2015/09/26 のログ
ご案内:「学生通り」に霜月 零さんが現れました。
霜月 零 > 「ふぁ……遅くなっちまった……」

あくびを漏らしながら、気だるげに道を歩いている。
思うところがあり、自分にとっての新しい型を見出すための稽古をしており……それに集中していたら、夜遅くどころか朝方になってしまったのだ。
今日は休みなのでゆっくり寝るかな……などと思いながら、のんびりと帰宅していくのである。

ご案内:「学生通り」に竜胆 薙さんが現れました。
霜月 零 > 「(でもまあ、やった価値はあったな)」

歩きながらそんなことを思う。
今までの型どおりの自分に限界を感じ、敢えて崩す自分なりの型を考えてみたのだが……思ったよりしっくりきた。
元々防御よりの戦い方が得意だったのもあるのだろう。太刀の長さをもう少し長くした方がよさげではあるが、新しい型としてはいい感じに使えそうである。
そういう意味では、充足感を持って歩いていた。

竜胆 薙 > 街灯と街灯の間
比較的明るい学生街の通りでも闇の深くなる場所

零がそこを通りかかった時だろう
ほんの僅かな明かりを照り返して、風斬り音も立てずに白刃が舞った

闇の中を踊るように、白刃は零の首を目掛けて踊る───

霜月 零 > 「……!?」

殺気。
わずかに感じた、しかしてここにあるまじき死の匂い。
だが、体は反射的に動いていた。首めがけて奔る白刃を、身を翻し大きく飛び退ることで回避する。

「おいおい、なんだなんだ!?」

自身も腰から太刀を抜き放ちながら呼びかける。
いや、本当になんなんだこれ。俺がいったい何をした。

竜胆 薙 > 間髪入れず
闇の中からほんの僅かに灯りを返す刃が二度、三度と襲いかかる

大きく飛び退いた零の位置まで伸びるその刃は、得物が長い太刀であることを想起させる

───が、冷静な思考が果たして出来るか、
それくらいの間隔もあけずに次々と刃が踊り飛んでくる───

霜月 零 > 「ちぃっ、問答無用かよ……!」

一歩、二歩と下がりながら、白刃を次々と往なしていく。
受けるのではなく流す。体捌きと必要最低限の太刀の動きで自分に迫る白刃の力の方向をわずかに逸らし、自分に白刃が当たらないようにする。

「いきなりなんだお前、何が狙いだ!」

時折牽制を混ぜつつ問いかける。いや、本当に心当たりがない。なさすぎる。

竜胆 薙 > 闇の中で幾度かの剣戟の音と火花が散る
舞い踊る白刃は目標を捉えることはなく、そのまま姿を消す

暗い闇の中で鞘鳴りの音、続いて、パチンを太刀を納める音が聞こえる
やがて───

「こんばんわ、初めまして」

漸くその姿を現す
薄暗い街灯の下には、おそらくは零の見知らぬ、朱塗りの太刀を抱えた少女が一礼、頭を下げていた

霜月 零 > 「いや、こんばんは初めまして、じゃねぇよ!」

丁寧な挨拶をそのまま受け止める気にはなれない。なんせ、いきなり命を狙われたのだ。

「初めましてのアンタが、なんでいきなり俺の首を狙ってくるんだ?
流石に身に覚えがないんだが」

警戒して平正眼に構えつつ問いかける。
寧ろ斬りかからないだけマシだと思う。と言うか、いきなり切り殺しに来て、普通にのうのうと挨拶する精神が分からない。

竜胆 薙 > 「芙蓉先輩のお兄さんにしては、随分と実戦慣れしているようで安心しました。
 殺気を殺しておかなかったとはいえあの初撃を余力を持って回避できるのはなかなかの手練でなければ」

一礼に続き、今度はぱちぱちと軽い拍手をはじめた
零の発する疑問の言葉には一切応える素振りがない

「でも、命を狙われた自覚があるというのに反撃に転じないあたりはやはり平和に惚けているように思えます。
 もう少し鋭さを持っていれば良い人材だったかもしれませんが、及第点ですね」

