2016/11/14 のログ
■石上守衛 > 「……私の聞き方が悪かったでしょうか。すみません、別に怒っているわけではありません」
こちらは当然の職務と考えて声をかけたのだが、相手は何やら異様に慌てふためき始めていた。
確かに、特に会話もない所に前置きもなく声をかけられれば驚くであろうとも思い、守衛は自省する。
と同時に、相手への不審も生ずることになる。
果たして、ここまで驚くことがあるだろうか? 守衛は相席に対してそこまで思うことがなかったため、より一層相手の反応が不可解だった。
「いち参加者の目から見た現状を聞きたいだけです。これは尋問ではありませんので。
……そうですね、名乗らずに無礼でした。私は石上守衛、二年生です」
守衛からすれば職務に忠実であろうとするが故の事務的な口調なのだが、人によってはどこか機械的な、或いは不機嫌そうな口調にも聞こえるかもしれない。
一応の自己紹介をしつつ、相手を見据える。
目の前の青年が、何かしらやましいことをしているのであれば見過ごせない。
「特に問題などがなければそれでいいのですが……何かあればすぐに知らせてください。
ところで、何故そんなに慌てているのですか」
淡々とそう告げたが、守衛の眼差しは明らかに相手への疑義を含んでいた。
尋問などではないと言ったにも関わらず、どこかそのような雰囲気を醸し出してしまう。
相手を不用意に疑うのは悪い癖だとは自覚しているものの、止められない。
■滝川 浩一 > 「あ、は、はぁ…」
深呼吸して、手汗と冷や汗を抑えながらも彼女の言葉に安堵する。
前置きも無く声を掛けられた事に驚いたということもあるが、一番はやはり最初の怪訝な顔だろうか。
最初の顔から、もしや自分の食事スタイルに気分を害したのだろうと考え、怒られることを警戒したのである。
「そ、そうですか…あ、自分は滝川浩一、同じ二年生です。
委員会は特に所属していませんが…一応は風紀委員志望です。」
機械的な自己紹介をされ、こちらをジッと見つめる彼女に気圧されつつもこちらも自己紹介をする。
まるで面接に来た生徒を見ている…いや、面接の生徒の方がもっと愛想がいい。ならばこれは何だ?人型ロボットの試運転?
頭の中で目の前の少女をロボット扱いするという超失礼なことをしつつも、次の発言に対し口を開く。
「あ、はい…あ、いえ、その……こんなうどんの食い方して、『食べ物に失礼だ』とか怒られるような気がして…
すいません、次回以降気を付けます…」
尋問ではないと言われてもそれに似た空気を醸し出され身を縮めてしまう。
途切れ途切れに慌てていた理由を答えれば、ちびちびと水を飲み始める。
というか女性に尋問され、身を縮める180㎝以上の男とはどんな状況で発生するのか。謎である。
■石上守衛 > 「なるほど、風紀委員会への所属を志望していると。それはとても良いことです」
相手の名乗りと所属を聞けば、守衛はそれに対して頷いた。
「しかし、特に前科などもなければ風紀委員会にはすぐにでも入れるはずです。
学園の公共の安全と秩序を守りたい意志があるのならば、早めに入ったほうがいいのではありませんか」
風紀委員「志望」というのが守衛にはよくわからなかった。
人に物を直截に言いすぎるのも友人などから指摘されるところであったが、今は完全に頭が職務へと切り替わっている。
相手への威圧に関する配慮も、すっぽり頭から抜け落ちていた。
「失礼。話が逸れました。止むを得ない事情もあるでしょうし、人がどの委員会に所属するのかも、それは自由です。
私が、それについてどうこう言うべきではありませんでした」
スッと相手に頭を下げる。
一応の謝罪の意を込めていた。
それに、風紀委員などに所属はしていない自分が、学園の秩序云々を口走るのも奇妙な話となってしまうだろう。
公安委員会であることも非公開なのだ。
「……は?」
その後に、相手の言葉を聞いて、思わずそう声を漏らした。
うどんの食べ方について、怒られる気がした――
守衛はその答えに怪訝な顔をした。
「いえ、それは個人の嗜好の問題です。それに対して私が何か言うことなどありません。」
