2018/06/24 のログ
■神代理央 > 「その可愛げがないところが問題だと思うんだが。見栄えは悪くないんだから、女子らしく振る舞っても良いと思うがな」
一瞬彼女の服装に視線を落とした後、呆れた様に小さく肩を竦める。
実際、黙って此の店に立っていれば男子生徒の目を引く存在だろう。風紀委員と皮肉の応酬を繰り広げていなければ。
そこで、彼女の女子らしさというものを下げている一因は自分にもあるのだろうかと少し悩んだのだが。
「……折角勧めてもらった店だ。せめて、きちんと物色してから気に入るか気に入らないかの判断はするべきだろう。それに、多少女子向けとはいえ好みの雨具も幾つかあった。店自体は、悪いものでは無いしな」
彼女の言が尤も過ぎるが故に、頬をかきながら俯き加減に返事を返す。
何時も己の中に渦巻いている攻撃性や嗜虐心は何処に旅立ったのかと内心途方に暮れつつ、こんな場所でそういう本性が頭を擡げても困るか、と再び小さな溜息を吐き出した。
■ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「女子らしく、と言われてもちょっと困りますね。
いや、むしろこのお店にいること自体が女の子っぽさにはならないんですか?」
結局、女子らしくないというのは機関銃を振り回す時だったり、
その姿を見知った相手と話す時だったりする。
別にずっと女の子っぽくないというわけではない。はず。
「あなたにこの店を勧めた人、
多分私以上に性格の悪い皮肉を込めてこの店を勧めたと思いますよ?」
『お前にはこういう店がお似合いだ』って。
さすがにそんなことは言わないが、そういう意図は伝わっただろう。>
■神代理央 > 「まあ、男の俺にはどういうのが女子らしさというのか説明は出来ないんだが。男から見る女らしさと、女が考える女らしさというものは相違があるものだろう?」
散々彼女の女子らしさについて文句を言っておきながら、そんなもの分からないとぶん投げた。
実際、分からないものは分からないので流行りの雑誌だの何だので判断するしかないとは思うのだが、そんなものついぞ触れた記憶がない。
「…そんな事は無い、と思いたいんだが…。いや、まあ、否定は出来ないな」
自身の容姿と行動が伴っていないことは十二分に理解している。
それ故に、店を勧めてくれた同級生の好意は素直にありがたいと思っていたのだが、やはり自分には友人作りというものは難易度が高いものらしい。
力無く笑みを浮かべて、彼女の言葉にゆるゆると頷いた。
■ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「……どちらかといえば私の感性は男性寄りだと思うんですけど、
こうなってくると女の子らしさをだすの、ハードル高いですね?」
確かに男女で『女の子らしさ』というものは違うだろう。
しかしずっと軍隊で育ってきた身だ。
果たして自分の中にある女の子らしさはどうなのだろう。
彼の言葉に途端に不安になった。
「いや、そこに悪意がないのであれば純粋に"そういう目"で見られてるってことですよ」
悪意がないのであればおそらく善意だろう。
無関心な人にこういう店を勧める人はいない。
だとすれば悪意の元ここを勧められた以上に彼へのダメージは大きいわけで>
■神代理央 > 「…まあ、そういう感性の女を好む男もいるだろうし、無理して女らしさを出そうとすることもあるまい。女らしく振る舞いたいなら、それこそ此の店の小物でも幾つか買って身につければ良いのだろうし」
彼女の様子を見て少し困った様な表情で言葉をかける。
慰める、という程では無いが、精一杯不慣れな気遣いをしようとしたが、慣れない事をした故に正しい対処方法が分からない―といった様子で。
「…女らしさをお前にあれこれ言っておいて何だが、そんなに私は『そういう』様に見えるんだろうか?」
確かに、教師や先輩といった目上の者の前では礼儀正しく振る舞っており、彼女と相対する時よりも大分大人しい生徒を演じている事は自分でもわかっている。
しかし、基本的には彼女と話している尊大な態度が素であり、日頃の口調も別に中性的なものであるわけでもない。
単純に容姿の問題なのか、と首を傾げて彼女に問いかける。
■ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「…うーん、別に女の子らしくなくて困ったことはないのでこのままでいいですかね」
あきらめた。
いや、あきらめたというより、必要性を感じなかったというのが正しいのだろう。
感性が男寄りというだけで、女の子らしくないというわけでもあるまい。
そんなところ。
「黙ってればなかなか可愛いんじゃないですか?
