2017/04/15 のログ
■和元月香 > 目をぱちくり瞬きしながら、月香は目の前の男を凝視する。
さっきのテンションは、彼方へ放り捨ててしまったようだ。
(うーわこの人人間じゃねぇ…。ババアの勘が言ってるし見るからに怪しいわな…。
しかも明らかにあかんやつだ…)
ひしひしと危機感を感じながらも、何故だかトンズラする気にはなれなかった。
男の左腕。そこから、例の忌々しい感覚が感じれた。
…ということは、つまり。
(…あそこに魔術書搭載してんの!?なんかハイテク…)
的は射てるかもしれないが、若干ずれた感覚を抱いた。
(…とどのつまり、私とこの人は『同類』的な?
あー、うーんこういうとき何て言えばいいん?
お互い苦労してますねーとか?慣れ慣れしすぎない?)
悶々と悩んだ挙げ句、出た答えは。
「…あー…、人って疲れるとなんかこう…すべてがどうでもよくなるっていうか…。
…あなたに見られても、なんかあまり動じないぐらいには、疲れてますね…」
男に掛けられた言葉に、ふっと溢した笑みと遠い目であった。
少女にしてはありえないほど哀愁を漂わせる枯れた雰囲気に、違和感は感じるかもしれない。
■黒龍 > 暫しの沈黙。互いに見詰め合ってる状態だが別にロマンス的なものは残念ながら欠片も無い訳で。
(……この小娘…見た目どおりの年齢じゃねぇな。いや、そういう単純なモンじゃねぇ…何だ?…『ある意味でヤバい』タイプだな)
お互い、妙な危機感というか警戒を抱くのも仕方ないだろう。
互いにこの段階では素性を把握していないとはいえ、それぞれ無限転生者と死を司る龍である。
そして、こちらの義手の方を見ている…と、なるとあちらも把握しているようだ。
そうなると間違いはなさそうだ…この娘、魔導書と大いに関連がある。それもヤバい類の。
――まぁ、魔導書なんてピンからキリまであるとはいえ、大概ヤバいのばかりだが。
と、彼女が口にした言葉に一瞬だけ怪訝そうな顔をしてから…フッと肩をすくめてみせた。
「……あぁ、まぁお互いに『厄介なモン』を抱えてるみたいだしな」
遠回しのようで案外ストレートな言い回しで答えつつ、義手をコンコンと叩いてみせる。
しかし、目の前の少女は…見た目とは裏腹に、何処か哀愁漂う老成した雰囲気がある。
(……少なくとも、結構な人生経験を積み重ねてるのは間違いなさそうだな)
ご案内:「常世公園」に和元月香さんが現れました。
ご案内:「常世公園」に黒龍さんが現れました。
■和元月香 > (……人外ではあるけれど…そんな単純なもんじゃない気がする…。
長生きしてるんじゃないかなー。なんだろ、最悪どっかの神様とかか?
