2016/01/16 のログ
蘆 迅鯨 > いつもなら、夜になるまで島内のあちこちをうろついていたであろう。
だが今の迅鯨は、早く寮に戻ってしまいたいという気持ちで満たされていた。
杖をついて歩く自身の姿を、なるべく人の目から遠ざけたかった。
しかし、そのように速く歩むことも今の体では到底できそうにない。
そもそも、義足が動かなくなった原因すら定かではないのだ。

「(……ホント、不甲斐ねェよな)」

迅鯨の心に、暗い感情が満ちてゆく。
周囲を歩く生徒たちが、各々の脳内へ送り込まれた彼女の心の声を受け取ると、
ある者は怪訝そうな顔つきをし、またある者は早足で歩み去っていった。

ご案内:「学生通り」に東雲七生さんが現れました。
東雲七生 > 「ぉあ、れ?」

紙袋を大事そうに抱えたまま家路を急ぐ道すがら。
唐突な違和感を覚えてふと足を止める。
幽かに脳裏に誰かの声が聞こえた様な気がして、ぐるりと辺りを見回せば、

「ああ、えっと……名前何だっけぇ……たちばなの……。」

以前、潮干狩り中に見かけた姿が目に留まり、少し考える様に天を仰いでから小走りでそちらへと近付いていく。

「よーっす!……どしたの、足。怪我でもした?」

蘆 迅鯨 > 逃げるように歩み去っていった生徒たちの姿が視界に入ったことで、
迅鯨の目はかすかに潤みかけていた――その時。
見覚えのある赤髪の少年が、こちらに近づいてきたのが見える。

「あんた、確か……東雲、七生クン……だっけか」

視界に映る赤髪の少年の姿には見覚えがあった。
彼と初めて出会ったのは――夏。浜辺であったはずだ。

「……怪我、つうか……急に、動かなくなっちまってさ」

詳細な部分は伏せたまま、彼――七生に事情を説明する。

東雲七生 > 自分とは対照的にその場を離れる人々を怪訝そうに見遣ってから、少女の隣へと辿り着くと、にっ、と笑みを浮かべる。

「おうっ!……前に一度会ったよな!
 ……ところで、ええと……名前、何つったっけ?」

あまり物覚えが良い方じゃねえんだ、と少しばかり笑みにはにかみが混じる。
軽く髪を掻くように手を自分の頭にやって後は、腕の中の髪袋を抱え直した。

「そっか、まあ何にせよ歩き辛そうだし行く方向一緒みてえだからさ、なにか適当に話でもしつつ行こうぜ!」

寒い中一人で不慣れに行くよりはマシだろ、と笑みを浮かべたまま小首を傾げる。
そして返答も待たずにゆっくり一歩、歩き出していた。

蘆 迅鯨 > 「俺は……迅鯨。蘆迅鯨<ルー・シュンジン>」

七生が自身の名を覚えていないらしいと聞けば、
彼の顔をまっすぐに見つめ、改めて自身の名を名乗る。

「……そう、だな。付き合っても……いい、か?」

彼の言葉を受け、迅鯨の目からは小さな涙の粒がひとつ、零れ落ちる。
そして再び、ぎこちなく一歩、また一歩と歩みだすと、もう一度彼の方を向き。

「……ありがと、な」

わずかに口角を上げ、そう呟いた。

東雲七生 > 「そうそう、るー、しゅんじん!
 ……いまいち何て呼べばいいのか分かんない名前だよなー。そもそも、るーって方が苗字……だよな?」

ぽん、と手を打ち合せて大きく頷く。
独特な名前だけれど、どうも覚えらんないんだよなあと笑いながら歩を勧め、少女の数歩前に出るとくるりと踵を返して振り返る。
そこで頬に残った涙の跡に気付くと、怪訝そうに眉根を寄せた。

「ん、どうした? 痛むんならあんま無理しなくて良いと思うぞ?
 別に俺も一人で歩いてんの寒いから急いで帰ろうと思ってただけで、何か用事があるとか、そんなんじゃないしさー。」

