2015/08/23 のログ
ご案内:「商店街」に東雲七生さんが現れました。
■東雲七生 > ──深夜の商店街。
24時間営業のコンビニを除く殆どの店が営業を終えている中、七生は一人研究区への道を歩いていた。
日課のランニングの帰り、というわけでもない。それは既に午前の内に終わらせている。
──ちょっと遠出の散歩の帰り、とまあそんなところだ。
「すっかり遅くなっちまったなー 明日が日曜でホント良かったぜ。」
そんな独り言を呟きながら、街灯の照らす下を歩いて行く。
■東雲七生 > 今は何時ごろだろうか。億劫そうにあたりを見回すが時計らしいものは見つからず。
端末を取り出して確認すればいいのだが、今朝行った腕立て伏せの所為で両腕が痛い。
出来れば動かしたくない。
「まあ、日付変わったか変わらねえかくらいだと思うんだけど。」
両腕を力なく垂らしたまま、とぼとぼと商店街を進み。
ふと目に留まったベンチへと近付いていく。
■東雲七生 > どさっ。
崩れるようにベンチに腰掛けて一息つく。
幾ら体力バカの七生といえど、朝のうちに筋トレランニングを終えて今の時間まで出歩くと体力も底をついてくる。
おまけに腕が筋肉痛となると気力も結構削られる。
「ホント、明日日曜で良かったわ……」
一度辺りを見回して近くに人が居ないか確認すると、
わはーい、と意味の無い掛け声とともにベンチの上で横になった。
■東雲七生 > ベンチに寝転んだまま夜空を眺める。
流石に良い眺めとは言い辛かったが、それでも本土で見るよりは幾分もマシな眺めだろう。
本土と言えば、向こうの状況は今どうなっているのか。
両親を始め向こうの友人たちは誰一人として連絡を七生に直接してくることは無い。
全て研究所を介している。メールの一通すら、である。
「まあ、便りが無いのは良い便り、って言うけどな……?」
それにしてもおかしいのではないだろうか。
知らず知らずのうちに口を尖らせていたが、七生はそれに気付いていない。
■東雲七生 > 夏休みの間に何度か里帰りをしようかと思ったが、
結局補習の隙が見つからず、延ばし延ばしになってしまっていたのである。
「9月の連休にでも帰ってみっかなー……」
その為にはやはり研究所の許可を得なければならないのだが。
それが非常に面倒臭いと言うか、何と言うか。
自分の実家にくらい好きに帰らせて欲しいものだ。
■東雲七生 > はぁ、と小さく溜息を吐きながら目を閉じた。
──七生の実家
東雲家は日本の地方都市の郊外にあるごく普通の中流家庭だ。
水田に囲まれた住宅街の一角。庭も無い二階建ての一軒家。
そこに父親と母親と七生と祖母の4人暮らしで──いや、妹も居たか?
「……あ?」
何だか様子がおかしい。
ところどころ記憶が曖昧だ。靄が掛かっている様な、突然抜け落ちている様な。
以前、酷い頭痛に襲われて検査を受けた時は異常なしと診断されたはず、なのに。
■東雲七生 > 重い腕を何とか動かし、手の甲で軽く頭を小突く。
とんとん、と音は不自然に反響するわけでもなく、多分正常だ。
記憶をつかさどるのは──海馬で、前頭葉にあるわけではないことは分かっている。
ただ、今、ほんの少しだけ、自分の頭──記憶に違和感があったのだ。
「……疲れてんのかなー、俺。」
はは、と自嘲にも似た笑みが零れる。
確かに夏の間中、ろくに休みもせず補習だランニングだ遊びだと騒ぎ回った気がする。
きっとその所為で脳の処理がいよいよ音を上げたか、と。
そう思って、ひとまずは自分を納得させた。
■東雲七生 > 「明日は一日家で寝て──」
……嫌だな、と思って言葉を切った。
七生が今住んでいる部屋。研究区の、アパート。
1DKの学生が済むには十分な広さのその部屋は、常世学園に入学する際、知り合いの研究員から入学祝として貰ったものだった。
家具らしい家具は今のところ固いベッドとスチール棚、そしてパソコンとデスク。
フローリングの床とコンクリートが打ちっぱなしの壁、カーテンの無い窓。
……少し豪華な独房だ、などと自分で評価しているくらいのその部屋は。
もっぱら「寝て起きる為の部屋」と化している。
■東雲七生 > 「……誰か暇してる奴の家にでも行ってゴロゴロしたい。」
さて誰かそれを許してくれそうな相手が居ただろうか。
一度垂らした腕をもう一度動かして、上着のポケットから端末を引っ張り出す。
筋肉痛の所為で些細な動きでもいちいち気力が削がれるが、それを気にしていたら始まらない、と自分に言い聞かせて。
この学園に来てから知り合った、連絡先を知っている顔を思い浮かべ、連絡帳を開く。
──だいたい女子だった。
「………いやいやいや、流石にね。それはねーよ。」
休日に異性の部屋に転がり込んで一日寝潰す。
………何だか人としてこれ以上なく駄目な気がした。駄目だ。
■東雲七生 > 「やっぱ大人しく自分の部屋で寝とこ……」
うう、と哀しげに唸りながら連絡帳を閉じる。
ふと、その目に映ったのは新着メールのアイコンだった。
せっかく取り出したのだから、とメールチェックも行う。
大体はよく行くミュージックショップのセール広告だとかで、まあいつも通りと言えばいつも通りなのだが。
「そういや、トトに映画誘われてたっけ。」
今朝方届いていたメールを思い出す。
向こうからしてみればデートの誘いのつもりだろう。
しかし、未だ失恋のショックから軽いトラウマを引き摺っている七生はその気持ちと素直に向き合う事は出来ないでいる。
■東雲七生 > 「一応、アレで本人も納得してくれたと思うけど……」
トトからの告白に対する自分の答え。
それは今から考えるとどこか卑怯な気がしたが、今考えても他に良い案が思いつかなかった。
きっと男女問わず知り合いに話したら非難されるだろう。だから、出来れば他言したくない。
まあ、する事は無いと思っているが。
「とにかく、えーと……月曜だったよな。うん、月曜だ。
だったらやっぱり明日は暇なわけで……うーん……。」
さて、どうする。
どうするもこうするも、そもそも所在を知ってる知り合いもそれほど多くないわけで。
というか、大半は女子寮なわけで。
■東雲七生 > 「……明日考えるか。」
溜息。
結論を先延ばしにしてベンチから立ち上がる。
最悪今夜これから自室で寝てしまって、そのまま惰性で眠り続けるのも、ありっちゃありだと思おう。
そんな事を考えながら、再びぶらぶらと歩き始める。
(──寂しいんだよなあ。ぶっちゃけ)
独りで居る事が。
ある程度覚悟の上とは言え、夜に一人の部屋に居ると。
やはりどうしても余計な事ばかり考えてしまう。
場所柄建物の防音効果は抜群だ。だがそれが周囲に人の気配を感じさせなくなるのだ。
15歳が生活するにはあまりにも荒涼過ぎる環境だろう。
■東雲七生 > 溜息。
やっぱり来年の春から男子寮に入寮しようか。
そんな事を考えながら、七生は夜の闇に姿を消した。
ご案内:「商店街」から東雲七生さんが去りました。