…あー、違う、これあれや。伝説のモンスター的な)
相手が月香について考察を巡らせる最中、月香も軽いようで淡々と観察し始めた。
恐らくヤバいタイプの異邦人、と結論を出した所で相手の左腕に再び視線は移る。
(…義手…だねー、どう見ても。
しかも異世界のやつっぽいな。何があったのか知らんけど。
…………濃い人生送ってきたんだなー)
自分の事を棚に上げて、
心の中でひゅーっと茶化すように口笛を吹く気分でじろじろと眺めた後、
月香は何を思ったかペッドボトルの蓋を開けながら相手の隣に座った。
そして、相手の言葉に同じくきょとんとした後、にやりと笑って。
「どれの事言ってるかは分かりませんけど、私はあんまり悲観してませんぜー」
軽い口調ながら、確信のある言葉。
人生が何度巡ろうが、呪いのような魔道書を押し付けられようが。
月香をここまで疲れさせている原因はただの長期アルバイトであった。
「てかお兄さん、ここで何してんですか?ぼっちで」
…疲れていたら、どうでもよくなったとも言うべきか。
遠慮を忘れた月香は、少しにやにや笑いながら相手を見上げた。
ご案内:「常世公園」に黒龍さんが現れました。
■黒龍 > 今は人の姿になっている上に、異世界という事で力の大半は発揮できない状態ではあるが。
こちらの世界での神話生物、伝説の怪物みたいなモノで割りと間違っては居ないのだ。
(……あぁ、あっちも俺の素性に大まかに勘付いたっぽいなこれ。
察しが良い…つぅより、人生経験が豊富と見るべきか。経験則か洞察力か)
男としては、腹の探りあいや駆け引きをするつもりは特に無い。
ただ、勝手に推測して勝手に納得しているだけだ。あちらも似たようなものかもしれないが。
もっとも、濃い人生を送ってきたのはお互い様なのだろうけれど。
さて、ジロジロ眺められたと思えば、何かお隣に座ってきた。別に拒否も何も無い。
ただ、まぁ最低限の気遣いとして煙草の煙がそっちに流れないようにはしておくが。
「……悲観はしなくても面倒ではあるだろーよ……魔導書の類は特にな?」
そして、会話の中で普通にその単語をぶっ込んで行くスタイル。
彼女がそれでも惚けたり誤魔化すならそれでもいいが、既にあちらと同じようにこちらも確信があるからして。
「…あン?あーー考え事っつぅかそんなトコだ。夜は意外と人気がねぇからなこの公園」
考え事は実際していたので嘘ではない。肩をすくめてみせつつ…。
「…で、そっちはバイト帰りの類か?見た感じ同じ常世の生徒っぽいが。
…あーー一応これでも俺も生徒な。1年の黒龍・ランドグリーズ…察しの通り異邦人だ」
■和元月香 > 煙草はした事はあるが、今は子供の身。
相手がさりげなく煙を避けさせるところに
(あらやだ素敵っ)と、とくにときめかず月並みの感想を抱いた月香。
「うわ直球…。
…うん、あれは死ぬほどめんどくさい。
まず力がめんどくさい。性格がめんどくさい。粘着してきてめんどくさい」
そこへいきなりぶっこんできたのは流石に少し狼狽えてしまったが、
すぐ切り替えて噛み締めるような口調で強く同意した。
一時期は『ストーカー魔道書』と叫びながら
寮室の窓から叩き落としていた月香の嘆きは切実である。
「…ふ~~~~~~~~~~~ん」
考え事をしていた、という相手にはあからさまに胡散臭そうに唇を尖らせる。
だが、顔だけで追求はしなかった。
「うんそうよ!かれこれ9時間ぶっ通しだよ!
…えっ生徒なんすか」
ヤケクソ感溢れる笑顔で肯定するも、続いた言葉には目を丸くした。
先生か、失礼かもしれないがこの島ではよく居る不法滞在者かと思っていたのである。
そんな思考は頭から追い出して、月香はいつもの食えない笑みを浮かべた。
「黒、龍ねぇ…。やっぱり。同学年だからタメにすんね。
私は1年和元月香、一応異能者でっす」
■黒龍 > そもそも、未成年の前で煙草を吸うのもアレだが、ヘビースモーカーだから仕方ないね。
それでも、携帯灰皿を常備したり、こうして煙草の煙が彼女に流れないように配慮したりと、最低限のマナーはあるつもりで。
「元々、腹の探りあいとかそういう面倒なのは苦手なタチでな…。
「…俺の方はアレだな。力の詳細は謎だな。性格は…悪食っつぅか。
まぁ、色々あって俺の持ってるのは力だけで本体の自我とか本そのものはもうねぇんだけどな。
つか、まさかとは思うがそっちも図書館の禁書庫で”気に入られた”クチか?」
