2015/07/16 のログ
鈴成静佳 > フフッ、クリフくんって面白いッスねー。欲望に素直というか。
今どきキミみたいなあけっぴろげな子はそうそういないッスよ。健康的でアタシは好きッスよ!
(無邪気な笑みを浮かべながら、他意もなく言い放つ)
ま、だからこそ急な話すぎて具体的な目的が浮かばないのもわかるッスよ。うんうん。

身長に関しては意外とごまかし利くかも。以前にも女装して侵入してきた男の子が居たんだけど、クリフくんよりも大きいくらいだったッスよ?
女装自体にはアタシは明るくないから専門家を探したほうがいいかもしれないけどね~。
(翔くんのことを思い出す。あれはヴォイスチェンジャー込みでかなり手の込んだ女装であった。プロの仕業であろう)
まぁ、あからさま女装でも意外と悪乗りしてくれる女子もいそう……かも?(自信はない)
少なくともアタシは悪乗りするよ。女子のエスコートがあればまぁ大丈夫っしょー? フフッ。

それが怖ければお風呂ッスね。大浴場に換気窓があるんだけど、そこから隣のビルの屋上が見えるんスよ。
風呂から見えるってことは向こうからも見えるってことで。立入禁止だけどなんとかなったりするんじゃない?
(言いつつ、バッグから小さなメモ帳とペンを取り出し、浴場周囲の見取り図を書いていく。この会話が見咎められただけでも職質モノかもしれない)
……まぁ一番の問題は大浴場の利用者が少ないってとこだけどね~。フフッ。

クリフ > 「オイオイよせよ好きとか言われたら今晩眠れなくなっちゃうだろ!!」
「天使かと思いきや男子を言葉で操る小悪魔だったりとか?」

「女装…よりは風呂だな。だって裸見られるんだぜ!?」
「俺、女の子の裸とか見たら絶対その場で成仏するもんな…お手軽即身成仏だよ」
(見取り図を食い入るように見つめ、全力で脳内シュミレート)
(確かにあのビルの角度からなら女子寮の風呂場を目視することも不可能ではない)
(立ち入り禁止だからとハナから諦めていた己の迂闊さに歯噛みしつつも、与えられた情報に頬の緩みが止まらない)

「利用者が少ないったって1日待ってりゃ収穫ぐらいはあるだろ?」
「だったらそれで十分だ。俺あのビルの屋上で暮らすわ…」

鈴成静佳 > アハハー、好きってのはそこまで深い意味じゃないッスよ。親近感が湧いたというか?
まぁ、何だかんだで「見つかったら犯罪」なこと教えてるんスから、小悪魔といえば小悪魔かもしれないッスねー……捕まっても情報の出どころは黙っててね?
(バツが悪そうに眉をひそめながらも口は微笑む)

ふーむ、イケメンの割に意外と女性慣れしてないんスね。なんかもったいないなー。
(口を尖らせつつ)
くれぐれも、女の子がお風呂にやってきたからってテンション上がって叫んだり跳ねたりしないことッスね。風呂から屋上も見えてるってこと、忘れずに。
(トントン、とメモ帳の建物の上をペンで叩く。立入禁止の屋上はエアコンの室外機などが置かれているだろう。暑いだろうなー……と想像)

……というか、そんなに女の子の裸を見たいんスか。ならアタシが一肌脱いでもいいんスよ?
(真顔で、当然のように言い放つ)
まぁ覗きに美学を感じてるなら無理強いはしないッスけどね~。フフッ。

クリフ > 「そこに関しては心配しなくてもオッケーだ」
「俺はレディに迷惑かかるようなマネはしねーよ」
(あくまで、これは俺がやりたいからやってることさ、と付け加えて悪戯っぽく笑う)

「いやさぁ、俺実家が無茶苦茶厳しくてな?」
「そういう浮ついたこととかぜってーさせてくんなかったんだもんよ」
「だからこの甘いマスクも使う機会が無かったっつーわけよ」
「宝の持ち腐れってやつ。そんで、自由の身になったんだし好きに生きてやらぁ、で今にいt…今何て言った?」
(簡潔に身の上を説明しかけて、静佳の言葉に眉をひそめる)

