2015/08/05 のログ
唐沢響 > 暑い夏にふさわしく涼しげな格好な女性が現れる。その手には地図をを持っていて
「やれやれ…だいぶこの世界にも慣れてきたはずなんだがなぁ…地図がないと迷ってしまう…」

困ったといわんばかりにため息をする。今のところ迷ったようではないものの道を覚えるのに苦労してて、今は公園で一旦休憩といったところで

唐沢響 > 「しかしこの世界は少々暑過ぎではないか…?」
公園は手ごろな休憩場所である、適当なベンチに腰をかける。
この世界、常世島の気候には慣れていないのか暑さに慣れていないのか、この世界で購入した扇子を異能を使って取り出し右手であおぐ。さらに左手でハンカチを取り出そうとして

唐沢響 > 「あー暑い暑い…」
普段ならばキリっとした冷たい目をしたような彼女ではあるがこの時ばかりは左手で額の汗を拭き右手で扇子を仰ぎだらけた表情でとてもだらしない感じになっている。
誰も見ていない、いや誰か見ていたとしても気にせずこのままの状態であろう

「自販とかなかったかな…」
少し休憩し一息も付いた。しかし今度は喉が渇いてしまい、近くに自動販売機がなかったか確かめる為にしぶしぶとベンチから立ち上がる

唐沢響 > 「近くにあったか…助かった」
幸い公園のすぐそば、出入り口にちょうどあったためすぐの距離をあるくだけに済んだ。

財布から硬貨を取り出して飲み物を選ぶ。
もちろん選ぶのは好物である炭酸系統の飲み物。

「ふぅ…」

そのまま飲み物をベンチまでもってきて、座って飲む。
好物は座って味わいたいという彼女なりのこだわりがあるようだ

唐沢響 > ジュースも一気に飲み干しだいぶ落ち着いたというところである。
しかしもう少しこのままでもいいかと思いもう少し居座るつもりで

「地球…か…」

彼女は異世界の出身者でその出生はお世辞にも良いとは言えるものではない。
異世界ではいろんなことがあった。どれもが過酷な出来事であったが自分は生きている。

新しい世界、この地球ではどんなことがあるのかと考えていて

唐沢響 > 「休憩は終わりだ帰ろう」
そのまま自宅に帰ろうとして立ち上がる。

また汗をかきながら歩かないといけないのか…
そう軽く憂鬱になりながらも歩き始める。

これからのことも色々と考えなければいけない
地球にきてまだ間もない、学ぶべきことはたくさんあるのだから

ご案内:「常世公園」から唐沢響さんが去りました。
ご案内:「常世公園」に渡辺慧さんが現れました。
渡辺慧 > 公園の一角。

そこは、昼間、日が照っている間ならば日陰としての境界を表していたのだろうが。
生憎、夜闇に影が溶けてしまった今では、その境界は何も見えない。

その、日陰だった場所。
そこの、地面。

白い何かが横たわっている。

渡辺慧 > 夏季休暇である今。
公園へ立ち寄る人も多いのだろうが。

何が幸いしてか、発見されてなかったそれ。
――むしろ、発見されても、見て見ぬ振りされたのかもしれない。

それは人影であり。
うつ伏せだ。

みようによっては、この夏の暑さによって。
体調を崩し、その場に倒れこんだようにも見えなくもない。

渡辺慧 > ――オチ、と言ってしまうと風情も何もないが。

寝ているだけだ。
……少年は、物凄く眠くなったから、その場で寝ているだけだ。

日陰であるから、問題ではないだろう、とか。
そう言った声は、確かに聞こえるかもしれない。

――が、しかし。
やはり、遠目、もしくは近くでそれを見ても。

やはり。
それは、ただ。
体調不良、または。
何かしらの事情で倒れている人影にしか見えない、というのは。

果たして、この少年は考慮しているのだろうか。

ご案内:「常世公園」に六道 凛さんが現れました。
六道 凛 >  
ふと、公園にぶらりとやってきた。

暑い。とても、暑い
今日も街を観察して、ふらふらと警邏の練習という
形でやってきたのだが――
とてもじゃないが歩けない。

――どっか休むところ……

見つめているのはもうひとつの世界の方。
暑さのせいで意識も朦朧。
だからか、ちょっと。

現実がおろそかになっていたのは否めない。

影で休もうと思って腰を下ろしたら――

――ぐにっ……

”なにか”を下敷きにした

渡辺慧 > 「べ」

背中に“なにか”が乗った。
――眠りと、現実の境は曖昧だ。
見える景色は、まぶらの裏。しかしそれも夢の物?