言いつつ、胸ポケットから取り出したメモに何から書き込んでいく

霜月 零 > 「いや、前提がおかしいだろ……って、芙蓉?」

色々ツッコミたい気分ではあるが、それ以上に一つの名前が気にかかった。
芙蓉、芙蓉だと?
だったらこの、夜にいきなり殺す気で人の首を狙ってきたアサシン少女は、風紀委員だとでもいうのか。
風紀?風紀ってなんだ。少なくとも暗殺する事ではないだろう。

「……お前、風紀なのか?」

信じられないというか信じたくない、と言う思いを込めてそんな質問をする。
いや、こんなやつが風紀委員ですとか世も末だ、ええいレイチェル・ラムレイ他風紀の連中はどんな教育をしているんだ。

竜胆 薙 > パタン、とメモ帳を閉じてポケットへと仕舞いなおす

「……?
 私が風紀委員であるかどうかが、何か貴方に関係があるんですか?」

小首を傾げ、零を見つめる
…先程少女が潜んでいた闇よりも黒い、そんな瞳で

霜月 零 > 「あまり関係はないな、だが不安はある」

呆れたような、困ったような、そんな顔で告げる。

「風紀ってのは警察組織だ、治安を守る存在だろ。そんな連中の中にいきなり夜道で首狙ってくる奴が混じってるとか安心できねぇよ。つぅか信用できねぇ。
今俺は、夜外を歩いてただけで風紀委員に暗殺されかけたわけだろ?そんな連中信用出来るか?」

お前が風紀なんならな、と付け加えて溜め息を吐く。
風紀は気のいい奴が多く、信頼出来る組織と言うイメージを持っていたのだが……場合によっては、そのイメージを少し変える必要があるかもしれない。

竜胆 薙 > 「……‥」
押し黙り、大鞘を肩に担ぐようにしてトントン、と揺らす

「つまり貴方には風紀から粛清されるようないわれはない、と。
 色々と述べはしましたが、私は貴方のことを一般学生とは思っていませんよ、霜月零」

無感情にそう言葉を投げかけ、

「もう少し骨があるようならばこの場で単独対応せず応援を、とも思いましたが、
 貴方程度の腕ならば私一人でも十分対処できます」

身の丈に近いその太刀を一息に抜き放ち、構えた

霜月 零 > 「……?」

本気で風紀委員に目をつけられるような事をした覚えがない。
自分の実力に対する評価はこの際どうでもいい、そんなものは時間をかけて鍛えればいいものだ。
だが、本当に身に覚えのない事で命を狙われるのは勘弁してほしい。自分には帰るべき場所があるのだから。

「……せめて先に罪状を述べてくれるか?心当たりのない事で命狙われたくねぇんだが」

平正眼に構えて、じろ、と睨みつける。
今の抜きだけで実力があるのは見て取れた。下手をすれば本当にここで殺される可能性がある。
それを感じ取って、緊張のために唾を飲み込んだ。

竜胆 薙 > 「……?
 惚けているのではなく本当に自覚がないんですか。
 だとしたら、余計に性質が悪い」

抜き放った太刀と鞘を、それぞれ諸手で構える
汎用的な剣術にはまず見れない構え
まるで鞘も刃であるかのような構えのままに、踏み込む

最初は左の刃、零の答えを待たずして、朱塗りの大鞘が胴薙ぎに振るわれる

霜月 零 > 「だから、具体的な罪状を述べろっての!」

悪態をつきながら相手の型を、脳内で冷静に判断する。

「(霜月流における、鞘打二刀式……しかし長刀二刀ってのはレアだな)」

考えながら、即座に大きくバックステップ。そして、胸ポケットから大量の札を取り出し、それを周囲にばらまく。

「行け!」

叫ぶと同時、その札は一斉に鴉を象った式神になり……一気に薙の方に向かっていく。
それに紛れ、零は水行の力を刀身に纏わせ、刀身を黒く染めながら間合いを詰めていく。

竜胆 薙 > 「犯罪を未然に防ぐのも風紀の役割……よく動きますね」

随分と距離をとったものだ、と思ったが成程、それは術を使うための距離の確保
しかしその程度の距離は、少女にとっては一足飛びの範囲である

左を振った勢いをそのままに地面擦れすれまで見を縮め、全身のバネを使って自身をあたかも弾道弾のように発射させる
常人を超える脚力に裏打ちされた確かな跳術、
式神が目標とする地点にはすでに少女はおらず、それらを置き去りにして一気に間合いへと飛び込んだ

