2016/01/14 のログ
ご案内:「常世公園」に東雲七生さんが現れました。
■東雲七生 > 「はぁ~……すっかり冬真っ盛りだなぁ。」
日の傾いて久しい公園のベンチに腰掛けて、東雲七生は目を細めていた。
ハロウィンが過ぎてあっと言う間に12月まで通り過ぎ、年も明けちゃってもうすぐ1月も折り返し地点らしい。
その間何をしていたかと言えば、鍛錬、授業、鍛錬、授業と只管その繰り返しで、何の面白みも無かったのは間違いない。
「肉まん、コンビニで安売りしてて良かったー」
両手で包み込むように持った湯気の立つ中華まんじゅうに一瞥を落して、そっと息を吹きかける。
何だかそれだけで、冬って気分になってしまうが、七生には今冬以前の冬の記憶は無い。
■東雲七生 > あむ、と真っ白なぬくもりを口へ運び頬張る。
決して手放しで称賛できるほど美味という訳ではない。だが、冬の寒空の下で食べる肉まんは少年の表情をほぐすには充分だった。
「はふ……。」
漏れ出た吐息が白く変わり、手元からの湯気と混じる。
自分は今までもこうして冬になったら中華まんを食べていたのだろうか。
そんな直前までの疑問も少しの間忘れて七生は冬の醍醐味を満喫していた。
■東雲七生 > 「んむ。 しかしまぁ、もう1月かぁ……」
油断しているとあっという間に春になってしまいそうな気がして少し居住まいを正す。
背すじを延ばしたところで時間を停められる様な能力を持っているわけではないが、それでも少しは抗いたい。
夏の終わりに居候生活を始めて、気が付けば秋を跨いで冬になってしまっていた。その間、何か進展があったかと言えば大したものは無いように思える。
否。今一歩踏み出す勇気が無い、有体に言ってしまえばそういう事なのだった。
「……東雲、異能研究所。」
白い息と共に呟いた施設の名は、七生が入学するに辺り何かと便宜を図ってくれた研究所の名だ。
偶然にも自分の苗字と同じで奇妙な縁を感じていたが、現在となってはある種の危うさすら感じている。
入学前の記憶が無い自分、入学の便宜を図ってくれた研究所。何かある事は間違いないだろう。
■東雲七生 > 「………。」
何かあるのは間違いない。七生の過去に関して、決定的な物ではないにしろ、そのキッカケになりそうな物は。
でも、だからこそ踏み出せない。
知るのが怖い、というのが正直なところだった。
夏の終わりのあの日、自分の記憶が一夜にして崩れていった感覚。
あの時、間違いなく東雲七生という存在は一度瓦解した。たまたま通りすがった友人のお陰ですぐに構築されたが、間違いなく、東雲七生という個は完全に崩れていた。
今になってみれば、何故かそう思える。何故そう思うのかは、七生自身にも解らないことではあったが。
「……はぁ~、深雪に何て言おう。」
いっそ黙って、自分一人で研究所へ赴くという事も考えなくも無かったが。
それは互いにとって、とても手酷い裏切り行為の様に思えたのですぐさま選択肢から消したのだった。
■東雲七生 > 「まあ、そのうち。春までに考えときゃいっか。」
肉まんの残りを口に突っ込んで、さながらリスのように頬を膨らませたままベンチから腰を上げる。
いつもの様にランニングと筋トレは終わらせているので、今日はもう帰っていつもの様に玩具にされるのだ。
それが、今の七生の日課である。
「考え事終わりっ、こっからいつものモードっと。」
大きく伸びをしながら声に出して意識を日常へと向ける。
そうしないと、またふとした拍子に考え込んでしまいそうだから。思考の切り替えは大事、と授業で教わった事を真面目に実践するのであった。
ご案内:「常世公園」から東雲七生さんが去りました。