しかし、この重みは、確かなリアルとして、侵入してくるのだ。

「……………んむ゛ぇ」

引き潰れた、猫のような、呻きを残し。
それは、夢半ば、半分だけ。
少しだけ。

小さい、軽い、その何かを感じた。

六道 凛 > ――なんか、踏んだ?

首を傾げながら、下にある何かを触るように
身体をまさぐるように指を動かす。
あぁ、これは人だと、判断するのに2秒。

「――あ、ごめん」

でもそのまま、下敷きにしたまま
ふぅっと息を吐いて涼む

ご案内:「常世公園」に奇神萱さんが現れました。
奇神萱 > うだるような暑さだった。
連日の猛暑で何人倒れただの、どこぞの貯水池が干上がっただの碌でもないニュースだらけだ。

暑いのは嫌だ。
だからといって、寮に籠もっていても仕方ない。
書を捨てよ町へ出よう。

そういう訳で公園にきた。

思いがけない顔をみつけた。

「よ」

と。片手を挙げてふと気付く。
わかるわけがない。最後に『美術屋』と会ったのはいつだったか。
少なくとも死ぬ前だ。梧桐律がサクッと死んだあの夜から、たったの一度も。
『伴奏者』を殺した女が気さくに声をかけてきた様にしか見えないのではないか。

どうしたもんかね。
あいつは何か白い生物を尻にしいていた。俺もとなりに腰かけた。

渡辺慧 > ……。
半覚醒乍ら、人の、その――少年じみた声に半ば反射で答える。

「…………あ、うん」

………………。

――……。
――――――――……。
意識が。
登ってくる。
いや、登ってきているとはいいがたいが。
しかしながら、これだけは思わざるを得ないとばかり。
芸人ではない。芸人ではないが――。

(あ、乗ったままなんだ)

…………。

「…………え、ん?」

あんまりに、あんまりな状況に。
潰れ声に混じって、困惑にまみれた声を上げた。

六道 凛 >  
「……―――重い?」

少しずれた感想
いや、こうして喜ぶ人もいるし。とりあえず何も言われないようなので
そのままいることにした。
特に反応も無いし。

「――……?」

そっと長髪を耳にかける仕草。
その辺の女よりも女らしいが、残念ながら
男娼である――
でもいちいち、女性っぽさが目立ってた。
首をかしげながら、下の少年は大丈夫かなと
背中をくすぐるように指を動かして――

「どこかで、お会いしました?」

訪れた客人にそう返した

渡辺慧 > 「……あ、いや」

重くはない。
重くはないが。

それが、二人分ともなれば、話は変わる。
――変わるが。

――え、どういう状況?

意識は覚醒――せざるを得なかった。

そして……なにか、自分を態々クッションにして、奇妙な雰囲気を出し始める二人に。

(ベンチでやれよ)
等と言う無粋な発言は、出来そうになかった。
後、なんか背中をくすぐられている。
やめてくれ。俺はベンチなんだ。いや、ベンチではない。
「んっふ」
くすぐられたおかしな声が出るが、今一度思うのは。

――いやベンチでやれよ。

奇神萱 > 『美術屋』の問いかける声。
胸の奥にかすかな痛みが走った。そりゃな。仕方ないさ。

梧桐律は墓場で永久の眠りについたまま。
今の俺は頭のてっぺんからつま先まで赤の他人だ。

「いや。はじめましてだろうな」
「昔の仲間に…知ってる人間に似てる気がした。それだけだ」

けろりと笑い、白い生物の上で脚を組みかえる。

ヴァイオリンケースを肩から下ろして襟元を開けた。
風のない日だった。手でぱたぱたと扇いでみたところで焼け石に水だ。
ダークグレイの雨傘の先で乾いた土をほじくりかえす。
水の抜けた地面はカラッカラに乾ききって死の大地みたいになってる。

一体誰がこんなことを。

渡辺慧 > ――この、中性的な少年の方はまだいい。
少しばかり、ずれているが。
まだベンチ扱いよりかは、人扱いしてもらっている。

――いやベンチでやれよ、という話なのだが。

問題は、もう一人の少女。

横目で見るに。
後、動作を見るに。

――いやベンチじゃねーんだぞ俺は。

と思わざるを得ないのだが。
……得ないのだが。

やはり、無粋な言葉はあげ辛い。こんなところで空気を読まなくてもいいだろうに、と思わなくもないが。

――いや、自分をベンチ扱いしてこの雰囲気は最初から崩れているのではないか?

