2016/06/13 のログ
四季夢子 > 天坐す揺雲を頂いた、少し風の強い日だった。
目に映る全てが鮮やかに思えるような初夏を顕した休日は、私の足を公園へと誘う。
そうして訪うと、同じように誘われたのか園内には普段よりも人が多いように思われた。

緩慢な、或いは悠然といった足取りで歩く老夫婦
画架を据えて初夏を象ろうとする壮年の男性。
快哉を告げるように声を上げてサッカーボールを追いかける年少の子供達。
少し開けた所には真ピンクが目に煩い、何かの移動販売車両が止まっていて、

はてあれは何を売っているのかしらんと思った所で見知った誰かが視界に入る。

「……あら、東雲君――……貴方運動部だったっけ?」

見るからに休日に自主練をしにきた、何某かの体育会系の生徒然としているものだから、
私はついついと近付いて上から下に、下から上にと不躾な視線を送ってしまう。
……背、少し伸びてる気もするような。

東雲七生 > 見回した公園には様々な人々がそれぞれの休日を過ごしていたが、
特別七生の気を引く様な物は見当たらなかった。
まあ、それはそれなりに、そう悪くは無いのだと言い聞かせつつベンチでのんびりジュースでも飲もうかと算段を立てたところで。

「ん?……あ、四季じゃん。よーっす!
 んにゃ?違うけど、俺、部活も委員も無所属だし。」

名を呼ばれて振りかえれば、久し振りに見る友人の顔があった。
相手の疑問にゆるゆると首を振りつつ、何だかじろじろと見回されてる気がしたのでこちらも相手を品定めする様に見回して。
……あんまり育ってないな、って。

四季夢子 > 「あら、そうなんだ?何だか逞しくなったような気がするから、てっきり陸上部にでも入ったのかなって。」

風に揺らめく東雲君の髪はその色もあって炎のように見える。
触って暖かかったら面白いなと、口端を綻ばせた所で相手の目線に眉根が寄った。

「ちょっと何処みてんのよ、何処を。」

自分の事は棚に上げ、ずかずかと近付いて鼻先でも指でつついてくれようか。
……とするのだけど、彼がイヤホンをつけている事に気付くとそれらは中断される事となる。

「へえ東雲君って音楽とか聴くんだ?それともラジオ?それともそれとも殊勝に語学の聞き取りとか……」

鼻先に向かう予定だった指先も行き先を変えて耳に向かい、これまた不躾に取り上げて勝手に聴いてみようと試みちゃう。

東雲七生 > 「いやいや、俺は部活には入る気ねーよ、今んとこ。」

ある意味部活動以上の無茶な鍛錬を繰り返しているけれど、それを語る時でも相手でも無い。
誤魔化す様にへらっと笑って、それから非難に慌てた様子で首を振り、

「ふ、服だよ。服!四季といっしょだってば!」

まあ相手が服装だけを見ていたかは不明だけれど。
鼻先をつつかれそうになり、身を竦めた刹那にイヤホンを奪われて。

「俺だって音楽くらい聴くよ。最近はご無沙汰だったけどさ。」

イヤホンから流れるアップテンポな曲は、
曰く、迷った心はピンボールみたいでルールがいつまでも曖昧とか。

「元々座学にはあんまり力入れても仕方ないって、先生にも言われちゃったし。
 語学なんて、此処に居たら大体気合でどうにか出来そうな気もするしさ。」

異国の人どころか、意世界の存在との交流の方が盛んな七生である。
でも不思議と言葉が通じない相手というのは、そうそう出遭わないものだった。

四季夢子 > 「そっか~……なぁんて言っても私も部活とか入ってないんだけどね。」

首尾好くイヤホンを奪い取り、あっかんべえと舌を出すのは弁明をする彼を茶化すもの。
そうして意識を耳に向けると、聴きなれない曲調の音が規則正しく流れて来る。

「ふぅん。私はあんまり……音楽よりはラジオ派かな。ええと…常世オンサイト相談室?とかいう奴。
真面目そうで結構ふざけてて面白かったりするのよねー…と、はい返すね。」

