2015/08/26 のログ
東雲七生 > 「いや、何でもねーよ!
 俺の好きな映画ぁ?……うーん、そうだな。あったら良いんだけど。」

そもそも特撮ヒーローなんてトトの興味を引けるだろうか。
そんな考えも浮かぶが、自分が好きな物だと言えばこの友人なら何でも気に入りそうな気もする。

「そっか、いつか……確かにな。」

それは確かに、怖い気がする。
時間の経過だけではない、
不慮の事故等で四肢に深刻なダメージを負えば、それだけで移動は難しくなるのだから。
自由に動けない、それがどれだけの事か今の七生では想像できない。

「幾ら人の姿してたからって、お前と同じなわけ無いだろ!
 少なくともお前の方が──」

──可愛い。

自然とそんな事を口走りかけて慌てて口を閉じる。
暗い個室に二人きりという環境からか、どうにも思考が変な方に傾きがちだ。
昨日演習場で話してたのも関係があるかもしれない。

「──って、ほら。変なこと気にしてるからだぞ?」

悲鳴を聞いて我に返る。
テーブルの上に置いてあった布巾を手に取ると、トトを見た。

トト > 「なんでもいいよ?嫌い、じゃなければ、見れば好きになれるかもしれないしね。」
自分の知識を広げる、素晴らしいことじゃないか、と笑って

「うん、いつか、いつか… まぁ、考えてもしょうがないからね、確か… っっ!」
ふぅ、と息をついたところに、七生の声に少し吃驚したように目をぱちくりさせて

「でも……… ううん、ありがとう。」
何かを続けようとするが、言葉を切って、お礼を言う、ジュースを零したのは、ほんの少し、トトが動揺した性でもあるかもしれない

「… うぅ、だってさ、一応そのために勉強しにきたわけだし… あ、ソファ、少し汚しちゃった…。」
きゅ、っとハーフパンツをまくって、ぺたぺたと自分でもハンカチでソファや自分の足を拭いていて
ただでさえ短いハーフパンツを引き上げているせいで、ほっそりとしたふとももまで顕になっていて
ぺたぺたと濡れたそこをハンカチで拭きながら、罰が悪そうに七生を見てくる

「うぇ、ハンカチもびしょびしょだよ、あ、布巾あったんだ!七生、ちょっとお願いしてもいいかい?」
と布巾を手にとった七生を見て、助けが入ったと思い笑顔を見せる

東雲七生 > 「だよな。おっけー、それじゃあそのうちにな。」

確かにその通りだ。自らの見識を広めるのは、七生も素晴らしいと思う。

「少なくとも、トトはトトだろ。
 俺の──友達だ。」

まだ、と心の中で付け足して。
今後それがどう変わるかは分からないが、まだ友達なのだ。

「……っ。
 まったくもう、少しは落ち着いて行動しろよな?
 足以外は特に被ってないのか──は?」

嫌でも視界に入ってくるトトの脚に頬を赤らめながらも、
なるべく動揺を悟られない様に普段通りを努める。
片手に持った布巾でソファやテーブルを拭こうとしたがそれらはトト自身が既に拭いており。

……では自分は一体何をお願いされたのだろう、と怪訝そうな顔になった。

「いやまあ、良いけどさ。
 どこ拭けばいいんだよ。」

トト > 「… そうだね、僕は、僕だ、それは、僕が一番よく知っていることだものね… 。」
七生のその言葉を繰り返す、友達、という言い方には、くすくすと笑いをこぼしたりして

「ここだよここ、裏のほう、引っ掛ちゃってさ。」
とー、と片足を伸ばすと、確かに肘の裏やふとももにかけてびっちょりとしていて
濡れたハーフパンツから染みたぶんもあわせて、さっさと拭いたほうがよさそうに見える
まぁ、炭酸飲料だからして、ほっておけばすぐにベトベトし始めるだろう

