2016/12/17 のログ
ご案内:「学生通り」にフェルナンドさんが現れました。
フェルナンド > 学生通り。
久しぶりに授業などをしてみたが、まぁ退屈だった。
古典の授業などしてどうなるのだ。若者は未来を見なくてはいけない、と最初に言ったら半分くらいの生徒は出て行ったし。
仕方ないのでゼミ形式にして、最近食べた美味しい物の話をしろと言って、そのまま採点した。大体が学食で彼の知っている物ばかりだったが、でも合格点をあげた。確かにあそこの学食は美味しいから。

しかし、だ。
一人だけ、違う答えを言った男子が居た。

『学生通りにある『ボナ・ペティ』っていう洋食屋のカキグラタン、あれ美味しかったですね!』

それはまだ、フェルナンドが行った事の無い店だった。
そうと聞いては黙っていられない。
午後の授業なんぞ全部休講である。早速試してみなければ。

フェルナンド > ワインを嗜む彼だが、今は昼だ。
もし満席になっていたら叶わない。昼丁度に、話に聞いた店につく。
幸い、知る人ぞ知る、という所なのか、あまり混んではいなかった。

店内の装飾は普通。
どこにでもある喫茶店風のたたずまいだ。

(うん、いいな……変に本格派でござい、と気取っていないのが良い)

彼は食通であるが故に、店内が雑然とするのを好まない。
食事に集中したいのだ。インテリアを見せたいなら雑貨店でもやればいい。

「メニューをどうぞ」

アルバイトらしい、かわいい眼鏡の娘がメニューを持ってくる。
少し不安になった。

(まさかあの学生、この娘が目当てで……?)

もし、眼鏡っ娘目当てで凡庸な店に通い、あまつさえそれを絶品として報告したのならば許せない。そんな不埒な生徒だったら落第だ。フェルナンドは心に固く誓う。

フェルナンド > メニューを開けば、これまた普通の洋食屋さんの品揃え。
ハンバーグステーキ、オムライス、豚肉のしょうが焼き、スパゲッティ・ナポリタン。

件のカキグラタンもあった。
だが、ここでフェルナンドの目を引くものが飛び込んでくる。

「――12月限定、チキンローストセット!?」

なんという事だ。
この写真のチキンローストがなんとも美味そうではないか!
そう、12月といえばターキー、そしてチキン。これを逃せば、このチキンローストは食べられないかもしれない!

「くっ、だがカキグラタンも……!」

そう、カキグラタンも冬季限定。
しかも、当初の目標でもある。
あぁ、どうすればいいのか……!?

フェルナンド > 吸血鬼、カキグラタンとチキンローストの二者択一。
まるで銀の十字架を構えた聖職者を前にしたように、渋い顔をして唸る。
そんな男の苦境を救ったのは、オーダーを取りに来た眼鏡っ娘だった。

「あの、よろしければカキグラタンをハーフにして、チキンローストセットにつけましょうか?」

ハーフサイズ! そういうのもあるのか!
天の助けとばかりにフェルナンドはその提案に乗る事にする。
チキンローストセットは、足りない人間の為に一品サイドメニューの追加を出来るらしい。カキグラタンのハーフをそれにつければ、完璧だ!

「助かります、お嬢さん」

感謝の念を込めて笑みを送る。
何故か眼鏡っ娘の顔が真っ赤になり熱い視線を送られるが、この男の意識は既にチキンローストセット&カキグラタンに向いている。

フェルナンド > 「パンはお代わり自由なので、言ってくださいね」

学生街だというのに剛毅な事だ。
と、思っていたら――

「あちちっ……」

パンはふっくら焼きたて。
そう、なんと自家製のパンなのだ!
なるほど、どうやら自家製パンがある間は食べ放題、お代わり自由という事らしい。
しかし、皿を空にしないと注文できないし、注文してから焼くので時間がかかる。昼休みの学生では、あまり量を食べられないだろう、面白い工夫だ。

「うん、これはいい」

本格的なフランス風のバケットではなく、外はもっちり中はふわふわ。うん、こういうパンは好きだ。ヘタに本格派を謳うより、こういう素朴なパンの方が彼は好みだった。

「このパンだけでお腹いっぱいになれそうだ」

バターをつけ、ふわふわのパンを頬張りながら、フェルナンドはゆっくりとメインを待つ。

フェルナンド > 「お待たせしました、チキンローストとスープになります」

出てきたのは、大きな鳥の一枚肉のロースト、つけあわせのキャベツとトマト、そしてコンソメスープ。一見、普通の洋食である。
だが。

「――これは、マッシュルームとポルチーニ茸か!」

かかっているソース。マッシュルームとポルチーニ茸を使ったキノコソースだったのだ。美味い、これは美味い!

「パリパリとしたチキンローストと、噛めば噛むほど味の出る茸。これは……!」

すばらしい。合間に食べるキャベツとトマトは常世産らしく、みずみずしく味が濃い。
飾らず、見栄をはらず、それでいて素朴な美味しさをすべて閉じ込めたような一品だ。

フェルナンドはチキンを切り分け、口に運び、合間に野菜やパンで味わう。付け合せのスープは取り立てて美味しいわけではないが、この寒い日、温かい汁物はありがたい。

フェルナンド > 「パンのお代わりを」
「はい、グラタンはもう少し、お待ちくださいね!」

パンのお代わりを頼みながら、ひたすらチキンローストを味わう。
チキンの臭みはキノコの味で全部消えている。それに、焼き具合も丁度良い。
この一品だけで来た甲斐があるというものだ。これならば、カキグラタンも……

ちょうどチキンローストとスープを平らげた頃、カキグラタンがやってきた。

「お待たせしました、カキグラタンのハーフと、パンのお代わりです。
グラタン皿熱いので、お気をつけくださいね」

フェルナンド > グラタンはぐつぐつと煮立っている。
さて、味の方は……

「あち……ん!!!」

口の中に広がる牡蠣とクリームの味。ここまでは予想通り。そして中に入っているのは定番のほうれん草。ここまでも予測は出来た。だが!

「これは……貝柱か!」

ホタテの貝柱。
そう、豪勢にもこの牡蠣グラタン、ホタテの貝柱をふんだんに使った、贅沢なシーフードグラタンだったのだ!

「おぉ、おぉ……!」

早速一緒に来たお代わりのパンにのっけて食べる。
柔らかいパンがクリームを吸い、味と感触が口の中で渾然一体となって蕩ける。
美味い、誰がなんと言おうと美味い!

「あの男子生徒には満点をやらんとな……!」

フェルナンド > グラタンを食べてる途中に、もう一回パンをお代わりしてしまった。
満腹になった腹をさすりつつ、食後のコーヒーを堪能する。
今日の食事も美味かった。人生はかくもすばらしい。

「ふぅ……」

会計をして店を出る。
ありがとうございましたーとの声を背中に受けながら、フェルナンドは呟く。

「冬の空、牡蠣とホタテの、片思い」

でもあの味の完成度は、両思いだったなと。
益体も無い事を考えつつ、吸血鬼は昼の街へと消えた。

ご案内:「学生通り」からフェルナンドさんが去りました。