2016/01/30 のログ
ご案内:「学生通り」に東雲七生さんが現れました。
東雲七生 > 「えっと、モモとぼんじりと……あと鶏皮と軟骨!全部三本ずつ!」

夕暮の学生通りに七生の元気の良い声が響く。

『焼き鳥・鶏源』
七生の知り合いの上級生が経営するこの店は、七生が下校途中や日課のランニング後に立ち寄る店の一つである。
焼き鳥、と名乗ってはいるものの、その実串に刺さった肉はニワトリのそれではない。
転移荒野やその周辺に現れる事のある、鳥型の魔獣を捌いて調理して売っている店である。
そういう店は、基本、異邦人街に多く見られるが学園地区にも全く無い訳ではない。物好きな学生が店を構える事が間々あるのだ。

『おうっ、今日はサンキューな東雲。』

頭にねじり鉢巻きをした浅黒い少年が紙コップ一杯に串焼きを詰めたものを七生に手渡しながら声を掛ける。

「良いんすよ、先輩の頼みっすから!
 それよりこんなにいっぱいゴチになっちゃって悪いっすね!
 んじゃ、また!バイト頑張ってくださいー!」

いつもと何ら変わりない調子で七生も応える。
紙コップを受け取って店主の少年に別れを告げると、上機嫌で通りを歩き出した。
焼きたての串焼きから香ばしい匂いが上ってくる。今このまま歩きながら食べてしまうか、それともどこか腰を落ち着けて食べるか、七生は少し悩んでいた。

東雲七生 > 「ふぅー、たまにはサッカーしてみるのも悪くなかったなあ。」

ひとまず何処か座ってから食べよう、と決断してベンチを探しつつ学生通りを歩く。
七生の他にも生徒の姿が多く見られる。
各々バイト先に向かったり、帰宅すべく駅に向かったり、商店に寄り道したりと様々だ。

「ついでに焼き鳥も奢って貰えたし、運動出来て肉も食える。最高だな!」

七生は今日、先の店主の頼みでサッカー部の応援に出向いたのだった。
詳しい話は七生も良く知らないが、OBとの交流試合があるとかで頼み込まれてしまった上に串焼きの奢りまで付けられてしまっては断り様が無い。
東雲七生、わりと押しに弱い性格である。
なお、結果は現役生チームの勝利で終わり、串焼きの奢りがちょっとグレードアップして好きな串焼き2種3本が4種3本となったのだった。

東雲七生 > 「にしても、サッカーボールってのは案外脆いんだな。」

七生がサッカーの試合前に注意された事は3つ。

・手でボールに触れない
・相手チームに意図的な攻撃はしない
・異能および魔術は使わない

どれも基本的な事ばかりであり、七生もそれなりにサッカーという球技についての知識はあったのだが。
結果を言ってしまうと、サッカーボールが3つほど破裂し、さらに4つほどどこか遠くまで吹っ飛んで行った。
全て七生の鍛えに鍛えた脚力の仕業である。
どうしても気分が高まってくると加減が利かなくなってしまうのは反省すべき点だ、と前半終了時点で自分を戒めるほどだった。

「まあ、最後の方は殆ど普通に出来たし、いい経験だったと思おうっと。」

ぽじてぶぽじてぶ、笑顔で都合の良い事を呟きながら串焼きを食べるベンチを探して七生は進んでいく。

ご案内:「学生通り」に日下部 理沙さんが現れました。
日下部 理沙 > 丁度、七生の視線の先。学生通りの隅の休憩スペース。
そのベンチに、新入生、日下部理沙は座っていた。
手にはたこ焼きが一舟。視線は遥か遠くの空。
大きな翼を窮屈そうに縮めて、理沙はぼさっと空を眺めていた。

しかし、その視界の隅に、見覚えのある赤髪が映ると、そちらに視線を巡らせる。
 
「あ……東雲さん」
 
出た台詞は、そんな間抜けな呟き一つ。

東雲七生 > 「お、ベンチはっけーん。」

寒空の下、いつまでも串焼きが暖かいままでいるはずもなく。
ちょっともう座るの諦めて歩きながら食べちゃうか、と思った矢先。小奇麗なベンチを道の端に見つけた七生は小走りでそちらへ向かう。
そして先客に気付くと、ぱちぱちと目を瞬かせてから、くにゃりと笑みを浮かべた。

