2015/09/08 のログ
■東雲七生 > お土産、と言ってはみたものの。
何を買って帰れば喜んで貰えるのか、七生はいまいち解りあぐねていた。
以前異邦人街の商店街で装飾品を買った時も、
買う時は相手の事を考えて選んではみたのだが、いざ渡すという時になって本当に喜んで貰えるのか心配になってしまう。
その所為で未だに装飾品は鞄の中にしまったままだった。
これは今居候している家の主だけでなく、誰に対しても同様で。
ようするに東雲七生は、人にプレゼントを渡すという事がとても苦手なのである。
■東雲七生 > 「んんー……そもそもどんなものが好きかってところから、だな。」
よく考えてみれば、友人達の嗜好について殆ど知らない事に気が付いた。
何度か顔を合せていても、物の好みについてはほとんど話題にした事が無かったように思える。
「……盲点だったなあ。」
普段自分の好みというものを気にしていなかった所為か、自然と相手の好みに関しても触れないでしまうらしい。
強いて言えば、トトが炭酸飲料好き、くらいにしか判らない。
思わず失笑しながら、七生は足を止めた。
そんなことで相手を理解しようとしていたなんて思い上がりも甚だしい。
ご案内:「学生通り」に朝宮 小春さんが現れました。
■東雲七生 > 「んんー、まあ凹んでもしょうがないし、これから知ってけば良いとして。」
気を取り直して今後の目標として据える。
まず最初は居候先の家主、深雪の好みから知っていくべきだろう。
何せ毎日顔を合せているのだから、知っておいて損は無いはずだ。
「んー、牛と、豚と、鶏と……どれが好きかなあ。」
そこで食べ物の嗜好を訊こうと考える辺り、
彼は根本的に女心が理解できないのかもしれない。
■朝宮 小春 > そろそろちゃんと料理をする、ということ。
それは教師 朝宮小春において、逼迫の課題であった。
とはいえ、とはいえ。
実際にスーパーに出向いて食品を見ると、そこはそれ。
思ったより量が多くて、思ったよりも期限が短いものだ。
彼女は基本的に身体も強くどんくさいのではあるけれど、期限切れの食品は調子が悪くなってしまうという、繊細っぽいところもあるのだった。
ただし、期限がわからない場合は多少悪くなっていても食べられる辺り、思い込みなだけだけれど。)
「うー……ん、今日も出来合いになってしまった……」
とほほ、と肩を落とす。
教師として、の前に、大人としてこの生活力の無さに嘆かざるを得ない………と。
そんなところで、ぽふん、と立ち止まった男性と肩が触れる。
「あら、…ごめんなさいね?」
慌ててぺこりと頭を下げて、顔を見上げ。
相手から覚えられているかどうかは、教師側からはあまり良くわからない。……担当科目取ってないかもである。
■東雲七生 > 「今日はとりあえず豚肉買ってみたけど、牛の方が好きだったら次から牛肉安いとこ探してみなきゃなあ。」
ぶつぶつ。
独り言をしていたところで肩がぶつかった。
ハッと我に返って慌てて相手に振り返れば。
「あ、いやっ!こっちこそ考え事してて!ごめんなさい!
……って、あれ?朝宮先生?」
七生が受講している一般教科の一つに生物も含まれていた。
と言っても、今学期から追加で取ったものではあったのだが。
「こんなとこでどうしたんすかー?」
先生も買い物帰りっすか、と。
こてん、と首を傾げて童顔に笑みを湛えて訊ねる。
■朝宮 小春 > 「あら、七生君。 いいのよ、先生はこう見えて頑丈なんだから。」
素直に謝られて悪い気分になるはずもない。
くすくす、と小さく微笑みながら、ぽん、とその彼の肩を叩いて。
彼女の授業は特別凄まじく理解が進むというようなものではなかったが、
それでも取ってくれている生徒のことはそれなりに勉強している。
先生たるもの、生徒のことを「そこの君」とは呼ぶべきではない、って最初に読んだ本に書いてあった。
「ああ、……ええと、その、夕飯の準備、ってところかしら。
明日の朝とかも、この後買おうかなって。」
料理をしようと思って諦めていました、とは口に出せない。
視線をちょっと横にズラしながら、頬に手を当てて苦笑い。
■東雲七生 > 「が、頑丈……っすか。」
確かに物理耐久は高そうな気はする、と思ったものの顔には出さず。
肩を叩かれれば、少しぎこちない笑みを返した。
先生と生徒という垣根こそあれど、異性は異性である。少しだけ、苦手意識がなくもない。
彼女の授業は七生にとって「基礎」でもある。
前の学期から続けて受講している「対魔物戦闘」において生き物の習性および体構造を知っておくのは何よりも重要だ。
まあそんな理由で授業に出ている事は誰にも言っていないし、そもそも生物は生物で面白かったりするので今後も言うつもりはないのだが。
それよりも、苗字では無く名前で覚えられている事に驚きだった。
「夕飯の準備っすか。
先生のとこは今日の夕飯何なんすか?