「お、おいおいガール。大人をからかっちゃいけないよ」
「お前、そんな。それは…アレだろ!!」

(見たい。今すぐにでも見たいという荒れ狂う本能と)
(追い求めていたものはそんなに簡単に手に入ってはいけないんだという男のロマンと)
(女子がそんなことしちゃってやだよこの子は!という良心と)
(コレ何かの罠では????と首を傾げる臆病な自分とが混ざり合った結果)
(ひどく抽象的な発言になってしまった)

鈴成静佳 > フフッ、誰が大人ッスか、青二才君。(いじらしくピンと人差し指を張って指差す)たぶんそんなに歳変わんないでしょ?
ま、さすがにこれは気が早かったッスかね~。とりあえずクリフくんとアタシは一緒にコーヒー飲んだ仲で、友達。
ボチボチ仲良くしていきましょーや。フフッ!

(さすがにこのウブな青年に向けて早まりすぎたかと、ちょっとだけ焦る静佳。とはいえまんざらではないのだ)
(なんせ自分が頻繁に使っている女子寮大浴場の覗き情報を教えているのだから。それは当然、自分の裸を見られても何も気にしないということ)
(もちろん、そこは怪しむ余地もあるであろう。悪魔の誘惑には変わりない)

(ズズ、とコーヒーを啜る)
たしかにねー、こんな歳まで浮ついたことがないってのは寂しい話ッスね。
宝の持ち腐れね、フフッ……(クリフさんの顔を見つめる。まぁ確かに、これを女子から遠ざけておくにはもったいない)
でも、話してる感じだとやっぱり、クリフくんってナンパとか苦手でしょ。覗きとか消極的なことばかりじゃなく、口の方も磨いたほうがいいんじゃない?
とはいえ、このへんはアタシも苦手でアドバイスは無理だけどねー。アタシも勉強中!(コップをテーブルに置き、背を伸ばす)

クリフ > (完全に手玉に取られている、と思った)
(男としてどうにも悔しい…が、現状彼女の認識を改められるような要素もなくて)

「…ったく、エラい天使を引っ掛けちまったと今更思ったよ」
「ま、静佳ちゃんが俺の守護天使なのか、俺を破滅させる小悪魔なのかはこれからってことなのかねぇ」
「出来れば天使のままでいてほしいが…ともかく、よろしく頼むよ」

(やれやれ、とオーバーに肩を竦めて見せる)
(精一杯の余裕のある大人のフリであったが、恐らく彼女の前では無意味であろう)
(それでも、強がるぐらいはしておきたい。だって男の子だもの)

「あー…確かにまぁ、ナンパの成功率は今んとこ一桁だけどよ」
「そんなにダメかぁ?…っつか、静佳ちゃんも口車で引っ掛けたいってのかよ」
(こりゃマジで小悪魔か、と内心ため息をついて―)

「でもま、そこに関しては安心しなよ」
「現に君の口車に乗ってるヤツが此処に一人いるわけだし?」
「静佳ちゃんの口車は十分に人を魅了してるさ」

(勉強させてもらうよ、と苦笑と共に零し)

「さて、そいじゃ俺はそろそろ行こうかね」
「色々準備するもんもあるしな。さっそく今夜から張り込んでやろうじゃねぇの…!」
(先ほどと同じくぴしゃり、と顔を叩き立ち上がる)
(気合いを入れなおしたのは夢のためか)
(それとも自分を惑わす小悪魔のささやきの中、自分を見失わないようにするためか)

「んじゃ、またな静佳ちゃん。結果は追って報告させてもらうわな」

(ひらひらと手を振り、去っていった)

鈴成静佳 > フフッ、ホントに天使なのか、それとも悪魔なのか。自分にはまだよく分かんないッスね。
(実際ちょっとわからなくなってきている)
まぁでも世話焼きなのはマジな話ッスね。ただの暇な保健委員ッスよ。保健委員はみんなの味方!