少なくとも厳ついお兄さんとか、そういう見た目ではないでしょうし」
そう、黙っていれば。
普段の礼儀正しい彼を知らないのでそんな言葉がでた。
逆に猫をかぶっている彼しか知らないのであれば、
口調の性差に関係なく可愛げがある様に見えるだろう>
■神代理央 > 「…お前がそれで良いなら別に口出しはしないが。しかし、勿体無いとは思うがね」
実際、彼女の見栄えは良いのだ。今のままでも彼女に視線を向ける男子は大勢いるだろう。
人の決めた事にこれ以上口出しするのも野暮か、と鷹揚に頷いて相槌を返した。
「…黙っていれば、か。ならば、精々沈黙せぬ様にしなければなるまいな。それとも、男らしさが出るように行動を改めるべきかな」
彼女に言葉を返しつつ、半ば自分で反芻する様に言葉を転がす。
黙っていればということは、取り敢えず彼女は自分の事をそういう風には思っていない…と思い込む事にする。
実際、思い返してみれば随分と攻撃的な事ばかりしていたものだと、自然に苦笑いを零してしまう。
■ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「私が得をしない需要を満たしたって仕方ないですしね」
もったいないといわれるが、それを一刀両断。
別に不特定多数の男性陣からちやほやされたいわけではないのだ。
そういうのは愛玩動物の役目。
今でこそ猟犬ではないが、愛玩犬になった覚えはない。
「あなたが普段他人に対してどんな態度をとっているかわからないので、
そこらへんはよくわかりませんけど。
まぁ、それこそあなたが男らしさが出る行動をとったとしても、
背伸びしてるように見えて『そういうのが好みの人たち』にモテそうではありますけど」
世の中いろんな趣向を持った人がいる。
男っぽい女とか、女っぽい男が好きな人はすくなくない。
軍隊にいた自分ですら……
いや軍隊にいたからこそそういうちょっと外れた趣向の存在を知っている。
そういうのがあることを彼だって言わなくたってわかってはいるだろう。
「普通に年ごろの男の子みたいにすればいいんじゃないですか?
見た目は仕方ありませんから
気に入らない人はねじ伏せて晒上げればいいんですよ。
そうすればだれも『そういう扱い』をしなくなります」
そして提案した案の内容は過激だった>
■神代理央 > 「違いない。大体、そういう風に寄ってくる連中に碌な奴は居ないだろうしな」
小さく笑みを零し、彼女の言葉に頷く。
異性からの歓心を得たいものが努力すれば良いことであって、彼女がそれを求めていないのならそれはそれで構わないのだ。
恋話に花を咲かせていた同級生を思い出せば、有象無象の男子の中に彼女に釣り合うような輩がいるとも思えないし。
「普段は…そうだな。典型的な優等生を思い浮かべてくれれば良い。にこにこ笑って敬語を使って、上を立てて下を上げる。そんなありふれた生徒だよ。
……そうだな。無理して行動を改めるのは止めておこう。精神衛生上非常に宜しく無さそうだ」
彼女の様に前線に立っていた訳では無いが、荒くれ者の集うPMCの兵士達の嗜好は多少聞きかじっている。
だからこそ、彼女の言葉にため息混じりに頷いて、らしくない事はすまいと思いを改めるが―
「……中々に過激な意見だな。だが、確かに一理ある。しかし、少し困った事に俺は気に入った相手もねじ伏せたい方でな。そういう嗜好を、余り他人には知られたくないものだが」
ふむ、と彼女の言葉に納得した様に頷いてみせる。
そして、僅かに唇を歪めると彼女に一歩だけ近づいた。
尤も、自分のこういう性格と態度は既に何度も彼女に顕にしているので、言葉にするのも今更という気はするのだが。
■ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「あなたが誰かに礼儀正しく優等生面しているなんて、
ちょっと想像できませんね?
