2018/08/25 のログ
ニコラス >  
いや、とにかく、風紀には入んないんで!

(このままではいつまでも勧誘され続ける――いや、からまれ続ける。
 そう判断し、半ば無理やり話を切り上げて背を向けた。
 面倒だなぁ、なんて思いながら学生通りを半分走るように――)

ご案内:「学生通り」からニコラスさんが去りました。
ご案内:「学生通り」にアリスさんが現れました。
アリス >  
私、アリス・アンダーソン。
今年の四月から常世学園に通っている一年生!
最近のマイブームは、映画鑑賞かな。

路面電車で大型ショッピングモール前で降りて、中の映画館に直行。
今からドキドキしてるし、土曜日の昼間から映画を見るのにも理由がある。

今日は月に一度の映画の応援上映の日。

つまり大声で笑ったり、叫んだり、台詞を同時に言ったり。
そんなことが映画館で許される、一種のお祭りなのだ。
上機嫌に、かつ足取りも軽やかに歩きながら映画館へ。

アリス >  
今日の目的はゾンビシャークVSデッドクロコダイル。
ゾンビになった超巨大鮫とゾンビになった超巨大鰐の一騎打ち。
どちらが勝っても人類に逃げ場なし。
ホールインワン・フィルム改心の一作。

とっても楽しみ!

満面の笑みで上映情報を見に行く。
すると。

「え………」

ポスターには昨今の事件の影響から放映見合わせ、の札が貼ってある。
心に絶望がジワジワと侵食していく。

「あ、あああ……最近のゾンビ事件の…」

常世島には今、そういうのがあるらしく。
その被害者遺族への影響を鑑みた結果だと思われた。
肩を落とす。
で、でも応援上映はこれだけじゃない。

アベンジャイ最新作ジュエル・ウォーに繋がるあの名作。
ユナイテッドジャスティスマンもやっているはず。

ご案内:「学生通り」に影打 鈍さんが現れました。
影打 鈍 >  
なんだ、やっとらんのか。

(彼女の隣やや後方で声を上げる。
 刀である自身は人の思考がわからない。
 特に自身はそれを不都合に感じていないのだけれど、どうやらその辺をわからないといろいろ不都合があるらしい。
 ならば人の娯楽を知ればなにかその辺がわかるのではないか、と考えて映画に来たのだけれど。)

「事件の影響で放映見合わせ」……?
どういうことだ、別に例のゾンビ事件とこの映画は関係ないのだろう。
――少女よ、どういうことだ?

(ポスターに貼ってある札、その文言。
 普通の感覚であれば納得できるところなのだろうが、生憎こちとら普通ではない。
 ゾンビ事件とこの映画の関連性がわからない。
 だから一番近い、自分と同じポスターを見ていたらしい少女へと尋ねてみる。)

アリス >  
「え?」

声をかけて振り返る。
黒赤のカラーリング、帯刀した女性?がそこにはいた。

「ええと……この映画、ゾンビシャークに噛まれた人間はゾンビになるのよ」
「ゾンビクロコダイルに噛まれた人もね」
「だから、ゾンビが発生してる島ではちょっと放映が、ね…」

口惜しげに嘆息する。

「ゾンビパニック! それとモンスターバトル! さらに人類の抵抗と希望を描いた傑作映画って触れ込みなのに…!」

アテが外れてしまった。
彼女もゾンビシャークシリーズのファンなのだろうか。

「あ、ユナイテッドジャスティスマンのポスター!」

飛びつくように見に行くと、そこにも昨今の事件の影響から放映見合わせの札が。

「あー、あー………!」

悲嘆に満ちた声を上げる。
絶望ゲージが八割くらい。

「た、確か公開した国の正義を掲げるテロリストが事件を起こしたのだったかしら?」
「ううー! 映画には関係ないのに! 映画には関係ないのに!!」

影打 鈍 >  
うん?
別にこの映画が原因でゾンビが発生したわけではなかろう?

(きょとんとした顔でポスターを指さして見せる。
 落第街で出現したと聞くゾンビシャークはともかく、ゾンビクロコダイルなんて噂は聞いていないし。
 なぜそんな理由で映画が放映中止になるのかさっぱりわからない、といった顔。)

うむ、私もその評判を聞いて見に来た。
なんでもよかったんだが、人の考えを知るには人が一番見ているものを見たほうがいいと思ったでな。
――んむ?

