2017/11/08 のログ
ご案内:「学生通り」に陽太さんが現れました。
陽太 > 学生街のメインストリート脇に設置してある
洒落たデザインのベンチの一つ。

「どうしよう...」

本来ならばこの場所に絶対に来ないような子供がひとり、
わかりやすく顔を青ざめさせていた。

スラムに暮らす孤児、陽太。
純白の少女に猫とともに訪れたこの子供は、流れに流されて
新品の服を着せられた上、体を洗われてスラムの孤児に到底見えない
格好にさせられた挙句に、学生街に放置されていた。

ご案内:「学生通り」に飛鷹与一さんが現れました。
陽太 > しかしながら、同年齢の子供と見比べば
異様に痩せた肢体、低い身長は誤魔化せない。
極めつけは、闇色に濁りきった底なしの瞳。
無垢な光を映さない瞳に、周囲の人々が不気味がるのは無理はない。

しかし陽太自身は、
自分が周囲の視線を釘付けにしているのに気づかない。
それよりも、先のことが大事だ。

「.....あのひとは、たぶんしんせつでやったんじゃないだろうけど...。
スラムにもどれねーのはこまるって...」

恐らくこの街を出歩くのに無理がないようにということだろう。
しかしその道すがら、ボロボロの衣服は
あまりにも衛生面的に悪かったので捨ててしまっていた。

「...でも、おれがとめなかったのがわるいし...」

ベンチにお行儀よく座ったまま、悶々とひたすら悩んで。

飛鷹与一 > そして、そんな顔を青ざめさせる少年の目の前を一人の少年が偶然通り掛かる。
赤い風紀委員会の制服、左腰には独特の形状のナイフ、肩には何かを収めた細長いケースを背負っている。
丁度、この学生通りの巡回をしていた所なのだがそろそろ自分の担当時間も終わりの頃合。
そんな時に、何気なく視線を向けた先にその顔を青ざめさせた少年が映ったのだ。

(……うん?)

孤児院で世話になった経験もあり、だからこそ自分より年下の少年少女と接するのも日常茶飯事だった。
なので、ごく自然にそちらへと方向転換し、軽く腰を屈めて彼と視線を合わせようとしながら。

「やぁ、こんにちは。こんな場所でどうしたのかな?迷子…とは少し違うみたいだけど」

と、穏やかな口調と物腰でそう挨拶も交えながら彼に尋ねてみようとして。

陽太 > 「.....?えっと.....」

おずおずと顔を上げて、目の前の青年と目線を合わせる。
相手には闇色の濁りきった瞳が、至近距離で見えるだろうか。
陽太本人はといえば、見覚えのある制服を目にしあからさまに怯えたように。

「...ま、まいご、かも...!
家に、かえれないから。

...お兄さんはふうきいいん、なの?」

優しそうな印象を覚えるも、実際は恐怖の方が勝る。
しかし元々明るい気質の陽太は、内心怯えているものの
我に返って慌てていつも通りに振舞おうと。

しかし、最後には怯えた様子を取り戻し、おそるおそる尋ねる。

飛鷹与一 > 「うーん、成る程。いや、急に声を掛けて驚かせたかな?何か君の顔がちょっと青ざめてる感じだったから気になってさ?」

闇色の濁り切った瞳。普通の一般的な感覚なら怯えたり不気味さを覚えるかもしれない。
だが、『清濁併せ持った目を持つ』…少年はそんな彼の目付きを怖がりも避けもしない。
そのくらい何て事は無い、といった感じで穏やかに笑ったままであり。

「…って、迷子…か。うーん、近くの風紀委員――は、駄目っぽいかな。君、少し訳ありぽいしなぁ」

うーん、と頭を掻いて。フと何気なく学生通りの一角にある店舗の中…壁掛け時計を見る。
時刻的にもう”風紀委員としての飛鷹与一”の時間は終わりだ。つまりここからは”個人としての飛鷹与一”の時間だ。