ひらひら、と片手を振りながら気なんか使ってないアピールをする。
礼を言われる様な筋合もあんまりない、と苦笑しつつ。

蘆 迅鯨 > 「そだな。蘆のほうが苗字だ」

亡き両親が大陸系であるため、迅鯨の名もそれに準ずる形となっている。
七生の表情を見つめながら迅鯨もどうにか笑顔を作らんとしていたが、
頬を伝う涙までは、隠すことができなかったようで。

「心配すンな。痛かねェよ」

言葉では気丈に振舞おうとしていたものの、心中では。

「(……どうして、俺なんかのために……そんな)」

そう呟いてしまい、思わず顔を背け沈黙する。

東雲七生 > 「ふーん、るー……か。るー……しゅんじん。」

馴染の無い響きに改めて感心しつつ。
何て呼べばいいんだろう、と小首を傾げつつ、迅鯨と向かい合うようにして後ろ向きに歩いて行く。
幸か不幸か、対向してくる歩行者はおらず、大きな段差でも無ければ危険は無さそうだ。

「んん、そっか。
 ……ん?どうしてって、別にお前、ダチが歩いてたらスルーする方が変だろ?」

にひひ、と笑みを浮かべたまま、そう答えて。
それから何か気付いた様で、きょとん、とした顔で少女の顔を見つめる。

「あれ、今どこまで喋っ……てか、あ!そういえば!
 いっこ先輩なんだっけ!……じゃねえや、えっと、先輩なんしたっけ!」

はっ、と以前会った時の事をようやく思い出し始めて。
同時に、彼女が一学年上である事も思い出したようだ。

蘆 迅鯨 > 「……そうか。そうか……そう、だよな」

再び彼の方を向いて軽く頷いたのち、

「(ダチ、ね……)」

そんなことを考える。
彼にとって自身がその枠組みに含まれているらしきこと、それ自体は迅鯨にとっても喜ばしいことだ。
しかし自身がそれを素直に喜んで、本当によいのか――そんな思考に陥りかけつつも。

「先輩ね。そいや、そうだな。……なァに、そんな堅っ苦しいのはいいって」

二年生の迅鯨に対し、七生は一年生。学年でいえば迅鯨が一つ上にあたる。
しかし、それを理由に相手の態度が変わることには若干戸惑ってしまう。
そして少しの間を置いて、迅鯨は俯き加減になり。

「……多分、だけどよ。俺には……資格が、ねェんだろうな、ってさ」

何やら意味ありげな言葉を漏らす。

東雲七生 > 「そう、ダチっす!
 まあ一度会って話した事があって、特にこれと言って喧嘩売られたりしなければ大体ダチだと思ってるんすよ俺!」

そう言って笑う姿に嘘偽りなどは無く。
善く言えば素直、悪く言えば愚直な姿勢は七生本人に自覚はあまりない。
ともかく真っ直ぐに笑みを浮かべて肯いて見せた。

「えー、でも、まあ、そうは言っても一応そういうとこはきっちりしとかないと……」

直前まで忘れてた割には何故か食い下がったりする。
むしろ忘れていたという引け目が食い下がらせているのだろうか。
僅かに口を尖らせて眉間に皺を寄せながらも、迅鯨の言葉にこてん、と小首を傾げた。

「は? 資格……っすか?」

蘆 迅鯨 > 「そうさな」

資格がない。七生にその言葉の意味がわかりかねている様子を察し、
迅鯨はなおも言葉を続ける。

「俺はさ……本当なら、こんな風にしてもらっていいような人間じゃねェんだよ。周りの奴らが俺のために何かしてくれても……俺は全然、同じだけのものを返せてねェ。俺には返せる物なんて何もねェんだ。俺の両脚だって、サイバネの義足で……言ってみりゃ、人から貰ったモンさ。なのに、俺は」

彼にはまだ話していない事柄も多いが、母国に居た時から現在まで、
迅鯨は多くの人の手によって救われ、支えられてきた。
救いの手を差し伸べられなければ、とうに命を落としていたであろう窮地に陥ったこともあった。
しかし、それらの恩や好意に対して、自身が返すことができているものはあまりに少ないのではないか。
それどころか、逆に迷惑にしかなっていないのではないか――
迅鯨がずっと抱え続けていたその感情は、しかし抱えきることはできず、
小さな後輩の前でついに溢れ出してしまったのだ。