と言っても、まあ俺んとこは分かんないすけど!」
あはは、と今度は硬さの無い自然な笑顔で。
相手の心中など知らず、呑気に夕飯の話を続ける。
■朝宮 小春 > 肩は鉄板入り(のような硬さ)。
胸に緩衝材入りの重戦士である。
それをぎゅっとブラウスに詰め込んでいるのだけれど、彼女はいつでもどこでも先生のままだった。
そんな苦手意識を持たれていることなんて露ほども思わずに、うんうん、と頷いて微笑む。
いろいろとこの場所に来て大変なこともあったが、多少の怪我があっても元気に教壇に立てているのだから、頑丈、と見る向きもあるだろう。
教師とは、興味を持って受講してくれている生徒はお気に入りになるものなのだ。
面白いと思ってくれている生徒の方を見て授業することが多いわけで、そういう意味で興味を持ってくれている彼について、知らないワケがなかった。
「………………お、お弁当。」
そして、嘘もつけない性質だった。横を向きながら、とても言いづらそうに。
でもまあ、ここまで来たのだから隠しても仕方ない。
「その、料理は今、勉強中ってところなのよ。
……秘密ね?」
人差し指を自分の唇に当てつつ、少し恥ずかしそうにううぅ、と唸る。
「分からない、ってことは、誰かに作ってもらうの?」
それよりも、そちらの方が気にかかる。
この島……学園の寮には、一人でいる人が少なくない。 自分も正にその一人である。
■東雲七生 > 「ま、まあ。でも気を付けてくださいね?
朝宮先生の授業、分かりやすいから、あんまり他の先生が代理で来て欲しくもないし……。」
授業は丁寧で分かりやすいので、先生としての彼女は好きなのだが。
やはりその女性らしさを主張する身体つきは思春期の少年には刺激が強い。同級生たちは時折その事で盛り上がったりもするが。
それに、やたらと授業中こちらを見ている事も多いような気がして、妙に落ち着かないのだ。
自分の髪の色の所為かとも思って気にしないようにはしているのだが。
よもや好意的に思われているとは夢にも思わない七生である。
「……お弁当?」
きょとん、と顔を逸らしながら答える彼女を見つめる。
出来合いのお弁当なら、自分もこないだまで散々お世話になっていたのだが。
まさか先生もそうだったとは、と視線が雄弁に語っている。
「ああ、なるほど!料理は勉強中……。
俺も料理出来ないんすよ、そのうち覚えなきゃなーとは思ってんすけど!」
秘密っすね、と仕草を真似て指を立てる。
特に誰に言うつもりも無いのだが、そう言われては了承するしかないだろう。
「あ、はい!今、ちょっと色々あってダチのとこで居候してんすけど。
料理はそいつが、俺は掃除とか洗濯とか、そういう役割分担なんで!」
えへへ、と少し照れたようにはにかんだ。
■朝宮 小春 > 「ふふふ、………本当?
褒めても成績は良くならないわよー……っていうのも失礼ね。
ありがとう、そうやって言ってもらえると、疲れていてもやる気が出るものよ。」
褒めると、隠し切れそうにない喜色を浮かべて、ふふふ…っと楽しげになる。
見るからに嬉しそうにぽんぽん、と頭をなでて。
自分が少年を刺激している、なんて考えもしない辺りは本当に頭の中も春なのかもしれない。
年少部の子供達には思いっきり鷲掴みされてわーきゃーやってますが。
それを見られているなんて思いもしない。
「そ、そうなの、勉強中!
…あ、同じなのね。 まあ、そう言われたら先生ですもの、私が先に出来るようになります。
アドバイスの一つでもできるようにならないとね?」
秘密を了承してもらえたので、今更感は拭えないけれど、大人の威厳を保とうとする。
片目をぱちん、と閉じて笑いかけて。
「なるほどね、いいじゃない。しっかりしてるのね。
そういう分担をして、協力しあうのはとても素敵だと思うわよ。
じゃあ、ちゃんと責任を果たしてあげないと、ね。」
照れたように笑う少年に、うん、と頷いて。 もう一度頭を撫でちゃう。
こんな風に穏やかに過ごすことができる生徒がもっともっと多くなれば、どんなにこの島は平和だろう。
■東雲七生 > 「本当っすよー。
ああでも、すっげ疲れてる時とか病気の時は無理しないでくださいね?
