2016/09/23 のログ
ご案内:「常世公園」にシング・ダングルベールさんが現れました。
シング・ダングルベール > 俺はベンチに腰掛け、足元のダンボール箱とにらめっこをしている。
もごもごと動くそれは、明らかに何かが入っている。
犬か……猫か? 兎か……いやいや。やっぱ、入ってるのかな、これ……捨てられたなんらかが。
恐る恐る開ければ、飛び出してきたのは案の定というか、やはり猫。それも三匹、いや四匹か。
他には所謂猫餌"カリカリ"と、『おねがいします』と、つたなくよれた未熟な文字。

「まいったなあ……。」

眉を下げる俺の指先を、うち一匹の猫が舐める。

ご案内:「常世公園」に紅葉椛さんが現れました。
紅葉椛 > 依頼を終えた深夜。気晴らしにと公園へと足を運ぶ。
普段のこの時間は人気がないのだが、そこには先客が一人と数匹。
あの数匹は捨て猫だろうか。はたまたこれから捨てるところか。
少し気になり、近づいていく。

「やほ、何してんの?」

初対面にもかかわらず、フランクな挨拶。

シング・ダングルベール > 元々飼い猫だったのか、それとも捨て猫だったのか、俺にはよくわからない。
けどサインペンか何かで箱に直接残されたメッセージからは、必死さは兎角伝わってきた。
……悔しいよな、どうにもできないってのはさ。
秋風のひんやりした風が、頬をつつかれて文字通りの猫なで声をさらっていく。

矢先、女の声。

「ああ、捨て猫みたいでさ。」

ローブの上によじ登ってきた一匹を、膝の上に抱えて丸くする。
一匹また一匹と勝手に丸くなって、結局全匹ひと固まり。

「どう? 飼っていかない?」
「これも縁だと思ってさ。」

紅葉椛 > 猫の方はやはり捨て猫だったようで、飼うかと聞かれても、自分に飼うほどの余裕はない。
少しの哀れみは感じるも、断る他なかった。

「悪いんだけどお金に余裕なくってさ、一人暮らしだし」

猫を軽く撫でると、今度は目の前の青年へと視線を移す。

「そういえば名前は? 私は紅葉椛。これでも何でも屋だから、何かあれば頼っていいよ?」

ま、その猫は飼えないけど、と付け足しポケットから名刺を取り出すと、ローブの青年に差し出した。

シング・ダングルベール > 「俺はシング。シング・ダングルベール。魔法使いをやっている。」

と言っても、それで飯を食っているわけじゃあないんだけど。
張り合おうとしたのかな。よくわからないが。だからか知らないけど自然と笑みが出た。

「でさ、今まさに頼りたいとこなんだ。里親になってくれそうな人に心当たりはないかな?」
「誰でもいいってわけじゃないけど、なるべく優しそうな人がいい。」

紅葉椛 > 魔法使い。その言葉に少しきょとんとするも、魔術が普通に行使されるこの島では珍しくもないのだろう。
……自己紹介で魔法使いと言われたのは初めてだが。

「里親になってくれそうなひと、か……」

軽く思考を巡らせる。
寮が動物を飼っていいのかは忘れたが、もしいいのなら数人心当たりはある。
きっと彼女らなら快く承諾してくれるだろう。
アレルギーでもない限り。

「一応知り合いに数人居るけど……因みにそれは依頼?人の良心に訴えかけてるだけのお願い?」

少し意地の悪い質問を投げかける。
どちらにせお知り合いに確認は取るのだが、どう答えるのかが少し気になった。

シング・ダングルベール > 「勿論依頼だ! だって君は"なんでも屋"だって名乗った。」
「俺はそれを知った。じゃあタダなんて、そんな話はナシだ。」
「……まあ、余裕ないのは俺もだけどさ。……大丈夫、大丈夫だ。なんとか用意する。」

……相場がいくらかなんて知らないけれど!
おやっさんとこの手伝いだけで足りれば……ああ、どうしよう。足りないか!?
自分でもわかるような強がりを吐き出して、彼女の見積もりを待った。

紅葉椛 > 「……ふふっ」

青年の反応につい笑ってしまう。
律儀な性格なのだろう。余裕がなくともこのような反応をするのなら、上客になり得る。
何より個人的に好ましい。
そういうことならば今回は……