そうッスねー、ナンパとはちょっと違うかも知れないけど、話術ってのは磨きたいって思ってるよ。
いろんな人と仲良くしたいからねぇ。異邦人、って呼ばれる人たちとも。
(クリフさんが異邦人なのか、外人なのか、それとも色黒エスニックなだけの日本人なのか。静佳には分からないが、あまり重要でもあるまい)
だから、「おこん」っていう先生の「コミュニケーション学」ってのを受け始めてるんスよ。クリフくんも受講してみたらどうッスか?
(メモ帳の紙の端っこに講義名を記し、さらに別の端っこにメールアドレスも記載。静佳のメアドだ。破ってクリフさんに手渡す)

うん、がんばってね、クリフくん!
(席を立つクリフさんを、笑顔で見送る)
じゃあ、今日は早めにお風呂入って換気窓を全開にしとかなくちゃね~。んふふ。報告待ってるッスよ!

ご案内:「学生通り」からクリフさんが去りました。
ご案内:「学生通り」から鈴成静佳さんが去りました。
ご案内:「学生通り」に湖城惣一さんが現れました。
湖城惣一 >  学生通りの喧騒からやや抜けた場所。学生通りの端の端。
そこに設置されたベンチに、一人の男が座り込んでいた。
 夕暮れの橙に染め上げられた肌は、それでもまだやや青さを残している。
ひどく顔色が悪く、大きく息を吐きながら懐から拳大ほどのおにぎりを取り出していた。
 名前を、湖城惣一。風紀・公安の2つの委員会を掛け持ちするという、恐らく非常に稀有な存在である。
 彼は一身上の都合で貧血・飢餓状態に陥りやすい。
そのため時折、こうして顔色を青くしながらもこまめに栄養を補給を補給するのであった。

湖城惣一 >  先日、知人が『おにぎり潰すと案外もっちりしてうまいでござる』的ニュアンスのことを言っていたことを思い出す。
 顎を撫でて思案げに十秒。あの時の彼のおにぎりの潰れ具合を思い出しながら、
「…………」
 潰してみる。
 潰しすぎた。
「…………」
 少しばかり外に飛び出した昆布を見つめながら、ふむ、と息を漏らす。
まあ、味に違いはそうあるまい。そう判断して、口に運ぼうとして、
 ぼろり、と。潰した影響で、おにぎりの三分の一ほどが落下した。
中身の昆布が元気な姿で見えている。

ご案内:「学生通り」に日恵野ビアトリクスさんが現れました。
湖城惣一 >  最近、特に集中力が落ちている。
戦闘時の勘も、奇襲に対する反応も鈍ってはいないものの
少なくとも、平時、争いごと以外はてんで鈍くなっていた。
 地面に落下した三分の一。さすがに最早これを食べるのは問題があるだろう。
手ぬぐいを取り出すとそれに包み、あとで捨てておこうと考える。
 ひとまず、空腹だ。ぐうぐうと鳴り響く腹の虫を抑えねばならなかった。

日恵野ビアトリクス > 近くのコンビニで軽く買い物をして、ふら、とそこに立ち寄った。
どうにもカロリーが足りない生活を送っているのでいろいろと補填を済ませなければならなかった。
脇道のベンチ。青い顔でおにぎりを潰して落とす腹切り侍がいる。

「……、食文化の探求中?」
思わず出てきた言葉がそれ。

湖城惣一 > 「む」
 ちょうど手ぬぐいに包み終わった所で声がかかった。
「ああ……日恵野か」
 明らかに視線は潰れおにぎりに向いている。
確かになんともいえない奇妙な状態に見えるだろう。
ふむ、と三秒思案して、
「俺の知人が、握り飯を潰すと案外美味いといっていてだな。
……しかし、残念ながらこの有り様だ」
 三分の一がかけて、既に中身がチラ見えしているおにぎりを軽く掲げ。
「お前は買い物か?」
 恐らく手に提げているであろう荷物に視線を向けながら、ひとまずおにぎりにかじりついた。
 腹の虫が鳴っている。

日恵野ビアトリクス > 「……ほんとなんですかそれ」
潰れて、ついでに落とした様はお世辞にも美味しそうには見えない。

「ええまあ、行き掛けに少し。……」
普段のかばんとは別に手に下げているコンビニのビニール袋。
別に物欲しそうな目で見られたわけでもないだろうが、手を突っ込む。
そして中身をひとつ取り出し、湖城に向けて差し出す。
チョコレート味のスナックバー。甘ったるい糖質と脂質の塊の食品。
「……よかったらひとつどうですか」
腹を出して虫を鳴らしておにぎりを潰して落としているその様子は、
日恵野の目に余る悲壮さを演出していた。

