2016/05/19 のログ
しののめ うさみ > でもまだこれが夢の可能性も捨てきれない七生は、
ひとまず家に帰ろうとぴょこぴょこ道端を歩き始めた。
無我夢中で駆けて来たのでここが学校からどれほど離れているのか分からない。
夢の中だからもしかしたらそんなに進んでいないかもしれない。
起きよう、起きよう、起きなきゃ、と繰り返し、強く念じても一向に目が覚める気配は無く。
ちょっとどころかだいぶ大きくなった街並みは学生街のそれと見て違いなかった。

通りを行き交う人の喧騒が妙にリアルで、一刻一刻と七生からこれが夢であってほしいという望みが奪われていく。

「ぷぅ……」

溜息を吐いたつもりでも、やっぱり「ぷー」としか言えない声帯だった。

しののめ うさみ > 大丈夫。家に帰れば。
大丈夫。目が覚める筈。

そう繰り返し信じてひょこひょこ進むも、襲い来る空腹感と、
足の裏に感じるアスファルトの硬さは紛れもない現実。
そもそも定食食って帰ろうと思っていたのを思い出したら、空腹が加速した気がする。

(もしかしたら家にたどり着く前に餓え死ぬかもしれない……?)

そんな怖い考えが七生の心をじわじわと侵食し始める。
もしこのまま行き倒れたらどうなるのか。
そんな縁起でもない事が脳裏をよぎって、すぐに追い払うように頭を振った。

しののめ うさみ > 最初に自分の姿を確認した地点から、数十メートル進んだ頃には、七生は自分の現実を受け入れ始めていた。
理屈は分からない。分からないが、自分は今。ウサギになっている。
きっとさっきの事故が原因だろう。他に思い当たる節が無い。

それとも自分は今まで人間だと思い込んでいたウサギだったのだろうか。
それは、なんか嫌だ。嫌だけど、もしかしたら。
突然の事に冷静さを欠き続けている七生は、アイデンティティさえ失いかけていた。
それでも飢餓感は容赦なく襲って来る。定食食いたかった。
ふと、視界の端に黄色く咲いた──

───

──タンポポって美味い。 
少しだけ活力を取り戻した七生は、一度その場でこれからの事を考えることにした。

ご案内:「学生通り」にセシルさんが現れました。
セシル > 空いた時間に走り込んだ、帰り。
食堂で夕飯を食べてから帰ろうかと、学生通りを学園地区に向かっているところで。

「………ん?」

道端でタンポポを食む、一羽の野兎が目に入った。

「…この辺りに、野生動物がいるような草原など残っていたか…?」

整った眉を怪訝に寄せながら、静かに野兎に近づく。
流石に武官志望だけあって、気配の殺し方は並大抵ではない。

しののめ うさみ > もしゃもしゃ。
生まれて初めて野草を食べた、という訳ではないが。
ウサギになって野草を食べたのは、もちろん初めての事である。
人間の時と味覚が変わっているのか、生のタンポポが非常に美味しく感じられた。

(さーて、これからどうすっかなあ……)

ここからこの体で異邦人街まで向かうとどれくらい掛かるだろう。
どれほど体力を消費するか分からない。
どうせならこのタンポポを少し持って行こうか、と考えたところで丁度タンポポを食べ切ってしまった。

(あ………)

しゅん、と少しだけ残念そうにタンポポの跡地を見つめる。
知人が接近している事など、気付きそうもない。

セシル > 当然ながら、学生通りというロケーションでウサギの食料に足るような野草はそうそう生えていない。
…しかし、そのウサギは新たな野草を探しに行くでもなく、何やら意気消沈した様子でタンポポの跡地を見つめている。

(…あまり獣らしくない振る舞いだな?)