「…あ、ごめん自己紹介遅れたね。うん、風紀委員会の飛鷹与一っていうんだ。与一でいいよ。君は?」

と、目線はしっかりと彼へと合わせつつも、怯えた少年に笑いかける。
彼としては別に怖がらせたいつもりは欠片も無いし、今は風紀委員としてでなく個人として彼に接している。

陽太 > 「いま、すっごくこまってるから...」

頭を抱える身振りをした陽太は、
ぎゅっと眉間に皺を寄せて泣きそうな表情になり。
それから、自分を不気味がらない【表】の人と知れば
少しだけ嬉しそうに口元を緩めるだろうか。

「や、やっぱり...。...ご、ごめん!
ふうきいいんのひと、みんなこわいのかなって思って、その、」

優しいこの人を悲しませてしまっだろうか?
慌てて謝罪して、おろおろと視線をさ迷わせて狼狽えて。
....この人はこわいひとじゃない、と陽太は確信し。

「...おれは、陽太。...よろしく」

きゅっと唇を引き締めて、相手に小さく笑みを向けた。

飛鷹与一 > 「成る程。じゃあしょうがない。風紀委員…と、いうのは置いておいて俺個人として力になるよ」

困っている誰かを見捨てて置けないのは当たり前の優しさか、それともただの甘ちゃんか。
だが、どちらも自覚した上で少年は彼を助ける事に決めた。この際、風紀委員だから、というのはまずどうでもいいい。
今はもう仕事も終わってプライベートの時間。個人としての判断だ。

「いやぁ、うん。風紀委員も色んな人が居るからなぁ。皆が皆そうって訳じゃないけど怖い人も確かに居るよ。」

全員が全員、そうではないが彼が怯えるようにこわーい風紀委員もそりゃ居たりする。
少年の言葉や怯えように、こちらとしては困ったように笑うだけで彼を咎めるつもりは全然無い。

「ん、陽太君か。いい名前だな!けど、君一人でこの場所に?誰か知り合いとか一緒に来た人は?」

一応、そこは尋ねてみようか。彼の服装は真っ当なものに見えるが、その挙動不審さは…心細いとかそういうのもあるだろうが、この場所に純粋に慣れてないように見える。

陽太 > 「ほんと...?あ、ありがとう」

味方ができるのは心強いとばかりに、
ぱっと顔を上げてあからさまに安心したように。
...当たり前の優しさでも、甘ちゃんだとしても、
今だけは陽太にとってのヒーローだということは間違いないだろう。

「...こわいひとしかみたことなかったから...」

優しい人もいるのか、と呟くように言って少しの間沈黙する。
もしかしたらとんでもない誤解をしていたのかもしれないと。

「え、えっと、ましろがつれてきてくれた!」

相手の問いには、子供らしく素直に答える。
...あの少女が引き取った猫は結局大丈夫だったのだろうか?
と呑気に考えながら。

飛鷹与一 > 「どういたしまして。まぁ、君を何処まで送ればいいのかまず聞いておかないといけないけどね?」

あからさまに安心したような顔をする少年に笑って。少なくともこの辺りに住んでるとかそういう訳ではなさそうだし。
それに、彼の言葉は何と言うか…。

(…やっぱり、落第街――…いや、その向こう側の子なのか?)

スラム…実際に足を運んだ事は風紀委員会の作戦の後方支援として1,2度程度だ。
「こわいひとしかみたことなかったから」…彼の言葉は何気ないようで結構クる。
少年自身は、例えスラムの住人だろうと誰も殺したことは無いが…それがどうしたというのだろう。
『人は殺さない〕…殺人はしない。簡単なようで難しく、またしがらみを生むもの。だが決めた事だ。
決意を密かに新たにしつつ、その気持ちは顔には出さず笑顔のままで…。