東雲七生 > 「……そこは、自分で、拭けるんじゃないか……?」

伸ばされた足に更に頬を赤らめながらも、渋々と言った様子で布巾をあてて拭き取り始める。
間近で見るのを躊躇われる様な白い肌と、細く長い脚はどう見ても異性のそれで。
端的に言ってしまえば、何だか非常に落ち着かない。

「と、とにかくこれに懲りたらもう少し大人しくなれよ?」

まったくもう、と溜息混じりに、そして恥ずかしさを隠す様にそう告げる。

トト > 「むー… 分かった、努力する… 。」
少ししゅーんとしつつ、拭いてもらうと んっ、と小さく声を漏らして

「えへへ、ありがと七生… って、なんだろ、今日謝ったりお礼いってばっかりな気がする… 可笑しいね、僕。」
くすくす、とちょっと恥ずかしそうに笑う、頬が少し赤らんでいるのが、七生にも分かって

トト > 「そ、そうだ、ここさ、漫画もたくさん置いてあるんだ、どうせまだ時間あるんだし、帰るまでなんか読んでいこうよ!」
お互いに流れる、そんな恥ずかしさを振り払うようにそう提案する

片方の映画が中盤前に終わったせいで、退出予定時間よりも時間の余裕は出来ていた

東雲七生 > 「変な声を出すなっ」

びくっと肩を震わせてから、取り繕う様に注意する。
ただでさえ妙な気持になっているというのに、それを煽られては堪らない。
一度大きく深呼吸をして気持ちを落ち着けようとするが、体勢上吐息がトトの脚に掛かるかもしれない。

「別にお前に言われて嫌な言葉なんかねーよ。
 礼を言われる様な事じゃないとは思うけどさ、だからって嫌なわけでもねえから。」

やっぱり変な気持ちだ。
それを自覚すると少し荒く拭き上げて、確認もそこそこに切り上げる。

「まだ時間もあるか。そうだな、マンガ読もうマンガ!」

何度も首を振って肯くと、ついでに飲み物を取りに行こうと空のコップを手に取った。

トト > 「変な声って?  … ふぁっ。」
不思議そうに首をかしげた時に丁度吐息がかかって、それこそ正しく【変な声】が小さく漏れて、身体を小さく震わせる
それで気づいたのか、そうではないかは分からないが、今度は流石に、ちょっと口元を抑えたようだ

「ん、うん… ありがと、じゃあ、一緒に漫画読もっ、僕もまだまだ飲み足りないしね。」
そういえば漫画の好みはまだ聞いたことなかったなぁ、丁度いいや、と続けながら、トトも空のコップを持って

「じゃあいこうか七生、帰りまで何本読めるかなぁ。」
とか呟きながら、一緒に立ち上がろうとする

東雲七生 > 「……~っ!」

分かっててやってるならともかく、明らかに無自覚だっただろう。
しかし今のでどういう意味か伝わったようだし、ひとまず気持ちをぐっと抑えてやり過ごす。

「うん、行こう。
 んまあ、読めても精々2~3冊じゃないか?」

トトと同時に立ち上がり、連れ立って部屋を出ようとする。
そのまま談笑しながら漫画と飲み物を取って来てからこの部屋で時間が来るまで気楽に過ごすのだろう。

トト > 「斜め読みならもうちょっといけるはず…!」
何故か情熱を燃やしながら後にするが、結局飲み物の調達等に手間取って、七生の言うとおり二、三冊に留まったり…

それでも、七生と一緒に並んで過ごす時間は、とても楽しいものとなっただろう、それだけは間違いがないことだ

ご案内:「学生通り」からトトさんが去りました。
ご案内:「学生通り」から東雲七生さんが去りました。
ご案内:「学生通り」に倉光はたたさんが現れました。
倉光はたた > ミーンミンミンミンミン。

八月が終わりに近づいているが、まだまだセミの鳴き声はうるさい。
はたたはサンダルに『瞬間排撃』Tシャツといういつもの出で立ちでほっつき歩いていた。
今日も今日とて探検である。まだまだ知らない事は多い。
「みんみんみん」
セミの鳴き声を口で真似る。目下気になるものといえば、それである。