……俺らのために、ってのは嬉しいし、気持ちも分かるんすけど……。」
同じ人間なのだから、と頭を撫でられながら少しだけ心配そうに見つめる。
しかしまあ、嬉しそうなので良しとしよう。誰かを喜ばせるのは、自分も嬉しくなるものだから。
「あっ、はい。
……て、いや、そこは先生も生徒も関係ないと思うんすけど……。
けどまあ、応援してますけどね。同じ身の上としては。」
あは、と笑いながらウインクに対しては頷く。
授業中も休み時間も、それとなく親しみやすい先生だとは遠巻きに眺めていても思ったが。
なるほど女子からも好かれるわけだ、と再認識。
「元々半ば強引に俺が転がり込んだから、
ホントなら俺が全部出来た方が良いとは思うんすけどね……
はい!頑張ります!」
撫でられるのが気恥ずかしくなって少し俯けば、何かと男子生徒の心を掴んで止まない盛り上がりが視界に入った。
年少部の子供が鷲掴みにする様子を思い出し、ちょっとだけ彼らが羨ましくなったり……
してない。してないったら。
■朝宮 小春 > 「あはは、本当に疲れていたり病気の時は、行きたくても行けなくなるから、大丈夫大丈夫。
貴方がそうやって心配をしてあげる相手は、きっと他にいると思うわ。
先生は生徒を心配するのがお仕事。
そうね、貴方が大人になったら、心配してもらおうかしら。」
なんて、と小さく笑う。あくまでも生徒に対する態度のまま、穏やかな波のような優しさ。
「あら、そういうわけにはいかないわ。
日々の生活をきちんと過ごすように私が言っているのに、その先生が料理も何もできません、では本来は格好がつかないじゃない。
先生ってお仕事は、生徒に格好をつけるのも仕事なのよ。」
指をそっと立てながら、そんなことを言って。
……ちょっと本音過ぎたかしら? なんて付け加えて悪戯っぽく笑う。
大体、ちょっとふざけた生徒の悪戯の標的にされていることが多い、は多い。
「いいのよ、先生だって、すべての科目を教えるわけにはいかないものね。
ただ、……任されたからには、迷惑をかけないように。
何か困ったら、言っていいからね。」
少年の目線に気がつくようなら、何も問題はない。
気が付かずに、ずい、っと顔を寄せて言うのだから、……性質が悪いわけで。
■東雲七生 > 「まあ、そりゃそーっすよねえ……。
お仕事かあ……いつもお疲れ様です。」
ぺこり、と軽く頭を下げる。
自分たちが学生生活を遅れるのは、彼女ら教師が教師としての務めを果たしているからでもある。
その事は忘れちゃいけないな、と心に刻みながら。
「幾ら先生でも得意不得意はあって仕方ないと思うんすけど……。
うんまあ、そうっすね!俺らの見本になってこその先生っすもんね。」
大変そうだなあ、と素直な感想を溢しながらも笑顔で頷く。
ただでさえ多種多様な生徒の相手をするだけでも疲れそうなのに、と。
……ただ、普段の彼女を見るにその“仕事”が浸透するのはまだまだ掛かりそうだったが。
「っ、は、はいっ!」
顔を寄せられ、みるみる赤面していきながら一歩後退する。
やっぱりちょっと苦手意識がある。まあこれは彼女よりも七生自身の性根なのでどうしようもない。
恥かしさと、ちょっとした不埒な思考の申し訳なさからバツの悪そうな顔で頭を掻いた。
■朝宮 小春 > 「それもいいのよ。 生徒のために疲れるのがお仕事だしね?
それよりも、こうやって貴方が誰かと協力して、しっかり過ごしていることを目の当たりにすることが何よりのお礼ね。
……後は、わかりやすいって言ってくれたことも、かな?」
ふふふ、と笑いながら、軽く頭を下げる相手にいいのいいの、と手をぱたぱたと。
本当に嬉しかったらしい。
「まあ、得意不得意はあるものだけれどね。
ええ、っと。 上手くできることだけじゃなくて………………
それを私が言ったらオシマイ、なんだけど。
私の先生は、どんなに下手でも、それを言い訳にしないで全力でがんばってくれたから。
上手くできることをやりたくなるのは、誰だって一緒でしょう。
上手くいかないことを何とかしようと一生懸命になることの方が、私はずっと大事だと思うの。
だから、私も……と言いたいところなんだけどね。」
お弁当を持ち上げて、格好つかないわね、と肩を落として。
綺麗事だけれど、綺麗事をまっすぐ投げられるのは彼女の強み。
それに縛られて、結構窮屈な生活を送ってしまうのは彼女の弱み。
「……? よろしい。
ふふ、やっぱり学校の外で先生と会うと、緊張しちゃう?」
一瞬、慌てて後ろに下がる少年に首を傾げるも。
いいお返事だったので、うん、っと頷きつつも、困ったような表情の少年に声をかける。
■東雲七生 > 「俺らの為に、っすか……。
えっと、その……ありがとうございます?
……と、どーいたしまして、っすかね?」
ふと、疑問に思う。
どうして彼女はそこまでして“生徒の為に”と言えるのだろう。
教師という道を、選んだのだろうと。
ただ、それを今、嬉しそうな彼女へぶつけるのは少し、躊躇われた。
「先生の先生っすか?
下手を言い訳にしない……。
上手くいかない事を何とかしようと一生懸命になる事……ああ、それは分かる気がします!」
小柄で腕力も無く、異能も前提条件付き、そして魔術はまるで扱えないというペナルティだらけの自分。
それでも自分なりに出来る道を模索してきた七生には、その綺麗事は綺麗事である事も含めて痛いほど理解できた。
「まあ、うん。
だったら、尚更料理の勉強頑張んないと、っすよね。
確かに今の先生はちょっと格好悪いかもしんないっすけど、それはあくまで「今」の話っすから。
何事も、やろうとしなきゃ出来ないっすよ!
──出来ない事はやらない事の理由にはならない、って何かで聞きましたし!」
正直に思ったままを口にする。
たとえ今格好付かなくても、将来格好つけられれば良い。
そう言って、少し子供っぽい顔に満面の笑みを浮かべた。
弱みは必ずしも強みに出来ない事では無い、と七生は半ば本気でそう思っている。
「えっ、いや。そういうわけじゃ……!
