2016/01/31 のログ
ご案内:「学生通り」にマリアさんが現れました。
マリア > 大きな袋を両手に提げて店から出てきたのは黒いワンピースを身に纏った少女。
透き通るような白の肌と,プラチナのロングヘアが月明かりを反射して,彼女の姿は闇夜でも良く目立っていた。

「このくらいでいいかしら…。」

嬉々とした表情で,少女は袋の中を覗き,ふふふっ,と、楽しそうに笑った。
この島に飛ばされてからずっと,手持ちの少ない衣装でやりくりしていたが……ついにその苦労からも解放される。
それだけではない、この少女にとってこれが実は、人生初の“お買い物”であった。

……故に、買い過ぎてしまったわけである。少女が1人で持つ荷物としてはぎりぎりの量だろう。
そして,今日の夕飯に使うはずだったお金も全て、つぎ込んでしまった。

マリア > 買い物、というのはこんなにも楽しいものだったのか。
自分で選んだものが、自分の所有物になる。今からそれを自由に使える。
こんな素晴らしいことが、この世の中にはあったのだ。

「帰ったら着てみなくちゃ。…あ、でも、あの部屋、鏡が無いわね。」

袋を置いて、絶望的な軽さの財布を覗く。
ここ数日で学んだお金の価値からすると,リンゴが1つ買えるくらいのお金しか入っていない。

やってしまった。

マリア > そもそも、もう殆どの店はシャッターを下ろしてしまっている。
手鏡くらいは扱っている店があるかもしれないが、この荷物をもって探すのは一苦労だ。
あれもこれもと、目についた素敵な洋服や小物を衝動買いしてしまったのが大いにあだになった。

「仕方ないわね…窓ガラスでも少しくらい、映るかしら。」

気を取り直して、ふくろを持ち上げる。ようしょ、と小さな声が出た。

マリア > ふらふらと歩いて,肉屋の前で足を止めた。
店先で焼き鳥を焼いているようで,とても美味しそうな香りが漂っている。
そこではじめて、お腹が鳴りそうなくらいに、空腹である事に気付いた。
服にテンションを全て持って行かれていたけれど、身体は正直なのである。

「あー………。」

しかし、どうだろう、今ある手持ちのお金で足りるのだろうか。
勇気を出して聞いてみるべきか。けれどそれで足りなかったら申し訳ない。

なお、現時点でマリアの手持ちは日本円にして50円程度。
焼き鳥は買えない。現実は非情である。

ご案内:「学生通り」に黒兎さんが現れました。
マリア > いや、よく考えよう。衝動買いで失敗したと、いま感じたばかりじゃないか。
この匂いに負けて最後のお金を使ったら、きっとまた後悔することになるに違いない。
自分にそう言い聞かせて、焼き鳥のスルーを決め込む。

「………。」

しかし、そこまでに約1分30秒ほどかかってしまった。
道の真ん中で無駄にデカい袋を提げて、ぼーっとしていれば目立つのは必定だろう。

黒兎 > 廊下での暇つぶしを終えた私は、
下校するために学生通りを歩いて居た。

夕飯時直前、日も落ちかけており、人通りも昼間程ではない。
然し、ひときわ目を引く少女の姿がある。
大きな荷物を持ち、焼き鳥屋の前で惚けているのだ。
加えて言えば、何とも同族らしい見た目をしている。