「……!」
表通りに立ち並ぶ街路樹のひとつに目を向ける。
どうやらはたたの慧眼は音源を見つけたようだった。
「みん……」
音源――セミへと近づくべく、はしっ、と樹にしがみつく。
まさしくその姿はセミだった。

「……」
ずり落ちた。

ご案内:「学生通り」に奥野晴明 銀貨さんが現れました。
奥野晴明 銀貨 > はたたのしがみついた樹、その陰から一人の少年がすっと現れる。
今までそんな気配すらなかったのに、まるで樹から湧いて出たように。
彼女がずり落ちたのを見て、いやに整った笑みで見下ろして笑う。

「こんにちは、常世学園3年の倉光はたた、さんでいいのかな?
 それとも今はもう違う『なにか』なのかな?」

のんびりとあくまで子供に接するような口調でそう語りかける。

倉光はたた > 「みん……!」
突如として出現した見知らぬ少年に、獣が毛を逆立てるがごとく翼状突起を広げる。
どう見てもけたたましい音の発生源ではない。
警戒した様子でまじまじと見返すが、自分のことを問われていることを察し、
へろへろと立ち上がっては自分を指差す。がくがくと頭を縦に振る。

「はたた……」

首をかしげる。

「はたた……?」

奥野晴明 銀貨 > みんみんうなるはたたの様子にそっと自分の両手を前に出して何かを包むように手を合わせる。
上にかぶせた手をどけるとそこには蝉が一匹、現れてたちまちけたたましく喚きだす。
そっとそれを樹木に引っ掛ける。もう一匹蝉を出すとまたひっかけた。
二匹は仲良く一生懸命鳴き出した。

「ずいぶんと姿かたちが変わってしまっていたんですね。
 これでは捜索願いが出されていてもなかなか見つからないわけです。

 以前のことは覚えていますか?生きていたころのこと、
 たとえばご家族のこと。あなたの死体がなくなって葬儀もできなくて悲しんでいる方々がいらっしゃるのです」

横でなきわめく蝉も聞こえていないような平坦な態度で
自身のことさえおぼつかないはたたが、はたた本人であると決めつけるような態度で再度尋ねる。

倉光はたた > 「…………」
狐につままれたような間抜けな表情で、少年の手とそこから出てきた
みんみん言う生き物と視線を往復させた。

「いきて……
 かぞく……
 そうぎ……」

はたたの知らない――あるいは、考えたくない単語が急に複数現れた。

「ない……
 しらない……
 なにもない……」

目を閉じて、ぶんぶん、と苦しげに首を横に振る。

銀貨の言うとおり、はたたの家族と病院関係者は消えた倉光はたたの遺体を捜索するために駈けずりまわっていた。
しかし、いまだそれを見つけられては居ない。
遺体は当初何者かによって持ち去られたかと思われていたが、
誰かの立ち入った形跡や魔術的な痕跡が存在しないことから、
『実は生きていて、自分の足でどこかへ行ったのではないか』
――そんな疑いが、関係者の間でささやかれていた頃だった。

奥野晴明 銀貨 > 「そう」

苦しげに首を振るはたたにそっとそれだけ言うと自分の白い指を彼女のほほに伸ばす。
哀れに思ってか、あるいは動物を落ち着かせるような態度で触れようとする。

遺体の捜索は本来風紀委員などの仕事である。
そもこれが何らかの犯行、たとえば呪術的に入用の死体を悪意ある何者かが盗み出したとなれば刑事課の担当事件になる。
が、調べた結果ではどうもそうではないこと、自分から逃げ出した様子があることなどから単なる事件ではないということ。

本来なら銀貨には関係のない出来事である、が
もしこれが『死体が復活して自分の意志で歩き回っている』という
常世学園における”規則を逸脱する行為”であったのなら……。
生徒会としては不真面目な自分がそれを確かめるのはきっと興味があったからだ。
一度死んでしまった人間が今再びこの世にあらわれてしまったこと、それはどんなものなのか。