(彼女の力の入った説明に頷いて見せる。
 そのあと彼女が走ったほうについていけば、その先で彼女が悲鳴を上げた。
 見れば別のポスターにも同じ札。)

なんだ少女、汝は納得いっとらんのか。
ならば職員へ抗議に行けばよい。
私もここまで来て無駄足を踏まされるのは勘弁だ。
いくぞ。

(そう言い放って彼女の腕を取る。
 そのままずんこずんこと受付の方へ向かおうと。)

アリス >  
「それはもう。全く関係ないわ、そもそもフィクションと現実の事件を重ねるほうがどうかしているもの」
「発信する側が不謹慎という言葉に過剰に反応するから…ぐぬぬー」

歯噛みをした。
ホールインワンフィルムは世間的には弱小配給会社。
この機会を逃がしたら映画館で見れるチャンスそのものが失われそうで怖い。

「人の? って……あなたも人じゃ…」

そこまで言った途端に手を引かれて。

「え?」

受付まで引きずられるように連れて行かれてしまう。

「ええーっ!?」

ポップコーンやジュースを販売している場所とは別。
家族割りや総合相談を引き受けている窓口まで来てしまう。

『いらっしゃいませ』

丁寧に頭を下げて応対するスタッフ。

影打 鈍 >  
ちと物申したいことがある。

(スタッフの言葉を食い気味に。)

私とこの少女は映画を見に来たのだが、目当ての映画が放映中止と書いてあった。
この少女は今ここではびこっているゾンビ事件が原因ではないかというのだが、そうなのか。
そうだとしたら何故その事件と一切関わりのないこの映画が放映中止となるのか。
納得のいく説明をせい。

(そのまま一息にまくし立てた。
 と言っても感情的ではないし、むしろ落ち着いてはっきりと喋っているように聞こえるだろう。
 そもそも感情的になる感情と言うものを大して持ち合わせてはいないのだが。)

ほれ少女、汝も何か言いたいことがあるなら言っておけ。

(そうして彼女をぐいとスタッフの前へ。)

アリス >  
「!?」

説得を!? 今から!? するの!?
彼女は、今からでも放映スケジュールが曲げられると!?
で、でも……もし見れるのなら、見たい!!

真剣、真摯な表情で彼女の言葉を聞いていたスタッフの前にぐいと引きずり出されて。

「わ……私もゾンビシャークVSゾンビクロコダイルが見たい、です…」
「ゾンビ事件が起きたらゾンビパニック映画が中止になるの、納得できない、です」
「殺人事件は毎日起きてるのに、銃で大暴れするマッチョマンの映画は毎日何かしら放映してますよね?」

敬語が苦手なのでところどころ言葉に詰まる。
でも、言わなければならない。
ここで言わなかったら苦い記憶を飲み込んだままだ。多分、一生。

「ううん、本当はそんなこともどうでもいい」
「私は見たいの……ゾンビシャークとゾンビクロコダイルが戦っているところが」
「スタッフがどんな気持ちで映画を作っていたか、なんてわからないけど」
「少なくとも、現実の事件の影響で上映が取りやめになって欲しいだなんて、思ってない…はずです」

そこまで話すと、スタッフは頷いて。

『支配人を呼んでまいります、少々お待ちくださいませ』

と言って一礼、スタッフルームに行ってしまった。

「……ねえ、私たちは正しいのかな。それとも、間違っているの?」

そう、出会ったばかりの彼女に聞いた。

影打 鈍 >  
(自身と彼女の言葉を聞いてスタッフが奥に引っ込んでいった。
 腕を組んでそれを見送る。)

知らん。
この世界は正しいか間違ってるかですべて判断出来るほど単純ではない。

(そして彼女の疑問をバッサリ切り捨てた。
 腕組みをしたままスタッフルームの扉を見ながら。)

だが私は納得がいかんから納得のいく説明を求めた。
汝もまた汝の思うところがあってあの言葉を発した。
それだけの事であろ。

アリス >  
彼女の言葉は、断定的で。
それでハッキリとしていて、迷いがない。

「だよね……」

そう言って自分の顔に張り付いた憂いの表情を、指先で触って。

「うん、その通り。私はあの言葉を飲み下したくなかった、それだけ」

憂いを剥がし、にっこり笑って彼女に笑いかけた。

しばらくして、スタッフルームのドアから白髪の男性が現れた。
彼は上品な立ち居振る舞いで、私たちに頭を下げた。

『わたくしは当映画の支配人でございます』
『話は伺いました……当方といたしましては、ゾンビ事件が解決していない現状で』
『ゾンビものの映画を上映するのは、不謹慎かつ公共のコレクトネスに反すると考えています』