「───把ッッ」

真正面も真正面である
零が式神を牽制として撒いたことも折り込み済み
ここで刃が振り下ろされようと、自身の攻撃をやめるつもりはない
自身の動きの制動による反発力も加えた、太刀による大薙ぎ
速度、重心ともに十分、右袈裟にバッサリと斬り落とす一撃が零に向けて放たれた

霜月 零 > 「そっちもよく動く……!」

鴉の式に紛れ、黒くなった刀を保護色にして突く、と言うプランは崩壊した。
そして目の前に着地する少女、振り下ろされる刀……これはマズイ。
が。

「大振りすぎるんだよ!」

自身の突進力と少女の太刀の長さを見るに、後ろに引くのは下策。
だからここは前に出る。
速度重心共に十分でも、振りが大きければわずかに到達は遅れる。
故に……片手で振り下ろす間合いの内に入り込む。
より密着するために刀を返し、狙うは薙の喉元。
有効射程の内にのがれつつ、喉元を柄頭でしたたかに打つことによって呼吸を乱し制圧せんとする。

竜胆 薙 > 「───」

右手で振るう太刀、左手で振るう大鞘
そのどちらもがこのショートレンジには対応できない

おそらくこの零という少年はそう読んだのであろう
その判断は、正しい

しかしそれは目の前の少女、薙の武器が それだけ であるならの話である
これは剣術試合ではない
ルールなどはないのだ

迫る柄頭に、思い切り自身の額を叩きつける
最も頭蓋骨の厚い額での衝突は握りが浅ければ刀を取り落とすほどのものだろう

そして同時に、右の膝を跳ね上げる
これだけ密着していれば、どんな斬撃よりも鋭く疾いそれは、零の股間の急所へと放たれた

霜月 零 > 「(こいつっ!)」

今の柄打ちを額で受けた、と言うだけで見事の一言だ。
額と言うのは非常に丈夫……古のベアナックルの時代などは、相手の拳を額で受けるのが有効な防御策として扱われていたほどだ。
無論力を込めて打ち込んだため額も無事ではすむまいが、狙った効力は得られない。
刀を取り落とすこともなく、即座に次の行動に対処する。

「うおおっ!」

右足での足払い。だが払うのは相手の軸足ではなく、放たれた膝蹴り。
いわば、足によるパーリィングである。
これに成功すれば、更に足刀で薙の下腹部を狙う。
この近距離攻防のテクもまた、剣術の技ではない。
足先、膝より先だけの動きで足を操り蹴るこの技法は。


――空手道「右足刀蹴り」

竜胆 薙 > 「───!」

腹部に足刀を受け、その痩身が揺らぐ、が
再び先程と同等クラスの瞬発力を発揮し、飛び跳ねるように距離を取りなおした

「…意外と冷静ですね。空手も習得しているとは思いませんでした」

ぱんぱん、と制服についた汚れを払う
額から つぅ… と赤い筋が伝って見える
下腹部への蹴りもクリーンヒットした、だというのにその表情にはダメージの欠片も見えない

霜月 零 > 「本職じゃねぇけどな、刀なしでもやれるように、素手の武術は習得が義務付けられてんだよ」

霜月流において、まず最初に叩き込まれるのは徒手空拳格闘術である。
何故ならば、日常において常に剣や槍と言った武器があるとは限らない。
琉球古武術には棒や釵と言う武器があるが、あれは元々農作物を運ぶ際に使った棒や、装飾品である簪が元になっているとされている。
このように、武器と呼ばれるものを常に扱えるわけではないが故に、日用品などを武器として再定義する場合もあるのだ。
が、人類に許された原初にして絶対の武器。それは己の五体に他ならない。
何はなくとも体はある。一番信頼出来る武器として己の体を再定義するのが徒手空拳格闘術であり、実戦重視を謳う退魔の流派霜月流でも重視する事だった。