「……は?」

え?何かいきなり聞き覚えのある名前が彼の口から出てきたんですけども。
一瞬、流石に目を丸くしつつも、少年に「あー…」と、少し言い難そうに口を開いて。

「…陽太君。質問なんだけどその「ましろ」さんは…こう、背の高さがこれくらいで、目が青くて髪の毛が長くて綺麗で…。
あと、こう白くてヒラヒラした服装で…長い刀とか持ってなかった?」

同じ名前の別人、という事もあるだろうから自分が知る彼女の特徴を挙げてみよう。
とはいえ、もう半ば自分の師匠だと確信してはいるのだけど念の為だ。うん念の為。

陽太 > 「あ、え、えっと...」

...果たして言っていいものだろうか。
助けては欲しいけれど、それは普通にあの虚ろな地獄へ帰りたいという意味で。

保護するなんて言われたら逃げるしかないな、と意思を固め。

「……スラムの、橋のちかくだよ!」

敢えて明るい笑顔を浮かべたまま、
あっさりと自分の家の場所を教えた。

「ん?」

予想外のところで変な反応をした相手には
同じく疑問の声を上げながらキョトンと首を傾げ。

「...うん!そう、そんなひと。
まっしろのお姫さまみたいなかっこうをしてる。
...しりあい?」

ひらひらな衣装をお姫様に例えつつ、
特徴は全て当てはまったのでうんっと元気よく頷く。

飛鷹与一 > 「成る程。えーと、その橋の特徴とか分かるかな?送り届けるにも、スラムの詳しい地理とかあまり分からなくてさ?」

勿論、かつて作戦に参加させられた時に大まかに地理は叩き込んだが、あそこは生き物のように少し時間が経過すれば地形が変わるのだ。
それこそ、更地になったり新たに変な建物が出来たりと、まぁ色々なのだが…。

「あ、でも一つだけ聞いていいかな?勿論、言いたくなかったら言わなくていいけど。
―――君は何故、スラムに帰りたいんだ?」

そして、送り届ける駄賃代わりにそのたった一つの質問を少年へと尋ねようか。
その目は怒っても笑っていない静かなもので。ただ彼の考えや思いを聞きたいが為の真剣さだ。

(…って、やっぱりかーーー!!真白さん、陽太君をこんな学生通りで放置してどうすんですか!!)

面倒見が良いあの人の事だから、何か考えとかあっての事だろうし、彼がスラムでなくここに居るのも理由があるのだろうけど。
思わず心の中で師匠へとついツッコミを入れてしまう弟子であった。

「…うん、俺の大事な友人で師匠。…あと、個人的に気になる人…かな?…あ、最後のは男同士の秘密で」

と、ちょっぴり乾いた笑顔になりつつも頷いてそう答えておこう。まさか師弟揃って同じ少年を手助けする事になるとは。

陽太 > 「えーっとねー、ぼろぼろでー、でっかくてー、木と土でできててー、はしのしたにはいっぱい草がはえててー」

大雑把に過ぎる特徴をとりあえず挙げていく陽太。
ある意味子供らしいが、とても分かりにくく。
指折り数えてはいるが、順序があるかは定かではなく
寧ろ手当り次第にしか見えないだろう。

「...あそこで生きないといけないから。
生きていくってきめたんだ!...ここにはいられない」

真剣な目を見つめ返す瞳には何の感情もない。
ただただ無表情で、しかし無邪気な声で答える。

「...ししょーで、ともだちで、...きになるひと...?」

一瞬きょとん、とし。気になる人とはなんだろうと。
しかし亡き姉の『気になる人なんかいねぇわわたしは一生独り身なんじゃ』と母に愚痴っていた言葉をふと思い出し。

「...よいちは、ましろとけっこんしたいの!?」

思わず目を見開き身を乗り出して、そう叫ぶ。

飛鷹与一 > 「……うん、こりゃ頑張って探さないとなぁ。俺、生きて戻れるかな…。」

一度彼を送り届けると決めた以上は絶対に送り届けるつもりだ…が!場所の手掛かりが大雑把過ぎる!
とはいえ、それで彼を責めるつもりなんてサラサラ無い。頑張って探そう。今日は徹夜かもしれない…。

「……そっか。じゃあ俺からはもう何も言わないよ。君が決めた事に口出しはしない。
男と男の約束ってヤツかな。ただ、何かあれば俺とか真白さんに言ってくれ。力になるから」

と、軽く右手を拳にして彼へと突き出してみせる。ジェスチャーだが彼にも何となく伝わるだろうか?