あ、それより先生!ついでに一つ聞きたいんすけど。
たとえば俺が先生の家に居候してるとして、掃除洗濯以外で何かして欲しい事とかって思いつきます?」
赤くなった顔を冷まそうと、そんな事を訊ねてみた。
■朝宮 小春 > 「だから、お礼なんて良いのよ。
その代わり、授業中に寝ていたらデコピンね、デコピン。」
全くもう、なんて言いながら脅すようなことを言う。
脅し文句がとても脅し文句になっていなかったけれど、えいっ、えいっ、と目の前で素振りをしてみせる。弱そう。
この学園は年齢の上下差が大きく、それだけならまだしも種族差はある。
ちょっと鼻歌交じりに隣を歩く彼女の、ここにいる理由に気を留める者など、そうはいない。
気にされていることも、本人は知らない。
「そういうこと。
もしかしたら、やっているうちに諦めなければいけなくなるかもしれないし。
それをずっと引きずってしまうかもしれない。
すごく、悲しい気持ちを持ってしまうかもしれない、けれど。」
そこまでを話す彼女は、不意に先生の顔では無くなったような。
「……あと、例えそうだとしても、格好わるいとか言わないの。
私は今だって先生なんです。
本当に……全くもう。」
ぐりぐりと頭に拳を当ててぽんぽん、と、撫でるように小突く。
怒っている様子は無いけれど、頬をちょっと膨れさせて。
また先生の顔に戻って、ダメよ、と注意を一つ。
「…? 肩揉み。」
即答だった。この仕事をしてるからだけどね、なんてぺろりと舌を出して。
改めて、真面目に考え始める。
「そうねぇ………………、特別なことを望むことは無いんだけれど。
相手が料理をするなら、その料理の献立に関わってあげるといいかもね。
献立って、作る側の人からすると、結構気を遣う割に評価されないらしいから。」
その上で、ぽん、と掌を合わせて自分の案を出す。
真面目な先生です。
■東雲七生 > 「あはは、えっと、まあ大丈夫だと思います。
最近は夜ぐっすり寝れてるんで……。」
彼女の言うデコピンはあまり痛く無さそうだったが、
授業中にそれをされて注目を浴びるのは避けたかった。
ただでさえ女子の知り合いが多くで、それでからかわれる身の上なのだ。
『とうとう先生まで……』等と言われた日には暫く登校しなくなる自信があった。
今度、機会があれば教師を志した理由を訊いてみよう。
そう決めると、今は取り留めも無い雑談に花を咲かせることに専念することにする。
「うん、うん……。
それでも、出来た筈の事を後悔したくはないっすもんね。」
頷き、呟く。
将来起こる“もしも”なんてのは分からない。
だったら少しでも悪い“もしも”が起こる可能性を減らすべきだろう。
そんな風に考えながらも、七生はふいに彼女が見せた顔が気に掛かった。
「……にひひ。
でも、ちょっとくらい先生らしくない方が話し易いっすよ。
たぶん、みんなそうなんじゃないっすかね。」
頭を小突かれ、悪戯を誤魔化す子供の様に笑う。
少なくとも彼女は、先生の中では話し易い方だと思えた。
先輩や、先生など目上の相手にはどうしても気持ちが固くなってしまう七生でさえそう思うのだから、
馴れ馴れしい生徒には格好の玩具なのだろうな、とも。
「……先生、肩凝ってるんすか?」
即答された内容に、目を丸くする。
授業中、教鞭をとっている姿からは肩凝りなどとは無縁のように思えたが、デスクワークも多いという事なのだろうか。
そんな風に考える。
「料理の、献立……。
ふむふむ、えっとバランスとか考えて提案するって事っすか?」
顎に手を当て、思案気に首をひねる。
献立、考えた事も無かった。大体お腹に収めてしまえば良いだろうと。割と本気で考えていたのだ。
■朝宮 小春 > 「いいことじゃない。
しっかり食べてしっかり寝るのも仕事のうちだしね。」
ああ、きっとこの先生は「そういう視線」については無頓着だろう。
ぺし、とやった後にそんなことになっているなんて、夢にも思わないのだろう。
そういうところが、彼女の欠点……欠点なんだろうか。
とかく、そういう男子諸君の事情については何にも考えていないのだ。
「そういうこと。
全力で努力した結果であれば、どんな結果であっても………。
納得、まではいかないかもしれないけれど、後悔はできないものね。」
相手が真面目に話を聞いてくれていることだけで、きっと幸せなのことなのだろう。
自分の何気ない言葉を、真剣に聞いてくれて頷いてくれる。
それだけで、話す側は嬉しいものだ。 ふふふ、なんて笑ってみせるのだけれど。
「そうかもしれないけど、それを当人に言わないの。
……私も気にしてるのよ? 威厳が足りないってよく言われるのだから。
話しやすい、って言ってくれるのなら、嬉しいは嬉しいんだけれど。
無茶を言われることも最近は度々………。」
彼の明るい笑顔に、もー、っと腕組みをしながら手を引っ込める。
話しやすい……と思ってもらえるなら、それはそれで悪いことではないのだけれど。
体育の授業の度に一緒にやりましょうと誘われるのは勘弁して欲しいのだった。
ジャージ姿で倒れて保健室に運ばれることも幾度。
「そうなのよねぇ、根本的には治らないって言われてて。………肩だけじゃないのよ。
階段も上がるし、講義はずっと立っているからね。 足も結構きちゃうのよね。」
根本的に治らない理由は目の前で揺れています。
ここ、ここ、と自分のふくらはぎをぽんぽんと叩いて。
「だから、マッサージに行こうかなあとは思うんだけど。
あれはあれで結構痛いって評判でね……
だから、してくれるって言うならお願いしちゃうと思うわ。」
そういう意味で、前日のマッサージは非常に気分が良くて、それが頭をよぎったわけです。
「……そういうのもあるけど。
そんなに何かを食べたい、って気分じゃない時ってあるでしょう?