「で、罪状に関して教えてくれる気になったかい」

軽口を叩きつつ内心では驚嘆している。
下腹部を狙ったのは、腹筋でカバーしきれず、鍛えようのない箇所だからだ。
額は丈夫だからまだ、まだわかるとして、下腹部への足刀蹴りなど食らっては、悶絶しないはずがない。
だというのにぴんぴんしている。彼女には痛感と言うものが存在しないのか?と疑念を抱いてしまうくらいだ。
故に警戒は解かず、やはり平正眼で構え様子を見る。
……最悪、本当に殺す気でやらないといけないかもしれない。

竜胆 薙 > 「それです」
す、とゆっくりとその指をさす

「公安がなぜ風紀委員でもない貴方のような人間に帯刀の許可を出したのか…節穴も良いところ。
 剣を交えてよりはっきりとわかりました。貴方の剣は人斬りの匂いがする。
 激情や憎悪でその刃を振るった匂いが染み付いている。
 …そんな人物が帯刀して往来を歩いているのは、私からは危険人物としか判断がつきませんね」

ぐい、と左腕の腕章の位置をなおし、真っ直ぐにその瞳を向ける

「続けましょうか、どのみち、すぐに本性は剥き出しになる。
 貴方の妹も咄嗟のことでも迷わず心臓を狙う技が体に染み付いていた。
 …普通の剣術や弓術では身につきませんよ、そんな殺人術と呼べるものは───」

再び地を蹴る
変わらぬ瞬発力と速度
但し相変わらずその軌道は愚直なほどに真っ直ぐだ

零が間合いに入れば、再びその剛剣が横薙ぎに振るわれる

霜月 零 > 「……ぁー」

ダメだ、心当たりがあった。
虞淵。奴に対してだけは、憎悪で剣を振るったことがある。
なるほどそれかー、でもだったらこいつも、虞淵でも狙えばいいのに。なんてことをめんどくさそうな顔で少し考えて、その後の言葉に顔をわずかにしかめる。
殺人術。
半分正解で半分間違いだ。
霜月流は対魔対人総合武術流派。
世に仇なす者を、人魔問わず調伏してきた流派である。
それ故に……明確な敵対者と相対する前提であるが故に、より実践的に鍛えられた弊害と言うべきものが出てしまっているようだ。
それをどうするか、は考えつつも、心のどこかで「お前が言うな」と言う気持ちもある。
が、そんなことを考えている暇はくれない。
横薙ぎに振るわれる剛剣……だが、その剣筋は実に素直。これならば与し易い部類だ。
後ろに下がって薙ぎを外し、そして下がった際に足に貯めた力でより勢いよく前に出て面を打つ。
流石に斬り落としはせず寸止めに留めるつもりだが、これで取り敢えず動きを制しようとする。


――タイ捨流「超飛」

竜胆 薙 > 薙ぎを透かされるが、構わず前進する

自身の頭へと刃が振りかかるが気にも留めずに深く踏み込み、その胴を鞘による剛撃が叩きつける
被弾も、何も覚悟の上
繰り出したその一撃は深い、即座に攻撃を停止して飛び退く等という人間離れした反射神経を持つなら、また別だろうか

ご案内:「学生通り」から竜胆 薙さんが去りました。
ご案内:「学生通り」に竜胆 薙さんが現れました。
霜月 零 > 「う、おお!?」

この状況で踏み込んで、更に攻撃……死が恐ろしくないのか、それとも斬るまいと高をくくっているのか。
だがこれを受けるわけにはいかない、こんなのを食らってはそれこそ昏倒してしまう。
やむなく、攻撃を中断……だが、この突っ込んだ状態で身を躱すことは出来ない。
故に、受ける。
振り下ろしていた刀の目的地を変更、額を斬る動きではなく、とっさに刀の柄で受ける動きに。
左手は刀の峰に添え、力を受けとめ、そのまま梃子の原理で上にかち上げようとする。


