2016/07/12 のログ
東雲七生 > 額に浮かんだ汗が、頬を伝って顎から滴り落ちる。
ぽつんと歩道に出来た水玉は、地面の熱であっという間に乾いていった。

別段、七生は夏が嫌いなわけでは無い。
むしろ抜ける様な快晴に入道雲、蝉時雨、お祭りに夏休みと好きな物尽くめではある。
ただ、このうだる様な暑さだけは毎年の様に音を上げていた。

「毎年っつっても、覚えてんの去年だけだけどなぁ~」

ぱた、ぱた、と汗を滴らせながら学生通りを進む目的は単純に下校。
異邦人街へ帰宅するためだ。こんな日でも七生は徹底して徒歩通学をしている。
鍛錬の一環だから、とは本人の談。

東雲七生 > うー、とか あー、とか呻きながら超が付くほどスローペースで進んでいく。
他の季節であれば軽やかに駆け抜けていく道を、倍以上の速度で進んでいれば、時折通りに面した店の人たちから声を掛けられたりもする。

「あ、あ~い……い、一応、まだ大丈夫……」

心配そうな八百屋のおばちゃんにひらひらと手を振りながら答えて、
とにかく一度休憩して水でも飲もうと、街路樹の下に据えられたベンチに崩れる様に座り込んだ。

「あつい~……出来るなら服脱いじゃいたい……」

制服の上着は校門を出た時点で鞄に突っ込んだ。
今はワイシャツと、その下にインナー気分で着ているタンクトップ。あとはズボンとボクサートランクス。
出来ることなら全部ぜんぶ脱ぎ去ってしまいたい。
というか、上だけならもう脱いじゃっていいんじゃないかなって気がしていた。

東雲七生 > 夏場なら上半身裸で生活してても恥ずかしくない。
そう思えるほどには七生の暑さに対する耐性は低かった。
耐性が低いと言うよりは、うまく体内の熱を放出できない体質なのかもしれない。

「氷とか、水とか、使えたらめっちゃ便利だろうな……」

魔法でも異能でも良いから、と溜息混じりに愚痴を溢す。
何をどう羨んだところで、七生の特異な能力は血液を操るのみ。


それだけの……はずだ。

「うー、うー……飲み物ー……」

ひとまず此処まで来るのに失った水分を補給しようと鞄を漁る。
目当てのペットボトルはすぐに見つかったが、炎天下を歩いて来てだいぶぬるくなっていた。
それでも無いよりはマシ、とキャップを開けて一気に喉へと流し込む。

東雲七生 > 木陰だと言うのに一向に涼しさを感じない。
汗が止まらないと言うのに全く体が冷えてくる気配が無い。
熱が体に篭ったまま、気温に呼応して体温も上昇していく。

「う、ぐぅ……もうホント嫌だ……」

すーっと遠退く意識をギリギリのところで手繰り寄せて、
よろよろとベンチに座り直す。ぼーっとする頭で通りを眺めれば、みんなそれほど暑そうにはしていないように見えた。
服を脱ぎたがっていそうな人など、七生以外に居ないように見える。……見えるだけかもしれないが。

「あー……もういいや、脱ごっ!」

せめてワイシャツだけでも。
汗で滑る指を一度ズボンで拭いてから、ワイシャツのボタンを外し始める。
どうせこれを脱いだところで下にもう一枚着てるし、と開き直って上はタンクトップ一枚に。

東雲七生 > 服を脱いだら少しはマシになった気がして、大きく息を吐く。
流石に汗で濡れたワイシャツを、制服の上着と一緒に鞄に突っ込めないな、と腰のベルトのバックルを抑える様に袖を胴に縛り付けて。

「……よし、よしっと。
 少し回復したところで、帰ろう……うん。」

何だか頭も痛い、とこめかみを軽く手で押さえて。
よろよろ、うだる様な日差しの下を異邦人街へと向けて歩いていくのだった。

ご案内:「学生通り」から東雲七生さんが去りました。