もちろん、こういう食べ方が憚られる場や状況はあるだろうが、今はそうは思えない。
もう少しオブラートに包むべきであったが、守衛にそんな配慮の心はなかった。
「……ここの食事の方法にルールが有るのならばそれに従うべきでしょうが、それもなさそうです。
どうぞお気になさらず、食べていただければ」
相手の反応を見る限り、嘘を言っているわけでもなさそうであった。もちろん断定はできないが。
ただ、予想外の答えであったため、半ば呆れたような表情を守衛は見せていた。
■滝川 浩一 > 「あ、はぁ…どうもです」
とても良いことと頷く彼女に対し、こちらは困惑気味にそう答える。
「えっと…先ほど二年と自己紹介しましたけども、一応転校生って立場でして…この島に来たのがつい3ヶ月前?くらいなので
まだまだ島の事を理解してないし、異能の制御も出来てないのに風紀委員会に所属するのは少し拙いと思いまして」
やけに率直に物を言う女性だなと内心驚きつつもそう返す。
彼自身、言葉を濁すより自分の意見や感想を直截相手に伝えることは大事と思っており、それに対する嫌悪感は無いが、やはりいざこうして面と向かってその人物と会話すると名状しがたい威圧感に襲われるのは何故だろうか。
「いえいえ…別に聞かれて困る事ではないので。
委員会について聞かれたくない人と会話する機会がある場合、その時に次に気を付けてくださいね?」
スッと頭を下げた彼女を見て、自然なほほ笑みが零れる。
この少しのやり取りで真面目な女性という事が伝わり(あぁ、こういう人なんだろう)と内心で察する。
それについてとやかく言うつもりはなく、そう話を締めくくった。
締めくくった。瞬間、彼女が怪訝な顔をして声を漏らす。
それに背筋にゾクッと寒気が走り、息を呑む。
「えっと、ちょっと怒ってます?」
オブラートに包まず、怪訝なような、半ば呆れた表情をしている彼女の顔を覗き込む。
彼女の言葉遣いはキツイが怒りというより呆れが入っているのを察しつつそう聞く。
やっぱり自分の杞憂であったかと安堵すれば、ふと思い出したかのように口を開く。
「石上さん、つかぬことをお聞きしますが…ゼリー状、或いは液状の黒い塊のような生命体をご存知ないでしょうか?
所謂、妖怪や怪異の類で、大きさはまちまちなのですが、触れた人間に汚染する特徴を持っているような…」
先ほどとは打って変わって真剣な眼差しで彼女へそう告げる。
それと同時に自身の脇腹を触り、服の上から傷跡を撫でる。
■石上守衛 > 委員会について聞かれたくない者。もちろんそういう人間もいるだろう。
だが、職務のためならば、秩序のためならば相手の感情を無視してでも強行しなければならない時はある。
そもそも、何故学園の秩序を担う委員会への所属云々を聞かれたくない者がいるのだろう。もちろん、守衛のように秘匿しなければならない、などの理由はあるのなら別ではあるが。
守衛はそう思っていたが――それをここで表明する意味もなさそうであった。
彼が話を締めくくったため、これについてはここで手打ちとすることとした。
「私は怒っていないといったはずですが」
相手の言葉に首を横に振る。
怒ってはいない。それは事実であった。今の返答も、ただ事実を述べただけ。
だが、あまりに直截な言い回しはつっけんどんな印象を与えても仕方がない。
「ふむ……ゼリー状で黒い塊のような生命体、ですか」
不意に相手が真剣になるのを見るや、守衛の目は細められ、鋭くなる。
恐らく、彼が行っているのは少し前に問題になっていた怪異の類のことだろう。
守衛も治安維持のために出動したことはある。
だが、とりあえず相手の質問には答えず言葉を続ける。
「その存在に、貴方は遭遇したと?」
脇腹を擦る彼の様子を見ながら尋ね返す。
■滝川 浩一 > 「アッハイ」
首を振った彼女でそう返す。
怒ってないのなら安心だと言った風に胸を撫で下ろす。
直截的に物事を言い放つのは良いが、同時それを言い放つ彼女の内心が読み取れず、少し苦労する。
(質問に質問かい……まぁ、いいか)
目を細められ、鋭くなった彼女の視線。
しかし、今度はそれに気圧されることはなく真っすぐと彼女を見据える。