そういう時でも、何でもいいって言わずに一緒に考えてあげるだけで、きっといいと思うの。
相手の食べたいものを聞くだけが優しさじゃあない……って言うと難しいと思うけど。
選ぶのって、結構大変なのよ? それをずっと任せると、毎日悩むことになっちゃうし。
栄養とかは、お任せでいいんじゃない? ……分かんないし。」
相手の言葉を補足するように、ふんわりと言葉を付け加える。
最後の言葉だけは、自分の場合の本音だ。
■東雲七生 > 「何でも仕事にするんすね……。」
あはは、と苦笑しながらもそれが不快には思えず。
こういう先生なんだな、と納得できるレベルだった。
仕事熱心なのだろう、良くも悪くも。そう思うとなおさら、彼女がなぜ今の仕事を志したのか訊ねるのが楽しみになってくる七生だった。
「ふんふん……。
そうっすよね。やらなくて後悔するよりは、ずっとずーっと、良いっすよね。」
繰り返し首を振る様に頷きながら。
もしかすると授業以上に真面目に聞いているかもしれない。
しかし、それだけ七生にとっても同調できるはなしであったのだ。
「はーい、そこは気を付けまーす。
でも、朝宮先生はちゃーんと先生してると思いますよ。威厳とか、よく分かんないっすけど。
上からばっかり物言われても、それが本当に俺らの為なのか、分かんねえっすもん。
だから、分かりやすい先生は好きっすよ俺。」
あくまで先生として、だ。言うまでもないが。
無邪気な笑みでそんな事を言う姿は、やはりどこか子供じみている。
ああでも、〆るとこは〆ないとダメっすね、としっかり告げるのも忘れない。
体育の授業の事は与り知らない事ではあったが、その場に居たらどんな顔をするだろうか。
「立ちっぱはしんどいっすもんね……。
俺、結構体動かすからストレッチとかもよくするんすけど、幾つか教えましょーか?
まあ、マッサージも……出来なくもないっすけど。」
あまり異性の身体に触れるのは抵抗があった。
七生は男子ゆえに肩凝りの元凶までは察しがつかないが。
それでも多少の助けになれば、とそんな提案をしてみる。
マッサージよりは効果は薄いかも知れないが、自力で出来れば時と場所を選ばない筈だ、と。
「ふんふん、なるほどなるほど……。
んまあ、深雪の作ってくれる料理なんでもうまいから何でも食っちゃうんすけどね!あは!
そっか、一緒に考えるってのも、うん、アリっすね……!」
繰り返しなるほど、と呟いてしっかりと頭の中に書き込んでいく。
途中何やら惚気めいた発言をした気もするが、本人にその意図は無いのだ。
■朝宮 小春 > 「きっとこういう大人になったらダメよ?
オンとオフ、メリハリがつけられる方が格好いいじゃない。
そこが一番ダメなところだっていう自覚くらいは、私にもあるのよ。」
こちらも苦笑を浮かべて頬をぽりぽりと。
ダメな大人だなあ、といつも思う。 要領もよろしくないし、生活も理想には程遠い。
特殊な力も無ければ、体力もない。
それでも、そんな自分を先生と呼んでくれるわけで。それが嬉しいのもまた事実だった。
「………」
ほんの少しだけ、黙って目線を空へ向けて。
やらない方が、もっともっとずっと楽だったのかもしれない、なんて頭をよぎるも。
「ええ。それに………やるからには成功させるつもりでやらないとね。
後悔なんて、できればしたくないものね。」
なんて、ちょっと拳を握って応援するように、片目を閉じて。
あくまでも、今この場では生徒が主役。
「そう? ……そこまで言われちゃうと、変にスタイル変えられないじゃない。
ちょっと照れちゃう、かもね?」
頬を赤くしながら、その頬にぺたりと自分の掌を当てて。褒められると素直に喜んでしまう人。
まあ、今でも〆るところ〆てるつもりです、と、ちょっと不満気にするのを忘れてはいないけど。
「きっとどの先生も、伝え方一つだと思うし。……きっとみんな、生徒のことを考えてくれるはずよ。大丈夫、安心して?」
そう、きっとそのはずだ。 自分自身のことでないから、確証は持てなかったけれど。
彼女はきっとそうだと信じている。
「………あら、そう? ストレッチなら簡単かもしれないわね。
どんなことをするの?