彼女の言葉と、何処か切実さを感じる様子に小さく苦笑を浮かべて。
こちらもこちらで、本来の魔導書とは大分在り方が変わっているが面倒に変わりは無く。
「…オイ、何だそのあからさまに怪訝そうな態度は。別に嘘じゃねーよ。
…ああ、一応20歳だからな。こうして煙草も吸えて万々歳だ。
こっちじゃあ、年齢とかに関係なく1年からスタートするらしいから、見た目が生徒ぽくなくてもしょうがねーだろ」
と、いうか見た目だけならヤクザとかマフィアとか用心棒とか、そんな類であるこの男は。
9時間ぶっ通しでバイトしていたという相手にへぇ、と頷きながら。
「疲労溜まってんなら多少軽減してやろうか?一応、その手の魔術も覚えはあるが」
とはいえ、あくまで軽減するだけだから一時凌ぎだが。ちゃんと後で睡眠をとる必要はある。
何処か食えない笑みを浮かべる少女は、矢張り口調や態度は別として老成している感じだ。
「おぅ、敬語とか堅苦しいのは苦手だからそれでいい。和元だな…俺もまぁ、異能者になる…んだろうなぁ」
そもそも、偶発的に目覚めたばかりでどういう力かすらも分かってないが。
ご案内:「常世公園」に黒龍さんが現れました。
■和元月香 > ごくごくとペッドボドルのジュースを飲みながら黒龍の話を聞く月香。
ぷはぁ、と女子らしくない声を出した後口許を拭って軽い調子で答え始めた。
「…なにそのやばいやつ。気をつけてね…?」
大丈夫だろうが、少々侮って痛い目を見た月香は真顔で忠告するように言って、言葉を続けた。
「…私んとこは………なんていうかめっちゃ執着されてる。
使えるのが私だけだからって一時期ストーカーされて一回燃やしてやろうかと思ったわ~。
力は、うん、その、あれだ。精神干渉系の、えげつないやつ」
ふっと何かを悟った遠い目になった月香は、
説明していいものやら、などと呟きながらぶらぶらと足をばたつかせる。
「…だって君怪しいもん!サングラスにスーツって怪しすぎるもん!
絶対落第街とか出入りしてるね!保証してもいいよ!」
カッと目をかっぴらいて、犯人を指差すように声高々に叫ぶ。
一応適当には言っていないが、半分以上勘である。
口が軽いというか、なんというか。
「…できれば、お願いします…つかれてしにそう…」
黒龍の申し出には、あっさり了承して頼もうか。
疲れがそろそろ限界で、帰り道倒れてしまいかねない。
「黒龍ね、よし覚えた。
…異能って定義本当に曖昧だよねー」
月香の異能も、あれは能力かさえ怪しいものだ。
■黒龍 > 「…まぁ、義手の中に力が丸ごとあるとはいえ、魔導書の本体とその自我がもう消滅してるからな。
力の内容さえ分かれば、まぁ少なくとも暴走する危険性は減るだろ…ゼロではねーけどな。
…って、ストーカーとかホントにタチが悪いなそれ……しかも、精神干渉か」
煙草を咥えながら僅かに沈黙。エゲつないと付け加えるくらいだから、かなり高等な精神干渉なのだろう。
ある意味で単純に破壊力抜群の術式よりも対処が難しいと言える。足をバタつかせる彼女を尻目に、のんびりと紫煙を吐き出して。
ただ、彼女の意見には同意できるのか…少女の持つ魔導書の危険性には気付いている様子。
「…いや、保証も何も落第街に住んでるしよ。…平和な学生街とかどうも性に合わねーんだよ。自分で言うのもアレだがアウトローだからな」
つまり、ストレートに捻りも無く彼女の意見は的を射ている訳だ。むしろ、出入りどころかそこで暮らしている訳で。
おもむろに彼女の頭に生身の右手を伸ばし、詠唱も複雑な手順もなしにノータイムで魔術を発動。
彼女の頭から足先まで、淡い光が包み込んだかと思えば眠気と疲労を軽減して行くだろう。
あくまで一時的だが、それでも今の状態よりはマシになるだろう。どの程度軽減されるかは個人差があるので彼女次第だ。
「…俺の居た世界は異能持ちが希少でな。まさか自分がこっち来て異能目覚めるとは思わなかったぜ。
とはいえ、研究所で検査して貰ったが、まだ能力の詳細は不明らしいんだけどな」
と、先ほど懐に仕舞い込んだプリントを取り出し、少女へと堂々と見せる。
長々と検査結果が書かれているが、『異能判定:陽性』や『能力詳細不明』『発動条件不明』などが書かれているのが分かるだろう。
ご案内:「常世公園」に和元月香さんが現れました。
■和元月香 > 「自我はね、正直無い方がいいからそれで良いと思うよ。
…つまり力だけをこし取ったみたいな事?
