2016/05/05 のログ
ご案内:「学生通り」に東雲七生さんが現れました。
東雲七生 > ただ目的も無く街を歩くだけでも結構楽しい。

長閑な休日の昼下がり、七生は普段着姿で学生通りをぶらついていた。
家を出る時には、服とか雑貨とか、買おうかとも思っていたのだが、いざ学生通りに着く頃にはそんなこと別にいいか、と思える様になっていたのだった。

「とはいえ、このままだらだら歩いて帰るだけってのも、妙に損した気分になるのに違いないけど。」

ふぅ、と小さく息をついて眩く広がる初夏の空を見上げる。

東雲七生 > 去年の連休は入学したてだった上に、島内の地理も把握出来ていなかったため我武者羅に走り回っていた気がする。
今年は島内の地理を把握した(つもりでいる)ので、こうしてのんびり散策する余裕があるのだ。
……と、本人は半ば本気で思っている。


「まあ、それでなくても去年の前半は補習とか色々あったし。
 後半は後半で、補習は無くなったけど倍以上キツイ課題とかポンポン出たし……」

ざっと昨年度を振り返ってみたが、何かにつけてボロボロだった思い出ばかりが蘇った。心身ともに。

東雲七生 > ふと、視界の端に仲睦まじく歩く親子の姿が見えた。
20代半ばくらいの母親と、それに手を引かれる小さな男児。母親と繋がれていない手には風船がしっかりと握られている。

「……いいなあ。」

風船が、ではない。
母親と笑い合いながら休日の通りを歩くこと自体が、七生にとっては羨ましく思えた。
自分の母親の顔を思い出そうとしても、どうにもおぼろげなシルエットに、黒く塗りつぶされた、不自然に欠如された顔が浮かび、背筋が寒くなる。
それは他の“家族と思しき人物”も同様で、溜息とともに七生は『羨ましい』という気持ちだけを以て親子を眺めていた。

東雲七生 > 「……んまあ、無い物を羨んでもしかたねっか。」

本日何度目かの溜息と共に視線を親子から外し、雑踏へと向けられる。
その時だった。学生通りを突然の強風が吹き抜ける。
咄嗟に目を瞑りやり過ごした七生の耳に、小さな落胆の声が届いた。

「……もしかして。」

声のした方を振り返れば、先程の親子連れ。
男児が悲痛な面持ちで空を見上げていた。その手に握られていた風船の紐は、今は無い。

東雲七生 > 「……ばっかだなぁ。」

──ちゃんと掴んでなければ簡単に離れていってしまうのに。

空高く舞い上がっていく風船と、母親の顔を交互に見ながらみるみる男児は泣きそうになっていく。
はぁ、と七生が小さく溜息を吐いた直後、一条の赤い筋が青空を割くように風船へと真っ直ぐに伸びて行き──

「……っし、捕った。」

しゅるり、と風船から垂れ下がった持ち紐に真紅の糸が巻き付いた。
その糸の出所は七生の掌。薄い切り傷から伸びた赤が、そのままするすると風船を引っ張るように巻戻り始める。
ほどなくして、七生の手には風船が一つ、握られていた。

東雲七生 > 「ほら、もう離すなよ?」

こちらを見て表情を明るくした男児へと、苦笑しつつ風船を差し出す。
風船が再び手の中に戻った男児は、母親に促されながらも七生へとお礼を言う。

「良いって良いって。……じゃ、俺はこれで!」

何だか照れくさくなり、七生は逃げる様に親子へと背を向けた。
そしてそのまま、雑踏の中の一学生へと戻っていく。

「……ま、こんな事に異能使えるくらいには……なったな。」

少し痛む掌の傷を指でそっと撫でてから呟いた言葉は、通りを行く人々の声に散らされてしまった。

ご案内:「学生通り」から東雲七生さんが去りました。
ご案内:「学生通り」に来島さいこさんが現れました。
来島さいこ > ■合成屋さん、はじめました。

「ふぅ……」

 学生通りの小さな小さなお店。
 冷房もなく、改修された形跡のある扇風機が汗で濡れた少女の身体を涼ませます。

(教師としてのお給料はあんまりもらえないけど、宗仁だけに頼るのも良くないよねえ……)

 彼女が何か出来ないか考えた結果始めたのが、落ち着いた異能を活用して超常アイテムを合成するこの合成屋さん。
 合成とは銘打っているけれど、名目上はリサイクルショップで、物品の修繕や買取なども受け持っている。
 ホームレス時代の経験があれば、修繕だってちょちょいのちょい。

「……って考えて始めたけれど、とりあえず黒字にはなってるかなあ……」

来島さいこ >  
 ぬるくなった麦茶で水分補給をしながら、陳列棚に視線を移します。
 三本脚のお人形やら、竜と剣の意匠を持つキーホルダーやら、
 それはもうリサイクルショップらしい、用途不明の雑貨が小箱に押し込まれています。

「んー……100円、かなぁ……」

 経営のセンスはあまりありません。
 最低限のマニュアルと、いくらかの知人の支援を受けてある程度の基準こそ作ってありますが、
 こういった細かいものの扱いは経験がありません。麦茶を片手に200円と書かれた札を取って、唸っています。

来島さいこ >  
 結局、値札を書き換える事はせずにそのまま戻します。
 スカートの皺を指で伸ばして整えて、座り直しました。
 胸元をはたつかせて空気を身体に取り入れてから、何かを思い至ります。

「授業の方は今はすることもないし……今の内に、練習しておこっかなあ?」

来島さいこ >  
 姿勢を整え直せば、胸が引いた分スペースが空きます。
 意識をセットすれば引き出しから草の束と、紙に包まれた塩、そして瓶入りのお水を取り出して、
 幾何学模様のハンカチを敷いてその上にそれらを並べます。

「これで……こうやって……」

 それは魔術でも錬金術でもなく、異能なのでしょう。
 いずれにしてもハンカチを指で叩くと、それらはエメラルド色の液体入りの瓶として姿を変えました。

来島さいこ > 「出来た。……うん、たぶん、いつものお清め水だよね。」

 超常に対しては直観的な理解こそ働きますが、原理はあまり説明できません。
 そのことを踏まえ、店舗開設に至っても細心の注意を払う様に告げられています。
 規定以上の要素を扱う場合、届出を出さないといけません。

来島さいこ >  
 むしろ、その程度で認可が降りた事が奇蹟なのかもしれません。
 認可と保証は、ほぼ同義なのですから――いずれにしても、出来上がったそれを陳列棚に置きます。

 【お清め水:200円】

「これでよし、っと。売れるといいなあ……」

 ……商売のセンスはあまりない模様です。
 どうして認可が降りたのかも、不思議なぐらいでしょうか。

来島さいこ >  
 超常の概念を直観・直感的に取り扱う以上、
 その才はあれど解釈による再展開する素養はないのでしょう。
 ……可能性と感性から生ずる性質の強いそれは、異能らしいと言えば、異能らしいのかもしれません。

 ……それに何かを見出したものが、彼女のお店を許し支えたのでしょう。
 それを把握させて伝える能力をたたき上げさせることができるから、彼女を教師として認めたのかもしれません。

「後は……」

 彼女のがその辺りの思惑にどれほど気付いているかは、彼女の普段のふるまいからは推測できません。

 但し……。

(えへへ、今はとっても幸せかも。
 ……クローンでも、幸せになれるんだね。)

 とても幸せそうにこの島で生活している彼女の姿が、ここにありました。

ご案内:「学生通り」から来島さいこさんが去りました。