……ああ、流石にお願いするのも悪いものね。大丈夫、なんとかなると思うし。」
興味津々。素直に首を傾げて聞いてくる。
その上で、マッサージに関しては流石に申し訳ない、と首を横に降って微笑んで。
「……あら、あらら。」
目をぱちぱち。 まさか女の子と一緒に住んでいるとは、と少し驚いて………。
その上で、ふふふ、っと嬉しそうに笑った。 幸せそうな顔を見るのは嬉しいものだ。
「そうね、一緒に考えてあげて、それを美味しいって言ってあげて。
そういう当たり前のことを忘れないであげなさいな。
全てを期待し過ぎず、新鮮に驚いて、喜んであげて。
それが貴方にできる、一番のことだと思うな?」
首を少しだけ傾げながら、相手を見つめる。 穏やかなトーンで言葉を耳に運んで。
■東雲七生 > 「だったら先生もそういう大人に今からなろうとすれば良いじゃないっすか。」
にやり。七生の口元が少しだけ意地悪く弧を描く。
「こういう大人になったらダメ、って言うんなら。
どういう大人になれば良いのか、ちゃんと示してみてください。ほら、料理と一緒っすよ。
俺らに何かアドバイスできるように、俺らより先に格好よくなってくれないっすか?」
にやにや。我ながら少し意地が悪いことを言っている自覚はあった。
それでも、少し試したい。彼女の言う綺麗事を、彼女自身がどこまで徹せるのか。
その姿が、きっと自分が成りたい大人の姿なのだと、思ったから。
「うっす。俺は一応、そのつもりで頑張りますよ!
やっぱ、あの時ああしてれば、なんて……思いたくないっすもん。」
それでも、思う時が来るのだろうけど。
その事の気付かない今は、素直に先生からの応援を受けて頷くだけだった。
「へへ、別にそこまで大した事言ったつもりねーんすけどね。」
照れられればこちらも何だか恥ずかしい。
はにかみ笑いをしながらも照れ隠しにそう言って。
何でもかんでも生徒を立てようとするその姿には、多少心配も覚えたけれど。
「別に疑ってるつもりじゃないっすけどね……。
まあ、そこは朝宮先生を信用します。うんっ。」
そうでなかった時は、その時だ。
自分にできるのは、目の前の優しい先生とその人が信じているものを信じるくらい。
「えーと、基本的に血行を良くすりゃ良いわけで……
足の方はまだ自分で揉んだり出来るから、肩の方……。」
そこでふと気づく。
お互いに手には買い物袋。この状態でどんなストレッチを教えればいいんだろうと。
「……あの、また今度、お互い両手が空いてる時でも良いっすか?」
恐る恐る、提案する。
まさかその辺に買ったものをほったらかして教える訳にもいかない。
「うん、そっすね!!
そっかそっか、そういう事でも良いんすね……!
そしたら喜んで貰えるかな……へへ。
ありがとうございます、先生。帰ったらちょっと試してみます!」
女の子と一緒に住んでいるという事を見抜かれたとも気付かずに。
嬉しそうに、幸せそうに笑みを浮かべて大きく頷いた。
■朝宮 小春 > 「…ぐ、…言ってくれるわね。
そうねぇ、………家にいる時はとってもだらしなくしてれば、切り替えていることになる?
ああでも、それって手本にならないわね…………。
………これって、お手本になろうと思ってがんばっているのだから、オフの切り替えができていないことになるのかしら。」
自分で自分の言葉の矛盾に困ってしまいながらも、ううん、ううん、と唸る。
屁理屈は止めなさいとか、そんな言葉に逃げたくはない……というと、聞こえはいいけれど。
「………自分の仕事を、できるだけ早く片付けることができるように努力するわ。
それができないのが、きっと原因だから。
……こんな反省、本当、秘密にしておいてね?」
大真面目に自分の反省をしてしまって。………またしても、指を唇に当ててしー、っと黙っておいて、とお願い。本日二度目である。
「それが一番よ。
努力が裏切らないかどうかは、私にも分からないけれど。
努力しなかったことは絶対に裏切らない、って言うものね。」
自分の言葉を素直に聞き入れて頷く少年のことを、全力で応援したい。
それだけを願いつつ、また頭をぽん、となでてあげる。
「貴方に言うのも変な話だけれど。
先生って、そういう言葉をよく覚えているものなのよ。
だから、ついつい浮かれてしまうの。 ふふ、良くないんだけれどね。」
こちらも正直に、浮かれ気分を告白して。
疑っているわけではない、という言葉にも深く頷く。
確かに、この学園の在り方そのもの、全てを全て、綺麗事だけで通っているとは思っていない。
ここにいる先生方の中には、きっとそうではない人も、いるのかもしれない。
そんな夢の様な理想が目の前にあるとは、さすがの彼女も思っていない。
でも、信じることを教えるからこそ、疑うことも教えられるのだ、と………
彼女は、思っている。
「ああ、そうねぇ。 じゃあ今度お願いしましょうか。
学校でもいいし、貴方の家……は迷惑だから、私の家も学校のすぐそばだから、帰り際でも大丈夫だからね。」
恐る恐るの提案に、あっさり頷いて。
私も知りたいのよ、と続けるも、場所の提案は結構にエキセントリックだった。
「ええ、大事にしたげなさいね。
その気持ちが、やっぱり一番大事なのだから。」
その幸せそうな笑顔に、目を細めて。
よし、よし……と、やっぱり頭を撫で、その髪を指で梳いた。
■東雲七生 > 「あはは。やっぱ、先生は先生だよ。」
真面目に真摯に、自分の意地の悪い言葉にも向き合った。