それが本当ならまぁ、確かに可愛げのある生徒ではあるんでしょうけど」
その可愛げがセクシャリティに転じていてもまぁ、不思議ではないか。
なんて一人で納得して。
「あら、前々から言っているじゃないですか。
『圧倒的な力量差を前に争いは起こらない』って。
それは困った"性癖"ですね?確かに他人に知られたら面倒そうです」
そして一歩近づく彼に、少し表情を曇らせた。
「何度も言いませんけど、私は気に入らない相手をねじ伏せる質ですから。
今のあなたは皮肉の度こそ超えていますが気に入らないわけじゃない。
自分が優位だと思い込んでいるとそのうち『犬』に噛まれますよ?」
彼がこちらに向ける視線が何を意味するのか。
あまり考えたくはないが、予想が正しいのであれば癪に障る。
最も、頑なな態度をとられると燃えるというのが彼のような人間の質なのだろうが>
■神代理央 > 「多少は社交的な一面を身に着けねば、この先色々と面倒だからな。媚びを売るべき相手には、しっかりと売りつけているだけさ」
想像できない、という彼女に、その通りだろうといった様子で僅かに笑みを零す。
実際、学内の自分を客観的に見る機会があれば、自分自身に対して『誰だこいつ』と思ってしまうかも知れない。
「ああ。お前の性質は十分に理解しているとも。理解した上で、それをねじ伏せてしまいたいと思うのは、我ながら中々に度し難いと分かってはいるがね」
表情を曇らせる彼女に、愉快そうに笑みを浮かべる。
そして、彼女の思う様に頑なな態度を取る者程その抵抗を愉悦と感じてしまうのも、己の醜い本性なのだろう。
「噛まれるのは勘弁願いたいな。ならば、噛まれる前に首輪でもつけてやらねばな?それとも、獣というものは従属するまで教え込まねばならないのかね?」
だが、その本性を押し殺す程自分の善性というものは強くは無い。彼女との距離はそのままに、僅かに声を潜めて楽しげに首を傾げた。
■ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「媚びを売ることと社交的なことが同値とはなんだか悲しいですね」
彼の言葉を聞くと、本心が漏れた。
皮肉ではなく、本心だ。
「それはつまり私のことを『気に入った』って意味ですかね?
でもそれは私からすると『気に入らない』って意味になるわけですが」
何を話しているときよりも楽しそうな彼の表情を見ると、
本当に呆れたといわんばかりにため息を吐く。
「自身の欲を抑えられないという意味では首輪が必要ななのはあなたの方ですよ。
こんなのが風紀委員だとは、呆れて怒りもわきませんね」
心の底から侮蔑しているといわんばかりの視線をおくる。
まだ、少しどこかで冗談だろうと期待している部分もあるが>
■神代理央 > 「そういう大人達を見て育ったし、そうして得た財で生活させて貰っているからな。お前とて、そういう者達は沢山見てきただろう?」
軍隊と言えども所詮は官僚組織。古典文学の様に、戦士や英雄が覇を競う組織では無くなって久しい。
だからこそ、彼女の言葉に頷きながらも同意を求めるかの様に問いかけるだろう。
「気に入っているとも。その高潔な思想も、確立した自我も、大いに気に入っているさ。それが気に入らないと思われるのは、些か残念ではあるがな」
溜息を吐き出す彼女に、クツリと笑みを零して応える。