真面目な彼女のことだ。きっとこの前の大規模討伐も新聞などのマスメディアで承知しているはずだ。
だが質問に質問を返され、こちらも目を細める。
「はい。戦闘となり、脇腹から背中にかけて、穴を開けられました。
幸いなことに命に別状はなく、退院してこのように生活はできてます……このぐらいでよろしいでしょうか」
脇腹を擦る手を止め、膝へと持っていけばそう告げる。
恐らく、彼女は自分を警戒しているのだろう。何故警戒しているのかはわからないが、ともかく敵意は無いという事だけは伝えたい。
■石上守衛 > 「なるほど……それは由々しき事態ですね。怪我はされたようですが、命に別状はないとのことで、その点は良かったといえるでしょう」
守衛の言葉は淡々としていた。
彼への同情や心配があるわけではないことはわかるだろう。
守衛の関心は彼が受けた傷のことではない。
彼の、行動についてだ。
「……ええ、不躾に色々聞いたことはお詫びしましょう。その存在についてはよくは知りません。
一時期話題になっていたのかもしれませんが、私は生活委員なので。
今、その存在がどうなっているかはよく知りませんが……常世祭期間中に現れれば事でしょう。上に上申しておきます。
ただ、少し聞きたいことがあります。貴方はその際に風紀委員会などに通報はされましたか。
戦闘になったとのことですが……応戦された、ということで?」
守衛が聞きたいのは、彼が直接その存在と戦ったかということだ。
その結果の傷であるのか、ということだ。
彼への警戒はもうない。敵意の有無を確認しているわけでもない。
ただ、彼のその時の行動が気になった。
■滝川 浩一 > 「…はい」
淡々とした言葉。
特に自分を心配している訳でも同情している訳でもない事は重々承知している。
では何故ここまで掘り下げるのか謎である。
「…その口ぶりからすれば、今のところ常世祭には出現してない、或いは貴女は発見してないということでしょうか。
はい、風紀委員会には通報せず、独断で戦闘を開始しました。応戦をしました。
……理由は友人が危機に瀕していたために、風紀委員に通報しても間に合わないと判断したからです。」
怒る様子はなく、しかし何故そのようなことを聞くのか理解できず、とりあえずはそう正直にそう返す。
実際、友人はそれほど危険な状況でもなかったが…まぁ、それは置いといて。
それよりも一向に彼女の目的が解らない。彼女は自分から何を引き出そうとしているのだろうか。
頭の中で様々な予想が飛び交うが、まずは彼女の次の発言を待つ。
■石上守衛 > 「そうですか。ええ、私はそれを常世祭の中で遭遇はしていません」
相手の言葉を聞くと、短くそう答えた。
次に再び口を開いたときには、明らかに不快の表情――苛ついたような表情を、守衛は浮かべていた。
「私がどうこういう立場でもないですが――それは、誤りだったと言えるでしょう」
彼の行為を、「誤り」だと断ずる。
「貴方は逃げるべきだった。戦うべきではなかった。貴方は、ただの一般生徒だったということなのですから。
通報して、避難すべきだったといえます。貴方がどのように戦ったのかは知りませんが、そういった類の存在と戦うのは風紀委員会などの仕事です。
貴方の行為は、学園の秩序を揺るがしかねないことだ」
彼を酷く冷淡な瞳で、守衛は見つめた。あるいは、落胆したような表情で。
彼の行為は実際のところ、止むを得なかったとされるべきところだろう。
そもそも、正当防衛とも言えるものだ。学園の法を厳密に照らし合わせたとしても、罰せられるようなことではない。
彼は応戦しなければ危険な状況であったのだろう。友人もいたというのならなおさらだ。
だが、それにも関わらず、守衛は彼の行為を「誤り」だったと言ってのけた。
「……常世祭実行委員としていいましょう。常世祭でもそのようなことを行われては困ります。
詳細不明な敵性体に対して、素人である貴方が立ち向かうというのは、得策ではありません。
もし、次に遭遇した場合は貴方は通報して逃げるべきです。全てを風紀委員会などに任せるべきです。
貴方の通報により、風紀委員なども対策が講じれるようになり、状況は好転するでしょう……良いですね?
