2015/08/08 のログ
■『室長補佐代理』 > 「そりゃあ、もちろん望むところだ。帰ったらゆっくり残りの商品を受け取りながら存分に償わせてもらうよ。喜んでな」
互いの紅い顔から僅かに目を逸らしながらも、一応そう強気に嘯いてはみせる。
半ば、強がりではあるが、まぁ、されっぱなしも癪なのでというアレである。
一応、男も男なりに『彼氏らしい』ってものを意識してはいるのだが、なにせ参考資料に乏しいため、この有様となる。
研究熱心ではあるのだが、それが恐らく麻美子の笑いの種になっていることは想像に難くない。
「ん、んぅ……なんというか、流石に夏だし、暑いな! なんか飲むか? 麻美子」
そう、わざとらしく視線を逸らして、公園の隅の自販機を見る。
流石にまだ体勢が整っていない。
■麻美子 > 「当然ッス、帰りが遅かった分、たーーっぷり償うッスよ!!」
目を閉じて、ふんぞり返るようにそう言う。
耳まで真っ赤になってるのが分かるが、
ちらりと見た彼の視線は逸らされていた。
「そ、そうッスね、夏は暑いッスからね、何か飲むッスよ。」
わざとらしく第二ボタンまで外した胸元を開いた手で仰ぎながら、
彼と同じく自販機に視線を移した。
横顔越しに、ぼんやりと光る自販機を見つめる。
■『室長補佐代理』 > 「じゃ、いくか」
立ち上がり、麻美子の手を引く。缶コーヒーは置いてけぼりだ。
恨めしそうに缶コーヒーが鈍く輝くが、日頃よく利用する公園だし、明日片付ければいいだろう。
そんな厄体もない事を考えながら、横目から覗く麻美子の胸元を一瞥だけして、すぐに顔をまた赤らめて目を背ける。
今は直視できない。
冷静になれば大丈夫だ。受け止める準備が出来れば平気だ。
だが、今はまずい。
男は普段からこんなに動揺しているわけではない。多分ない。多分まともだ。
しかし、覚悟が決まる前にこう連続で波状攻撃をうけては、まさに見ての有様である。
歴史上、奇襲がどれだけ有効な戦術であるかを如実に示していると言える。
「……ほら、好きなの選んでいいぞ」
自販機を2人で眺めて、誤魔化すようにそう勧める。
■麻美子 > ちらちらと彼のほうを見ながら、
自販機のほうへと歩み寄っていく。
『なんでこんなに動揺するんスか、いつもやってる事ッスよ?
そもそも、それ以上の事も―――。』
ぶんぶんと頭を振る、
少し伸びたショートポニーがゆらゆらと揺れた。
『なんか、今はダメッス!!今は考えちゃダメッス!!
なんかこう、変な所に入って変に意識してるッス!!!』
再び、ちらりと彼の顔に視線を向ける。
自販機の白い明かりにぼんやりと照らされた、
彼の視線は、変わらず逸らされている。
『むしろ、これは改めて、
麻美子にドキドキしてもらう為の好機ッス!!』
最近、少しずつ彼も慣れてきたのか、
こうして、初々しい反応を返してくる事は減っていた。
―――キラリと、彼女の瞳が光る。
「………じゃ、麻美子はこれにするッスよ。」
自販機の前で彼に薦められれば、
小さく背伸びをして最上段の炭酸飲料のボタンを叩く。
「緑サンはどれにするッスか?」
■『室長補佐代理』 > 「俺はまぁ……さっき飲んだからいいわ。麻美子の少し分けてくれ」
そう、いつも通りにいって、小銭をいれてボタンを押してから、今自分は何を口走ったと脳裏で頭を抱える。
いや、いつも通りだ。本当にいつも通りのことだ。
むしろ普段だったら正に気にも留めない事だ。
別にもう同棲してそこそこ時間も経っている。
飲み回しどころか、それ以上も……いや、言うまい、考えまい。
十分に自分は慣れたはずだと思っていた。時間がそれらを解決した筈だとおもっていた。
だが、それは完全な思い込みだった。
理由はまだ判然としていないが、確実に今は家にいるときや海に行ったときよりも動揺している。
あの時や家と今の違いは、職場であり、日常であり、そんなところで突然『不意打ち』を受けたからだ。
いや、本当にそうか?