「あっ、日下部じゃん!
 よーっす!お前も今帰り? あ、隣良い?」

笑みを浮かべたままベンチの、日下部の前で足を止める。
もしかしたら誰か待ってるのかもしれない、と相席をしていいか確認もしつつ。

日下部 理沙 > 「え、あ、はい、勿論! ど、どうぞ」
 
急に勢いよく話しかけられて、つい理沙はどもりながら席を詰める。
翼が僅かに揺れて、それに追随するように理沙もよじよじと移動していく。
 
「えと、今日は……トトさんは御一緒じゃないんですか?」

東雲七生 > 「さんきゅー!」

自分が座るに十分なスペースが確保されたのを確認して、日下部の隣に腰を下ろした。
ようやっと食える、と手にしていた串焼きに視線を落としたところで横から尋ねられて、ほぇ、と気の抜けた返事をしてから、

「ああ、トト? まあここのところはあんまり時間も合わなくてさー。
 そのうち暇があったら遊びに誘おうかと思ってんだけど。」

日下部 理沙 > 「あ、そうだったんですか……なんだか、いつも御二人一緒というイメージがあったので……」
 
間違いなく初対面時のイメージがこびり付いているだけであり、それは理沙も多少なり自覚しているのだが、それでもついそう尋ねてしまう。
それくらいに、理沙はこの七生と言う少年が「一人」でいることを珍しく思っていた。
 
「東雲さんは……御友人が多そうですし」
 
だからこそ、でた台詞も疑問もそんなところで。
冷めてこそいないものの、手元のたこ焼きには何時まで経っても手がつかない。

東雲七生 > 「あはは、まあそう思われてもしゃーねーかなあ……。」

言うほど一緒に居る訳でもないし、むしろそう思われてしまう相手は別に居る。
ただそれをいちいち訂正してもしょうがないので、愛想笑いで誤魔化しつつ串焼きを一本、紙コップから抜き出した。

「んー、まあそれなりに居る方だと思うけど。
 ほら、髪も目もこんな色してるから割と目立つしさー。」

自分としては不本意だけど、と苦笑しつつ串に刺さった肉を咥え、そのまま頬張る。

日下部 理沙 > 言われて、つい視線が、その相貌から頭上へと移動する。
宝石のような紅い瞳と、朱砂を塗したような鮮やかな紅髪。
人外魔境宛らのこの常世島ですら、その紅いシルエットは否が応にも人目を引く。
 
それがもし、外でだったら、どうなったことか。

「……東雲さんの髪や瞳も、やはり……異能で?」
 
つい、そう尋ねる。
少し、落ち着いた声色で。
ただ、静かに。

東雲七生 > 「ううん、どう説明したら良い物か……」

日下部の問いに、串焼きの串を咥えたまま小さく唸り声を上げる。
東雲七生にとって、常世学園入学より以前の記憶は無い。
否、無い訳ではないがあまりにも不完全なそれを自分の記憶とするには心許無すぎる。
そして常世学園入学後には異能も使えていたので、異能が使える様になる前の記憶というものが無いに等しかった。

「正直言うと、分かんないんだよなー。
 一度黒染めしようとしたんだけど、何だかんだで失敗したし。色的に関係ありそうだけどさ。」

おおよそ見当違いであろう返答をする。
もし、仮に、自分の中の違和感を押さえつけて過去の記憶を参照するのなら、入学以前。この島に来る前から七生は赤髪赤眼であったと言えるのだが。
どうしてもそう答える事は、出来なかった。

日下部 理沙 > 「あ、ああ、そうだったんですか」

七生が珍しく返答を濁したことを確認して、理沙は後悔する。
聞いてはいけないことだった。
当然だ、異能に関しては誰でも苦い過去の一つや二つはある。
いや、むしろ、異能に限らないことかもしれない。
それに対して土足で踏み入る様な真似は、不躾と言う他ない。

「すいません、ヘンな事を聞いて……」

深く頭を下げて、謝意を示す。
己の無神経さに、泣きたくなった。
 

東雲七生 > 「いや、別に良いって、謝られるほどの事じゃねーしさ?」

それに、何か勘違いしてるみてーだし、と苦笑しながら首を振る。
まあ伝わり難い返答をしてしまった自分にも非があるのだが、こればっかりは上手く説明出来る自信が無い。
自分の記憶が造り物としか思えないなんて、居候先の少女くらいにしか話したことは無いのだから。

