鏡をかけてる。
特定の魔術を使うと眼から火花が散って痛みが走るから、そのあたりが注意ってところかな。
……魔眼自体は別になってもいいけどさ、種類によっては封じなきゃいけないからねー」

困ったものだよと苦笑し、指の間でくるりと、畳んだ眼鏡を回す。

久藤 嵯督 > 「言っておくがSNSはダメだからな。
 アレは呼び出し音が五月蝿くてかなわん」

いやまったく。その点で言うなら電話も嫌いだ。
だが無線機はいい。あれはコール音が微小または皆無だし、やっぱり人類はアナログで生きていくべきなのではないのか?
絶対そうだ。
何やら一人で頷いているが、大した事は考えていない。

「魔眼……か。揃いも揃って厄介なモノを掴まされて、お気の毒なことだ、
 宝くじにでも当たればお得な眼を得られるかもしれんが、所詮は宝くじで、それもクジ券はたったの一枚だけだ。
 気を付けろよ」

さっさと眼鏡をかけろ、と言わんばかりに指で眼鏡をはじくようなジェスチャーをする。
最悪俺が尻拭いをしなければならないのだから……

―――いや、それも悪くないのか。

「……そうだな、俺からも一つ話しておくべきことがある。
 念のためだが、先にそいつをかけといてくれ」

ライガ > 「はは、それはないよ。
というかSNSはかえって面倒だと思うけど」

無線機だと確かにセキュリティは向上するが、こっちも用意しないといけない。
なるべく身軽な通信方法をとりたいところだ。

「ああ、今のところはそのくらいかな。
失明なんかよりましだろうけど。
……で、どうしたんだい?」

元のように眼鏡を掛けなおすと、嵯督の言葉を待つ。
眼に関することだろうか。

久藤 嵯督 > 「それは、『コレ』だ」

自分の眼に手を翳すと、その瞳から黒雲が晴れて虹色に輝きだす。
魔術はおろか、異能の痕跡すら見せず、かといって生物学的に見ても異常。
かつて嵯督を介抱したライガならば、見た事があるはずだ。

「原理はわからんが、この状態になると俺は『門』に対して敏感になるらしい。
 そして偶に『門の外』から影響を受けることもある。声が聞こえたり、よくわからない何かが見えたり……
 俺は護身術として結構魔術を齧ってはいるが、それでも専門家には劣る。
 だからお前の意見を聞いておきたいと思ってな。これは、『魔眼』なのか?」

結論から言えばノーであるのだが、久藤嵯督にそれを確かめる術はない。
そもそも力の根源は『眼』ではなく、『存在』なのだから。

ライガ > 嵯督の目に映る輝きを見れば、ぎょっとする。
この眼は以前に見たことがある。たしか……

「それ、突然出てきたのかい?
この前、僕が保健室に君を運んでいった時も、その状態だったような気がするんだ。
他、いろいろ衰弱してたみたいだけど。黒い霧が周りに漂ってたりさ」

眼鏡を掛けなおし、虹色の眼を見る。
これ、眺めてても影響ないよな……?

「思うんだけど、『魔眼』……じゃないんじゃない?
普段見えないものが見える、幻視に近い状態なら、わかるけど。
声が聞こえるってのは、また別の状態だと思うね。
そもそも『門』に関係して、影響もうけるとなると、眼だけじゃなくて別の器官の異常も考えたほうがいいと思うよ。
眼の異常は、氷山の一角にすぎない可能性もあるし」

一度検査受けてみたらいいんじゃないかな、と促す。

久藤 嵯督 > 「ああ、最初は頭痛という形で出てきたモノだ。
 それを少しずつ慣らしていったら、『頭痛』は『眼』になっていた。
 そういや、あの時は世話になったな。ありがとう。
 しかし黒い霧だと? そりゃ俺の細胞だな。人間の形を捨てた細胞はああなるんだ」
     タ ガ
三つ目の『限定』を外せばその黒い霧を見せてやれるが、失うモノも多い。
ここで例を出すのはやめておくことにする。

「なるほどな……しかし残念ながら、離島本部で一度検査は受けたんだが、あそこの施設では解析し切れなかったんだ。
 恐らく解析可能であろう研究区の人間は信用するなと、上司から忠告を受けている。信用出来る上司がだ。
 本格的に解析を進めるのであれば、それこそ研究施設の一ブロックでも盗まなきゃならんだろうよ」