気に入っているのは本心なので、残念に思っているのも本当なのだが、それを表情や仕草に出すことは無いだろう。
「おや、これは手厳しいな。だが、人間とは得てしてそういうものだ。欲望に忠実に、そしてその欲望を叶える為に発展してきた種族だからな」
彼女の視線を受けて尚、その笑みは崩れる事なく彼女を見下ろす。
とはいえ、そこから彼女との距離を縮める訳でも無い。気に入った相手をねじ伏せ、征服させる事を本能が求めても、それを抑え込む理性は十二分に鍛えている。
それ故に、誂う様な空気を纏わせて、彼女の反応を愉しむ様な視線を向けているだろう。
■ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「そうですね、ただ、こんな場所で目にするとは思いもしませんでしたし、
それが一般人にも浸透しているように錯覚してしまったことが悲しいと思って」
どこまでも効率的であれ。
そう教えられた身だ。外でそんな思想に出会うとは、少々面食らった。
「気に入ってもらえて大変光栄ですよ。
同時に、今のあなたに気に入られるというのは不愉快極まりないですが。
私が本当に聖母ならあなたの歪さに手を差し伸べるところですが、
私は聖母ではなくその機関銃ですから。
今のあなたには救いはなさそうです」
距離を詰められたまま、不愉快な笑顔を向けられる。
しばらくそんな状態で拮抗が続くが、最初に動いたのはこちらだった。
膝を思い切り上げた…つまり金的。
別に武術に長けていない彼なのだから、綺麗に食らうことになるだろう。
致命的にならないように調節して繰り出すと、崩れ落ちないように肩を支える>
■神代理央 > 「どんな場所でもコミュニティの中で生きるというのはそういう事なのだろう。下手に知性がある故に、そういう愚かな事になるのだろうよ」
自分に限らず、組織の中で生きる者は誰だってそういう生き方を選択することになるだろう。
彼女の言うように、それが浸透した世界というのは中々に悲しいものではあるのだが。
「救いが無いとは、悲しい事を言ってくれるな。だが、俺自身別に救いを求めている訳では……!」
彼女の動きに体が反応出来る筈も無く。何とか発動させた防御魔術で、急所へのダメージを軽減するのが精一杯だった。
それでも痛みを完全に消せた訳でもなければ、そもそも衝撃を無効化出来た訳でも無い。
結果的に、彼女の思惑通り彼女に凭れる様に倒れ込む事になる。
「……言葉より先に手が出るとは、流石は獣風情といったところか。やはり首輪が必要なのは、俺ではなくお前だと思うがな」
僅かに表情を歪めつつ、獰猛な色を讃えた瞳を歪めて彼女の顔に視線を向ける。
■ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「そういう人はいつか痛い目を見るんですよ。
いつの時代だって勝つのは倫理観です。
効率を突き詰めたとき、どうしたって倫理観は無視できない問題になりますから」
つまり、あなたのやり方はまだまだ効率がわるい。
そう言葉を続ける。
「あなたの場合、救いは来ないでしょうけど、痛い目はすぐに来るでしょうねぇ。
例えば、今」
金的を喰らわせて倒れてきた彼を、抱きかかえるようにして身体を支える。
身長差が10cmくらいなので、抱きかかえると彼の耳元に顔を寄せる。
「勘違いしているようですね?