湖城惣一 >  咀嚼。湖城は咀嚼中は喋らないし、咀嚼は長い。
すまないとばかりに軽くそのまま片手を掲げて、ゆっくりと飲み込むと。
「潰し方の加減を間違えたのかもしれん」
 疑うようなビアトリクスに、大真面目に答えた。あまり好みではなかったようだ。
「……む」
 すると、差し出されたのはスナックバー。
正直に言って、今の消耗具合を鑑みると手持ちの食事では心もとなかった。
「かたじけない」
 受け取った。ひとまずおにぎりとスナックバーを見比べる。
吸収力はスナックバーのほうが上だが――どちらを先に食べるべきか。
 少し逡巡してから、先にスナックバーを片付けることに決める。
潰れたおにぎりを軽く包んでから、包装紙を開ける。
「……いや。実に助かった」
 湖城という男は、相手の目を見て喋るのが癖であった。
故、ビアトリクスに向かっても、真っ直ぐに見据えて礼を言う。

日恵野ビアトリクス > 「ど、どうも……」
湖城のような“オーラ”を持つ人間にまっすぐに見つめられるのは苦手で、
礼を言われれば思わず視線を逸らす。
ベンチに近づき、隣に座る――と見せかけて、
その周りで円を描くように足を運ぶ。
ビニール袋からペットボトルのビタミンC飲料を取り出し、蓋を回す。
やや怪訝な表情で、横目に、湖城を観察する。
怪しい腹出しルックで、あからさまな飢餓状態。
いや、腹出しなのは確か彼の異能に関わる話だったし、
腹の虫が鳴っている段階ならまだ深刻な飢餓ではないのだろうが。

「……貧乏?」
なんですか?

湖城惣一 >  視線を逸らされれば、あまり見つめられるのが得意ではないのかと判断。
相手に意思を伝える時以外は目を見ないほうがいいだろう、と思考する。
 スナックバーにかじりついて、ゆっくりと咀嚼しながら日恵野の動きを見た。
 回っている。そしてこちらを観察している。
何か不審な点があったか、と己の身体に一瞬視線を移してから、
上からかかる問い。
 貧乏?なんですか?
「いや」
「金ならあるのだが……こうして腹を空かせているのも俺の力の関係だ」
 とん、と空いた手で腹の傷を叩くと。
「"供犠"の力を維持するため、俺は毎日血を捧げねばならん。その量がなかなかのものでな。
それを補うために大量に食事を摂っているのだが……どうにも足らんらしい」

日恵野ビアトリクス > ずいぶんと言葉を選ばなさすぎる問いになってしまったが、
この男であれば持って回った言い回しを使う必要はないだろうと判断した。
もっとも、普段からあまり言葉など選んでいないが。

「ああ……消費が激しいんですね」
得心する。それだけカロリーを費やすということは、
普通の食事で補おうとすれば食費はもちろん時間もかかるだろう。
大変だな、とぼんやり思う。

……“供犠”という言葉で、何か思い出したように眉を動かす。

「魔術の鍛錬もおなかがすくんですよ。
 ぼくは見習い魔術師なんですけど」

と言って、ビニール袋の中身を少し見せる。スナックバー。ゼリー飲料。
魔力の消耗は体力のそれも伴う。
もちろんスナックバーやゼリー飲料で魔力を補填することはできないが、
体力と空腹は幾ばくか補える。

「……“供犠”って、その……おなかがすくだけなんですか?」

目を伏せての問い。「いや、だけ、っていうのもアレなんですが」と付け足す。
身体の悪影響はそれ以外にないのだろうか?