疑問を抱くが、野兎を安全に「保護」するために一旦邪念を振り払う。
気配を殺し、近づいて、近づいて、そしてしゃがんで…

「ーッ」

抱きかかえるように素早く捕獲しようとする中で、一瞬、本当にわずかだが気迫が漏れる。

疑念と、気迫のほんのひとしずく。
しののめ うさみは気付いて逃げることが出来るだろうか。

しののめ うさみ > 一瞬。ほんの一瞬だった。
セシルが、その気配を断ち切れなかった一瞬。

そのわずかな隙に、ウサギの姿がセシルの前から掻き消える。
殆ど反射的に跳躍したウサギは一足飛びにその場から数メートル離れて、それからセシルを振り返った。

(うわ、びっくりした。)
「ぷー。ぷーぷー。」

急に人の気配がした事に加え、思った以上に長い距離を跳んだこともだ。
軽く跳びずさる程度のつもりだったのだが。

セシル > 「しまった、逃したか」

立ち上がると、頭をかく。
ウサギを「生け捕り」にするのは、やはり一筋縄ではいかないか。

(どうしたものか…駆除というほどでもないだろうが、近くに追い立てられそうな草原などあったか?

しかし…随分と妙な鼻の鳴らし方をするウサギだな?)

そんな違和感を抱きながらも、作戦を立てるべく、ポケットから周辺の地図を取り出す。
警戒されてるだろうと思うので、ウサギの気配には気を払いつつ、注意を向けないように気をつける。

しののめ うさみ > (あれ、セシル……だっけ。)

ひょこ、とウサギの頭上で耳が動く。
以前に転移荒野付近で遭って多少話をした程度の知り合いだったが、悪い奴では無い、と認識していた。

(えっと、分かんないかなー、俺だよー)

その場でぴょこたんぴょこたん跳ねて意思表示をしてみる。
果たして目の前の相手にウサギとの意思疎通スキルがあるかどうか、全く分からないが。

セシル > 「…距離としては、公園の緑地に誘導するのが一番無難…か?」

地図の道程を指で辿り、シミュレーションしてから、再度ウサギの様子を見…

「………?」

怪訝そうに、眉間に皺を寄せる。

(スタンピング………とも違うな。明らかに跳ねているし。
挑発…でもなさそうだが)

とりあえず、目の前のウサギには通常のウサギを超えた知能があることだけは分かった。
…しかし、セシルはウサギ狩りの経験こそあるが、ウサギと意思疎通する力はない。
もちろん、ウサギの正体がかつて未開拓地区で出会った少年であるということを察する能力もないのだった。

しののめ うさみ > どうやらこちらの思念的なテレパシー的なものは通じないと判断して飛び跳ねるのを止める。
さてどうしたものか、と改めて考えを巡らせてみた。
向こうにウサギとの意思疎通能力が無いのであれば、こちらが人間としてのコミュ力を以て意思疎通を図るしかない。

(……が、どうやって。)

手ももふもふ、足ももふもふ。言葉も発せない。
存在の8割くらいがもふもふ生命体と化した今の状況で、七生が取れるコミュニケーション手段と言えば。

(………なんっっも思いつかねえ。)

そもそも流石の七生でも自分がアニマル化した時の事なんてシミュレートしたことが無かった。
こうなったら敢えて捕まってみるのも手かもしれない、と恐る恐るセシルへと近付いていく。

セシル > 飛び跳ねるのをやめて、しばし考えるかのように(本当に、信じ難いことなのだが)動きを止めたあと、今度は恐る恐る近寄ってくるウサギ。

「………」

先ほどは掴まえようとしたものの、いざ相手から近づかれると悩ましい。
ウサギというのはあれでいて歯はもちろん爪もそれなりに鋭く、人の肌であれば結構簡単に引っ掻き傷がついてしまうものだからだ。
どうやら目の前のウサギにはヒトと類似するパターンの知能が備わっているらしいことは、流石のセシルも思い至ってはいる。
しかし、それと敵味方判定は別の話だ。

とりあえず、防護用の手袋を装着してから、恐る恐る抱きかかえに行く。
…ただし、抱きかかえるのは後ろから。理由は前述の通りである。

しののめ うさみ > (おっと……)

背後に回ったセシルの挙動を、音で追いながら大人しく鎮座していたら、ゆっくりと自分の身体が宙に浮いた。
抱き上げられるということに不慣れな為か、若干体が強張るがすぐに抱えられてほっと一息つく。

さて、問題はここからだ。
とりあえず生徒証でも見せることさえできれば、と思ったが生憎生徒証は制服もろとも魔術事故に巻き込まれた教室の前に置き去りにしてきている。
今頃どこかに届け出されているかもしれない。

(……かと言って異邦人街まで運んでくれるとも思えないし……)