「ご家族はみな心配しています。はたたさんがいなくなってしまったことを悲しんでいます。
 一度病院へ戻ってご家族に会い、検査を受けませんか?
 あなたの身に何が起こったのか、それを知りたくはありませんか。
 それともはたたさんは、帰りたくはありませんか?」

倉光はたた > 「…………」

一度、首を振るのをやめ、静止する。

女子寮の食堂で――
一度、記憶喪失なのではないか、と訊かれたことがある。
その時は深く問いただされることはなかったが……
“はたた”を知る人間に、容赦なく踏み込まれたのはこれが初めてだ。

「はたた、の、かぞく……」

俯いたままつぶやく。
広がった翼状突起が、めまぐるしく色を変えながら発光し始めた。

 ・・・
「わたし、には……
 かぞく、は、いない」

「わたし、は――“はたた”、には、ならない」

姿勢を動かさず、じっと銀貨に刺すような視線を向ける。
翼状突起と指先から黄金の電光がチリ……と漏れた。

奥野晴明 銀貨 > チリリと刺すような視線と電光、彼女が警戒をあらわにしていることを知ればそっと手を下げた。
無理に触れようとは思わない。


「なるほど、もうあなたは以前のはたたさんと一緒の存在ではない。
 ”倉光はたた”という名前を借りた別の何か、なのでしょうか」

どのような経緯で彼女が変質してしまったかについては非常に興味深い。
が、本人が会いたくない、戻りたくないというのならば無理に連れ戻すこともないだろう。
ただ、彼女がこのまま無秩序に存在し続けるというのも困り者だ。
ポケットから端末を取り出し、片手で操作する。
呼び出すのは風紀委員の情報、特にここ最近はたたとよく接触していた――

「平岡ユキヱさん、ですか。気持ちの良い風紀委員の女性と聞き及んでいます。
 ですが本来なら、あなたが死んでいることを確認した上で上に報告なりなんなりをするべきだったのでしょうが……

 このまま”倉光はたた”が失踪しつづけることによって匿っていた平岡さんにも迷惑がかかるかもしれません」

脅しではない、事実として淡々と述べるにとどめる。
実際のところこの不手際でどの程度おとがめがあるのかはわからないが、あまりよい待遇が得られることもないだろう。

倉光はたた > 「ユキ、ヱ……」
慄くように、呻くようにその人物の名を口にした。

「ユキヱ、に、めいわく……」

両手で顔を覆う。
気づいていなかったわけではない。
はたたは――賢いのだから。

じぶんの知らない“はたた”の昔にふれることは、こわい。
そうすることで、じぶんが、ほんとうに“はたた”になってしまう、そんな気がするから。
じぶんは、“くらみつはたた”ではないというのに。
けれど、ほかにどう名乗ればいいのかも、わからない。

「わたし、は……だれ……ッ!!」

行き場の無い怒り、いらだち。
頭を抱え、吐き出すような言葉とともに、背の翼状突起に蓄えられてた電撃が
半径数メートルに渡って無秩序に発散された。

奥野晴明 銀貨 > 「いけない」

さっと銀貨の顔から微笑が消え、無表情になる。
混乱といら立ちにさいなまれたはたたが、その背の翼状突起を広げた瞬間に銀貨は動いていた。
袖口から滑り落ちるように握られた名刺程度の大きさの銀板をはたたの上に投げつける。
その銀板には幾重にも複雑な魔術的刻印が施されていた。
電撃が発生すると同時にその魔術刻印が起動し、避雷針のように電撃を吸い込む。
なるべく被害を最小限に抑えるための措置だ。

はたたの電撃はもちろん銀貨が立っていた場所も薙ぎ払う。
ばちばちと放たれた電撃が銀貨にあたる瞬間、彼の体がぼろぼろと何かが崩れるように形を失った。
落ちたのは先ほど出したのと同じ蝉だ。人の形を作っていた蝉の群れが焼け焦げ灰になってアスファルトに散らばる。