湖城惣一 >  遠慮のない問いだろうと、もちろん男の表情が変わることはない。
淡々と無表情に答えるだけだ。
 こちらを想うそれに気づくこともなく、ただ咀嚼を続ける。
 相手のこちらに共感めいた言葉を投げる日恵野に反応し、
その袋の中に目を向けた。
 魔術。その代償は様々で、どうやら目の前の彼は
ある程度体力自体を消耗することも代償らしい。
「君も大変だな」
 飲み込んでから伝える言葉は、本人にとっては大真面目だ。
何故なら男は自分の危機に頓着した試しがない。
自分の苦労と、他人の苦労は別ということだ。
 更に続く日恵野の問いには、ふむ、と一度唸った。
 別段隠すつもりはない。
「俺の得意とする術法は二つあってな。ひとつがこれだ」
 言って指先を振ると、湖城の背に術式が明滅する。
古い筆致で『死に果てるその瞬間まで、十全に戦えることを約束する』と書かれたものだ。
 つまりこの術を展開している限り、血を失おうが毒を受けようが、
どんなものであれ彼の動きを妨げることはないのだと、説明する。
「これが、俺が血を捧げる意味だ。本題はもうひとつだな」

日恵野ビアトリクス > ベンチの背もたれの端に手をついて、ビタミンC飲料のペットボトルに口をつける。
湖城の言葉と、背に浮かんだ術式にふむふむ、と相槌を打つ。
「戦闘におけるデメリットを別の形に振り分けている、みたいな感じかな」
と解釈する。
ダメージによる戦闘力や士気の低下は時として致命的になる、
ということぐらいは経験浅いビアトリクスでも知っている。
それを予防できるなら、日常の空腹状態と釣り合いがとれていると言えるだろう。

「本題――もうひとつは……
 “剣技の深淵に沈む”こと?」
大浴場での会話を思い出す。
あまり思い出したくない記憶もついでに浮上してきたが、それは飲み込んだ。

湖城惣一 > 「ああ。おおよそ的を射ている。二つとも」
 解釈、そして推測。その二つ、両方とも。
相手の疑問符に合わせて、もう一度己の腹をなぞった。
「"供犠"とはこれだ。俺は真に剣を振るう時腹を切る」
 語調は変わらない。まるで、潰れおにぎりを試してみたという報告と変わらぬ素振り。
「俺は命を捧げることによって、一時、そうだな。高い集中力を得る。
トランス状態、と言い換えてもいい。この傷を塞ぐまでの間、な」
 湖城の腹に残る美しい真一文字。それは明らかに深く残っている。
まさに、切腹というにふさわしいその傷跡。掻っ捌けばどれほどの傷となろうか。
「俺の命は奉納され、万全ならば十五分といったところか。
血を失い、死に果てるまでの十五分間。俺の意識は"神域"を目指すことができる」
 事も無げに淡々と。己の言っている意味が伝わっているだろうか、という確認も含めて。
もう一度、日恵野の瞳に目を向ける。

日恵野ビアトリクス > 息を呑む。今度は目を逸しはしない。
「十五分……」
身体に悪影響、どころの話ではない。
ビアトリクスの感覚で言えば、あまりに短い時間だ。
平然と言い放つその様子は、それだけあれば充分だ、という自負か。
それとも、自らの命など大事にするほどのものでもない、という軽視か。
あるいはその両方か。
なぜそうまでして? と思わず訊きかけて、それが無意味であることを悟る。
大浴場でも試みた問いだ。一度訊いたとおりの答えが返ってくるだろう。

力を失ったように、ベンチ――湖城の隣にぺたんと腰を下ろす。

「ぼくの……友人にも、似たような“供犠”の業を用いるものがいます。
 ……けれど、きっとあなたほどの覚悟はないだろうし、
 あなたほどには強くない……」

俯いて、ぼそぼそと口にする。
その相貌を見れば、恐怖が滲んでいるのが見えるだろう。
相談、というには言葉の足りない――ただの恐れの発露。
そのまま押し黙ってしまう。

