2016/11/15 のログ
ご案内:「古書店街「瀛洲」【常世祭期間中】」に烏丸秀さんが現れました。
烏丸秀 > ようやく退院を許されたから烏丸は、古書店街のある店に来ていた。
混沌とした書店の中のひとつ、うらびれた店。
しかしその中にある本はといえば……

「やぁ、久しぶり」
「……よう生きとったわ」

ぶすっと呟く、老齢の店主。
烏丸の贔屓の古書店店主であり、外来物の本を専門に扱っている。
骨董品好きの男にしてみれば、この店主の目利きは信頼に足るものらしい。

「で、今日は何じゃ」

烏丸は店主の言も知らずに店の中を見て回る。
常世祭の最中だからか、いつもより品揃えが豊富だ。

烏丸秀 > 「うん」

烏丸はゆっくりと店主を振り返る。
そして、宣言した。

「今日ある本、全部貰うよ」

店主が目を見開くが、それでもため息を吐く。
この男がたまにこういう事をするのは分かっていた。

「やれやれ、馬鹿かおんしは」
「どうせトータルでプラスになるようにしてるでしょ。
だったら、いちいち選ぶのは面倒だもの」

くくっと笑いつつ、近くの画集を手に取る。
宋代、徽宗直筆のものに間違いない。
これだけで一財産と同価値だ。

ご案内:「古書店街「瀛洲」【常世祭期間中】」に谷蜂檻葉さんが現れました。
谷蜂檻葉 > 「―――男二人で楽しげなのはいいんですけれど、それはちょっと勘弁願いたいわね。」

呆けたような言動と、それを呆れる忠言。
しかし互いに先の解った、じゃれ合いのような言葉遊び。

年齢の違う、けれど理解の在る男二人の「お決まり」のような空気。
そこに、女の声が被った。

「わざわざ時間をかけて探し出して来たっていうのに、後入りで全部かっさらわれたら――――」

奥から現れたのは制服の女。
そのまた上から防寒着でモコモコとした格好のまま一冊の古びた古書を手にとり、
金に物を言わした暴虐に対し、何するものぞと抗議に出てきて、


「――――うわ。」

非常に味のある声を出した。
表情も、味がある。苦虫をしっかりよく噛んだようだ。

烏丸秀 > 「ん?」

ふと見ると。
なんかモコモコの見慣れた少女が居た。
ある意味、ここで会うのに一番似合う少女。

「あぁ、檻葉。や、珍しい所で会うね」

笑いながら話かける。
なんかいきなり凄い顔で話しかけられてるけど、気にしない。

「キミも買い物?」

谷蜂檻葉 > 「……あぁ、はい。どーも。」

あんたか。 と言わんばかりのへの字口で応する檻葉。
久方ぶりの声で気づかなかったが、なるほど「こういう事」をする人間と言えば真っ先に挙がるのは彼だろう。

ともあれ、いつまでもそんな顔をしているわけでもなく小さく咳払いをして改めて。

「折角の機会ですもの、図書館に入り浸るのも勿体無いでしょう?
 蒐集される前に、一通り目を通しておきたくて。」

先とは違う にへ、と気の抜けた笑みで持ち出してきた古書を見せびらかす。

―――魔導書だ。 それも相応に高い『格』を持つ、掘り出し物。
見るものが見ればそこに危険性を見出すのだろうが、檻葉の気持ちはただひたすらにその貴重性に向けられていた。

烏丸秀 > 「あっはっは、つれないなぁ」

等と相槌を打ちつつ。
画集を棚へと戻す。どうせ後で自分のものになるのだ。

「ま、そうだね。こんな場所があれば、キミは来るよねぇ」

が、少し気になった。
この店には、檻葉の求めるような「アレ」が無いはず……

「……え?」

そう、「アレ」。魔導書が、無い、筈だった。

この店は烏丸の行きつけの店である。
扱うのはもっぱら、芸術品、美術品としての価値が高い書物ばかり。
特に歴史的な画集や詩集等に強く、魔導書などは置いていない、はず、なのだが……