この、妙な。
発言権すら取り上げられている様子は、一体何なんだろうか。

六道 凛 >  
ざぁっと、風が撫でる。
木陰だからか、涼しさが感じられて心地いい。
反応がかえってきた、声もいい。
少し、思い出す。こういう時はもっとしてって合図だったか。
だから、ほんの少し大胆にマッサージするように手を動かして――
わざとらしく、脇をなでた。

「……そうですか?」

ふと、持っていたヴァイオリンを見た。
楽器――懐かしい。

かつて、尊敬する舞台に欠かせない音を紡いだ男を。
彼は無骨だったが。こだわりは一流で。
そして、優しく音楽とは何かを教えてくれた
自分の一部でもあった。
もう、合うことはできない。なぜなら死んでしまったから。

「……ヴァイオリン、好きなんですか?」

思い出したがゆえの胸の痛みを隠した笑顔で
そっと質問を重ねた

渡辺慧 > ―――――………!?

何を勘違いしたか。
先程の、つい上げてしまった声のせいか。
中性的な少年? は、脇へ手を伸ばしてくる。
生憎そこは、誰だって弱いもの。
また、情けない力の抜けた声を上げてしまう。

「んく、っふ……」

違う、違うんだ。
そうじゃなくて、そもそも自分は。
この状況の説明というか。
いやそもそも、何で撫でてきた?
心が悲鳴を上げそうなのだけれど。
いや、そうじゃないな。こうだな。

(しゃべっていいですか?)
喋れない。

奇神萱 > プラトンは言った。肉体は魂の牢獄であると。
美はただ美として在りながら、人の知覚はあまりにも脆弱にして無力。

普遍的な本質に近づくためには、人の一生というのはあまりに短く儚いのだ。

だからこそ。
限りある不完全な生を燃やして、同じ理想を追った日々があった。
昼も夜も寝食を忘れて熱狂した同胞がいた。

忘れられたわけではない。
『美術屋』は自分の死を受け入れてくれた。それだけのことだ。

中性的な顔だちに浮かぶ笑顔を見つめた。
言葉が喉までこみ上げてきて、何もかもぶちまけてしまいたくなる。
『伴奏者』は死んだ。梧桐律はもういない。今は奇神萱がいるだけだ。

―――それでも。

人目があるかもしれないが、この際もう気にしないことにする。

「今はグァルネリウスじゃない。別のを使ってる」

無銘のヴァイオリンを出してみせる。そして悪戯っぽく笑った。
久々の再会だ。今生の別れってやつはキャンセルになった。
何か演ってみるかね。立ち上がって、楽器を左の肩にあてる。

「1853年ごろ、ヨハネス・ブラームスは1篇のヴァイオリンソナタを作った」
「何が気に入らなかったのか、結局その作品が陽の目を見ることはなかった」
「それから26年後の夏。ヴァイオリンソナタは再び蘇ることになった」

「これは密かに歌われる恋のしらべだ。ヴァイオリンソナタ第1番―――『雨の歌』」

六道 凛 > ……――今は……

彼女はそういった。それにグァルネリウス――
その名前は。もしかしたらの、IF。
想像が頭を跳ねまわる。が……
それらはIFでしたかない。変えられない。
変えてはいけないのだ。だって、依存した彼女は
あんなにつらいことがあったのになかったことにせず受け入れた
”脚本家”としてあることを選んだ、ならば倣わなくては。
きっとあの中で一番未熟だったのは自分で。
弱かったのも――……

「……恋……」

どうしてその曲を選んだのかは分からないが。
きくべきだろうと思った。
すーっと、下の彼の肩甲骨を撫でて。
目を細めた。彼は幸運な観客なのかもしれない。
だって――……この島で一番の伴奏者。
それの立ち姿と瓜二つの女性の演奏だ。