わからない。まだ整理が出来ていない。
懊悩を秘めたまま、これまた、ロクに目を見ずに取り出し口から手に取った炭酸飲料を渡す。
「……ほら、これでいいんだろ」
なんでそんな声色なんだよ俺。
我ながら、訳が分からない。
奇襲とはここまで効果を発揮するものなのか。
■麻美子 > いつも通りにそう言う彼の言葉を聞いて、
もう平静を取り戻したのか、と考える。
結果を言えば違った、彼はろくに目を見ずに、
何故か妙な声色で炭酸飲料を手渡してくる。
そのペットボトルに口をつけて、
飲み口についた水滴を少し出した舌で舐めると、
『どうぞッス』と言いながら彼に差し出す。
そこでふと、彼女の思考にするりと入ってくるものがあった。
彼はゆっくりとだが、記憶が無くなって行っている。
『もしかして、麻美子の事を忘れてて、
それでも、自分が記憶が無くすって事を自分で分かってるから、
傷つけないように恋人のフリをしてる―――とか、ないッスよね?』
ペットボトルを差し出しながら、
彼の顔を、瞳を、覗き込むように見る。
■『室長補佐代理』 > 「ありがとう」
硬い声色で礼を言って、いつも通りに一応口を付ける。
味がしない。
どこまで緊張してんだ俺。
男は我ながら自分の動揺がなんなのか、理解できていなかった。
昔の事を思い出す。昔はこうではなかったはずだ。
昔は、そう麻美子とあったばかりの頃は……いや、あったばかりの、ころ?
■『室長補佐代理』 >
【それは『俺』のものだ】
■『室長補佐代理』 > 「……!!」
咄嗟に、覗き込んできた麻美子の目を見て……すぐに、逸らして、唇を噛む。
そういうことかよ。
これもじゃあやっぱり……そういうことなのか?
いや、違う、違うはずだ。
何が違う?
何が違うと、いいきれる?
咄嗟の懊悩と逡巡に、言い訳を返そうとして、自らにすら言い訳できない。
沈黙が、空気ごと自分の首を絞めていく。
真綿のように。いや、これは……違う。
これは、過去だ。
あるはずの過去が、あったはずの過去が。
徐々に、そうして、喉を締め上げているのだ。
■麻美子 > 覗き込む視線を逸らす彼の顔、
お礼を言う、その硬い声色。
瞳の奥で揺れていた、戸惑いの感情。
―――積み重なった違和感が、彼女の口に、彼の名前を呼ばせる。
たとえそうでなくても、
『自分を忘れているかもしれない』という恐怖が。
彼と交わした約束が、彼女の身体を動かす。
「―――緑サンッ!!」
ぐいと彼の手を引いて、彼を逃がさないように、
自動販売機に彼の背を押し付けるように、
その身体を縫いつけるように身体の横に、自らの手をつく。
「麻美子は、何度でも緑サンに初めましてするッス。
たとえ過去が無くても、『今』を作り続けるッス。
そう『あの時の緑サン』と約束したんス。」
再び、彼の瞳をその瞳が覗き込む。
「だから、麻美子には嘘はつくなッスよ。
………何かおかしなところがあるなら、正直に言うッス。」
■『室長補佐代理』 > 自販機が、揺れる。
男の長躯が押し付けられる。
左手が、彼女の右手に握られる。
彼女の左手が、男を縫いつけるように自販機に叩き付けられる。
視線が、絡みつく。
所在なさ気に麻美子を見下ろす、光の無い伽藍洞の瞳と、男を見上げる、麻美子の黄金の瞳が、互いのそれを映し出す。
戸惑いのまま、男は、それでも口を開く。
いつも滲んでいるはずのその笑みが、今日ばかりは……渇いていた。
渇いた河を思わせる、罅割れた笑み。
それでも、なんとか笑みを象って、男は口を開く。
「わりぃな、麻美子。早速、昔の事は少し思い出せなくなってる。
昔通りにしようと思うと……少し戸惑うくらいにはな」
全てを、覚えていないわけではない。
むしろ、忘れていることの方が少ないはずだ。いや、そうであってほしい。
忘れている以上、どれくらいに『虫食い』なのかは、自分では判別できない。
■麻美子 > ひび割れた仮面のようになったその笑み、
ひと目で『作りモノ』とわかるその笑みを、その黄金の視線が突き刺す。
素顔が見えている部分、彼の光の無い伽藍洞の瞳を、その瞳は覗き込む。
揺れる自販機の揺れる照明が、揺れる黄金の瞳を照らした。
「……やっぱり、そうッスか。」
彼女は少しだけ、視線を落とす。
彼の手と絡んでいない彼女の右手が握りしめられる。
地面に転がったペットボトルの中身が泡を立てて広がっていた。
―――再び、視線を彼の顔へ戻すと、にっこりと笑う。
「なら、『昔通り』になんてしなくていいッスよ。
麻美子は、いつでも、その時の緑サンが大好きッス。緑サンが好きなんス。」
開いた左手で彼の制服のネクタイを掴むと、ぐいと引いて、
少しだけ背伸びをすると、相手の唇に唇を重ねた。
『緑サンの初々しい反応も、それはそれで新鮮でいいッスよ。』と、笑みを零す。
■『室長補佐代理』 > ネクタイごと顔を引き寄せられて、突如の口付けに、目を見開く。
少しだけ、さっきのジュースの味がする……その唇。
