2016/11/05 のログ
■学園七不思議―【ヘルメットさん】 > あぁ無情。
現実はかくも非情なるものなのであろうか。
互いの叫びは誰の耳にも届くことは無かった。
追うものと追われるもの。二人してぜいぜいと息を荒げ、最早半分歩いているかのような状態でふらふらと通りを進む。
「い、いい…加減…諦めなさいってのよ…!!アンタもう、走れて、ないじゃないの…!!」
『う、うるさい…っ!!違反生徒め…っ!!お前は、僕が指導して……っ!!』
時折足をもつれさせ、両手を前に突き出して懸命に歩を進めるその姿は最早ゾンビのごとく。
周囲の人だかりも相まってちょっとしたイベント染みて来た商店街である。
「った、く…いつまで、も…付き合って……!らんないんだから……っ!!」
しかし追いかけっこもついに終わりの時が訪れる。
最早限界かと思われてきたヘルメットさんがここにきて最後の気力を振り絞ったのである。
だん、と力強く一歩を踏みしめ、思い切り地面を蹴った。
勢いに乗った次の一歩に体重を乗せ、強引にその身体を傾けてほぼ直角に足先を向ける。
何という鋭いターンか。
身体への負担を無視したその一歩により、ヘルメットさんは一時的に風紀委員の視界から消え失せる。
時間にしてみればほんの数瞬。
しかしながら、お互いに気力だけで立っている状態においてその数瞬は勝負を分けるのに十分過ぎるものであり―
『ん、な…っ!!どこに、何処に行った!!おのれ、異能を隠していたのか…っ!?』
風紀委員の男子生徒がヘルメットさんを再び視界に捉えんと歩を止め、汗をまき散らしながら辺りを見回したその時には―
「あーばよー風紀のとっつぁーーーーん!!」
ヘルメットさんは路地裏へとその姿を消していたのだった―
■学園七不思議―【ヘルメットさん】 >
「っはぁー……つっかれたぁ……」
ようやく風紀の追跡を振り切ったヘルメットさん。
路地裏にてその身体を休めんと、壁に身体を預けてずるずるとその場にへたり込む。
動きを止めればとたんに全身を耐えがたい疲労感が襲う。
休むことなく動き続けたその足は、最早棒を通り越して鉄か何かのごとく重い。
一呼吸するたびに吹き出る汗で最早体はびしょ濡れであるし、ヘルメットの中はサウナどころか灼熱地獄である。
「っだーもう!!こんなもん被ってられっかーーーー!!!」
息を落ち着けようにもフルフェイスのヘルメットにそれを阻まれ、篭る熱気と湿気による不快感が凄まじい。
ついに耐え兼ね、ヘルメットさんはそのフルフェイスのヘルメットを脱ぎ捨てたのである。
勢いよくその場に投げつけられたヘルメットが、壁にあたって鈍い音を立てる。
ヘルメットさんがそのアイデンティティたるフルフェイスヘルメットを脱ぎ捨てた時―
「ヘルメットさん」という怪異はその姿を消す。
そうしてそこに残ったのは―
ご案内:「商店街」から学園七不思議―【ヘルメットさん】さんが去りました。
ご案内:「商店街」に北条 御影さんが現れました。
■北条 御影 >
「っはぁー……あー、空気ってこんなに美味しかったんだなー…。すっごい生きてるって感じするー」
「ヘルメットさん」という怪異が姿を消したその後に現れたのは、何の変哲もない、女の子。
当然だ。ヘルメットさんはそのフルフェイスのヘルメット以外はただの女生徒なのだから。
唯一の特徴であるヘルメットを脱ぎ捨てた以上、そこに残るのは「ただの女生徒」だ。
「っはー……しかしミスったなぁ。商店街の折り込みチラシの中に「ヘルメットさん参上」のチラシを混ぜ込んで、
「ヘルメットさん」の認知度をあげちゃうぞ大作戦が失敗しちゃうとはね」
ぱたぱたとシャツの胸元に空気を送り込み、一つ息をつく。
先ほど脱ぎ捨てたヘルメットを足先で器用に手繰り寄せて胡座に抱いた。
「「ヘルメットさん」が認知されてきたのは嬉しいけどー…あそこまでしつこい風紀に目を付けられた、ってのはちょーっと不味いかなー」
背中を壁に預けたまま視線を上に向ければ、
ビルの隙間から見える空には既に星が瞬いていて。
「……さむ」
小さく、呟いた。
■北条 御影 >
先ほどまで全身を包んでいた熱気も、見る間に冷えて肌寒い程だ。
ヘルメットを脱いだ途端に襲い来る冷気。
こうして路地裏に座り込んでいても、誰が声をかけてくるわけでもない。
「肌寒い日は、人恋しくなるー…ってのは誰の歌だったっけ」
そう呟いた口元は自嘲気味に吊り上がり、
こんな女々しい言葉を吐いた自分を自覚して大きなため息が漏れ出た。
望んだ所で誰が気づいてくれるわけでもない。
自分に触れあえる相手がいるわけでもない。
異性は勿論のこと、同性も、種族の違う動物であろうとも。
やがて商店街の路地裏に吹きすさぶ風は肌を刺すような冷たさを持ち始める。
果たして刺されているのは己の神経か、孤独に耐えられない弱い心か。
「まーだ諦めて無いのか私。笑えるね、これは」
自分で自分をくさすような発言で、寒さにひび割れてしまいそうな心を辛うじて奮い立たせる。
「笑えるよ。諦めて無いからこそ、こんなことしてんだっつーのにね」
呟きは誰に聞こえるでもなく。
■北条 御影 >
どれだけそうして居ただろう。
静寂の中、いよいよ鼻をすする音と小さなくしゃみの音が路地裏に響き始めたころ。
彼女はようやく立ち上がる。
「っよっし、弱音終わりっ!!ヘルメットさんは怪異なんだもん。こんなしょーもないことで悩みませんっ!」
ぱん、と自分の頬を叩く。
声は気持ち、大きくなって。
ヘルメットを抱えるその手に、ぎゅっと力を込めて。
「さーてさて、次はナニをしようかなーっと」
少女は路地裏から表通りへと出て、女子寮へと歩を進める。
小脇にヘルメットを抱えたその姿は如何にも怪しい。
「ヘルメットさん」の名前と悪行を知っている者であれば、「もしや―」と思うかもしれない。
けれど、ヘルメットさんが捕まることは無いだろう。
だって、少女の―北条御影の存在は、誰の記憶にも残らないのだから。
こうしてヘルメットを抱えた姿を見たという記憶でさえ、数瞬後には無くなっていることだろう。
彼女は―
「ヘルメットさん」としてしか、
人の記憶に存在することは出来ないのだ。
そしてその事実を知る者もまた、何処にもいない。
一際強く吹く風に目を顰めれば。
貴方もきっと、北条御影の存在を忘れてしまう。
ほら、もうこの商店街に―彼女の姿を見つけることは出来ないだろう。
『北条 御影』
性別:女
年齢:16
異能名:【映らない姿見】
ご案内:「商店街」から北条 御影さんが去りました。