これは"調教"ですよ?あなたはすでに首輪をつけられた犬と同じです。
今この場で飼い主は私、飼い主に歯向かう犬がどうなるか、
今まで飼い主をやってきたあなたなら十二分に理解できますよね?」
唇と耳が触れるのではないかという距離。
彼を抱きかかえながら店の店員の死角を確保すると、
言葉の内容とは裏腹に非常に落ち着いた澄んだ声で語りかける>
■神代理央 > 「その倫理観を捻じ曲げるのが、組織を支配する側の者達だ。いや、寧ろ倫理観を無視して上り詰めたからこそ、大衆の倫理観を剥奪することに長けているのやも知れんがな」
人権だの倫理だのを叫んでいた現代と呼ばれる時代以降でさえ、戦争や紛争は終わる気配を感じさせない。
そんなものは所詮、多数を縛る一定のルールに過ぎないのでは無いかと言外に滲ませる。
とはいえ、崩れ落ち抱きかかえられてはその後の言葉も続かない。
耳元で囁かれる彼女の言葉が耳を打てば、フン、と高慢な笑みを浮かべる。
「ほう?調教ときたか。良いぞ。そうやって他者を従属させる喜びを知るというのも、良い経験だろう。だが」
雨音も相まって、死角となった場所では店内で此方を気にするものはいない。つまり、なんだかんだで本性を抑え込んでいた理性の鎖が一つ、外れる事になる。
「言葉を返そうか。今まで犬をしていたお前なら、首輪をつけただけで犬が従うとは思っていないだろう?」
体内で練り上げた魔力を筋力に変換。そのまま彼女の背中に腕を回せば、音を立てない様に彼女を押し倒そうと力を込めるが―
■ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「その考えはニーチェが黙ってはなさそうですね。
倫理観は弱者が強者を縛るためのモノ。
強者が恐れるべきは倫理観です。はく奪できるものならやってみなさい?」
「ええ、もちろん。
調教には飴も必要ですから。
それに従属させることは私にとって容易いことです」
あなたの良くないところは相手をよく観察しないことですね?
力を込めて押し倒そうとする彼だが、それはきっとかなわないだろう。
被っていたキャップが床に落ちる。
よく見れば頭部に狐の耳が現れていた。
つまり能力を行使しているということであり、今は自他ともに"固定されている"のだ。
そして抱きかかえているということは、もう一つの能力が使えるということだ。
次第に彼の昂った感情も落ち着いてくるだろう。
「私は犬の気持ちも、飼い主の気持ちもよくわかります。
経験を積むという意味で、あなたも一度犬の気持ちを味わってみては?
従属するというのもなかなか心地がいいですよ?」
耳元で言葉をささやくと、抱きかかえる腕をさらに背中に回して、
今度は抱き着く格好になる。
「あなたがどれだけ道を外して、
どれだけ歪んだ趣向に感情を昂らせたとしても、
私に触れている限り無駄なことです。
いつかそんな昂ぶりすら忘れて、心の穏やかさなしには生きていけなくなります」
そんな風にして、今まで数えきれないほどの人間を駄目にしてきた。
聖母というより、麻薬に近いしい存在。>
■神代理央 > 「鞭と飴、か。しかし、倫理観を説いた矢先に他者を従属させようというのは、中々に愉快な事ではないか?私は、そういう歪みも嫌いでは無いがね」
ビクともしない彼女の身体に、冷静さを取り戻しつつある思考が能力を行使されていると警鐘を鳴らす。
ならば無駄な魔力は使うまい、と筋力へ変換していた魔力を解く。一応硬質化出来る様に魔力をキープしておくが、別段戦闘している訳でもなし。
「犬の気持ち、か。分からん。いや、理解は出来るが、犬であることに満足する事に共感を覚えぬな。そんな事で犬に堕ちる様な奴は、最初からそれだけの器しか無かったというだけの事だろう」
抱きつかれても、それを振り解く事も出来ない。
そして、彼女の力が己の感情を抑制する。闘争心はゆっくりと霧散し、不安定な精神は健全化されるだろう。
ただ一つだけ、根本的な問題があった。そもそも、闘争心が霧散し、己の本来の欲求が抑制されることそのものが、己にとっては『不安定』な状態なのだ。そして、他者を抑圧し、服従させるといった行為は、怒りでも悲しみでも闘争心でも無く、純粋な己の本能的な欲求でもある。
即ち、平穏であり健全であれという彼女の能力そのものによって、闘争心の無いまま己の欲求だけが不安定な精神に吹き荒れる事になる。思考は冷静に、欲求を満たすことだけを求めて。
「……それで?そうやってお前に依存した者達の様に、俺を従属させてみるか?お前無しでは生きて行けぬと、俺に懇願させてみるか?」
抑圧されては吹き荒れ、平穏になってから燃え上がる。それを繰り返す己の精神は、怜悧な笑みを浮かべて穏やかな口調で彼女に問いかけるだろう。
■ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「ふふ、歪んでなんかいませんよ?