『立ち方、構えが基本なんだよ』

だったら、一番に違いないと。
そう思ったから

渡辺慧 > 小難しい話。

――そーいや。
……まぁ、いい。
自分には、さほど関係のない。

二人組の片方。
少女であるほうが、自らの上から腰を上げた。

少しばかり、圧迫感は少なくなり、聞こえる声は。
ヴァイオリン奏者の声。

――何か、言葉を発するなら今なのだろうけど。
……やっぱり、そういう雰囲気ではなかったし。
なにより。――そうしたくない気分でもあった。

撫でられた、それにどんな意味があるかわからないが。
くすぐったいその感触には、どんな意味が。
――まぁ、今はベンチでもいいか。

自分はここでは異物。
除外されるべき物。

なのに、ここに居させてくれる、その雰囲気だけでも感謝してもいいのかもしれない。

――まぁ、やっぱ。……ベンチでやれよ。
と、思うのは、冗談混じりな心情とした。

奇神萱 > 熱い暑い夏の真っ盛りに『雨の歌』でもないだろう。
雨なんて降ってないじゃないか。今はそうだ。たしかにその通りだ。

この世ならぬ遙かに遠い世界からグランドピアノの音色が響く。
Vivace ma non troppo.
開闢を告げる第一主題は雨のように優しく、そして軽やかに。

転じて第二主題はより雄弁に、躍動感に満ちた豊かな色彩をみせる。
繊細に流れゆく、歌うような旋律。刻々と表情を変えながら聴衆を高みへと誘う調べ。
姿なきピアノの転調と響きあい、世界は多様性と深みを増していく。
その音楽は群雲の沸き起こるような空模様を想起させるかもしれない。

ざあ、と木々揺らす風が吹きぬける。
苛烈な日差しが衰えていく。夏の空が翳っていく―――。

そして次なるは叙情と哀愁の第二楽章。葬送行進曲のはじまりだ。

六道 凛 > 彼の音楽はいつも、そうだった。
一つの楽器なのに、まったくそれを感じさせない――
心のなかに、しずくが落ちる。
それと同時、静かに”雨”が確かに降り注ぐ。
ざぁっと葉が唄う。その音は聞こえない。
そして、静かに闇が暗い夜が、心に落ちてくる。

静かに背中から滑るように降りて寄りかかるように
体重を後ろに預けた。一人でいたくない。
そういうように……温度を、背に感じたくて

渡辺慧 > 風。
うつ伏せになりながらも、頬を撫でるそれに目を細めた。

さて。
……ある意味、幸運なのだろうか。
そればかりは、生憎。そういう趣味があるわけでもなしに。
一概に肯定は出来ない。

――そ、自らは、大道具。
なら、まぁ。――声を出さないのも一つの正解なのだろうし。

大道具なら、タダで、無権利にこれを聞けるのだ。
ならば、その一面は、幸運としておこう。

体温を感じる。――いや、先程から感じてはいた、が。
いつも言っている。
自らは、機微に疎い。

だけれど、この曲が、そうさせているのは、少しばかりでも。

大道具――いや、ベンチ――は、そこにいるだけなのだ。

奇神萱 > クララ・シューマンはヨハネス・ブラームスの歌曲『雨の歌』を愛していた。
ブラームスはシューマンが最も親しく付きあっていた作曲家の一人だった。
その逆もまた然り。才能ある男女が音楽に結び付けられ、隅にも置けない様な関係を築いていたのさ。
二人のロマンスは半ば伝説的に語られているが、下世話な与太話だと断じる声もある。
なぜって、証拠がなかったんだよ。

最良の友だった二人。その感情は愛だったのか、それとも友情だったのか?
はっきりと裏付けるような資料は今日まで見つかっていない。

個人的な好みでいえば、俺はロマンがある方の説を信じたい。
秘められた感情を抱いて生きるということ。言いたいことを言わずに過ごすということ。
それは悲痛で悲惨なことだ。その心はどれほど傷つけられるだろう。
だが、その姿勢も貫いたなら美しい。
ゆえに必要不可欠なのだ。
この第二楽章は、来るべき第三楽章―――『雨の歌』を迎えるために。

風がそよぎ、暗雲が立ち込めていく。大気がかすかな湿気を帯びていく。
信じられないことだが、一雨きそうだ。
異界存在の旦那方にとっては雨乞いなんて朝飯前らしい。
今にも泣きだしそうな空模様だった。

『美術屋』の目をじっと見て、それからダークグレイの雨傘を一瞥する。
降ってきたら差してくれないか。そういうアイコンタクトだ。

六道 凛 >  
ホントなら――そのアイコンタクトには、『背景』で応えてあげたかった。
でも、それは駄目だ。
もう自分は『美術屋』ではない。
異能も、能力も、魔術も――もう、そのために使えない。
だから、そっと。立ち上がり傘を手に取り、さした。

”自分が雨に当たるのも厭わずに”