――タイ捨流「楊遮」

竜胆 薙 > この期に及んで【意】のない攻撃を仕掛ける、その意図が読めない
自分が女性だからか
それとも風紀委員が相手だからか
どちらにせよ、かの剣から感じたドス黒い殺意には相応しくない技が続く

「………振ッ」

鞘は跳ね上げられる、が

同時───抜身の刃が深々と逆側から零の胴へと斬り込んで来る
これが長物二刀流の妙
必殺の剛撃すら、凌がれればそれは扇動にしかすぎなくなる【後出し】の刃だ

鞘と違い、こちらは当たれば斬れる
振るうは今しがた受け止められたであろう剛撃と遜色ない剛剣である

霜月 零 > 「ちぃっ!」

今のは速度勝負にすべきだったのだ。
『天雷』の応用で一気に加速すれば、先に斬り落とすことも出来た。が、流石に殺すわけにもいかないのでその択が取れず、受けに回ってしまった。
長刀による鞘打二刀の間合いで受けに回る。そんなものは自殺行為に過ぎない。
二刀の優位は何より、片方を受けられてもその片方で押さえ、もう片方で打つという真似が出来る事。
つまり、手数が倍になることである。
だというのに流行らないのは、必要とされる筋力値が人間の限界を軽く超越していたり、どうしても振りが遅くなったり打ちが弱くなってしまうからなのだが……それを克服した二刀はまさに無双の剛剣となる。
この死地に居続けるわけにはいかない。ならば脱する必要があるが、下がるのはもう不可能。
先程と同じく……前に出る他、ない。

「このっ!」

この時、覚悟を決める。
死ぬ覚悟、ではない。思い切り傷つける覚悟、である。
かち上げた時に上に跳ねた自身の刀……その柄で、踏み込みながら頭部を狙う。
狙うは最も近く、最も有効であろう頭頂部。
ここは額ほど丈夫ではない、寧ろ頭蓋骨は小さな骨の集合体であるため、ここを強く打たれるとその結合が剥がれてしまう場合もある。
入院は免れず、最悪死に至る一撃。
だが……そうしなければ死ぬ。その極限で、ついに腹をくくることにした。
踏み込み、間合いを殺し、そして必倒の一撃を全力で打ち込んでいく。
帰るべき場所に、戻るために。こんなところで死んでやるわけにはいかないのだ。

竜胆 薙 > 「───浅はかですね」

ぽつり、とそう呟いた言葉が、密着とも言えるほどに間合いを縮めた零には届いたろうか

二刀流のもう1つの長所
それは武器を1つなら捨てられる、ということである

少女の左手からは既にその鞘は手離されており、
鋭角に、零の右の肩口へと貫手が叩き込まれる
威力の程は───あれだけの長大な得物を小太刀が如く振るう膂力から押して量るべきか

霜月 零 > 「ッ……!」

右肩に貫手がめり込む。
肩が外れそうになり、これ以上の駆動は体が拒否する。
が……それは痛感によるもの。
ここで止まっては死ぬかもしれない。それだけは許容出来ない。
呼吸を制御し、一時的に痛感を無視する。
剣術流派の中でも特に呼吸法に明るい鹿島神傳直心影流。
そこに伝えられる努力呼吸と言う技法によって、一瞬だけだが自分の限界を踏み倒す。

