2016/06/30 のログ
ご案内:「常世公園」に東雲七生さんが現れました。
東雲七生 > 夢見が悪い時は、どうも此処に来てしまう──

真夜中の常世公園。寝床を抜け出した七生は寝間着のTシャツとハーフパンツ姿でベンチに腰掛けていた。
梅雨空は夜でも重く雲を垂れ込めさせ、月も星も何も何も見えない。
それは異邦人街からここまでくる間一度も変わることなく、公園についてからも同じだった。
ただただ、重く暗い雲が頭上を覆っている。


「……なんで、あんな夢。」

ぽつりと溢す言葉に引き摺られ、一時間ほど前に見た悪夢がよみがえる。

それはどこかの室内で、うすぼんやりとした照明の中、
床に転がされた七生は傍らに立つ誰かの姿をただただ眺めているというだけだったのだが、
何故かその妙に鮮明で、自分の肌に触れる床の冷たさまで夢から覚めた今でもありありと思い出せるほどだった。
夢の中の七生は、まともに立つ事も出来ず、這いずる事さえ出来ず、ただただ手や足を動かそうともがくのみで、声すら出せなかった。

──そんな、何も出来ないという実感だけ、鮮烈に、鮮明に、七生の頭の中にこびりついていた。

東雲七生 > 記憶の──去年の春から前は相変わらず抜け落ちたままだが──中を幾ら探っても、夢に見た場所に心当たりはない。
知らない部屋の中だ。ただ、傍に誰か立っていたのははっきり覚えている。
          ・・・・・・・・・・・  
確か二人いた。いや、気配だけならもっと大勢いた。
それが誰なのかはよく覚えていないが、一人は白衣を身に着け、もう一人は……何故だか思い出そうとすると非常に苦しくなる。
頭の奥か、心の何処かか、とにかく七生の内側が強く強く締め付けられるのだ。

「……うー……。」

思わず呻き声を上げて、思い出すのを無理やり止める。
頭がどうにかなりそうだったし、胃から何かこみ上げてくるのを感じたからだ。

でも、気に掛かる。
あれは、誰なのか。あの場所は、どこなのか。

──そして間違いなく、自分はあの場所とあの人たちを知っている確信が、あった。

東雲七生 > 『……ナア、ホントーに思い出せねェ?』

突然、本当に突然のことだった。
胸のムカつきに顔を顰め、気にしない事を自分に言い聞かせようとしていた矢先。
高くも低い、中性的と呼ぶにはいささか低い声が、確かにしたのだ。

「……ッ!?」

思わず辺りを見回す。
自分の他には、深夜の公園には、誰も──居ない。
姿の見えない相手かとも思ったが、それも違うとすぐに理解する。
その声は、聞こえる声ではなかったのだ。もっというなら、その声は音では無かった。
空気を振動させ、耳の鼓膜を震わせる事で知覚するものでは、無かった。

ご案内:「常世公園」にメルル博士さんが現れました。
メルル博士 > 突然、地震が常世公園を襲う。
いや、地面から巨大なものが地上に上がってきたのだ。
それはメルル博士の可動式ラボだった。
ちょうど七生がいる場所の手前である。

ラボはハッチを開き、そこらメルル博士と数人の助手(学生服のアンドロイドやバイオノイド)が降りてくる。
「深夜の公園。誰もいないですから、実験するには丁度良いのですよね。
 そうは言っても、こんな所で派手な実験は出来ませんけどね」
そう言いながら、メルル博士は無感情に周囲を見渡す。
予想は外れ、そこには赤い髪な少年がいた。
「おや? 人がいましたか……」

東雲七生 > 『お前が そう だと、俺が 困る──』

声は、七生の内側からしていた。

以前も何度か感じた、頭の中に響く声。
それが久し振り──というのは何だか滑稽だが、再びしたのだ。
それも、以前のような気のせいに思えるほどではなく、何らかの意思を持って七生に語りかけているようだった。

「……はは、とうとうおかしくなったか、俺。」  ・・
『たわけ、そういうヤワッチイもんじゃネーんだよ、俺らは。』

俺ら、と言った。その声は。
七生は訳も分からないままに、頭の中の声と話を続ける。
続ける意思がなくても、自然と続いてしまう。七生が考えることに、一々頭の中の声が答えてくる。

「お、俺ら……?」
『おうよ、俺らだ。正確には、俺と、お前と、他にも──おっと』

頭の中の声が途絶えるのと、地震が起きたのは同時だった。
驚く七生の前に、変哲な施設が現れ──

『チッ、何だか知らねーがケッタイなもんが出てきたな。』
「なっ、何なんだよ、これ!誰だよ!」

目の前の集団に、自分の頭の中に、ほぼ同時に七生が叫ぶ。

メルル博士 > 誰だよ、とつっこまれたのでひとまずその返答をする事にする。
「突然、失礼しました。
 メルル博士と申します。簡潔に言えば、天才です。
 深夜の公園は誰もいないと見越して実験場に選んだのですが、よもや人がいたのは想定外でした」
そう言いながら、メルル博士は白衣のポケットに手をつっこむ。