あるいは、風紀委員会に入ることをおすすめします。合法的に、それらと戦えるでしょう」
守衛の態度は先ほどとは変わっていた。
彼の行為への怒りがそこにあったのだ。
官憲でもないものが、怪異と戦う――それが、いくら妥当であったとしても、守衛はそれを認められないのだった。
一般人の彼は、戦うべきではない。守衛の考えはそこに行き当たる。
実際のところ、守衛のこの態度の変化は極端だった。
ここまで彼を追求する必要はなかったし、職務としても正しくはない。
それでも、内から沸き起こる感情をぶつけずにはいられなかったのだ。
■滝川 浩一 > 「そうですか…」
困った。
この屋台に来るまでにやっていたことと言えば黒い塊の探索だ。
委員会が遭遇してないとくれば、自分が遭遇できる確率はかなり低い。
顎に手を添え、考え込みつつ、ふと彼女の顔を見れば先ほどのような無表情が消え、苛立ったような表情を浮かべている少女が居た。
「……えっ」
その次に飛んできたのは正論の嵐だ。
自分の行為は間違っており、もっと適切な対応があったと今後の行動を説明し、それに納得できないのであれば風紀委員に入れと告げられた。
薄々、嫌な予感はしていたのだがここまでとは思わず、驚いたと共に口を紡ぐ。
彼女の主張に対する反論を抑え込み、とりあえずは黙って彼女の発言を聞く。
彼女の発言が一区切りすれば彼女を真っすぐと見据えて黙り込む。
先ほどとは打って変わって怒りの感情をむき出しにした彼女のインパクトは強く、未だに心はざわついて落ち着かない。
それでも、彼女が自分の行動に対して意見があるのと同じようにこちらも彼女の考えに意見がある。
「…自分は委員会に所属してない、言わば一般人です。
その一般人が正体不明の生命体に戦いを挑むのは得策ではない。貴女のいう事は最もです。
貴女の提案する行動は正しい。」
深呼吸してそう口に出す。
散々、彼女の主張を聞かされたのだ。少し反論しても罰は当たらないだろう。
「だが、貴方の提案する行動は正しいだけで『正義』ではありません。
風紀委員に通報して、自分は逃げるのは正しいし、それをもししていれば大怪我なんぞ負わずに済んだのかもしれません。
…でも、それは同時に危険にさらされている友人を見捨てることになります。自分にそれは出来ません。
目の前で苦しんでたり、困っている人物を助けるという行為は風紀委員である云々以前に人間として!
人間として、正しく、道理にかなった行動ではないのでしょうか…?」
彼女の意見に肯定しつつも決定的に否定する。
少し熱が入り過ぎてしまったのか、ちょっと声が大きくなってしまい、周りの視線が集まる。
周囲を見渡し、一瞬その視線の理由がわからず、ふと気づけば恥ずかしそうに「失礼」と周りへ言う。
■石上守衛 > 相手の反論が始まれば、それに耳を傾ける。
わざわざ相手と対峙する辺り、生真面目な性格であることは変わらない。
ただし、守衛は秩序というものの信奉者だった。
あくまで、彼女が信ずる「秩序」ではあったが。
彼の言葉が終わるまで目を閉じ、それを押し黙って聞き続ける。
熱の入った言葉に周囲の視線が集まるものの、守衛は気にする様子がない。
言葉が終われば、再び目を開いて彼を見据える。
「――『正義』、といいましたか。
しかし、正義は秩序を守ることではないのですか。正しいことこそが、正義ではないのですか。
異能や魔術、それは武器と同じです。人を傷つけ、果ては殺す力を持っている。
使うならばプロフェッショナルでなければならない。
そうでなければ、使わぬようにすべきです……そう、いかなる理由があっても。
どのような理由があれ、用いるべきものが用いなければ、ただの暴力にすぎない。
それは、管理統制されるべきなのです。使用できる存在は、限られなければいけません」
いかなる理由があっても。
それはつまり、彼やその友人が傷ついて、犠牲になる可能性があったとしても、ということである。
「人間として、正しい道理……ですか。だが、それは曖昧模糊としたものです。明確な定義が存在するとは思えない。