だがそこに銀貨の姿はない。

「落ち着いて、怖がらないで」

そっとはたたの後ろから、その電撃をまとう翼状突起までも包み込むように銀貨の腕が伸ばされる。
彼女のまとう電撃が彼の腕や肌を焼こうとも、動じる様子はない。

倉光はたた > 「ぅぅぅぅ……あああァ!!」
叫びとともに、放電は数秒にわたって続いた。

「……っ!」
銀貨の腕に包まれて、びくりとはたたの身体が震える。
彼の体温が伝わり――雷光は消えた。
抱きすくめられたからか、発散して落ち着いたからか――戦意を失ったように翼は垂れた。
叫びと派手な電光が引き寄せたのか、人々が徐々に周囲に集まり始める。

「わたしはだれ……」
先ほどの問いを繰り返す。

「おまえはだれ……わたしは、どうすればいいの?」
そのままの体勢で、乞うような言葉を背後の銀貨に投げかける。
かつてよりは、はるかになめらかな様子で。

奥野晴明 銀貨 > ばちばちと彼女が思いのたけをぶつけるように放つ放電をそれでも受け止める。
制服が破け、焦げ、髪が燃えようと、肌が焼け焦げようとためらうことなく。
いつかの自分がそこにいた気がした。そのとき、そうしてほしかったことを今相手にしてあげたかったからそうした。

彼女がだらりと翼を垂れて電撃を収めるとそのままの姿勢で彼女を強く抱きすくめる。

「僕は奥野晴明 銀貨。かつてあなたのように自分が何者でこの力がなんであるかを知らなかったもの。

 自分自身を知りたい?」

人が集まってくるのを横目でちらりと確認すると、おもむろにはたたを横抱きに抱き上げようとする。
人目を避けて、どこか落ち着ける場所に移動したほうがいいだろう。彼女が焦がした道路や樹木は隠しようがなかったが、せめて人から奇異の目で見られることを避けたい。

倉光はたた > 「…………」
銀貨の焦げた肌や服を目の当たりにして、
強烈な電撃を浴びせたすずめが二度と起きあがらなかったことを思い出す。

「ぎんか……」
うつろな、どこか悲しげともとれる表情で、彼の名を呼んだ。

「…………しりたい」
はっきりとそう肯定する。
不自由な肉体に収められて、何もしらないまま、まもられる、
そのままでは、いけなかった。
抱き上げられるまま、銀貨に身を委ねるだろう。

奥野晴明 銀貨 > 細い見た目のどこに女性を抱く力があるのか、はた目にはわからないが
存外にしっかりとした足取りで不安定さもなく、はたたを連れて歩く。

人目を避け、細い路地を抜けて人通りの少ない建物と建物の間にぽつんと存在する小さな公園まで歩く。
がらんとしたそこにくたびれた遊具が点在し、脇にはペンキの禿げたベンチが申し訳程度に存在していた。

公園に入り、ベンチへゆっくりとはたたを下す。
自分は座ることなく彼女の前に膝をついて、その両手を握ると下から覗き込む。
紫の目がじっとはたたの黄金色の瞳を見つめた。

「今すぐ知りたい?それとも、平岡さんに一言断ってからにする?
 すぐにでも、というのならこのまま病院に付き添います。
 でもそれでは平岡さんが心配するかもしれないから、連絡をいれておいたほうがいいとは思う」

はたたの手の甲を自分の指で撫でながら、どうしたいかその意思を確かめる。

倉光はたた > 「……」
ベンチに座らされたまま、うなだれて考える。
この少年がいれば、病院に向かってもそう困ったことにはならないだろう、と思う。
今すぐ知りたい、というのが彼女の本音ではあったが、
ユキヱにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかなかった。

