2016/08/17 のログ
ご案内:「風紀委員会本部」にレイチェルさんが現れました。
■レイチェル > 「……さて、どうしたもんかね」
夜遅く、誰もいない風紀委員会刑事課のデスク群の片隅。
デスクトップパソコンを前に、唸る少女が居た。
デスクの上には、山のような書類と、ネコマニャンのぬいぐるみ――
これは貰い物だ――それから、コーヒーカップが置かれている。
目の前には大量の資料の山が置かれていた。
結構溜まってきてしまっている。
「仕方ねぇ、少しずつ片付けていくしかねぇもんな……」
元より、書類仕事は好き好んでやる訳ではないが、苦手な訳でもない。
書類の隅から隅までしっかり目を通しながら、山を一枚一枚片付けていく。
■レイチェル > 『……レイチェル、まだ仕事してたのか?』
同僚の男が声をかけてくる。忘れ物を取りに来たらしい。
コーヒーカップ片手にレイチェルは頷けば、再び書類に目を落とす。
『最近、よく遅くまで残ってるみたいだけど……夏休みなんだしさ、
ちゃんと女の子らしく――』
男が語を継いで、レイチェルに話しかける。
男の言葉を適当に聞き流すレイチェル。
週末に一緒に海に行かないか、と。
大雑把に要約すればそんな話であった。
「……悪ぃな、今は仕事に集中してぇんだ」
ふと、男の方を見上げれば棘のない、柔らかな口調でレイチェルはそう
言い放つ。
そうしてそれだけ言った後に、コーヒーカップに口をつけて
再び書類に目を通し始める。
男は落とした肩を竦めて、部屋から去っていった。
■レイチェル > 「……さて」
書類を片付けながら、頭に浮かんでいるのは一連の、異邦人を狙った
事件のことだ。
数日前、あの賭場での惨状を目にしてからというもの、レイチェルの
頭には再び事件のことばかりが浮かぶようになってしまった。
「『異』邦人ね……」
自嘲気味に笑いながら、また一枚書類を片付ける。
今ではすっかり慣れてしまったデスクワークだ。
考え事をしながらでも、手際よく進めていく。
(――馴染んではきてる、でも、完璧じゃない。
元から違ぇんだからな……オレ達は、ここに居る筈のなかった人間なんだ。
同じ世界の人間達ですら分かり合えないのに、どうやって異世界の人間と簡単に分かりあえってんだ、
そういうことなんだろうが)
異邦人、それは侵入者であり、侵略者である。
分かっている。
自分達のテリトリーに侵入者が現れれば、誰だっていい顔はしないものだ。
分かっている。
異邦人に敵意と恐怖を抱く存在は、居て然るべきなのだ。居ない訳が、ない。
分かっている!
それでも、たったひとつの言葉が。
時折、レイチェルの胸に去来してしまうのだ。
それはごく自然に、レイチェルの胸に落ちる影として在った。
それはいつかのあの日に、転移荒野に一人で放り出され。
多くの見知らぬ人々に囲まれたかつての少女の、何とはなしの、しかし心に根差した呟きだった。
「オレだって、お前らが怖ぇよ……」
血と硝煙の中を駆けて来た、狩人のそれではない。
偶然異世界から見知らぬ世界へ迷い込んで来てしまった、ただの一人の少女の弱々しい呟きだった。
■レイチェル > そんな言葉と共に、ふと、手が止まってしまった。
中身の無い、軽い溜息のような息を一つ吐く。
決して落ち込んでいる訳ではない。
ただ、空虚な気持ちが少しこみ上げてきただけだ。
目を閉じる。ニ、三秒。
そうすれば、気分も新たに。
勢い良く、深呼吸をする。
コーヒーカップを机の上に置いて、クロークから、
先日賭場で拾ったピンバッチを取り出してみる。
ピンバッチには血液が付着している。被害者の異邦人の血だ。
見てもいないのに、レイチェルの脳裏には、異邦人の凄惨な最期がありありと
浮かんでくるように思えた。
その瞬間、バッチを持つ指の先が、まるで氷に触れているかのような、冷たい感触を覚えた。
無言のままに指先のバッチを眺めていたレイチェルは、呟いた。
「それでも、オレは決めたんだぜ。オレの身体、いつまでもつか分からねぇけど……。それでも、
知りもしねぇ所からやって来たオレを、見捨てないでくれたこの学園や、沢山の人を守る為に
頑張っていくんだって……」
……な、と。
目の前のネコマニャンぬいぐるみの頭にぽん、と手を置いて、少し撫でてみたりなどした。
その顔には穏やかな、前向きの笑みが浮かんでいた。
(――今日も、明日も、明後日も。ずっと。)
(――オレは、このオレの居場所《この世界》で、生きていく!)
■レイチェル > 「あ、そういえば最近貴子に連絡してねーな……元気してるかなあいつ……」
彼女にも同じことを思われていそうであるが。
最近、会っても吸血行為を頼むばかり。
そうではなくて、もう少しリラックスした遊びか何かに、誘ってみよう。
そう思った。
そうと決まれば、色々考えなければならない。
仕事は、かなり終わらせることが出来た。
今日は、もう帰っていいだろう。
クロークを靡かせながら常世の一学生は席を立ち。
そのまま、女子寮へと向かうのだった。
ご案内:「風紀委員会本部」からレイチェルさんが去りました。