「ッ!!!」

目を見開き、渾身の力で腕を振る。
腰を落とし、体重を乗せて、必倒の決意と共に、刀の柄は打ち下ろされた。

竜胆 薙 > 「───!」

貫手により薙の姿勢が変わっていたのもあろう
零の一撃は当初の目標地点を外し、少女の左の鎖骨を打ち砕いた

まともな痛覚があれば最低でも一時的に動きは止まるだろう
しかし、止まらない

そのまま、前蹴りを放ち零を突き飛ばす

「………」

朱塗りの鞘を拾いあげ───そこで、左腕がまともにあがらないことを確認する
不満気に眉を顰め、鞘は再び捨てて零へと向き直り

「殺そうと思えば殺せたのでは?」

ゆっくりと、溝川の底の泥のような暗い視線が、歩み寄る

霜月 零 > 「…………」

突き飛ばされれば、顔をしかめて転がり、そのまま立ち上がる。
刀を構えようとするが……右肩が上がらず、刀を取り落とす。
左手で右腰にある小太刀を抜きながら、掛けられた言葉に応答する。

「帰る場所が、あるんでな……」

ここまで殺意をむき出しにして殺しに来たのだ、彼女を斬り捨てること自体はそこまで抵抗はない。
が。
それをしてしまえば確実に問題になる。もしかしたら退学や、それ以上の実刑が下る可能性もある。
恐らく正当防衛とはいえ、そんな憂き目を見るわけにはいかなかった。
……まあ、出来れば殺したくない、と言う甘い気持ちも、無いわけではなかったのだが。

竜胆 薙 > 「解せません」
首を傾げたままにゆらりゆらりと歩みよる

「貴方の剣から感じたものは間違いなくドス黒い意───殺意。
 殺しを生業にしてきた私がそれを見紛う筈もありません」

光すら照り返さない黒の瞳が、零を見つめる

「けれどあなたの剣には殺意がない…矛盾しています。
 それどころか、帰る場所などと……意味がわからない」

霜月 零 > 「そりゃあ、殺しの剣だからな。
霜月流は対魔対人総合武術流派、退魔師なんて仕事やってる以上剣は実戦よりになる。芙蓉だってそうだ。
だけどな、そりゃむやみやたらに殺すとイコールじゃねえだろ。技術を持っているのと、それを無節操に使うのは別もんだ」

技術なんて極論、道具にすぎないわけだしな。と言って、肩を竦めようとして……右肩に激痛が走り顔をしかめる。

「殺しの剣でも、殺さない使い方だって出来るさ。俺は帰るべき場所を定めたんだ、そこに帰れなくなるような真似はしたくねぇんだよ」

若干恥ずかしいというか面映ゆいというかな理由だが、愛すべき恋人と、大事な妹のそばにいると決めたのだ。
だったら、軽々に殺しなどできようはずがない。帰る場所に帰る為に、不要な殺しは行わない。
それは、胸に秘めた小さな決意だった。

竜胆 薙 > 「…そういうことにしておきましょうか。
 少なくとも『今の貴方』はそうなんですね」

じぃ…と心の深くまで滲むような黒が零の顔を見つめる…が、やがて視線を外し、くるりと踵を返す

「貴方が心の拠り所を奪われても尚、憎悪に刃を染めることのない高潔な人物なら良いのですが」

霜月 零 > じ、と目を見つめ返す。
黒い目だ、と思った。単純な色彩の話ではなく、そこに秘めた光の色が、だ。
黒く濁っている、淀んだ瞳。風紀委員と言う役職からはかけ離れた……いや、寧ろ対極に見える漆黒、否、暗黒の目。
だが、それを指摘する愚は犯さない。下手なことをして、危険を増やしたくないからだ。

「……努力するよ」

自分が高潔な人間だとは思っていない、一度憎悪に身を縛られ復讐の刃を振るった身だ。
だが、拠り所を大事にするという形ででも……そういう妄執から離れられれば。
そんな風に、考えていた。

竜胆 薙 > 鞘を拾い上げ、片手で器用に太刀を納める

「……申し訳ありませんでした。
 お詫びというわけでもありませんが、何か一つ貴方の望みを聞くことにします。
 私の出来そうな範囲で、どうぞ」

じぃ、と振り返って再び見つめる
が、そこにあるのは普通の、黒い眼に戻っている

「……筆卸しとかお薦めですよ」

真 顔

霜月 零 > 「……」

あきれ顔。こいつは一体何を言い出すんだ。
そもそも筆卸しなど既に済んでいる、口にはしないけど。
何と言うか、下手なことを言うと危ない事になりそうだ。無難に留めたい。
出来そうな範囲、出来そうな範囲……それを少し考えて。