ただ財団の研究員も、比較的安定状態にあるとは言っていたのでしばらく心配することは無いだろう。
だが、油断は禁物だ。

「ま、情報交換としちゃあ今はこんなものか?
 疲れてるのに引き止めて悪かったな」

ライガ > 「最初の異変が頭痛なら、ますます『魔眼』の可能性は低くなるだろうね。
ひょっとすると感覚器官全般かもしれないし。

え、あれ細胞だったのか、確かに害意はなさそうだったけど。
影響の大きい新陳代謝活動、みたいなものなのかな?違ってたらごめんだけど。
かなりボロボロだったから、栄養補給は他人より多めにやったほうがいいのかもね」

ようやく、あの時起こっていた事の何割かだけ理解する。
とりあえず、大事に至らなくてよかった……のか?

「ああ、検査受けたのか。で、現状様子見だと。
今までに起こったことがない事柄なら、慎重にもなるだろうしね。
…研究区は、正直財団の管理下だけじゃないところがあるから、大っぴらにできない事だと、なかなか委ねることは厳しいか。魔眼は学園内にもチラホラいるらしいし、僕の場合は効果が不明だから平気だったけど。

いや、こっちこそ、互いの状態を確認できてよかったよ。
話さなきゃいけないことだったし」

そう言い終えると、風の結界を解こうとする。
特に何もなければ、結界が解除され、ぼんやりと2つの人影が現れるだろう。

久藤 嵯督 > 「もっと手っ取り早く言うなら、あの黒い霧の一粒一粒こそが俺をはじめとした『無形』本来の姿だ。
 あれに意思とイメージが宿って、ようやく人間になる。それまではずっと試験管に入れられて育つのさ」

糸の領域もしっかりと回収しておく。
右手の糸が『流れ星』に食われてしまった今は、左手の五本糸しか使えないのだから。

「俺は先に戻るぞ。仕事はもう片付けたが、顔ぐらいは見せんと同僚が五月蝿いんだ。
 それじゃあ、お互い気をつけていくとしようか」

そう言って休憩所を出て……いや、野外なので委員会棟に入っていったと言った方が正しい。
嵯督はそのまま、風紀委員会の本部へと戻っていくことだろう。

ライガ > 「あれ全部君なのか。
いや、君を構成する要素の一つ、なのかな」

首をかしげ考え込む、納得がいったようないってないような。
ともあれ嵯督の話を聞けたのは初めてではないだろうか。
ふと時計を確認すると、時間を忘れて話し込んでいたようだ。

「ん、ああ……
そうだね、いい時間だ。
じゃ、また。無事で」

周囲に人の目がないか確認する。
ない、よな……。
嵯督が去ってしばらくしてから、たった今休憩が終わったかのように、委員会街から遠ざかっていく。

ご案内:「委員会街:休憩所」から久藤 嵯督さんが去りました。
ご案内:「委員会街:休憩所」からライガさんが去りました。
ご案内:「風紀委員会本部が見える委員会外の喫茶店」にルフス・ドラコさんが現れました。
ルフス・ドラコ > 島外のオフィス街でも一般的に見られるような、
カウンターでコーヒーを受け取ってから席につくスタイルの喫茶店。
ここ委員会街においてもせめて本部よりは同僚と出会う確率の低い休憩室として、
あるいは打ち合わせのための即席会議室として使われていることに変わりはない。

今日もまた。
屋外の厳しい日差しを避けるために喫茶店を訪れた真面目そうな青年が…

ドアを開けた後に立ちすくんで、踵を返して店を出て行く。

店内の席は既に満席。
それらの客は制服を着崩しているか、威容で過剰な装飾がなされた私服を着ているか、ともかくこの委員会街には相応しくないような連中だけが揃っている。

「落第街から見事出て行ったが、未だ無事の報せのない仲間の救出」
を旗頭に集まった彼らは、彼らを導いて計画を立ててくれた一人の青年を待ち続けている。
アイツさえ来てくれれば、既に手引きは万全。
気に食わない委員会街で暴れて帰るだけの楽しい遠足に過ぎない。

そう信じて待つ彼らを横目に見ながら、
ルフスは店内最奥のカウンター席で氷の溶けたグラスを回した。
来るわけがないものを待つつもりはない。
ただ、この羊の群れの中に居る「はじめから分かっていて」やって来た山羊を探している。