「いっぺん異能が使えなくなってみたら判るかもしれないけどなー。
 けどまあ、俺の異能って使用不可能レベルまで行くと大抵気を失ってんだわ、俺。」

貧血で、と。
以前一度それくらいまで異能を使った事はあったのだが、意識を取り戻した時には既に輸血が施され異能も問題無く使える状態であった。

日下部 理沙 > 「貧血……そんなに、過酷なんですか?」
 
血を対価にする異能なのだろうか。
まるで吸血鬼のようだ、とおもったが、七生の容姿をみるとそれも多少は納得できる。
ジュブナイル小説に良く出てくる優しい吸血鬼といった容貌に見えないこともない。
事実、理沙も七生の外見を含めた人柄故に、ある程度話しやすく感じているところはある。
だからこそ、先ほどのような不躾を働く原因にもなってしまったわけだが。
 
「やっぱり……そういう異能って、辛いですよね」

東雲七生 > 「いやさー、前にファミレスで飯食ってたらドンパチに巻き込まれてさー。
 そん時にちょっと使い過ぎて。」

そういやそもそも自分の能力について詳しく話してなかったっけ、と今更ながら思い出す。
説明自体は簡単に済むが、果たしてそれを聞いて隣の少年が妙な気を使ったりしないかだけが少し心配だった。
よって、結局能力の詳細はぼかしたままで話を続ける。

「んまあ、大体は飯しっかり食って運動しとけば何とかなるんだけどな!
 次は貧血で倒れるなんてやらかさないように気を付けるだけ、みてーな!」

日下部 理沙 > 「あ、ああ……じゃあ、戦える異能なんですね」
 
そういった能力がほぼ無い理沙からすれば憧憬に値する。
誰かを護り、脅威を退ける事が出来るその力は、さぞや多くの人に望まれるものであろう。
それを十全に扱えるレベルにまで昇華させたのが彼の強さと言えるのかもしれない。
故にだろうか。そんな強い七生にだからだろうか。
 
「東雲さんは……自分の異能が好きですか?」

理沙は、尋ねた。
強い彼なら、どう答えるのだろうかと。

東雲七生 > 「まあな!
 ……とはいえ、あんまり積極的に使うのは……」

好きじゃない。そう続けようとして日下部の問いに言葉が停まる。
なるほど、そう来たか。心中でそんな風に呟きながら言葉を選ぶように視線を彷徨わせて、
結局上手い言い方が見つからず、ふぅ、と息を吐いてから口を開いた。

「いんや、元々俺は自分の異能はあんまり好きじゃねえんだ。
 出来ればこんなもんに頼らないくらいには、強くなりたくて毎日体鍛えてるし。」

そう答えた後、自分の掌を見遣る。
お世辞にも逞しいとはいえそうにない、何処か頼りなげな華奢な手だった。

日下部 理沙 > 七生の回答に、理沙は……瞠目する。
見下ろすその手は確かに細かった。
きっと、その小さな手の平には収まるものはそう多くない。
それでも。

「……なんで」

息が、詰まった。
 

「なんで、ですか」

目が、渇いた。
 
「なんで、自分の異能が……嫌いなんですか。
戦えて、誰かを守れて、頼ることも、頼られることも出来る異能なのに。
どうして、『疑う』んですか」
 
一気に、捲し立てる。
そこでようやく理沙は気付く。
やっと気付いた。そうだ、そうなのだ。
きっと、理沙は最初から、一目見た時から、ずっと……そう思っていたのだ。
 
異能を十全に扱い、友を持ち、常に輪の中にいても違和感なく。
それでいて、力を持った強い七生をみて。

妬ましい、と。
 

東雲七生 > 「んーとな……別に能力を疑うってわけじゃねーんだけど、」

捲し立てられ、少し気圧されながらも決して怯みはせず。
真っ直ぐにこちらへと言葉を投げてくる日下部を正面から見据え、最後まで聞いてからゆっくりと言葉を紡ぎ始める。
自分の中の想いを言葉にするのは難しいということを嫌でも知っているから、
それでもこうして感情をぶつけてきた日下部への最低限の礼儀として。
誤魔化したりぼかしたりせずに。

「俺の異能、多分ある程度の見当はついてると思うけどさ。
 血液を操るんだ。あくまで自分の血で、体の外に出た物じゃないとダメなんだけどさ。
 ……まあ、他の手段はあるけど大抵俺が異能を使うのって怪我しなきゃ駄目なんだよ。傷つくのが前提なわけ。
 そんでさ、逆の立場で考えてみたわけよ。
 俺がもし、何の力も持たない身だったとして、同じような能力を持った人に守られる側になったとしたら、って。」