もし歪んでいるとしても、あなただって同じくらい歪んでいます」
非常に楽しそうに返答する。
この状況を楽しんでいる。
「満足しろなんて言っていません。
楽しめといっているんです。
どうせ経験を積むなら、楽しいほうがいいでしょう?
それに、私の魔術は相手の思考を染めることもできるんです。
もっとも、非常に長い時間がかかりますが
今、私の魔術を受けて効かぬと安心しているなら、
私とともに一か月、接触する生活を送ってみるといいですよ。
どれだけ屈強で歪な精神を持つ存在も、いずれ安定のためにわたしを求めます」
私が今までどんな存在を相手にしてきたと思っているんですか?
そう囁くと、彼に私を懇願させるのもまた面白いという考えが浮かぶ、が。
不意に異能と魔術を解くと、彼から離れた。
「私が聖母と呼ばれた理由はすでに説明したとおりです。
あらゆる危険因子を従属させるために使われた能力を揶揄して名付けられました。
あなたみたいな人を従属させるのは朝飯前です。
私と血液を交換すれば数日で廃人になります」
でも、そこまでする理由がありませんから。
そう言って落ちたキャップを拾う。
「意味深なことを言って迫ってきても、手を出さないってことは、
理性が働いているってことですから、私が調教するまでもありません。
私はあなたに従属することは望みませんし、
力づくでそうするというなら即殺します」
悪ふざけが過ぎると、ついうっかり殺してしまいますよ?
そういって再び距離を詰めれば、彼の胸元に手を当てる。
そして心臓を圧迫するように能力を使えば、
何秒もしないうちに激しい痛みが彼を襲うだろう。
それと同時に魔術を使えば、苦しみと安定が入り乱れ、
度し難い苦痛が伴うはず。
「生まれてから一度だって安寧を手にしなかった存在を、
簡単に従属させられると思うな?
お前のような青二才に落ちるほど野暮じゃない。
お前に落とされる瞬間はお前とその一族の鼓動が止まる瞬間だと肝に銘じておけ」
昔を思い出して相当に不愉快だったのだろうか。
こんな脅しで彼の考えが改まるとは思えないが、
いきなり噛み殺すほど凶暴な獣ではない。
警告くらいしておく優しさはある>
■神代理央 > 「お前と同じ、というのは判断つきかねる歪み具合だな。これでも、善良な一般市民のつもりなんだがね?」
彼女の笑みを受けて、此方も緩やかな笑みを返すだろう。
闘争心は抑えられている。そのため、普段見せる様な獰猛な笑みでは無く、冷静でありながら狂気に近い穏やかな雰囲気を纏っているだろう。
「楽しみたいのは山々だがね。生憎、それは俺が求めているものではない。
どれだけ屈強な精神でもお前を求める、か。成る程、確かにそうだろう。心の平穏というものは、誰であれ本能で求めるものだ。いずれ心が腐れ落ち、お前を求めるのだろう」
先程までの攻撃的な言葉とは違い、寧ろ彼女の言葉を肯定する。
そうなるだろうと、そうであろうと、彼女の言葉と力を肯定する。それでいて尚、穏やかな笑みを浮かべ続けて―
「…っと。力を得なら先に言って欲しいものだな。
しかしそうだな。その絶対的な自信は良いものだ。己の力を信じ、それだけの実績があり、経験がある。血液を交換というのは中々穏やかでは無いが、まあそうなるのだろうよ」
身体の自由を取り戻し、体勢を整えて小さく背伸びする。
次いで、彼女の言葉に僅かに首を傾げて―
「何だ、手を出して欲しかったのか?生憎だが、心が折れていない相手を力づくでというのは性に合わないんでな。折れた花を愛でる趣味はあっても、折れていない花を無理やり根元から引き抜こうとは思わんよ」
力を振るって従属させるというのは、相手との闘争の末に生まれるものだと信じている。
だからこそ、一方的な力だけで屈服させるというのは、嫌いでは無いが本意では無い。
そう言い切った後、彼女が行使した力によって表情を歪める。
しかし、激しい苦痛を伴って尚、その尊大過ぎる自尊心は彼女の手を掴むだろう。
「…安寧を得られなかったから、何だと言うんだ?そんな事は、俺が知ったこと、ではない。同情して欲しいなら幾らでもしてやるし、哀れんで…やる。何なら、施しをしてやっても良い。だが、それが望みでは無い…のだろう?