それだけで、十分生徒としては信頼できるし、それ以上に一人の大人として信用するに足ると思う。
二つ目の秘密だね、とにっこり笑いながら頷いて。
そもそもそんな事誰に言うと思ってるんだろうか、とちょっと疑問に思ったりもした。
「でも、うん。無理はしないようにね。
先生には先生のペースがあるだろうし。」
朝宮先生という人間が、とことん真面目なのはよく分かった。
それだけに、やっぱりちょっと心配だな、と思ってしまう。
年下の、それも生徒に心配されるなど不本意なのも知っているけれど。
「少なくとも、努力をしたんだっていう自信は持てる。
へへ、ありがとう先生。俺も頑張ります!」
頭を撫でられればスイッチでもあるかのように笑みを浮かべる。
子ども扱いされている気もしたが、実際子供だから仕方ない。
「そうなんすね。えっと、何か恥ずかしいけど……
でも、良いんじゃないっすか。嬉しい事は嬉しい、って。
誰かが喜んでくれるの、俺、好きっすから。
素直に喜んでくれる朝宮先生なら、信用できるし。」
にこにこと告げる言葉に嘘偽りはない。
人が集まるところで必ずしも綺麗事だけが罷り通るわけではないだろう。
むしろその逆である事の方が多いのが事実。
それでも信用したいから信用する。
それは理念とか思想とか、そういう難しい事では無く。
朝宮小春という個人を信用したいからするというだけのことではあったが。
「んっす。
じゃあ、先生んちっすかね?……んと、学校の近くってと、寮の辺りっすか?
場所聞いとくより、近いんなら一緒に行った方が早そうっすね。」
残念ながら場所の提案が突飛だとは思わなかったらしい。
信用する相手の家に行く事になんら疑問などは持たないらしい。ただ、少し緊張はするだろう。
買物袋を持ち直しながら、あっさりと頷いた。
「はぁーい!
……へへ、あざっす!」
自分が相手を大切に思う気持ちが認められた気がして何だか無性に嬉しくなる。
少年の瞳と同じ紅色の髪はさらりと指を通して、七生がそれを嫌がる素振も無かった。
■朝宮 小春 > 「先生らしい、って意味なら、喜ぶところだけど。」
そういうことかな、と頬をかいて。
よく言われる。 特に何か失敗した時に「貴方は貴方だものねぇ」という言葉。
ちょっとニュアンスが違うことは分かったので、少しだけ苦笑。
「あら、さっきも言ったとおり、私はこう見えて頑丈なんだから大丈夫。
身体が自然に動いているうちは、まだまだ動けるってサイン、だと思うし。
それに、私から貴方の心配をする立場なんだってば。」
自分の体については、とっても乱暴な運転をする人だった。
でも、頑固者だからそこは譲らなかった。 譲る気配が無い。
「ええ、がんばって。
何か困ったことがあったら、ここに威厳のある先生がいるから、頼ってもいいからね。」
少しだけ胸を張って、おどけてみせる。
自分で自分の威厳をネタにしてしまう辺りが、きっと威厳が出ない理由なのだろうけれど。
「………ええ。そうね、信用に足る行動ができるように、先生もがんばるから。」
こっちも拳をよいしょ、っと握ってみせる。
一瞬言葉に詰まったのは、信頼という言葉の重さ故。
彼女とて、自分の言葉に自信なんて無いのだ。
正確な知識だけを伝えるだけで良いのなら、どれだけ楽だろう、と思う。
何も見えない暗闇の中を、自分の価値観という光をもって照らして道を示す。
それを信頼されるのは、嬉しくも重くて。
よいしょ、とそれを背負い直すのに少しだけ、苦労した。
「そうね、それじゃあ、帰り道に一緒に来てくれる?
生徒に送ってもらえるなんて、ふふ。 ついでだけれど、嬉しいものね?」
相手が疑問を抱かなければ、それではい決定ー、とあっさり決まって、そちらに向かって歩き始める。
ビニール袋を両手で一つ持ちながら、普段より少し楽しげに。
「………………つらい時とか、悲しい時とか。
そういう時が来ない方がいいけれど。
そういう時も、聞いてあげるからね。」
楽しく目を細める彼に掛ける言葉としては、きっと不正解かもしれないけれど。
楽しいからこそ、幸せだからこそ。その先を心配してしまう。
きっと母親だとか言ったら彼女は凄く怒るだろうけれど、図らずも、そんな柔らかさで頭を撫でて。
■東雲七生 > 「そっすよ。
朝宮先生は、間違いなく先生だって事っす。」
屈託のない笑みを浮かべながら、二つ返事で頷いた。
そこに他意はないし、お世辞でもない。
心から先生だと認めて言っている。
ちょっとわかり難かっただろうか、などと反省しつつ。
「そっすよねえ……あはは。
けど人の体なんていつ何が起こるか分かんないっすから。」
突然記憶が消え始めたりとか。
流石にそれは言えなかったが、実際に自分の身に起こっている事なので俄かに表情が険しくなる。
「威厳……まあでも、先生になら話し易いと思いますし。
何かあったら、聞いて下さいね。」
頼りにさせて貰います、と、こくり頷いて。
きっとその時は親身になって貰えるだろうなと、今からでも分かった。
「大丈夫っすよ、先生は。
でもまあ、うん!頑張ってください!」
既に充分信用に足るとは思うが。何が原因で失うか分からないのが信用というものだ。
だから、せめて失望しないようにはして貰いたい。そんな事を少し思ったりもする。
ただ、それは自分も少し考えなければならない事でもあり。
あまり重圧にならないように、注意しなければと決意した。
「え、あ、帰り道って、今っすか!?