「……檻葉。それ」

そう、つまり、だ。

そんな『格の高い魔導書』が。

何故、檻葉の手の中にあるのか。

谷蜂檻葉 > 「わりかし、生き甲斐《ライフワーク》ですしね。」

烏丸の言葉は、ある意味聞きなれたもので軽く流す。
『本の虫』は他人評価だけで出来ているわけではないのだ。

「?」

それで、貴重な

―――否。唯一この店で『異彩』を放っていたこの本を見せびらかし、「どうだ」と自慢するつもりが空気が違う。

「……どーしても欲しいって言っても、あげないですよ。」

彼女の持つ魔導書は、酷く古びていた。
それは、明らかに美術的な価値はない。
かと言って、それが放つ空気には開いた先に見惚れ、聞き惚れる言の葉が在るようにも見えない。

ただ、彼女は烏丸の疑惑の瞳を物欲と間違えたのか、胸元に引き寄せた。

烏丸秀 > 「…………」

烏丸は店主を振り返る。
店主は黙って首を振った。

つまり、だ。
あの魔導書は、この店で仕入れた物ではない。
いや、仕入れた物ではあるのだが、おそらく「紛れ込んだ」

たまにあるのだ。
美術品に混じって、しれっと『危ない』魔導書が混じる事だ。
普段なら『焚書官』にでも来てもらうのだが……

「いや、別にいらないよ。ボクには価値がなさそうだし」

どうやら、魔導書に『魅入られた』らしい。
まぁ、でも……

(図書委員だし、いっか)

烏丸は、放っておく事にした。
その方が面白そうだし。

谷蜂檻葉 > 「そう? なら、いいんですけど。」

危機《札束の暴力》から逃れたことを確信すると、やった♪ と花を咲かせたような笑みを浮かべる。
……この後、喜び勇んで持ち帰り読みふける「コレ」のせいで烏丸を逆恨みするのは非常に先の話だ。

「ところで。」

と。互いの要件に一区切りがついたところで、不意に思い出したように檻葉が問うた。

「烏丸さんが入院してたって噂で聞いたけど、本当だったんです?」

目の前の男を見るに、入院というのが嘘のように聞こえるほどにピンピンとしている。
勿論、この島の”医療術”の高さの証左でもあり、噂自体も最早掻き消えるほどの事であることを勘案しても、だ。

烏丸秀 > ちなみに檻葉の持ってた本の事は、この後新しい枕を買う事を思いついた瞬間に忘れた。
興味の無いものはあっという間に忘れるのもこの男の特徴である。

「ん、あぁ、ついこの前までね」

実は体もあまり本調子ではない。
歩くのが少し億劫な程度には。

「ちょっとね……加賀智君をからかいすぎてねぇ」

けらけらと笑いながら言う。

加賀智。
最近ある筋で有名な、少年の名を言いながら。
まぁ、檻葉が知ってるとは限らないけど。

谷蜂檻葉 > 「………加賀智、君か。」

この時、数分前の立場が入れ替わる。
ケラケラと気にせずに口に出す烏丸と、その話題に表情を僅かに固くしてその言葉に意識を鋭くする檻葉。


「め……ン"ンっ……友達に聞いたけど、彼は今どうなっているの?」

不意に、曹操を呼び出しそうになって噎せこみ、言い直す。
呼ばなくても出てくるのでどちらかと言えば影なのだが。

「思い詰めやすいっていうのは解ってたけど、なんかのっぴきならないっていうか……。
 からかいすぎて入院って、彼が何をどうしたっていうの? 虫に殺されそうな顔してるのに。」