私も出来たらそうしたんだけど、力自体マジいらない」
ストーカーされたくないならね、と爽やかに親指を立てる。
それに、あんな力自体いらない。お呼びでない。
どうせなら金を作る魔術書くれ…と哀愁を帯びた表情。
「そうよヤバいのよ。
何かね、人のトラウマを大量に連続投下した上、
それによって出来た傷を悪意と敵意で穴埋めして、
それをめちゃくちゃに掻き回すみたいな?
多分力を強めたら最終的にはショック死も辞さない」
そしてこっちもあっさりとばらした。
別に言っても支障はないと、はははと乾いた笑い声を上げながら。
(そんな力いりません間に合ってますって何度叫んだ事か!)
結果、若干苛立った。
「マジか」
あっさりと肯定されて、思わず一言溢して。
…そのあと軽く首をかしげた。
(スラムにすんでた事あるけど表社会にも普通に住める私って…)
アウトローなど気にした事も無かった、と新たな発見に目が死んだが、不意に体が軽くなった。
「…わぉ!」
どうやら黒龍が治癒の魔術らしきものをかけてくれたらしい。
「黒龍すっげ。チートだね、ありがと!」
明らかに軽くなった体に目をぱちくりした後、
ついでのように誉めてきちんと笑顔で礼を言った。
「へー、そうなの。まぁ無いとこもあるからねー。
…って異能って検査で分かるんだ。始めて知ったや」
プリントを覗き込み、へーと軽い声を上げながらも
月香の視線はプリントの文字に注がれていた。
(めんどくさいのじゃないといいんだけど)
私みたいなのはかわいそーだな、と他人事のように考える。
「…まぁどんな異能にせよ、何かすごい気がする」
そしてそんな呟きが思わず漏れた。
ご案内:「常世公園」に黒龍さんが現れました。
ご案内:「常世公園」に和元月香さんが現れました。
ご案内:「常世公園」に黒龍さんが現れました。
■黒龍 > 「そうだな、実際自我がある時に義手から浸食されて体を乗っ取られ掛けたからな。
まぁ、そん時に偶々居合わせた女生徒の力のお陰で助かった訳だが。
…まぁ、正直俺も力だけとはいえ別にいらねぇんだけどな、こんなモンは」
溜息。ただ力だけを取り出すのは難しいしホイホイと捨てる訳にもいかないのだ。
彼女とはまたベクトルが違うが、悩まされているのは共通項であろうか。
「…成る程な。並のヤツなら肉体は無事でも、それこそ精神が簡単に廃人になりそうだわな、それ」
持ち主?である彼女や自分みたいなのは、ウザいだけで済ませられるだろう。
…いや、ウザいだけでもはた迷惑なのだけど。それでも普通の人間が干渉を受けたらアウトに近いだろう。
ショック死しかねないというのなら尚更に。精神干渉の力の恐ろしい所だ。
「…目が死んでるぞ和元。どれだけ人生『繰り返してる』か知らんが、考えすぎるとドツボだぜ。
…ああ、まぁ礼は良い。魔導書持ち仲間同士、この程度ならお安い御用だ。」
疲労軽減を行った後に、ポツリとそんな言葉を彼女に掛けていこう。繰り返してる、というのは同じ人生という意味合いではない。
つまり、転生を繰り返しているという事に勘付いているのだ。だからといって、それをあぁだこうだとは言わないし言えない。
最終的に決断するのも、折り合いをつけて行くのも彼女自身であり外野がどうこうは言うモンでもない。
(…とはいえ、確実に弊害は出てるだろうがな。ただ長生きするだけでも割と地獄な訳で)
違う人生とはいえ、何度も何度も生まれて死んでを繰り返す。彼女はおそらく精神も心も強い…だからこそ、だ。
(――そうは見えねぇ…が、既にもう『破綻』しかけてるのかもしれーな…)
それはあくまで推測でしかなく、口に出すほどでもないが間違いとも思えない。
「……俺からすれば、魔導書と同じくらい面倒だけどな、異能なんてのは…目覚めたモンはしょうがねぇが。」
それに、今後分かるかもしれないが内容も条件も未だに一切分からないのは何とも言えない。
目覚めたてだから、力が安定していないかまだ固まっていないのだろうと言われたりもしたが。
「……凄くなくていいんだがなぁ。望んで手に入れた訳でもねーし…せめて扱い易い力である事を祈るぜ」
やれやれ、と吐息。ある意味で厄介な異能フラグでもある気がするが、それこそ考えたくない。
ご案内:「常世公園」に黒龍さんが現れました。
■和元月香 > 「乗っ取られかけたぁ!?いや何それ大丈夫なの?!