気になるのは当然の事である。何しろ、私は退屈なのだ。
―――先のような物騒な出会いにならない事を願いながら、
私はその色白の少女、に、声をかける。

「………欲しいのか?その焼き鳥。」

私は、諦めてスルーしようとする少女を呼び止め、
指先で焼き鳥を指し示す。

マリア > 何と言う運命の悪戯だろうか。
スルーを決め込んだその瞬間に、声が聞こえる。
それは、自分の中に住む悪魔のささやき、というわけでもなさそうだった。

「えっ……、あ、えっと……!」

荷物を持ったままに視線を向けて、露骨に慌てた表情を見せる少女。
首を横に振ったり、でも、その後縦に振ったり、数秒の混乱の後に、

「欲しいけど、これ見て……!お金、使い過ぎちゃったの。」

両手の大荷物を示して、ばつが悪そうに答えました。

黒兎 > 「ああ、それは解る。
 だが私は、少女の金銭の有無ではなく、
 あれが食べたいのかどうかを聞いているのだ。」

うむ、なんと可愛らしい生き物だろうか。
赤目は、私の同類である事を示すものか、
はたまた偶然そういった目なのかは分りかねるが。

一先ず、欲しいという言質が取れているならば問題ない。

「これを一つ。」

私は、焼き鳥を1本買うと、
なんとも愛らしい所作の少女に手渡す。

「その可愛らしい仕草と、その赤目への贈り物だ。受け取るといい。
 ……偶々だが、私も赤目でな、袖触れ合うも多生の縁、というやつだ。」

私は、自分の赤目で少女の赤目を覗き込みながら、
焼き鳥の先でなんとなしに自分の目を示す。

マリア > 少女の瞳は確かに“血”を思わせる紅色の瞳をしていた。
けれど、吸血鬼のような深い紅ではなく,色素が抜けたような薄い紅。
そして、両手に荷物を持ったままの少女は、

「食べたいは食べたいけど……って、あ、ちょっと待って!!」

焼き鳥を購入する初対面の相手を止めることが出来なかった。
慌てて荷物を下ろしたけれど、時すでに遅し。
差し出された焼き鳥を前に、あうあう…、なんて狼狽している。
目の色には、言われて初めて気付いたらしい…それに気づいて、この落ち着きの無い少女はぱっと、表情を明るくする。

「え…ほんと!? わ、すごい偶然!
 でも、駄目駄目、私だけが貰っちゃ不公平じゃない。」

んー、と、少し悩んでから、はっと何かを思い出す。
右手に持っていた袋を漁って…小さなイルカの髪飾りを差し出した。

「代わりじゃないけど、これ、私からその赤目への贈り物ってことで…!
 私、生まれて初めてよ、私と同じ色の目をしてる人と会ったの!」

黒兎 > 「ふむ、では交換だな。
 ―――ありがとう、実に可愛らしい髪飾りだ。」

私はイルカの髪飾りを受け取ると、
代わりとばかりにその手に焼き鳥を握らせる。
焼き鳥は然程高価なものではない。エビで鯛を釣った気持ちである。

私は髪飾りをその場でつけると、少女に向けて微笑みかける。

「どうだ、美少女は何をつけても似合うだろう。

 然し、ふむ、この学園ではそう珍しいものではないと思うがな。
 若しかして、この学園に来てまだ浅い……日が経っていないのか?」

マリア > 「可愛くてつい買っちゃって…とっても似合ってるわ。」
自分で自分の事を美少女、なんて呼ぶ人は初めて見た。
…けれどもしかしたら、外の世界ではこれが普通なのかも知れない。

そんなことを考えつつ、受け取った焼き鳥を、頬張る。
………どんな材料で作ったタレなんだろう、これまで食べた鶏肉のなかで、一番美味しい。

「……………。」

一瞬、声を失うくらいにはそのおいしさに感動して、
それから、慌てて、
「あ、ごめんなさい!
 えっと、この島に飛ばされてきたのは3日前で…
 …実は私、公安委員会?の人意外と喋るのは、初めてなの。」

黒兎 > 「うむ、当然だ。」

何故だか、素直な賞賛の言葉を向けられたのは初めてな気がする。
いや、美少女である以上、似合うのは当たり前なのだが。
こう、素直な言葉を向けられると若干、その、照れる。私は思わず頬を掻いた。

美味しそうに無言で焼き鳥を頬張る少女を同じく無言で眺めていたが、
軈て、少女は慌てたように口を開いた。

「慌てずにゆっくり食べるといい。
 
 ―――ふむ、やはりそういった事情か。
 飛ばされてきた、という事は異世界か?
 世界間の移動とあれば何かと物入りだろう。

 ん、ああ、それで、その荷物というわけか。
 必要なものは揃ったか?」

この大荷物、転居の為に色々と買い物を済ませた所。と見るのが自然だろう。
やけに服が多いように見えるが、年ごろの女学生とあればそれくらいは必要なのだろう。多分。

マリア > 素直な感想を言ったまでだったので、相手が照れていることには気づかなかった。
そしてゆっくり食べろと言われれば、素直にうんと答えて、まずは焼き鳥を食べ終える。
少しだけ余韻に浸ってから、串をどうしようか迷い…それを持ったまま。