その唇の感触は、まだ覚えている。
その香りは、まだ、覚えている。
声も、名前も。いつもの、日常も。
「ああ、なんだ。そうか。なら、これでいいんだな。これは、喜んでも、いいんだな」
好きと云ってくれる彼女に、柔らかく微笑み返して見下ろす。
光の無い瞳。黒い伽藍銅。
それを、微かに滲ませて、少し気恥ずかしげに。
「麻美子がそうしてくれるなら……何度でも、俺は麻美子に恋できるってことだからな」
穏やかに笑って、そう。
いつか、神社で約束したときのことを思い出して、笑う。
それだっていつかは忘れるのかもしれない。
それでも、今はまだ、覚えている。
なら、それは、気にするようなことじゃあない。
「いつでも『不意打ち』してもらえるのは、それはそれでスリルがあって、悪くない」
■麻美子 > その唇の感触は、いつもの彼のもの。
その香りも、触れ合う肌と肌の温度も。
そして、その反応も『いつもの』彼のものだ。
確認が終わると、小さく安堵の息をつく。
「大好きな女の子にキスされたんだから、素直に喜んでくれッス。
緑サンがなんか変な反応ばっかりするから、
麻美子までなんか変な気分になったッスよ。」
柔らかくほほ笑む彼の顔を見ながら、
そう肩を竦める彼女の口元に、いつもの笑みが戻る。
「もちろんッス、いくら緑サンが忘れても、
何度でも惚れ直させてやるッスよ。任せるッス。」
『隙を見せたら、また不意打ちしてやるッス』と手を振ると、
彼の身体を自販機から起こすように手を引く。
「―――さ、そろそろ帰るッスよ。」
彼女は彼の手に改めて指を絡めて、ゆっくりと歩き出す。
2口だけ飲まれて地面に転がったペットボトルは、
コーヒーの缶と同じく、月に照らされて不満げに揺れていた。
■『室長補佐代理』 > 「そうだ、な――豪華賞品の残りも、受け取らないといけないしな」
少しだけ、強気にそう笑って見せて、絡んだ指先に力を込める。
改めて、男は先ほどの自分の動揺がわかった気がした。
当然、過去のそれが『喰われた』せいもあるのだろう。
だが、それだけではない。
恐らく、長く過ごしたからなのだ。
長く過ごしたことで、麻美子との距離が以前よりもさらに近づいたことで、こうなっているところもあるのだろう。
何故なら、もう麻美子とは、公安の『室長補佐代理』として過ごした時間よりも……ただの『朱堂緑』として過ごした時間のほうが、長いのだから。
「帰ろうぜ、麻美子。『いつも』みたいにさ」
屈託なくそう笑って、月明かりに照らされた夜道を往く。
きっと、『いつも』のように。
ご案内:「公安委員会庁舎前公園」から麻美子さんが去りました。
ご案内:「公安委員会庁舎前公園」から『室長補佐代理』さんが去りました。
ご案内:「風紀委員会本部エントランス」に眠木 虚さんが現れました。
■眠木 虚 > あの襲撃事件から数日が経った。
工事業者の手により損害を受けた本部もおおよそ元の姿を取り戻しつつある。
こういう時に、工事業者に修復の異能使いがいると施工期間も実に短い。
風紀委員内の混乱も収束に向かっている。
襲撃事件に慣れた古株委員の根回しが良かったのであろう。
平常運行まであと少しといったところだ。
実に頼もしい限りである。
そしてこの眠木虚も襲撃事件の後始末……。
をしているわけではなかった。
抱えた掲示物のポスター。
壊れた掲示板に代わり新品の掲示板。
真っ白な雪原に足跡をつけるような感覚。
今、自ら作成したポスターを貼り付け終えたところだ。
その顔は実に満足気であった。
■眠木 虚 > そのポスターには風紀委員向けの標語が書かれていた。
『みんなで守ろう、ほうれんそう』
いかにもありきたりな標語であるが組織において最も大事な標語である。
『報告』、『連絡』、『相談』
以上、三つを怠らないようにという生徒指導課からのお知らせのポスターであった。
なお、標語、およびポスターの作成は『指導課長補佐』の眠木の手によるものではあるが、
ポスターに描かれたよくわからない……人物か動物かもわからない前衛的な絵は『指導課長』の手によるものである。
今回も自信作であったようなため使わないという選択肢は存在しなかった。
今度はポスターとは別の掲示物を取り出すと掲示板に貼り付けていく。
それはA4サイズの小さなお知らせが書かれたものであった。
本来の目的はこの掲示物であり、最も見やすい位置へと貼り付けられていた。
■眠木 虚 > 掲示物を貼り終えれば満足気に指を向ける。
見るからに怪しい行為である。
しかし、このような掲示物貼りなど下っ端の風紀委員にやらせておけばよいのに。
■土ヶ端丑松 > 「眠木先輩、『それ』やるんですか。
てっきり今年はやらないものだと思ってましたよ」
声をかけられると視線を向ける。
そこには風紀委員の制服の上着を抱えながらアイスキャンディーを舐める生徒の姿。
「あぁ、土ヶ端くんじゃないか。
そう、そうなんだよ!