…悪食って、そういう事?よく生きてたね、その子に感謝しなよ…」
生存意思のようなものかもしれないが、
もしかしたら目の前のこの男、
想像以上にやばいものを体に宿らせているのでは…?
そう考えて、月香は少しばかり悶々としてしまった。
「そうそう。
今はまだ最悪でも多分倒れるぐらいで済みそうだけど、
直に廃人直結コースですよ笑えねぇ」
(どっかの誰かさんはかなり耐性ありそうだけどね)
ちら、と月香は黒龍を見て大袈裟に溜め息をついた。
…一体どんな生き方をすれば、一回でこんなチートになってしまうのやら。
羨ましいような、不憫なような、相反する気持ちになった。
「…やっぱり見破られてたか。さすが。
いやぁね、まぁね、なんつーかね、別に大丈夫だけどさ。
流石に複雑になるんだよー」
宥めるような言葉には、からからと笑いながら足を組んだ。
別にばれようがばれまいが平気だが、
この島に来てから急に見破られるようになったなぁと思いを馳せる。
…例え、何度繰り返して、どんな変化があっても。
そんな変化は、やがて人生の亡骸に埋もれて行ってしまうものだと何処かで諦めている自分がいる事を、月香は知らない。
「まぁ、まだ分かってないんだし気ままに待ってみれば?
意外といいものかもしれないよ」
実物を見てからにしなせぇよ、と月香は明るく笑った。
ご案内:「常世公園」に黒龍さんが現れました。
ご案内:「常世公園」に和元月香さんが現れました。
ご案内:「常世公園」に黒龍さんが現れました。
■黒龍 > 「…あーー肉体と精神両方にな。精神の方は跳ね除けたが、肉体の方が案外と手強くてな。
まぁ、侵食が義手からだったから、ある意味それで助かったとも言えるんだがよ。
生身じゃなかった部分だから侵食速度が遅れたっぽいし」
結構洒落にならない事態になり掛けたのだが、男は割りと平然としている。
勿論、その女生徒には感謝している…が、その女性の力の余波で異能が目覚めてしまったので複雑だ。
「精神防壁とか張っても楽々破ってきそうだな…直に見た訳じゃねーがそんな気がする」
そう言って短くなった煙草を取り出した携帯灰皿に突っ込んで揉み消す。
彼女の心の呟き通り、耐性どころか声がウザい程度で済ませてしまうタフさはある。
彼女と違い、転生でもなんでもなく。ただ一度の人生で…現在進行形だが…こうなっている。なってしまった。
結局、この男も男で何処かが既に壊れかけてしまっているのは否めない。
チートだ何だと見られてしまったとしても、そこに至るまでに色々あったのだから。
「見破ったっつぅか…俺も一応何千年単位で生きてるから分かるんだよ何となく。
繰り返してたこたぁないが、積み重ねたモンの長さと重さがな…。
少なくとも、俺なんて和元から見れば小僧どころか生まれたてのガキレベルだろうさ」
苦笑交じりに口にする。推測は当たっていたが、それは長く生きたきたからこそ読み取れたもの。
繰り返しはしていないが、だからこそ分かるものがあるのだ。
ちなみに、年齢を大まかにだが暴露したのは彼女が初めてだ。
基本はほぼ見た目どおりの20代で通しているのだから。一度、明るく笑う和元をジッと横目で見てから…こう、一言だけ漏らそうか。
「――諦めるなよ、自分自身を」
その一言は唐突過ぎて、流石に彼女も意味不明だと思うかもしれない。
ただ、その小さな一言はこれ以上無いくらいに真摯で…故に静かな重みがあっただろう。
「待つのはいいんだが、発動条件くらいは明確にしたいんだがよ…いきなり異能が発揮されても困る訳で。
まぁ、それより義手に取り込んじまった魔導書をどうにかしないといけないんだがな…頭が痛ぇわホント」
ご案内:「常世公園」に黒龍さんが現れました。
■和元月香 > 「つよいねおまえ。普通逆じゃね?