「今度ご飯でも奢ってよ。シングがおすすめの場所。それでどう?」

この程度だろう。これで次回に他の依頼が聞くこともできる。
青年の反応は果たして。

シング・ダングルベール > 「オススメかあ~~~……! ないなッ!」
「俺はこの島に来たばっかりでさ、知ってる店って言ったらおやっさんの店ぐらいだ。」
「異邦人街にある"どんぐり屋"って喫茶店。ハンバーグシチューがオススメだね。」
「そこに住み込みで働いているんだ、俺。」

からからと笑う俺の首元に、猫がひょいと乗りかかる。
ちょっと立てられた爪が痛かったが、そう悪い気はしなかった。

「けど、本当にそれが報酬でいいのか? 余裕ないんだろ?」

まあそれが理由かと腑に落ちるものではあった。失礼かなとも思ったけど。

紅葉椛 > 「へぇ……それなら今度そこに行こうかな。異邦人街は殆ど行ったことないし」

敬遠していたわけでもないのだが、行く機会が特になかったために足を運んでいなかった異邦人街。
この機会に行ってみるのがよさそうだ。

「猫を飼う余裕がないだけで、今のところ生活に支障はないからね。一応貯金もあるし」

まぁ、その貯金も刃物と食事に消えていくのだが。

シング・ダングルベール > 「なんだ、少し安心した。」

おやっさんにはとびきりの逸品をつくってもらおう。
ああでも、肉にするか魚にするか……彼女の好みはなんだろう?
……まあ、その時はその時で気分もあるよな。

「じゃ、この子たちは任せるとして……痛っ。おいしがみ付くなよ……ったく。」
「この世の別れってワケじゃないんだからさ。」

一匹ずつあごの裏を撫でてやると、不思議と落ち着いてくれた。
わかってくれたのか? きっと、そうだな。
ダンボール箱へと猫らを戻し、俺はベンチを立った。

「そういえば、何でこんな依頼をするかは聞かないんだな?」
「もっと怪しまれるかと思ってた。」

自分で言うのも変な感じがして、困り顔だか笑い顔だかを浮かべて向き合う。

紅葉椛 > 「これでも儲かる依頼がそれなりにあるからね。見た目は悪くないと思うし?」

冗談を交えつつ、今から異邦人街の料理に思いを馳せる。
どのような料理があるのだろう。
材料はこちらのものになるだろうが、見たことのないものもあるだろう。
例えそれが口に合わなかったとしても、触れたことのない味に触れ合う楽しみがあるのだから問題はない。
……ふと、猫は食べたことがないなと思ったが、頭を振ってその思考を追い払った。

「依頼人の素性を聞く必要なんてないでしょ?」
「もっとアレな依頼もあるよ?内容は言わないけど」

少し笑いつつ、青年としっかり向き合う。

シング・ダングルベール > 「ハハ、そりゃそうだ。」

気恥ずかしさで視線を外して、ふいに空を見た。どんより雲は薄れてて、月がいつものようにそこにある。
見知った故郷の空ではないけれど、なんだか少し落ち着けた気がした。

「その箱の裏にさ、子供の字で"おねがいします"ってさ。」
「きっと、その子なりにがんばって、がんばったんだけど……こうなっちゃって。」
「それでもなんとかしたいって願うから、そう書いたんだよ。きっと。」

本当にそうかはわからないけれど……それでも。

「だから叶えてやりたいって思ったんだ。」
「魔法使いは、願いを叶えるものだからさ。」

なんて、一人で解決したわけじゃないから恰好つかないけど。
彼女には、その願いを少しでも知ってほしかった。
だから口走ったんだろうな。
……俺は、フードを眼深く被り直す。

「……宜しくお願いします。」

改めて頭を下げた俺は、彼女と猫たちを残して公園を後にした。
良い里親が見つけてくれることを願って。

紅葉椛 > 魔法使いを語る彼の姿がどこか眩しいものに見え、目を細める。
自分も昔は漫画を見て似たようなことを考えたことがあった気がする。

「いいじゃん、魔法使いらしくって」
「私はそういうの好きだよ。漫画みたい」

青年の目を覗き込もうとするも、彼はフードを目深に被ってしまった。
その仕草がどこか可愛らしく映り、クスリと笑う。

「もちろん。依頼を受けたからにはなんとかするよ」
「結果は食事の時にでも……ね。懐に余裕ができたら連絡してきて」
「またね」

青年の背に言葉を投げると、猫に向き直る。
寮がペット禁止ならどうしようかな……
そんなことを考えつつ、段ボール箱ごと猫を連れ帰った。

ご案内:「常世公園」からシング・ダングルベールさんが去りました。
ご案内:「常世公園」から紅葉椛さんが去りました。