そこで一度息を吐いて、少しだけ遠くを見る。
実際に守られたという経験があるわけではない。だからあくまで七生の想像の域を出ない訳ではあるが、

「怪我人に守られるのって、やっぱり不安だし、自分を守る為に怪我を負われたって後ろめたさも出来ちゃうわけじゃん。
 ……少なくとも、俺はそう思う訳よ。
 だから、俺がもし誰かを守る事があった時は、その時は、出来れば自分も相手も無傷でありたいんだ。
 その為には、“傷を負わなきゃ使えない武器”なんて、足枷にしかなんねーんだよ。」

綺麗事だけどさ、と付け足しつつ少しだけ困った様に七生は笑った。

日下部 理沙 > 奥歯を、噛み締める。
確かに、七生の異能はある程度予想しているものではあった。
血を操る異能。貧血が多発するならそれは十二分の想定範囲内といえる。
だからこそ。
そうであるからこそ。
理沙にとっては、その言葉は……やはり、嫉妬の対象でしかない。
 
「本当に……綺麗事ですね。
戦う以上、きっと血は流れます。
この常世島は、あらゆる異能者がいます。
あらゆる魔術師がいて、異邦人もいます。
それどころか、正真正銘の化物まで時にはでると……風紀委員の広報で聞きました。
なら、そんな連中を相手取って……無傷で済まそうだなんて、綺麗事を通り越して、ムシが良すぎるワガママだとすら思います」
 
一度噴出した淀んだ感情は、留まるところを知らない。
当て擦りをしたにもかかわらず笑顔で返してくる七生を見れば、理沙の惨めさは加速する。
故に出る言葉は最早悪意の濁流であり、害意の噴出でしかない。

「だけど……」

だが。それでも。

「……気持ちは、わかります」

彼が真摯であると分かる以上。
『嘘』は、つけない。

「綺麗事でもなんでも、『そうしたい』と思うなら……そうするしか、きっとないんだと、私も思います。
そして、それに真正面から挑もうとする東雲さんは……きっと、あらゆる意味で。
その人柄と……その覚悟のおかげで、今の位置にいるんだろうとも」
 
そんな自分にも笑うほどの、『強者』を相手に。
臆病な理沙では……挑む事すらきっとできない。
 
「東雲さん。一つ、きいてもいいですか」
 

東雲七生 > 「まあ、だろうな。
 綺麗事だとも、ワガママだとも解ってんだけどさ。

 やっぱ、ヤなもんはヤなんだよなぁ。」

それに、そんな綺麗事やワガママを通せるだけの強さでなければ。とても守れそうにない約束が、あるのだ。
七生は苦笑を浮かべたまま軽く頭を掻いた。
日下部の言い分もよく分かるし、至って普通の、当然のものだと思う。だから何を言われようと反論する気は、七生には無かった。

「おうよ、やるしかねーんだよなあ。
 何年掛かるか分かんないし、そもそも死ぬまでに達成できるかも分かんない。
 俺の一人の力じゃ無理難題にも程があるっつーのは解ってるけど。」

それでも、やりたいから。やらなきゃならないと、思うから。
自分自身に呆れてるように、それでも笑顔を浮かべながら七生は肯いた。

「ん? 何さ、改まって。」

日下部 理沙 > 「あくまで、仮の話なんですけどね」
 
一息ついてから、理沙は少し遠くをみて、尋ねた。

「仮に」

呟くように。囁くように。
 
「飛ぶことができない翼がある日生えて。
その翼のせいで飛べない人達からは努力不足と詰られて。
その翼のせいで飛べる人達からは紛い物と嘲られて。
その翼のせいで故郷から追い出されて島流しにされて。
でも、流された先の島で、『この飛べない翼でも出来ること』を期待されたとき。
だけど、それすら『飛べない事の言い訳に過ぎない』と言われたとき。
東雲さんだったら、どうしますか」
 
ただ、そう尋ねる。
ただの、仮の話を。

東雲七生 > 「仮の話ね……」

ほんほん、と頷いて。
日下部の話を聞いて、あくまでも仮の話と前置きされているにも関わらず真面目に。
眉間に皺を寄せて考える事数分。

「別に、言い訳にすぎなくても。
 その翼で出来る事を考えるだろーな、って思うかな。

 良いじゃん、別に今は言い訳でも。
 だって、もしそれで『何か出来ること』見つけられたら、
 同じように、どっか他の場所で飛べない翼を持った人が居たらさ、そいつの助けになるかもしんねーじゃん。
 だから、俺は必死こいて色々やってみると思うわ。」