「うーん…異世界、ってことになるのかしら?
 私の住んでた世界とここは、だいぶ違うみたいだし。」

自分を取り巻く状況については、まだよく分かっていない様だ。
もっとも、3日目ならそれも当然だろう。
さらに荷物を指摘されれば、まるでなにか、悪戯が見つかった子供のように、慌てた表情で…

「あ、えっと………洋服とか、小物見てたら、欲しくなっちゃって…。」

…とってもばつが悪そうに、そうとだけ答えた。
生活必需品など、もちろん殆ど揃っていない。完全な衝動買いで、資金を喪失したところである。

黒兎 > 「貸せ。これはここに捨てれば良い。」

私は食べ終わった串をわりと強引に取り上げる―――。
いや、偶々こういった表現になってしまっただけで、
実際にはその串を屋台の近くのゴミ箱に捨てただけである。
なんともはや、何かと世話を焼きたくなる少女だ。

「ふむ、どのような世界、いや、場所だったのだ?
 いや、話したくなければ構わんが、話したければ話すといい。
 ………異邦人には様々な事情があるのでな。
 込み入った事情があるのなら敢て聞こうとは思わぬ。」

と、少女の事情を聞きだそうとしていると、
とんでもない言葉が聞こえる。

………この少女、身寄りも何も無い場所で、
考えなしに服を買い込み、特に必要なモノを買う事も出来ず、
お腹を空かせて焼き鳥を物欲しそうに眺めていたのか。

アホだ。私も大概だが、この少女、間違いなくアホである。

「……阿呆。」

思わず、私はそう呟いてしまった。
然し、こうして話しかけてしまった以上、
大変ですね頑張って下さいね、とはいかないか。

「これで必要なモノと当面の食糧を買いそろえるといい。
 いいか、遠慮などするなよ、そのままだとお前、路頭に迷って飢え死にする事になるぞ。
 ………あと、これも服飾に変えたら私はもう知らぬからな。」

私は鞄を漁ると、財布を取り出して幾らか手渡す。
そこまで大金ではないが、無いよりはマシだろう。

マリア > 「あ……と、ごめんなさい、何も知らなくて。」

少女は申し訳なさそうに頭を下げる。
けれど、それ以上に、こうして優しくしてくれる相手がいることが、
何よりも、焼き鳥の味よりも、この少女には感動的なことだった。

「あ、えっと…、それは私も沢山お話したいんだけど…。」

言葉を濁す。数秒の間があって、それから、意を決したように、目の前の少女の紅色の瞳を見つめる。

「私、こうやって家の外に出るのって…初めてなの。
 だから、右も左も分からなくって。」

この優しい人になら、同じ赤い目を持っているこの人になら、言ってもいいような気がした。
聞いている側からは、箱入り娘だったのだろうという印象になるだろう。
だとすれば、この底抜けのアホっぷりにもある程度納得はいくのではないだろうか。

「……私もそう思うわ。」

自覚はあるのだが、それに、ついさっき、お金を使ってから気づいた。という点が問題なのだ。
しかし話は意外な方向へ進む…というか、焼き鳥をくれた少女が今度は、お金を差し出しているではないか。

「待って待って待って! 遠慮とかじゃないわ、貰う理由が無いじゃない!
 駄目よ、私、貴女の名前だってまだ知らないのよ?
 貴方の為に働けるような力も無いし、あげられるものだって…そこの服しかないわ。」

厳密に言えば、1点、嘘を吐いた。目の前の少女が“護衛”を探しているのであれば、力になることが出来る。
まさかそんなことは無いだろうし、それを言ったら、怪しまれてしまうかと思ったから、言わなかったが…。

「えっと、えっと……。」
差し出されたお金と正論を前に、先ほどとは比べ物にならないくらい狼狽する。
それから、導き出した答えは……
「……じゃ、分かった、借りるわ!このお金は、いつか、絶対に返す!」

黒兎 > 「ああ、いや、謝る必要は無いぞ?」

ぶんぶんと手を振り、断りを入れる。
特に相手を責める意図があるわけではない。

「ふむ……?
 その年でそう、という事は、随分な箱入り娘だな。
 いや、異世界には様々な事情もあろうが。

 然し、そうだな、そういう事ならば、
 誰かに付き添って貰わないと不味いでのはないか?
 流石に、必要なもの、と言われても、
 何が必要なのか分からない、などという有様では無かろうな?」