『新人風紀委員の教育講座』、風紀委員の教育はボクのお仕事だからね」
土ヶ端丑松、彼は生徒指導課に所属する風紀委員。
いわゆる眠木の部下に当たる人物だ。
待ってましたと言わんばかりに得意げに語るが土ヶ端の反応は薄い。
■土ヶ端丑松 > 「それ、本来は『五月にやってるはず』ですよね。
まぁ、『留学』だかなんだか知らないけど、課長のワガママご愁傷様ってところですね」
■眠木 虚 > 「あっはっはっはっはっ!
そう、それだよ。
まさかこのボクもこの島から離れることになるとは……。
思ってもいなかったね!」
のぞけるように笑う姿は、大げさである。
本来は新しく入学し、風紀委員に所属した新人を教育するもの。
五月に行うのが通例であったが今年に限ってはそれが出来なかったのである。
「ようやく夏季休暇にも入ったし授業もない。
タイミング的にはちょうどいいんじゃないかなって」
我ながら名案であると指を立てて不敵に笑う。
その割に土ヶ端の顔はしらけ気味である。
■土ヶ端丑松 > 「毎度言ってるんですけど……。
ちゃんと新人来てくれるんですかね。
いつも半分集まるか集まらないか……強制収集した方がいいんじゃないですか?」
■眠木 虚 > 「……!」
割りと図星を突かれる。
この教育講座は任意である。
個性の強い風紀委員はあまり重要視していないのか、
全員参加するのを見たことがない。
「それはさぁ……。
ほら、無理矢理だとなんか悪いんじゃないかなぁって。
みんなにも都合とか、『いろいろ』あるじゃないか」
両手を体の前に広げながら言い訳を述べる。
新人の風紀委員とはいえども何かと押し付けてしまえば関係性は崩れやすい。
そうなれば後々、扱いが難しくなってしまう。
そういう意味で慎重なのである。
要するに眠木虚は『嫌われたくなたった』のである。
■土ヶ端丑松 > 「『課長補佐』が何を言ってるんですか!
そこはドーンとビシッと言ってあげないと威厳もなにもないでしょうが!」
舐めていたアイスキャンディーを眠木に向けながら怒鳴りつける。
端から見れば関係性が逆に見えてしまう。
不思議だ。
■眠木 虚 > 「痛いところを突くなぁ土ヶ端くんは。
ボクに関しては威厳なんて元から有って無いようなものじゃないか。
なんたってボクは『木偶の坊』だからね」
人差し指を立てて不敵に笑う。
こうして得意気に語るのは眠木の特徴でもありそうだ。
言葉の内容は置いておいてだ。
■土ヶ端丑松 > 「はぁ、またそんなこと言って『本当は』……。
いや、何でもないです。
それよりも他の掲示板にも貼るんでしょう?
後やっておきますから。
そろそろ時間なんじゃないんですか、『拘留生徒の面談』の時間」
眠木は人差し指を口に当てていた。
土ヶ端はそれを目にしていた。
「あ……!
もうそんな時間か、まったく忙し言ったらありゃしないよ。
それじゃあ後はよろしくお願いするよ土ヶ端くん」
土ヶ端に掲示物を手渡すと勾留所の方へ歩いて行く。
それを見送った後に土ヶ端は掲示物を片手に別の掲示板の場所へ移動していった。
ご案内:「風紀委員会本部エントランス」から眠木 虚さんが去りました。