「………うん、ちょっと落ち着こうか陽太君。」

あれぇ!?何か色々とぶっ飛んでないですか!?と、思わず頭を抱える。
いや、結婚とか飛躍しすぎだろう少年。むしろ、身を乗り出して興味津々ぽい彼の様子にどうしたものかと。

(あぁ、そういえば真白さんと「契約」した時に、あの人の一族の風習云々でそれに近い話題が出たなぁ)

陽太 > 「ご、ごめん...。スラムには、橋いっぱいあるよな。
でもほかの橋より古いよ!
ちゃんとなまえもついてたような...。覚えてないけど...」

相手が困っているのは明らかで。
あわあわとしながら必死に特徴を頭から捻り出す。
だが小さな小さな脳みそから大した情報は出なくて。

「.....ん。ありがと、やくそく」

小さな笑みを浮かべたまま、拳をきゅっと握る。
痩せた小さな拳は、青年の拳とこつんとぶつかるだろう。

「???ちがうの??」

純粋そのままの瞳で相手をまっすぐ見つめて。
無垢でしかない陽太は、主に姉によって変な知識をただでさえ植え付けられまくっていて。

飛鷹与一 > 「つまり古い橋を虱潰しに…か。えーと、何か近くに目印というか目立つモノとか変なモノとか無いかな?」

もう徹夜の覚悟は完了したのか、少しでも場所の候補を絞ろうとそう質問をしてみる。
彼も必死に場所を教えてくれようとしているのだ。その気持ちを無駄にするつもりもない。

「ああ……陽太君。君は君らしく行けよ」

拳をコツンと重ねながらそう呟くように。頑張れ、とか大変だろうな、とかそんな言葉は言わないし彼も望んでないだろう。
大事なのは、あのスラムでも彼が彼らしく生きて行けるように。その気持ちと決意が大事なのだ。

――と、ここまではまぁイイ話?なのだが、問題はここからだ。彼にどう説明すればいいのやら。

「いや、違うというか飛躍しすぎというかね?…いや、まぁ気になる人では確かにあるんだよ。
ただ、真白さんがこっちをどう思ってくれてるのかなぁ、とか気にな…じゃなくて!!」

あかん、ドツボや。ちょっと落ち着こうと頑張って深呼吸してみる…駄目だった。
と、いうか彼のとんでもない飛躍思考は誰のせいだ!?と、空に叫びたい。

陽太 > 「えっと、あ!
このまえ、ふうきいいんのひとにぶっ潰されたいえがいっぱいあるとこ!おれんちはぎりぎり大丈夫だった!」

さらりと風紀委員の話を蒸し返そうと。
陽太は見ていないが、曰く砲弾をぶち撒く少年だったという。
陽太の家のあばら家はギリギリ崩壊は免れた。

「うん。いわれなくてもそーする」

____...すべてはねぇちゃんのために。
小さく心の中で呟くと、それは毒のように染み込んでいく。
また何度も忘れるなと、誰かが囁く。
陽太はそれに気づかないふりをして、朗らかに笑った。

...とまぁ、真剣?な話はここまでにして。

「んーっと、よいちはましろとけっこんしたくないの?
よいちはましろが大好きなんだろ?そーみえる」

ますます不思議そうに、しかしどんどん爆弾を落としていくだろうか。
良かったらましろがよいちのこと好きか聞こうか?などと言う始末で。

誰のせいか?大体姉のせいである。

飛鷹与一 > 「……陽太君、よく無事だったなソレ…けど、まぁうん。お陰で場所は大体分かったよ…。」

その作戦に自分は参加していないし、その砲弾をぶち撒く同僚に会った事も多分無い。
が、噂は何となく聞いたことがある。件の彼が「面」制圧なら自分は「点」。対象的だから少し気になってはいたのだ。
ともあれ、彼が巻き添えになっていなくて何よりだ。蚊帳の外だったとはいえ、同じ風紀委員としては何とも言えない気持ちになるが。