外が信じられないくらい危険な状態だった、とかならば、
外に出た事が無いというのは仕方ない事であろうと思う。
が、この少女の口ぶりからして、そのような印象は無い。

然し、その箱入り娘ぶりならば、この世間知らず感も納得が行くというものだ。
私は決して善人ではない、善人ではないが暇人だ。
人を助ける為に惜しむ時間というものは持ち合わせていない。
―――これもまた、唯の暇つぶしである。

「貰う理由ならばある、見ず知らずの相手なら兎も角、
 一応にして言葉を交わした相手が死んだとなっては、
 私の先の長い将来に深い後悔が残るだろう。

 別段お前の為、というわけではない。
 そのうち返してくれればいいのだ。そのうちな。」

私は、思わずため息をついた。

「それに、返す当てがあるならば、猶更遠慮なく受け取っておくといい。
 身よりも特に何も無い少女がこの学園で過ごすのなら、
 何かしら仕事なりなんなりをする事になるだろう。
 
 ………少女、特技は何かあるのか?」

マリア > 責められているわけでないのは、すぐに分かった。
だから、謝ったのも許してもらうためではなくて、自分がそうしたかったからだ。

「うん、なんだろう…ほら、貴女もそうだから言いづらいけど、
 この目、私の世界じゃ珍しくて…怖がられちゃうのよ。
 だから、お父様もお母様も、塔から出るな、って。」

嫌になっちゃうわ、なんて、苦笑を浮かべる。
その表情はどこか寂しそうだった……故郷から離れてしまったのだから、当然だが。

「あ、それは大丈夫!
 前に塔で使ってたもので、必要そうなものを集めればいいだけだから。」

相手の心を読むことはできないから、この少女からすれば、目の前の少女は…救世主だろうか。
声を掛けてくれた、焼き鳥も食べさせてくれた、同じ赤い目をしている、お金まで預けてくれた。
その上で、相手は少しも、対価を求めようとしない。
そんな“厚意”や“善意”を向けられることに慣れていない少女は、戸惑いつつも、心の底から、感謝していた。

「大丈夫、貴女にお金を返すまで絶対に死なないわ。
 …あれ、これじゃダメね。その後も、ずっと……えっと、その、そうだ! “友達”になりましょう?」

友達というのは、こうやって宣言して成立する関係ではない。
けれどこの少女は、友達というものを知らない。これまでの話からも、それは十分想像できるだろう。

「特技は……分かんないけど、えっと、一応、家族の仕事の手伝い、してたから。
 遅くなっちゃうかもしれないけど、お金は用意できると思うわ。
 だから……えっと、それまで、借ります。 ありがとう……えっと、あれ……。」

家族の仕事の手伝い、とだけ伝えて、やはり具体的な内容は伝えなかった。
そして、そこで初めて、気付いた。まだお互い名乗ってすらいないと。

「私、マリア……貴女の名前、聞いてもいい?」

黒兎 > 「成程な、赤い目は魔族の象徴とする世界も多い。
 別段、不思議な事だとは思わんよ。

 気を悪くすることもない、気にするな。
 ここではそのような心配はほぼ無い事も付け加えておこう。
 様々な人間が居るのでな、その程度、別に珍しい事でもなんでもない。」

ここでは別段珍しくない赤目だが、
それにしても、若干特別な意味合いを持つことも多い。
私もまた、そのような特別な意味合いの一つである。
―――つまるところ、吸血鬼だ。

彼女もそのような価値観のある世界から来たのだろう。

「ふむ、其れならば、案内が必要という程ではないな。
 ………ふむ、友達?―――ふむ。」

友達というのは、そもそもこうして成るものでは無い。

加えて言うなら、余り、友達というものには気が進まない。
私が不老不死である以上、絶対に何処かで別れが来る。
然し、ここで断ってしまうのも、些か申し訳なさが過ぎる。