「だからよ……俺には皆の好意を受け取る資格はねェんだ。なのにそれに甘えてきたから……ツケが回ってきたんだ」

そして迅鯨は、己の身に突然訪れたサイバネ義足の機能停止さえも、
一種の『罰』のように考えていた。

東雲七生 > 「んー………。」

突然の独白に、七生は少し面食らった様子で居たが、
次第に真剣な面持ちになり、そして少女が話し終える頃には険しい顔で考え込む様に唸り声を上げた。

彼女のいう事が全く理解できない訳ではない。少なからず共感できる事もある。
だがその果ての結論が、七生にはどうしても引っ掛かった。

「えっと、るー先輩。
 俺が偉そうにいう事じゃないかもしんないっすけど……

 ツケが回ってきた、とかそんな資格無い、とか結論出すには早過ぎんじゃねえっすかね?
 ……だって先輩、まだ俺とそんな生きてきた年数変わんないっすよね?まだまだこれから何十年も生きなきゃなんねーのに、“出来なかった”って結論出すには早過ぎんじゃないっすか?」

明日死ぬことが絶対決まってるわけじゃあるまいし。
少しだけ背の高い少女の顔を覗き込む様にして疑問を投げかける。
何故そうも早く結論を出せたのか。七生が引っ掛かったのはそこだった。

「返せてないと思うなら、死ぬまでに何が何でも返しきりゃ良いじゃないっすか。
 返し切るまで死ぬもんか、くらいの気持ちで居りゃあ、先輩がお婆ちゃんになる頃には多分、きっと自分でも満足するくらいにはなってると、俺は思うんすけどね!」

蘆 迅鯨 > 七生の表情をまっすぐに見据え、その言葉に耳を傾けていた迅鯨。

「(早すぎる……か)」

彼の言葉が、迅鯨の心に響かなかったわけではなかった。
その前向きな言葉で、失いかけていた自信は少しだけ戻ったのかもしれない。
しかし、まだ心中の暗雲が完全に晴れたわけでもなく、
なおも渦巻いている複雑な感情が表情にも出ている。

「……なァ七生クンよ。お前の言ってるこたァ間違っちゃいねェと思うよ。けどな」

またしばしの間を置いて、続ける。

「俺ァ、そもそも……これから何十年も生きられるなんて思っちゃいねェんだ。明日どころか、運が悪けりゃ今日死ぬかもしれねェ。国にいた時ゃ、俺も周りの連中もそうだったからな。まだそれが抜けきってねェんだよ」

戦場の最前線に送り込まれ、終わりの見えない戦いを続けていた母国での経験から、
迅鯨の思考はいつしか刹那的なものとなってゆき、
それはこの常世島である程度平和な日常を経験した今でもほとんど変わっていない。

「努力はするさ。する……でもな……やっぱり、申し訳ねェよ。こんな俺のために……こんな……」

うまく言葉が続かず、歯を食い縛りながら、杖の持ち手をより力強く握り締める。

東雲七生 > 「思っちゃいないなら、思う!
 申し訳ないと思うんだったら、その分何が何でも生きて返し切る!」

びしっ、と無礼も忘れて迅鯨の面前に指を突き付けつつ。
キッ、とあどけなさが勝りがちだけれど真剣な表情で真っ直ぐ少女見据えて七生は続ける。

「それが筋ってもんっしょ!
 そうやってうじうじ腐ってる方が、よっぽど失礼ってもんだと俺は思うな。
 本当に申し訳ないと思ってんなら、今の自分にとって返し切れないと思うんなら、
 その分生きて、恩恵に見合った器にならなきゃ!そんでもって、今度はるー先輩が誰かの力になれば良い。

 いや、むしろ。
 ならなきゃいけないんじゃねえの!」

ふんー、と鼻息荒く捲し立てて。
ハッ、と我に返ってからわたわたと取り繕う様に手を振り。

「あっと、すいませっ、つい熱くなっちゃって。
 ……でも、それが先輩の通す筋なんじゃ無いっすかね……
 まあ、先輩に限らず、俺も、誰しもそういうとこあると思うけど……」