何か方法は無いだろうか、とセシルの腕の中で耳を動かしつつ思案する。

セシル > ウサギを抱き上げる手つきは、意外と手慣れている。
…父や親戚の狩猟趣味に付き合って、その中で抱き上げさせてもらったことがあるからという、しののめ うさみにはあまり嬉しくない理由だが。
とにかく、ウサギの身体に無理がかかるような抱き方にはなっていない。

ウサギが、抱き上げられた当初身体を強張らせたものの、その後緊張を緩めたのを見て。

(人に抱き上げられてほっとしている…やはり普通のウサギではないな。
…改めて見ると、毛の色も自然のものより赤が強いように思うし…)

考えてはみるものの、変わった動物に関する知識など持ち合わせていないセシルには、これ以上の推理は困難だった。

「とりあえず、腹ごしらえか?」

胸声を作りながらも、ウサギの耳のために声量はおさえて。
先ほどタンポポを食んでいた様子から、食性は変わらないものと判断し。
タンポポの跡を寂しげに見ていた様子から、恐らく空腹なのだろうと考え。

近場の公園の中で、比較的緑地が充実した公園に連れて行ってやろうと、そちらの方に足を向けた。
当然、異邦人街とは方向が違う。

しののめ うさみ > 「ぷぃー」

公園に連れてかれても正直困る。
何とかして異邦人街に連れてってもらわなければ、と進み出そうとしたセシルの腕の中で俄かに身動ぎを始める。
それに加え鳴き声も短く、鋭く、拒否感を示す様に意識して出してみる。

「ぷっ、ぶぅ。」

タンポポが名残惜しいのも事実だが、今は帰宅が最優先だ。
じたじた、セシルが歩みを止めるまではささやかな抵抗を繰り返すだろう。

セシル > 抱かれて落ち着いたかと思うと、「腹ごしらえ」の言葉を拒むかのように、ささやかに抵抗しだすウサギ。
さすがに、じたじたされれば分かる。

(………どうしたらいいのだ、これは)

このウサギは人を拒まなかった。
このウサギは抱き上げられても抵抗しなかった。
このウサギは、自分の言葉を理解したのか、行き先に拒否を突きつけてきた。

(………どこかに連れて行かれたがっているが、それは食料のあるところではない、ということか)

はて、どうしてくれよう。
食料よりも優先出来る「何か」を考えられるあたり、ヒトのような知能をこのウサギが備えている可能性は、セシルの中で確信を強めてはいるのだが。

「………」

やれやれ、といった感じで溜息を吐くと、一旦ウサギを地に下ろした。
そして、ウサギに視線を合わせるようにしゃがむ。

「…YESであれば右の前足、NOであれば左の前足を挙げろ。
出来るな?」

端から見れば完全な変人だろうな、という諦観のもと、そうウサギに語りかけた。

しののめ うさみ > 一通りじたじたしていたら地に下ろされた。
抱き上げられる、という貴重な、あまり多く経験したくは無い事から解放されて、ほっと一息つく。
と、安心したのもつかの間、しゃがんで話しかけてきたセシルを見上げ、数度肯いた後に、

(ハッ……ええと、YESだから)

右の前足をスッと挙げた。
が、思ったよりウサギの前足は上がらないように出来てた。
ふるふる震える前足を、地面から数センチ浮かせた状態で、真剣な眼差しをセシルへと向ける。

セシル > セシルを見上げて、数度頷くウサギ。
目が合った感触から、このウサギの中身は間違いなくヒトか、それに近い何かだと確信した。
…そして、どうもウサギの前足は上げにくいらしい。流石にそこまでは知らなかった。
しかし、どうやらYES/NO方式なら意思疎通が可能であるということであれば、話は早い。

「…首を振る方が楽なら、YESであれば縦に、NOであれば横に振るでも構わん。
お前には、行きたい場所があるのだな?」

見た目王子様の風紀委員が、ウサギを尋問している(ように見える)。
とても、シュールだ。風紀委員が若干疲れた表情をしつつ真顔なのも、シュールさに拍車をかけている。

しののめ うさみ > おお、やろうと思えば想いって伝わるもんだ。
ウサギの身になって初めて純粋な感動が湧き起こった。
しかし、今はそんなことをしている場合では無い。