なら、己の出生を、己の自負に、しない事だ。そん、なものは、屈服させる価値も無い」
心臓からの苦痛に発する言葉は途切れ途切れではあるが、それでも彼女の腕を離さず、寧ろ力を込めて彼女を見下ろすだろう。
それは、彼女には高潔で居て欲しいというある意味で最も高慢な己の我儘なのかも知れないが。
■ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「案外似ているのかもしれませんよ?傲慢さという意味では。
一般に、それをわがままというんですよ。
あなたを落とすことは簡単です。
あなたもそれくらいの自信を持っているでしょう。
そういう自信を持っているから従属させたいと欲求する」
だからこそ、足元をすくわれないように気をつけろと言っているんです。
そう言葉を続ければ、今度こそ彼に行使していた能力をすべて解いた。
「屈服したいとかさせたいとか、そういう話ではないんですよ。
私とあなたの違いは安寧を得られなかったことではないし、
歪んでいるかどうかでもありません。
あなたは自分が持っている自信を挫かれた時のことを安く考えすぎている。
あなたが自身の心臓をつかまれてもなお、私の腕をつかんでそういう欲求を語るのは、
あなたが持つ自信からからではないんですよ。
損害を軽視しすぎているんです。よく言われるでしょう?
『青二才』と」
彼のからだを支えながら呆れたように話す。
彼のような人間を目にするのは初めてじゃない。
大きすぎる自尊心と、損害の誤算。
自身が手を下すまでもなく勝手に死んでいく存在だ。
「お説教するのはあまり好きじゃありませんし、
軍隊をやめてから屈服するとかしないとかさせるとか、
そういう話は勘弁してください。
私は軍隊をやめた一般人です。
あなたが思うほど高潔じゃない。
あなたが屈服させたいと思えるほど魅力的な心持もありません。
何より、あなたのような若い人が、
歪んだ思想で死にゆくのは見ていて気持ちがいいものじゃありませんから」
ここまでしてなお尊大となると、
わたしがとやかく言って改善されるものではなさそうですけどね。
あきれた口調でそんなことを口にする>
■神代理央 > 「…っ、ふう。俺に似ているなんて、随分と悲しい事だと思うがね。自信、か。そうだな、無いと言えば嘘になる。確かに、お前と同じ様に相手を屈服させる自信はあるとも」
能力を解かれ、息を整えてから言葉を繋ぐ。
自分に似ているなんて彼女は自分の事を過小評価しているんじゃないかと思わなくも無いが―
「…損害を、軽視している?何を馬鹿な事を…」
おそらく、彼女から投げかけられた言葉で一番動揺を浮かべる事になるだろう。
別に風紀委員としての任務にあたっている時に、味方の損害を軽視した事は無い。同僚の命が失われない様に、常に努力はしている。
だが、彼女の言う損害とはそういう事では無い気がする。
そう言えば、自分自身が失われるという事について、考えた事があっただろうか。そもそも、己という存在に執着した事があっただろうか。
「…そうだな。確かに、お前の言う通りなのかも知れん。
そもそも、俺の勝手な我儘を押し付けていただけだしな。俺はそれでもお前の事を高潔だとは思うし、闘争の末に屈服させたいとは思うが、それを押し付けるのは傲慢だったな」
自殺願望、という程では無いが、自分自身が失われる事を恐れていない節は確かにあった。というよりも、敗北して死ぬ事を当然だと捉えていたから、味方が死ぬ事は許せずとも己が死ぬ事は仕方のない事だと許容していた。
その事実に気がついた、というよりも気付かされた事に複雑な表情を浮かべながらも、少しよろめきながら小さく頷くだろう。
■ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「悲しいだなんてそんな。
自分にいていると言われて悲しむなんて。自分のことを過小評価しすぎていますよ」
「馬鹿はあなたですよ。
私がなぜ、あなたを屈服させることを実行しないかわかりますか?