まぁ無事なら良かったよ」
複雑そうな心境には気づいていたが敢えて触れず、
笑みを浮かべてぽんと背中を叩くだけにとどめた。
あまり彼は異能にいいイメージが無いらしい。
「それに特化してるからねぇ。
まぁ私はとりあえず使わないつもり。
学校側にばれたら面倒そうだし」
黒龍はどうするかは別に知らんけど、と付け加える。
一応禁術庫から無断で持ち出したものだ、いろんな意味でヤバイだろう。
「…………そんな事無いよ?
私さぁ、私ほどじゃないけど結構自分以外にも転生繰り返してる奴見た事あるの。
クソガキは一万年生きようがクソガキだったよ。
だから私はそうやって年齢じゃ基本人を侮らないつもり。
あと、黒龍もやっぱりジジィだったんだねー」
清々しい笑みでそうのたまった月香だったが、
黒龍の呟きには、大きく目を見開いた後、何故か嬉しそうに笑った。
「…っ、うん……。
善処するわ!」
もう、諦めなくてはいけないところまで来てしまったのだ。
色んな事を諦めて、自分まで諦めそうになる自分もいた。
それに“気付かせてくれた”黒龍に、彼女なりに感謝の気持ちを抱いたのだ。
最後の言葉は、照れ隠しだったのか、月香にも分からなかったが。
「魔道書ならストーカーで慣れてるし困ったら教えてよ。
手伝えることなら、いくらでも手伝うからさ」
治してくれたお礼にね、とまた笑った。
ご案内:「常世公園」に黒龍さんが現れました。
ご案内:「常世公園」に黒龍さんが現れました。
■黒龍 > 「そりゃ、これでも修羅場潜ってきてるからな…魔導書よりヤバいのなんてゴロゴロしてたし。
まぁ、それはこっちの世界でも案外そうなんじゃねーかとは思うが」
魔導書を決して侮る事は無いが、それよりタチの悪いものが世界には沢山渦巻いている。
己の居た世界ではそうだった……こちらの世界はどうなのだろう?
ポン、と背中を叩かれながら思うのは…まぁ、考えても詮無き事だ。今はよそう。
「…俺も自発的に使うつもりはねーけどな…力だけとはいえ、中身が分からんからまずはそこだな」
まず、どんな力を持っているのか。そこを把握しなければ対処も上手い具合に出来ない。
それに、無断で持ち出すどころか男の場合肝心の書物そのものは消滅している。
バレたら説教では済まないだろう。…と、いうかそこらは面倒だから考えたくも無い。
「――俺の世界にも、まぁその世界限定だが転生者は居たぜ。…大抵、人格が歪むか達観して浮世離れするかどっちかだったけどな」
長生き、と転生は矢張り違うものだ。重ねる年月の長さは同じでも経験がそもそも違う。
だから、男としては自分なぞより和元の方がハードモードな人生だと思っている。
「――それでいい。自分で自分を諦めちゃあ…もう何も残りゃしねーんだからな」
結局、最後の最後で自分を救えるのは他人ではなく自分自身なのだから。
しんどかろうが、のた打ち回ろうが、壊れてかけようが…自分を最後に救うのは己自身。
少なくとも、男はそう考えているし当たらずとも遠からずだと思っている。
彼女の返事に一度頷いてから、軽く目を閉じて小さく笑っていただろう。
――ああ、まだコイツは『死んでいない』と。それが分かれば十分だ。
「…おぅ、じゃあそっちも何か困ったら連絡しろ。そこはイブンっつぅかお互い様精神ってな。
どうせだから連絡先でも交換しておくか?」
と、言いつつガラケーを取り出す。スマホじゃないのはまぁ許せ。
少なくとも、和元と連絡先を交換して困る事は無いだろうし、お互い頼る時が今後あるかもしれない。
■和元月香 > 「君も苦労してんのねー…。