せっかくの糸口を掴めたのだから、確実にものにしなければ。
ぷすぷす鼻を鳴らしながら、ウサギは縦に首を振る。
異邦人街に、自分の居候する家に帰りたいのだ。

……もっとも、帰れば元に戻れるという保証も何も無いのだが。

セシル > 「行きたい場所がある」への答えは"YES"。
ここまでくれば、話は早い。

「…よし、私が抱き上げて連れて行ってやる。
まずは行きたい方角を鼻の先で示せ。そうしたら私が抱き上げてそちらに歩く。
目的地の方向とずれたら、先ほどのように暴れてくれたら下ろす。
その時に、再度方角を鼻の先で示せ。

…この繰り返しで、何とかなると思う。
納得出来たら、首を縦に振って、最初に行くべき方角を鼻の先で示せ。」

「いいな?」と、目でウサギに問う。
流石に、そろそろ周囲の目が気になって動き始めたい頃合いだ。

しののめ うさみ > (了解したっ)

こくん、と頷く様に首を縦に振ってから、セシルにくるりと背を向けて。
異邦人街の方角を向くと、ぷぅ、と小さく一声鳴いた。
しかし安全性を考えれば居住区経由が良いと考えたのか、ひとまずそちらへ向かう様にと考えて少しだけ居住まいを直す。

そんな事をしている七生自身は至って真剣そのもので、
人目なんて気にしている余裕は無かった。
何しろまた抱えて運ばれなければならないと思うと、少し落ち着かない。

セシル > 歓楽区・異邦人街の方を向いて鼻を鳴らしたかと思うと、何か思ったのか少しだけ方向を修正、居住区の方を向いたウサギ。

(方向音痴…だったらそもそも私の最初の移動に異議申し立ては考えんだろう。
となると…ルートが気になるのか?)

ヒト並みの知能があるとなれば、ヒト並みの悪意も全く考えないではないセシルだったが、より治安の良いルートを選ぼうとするならば、その可能性は低いだろうか。
とにかく、目の前のウサギはセシルの提案を了解し、道を示した。
となれば、

「では、行くぞ」

そう言って、改めてウサギを抱き上げる。
そして、しののめ うさみが最後に顔を向けていた方角に向けて歩き出した。

しののめ うさみ > 「ぷぅっ!」

抱き上げられ、心なしか緊張した面持ちのうさみ。
普段異性から抱き締められることは多々あれど、抱きかかえられるというのは殆ど未経験なのでどうしても体が強張ってしまうのだった。
まだセシルが中性的であったことが幸いである。

(あっと……そういや端末も学校だ)

そして進み出してからふと、学校に置き去りにした荷物や制服一式をどうするか悩み始めたのだった。

セシル > うさみが緊張した面持ちをしていようが、学校に置き去りにした物品一式のことを気にしていようが、特にじたばたされなければ方角を変えずにすたすたと歩き続けるセシル。
早くあの場から移動したかったし、方向転換の手間を考えるとあまりぐだぐだもしていられないと判断したのだ。
一応、ウサギが反応しそびれることがないように、歩く速さはほどほどにしているが。

(…学園地区の食堂を利用する時間のゆとりは、消えそうだな)

そんなことを、頭の隅で考えていたり。

しののめ うさみ > 時折セシルを見上げつつ、辺りの様子を窺ううさみ。
他人の目はあんまり気にしないが、もし知り合いにでも見つかれば恥ずかしさで穴を掘って埋まれる自信がある。
そもそもこんな状況の七生を七生だと気付いてくれる知り合いが思い当たることは無かったが。

「……ぷぅ。」

とにかく指し示したとおりに進んでくれているので、後日何らかのお礼をしなければ、なんて考えて──

ふと、居候先の主は自分に気付いてくれるだろうか、なんて考えが頭を過った。

セシル > そうやって時間をかけて、辿り着いたのは異邦人街。
「目的地」に辿り着いたしののめ うさみがどうなったのかは、また別の話である…。

ご案内:「学生通り」からセシルさんが去りました。
しののめ うさみ > 異邦人街まで運ばれた後は、するりとセシルの腕を抜け出して居候先の家へと帰ったのだろう。
紆余曲折を経て七生が元の人間姿に戻れたのは、まだ少し先の話──

ご案内:「学生通り」からしののめ うさみさんが去りました。