スポットが当たる主役を引き立てるように。

これがどんな曲かは分からないが心がじくじく傷んで
それを和らげてくれるのが、雨だというように。

後ろの彼には、そっとパーカーをかけて。
白い素肌と、タンクトップがうつって――

その脱ぎ方と、覗いた肢体は
どうしようもなく艶やかだった

渡辺慧 > ついぞ、そこにいた。その少年が立ち上がる。

重みはなくなった。
だけど、どうにも――その駆けられたパーカーが、重くて仕方ない。

観客であり。大道具であり。
ここに居るだけでも幸運というならば。

――少し位、それを消費させてもらってもいいだろう。

よくわからないが。
ひどく――何か、重い音楽。

うつ伏せになっていたその体を、少し力の抜けたそれで。
起き上がらせると。
自分は、何も主張しない。
何も、音を出せない。

だから、そっと。自らの上に乗せられた――ひどく、重い――その、軽くて仕方ないパーカーを。

目の毒だ、とばかりに、彼に頭の上からかけなおす。

主張はしない。主張などできるはずもなく。
――もう一度、そっと。音を立てないように、一歩一歩。

後ろに下がり。二人の空気を眺めるだけの大道具と化すように、胡坐で座り込んだ。

――雨だって、たまにはいい天気だ。

奇神萱 > ぽつり、と。雨が降る。
穏やかな風がよそいで、どこか温かい夏の雨が降りしきる。
その雫を遮って、大気震わす弦を守るように大きな影が落ちた。

シューマンの愛した旋律が蘇る。それが『雨の歌』と呼ばれる所以だ。
作曲家は彼女の愛した旋律を織り込んだのだ。
最良の友を想い慕う心のために、秘められた言葉に代えて―――。

そして傑作が生まれた。
音楽は言語以上の力を得るに至った。
どんなに言葉を尽くして語られるよりも雄弁な想いの表明だった。
これは親愛なる人に捧げる音楽だ。
力なき人のこころが、魂の牢獄から解き放たれて雄飛する。
ブラームスはその可能性を示してみせた。

ソヴィエトのヴィルトゥオーソ、オイストラフは第三楽章にあえて色を付けなかった。
畏敬の念に打たれてしまう。奏者たる彼は徹底的に奏者に徹した。聴衆に判断を預けたのだ。
自分はこの『歌』に心震えず流されず、純真にして無垢なる奏者でいられただろうか?
―――まだまだだ。遠く及ばない。未熟は承知の上だ。それでも構わない。
たとえ拙くとも、奏でたい音楽があった。分かち合いたい旋律があった。

ロンドは密かな余韻を残して、静かに雨音の彼方へと消えていった。

「………俺はお前をどう呼んでいいのかわからない」
「たぶんお前も同じだと思う。お前の知ってるそいつは死んだ。もうどこにもいないからな」

弓を楽器と一緒に持って、開いた右手を差し出した。

「―――はじめまして。奇神萱(くしがみかや)だ。よろしくな」

六道 凛 > 頭に、被せられたフード
せっかくかけてあげたというのに、静かに。
静かに、舞い戻ってきた雨の鎬。
ぽたぽたと、それは濡れて肌に吸い付き。
透けて白い素肌がより色っぽく見える。
見えてしまうのは、職業柄か。

音楽を聞き終えれば――

『……まだまだだな』

そう口にした男をまた思い出す。
自分はこんなに心を震わせて
揺らされて、どうしていいかわからなくされているのに
まだまだだと、そう言う。みんな、そうだ。
そう。どうやったって――

「うん。アナタは……あなたは――……」

その先は口にできず。きゅっと唇を結んだあと。

「はじめまして、六道 凛です。あなたのような音楽に”二度も逢えると思ってませんでした”」

だから――
そうとだけ返して。
深く、彼がかぶせてくれたパーカーを深くかぶって。
手を握った。冷たい手で。ほんの少し、震えながら
頬をシズクで濡らして

渡辺慧 > 心をつかまれそうになる。
――雨が降った。

雨の歌、と言っていた。
その、自分には程遠い世界。
音楽の世界。それに込められている何もかも。
自分は理解できることはないし、分からないが。

ただただ、その曲の世界に、つかまれそうになった。
だけれど、感想も、感嘆も、なにもかも。

それは言うべきではない。――そういう気分なのだから致し方ない。
観客ですらないのだ。――大道具。
いや、もはや、それですらない。

これは、じぶんのしらないせかい。

その二人の、何かを。
視界に入れるのは、何か間違いなような気がして。
胡坐をかきながら、ふと。
雨粒を見つけようと、空を見上げた。