「この時間にお散歩ですか?」
メルル博士は無感情に、質問をする。
七生の頭の中の存在に、メルル博士が気付くはずもなく。

東雲七生 > ──わけがわからない。

突如地下から現れたラボと集団に対して胡散臭そうに眉根を寄せる。
ついでに頭の中にしていた声にも。盛大に舌打ちしたいのをぐっと堪えて、まずは天才を名乗った少女の問いに答える。

「……そうだよ、夢見が悪かったから散歩。
 別におかしい事じゃないし、傍迷惑な事もしてない。」

簡潔に、皮肉も添えて。
眉根を寄せたまま小さく溜息を吐いて、話はそれで終わり、とばかりに空を仰ぐ。

メルル博士 > 「はい。おかしくはありません。
 人間ですから、時に悪い夢も見てしまうものです。
 公園は公共施設ですので傍迷惑とは思っていませんし、メルル博士からあなたを阻害するつもりはありません」
皮肉を添えている七生の言葉に、メルル博士は淡々と感情を込めずに返していく。

「夢ならば、すぐに忘れられるでしょう。
 まるで霧が当りに散漫するかの如く、薄く、そして消えていく。
 それは単なる記憶の整理整頓」
表情を変えずに、饒舌に述べていく。
「ただ、異能などが関わり、それが夢に干渉する事例もあります。
 それが思わぬ事態に発展してしまう可能性がある事もメルル博士は知っています。
 よく夢見の悪さを覚えるのであれば、お気を付けください」
そう言いながら、メルル博士も夜空の星を仰ぐ。

東雲七生 > 「ああ、ありがとう。
 少なくとも、俺は自分の異能がそういう類じゃない事を良く知ってるから大丈夫。」

『──本当かよ?』
「うっさいな。
 ……それで?公共施設に馬鹿でかい穴なんて空けてカウンセリング紛いの事をしに来たの?」

へらり、と口元に酷薄そうな笑みを浮かべる。
今顔を下ろせば、きっと八つ当たりに近い感情をぶつけることになってしまう。
それが分かっているから空を仰いだまま、相手の調子に合わせて淡々と言葉を続ける。

実験、と言っていたような気がするが。
まあ阻害する気はないと言っていたし、放っておいても何もしてこないのだろう。
それなら別段、此方からも何かする事は、あるべきでないなと判断しながら。

メルル博士 > 七生の『うっさいな』という言葉に、メルル博士は無表情で首を傾げるが、すぐにいつもの調子を取り戻す。

「カウンセリング? まさか」
メルル博士はきっぱりと否定する。
「メルル博士は、他者のカウンセリングを請け負う程暇ではありません。
 先程言った通り、メルル博士は早くこの公園で実験を始めたいのですよ。
 だから、いつまでもここであなたに悩まれてもメルル博士としては困るのです」
阻害こそしないが、こちらの事情は説明する。
しかし、居座られるならば仕方がないという態度でもある。
なにせ公園は、皆のものなのだから。

「穴ならご安心ください、掘りながら同時に通り過ぎた所を埋めています。
 メルル博士は天才ですから、この程度の技術は朝飯前ですよ」
メルル博士の言葉通り、穴はいつの間にかに塞がっていた。

東雲七生 > 「公共ってのは、誰でも好きなように使って良いって意味じゃ無かった気がするけど。」

ま、いっか。と小さく呟いてベンチから腰を上げる。
特に居座る理由もない。ましてや、何かやろうとしている集団が居るなら尚更だ。
大きく伸びをすると、さっきまでのもやもやも多少はマシになった気がした。

『で、帰るのかよ。まあ、その方が良いかもナ。』

前言撤回、もやもやが復活した。
むぅ、と顔を顰めて軽く自分の頭を小突いて。
それから大きな大きな溜息を一つ零すと、くるりと公園の出入り口へ足を向ける。

そのまますたすたと、頭の声も、自称天才も、それに従属している集団も、全てをシャットアウトしてその場を後にする。

ご案内:「常世公園」から東雲七生さんが去りました。
メルル博士 > 「公共の場という事を弁えて、安全な実験でとどめるつもりですよ」
そういう問題じゃないし、そもそもラボで穴掘ってる事に問題もあるが、メルル博士にとっては些細な事であるようだ。

去っていく七生に、メルル博士は無感情に言葉を発する。
「こちらの事情で、半ば追い出す形となってしまい申し訳ありません。
 明日はあなたが良き夢を見られるよう、祈っています」
感情がこもらない謝罪であった。
七生が立ち去る後ろ姿を見守った後、メルル博士と助手達は一旦可動式ラボに戻り、怪しげな巨大実験装置を助手達に運ばせて戻ってくる。

「それでは始めますか。
 常世公園に存在すると言われている、とある霊脈を扱った実験。
 今日一日では計測しきれませんので、日を跨いでやる事にしましょう」
実験の準備が着実に行われていた。

ご案内:「常世公園」からメルル博士さんが去りました。