2015/08/14 のログ
ご案内:「公安委員会庁舎前公園」に薄野ツヅラさんが現れました。
ご案内:「公安委員会庁舎前公園」に黒神 蓮さんが現れました。
ご案内:「公安委員会庁舎前公園」から黒神 蓮さんが去りました。
■薄野ツヅラ > 夜半過ぎの公園。
ぽつりぽつりと灯る街灯と駆動音を響かせる自動販売機だけが、
しっかりと自己主張をする。そんな公安委員会の庁舎前の夜の公園。
だらり、と申し訳程度に設置されたベンチの背凭れに寄り掛かりながら、
甘ったるいことだけに定評のある缶コーヒーを片手に、ひとり。
■薄野ツヅラ > 落第街の二級学生の一斉引上げ以降、落第街の治安は格段に悪くなった。
───、ように。彼女の視線からは、そう、見えた。
本来全員が等しく二級学生として扱われる筈であったのに
「正規学生」と「二級学生」という実にわかりやすい区別がなされ、
公平とは程遠いものになってしまった。
故に、先日の彼女に回ってきた仕事がある意味間接的に
治安を悪くしていたのは明確な事実だった。
■薄野ツヅラ > 審査から落とされた人間が審査を通過した人間を羨むのは当然だろう。
羨望は、いつの間にか嫉妬に変わるのもまた当然のことだろう。
故に、落第街は現状。
一斉引上げ前よりも明確な「ターゲット」が生まれてしまい、暴力沙汰も中々な頻度で発生するようになっていた。
被害者の特徴は等しく「正規学生への昇格処理中」ということのみ。
性別も年齢も関係がない。ただ、審査に通ってしまったという理由だけで。
───ただ、それだけで。
ただ、静かに頭を抱えた。
静寂に満ちた夜の公園で、何を言うでもなく。
小柄な体躯を小さく小さく丸めて、両目を抑えた。
■薄野ツヅラ > 頭では一斉引上げを行った風紀委員も自分の正義に従って動いていたのは解る。
それでも今の彼女は、その正義は間違っていた、としか思えなかった。
落第街のホテルに住居を構えるからこそ、風紀委員も公安委員会も進んで立ち入らない落第街の「現実」が目に入る。
夏季休業期間中も毎日落第街に身を置いていたからこそ──わかってしまう。
同時にヘッドフォンを外せば際限なしに入ってくる雑多な"情報"からも逃げることはできなかった。
オンオフは当然、ハイロウの切り替えすらも出来ない"気付けばそこにあった"異能。遠隔感応。
"誰"のものなのかも解らない"感情"が常時頭の中に流れてくるのは実に便利で、実に──
(要らなかった)
(自分のせいで起きた騒動なんて耳にしたくなかった)
本当なら知らないで済んだのに。
本当なら踏み込まなければ知らないで済むのに、と。
小さく、包帯を巻いたままの左手に爪を立てた。
■薄野ツヅラ > 蜷局を巻く長い長い思案の螺旋階段。
かつりかつりと必死に歩みを進めたところで階段の先は見えてこない。
暗中模索もいいところ。何も先が見えてこない。
自分が今何をすべきなのか。自分が今何が出来るのか。
深い深い海に足を滑らせれば、そのまま深海へと一直線。
───、光のひとつさえ見えてこない。何をすればいいかがわからない。
息をするのだって苦しかった。
自分のせいで誰かが本来覚えることのなかった苦しみを味わってしまった。
──自分のせいで。
自分が異能を使って"判断"した少年。
本来であれば学生になれた筈の彼は今頃どうなっているやら。
これも同じだ。自分がいなかったらなっていなかったこと。
■薄野ツヅラ > 「あのザンバラ頭はどうなってる訳ェ」、と。悲痛な独り言が零れて落ちた。
彼を含めて公安委員会の人間も、風紀委員会の人間も。
果たしてこの痛みを同じように味わっているのか、それとも。
グイ、と甘いだけの缶コーヒーを呷った。
それはヤケ酒、にもヤケ食い、にもよく似ていて。
抱いた不安を、抱いた苦痛も同時にコーヒーで流しこむように。
「…………、げほっ」
……──流し込むことは出来ず、軽くえづいた。
目尻に涙を浮かべながら、浮かんだそれをごしごしとジャージの袖で擦って。
自分のしたことの重みに耐えきれず、自分のしなければいけないことに板挟みにされて。
本来は落第街で好き勝手に、無法の街で自由勝手に生きていた筈なのに──
カラン、とスチール缶が転がった。
夜の公安委員会の庁舎前の公園に、カラカラと鳴る音と自動販売機の音だけが響く。
ちらり、と。公安委員会の庁舎を見遣った。
■薄野ツヅラ > 公安委員会。
常世学園の体制を揺るがすような事件やそれにまつわる人物や組織を調査し、
監視、解散させる権限を持つ所謂公安警察。
風紀委員会とはまた別の警察機構。
その公安委員会の本部を含んだ庁舎を見遣って、またひどく咳をひとつ。
風紀委員会の庁舎が襲撃された、との話も聞いたが今となっては元となにひとつ変わらない。
屹度、この公安委員会も襲撃されたところで何食わぬ顔で普段通りに
運営されるのだろう、と胸中で独り言ちる。
その『普段通り』が。
彼女──薄野廿楽には、ひどく歪んだものに見えて。
当たり前のように流れる時間を、動く街がひどく気味の悪いものに見えてしまって。
流れる時間に、動く街に、進む人々に置いて行かれるような気がしてしまって。
───、置いて行かれているのにやっと気づいたのかもしれない。
うまく息ができなくて、また何度目かの咳をする。ひゅう、と喉が鳴った。
■薄野ツヅラ > どれだけ蹲っていただろうか。
それは一瞬刹那にも感じられれば永遠永劫にも感じられた。
ゆっくりと右手に抱えた杖に体重をかけて立ち上がる。
傍らに転がる甘いだけの缶コーヒーの空き缶を拾って、
静かに自己主張を続ける自動販売機の横に置かれた屑籠に放り込む。
カン、と乾いた音が響いた。当然雑に放ったスチール缶は屑籠に弾かれる。
「………、」
黙ってスチール缶と屑籠から目を背ける。
それは見たくない現実から目を逸らすように。
それは聞きたくない"声"から耳を塞ぐように。
かつん、と。慣れた調子で杖を鳴らして公安委員会の庁舎に背を向けた。
──それは自分が知ってしまった「現実」に背を向けるかのように。
「……。帰ろ、仕事、終わった訳だし」
夜の公園に残ったのは、『普段通り』に灯る街灯と低い駆動音を響かせる自動販売機だけ。
ご案内:「公安委員会庁舎前公園」から薄野ツヅラさんが去りました。