迷惑をかける、ということがどういうことなのかは
実のところ具体的にはわかっていなかったが、
目の前の少年の言葉には従っておいたほうがよさそうだ、と判断した。

「れんらく……する」

ぼそりと呟くように返事。
一言断ってから、と言っても連絡手段を持っていないため、
そこは銀貨に頼る形になるだろう。

奥野晴明 銀貨 > 彼女が連絡をすると返事をすれば、先ほどいじっていた端末を取り出した。
風紀委員への宛て先ではあるが、彼女個人への連絡として用件を書いておく。

倉光はたたの件を生徒会執行役員である奥野晴明 銀貨が一時預かる旨。
彼女の変貌、死体からの蘇生原因、能力などの詳しい調査について
常世保健病院にて調べるために付き添って搬送する件。
面会は平岡ユキヱに限って自由にできるようにしておくこと。
この件に関しての処罰などに自分は関わらないこと、風紀委員上層部の意向に任せるなど。

そういったもろもろの内容をまとめてメールで送っておく。
何事もなければユキヱ宛てに無事届くだろう。
作業を済ませると端末をしまった。はたたの電撃で壊れていなかったことは幸いだ。

「迷惑をかける、とは少し違うけれど」

幼子に語りかけるように優しくはたたに言い聞かせる。

「今までそこにあったものやひとが、急にいなくなってしまうと人は悲しくなるんだよ。
 こころにぽっかり、穴が開いたような、すーすーとした寂しさ。

 ”倉光はたた”の家族の人たちも彼女がいなくなったことでそれを感じた。
 そして今黙って平岡さんの前から去ろうとしたら、もしかしたら彼女もそれを感じるのかもしれない。

 だから、急にいなくなってはいけない。いなくなること、存在がなくなること、虚無。
 そこにあったものが失われること、それはとても寂しいことだから」

はたたの目の前に先ほどと同じように握った掌を差し出す。
そこには先ほどの電撃を浴びて焼け焦げた蝉が握られていた。
さきほどまでそこにあったものが失われてしまった、跡。

倉光はたた > 連絡を行う銀貨のようすをじっと顔を寄せて覗きこむ。

「…………」

そして、黙したまま、掌のセミの亡骸を注視した。

ユキヱが病院着姿で現れたことを思い出す。
はたたがかつてまとっていた服と同じもの。
死んだわけではなかったらしい。
死ぬということはふたたび起き上がれないということだ。
もしユキヱがおきあがらなくなってしまったら、
じぶんはどうなってしまうのだろう。

自分が黒黒とした闇の洞へとふいに落とされてしまったような気がした。
けれどそれはきっと気のせいで、
自分はずっとくらやみにいたのだ。

「……」

ちゃんと、ユキヱにもおしえなくてはいけない。
じぶんの口から。
じぶんじしんのことを。

奥野晴明 銀貨 > 掌の蝉をまたそっと握るとさらさらとその指の隙間から木炭のような粉が落ちる。
風に吹かれて消えていく蝉だったもの。そうして銀貨の掌には何も残らない。

その手とは反対の手をはたたへと差し出す。

「それじゃあ行きましょうか」

散歩に誘うような軽い口調で、またいつものように無機質めいた微笑を張り付けて。
彼女を常世保健病院へと案内する。
彼女の身柄を、安全を自分が保証しなくてはならない。
悪いような扱いはもちろんさせないつもりだ。
ただ、これまでの”倉光はたた”という殻を脱ぎ捨ててまた別の何かに羽化していくことは
この少女にとって大変な道のりになるということは想像に難くない。

できる限りの力添えはするつもりだ。もっともそれも終わってしまえばまたただの傍観者に戻るのだろうが。

倉光はたた > 「…………ん」

顔を上げる、立ち上がる。銀貨の手を取る。
まっすぐに前を向いて、しっかりとした、人間らしい足取りで、
銀貨とともに、病院へと向かう――

奥野晴明 銀貨 > 彼女の手をうやうやしく握るとそのまま公園を連れ立って出てゆく。
後には焦げ臭いにおいと、イオンのつんとしたようなにおい。
はたたのしっかりとした足取りだけが点々と地面に残っていた。

ご案内:「学生通り」から奥野晴明 銀貨さんが去りました。
ご案内:「学生通り」から倉光はたたさんが去りました。