独自の判断で「良い」と判断したことが人間として正しいものであるのならば、あらゆる行為は肯定されてしまうでしょう。
個々人の思想は異なります。故に、それを超越する大きなもの……秩序が必要になる。秩序を、第一に考えなければならない。
私人が何かを守るために、好きなように異能や魔術を使うようなことを肯定すれば、まさしくそれは無秩序です。
貴方は全てを守れるでしょうか。友人と、そうでない人間も平等に扱えるでしょうか。感情のゆらぎを、制御できるでしょうか
……故に、社会のシステムに任せるべきです。ここで言えば専門職になる風紀委員会などに任せるべき――私はただそう言っているだけ。
私に言わせれば、秩序を守ることこそが『正義』です。役割を遵守すれば、それだけ多くの人間を守ることができる」
守衛の口調は淡々としているが、無秩序だと彼女が判断するもの。
つまり自警団的な行為、そういったものへの強い嫌悪が感じられるだろう。
守衛は、人命というよりはその上位に秩序を起き、それによって判断すべきだと述べているのだった。
「……大方、その怪異を追っている、というところでしょうか。
ですが、そういった自警団的な活動は秩序の担い手にとっては迷惑なもの。
合法的に行いたければ、システムの一つとなることです。
「風紀委員会」志望なのでしょう、貴方は」
どこか軽蔑したような表情さえ作って、彼に言い放った。
守衛の考えは独善的なものだ。現実的なものでもない。
守衛の思想が、極端で、まともではないのは明らかであった。人命をも、場合によっては軽視するのだから。
二人の意見は平行線であった。
その時、守衛はハッ、目を開く。
「……ごめんなさい。言い過ぎましたね。これは、ただの私の一つの意見に過ぎません。
あまり、気にしないでください」
熱に浮かされたような守衛だったが、ようやく落ち着いてきたのか静かに目を伏せる。
「ですが、貴方が正しく風紀委員会に入り、正しく物事を解決してくれることを祈っています。
ごちそうさまでした」
カラになった容器を持つと、彼に対して一礼して、守衛は立ち上がる。
■滝川 浩一 > こちらの反論が終わり、目を見開いてこちらを見据える彼女。
そしてまたも彼女の正論が始まったと思い耳を傾ける。
しかし、彼女が発する言葉を聞いていれば、徐々にその異常さが浮き彫りになってきて眉を顰める。
(何だ………この女性は……?)
怪訝な顔をして彼女の言葉を聞く。
正義は秩序を守る事。正しいこと事が正義。
異能や魔術を行使するのであれば、プロフェッショナルでなければいけない。
彼女の並べる言葉を告げる度に浮かび上がる反論の台詞。
しかし、それを口に出さずひたすら飲み込む。
淡々と彼女の口から告げられる言葉を聞いて、息を呑む。
秩序を厳守し、それに従って個々人は生きるべきだ。
彼女の告げる言葉は一理あるが、今の彼には間違いにしか聞こえなかった。
歪んだ彼女の『正義』を目の当たりにし、まるでそれが一般的に正しいかの如く振舞う彼女に苛立ち始める。
(ダメだ。落ち着け…落ち着け…)
テーブルの下、彼女の死角となる場所で自分の右手で左手の甲を抓る。
苛立ちや怒りを表情に出さないように、平静を装う。痛みで何とか怒りを抑えようと抓る力を強める。
ここで怒りを露わにしてしまえば相手の思うつぼである。
そして、彼女が最後に言い放った言葉と表情。
時には人命を軽視する考えがあたかも正しく、それに従っている自分が『正義』であると言いたげの彼女。
最後に向けられた、間違った行動をした一般人である自分に向けられた軽蔑の表情。
それに怒りが爆発しそうになるも、歯を思いっきり食いしばって、皮膚が剥がれるほど強く甲を抓る。
「いえ、いいんですよ…貴女の意見はしっかりと伝わりました。
参考にさせていただきます」
冷静になった彼女とは裏腹にこちらは内心には溶岩のようにぐつぐつと煮えたぎる怒りを内包していた。
しかし、それを表に出してはいけない。ここで怒りを爆発させたところで彼女とは分かり合えない。
「はい」
短く、彼女の言葉に頷く。
最早、風紀委員などどうでもよかった。