にっ、と子供っぽい満面の笑みを浮かべて。
当たり前の様に、やっぱりどこか綺麗事めいたことを口にした。

日下部 理沙 > その答えは、単純だった。
それでいて、明白だった。
 
自分が数ヵ月。いや、厳密に言えば数年悩んでも出なかった答え。
それをものの数分で。いつも通りに無邪気に笑って。
 
『言い訳』でも構わない。
やれることをやる。
 
言葉にすれば全く簡単で。
だからこそ、余りに険しい道に思えるが。
故に。
 
「……だからこそ、東雲さんは……強いんでしょうね」
 
挑むに、値するのだろう。
 
「ありがとうございます、東雲さん。
妙な質問に、ちゃんと答えてくれて」
 
理沙は山の高さを見て諦めていた。
でも、七生は違うのだろう。
 
彼はそもそも、高さなど省みない。
 
そうするべきと思えば、それでもう進む。
きっと彼は、そういう強さをもった男なのだろう。

「東雲さんはやっぱり……いい人なんですね。底抜けに」
 

東雲七生 > 「別に強かねーよ。」

変な事言うなよな、と笑いながら手元の串焼きを口へ運ぶ。
すっかり冷めてしまった肉片を飲み込んで、ふぅ、と照れ隠しに大袈裟に息を吐いてから、

「強くはねーさ。ただ、弱いままで居たくねえだけ。
 それにほら、俺頭もそんなにいい方じゃねえからさ。
 考えるより動いちゃった方がどうにかなる事の方が多いし。」

ただの串だけが入った紙コップを片手に、けらけら笑いながら応える。
人から見れば強く見えても、まだまだ力が足りない事が山ほどあるのは七生自身が一番知っている。
しかしそれは、七生にとってはまだまだこれからやれる事の一覧でしかなかった。

「おうよ、どーいたしまして!
 ……って、何だよそりゃ。褒められてんのか貶されてんのか分かんねーぞ。」

むす、と少しだけ拗ねたように頬を膨らませた後、
再び、へにゃり、と顔を綻ばせた。

日下部 理沙 > そこで、理沙は少しだけ笑みを浮かべて。
もう冷めてしまったたこ焼きをまとめて頬張り、一息で飲み込んでから、立ち上がった。
 
「褒めてますよ。正直、そういうところ羨ましいですから。私にはないんで」
 
以前よりはいくらか忌憚なくそういって、翼を揺らす。
若干、開き直ったように。
 
「それに、やっぱり東雲さんは強いと思います。
そうやって、動ける人は強い人ですから」
 
そのまま、大きく一度伸びをしてから振り返り。
七生の紅い瞳をみて、蒼い瞳の理沙は呟く。
 
「私も、そうなれたらいいなって、いつも思いますから」
 
羨む理由は何か。
妬む理由は何か。

結局、答えはそれでしかない。
 
「今日は本当に、ありがとうございました。東雲さん。
それじゃあ、講義はあるので私はこれで」
 
簡単にそういって。理沙は去っていく。
いくらか軽い足取りと。

「『また』、どこかで」

いくらか、軽い口ぶりで。 

東雲七生 > 「そうかあ……?
 日下部だって、それなりに良い奴だと思うけどな。」

んー、と首を傾げながらもどこか満足げに一度頷いた。
日下部の言葉に嘘偽りが無い事を嗅ぎ取ったのだろうか。

「んー、そうなのかもしんねえけどさ。
 強いから動けるんじゃなくて、動いたから強くなれるんだと俺は思ってる!」

あくまで結果論を主張しつつ、日下部の目をじっと見返して。
何度目かの、破顔。

「なりてえんなら、なってみようとすりゃいーじゃねーか。
 ごちゃごちゃ考えるより動いた方が、割と何とかなるもんだって、さっき言ったろ?」

難しい事じゃないんだ、と付け加えながらも七生も席を立つ。
簡単な挨拶と共に歩き出した日下部の背を見遣り、うん、と一度大きく頷いて。

「おうっ!じゃーな日下部!またなー!」

ぶんぶん、と大きく手を振りながら見送って、その背が小さくなったところで七生も歩き出した。

ご案内:「学生通り」から日下部 理沙さんが去りました。
ご案内:「学生通り」から東雲七生さんが去りました。