その言葉を聞いて、私は俯いた。
そう、だよね。彼らには彼らの事情がある。
話したのは私の事情だけだ。

『ですが……』
『わたくしも好きなんですよ、ホールインワンフィルムの映画』
『上からの指示さえなければ、今日からでも放映したいと考えていました』
『そして、映画ファンの真剣な言葉は……時として上からの指示を無視するに値する』

顔を上げて。口の端を持ち上げた、浮ついた表情を手で隠した。

『放映いたしましょう。お客様……応援上映、楽しんでいってくださいませ』

その言葉に、私は勢い良く頭を下げた。

「ありがとうございます!!」

影打 鈍 >  
ならそれでよいではないか。
何を迷うことがある。

(などと話していれば支配人が戻ってきた。
 彼の言い分を黙って聞く。
 話を聞くに、どうやら放映されることになったらしい。
 隣で喜ぶ彼女。
 楽しそうに告げる支配人。)

――待て。
私は映画を上映しろと言ったのではない。
「納得の行く説明をしろ」と言ったのだ。
今の説明では――否、今のは説明になどなっていない。
「何故この島で起きている事件と全く関係のない映画が上映中止になる」のだ。
私が納得の行く説明をせい。

(そのすべてをぶち壊す超合金妖刀娘。)

アリス >  
え?

「いや……だから支配人の方が不謹慎とコレクトネスに反するって…」

私の言葉を聞き終えてから、支配人の方が一歩前に出る。

『わたくしたち映画業界では、悲劇的な事件が起きた場合、大なり小なり自粛をいたします』
『人々の間にはサバイバーズ・ギルト(生存者罪悪感)が確実に存在し、災害の後は映画や歓楽の類いは忌避されます』
『その悪感情を刺激しないよう、実在の事件に似た内容の映画は上映を延期されたり』
『時として公開自体が中止されたりもするのです』

そこまで喋ってから、支配人の男性は。

『わたくしたちのような業界の者は人々の楽しいと思う感情を大事にする余り』
『時として過剰にクレームを恐れることもあるのです』
『現実問題で言えば、被害者遺族の感情に対し、映画ができることなど何もないのですが』
『わたくしたちにとって映画を公開しないという選択肢は、時に苦渋の決断と共に行われるのです』

影打 鈍 >  
ふむ。
つまり関係ないという顔をしているとそれを不快と思った輩から心無い言葉を浴びせかけられ、引いては汝らの不利益になる、ということか。

(かみ砕いて言えばそういうことだろう。
 それでもまだ納得できないところはある。
 言いたい奴には言わせておけばいいとか、見たいと思う者の気持ちはどうなのかとか。)

正直なところ未だ納得は出来ぬ。
だが理解はしよう、する努力はしよう。
それが無理を押して少女のために上映を決めた汝への礼儀だと私は考える。

(低いところから支配人の顔をまっすぐ見て。)

――というわけだ少女よ、上映してもらえるそうだ、よかったな。

(自身の発言にあっけに取られている彼女に向き直り、ぽんと肩に手を置いた。)

アリス >  
なるほど。
彼女は自分の納得を優先させたくて、
私は映画の上映を優先させていた。

それだけのこと。

スタンスの違いとも言える。
肩に手を置かれると、顔を上げて笑顔で。

「うん! 早速、券を買わなきゃ!」

そう言って映画を見に行った。

見た映画は、今までのシリーズの名を冠するに恥じないド迫力で。
全力で、刹那的で、輝いてて。そして物悲しいラストだった。

ご案内:「学生通り」からアリスさんが去りました。
影打 鈍 >  
(人間というものはよくわからない。
 納得の行かない選択をしたかと思えば、自分の我を通した選択もする。
 どこにその違いがあるのかさっぱりわからないし、理解も出来ない。)

では向かうとしよう。
一番いい席を頼む。

(だからこそ人間は面白いし、好ましい。)



――なぁ少女よ、これはどういうところが面白いのだ?

(上映中ずっと隣の席からシーンの解説を片っ端からさせられた彼女はたまったものじゃなかっただろうけれど。)

ご案内:「学生通り」から影打 鈍さんが去りました。