彼女への嫌悪感が増大し、それの飛び火する形で彼女が信仰する委員会や秩序という物に怒りを覚えていた。
落ち着け、落ち着けと心の中で念仏を唱えるように呟けば、立ち上がる彼女を見上げる。
■石上守衛 > 「ええ、この混沌とした世界を理想の未来に押し上げるには、その秩序は何よりも必要なものです。
異能、魔術、異邦人、異界――全てを和合させる支柱が、そこにあります。
それこそ、この学園が目指す未来ですから」
薄く笑みを浮かべて守衛は言った。
気持ちは治まってきたものの、彼への軽蔑の思いが完全に消えたわけではないらしい。
守衛からすれば、彼がやったことは、どうあっても間違いであったのだから。
「理解してくれたようで幸いです。それでは、また――」
守衛は、彼の黒い感情を刺激し続けた。
苛立ち、怒りそれを招き――自らが正論と信じる言葉をぶつけつづけ、守衛自身は何やら満足した様子を見せる。
何せ、今まで言えなかったようなことを言えたのである。晴れやかにもなろうというものだ。
ちょうど、守衛が敵視する行為をしたものが、そこにいて。
彼が、それを告白してくれたのだから。
「さようなら」
そういって、踵を返し、守衛は去っていく。
守衛は彼の心に、守衛の信じる秩序――そして、それに飛び火する形で、本来守衛の思想とは関わりのないはずの委員会という秩序への怒りを植え付けることに半ば成功したらしい。
彼のその怒りが一時的なものになるか、継続したものになるかはわからない。だが、今は確かに彼の心に怒りを齎したのだ。
守衛はそれを自覚的に行おうとしたわけではない。
ただ、守衛自身は正しいことを言ったと思っているだけであった。
それで、彼が守衛の悪とする行為を行ってくれるのだとしたら――それはそれで、守衛が正義を執行する材料となるのだろう。
常世祭の最中、二者は交錯し――不穏な風を一陣吹かせたのであった。
■滝川 浩一 > 眉間にしわを寄せて、彼女の言葉を聞く。
全てを繋ぎとめて融和をさせると言えば聞こえはいいが
先ほどの彼女の台詞を考えれば、例えそれが出来たとしてもすぐに瓦解することは目に見えていた。
薄ら笑いを浮かべる少女を気味悪く感じつつ、本当にそれが出来ると考えている彼女に畏怖を覚える。
自分の行動がどんな理由であれ、間違っていると激しく主張する辺り、彼女は『そういう人間』なのだろう。
彼女に何があったかは知らないし、初対面の相手にそれを聞くのも失礼で敢えて聞かなかったが
ここまで秩序に心酔するならば必ず普通ではない。
「……えぇ」
満足した様子を見せた彼女に怒りはピークに達する。
それに対して歯が砕ける程強い力で食いしばり、抓る力も強める。
自分の敵視する存在を打倒したような達成感に浸る彼女がなんとも腹立たしかった。
でも、それでも言葉は飲み込む。彼女に対し、不平不満があるにも関わらずそれを口に出そうとはせずにただひたすらに黙った。
『さようなら』と言って去っていった彼女の背を見送り、ふぅ…と息を吹き返す。
抓る手を離せば、手の甲には痣が出来ており、強く食いしばったせいで頭痛がする。
今日の事は忘れようと、とりあえず残っているうどんへと手を付ける。
「……痛い」
噛む度に頭痛が激しくなり、そう呟いた。
その後、うどんを食べ終えて、容器を捨てればまたも街を探索しだす。
黒い塊を探して、ひたすらに歩き回り、人々へ聞き込みをする。
彼女にとっての自警団的な行為を続ける彼は、なおも彼女の軽蔑の対象となるかもしれない。
それでも彼は黒い塊を探すことをやめない。自分の体を汚染している原因と解決方法を突き止めるまでは決して止まらない。
平行線をたどる二者の考えが交差するときは来るのだろうか。
それが判明するのは今ではない。しかし、また出会う機会があればやがて判明するだろう―――
ご案内:「学生通り 露店街」から石上守衛さんが去りました。
ご案内:「学生通り 露店街」から滝川 浩一さんが去りました。
ご案内:「学生通り【常世祭期間中】」に龍宮 鋼さんが現れました。
■龍宮 鋼 >
――ああクッソ!