烏丸秀 > 「ん~?」

さて、檻葉はあの騒動を知らないのか。
まぁ、知らないのだろう。
あんな能力の事、島の研究機関が隠すに決まっているから。

「いや、ね。彼の過去をちょっとね、自覚させたんだよ」

ふぅ、と一息吐き。
書店にあった椅子に勝手に腰掛ける。
勝手知ったるなんとやらだ。

「ボクらは同じモノ――ただ、何かを壊し続ける事しかできない存在だ、っていうのをね」

くくっと再び笑う。
もっとも、彼が壊すのは『自分』で、自分が壊すのは『他人』だったけど。

「そうしたら、思いつめちゃってね。
落とし穴に落とされたよ。ざっと200mくらいあったかな?」

全身打撲。普通なら即死。
だが、彼は生き残った。『何故か』生き残った。

谷蜂檻葉 > 「……過去、を。」

冥から引き出した情報は彼の『異能の断片』だ。

言葉の中にある矛盾を突かれれば、癇癪で人を殺せるほど傲慢な『先天的高位』。
戯れに弱者のフリをしたくなるほど、高みに在る【力】。

……だが、もしかすれば彼は【真剣に弱くなりたかった】のではないのか?

「…………。」

自分と、同じように。
記憶と共に、自身の罪を圧し封じて。

つまり、彼は弱くなることで、『真剣に生きよう』としていたのではないか?

更生の為か、それともやはり、ただの戯れなのかもわからないのだが。
ふとした思いつきは、彼女に共感を覚えさせた。 過去を拭い捨ててまで生き足掻く少女に。


「……………ってあんたが原因か!!!!!」

そこまで考え、感慨に耽ったところでそんな事実に思いあたって感情のままにスパーンと頭をはたいた。

烏丸秀 > 「あいた!?」

痛い。
烏丸は基本弱い。
女の子にはたかれただけで大袈裟に痛がるくらいに。

「病み上がりの人間に、ひどくない!?」

頭を摩りながら言う。

「だって、ねぇ。無理だよ、彼。
『生まれながらに世界を自由にする』力があるのに、弱いフリして、自分の物語を手にいれようなんてさぁ」

ふぅ、とため息を再び吐き。
檻葉の瞳を覗き込む。

「ほんと、傲慢だよね。
ボクにそっくりなんだもの、びっくりしちゃった」

谷蜂檻葉 > 「ふん。……貴方は一度、本気で反省する必要があると思うんだけど。」

こう物理じゃなく、精神的に。
無理か。

「無理、って。
 ……『自分の物語』が何なのか知らないけれど、そう決めつけるものじゃないでしょ……?」

スッ、と。
叩きに踏み込んだ関係で近づいた状態で、音もなく滑り込むような視線に「う。」と、少し息を呑んで仰け反る。
けれど、退くことはなかった。

「『輪』に入るために相手の真似をするのなんて、普通でしょ?」

本当は、「入れて」と一言と声をかけるのが最善なのだとしても。
それが気持ちの問題で出来ないのであれば、精一杯真似をするのだ。 成長しても、同じように。

烏丸秀 > 「よく『死んでも治らない』って言われるよ」

過去何人にも言われた。
だから死になさいってのも何回かあった。
世間って怖い。

「全能のモノは『自分の物語』を持てない。
そうだろう、檻葉。だって、強すぎる主人公は、物語を壊してしまうもの」

ギリシャ神話、万能の神ゼウスにすら弱点があった。
否。
ギリシャ『神話』になる過程で、様々な弱点が付与された。
物語の主人公としては、あまりにも強すぎるが故に。

「ティラノザウルスがリスの真似をして、リスの群れに入れると思う?」

弱い生き物の社会に、強い生き物が無理やり馴染もうとしても。
その社会を破壊して、終わるだけだ。

谷蜂檻葉 > 「でしょうね。」

私もそう思う。

「物語を、壊す……」

―――異能の霧に包まれた街。

   作られた日常、作られた平穏、『完成された世界』。

   自分は知っている。 万能に彩られた世界を。 偽りの幸福を。
   彼女は幸運だった。 万能と思われた世界には罅があった。 罅は亀裂になり、やがて亀裂は崩壊を招いた。

   彼の物言いであれば、谷蜂 檻葉は自分の物語を「手に入れた事」がある。

「彼は、人間よ。」

ならば、きっといつか。

「人が人の真似をするのであれば、輪の中に入れるのは当然……でしょ?」

そう、理屈ではなく感情で檻葉はそう呟くように反論した。