2016/10/19 のログ
ご案内:「常世公園」に東雲七生さんが現れました。
東雲七生 > 「ふっ!……はっ!」

夜の公園に、風切音が響く。
音の発生元に居るのは赤い髪に紅い瞳の小柄な少年、東雲七生だった。
服装は穿き古したジャージと、胸に大きく『風光明媚』と描かれたTシャツ。手には一振りの大剣。

「……せいっ!はっ……たッ!!」

少年とも少女ともつかない変声期前の独特な質の掛け声と共に、手の中の剣が大きく振られる。
その剣は、剣先から柄頭に至るまで少年の髪と同じ、夕焼けよりも昏い赤一色だった。

東雲七生 > 昨日、落第街を久し振りに訪れてからというもの、どうにも胸騒ぎが続いていた。
この胸騒ぎの正体は解らない。思い当たる事もない。
それでももやもやとしたものが自分の中にあるのが落ち着かなくて、夜更けにこっそり居候先を抜け出した。

散歩をしていれば少しは気も紛れるかと思ったからだが、
歩けど走れど、胸の内の違和感は拭えない。そうして行き着いたこの公園で、七生は剣を取った。

別に剣でなくとも、棍でも槍でも、なんならバットでも良かったのだが。
剣を選んだのは、意味も型も無い素振りで違和感を断ち切れるかもしれないと僅かな期待をしたから。

「………はぁ……はぁ……」

額に浮かんだ汗が頬を伝い、顎から滴り落ちる。
実に1時間もの間、見えない敵を相手に剣を振り続けていたものの。その剣先は掠める事すら無かった。

東雲七生 > 大きく肩で息をしながら夜空を仰ぐ。
普段と変わらない夜空が頭上に広がっている。

「……はぁ……はぁ~」

急に気が抜けて、七生は手にしていた大剣を取り落した。
七生の身の丈近くあるそれは、地面とぶつかるや否や飛沫を上げて砕け、飛散した。
その場に大きな血の痕だけを遺し、ふらふらとベンチへと向かう。
肉体よりも精神の疲弊が大きかった。普段ならこれくらいで息は上がりこそすれ足元が覚束無くなることはない。

「………うぅ。」

まだ、胸の内が燻っている。
その燻りを消すにしろ火の手を上げさせるにしろ、七生にはどうすることも出来ない。

その燻りの、火種の正体が判らない。

東雲七生 > 崩れる様にベンチに腰を下ろし、倒れる様に背凭れに上体を預ける。
時折吹く風が火照った体と頭を冷ましていき、次第に呼吸も落ち着いてくる。

「……いっそ、このモヤモヤもどっかに飛ばしてくんないかな。」

そう呟いて視線だけで当たりを探る。
来た時に誰も居なかったのは確認済み、だから声量も抑えずに堂々と独り言も言えたのだが。

東雲七生 > 「……っし、帰ろう。」

汗に濡れて冷えたシャツが心地悪い。
ぼーっとし始めた頭を軽く振って、七生はベンチから立ち上がった。
本来であれば、この時間はとっくに寝ている筈である。
それがこうして公園まで来て、剣の素振りなんてしていたのだから眠くもなるというもの。

「まーだちょっとモヤモヤするけど……とりあえず、帰って寝よ。」

その前にシャワーは浴びないとな、と独りごちて。
七生は来た時よりは確かな足取りで、異邦人街の家へと帰り始めたのだった。

ご案内:「常世公園」から東雲七生さんが去りました。