焼きそば待ってるやつァどいつだ!
(ストリートに立ち並ぶ学生たちの出店の一つからヤケクソ気味な叫びが放たれる。
それを聞いた一人の男が手を上げて、五百円玉をカウンターに置いた。
置かれた硬貨を引っつかみ、硬貨や紙幣が入った箱に放り投げ、鍋を振るう。)
オラ次チャーハンあがるぞ!
金の用意しとけ、他の客待たすんじゃねぇぞ!
(鍋の中のチャーハンを豪快にあおりながら、大声を張り上げて。
何故こんなところで鉄鍋を振るっているのか、未だによくわからない。
そもそもは知人が出店をやると言う話だった。
その手伝いとしてやってきたはいいのだが、当の本人が殆ど顔を出してこない。
たまに来たかと思えば売り上げを確認してまたどこかへ言ってしまう。
その癖客足は殆ど途絶えず、結果として連日鉄鍋とお玉を振り回しているハメになっている。)
ほいチャーハン!
さっさと金出せ!
(殆ど強盗のようなセリフだが、むしろ強盗にあう立場なのは自身である。
寒くなってきたと言うのに、火力の強いガスコンロの前で鉄鍋を振り回しているせいで汗だくである。
ぶちぶちぼやきながらも、割と真面目に仕事をしているのは、一応金の出る仕事だからだ。
そうでなければ文字通り店を「畳んで」さっさと帰ってしまっている。)
ご案内:「学生通り【常世祭期間中】」に真乃 真さんが現れました。
■真乃 真 > 「今日も見つからないな…。」
特に思い悩んではいないような調子で人を探しながら歩く男。
異様に長いタオルを靡かせながら行く男である。
普段でさえ人が見つけにくい常世島、この常世祭の中で人を見つけるのはどれほどの難度だろう。
常世祭期間中は見つからないだろうな…。
そんな事を思いながら食品の匂いに釣られてフラフラと出店へ向かう。
「ふんふん、焼きそばとチャーハンか…。
っと、龍宮さん!龍宮鋼さんじゃあないか!!何で普通に出店で働いてるんだい!?」
びくびくしながら、落第街とか歓楽街とか探したのはなんだったのか…。
「いや、いいんだけどさ!あっチャーハン一つね!」
会ったら話さなければいけない事ととかもあったけれども他にお客さんもいるし…
とりあえずお腹空いてるし…注文をすることにする。
「いやあ、凄い混んでるね!!こんなの良く一人で回せるね!!」
■龍宮 鋼 >
クソが!
捌いても捌いても客が減らん!!
(接客と会計と三つの鉄鍋を一人で相手取りながらイライラした様子で叫ぶ。
隣はテーブルが用意された公園、ここら一帯は和洋中ありとあらゆる食事・飲み物・スイーツの店が固まっており、加えて今はお昼時だ。
混まないわけが無いのだ。)
あァ!?
――仕事中だ邪魔すんじゃねェヒーロー!
あと割り込むんじゃねェよ他の客並んでんだろうが!
(掛けられた声に、不機嫌な声と顔を向ける。
そこに居た顔を見て更に不機嫌になった。
割とまともな事を叫びながら、お玉をふるって列に並ぶように促し、)
――あぁ待てヒーロー。
ヒーローなら困ってるヤツほっとかねェよな。
困ってるヤツほっといて暢気にチャーハンなんざ食ってる場合じゃねェよなヒーロー!?
(悪い笑顔を向ける。
出店の中に予備のエプロンとタオルがあるのが見えるだろう。)