「……妹を、芙蓉を守ってやってくれ。あいつなんだかんだで近距離苦手だから」

無難、だろう。多分。多分。

竜胆 薙 > 「面白くなかったですか」
ギャグのつもりだったらしい

「芙蓉先輩を…?
 ……それは、構わないのですが……。
 大事な人が傷つくことを恐れるのなら、風紀委員を諦めさせるほうが無難ですよ。
 この学園都市の治安維持は危険と隣合わせですから」

霜月 零 > 「面白くねぇよ」

溜め息を吐きつつ、少し複雑な表情で言葉を繋げる。

「……そりゃ無理だ。
アイツはアイツなりに、真剣に風紀委員として頑張ってる。俺が『危ないから』なんて言っても止まらねぇよ。
だからな、俺に出来るのは頑張るアイツを応援することと、こうやってこっそり手を回すことくらいなんだ」

寂しそうな、誇らしそうな。
そんな曖昧で複雑な感情が、声色と表情に込められていた。

竜胆 薙 > 「そうですか、勉強し直します」
何の勉強だというのか

「彼女は子供ですし脳天気が腕章をつけて歩いているような風紀委員ですが、命の重さとそれを奪い奪われる覚悟は出来ている様子。
 ……覚悟が足りないのはどうやらお兄さんである貴方のほうみたいですね。
 刃を合わせた時に感じた、気骨のなさはそこからでしたか」

ふぅ、と小さく溜息をつく

「とはいえ此方に非があります。
 仕方ありません、芙蓉先輩の助けになれるよう尽力します」

と、そこまで言って思い出す
彼女がやたらとチームワークチームワーク言っていたのを
………少し頭が痛くなってきた
額を思い切り叩きつけたせいだろうか

霜月 零 > 「……まあ、な」

少し物憂げに溜め息を吐いて、小太刀を鞘に納める。
もう必要ないだろう。
覚悟に関しては、自分の未熟は理解している。そこをどうしていくかも悩みどころだが……今は正直、帰って寝たい。

「じゃあ、俺は帰るけどお前はどうする?一応病院行った方がいいと思うが」

なんせ割と本気で打ち付けたのだ。流石に無事であるはずがない。

竜胆 薙 > 「……」
ぺたぺた、と自分の額や左肩を撫でて

「額は切れているだけ、鎖骨は砕けていますけど、まぁ、放っておけば治るでしょう、多分」

そんなアバウトな返事が帰ってくるのだった
痛くないから平気です理論

「貴方こそ右肩はしっかりと治療しておかないと、明日腕が上がりませんよ」

霜月 零 > 「いや、砕けてるのはダメだろ」

あきれ顔。何でそれで平然としているのかとても気になるところでもあった。

「俺はまあ、治癒巫術が使えるからな。今もこっそり治療中だ」

よく見れば、肩の付近に黒いものが付着しているのがわかるだろう。
水行の巫術で、怪我を簡易的にだが治療しているのだ。

竜胆 薙 > 「別に、これくらいはよくある怪我なので平気です」

常人よりは治癒能力も高い
万が一くっつかなければ、人工骨に取り替えれば良いだけだ

「なるほど、途中から貴方への疑念が生まれたので加減したのですが、
 別に加減しなくても良かったようですね」

なんとなく怖いことを言いつつ、くるりと背を向けて

「術が使えるのであればもう少し目立たない帯刀も心がけると良いかと思います、それでは」

そのまま街灯の下を歩いて、去っていってしまった…

ご案内:「学生通り」から竜胆 薙さんが去りました。
霜月 零 > 「勘弁してくれ……」

げんなりとボヤいてから、別方向に歩いていく。

「(……武器、隠すべきかなあ)」

そんな今更なことを考えながら。

ご案内:「学生通り」から霜月 零さんが去りました。
ご案内:「学生通り」に竜胆 薙さんが現れました。
ご案内:「学生通り」から竜胆 薙さんが去りました。