「家族の手伝いとやらについては、深くは聞かんよ。
 役に立つ技能があるのなら、十全に生かすといい。

 然し、そうだな、その技能を生かして、
 私から借りた金を返し、私と少女……いや、マリアが対等な関係になる時が来たら、
 その時は、友達となる事を約束しよう。

 ―――私の名は黒兎だ、クロウサーではなく、くろうさ、と呼ぶのだぞ。」

願わくば、それまでの間に、この少女、マリアに私の他に友達という存在が出来、
友達というものが、そもそもどうやって成る物なのか、
それを学ぶ機会が訪れる事を願うばかりだ。

「約束しよう、指切りだ。
 
 ……こうして、小指を絡めて、約束するのだ。」

私はまず自分の手でジェスチャーを取りながら説明すると、
改めて目の前の愛らしい少女、マリアに小指を差し出した。

マリア > 珍しいことではない、その事実が、少女に安堵の笑みを浮かべさせる。
嘗てこの少女も“吸血鬼”と呼ばれて忌み嫌われ,た経験がある。
きっと目の前の少女も同じなのだろうと、納得していた。
本物であろうとは、今この瞬間は、夢にも思わないだろう。

「良かった…貴女が話しかけてくれるまで心配だったの。
 ここでも私は、やっぱり怖がれるんじゃないか、って。

 ……あ、ごめん、いいのいいの、友達なんて、いきなり言うものじゃなかったわ!」

相手の反応を見て、慌てて自分の発言を撤回する。
失礼なコトを言ってしまったかもしれないと、また、狼狽する。
けれど、少女が…もとい、黒兎がつづけた言葉は、何処までも優しくて、

「ありがとう…黒兎は本当に、優しいのね。
 私…本当に、今日ここで黒兎に会えて良かったわ。
 あ、お金を借りられたとかじゃなくて!えっと、その……」

友達になってくれるかもしれない相手。
優しく接してくれる相手。
ずっと、ずっとほしかった話し相手。
幽閉されていた頃に夢に描いたものを、今、実現しているのだ。
その感激が言葉になるよりも、黒兎が小指を差し出す方が早かった。

「あ、えっと…こう、かしら?」

真っ白で,血管の色,それどころかそこを流れる血の色がうっすらと透けて見えるような肌。
それによってより繊細に見える小指を差し出し…黒兎の小指に、絡めた。

「約束、ね!!」

ぱっと、明るい笑顔。
けどそれから、すぐに少女はある事に気付く。

「大変、せっかくお金を貸してもらったのに、急がないとお店がみんな閉まっちゃうわ!
 えっと、私の家…そこの角を曲がって、三番目のアパートなの。もしよかったら、今度遊びに来て!」

そう告げれば、少女はたたたっと走りだした。
何度か振り返って、貴女に手を振ったりしつつ…彼女は消えていった。
今度は服屋ではなく、“靴屋”に。

前途はどうも、多難そうだ。

ご案内:「学生通り」からマリアさんが去りました。
黒兎 > 「ああ、そのうち遊びに行こう。」

そんな事を言い終わる前に、少女は駈け出し、
何度か手を振って、近くの靴屋に入って行った。

「………もしかして、新手の詐欺か何かやもしれぬな。」

其れにしてはやり口が拙すぎるか。
もし詐欺なら、少なくとも、目の前で靴屋に駆けだすなんてアホな事はしまい。

単純に何処までも前途が多難そうな少女、というだけか。

「其れにしても、儚げというにしても限度のある指であったな。」

私は小指を立てる。
私の指も大概ではあるが、それに絡めたマリアの指は、尚白かった。

「まぁ、高くついたが、良い暇つぶしにはなった。悪くは無い、うむ。」

私は改めてゆっくりと学生街を歩きだす。

黒兎 > お金で時間は買えないが、時間でお金は買える。
定命であるなら、それを二束三文で売り渡すのには抵抗があるだろう。
然し、私には兎に角時間だけはあるのである。

まして、私は食糧というものがおおよそ必要ない。
趣味で何かを口にする事はあっても、必須ではない。
故に、極論を言ってしまえば、お金の使い道などたかが知れている。
服飾は幻術でどうとでもなるし、趣味らしい趣味があるわけでもない。
時に気紛れに使う事はあれど、何かしらに大きく投資する事はない。

……故に、たまにこうして無駄使いするというのも悪くはない。

私は髪飾りを弄りながら、家路についた。

ご案内:「学生通り」から黒兎さんが去りました。