よいせ、とイヤホンを東雲君の耳に戻してあげて、次なる言葉には鳩が豆鉄砲を食べたように目をぱちくり。

「わ、ワイルドな先生ね……でも案外そういうものかも?意外と知り合ってしまえばなんとかなったりするのよねー……
と、そうそう知り合うといえば先日の懇親会盛況で凄かったわね。色んな人がいてちょっとしたものだったし。」

出し物も演奏から手品から、その他諸々と目を瞠るものが多くて面白かったと話題をむけるのは、
きっと彼も居たんだろうと思うからに他ならず、言葉は雲を流す風のように、やれ料理の味がどうとか、給仕の服装がどうやらにまで及ぶ。

東雲七生 > 「四季も?
 ……ふーん、まあ、意外ってほどでもねーか。」

言われてみれば自分の周囲にはあんまり「○○部」って感じの奴は居なかったな、なんて思い返して。
一度離れたイヤホンが耳に帰ってくれば、さんきゅ、と手短かに応えて一度音楽の再生を停める。
話相手が居るのに、音楽聴きながらじゃ、曲にも四季にも悪いから、と。

「ラジオねえ……うーん、今はあんまり聴いてないな。
 お悩み相談にも、相談するほどの悩みってあんまり……んー、今はそこそこあるか?」

こてん、こてん、と右に左に振り子の様に首を傾げて。

「ワイルドっていうか、俺の成績見てだいぶ諦められたっぽい。
 まあ、好成績が狙えないってだけで、赤点は回避してるから良いんだと。」

別に見限られた訳では無いよ、と首を振って。
それから話が懇親会のことに及べば、ああやっぱり、といった顔をした。
それからほぼ一方的に話していく四季に逐一相槌を入れながら、自分視点の事は一切話さない。

だって、盛況だろうと思ったから行ってないし。

四季夢子 > 一頻に懇親会の様子を語った所で喉の渇きを覚えたものだから、直ぐ傍の自動販売機で飲物を買う。
蓋を開けると何故か勢いよく炭酸の抜ける音がして、ラベルを見ると炭酸緑茶なる不可解な代物だった。
味は、一口呷って顰められた私の眉より推して知るべし。

「……で、思いっきり成績が悩みになってるじゃないの。
いくら赤点は回避出来ているからって、あんまりだと内申点とか悪くならない?
その分他で補えればいいんでしょうけど……異能関係が秀でてたらやっぱり有利なのかしら。」

これあげる。と炭酸緑茶を東雲君に押し付けて話題の矛先は学業の方へ。
確か、彼の異能は血をどうとかってえのは以前に聞いた事があるけれど、そこまで詳しくは無い。
やっぱりこう、珍しかったり色々な意味で凄ければ優遇もされるのかしらん?と言外に訊ね、
首は芝居がかったかのような所作で傾げられた。

東雲七生 > 「いや、俺自身は別に悩んでないんだって。
 実技の方でそれなりな成績残してるし、進学するにせよ就職するにせよ、特に困ってる事はねえんだ。」

内申と異能の関係もそこまで強く結びついていないと思う、と首を振る。
そもそも珍しくあれど、わざわざ使う為には怪我をするか、あらかじめ自分の血液を容器に入れて持ち運ばなければならない。
そんな面倒な異能が社会的に役に立つとも思えないのだ。

「え、ちょっと待って何その合体事故ドリンク。
 はあ、それはそれとして、もっとこう、炎とか氷とかそういうのが使いたかった。」

押し付けられた炭酸緑茶を押し返そうとしつつ。
改めて自分の異能に想いを馳せる。

四季夢子 > 「そっか~。という事は東雲君は順調なのね。よきかなよきかな。」

首を振る彼に安堵9割落胆1割くらいの溜息を吐いてみせるのは、
良くも悪くも好奇心の為せる事。
私は芝居がかったような言葉でめでたしめでたしと謳い、押し返された炭酸緑茶はそっと排水溝さんに提供をした。
緑色に泡立つ液体はなんだか不気味だった。