それに失敗して、あなたに従属させられるリスクが十二分にあり得ると思っているからです。
作戦行動で最も危惧しなければならないことは、前提が崩れることです。
私には絶対の自信がある。でもその絶対を疑ってもいる。
あなたは私を屈服させたいという欲求と、それができるという自信に敗北し、従属しているんです。
そんな様では戦場で"戦う"ことはできても"生きていく"ことはできませんよ。
私が調教しなくても、あなたは立派な奴隷です」
自分を軽視する兵士に尊厳などない。
己に執着しない存在など生物ではない。
それを道具といわずしてなんというのか。
そういう意味で、彼は私がどうこうするよりも以前にすでに犬なのだろう>
■神代理央 > 「…確かに、お前の言う通りなのかもしれん。だが、そうでなくてはならなかった。
俺にとっての戦場は、銃弾が飛び交うわけでも命を奪われる訳でも無い。ただただ権勢と名誉を追い求めるだけの、華やかで薄汚い場所が俺にとっての戦場だ。
たかが15歳の子供が背伸びして大人の真似事をするには、生きることを放棄してでも戦い続けるしか無かったからな。
…とはいえ、それは俺が選んだ道だ。それを不幸に思った事はないし、後悔した事も無い」
淡々とした口調で言葉を投げかけつつ、軽く衣服を叩いて埃を落とす。
「そして、人という生物の社会そのものの道具に成り果てた連中から、組織の上に上り詰めていく。倫理観も道徳観も途中で捨て去った化物みたいな連中が、最終的に支配者の地位に立つ事が出来る。俺もお前も、そうなりきれなければ何時までも連中の犬のままかも知れんな」
古今東西、所謂『独裁者』と呼ばれた人間は得てしてそういうものだ。国家の指導者、大企業の創設者等、人を束ねるという行為そのものが、自身が巨大な歯車になるという事なのだから。
「…折角の買い物を邪魔して悪かったな。良い物に巡り合えれば良いのだが。……これも俺の我儘かも知れんが、お前には、何時までもそのままであって欲しいと思うよ。俺は、少しばかり戻りにくい場所にいるからな」
服装を整え、小さく息を吐き出して彼女に背を向ける。
そのまま小さな声で言葉をかけた後、未だ止まぬ雨の中へ烟る様に消えて行くのだろう。
■ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「もし本気でそう思っているのなら、これ以上あなたにかける言葉はありません。
ただ、先ほどのような視線を次に私へ向けたときは、
問答無用であなたを血筋ごと消し去りますよ。
人生において一度しか味わえない死の感覚を贈呈します。
あなたがわがままを貫くのは構いませんが、それで迷惑する人から反撃されても、
文句を言わないことです。
その時が来たらあなたは黙って死ぬべきだ」
そして、あなたのわがままに私を巻き込まないでください。
その言葉はひどく冷たかった。
今までの皮肉とは違って。
「支配者だなんて。
所詮おのれの欲求に飼いならされた犬ですよ。
そんなものになるくらいなら、私はそういう連中の犬のほうがいい。
そして私はあなたに頼まれてこうしているわけじゃない。
あなたがお願いなんてしなくても、私は私です」
私が私である理由を『あなたにお願いされたから』なんて、ばかばかしい。
雨に濡れながら歩く彼を見て、最後まで悪態をついた。
似ているかもしれないなんて言ったが、
まったく似てなどいないじゃないか。
そんな風に思って、自分も店を後にした>
ご案内:「学生通り」からラウラ・ニューリッキ・ユーティライネンさんが去りました。
ご案内:「学生通り」から神代理央さんが去りました。