湖城惣一 > 「俺には覚悟なんてない」
 そう言って、日恵野から受け取った食べかけのスナックバーを掲げてみせる。
「君が当然のようにこれを差し出してくれたように。
俺は当然のように剣の深奥を目指す」
 つぶやくように、あるいは絞りだすように。
男は語る。無表情に、淡々と。だが、言い方を間違えたくはないと。
「覚悟があるのではなく、覚悟に足るほどに大切なものがないのかもしれん」
 あの時はただ、日恵野の気分を害しただけで終わってしまったが。
できることならば、少しは彼の気持ちに沿ったものにしたい。
「君の友人には、きっと大事なものがあるのだろう。
命を失いたくないと思えるだけの、その理由が」
 貰ったスナックバーを己の口元へ持っていく。
「君の言う強さが、暴力であるというのなら、
恐らく俺は君より高い位置に居るのだろう。
だがそうでないのなら、俺はただの異常者にすぎない」
 そう言って。スナックバーをかじった。

日恵野ビアトリクス > 「覚悟がない……」
オウム返しに繰り返す。言葉に謙遜や自虐の気配はない。
もしそうであるなら、ひどく寂しい生き方のように見える。
それを口にするのはしかし、侮辱に感じられて憚られた。

この男はきっと完成してしまっているのだ、と思う。
それが彼にとって良いことなのか、呪うべきことなのか、
ビアトリクスにはわかるはずもなかった。

“強さ”。
確か別の誰かとも、その話をした。
その時自分なりに見出した答えは、なんだったろうか。

「……たいせつな、ものが、あるから」

荷物を地面に手放して、握りしめた拳は膝の上に。
覚悟のあるなしではなかった。
“友人”が、納得していようが、いまいが……
いずれにせよ、万が一にも命を落とすことがあれば、それは――

「……こんなに、苦しい」

呻くように言葉を絞り出して、両手で頭を抱えた。

湖城惣一 > 「…………」
 日恵野の言葉が耳に届く。
 明らかに葛藤する彼の姿を目にする。
 俺は、彼にどういった言葉を向けることができるだろうか。
そんなことをただ思う。
「きっと、その苦しみはずっと抱えていかなければならないものなのだろう」
 自分にはそれがない。友人を得た今でさえ、男にとっては葛藤などほとんどない。
「だが、きっとそれは君の心に確かなものがあるからだ」
 生まれてからずっと、湖城惣一という男は他者への感心が薄かった。
 生まれてからずっと、湖城惣一という男は自身への感心が薄かった。
 だからこそ分かることもある。苦しむということは執着するということだ。
だがそれは決して悪ではない。執着するということは、生きることに繋がる。
時折その執着のバランスが崩れ、命を絶ち、あるいは荒ぶる御霊となる場合もあるが。
ただそれが悪だとは男は判断することができなかった。
「君も、その友人も。正しいに違いない。俺は少なくとも、そう思う」

日恵野ビアトリクス > 「…………」
十数年果てないと思える砂漠を歩んできた。蜃気楼に苛まれてきた。
幻がようやく手に触れる位置で確かな現実へと変わり、
しかしそれは新たな苦しみを産んだ。
あまりにも恐ろしい。
ほんの微かな可能性でも、その存在が危ぶまれ、失われてしまうことが。

しばらくビアトリクスの様子を眺めているなら……
そのうち頭を抱えることをやめ、ゆっくりと立ち上がるだろう。
身を背け、湖城へと表情を見せることはない。

「あ……」

喘ぐような、言葉とならない声が漏れる。
おそらくは湖城の言葉への、何がしかの返答。
それ以上何も告げることなく、
見えない重苦に逆らおうとするような遅い足取りで、その場を立ち去っていった。

ご案内:「学生通り」から日恵野ビアトリクスさんが去りました。
湖城惣一 > 「…………」
 その背は。己が生涯で見たこともないような背だった。
あまりにも重い足取りは、どのような道に続いているのか。
 出会う度に、彼は少しずつ追い込まれていっているようにも見える。
 ――それがいかなる道でも、どこかの活路に繋がるはずなのだが。
彼がその道を往くかは分からない。
 スナックバーを食べ終えて、その包装紙をじっと見つめる。
「…………ああ、そうだな」
 少なくとも、恩義は受けた。いずれ彼が危機に陥り。
それがただの剣で解決できるというのならば。
きっと湖城惣一は、何の躊躇もなく腹を切るだろう。
 日恵野ビアトリクスという少年がその生を肯定できるのならば。
命を削るのに十二分な理由と言えた。

ご案内:「学生通り」から湖城惣一さんが去りました。