「そこの自動販売機で買ったんだけどね。良く見ないでお茶かと思ったら炭酸入りだったのよ……。
それにしても炎とか氷だったらさぞかし便利よね。冬とか夏とか……ちょっと実利的すぎる気もするけれど。
私はどうせなら空が飛べるとかが良かったわ。」

指し示される自動販売機は、オール100円を謳う黒と黄色のボーダー色が印象的なもの。
異能について零される私の言葉は大別して東雲君に倣うように想いを馳せて、
爽やかな青空の元で二人仲良く無い物ねだりをする有様。

「……ええい、なんだか鬱屈してもしょうがない。ね、東雲君。
あそこにドギツいピンク色の車が見えるでしょう?あれ何らかの移動販売の車だと思うんだけど、
何を売っているか賭けない?当てたら外した方が奢るってことで、どう?」

これじゃいかんと私は顔を上げ、やおらに彼に一つの提案を。
私達の立っている位置からでは看板までは見えず、数人が並んでいるのが判るのみで、
車両の色や時期からしてアイスかクレープの洋菓子系と予測くらいは出来るかも。

東雲七生 > 「まあ、順調?順調と言えば、順調。」

軽く首を捻った後、こくり、と一度だけ肯いた。
悩んでいないと言うだけで、将来への展望も無いのだけど。
だってまだあと二年残ってるのだ、この島で、学生としていられる期間が。
もし望めばその期間をさらに数年延ばすことだってできる、とは巷のうわさでしかないが。

「変な物買うなよな……。まったく。
 ……別に実利的じゃなくても、もうちょっと格好いいものであれば良いよ。
 空は……別に飛べなくても良いかな、俺は。」

憧れが無い訳ではないけれど、と呟いてから、怪訝そうな顔で移動販売の車へと目を向けて。
ああ、あれは……と言いかけて口をつぐむ。
実際に“見た”わけではない。匂いが僅かな風に乗ってここまで届いただけなのだ。
常人であれば気付かないような、微かな匂いでも、七生の鼻はかなりの確率で嗅ぎ取る。

だから、正直にそれを言うかどうか悩んで、
まあ外して何かおごってやるのも一興かな、と思い留まる。

「……ん、いいぜ。
 じゃあメロンパン。」

四季夢子 > 順調と頷く東雲君に、次に私は北叟笑むように口端を歪める。

「ふふん、でも此処からは順調ならざりき事になるんだから。
とりあえずは私に賭けに負ける所から……ってメロンパンの屋台なんてあるの……?」

ただ、彼が些か奇妙な品物を告げるとそんな表情も消えてしまうのだけど。
もしかしてメロンパン、好きなのかしら?と勝手な予測も一つ抱える始末。

「ま、いっか。じゃあ私はクレープね。仮にどっちもちがくって変な物だったら……
東雲君が買って、東雲君が食べて感想を教えて頂戴なっと!」

抱えた予想は一先ずとし飛ぶように跳んでみせて、くるんと回っても私は飛べない。それでも何かを得たりと笑ってみせて
いざゆかんと東雲君の手をひったくるように握って牽引開始っ!

「ふっふーん、どうどう?今の感想とかっ」

そうしてこうして車の前に至るならば、そりゃあ勝ち誇ったような顔で傍らの東雲君の事を肘でつつく私がいるのでした。
だって目にうるさいくらいのピンクな車の前には、クレープ屋である事を示す看板があったんだもの。

東雲七生 > 「あるよ、メロンパン。学生通りとか商店街で見かけたこと無い?」

メロンパンだけでなくラスクも手に入ったりするし、
運が良ければメロンソフトクリームも手に入ったりするワゴンがあるのだ。
そうしてお互いの予想を出しあい、引き摺られる様にして販売車の前に来れば。