蘆 迅鯨 > 「(俺が誰かの力に?馬鹿ぬかせ。今だってこんな何の役にも立たねェ異能なんか持って厄介者扱いされてる俺が、人の役に立てると思うかよ)」

自身に向け突きつけた指、そしてその視線と同じくらいに真っ直ぐな言葉を紡ぐ七生の姿を直視することなく、
迅鯨はそんな思考を巡らせた後、はあ、と一つ大きな溜め息をつく。

「筋、ね……」

そして手を振る彼の姿については意に介することなく、
彼の話が済めばぽつりとそう呟き、俯き加減だった顔をゆっくりと上げ。

「……ハハ、面白ェ。七生クン……お前みてェにとことん真っ直ぐな奴ァ、俺の見た中じゃ珍しいぜ。超レア物だ。もっと早くお前みてェな奴に会いたかったよ」

彼と再び視線を合わせれば、迅鯨は自嘲的な笑みを浮かべて語る。

東雲七生 > 「んなの、やってみなきゃ分かんないっしょ。
 何もしないで結果が分かれば、それほど楽なことは無いっすよ。」

まったくもう、と少し不満げに唇を尖らせると、こちらへと自嘲的な笑みを向ける少女を見て。
まだ不満の残る表情のまま、少しだけバツの悪そうに頭を掻いた。

「別に……せっかくこうやって生きてんだから、俺はいつか後悔する様な事はしたくないってだけっすよ。
 自分の意に反した事をすりゃあ、そりゃいつか絶対後悔になって返って来るもんすから。
 
 あ。

 今思ったんすけど、先輩が助けて貰ったと思ってる事の中にも、別にそんなつもりは全然なくて、
 むしろ先輩の力になれた事で本懐を遂げてるものもあるんじゃないっすかね?」

一方的に先輩が借りだと思ってるだけで、と。

蘆 迅鯨 > 「後悔、か。そりゃあ……後悔は、したくねェわな」

この常世島で暮らす事となって以来、
ひたすらに現在の快楽のみを求めるような生活を続けてきた今までの迅鯨には、
後悔といえる後悔も少ない。しいて言えば、今までで最大の後悔は――そんな事を考えた時、
迅鯨の脳裏には、長いブロンドの髪と透き通るような青い瞳を持った一人の少女の姿がおぼろげに浮かびあがる。
そのイメージもまた、迅鯨が持つ異能によって七生の脳内にも伝わるだろうか――。
続けて、彼の問いに対して答えを考えようとしてみる。

「俺の力になれた事が本懐だって?まあ……そんな変わった奴もいるだろうよ。一人や二人、ぐらいは……な」

思い当たる節は、いくらかある。
しかし迅鯨のテレパシー能力は送るだけで受け取ることはできない以上、
その時相手が何を考えていたかをはっきり当てることは不可能であり、
その辺りは普通の人々と同様に推し測るほかない。

東雲七生 > 「だから、正直、そうやってうじうじ悩んでる先輩の気持ちはよく分かんねえっす。
 返せないと思うんなら返せるまでがむしゃらにやってくしかねえ、って俺は思うんで。」

脳裏に浮かんだ少女の姿には、軽く首を傾げるのみで。
何故思い当たる節の無い少女の姿なんて思い浮かぶのだろうか、と。
しかし今の話と関係ない、と頭の中から掻き消すと不敵に笑みを浮かべる。

「だから、先輩が勝手に助けて貰って恩義を感じてるってだけで、実は全然そんなこと無かったって事もあり得ると思うんすよね。
 手を差し伸べるなら誰でも良かった、なんてまあ変わった趣味の持ち主も全くいないって訳でもないでしょーし。
 それよりも、いちいち覚えててちゃんと恩を返そうとする先輩の方が妙に律義で可愛いように思えるんすけどね。」