「…うん、だけどいざとなったら誰かに頼る事も忘れないようにな?
自分で色々と頑張るのは大事だけど、時には誰かに頼るのも決して駄目な訳じゃないんだし」

スラムで生きて行くには甘い考えかもしれないが、だからこそ言っておきたい。
まぁ、あまりこういう話を続けると説教くさくなりそうで嫌だから止めておこう。

「いや、したいとかそういうアレじゃなくてだね陽太君…。
と、いうかもうこの話はおしまいでいいんじゃないかな、と俺は思うんだけども」

むしろ、これ以上続けると何か色々とボロが出そうな気しかしない。
しかし、彼の爆弾発言は止まらない。「いや、聞かなくていいからね!?」と、一応止めておくけど。

(くそぅ、陽太君に別に悪気が一切無いだけに下手に怒れない…!!)

スラムの少年に風紀委員の少年が追い詰められて(?)行く構図である。

陽太 > 「るすにしてた!
さいきんあんまり家にかえってないんだ」

緊張感の無い明るい笑みを浮かべ、何故か自慢げに。
単に落第街へ行く機会が増えただけなのだが。
何のためにか。勿論スリ...仕事のためである。

「.............。
みんなそういうけど、だれもなにもしてくれなかったよ?」

____あの時何度も助けてって叫んだけど、何もしてくれなかった。
不思議そうに尋ねる陽太は、ただただ訝しげにしか見えないだろう。
もう一人の姉も頼ってほしいと言うけれど。

「ん?わかった。じゃあおしまいね」

追い込んでいるのにも気づかずにぱんっと手を打てば。
別に悪意はない。単に好奇心に溢れた興味だけだ。

飛鷹与一 > 「そうなの?まぁ、君が元気にやれそうならそれで良いけど」

根掘り葉掘り聞くのが風紀委員としてのお仕事なのだろうが、今はプライベートな時間なのでそれは無しだ。
誰もがそれぞれの事情を、思いを抱えて今を生きているのだから。

「――ああ、それは”俺も経験がある”よ。…覚えてはないけどね。多分、君と同じように叫んだんだと思う」

記憶には無いけど気持ちは残っている。叫んでも泣いても、結局何も出来ずに自分だけが残った。

「…誰も何もしてくれなかったなら、自分で強くなって頑張るしかない。けど、それだって限界はある。
…君の叫びを聞き届けてくれる人が居る筈なんだ…”そうでなくちゃいけない”。」

ギリ、と奥歯をかみ締める。記憶に無い記憶が少年を締め付ける。…いけない、感情的になり過ぎだ。
クールダウンするように一息。肩の力を抜こう。覚えてない事を引きずり出すのも自分の精神衛生的に良くない。

「ああ、そうしてくれると助かるよ。…まぁ、真白さんが気になるのは確かだけどね」

そう締めくくろう。そこは嘘や誤魔化しなく素直に。さて、ぼちぼち送り届けた方がいいだろうか?