「あー、クレープだったかー……
 しゃーないな、乗った以上は奢るよ。」

一つ幾らだろう、と値段を調べてから財布を取り出して販売車へと近付いていく。
クレープは別にそこまで好きというほどでもないから、とりあえず四季の分だけを買うつもり。

四季夢子 > 「むう……一寸記憶に無いかも。ドーナツとか鯛焼きは見た事あるけど。今度探してみようかな。」

メニューを記した別の看板を見ながら口端を尖らせて行くと、折が良いのか悪いのかメロンを用いた奴がある。
他のに比べたら高いけれどそこはほら、勝者の特権であるからして私は財布を取り出す東雲君を見て笑うのだ。

「じゃ、このメロン生クリームにスライスアーモンドとバニアアイスのトッピングをつけて………。」

彼に示して、列に並び、順番が来たら人の良さそうな、まるでサンタクロースみたいなヒゲを蓄えたおじさんに注文を出し、
そんなこんなで恙無くメロンやら生クリームやらアーモンドの果にバニラアイスまでくっついたクレープを手に入れる事となる。
ウェハースまでくっ付いているからまるでちょっとしたパフェのようにも見えなくもない。

「……じゃ、はい。最初の一口はどうぞ?これくらいじゃ余桃の罪には至らないってものだし。
全部が全部奢ってもらうってのもちょっとバツが悪いってものだし?」

殊勝な態度になるのはその豪華さに相俟って値段もまあ、それなりにしたからで。
トッピングを付け捲った私が悪いのだけど、そんな事は棚を超え青空に放り上げるようにしてクレープを差し向けた。

東雲七生 > 「そうかー、美味いんだけどなあ。」

残念だなあ、とさほど残念そうでも無く言いながら。
次から次へとトッピングを注文していく四季を見て。やっぱ本気で賭けときゃ良かったなどと思いつつ。
まあ、バイト代はたんまり入っているし、この程度で破産するわけじゃないから良いかと悠長に身構える。

そうして出来上がったクレープを見て、小さく溜息を溢したところで。
最初の一口を勧められれば、今日一で怪訝そうな顔をして少女を見返すのだった。

「は? いやいや、いいよいいよ。
 賭けに敗けたのは俺だし、そもそもあんまりクレープって好きじゃねえしさ。」

そもそも日曜の公園で女の子とクレープ食べてるなんて傍から見たらどう見えると思ってんだ、と思わない事もなく。
とりあえずクレープ奢るだけ奢ってあとはなあなあにしておこうなんて考えてないんだからねっ。

四季夢子 > 「そっかあ、美味しいんだけどなあ。」

曰くクレープは余り好きでは無いと言う東雲君に零れる私の言葉は
奇しくも最前に彼が零した物に似たもので、それなら今度メロンパンでも御馳走し返そうかなと思った。
口にしたクレープはメロンが爽やかであり、バニラアイスは期待通りに冷たいものであり、
予想の出来る味といえば味だけど、日曜日の初夏には相応しく思えて私の機嫌も気温に沿って上がるもの。

だから通りがかった級友の子の挨拶にも気易くなんて手を振って応えたりもし、
傍から見れば平穏かつ平凡な休日の学生姿が公園に混ざるのでした。

東雲七生 > 隣でクレープを食べる四季を見つつ。
その四季が級友だろう相手に臆することなく手を振るのを見て、一瞬正気を疑う。
仮にも男女で公園でクレープだなんて、変な誤解を生……うん?

(男女……に、見られ、ない事も、ワンチャンある……?)

性別通りに過度に隆起していない自分の胸板と、
性別の割になだらか~な四季のそれとを見比べて。
ついでに自分は髪を伸ばし中で、それを一つに束ねているのだから、
もしかしたらもしかすると、男の子同士に見えなくもないかも。

と、最後の最後でどこかおかしい希望を見出しつつ、七生の休日は過ぎていく。

ご案内:「常世公園」から四季夢子さんが去りました。
ご案内:「常世公園」から東雲七生さんが去りました。