2016/11/06 のログ
ご案内:「商店街」に谷蜂檻葉さんが現れました。
谷蜂檻葉 > 11月にもはいると、肌を刺すような寒さも珍しくなくなってきていた。
衣装箪笥というほどのものはなくとも、一人の女子としてファッションに気を使わないということはない。

年中買い換えるほどに金があるわけでもなし。
そうでなくとも別の趣味《読書》にも金を使う檻葉は、
おおよそ季節の代わり頃に1,2着新しいのを買っては1年前のものを混ぜて着こなしていた。


そんな前口上からお察しいただける通りに彼女は今服屋に居る。
特にオーソドックスなものを取り揃えた、本土の流行も抑えた個人商店。


「あ、これも可愛いかな。」


例に漏れず、そこそこというには随分と長い時間を掛けながら店の服を漁ってはストックして、ぐるぐると回っていく。

谷蜂檻葉 > 片手で抱えられる限度近くまで服を持ち、
満足げに「よし」と呟くとディスプレイの隙間に見えた店員に試着する旨を伝えて小部屋に入る。


「どれから着ようかな……買った順でいいか。」


目移りしそうなほどに抱え込んだことを僅かに反省しつつも心浮き立ち、
懐で暖められた服を手にとってハンガーに軽くかける。

谷蜂檻葉 > そして、試着するのだから今の服を脱ぎ――――


「―――――…………。」


彼女の部屋に、大鏡は実はない。
あるとすれば浴室の鏡か、顔元を確認する為の洗面所の三面鏡だ。

全身が見える鏡である唯一の浴室の鏡を見る時、一般的な近視よりも少しきつい彼女ではメガネを外せばぼやける。
だから


「(ぅぐ……やっぱり、太った……よね。)」

メガネをしたまま、下着姿で自分の体をまじまじと見つめると明らかに下腹のボリュームが増えている。
その現実に胸を刺されるのだ。

谷蜂檻葉 > 内心に誤魔化し誤魔化しと続けてきたのは良いものの、明らかに昨年の同時期―――いや、認識から言えば今年の夏から。

『自分に正直になった』檻葉の体重は、明らかに急増していた。
幸い、顔の付近にまでその増量の波は訪れていないが、肩から下には顕著にその影響が見て取れる。

原因は明らかに此処2ヶ月ほどで増えた外食―――開拓の結果である。
図書館に引きこもるような休日から、やや外向きになった散歩の趣味が仇になっている。

消費カロリーに対して、明らかに摂取カロリーが過剰なのだ。
何もかも島に潜んでいた美食が悪い。

……いや、自分の節制不足なのだけれど。

谷蜂檻葉 > (リミットは、次の夏までかなぁ……。ダイエット計画でもなんでも、しっかりやらないと本格的にマズい……)

くに。と手で摘めば簡単に掴めた状況で切羽詰まるのはやや遅さもあるが、それでもやらないよりかはだいぶマシ。
四十万が行っている体力づくりがあったが、言葉にしても片手で数えられる程度にしか付き合っていない。
今後は、より精力的に彼女に付き合う必要があるだろう。


「よし、そうと決まれば今は試着してさっさと買っちゃおう。」


鏡から、そっと視線を外して服を手に取る。
白を貴重とした可愛らしい刺繍の付いたシャツだ。袖を通して身にまとい―――


「………キツ、い………」

―――断念。次の服を手に取る。

「………嘘……!?」

断念。

「……っく、ぅ……!」

断念。






「―――――――。」

ウェスト部分の一部をゴムにした身体のラインを抑える服と、
可愛らしいものの「ややサイズの大きいものしかない」服を会計した。

その帰り道を歩く檻葉の表情は、酷くどんよりとしたものだった。

谷蜂檻葉 > この夜昨年の夏までに買った服の大半が着れなくなっていたことに気づき、檻葉は声を出さずに泣いた。
ご案内:「商店街」から谷蜂檻葉さんが去りました。