今度、って言うから学校の帰りとかで良いかなって思ってたんすけど……
ま、いいや。今回は家の場所だけ教えて貰いますんで。
流石にナマモノ持ったまま寄り道、そんな出来ないっすから!?」
彼が帰らなければならないのは異邦人街である。
それをいつ切り出そうか悩みながら、楽しそうに歩く後ろ姿を追った。
追いながら、頭を撫でる手の感触を思い返す。
きっと、自分も母親にああやって撫でられたはずだ。
──だが、その記憶は脆くも崩れ去っていて。
いつかその事も話せるのだろうか、と密かに思っていたりもする。
■朝宮 小春 > 「そういうことなら、褒められていると思っておきましょ。」
その笑顔を見れば、意地悪な意図が無いことくらい、彼女にだってわかる。
ちょっとだけ冗談めかしてそうやって言葉にして。
「……あら、怖いことを言うのね?
そうね………まあ、無茶はしないようにするけれど。
そういう意味だったら、ここの人達の方が、よっぽど無茶なことをしていると思うんだけれどねぇ。
姿が消えたり、尻尾があったり。」
知っている人というか、目の当たりにした能力は少ない。
少ないけれど、一般人の彼女の目からすれば、その特殊な力こそ無茶ではないかと考えるわけで。
表情が険しくなった彼の表情を覗き見て、少しだけ首を傾げる。
はて、………威厳、そんなになかったかしらん、とすっ飛んだ別の予想。
「ええ、そりゃあもう。
私で良ければ、いつだって、ね。
がんばらなくっちゃいけないもの。」
小さく笑いながら、片目を閉じて見せて。
信頼は重いけれども、その重さが嬉しい。
一生懸命に、思い切り力を注いで、悔いは残らない。
お互いにそんなことを考えていることに気がつくことはなくて。
「あ、寮じゃなかった? ごめんなさい、勘違いしちゃった。」
慌ててぱん、っと掌を合わせて、ごめんね? と言葉をかけて。
「それじゃあ………今度の帰りに、一緒に帰りましょうか。
その時にストレッチの一つでも教えてもらって。」
流石に、寮にまで連れて行くつもりはないようで、その場でぽん、っと頭に触れながら、ちょっとだけしゃがんで目線を合わせる。
「今日はありがとね。
ふふ、先生の方が気分が楽になっちゃった。 それじゃあ、また…?」
どっちに帰るんだろう、とは思いつつも、生物を持っている身だ。無理はさせられない。
相手の思っていることはわからぬままに、それじゃあね、と穏やかに手を振るばかり。
■東雲七生 > 「実際褒めてるんだってば。」
普段どれだけからかわれてるんだろう、とくすくす笑いながら思う。
しかし、きっと彼女に真意は伝わってるはずだから、問題ないだろう。
「まあ、それもそっすね。
ホント、色んな人が居ますけど──
でも、誰だって大切なのには変わりないっすから。
先生だって、大事な先生なんすよ?何度も言ってるけど!」
はた、と我に返って笑みを浮かべる。
無茶の規模や形は違えど、無茶は無茶だ。出来れば、優しい人が無茶をするのは看過できない。
そういう性格なのだ。東雲七生は。
「むしろ先生こそ。
何か生徒との関わり方で迷ったりしたら遠慮なく言ってくださいね?
何せこっちは現役の生徒っすから。」
えへん、と小さな胸を張りながら。それでも十分誇らしげに。
先生が生徒を支えるつもりなら、生徒だって先生を支えて良いだろうと。
どちらが欠けても成り立たないものなのだから。
「いや、別にそれは良いんすけど……
じゃあ、また今度。しっかり叩き込みますから!」
頭に触れられるのももう慣れたもので。
しかし目線を合わせられると、少しだけ頬が赤く染まる。
これだけ言葉を交わしても、やはり異性に対する苦手意識は消えないのだ。
「へへ、先生の助けになれたなら良かったっすよ!」
にっこりと満面の笑み。
秋の夕日に赤く染まって余計に暖かみが増したようにも見えるだろうか。
そして一度大きく手を振って。
「じゃあ先生、また明日学校でー!」
くるりと背を向け、電車に乗るべく歓楽区の方へと歩き出した。
ご案内:「学生通り」から朝宮 小春さんが去りました。
ご案内:「学生通り」から東雲七生さんが去りました。