あはは、と終いには声に出して笑ってから、はたと我に返り。
今のは失言っした、と口を押えて目を逸らした。

蘆 迅鯨 > 「っ……そ……そん、な」

恩を返そうとする先輩の姿は律義で可愛い――
その言葉に迅鯨の頬が紅潮し、しばし返す言葉もなく恥ずかしげに俯く。
寒さのためか、あるいは長時間松葉杖で立ち続けていることに耐えかねたのか、
迅鯨の両腕は若干震えだしていた。

「……す……済まねェな。こんな話、付き合わせちまって」

先程までの態度とは異なり、どこかしおらしくなった様子の迅鯨は、
決して明るくも楽しくもない話に後輩を長々と付き合わせてしまったことを、まず詫びようとする。

東雲七生 > 「いや、俺の方こそ。なんか長引かせちゃってスイマセンっした。」

ぽり、と頬を軽く掻いてから腕の震えを見て取ると。
長い事立ちっぱなしだった事を思い出して、更に迅鯨は松葉づえを使っている事を思い出し、辺りを見回した。

「ちょっと、どっかで一休みします?腕、しんどそうっすよ?
 ベンチとか探せばどっか近くにありそうな気もするんすけど──

 あ、何なら少しの間俺が支えましょっか?」

これでも日頃の鍛錬の賜物でだいぶ腕力もついてきたのだ。
自分と同じ背丈の少女を支えるくらい容易いという自負もあった。

蘆 迅鯨 > 「そうだな。俺ちゃんちょっとばかし疲れてきたぜ。どっか適当な場所探して休んだほうがよさそうだな」

実際に腕の疲れを感じていたため、休憩をとりたい気持ちはあった。
なのでその提案は素直に受け入れるが、

「いいよ。まだ一人で歩けらァ。それにココを頼ったらリハビリになんねーだろ」

七生に体を支えてもらうことについては意地を張って断ろうとする。
迅鯨にとって彼の気持ちが嬉しいものだったことに違いはない。
しかし、リハビリについては一人で行える部分は行っておきたいと考えていた。

東雲七生 > 「それもそっすね。
 んじゃあ、ちょっとベンチ見つかるまでの間だけ、頑張ってください!」

苦笑しつつ頷いて、申し出を取り消した。
リハビリ、と称するからには彼女自身の力のみでどうにかした方が良いと言うのは全面的に同意である。
七生に出来る事は最寄りのベンチを探すことだけだ。

「座れそうなトコ見っけたらすぐ知らせるんで!
 ともかく、先輩は前に進む事を考えて下さいっす。
 あと、腕が限界になったら流石にその時は支えるから、ちゃんと言うんすよ!」

リハビリとは別段無理をする事じゃない。
そう念押しもしておいて、きょろきょろと七生は辺りを見回し始めた。

蘆 迅鯨 > 「おうよ」

先程までの暗い態度が嘘のような笑顔を見せた後、
片方ずつ杖をついて、再び歩き出さんとする。

「ん……しょっ」

ゆっくりとした速度ではあるが、先程と同じように歩むことはできている。
歩道の状態についても今のところ問題はない。
七生が座れそうな場所を見つけてくれるまでの間は、
この調子で寮の方向まで歩みを進めていくことにする。

東雲七生 > 「んっす!
 ……その調子っすよー!
 どんだけしんどくっても、一歩前に足を出せば、ちょっと前には進むんすから!」

少女の笑顔に呼応する様に一際眩く笑みを浮かべて。
以前海で会った時は捉えどころの無い人物だと思っていた事を密かに改める。
意外と根は真面目な性格であるらしいこと。そして、それ故に後ろ向きな思考に陥りがちである事。
あまり深く詮索しようとは思わなかったが、それなりに暗い過去がありそうだという事を付け加えて、

「……そりゃあれだけのモノが付いてたら松葉杖はしんどいよなぁ。」

ぽつり、ベンチを探す名目で少し距離を置いた時に小さく独りごちた。
そうしてそのまま、時折ベンチを見つけて誘導しつつ寮まで送り届けるつもりだろう。

ご案内:「学生通り」から蘆 迅鯨さんが去りました。
ご案内:「学生通り」から東雲七生さんが去りました。