「えーと、じゃあそろそろ送ろうか?あ、ついでに何か美味しい物でも奢るよ。」

陽太 > 「へいきだよ!
ふゆもなんとかこせそうなんだ」

もうじき、いやもう来ているかもしれない。
寒くて辛い冬も、何とか大丈夫だ。
逞しさをアピールするためか、皮と骨しかない腕を曲げて力こぶを作ろうと頑張るも無理なものは無理であった。

「.........へぇ」

生半可な返事ではない。
呟いた陽太の目はますます濁る。
なにもできない自分と、死んだ姉と、周囲を囲む大人たち。
それが脳内で瞬くのを、噛み締めるような返事だった。

「.....そうじゃ、なくちゃいけない?
...よいち?だいじょうぶ?」

様子がおかしい。
そっと顔を覗きこみ、不安そうに声をかけようか。

「やっぱりきになるんだ、ふーん。

...え、だ、だいじょうぶ、いらないよ...」

あくまで事実確認のように呟きながらベンチを立てば、
奢るという言葉に慌てて遠慮をし。

飛鷹与一 > 「……よし、その服装だとアレだからジャンパーくらいは買おう。むしろ買う」

彼の逞しさアピールを眺めて笑顔。ただしその笑顔は拒否権無し!という文字が書かれているノリ。
防寒着くらいは持っておかないと流石にキツいだろうし。お節介し過ぎはよく無いのは分かっている。
…が!流石に長袖シャツとハーフパンツとスニーカーだけではキツかろう。

「………あぁ、うん。大丈夫大丈夫」

思い出そうとしても、”何も無い”記憶を思い返せる訳がないのに。
彼の声に我に帰り、首を緩く振って気を取り直して笑おう。どうにもらしくない。

「うーん、そりゃあね。真白さんにはすごいお世話になってるし、返しきれない恩もあるし。
…まぁ、結婚云々は兎も角として、一番気になる人なのは確かだよ」

あまり自分で語ると余計にボロが出そうだからこのくらいにしておこう。ともあれ…。

「うん、じゃあ防寒着買って、何かコンビニで食べ物買ってからスラムに送るよ。
じゃあ行こうかーー」

と、笑顔で有無を言わせないノリ。彼が遠慮すると予想していたので、彼の手を取ってそら行くぞーと、ばかりに。
多分、宣言どおりに適当に暖かそうな防寒着やら食べ物を買い込んで彼に奢って。
で、時間が掛かりはするがきっちり彼の塒近くまで送届けるだろう。

陽太 > 「え、えぇー。うー...」

有無を言わさない口振りにおろおろしていたが
ついに観念して大人しく頷いておく。
ガチでスラムの子にはふさわしくなさそうな...。

「...むりしないでね」

いなくならないで。
懇願するような口振りで、相手に俯いたまま強請る。
みんな無理をしていなくなる。それを知っていたから。

「ましろ、やっぱりいいひとなんだな」

冷たいようなイメージだったけど、やはり。
満足げにふんすふんすと鼻息も荒く何故か嬉しそうに
まあまあ綺麗な顔を満面の笑みで彩る陽太。

「そ、そーいうのよけいなおせわっていうんだ!」

そう怒鳴るも、手を引かれるのには抵抗せず。
渋々と奢られた食べ物や服を受け取るだろう。
...それから、何時間かして無事に家に帰れたのだった。

ご案内:「学生通り」から陽太さんが去りました。
飛鷹与一 > スラムの子からランクアップしているかもしれないが、それはそれ。後は彼個人がどうにかこうにかすればいい。
面倒見は悪くないし、そこそこお節介な少年だが、優しいだけでなく突き放す所はきっちり突き放す。
…ただ単に甘いだけの少年なら、きっと彼とすんなり心を通わせる事も難しいだろうから。

「…ああ、無理とか無茶すると「師匠」に怒られるからね」

苦笑気味に頷く。無論、そうしないといけない場面があれば迷わずそうする。
だが、今は少なくとも気分は落ち着いてきたから大丈夫だ。

「良い人というか…うーん、上手く言葉に出来ないけど…」

ただ単に良い人だとか、そういう事ではないがそこを上手く言葉に落とし込むのは難しい。
まぁ、彼が何か満足そうにふんす!なドヤ顔をしているので良しとしよう。

「余計なお世話は上等だよ。そこは師匠譲りなんで諦めてくれ」

と、楽しそうに笑いながら少年を伴ってこの場を後にするだろう。

ご案内:「学生通り」から飛鷹与一さんが去りました。