まぁ、君みたいなんがいるならそれなりに物騒な世界だったんでしょう」
黒龍の内心を知ってか知らずか、月香は独りごちた。
魔道書の脅威は本当にピンからキリまでだが、
この世界にだってそれを凌駕する脅威は少なからず存在する。
どんな世界にせよ、然りだろう。
「だよねぇ…。
あんまり周りに被害及ぼす系だと、コントロールも難しいしめんどくさい事になりかねんぞ…」
(力の操作ねぇ…。教師とか教えられる、のは…。あの酔いどれ先生か)
それなりに濃い化粧とロリータファッションの教師に丸投げするのは激しく不安だ。
何とかサポートできたらな、と考えを巡らせつつ。
「やっぱり少なからずいるもんよね。
自分に酔って声高に宣言して周りに迷惑かける輩もちょっといるよ」
人生たのしく、をモットーに掲げる月香からすれば
…ずれているのではと指摘したくなる生き方だ。
黒龍も違うように見えて根本的にはきっと一緒だ。
悠久の時をまともに生きてこれたのがその証拠。
「うん、するする!」
ぱっと顔を輝かせるとぴかぴかのスマホを取り出そうか。
■黒龍 > 「苦労っつーか…一言で言えば「下克上人生」だからな。最底辺から這い上がってきたっつぅか。」
肩を竦める。それを何年も何十年も何百年も。殺して、奪って、磨り潰して。
決してまともでも褒められた生き方でもないのは重々承知している。
そもそも、まともだなんて思っては居ない。ある意味で狂人でしかない自覚はある。
だからこそ、魔導書の精神の汚染にも、その『声』にも抗えるのだろうか。
既に狂っている者にささやきは通じない。だが、同時にちゃんとした理性もある。
ある意味でバランスがギリギリの所で取れているのかもしれない。
どのみち、自分も彼女も決して安定してるという訳ではないのだ。
「…最悪、俺自身だけで済めばそれに越した事はねーんだが、そう都合のいい話もねーだろうしな」
こういう厄介な力というのは大抵は周囲も巻き込みかねないのがお決まりのパターンである。
それを分かっているからこそ、小さく溜息を一つ零して。
ちなみに、その教師には彼も一度遭遇経験がある。むしろ異能検査して貰ったのはその教師の言葉が切欠だ。
「…ああ、まぁそういう輩も割りとどんな世界にも居るんだろうな…多分」
彼女の言葉に、共感できるのか一度小さく頷いてみせて。
楽しくをモットーにしている訳ではないが、自由気ままに己らしく生きる。
ある意味で、そういう芯があるからこそ長い年月でも『腐り落ちない』で済んでいるとも言える。
まとも、とは言い切れないがそれでも自分を保てている、とう点では彼女とそう変わらない。
「…んじゃ、手早く交換しとくか」
元々、機械文明も存在した世界の出身なので、携帯の扱いも既に慣れたものだ。
お互いのアドレスを交換すれば、ガラケーは懐へと戻して立ち上がろう。
「…んじゃ、もういい時間だしお開きにすっか…和元は女子寮か何かか?
必要ねーだろうが一応送ってやる。途中でさっきの魔術の効果が切れたらアレだしな」
と、告げながら彼女の意見も聞かずに歩き出すだろう。ともあれ、何だかんだで女子寮近辺まで送り届けたかもしれない。
無限の転生者と、死を司る黒い龍の邂逅は…きっと、いずれ意味を持つ筈だ。
ご案内:「常世公園」に黒龍さんが現れました。
■和元月香 > 「…ふーん?まぁ悪くないじゃん。
かっけーよ、下剋上」
無邪気に笑った月香だって、血にまみれて生きてきた。
両親を、友人を、親友を、 …恋人を。
この手にかけてしまった時代もあった。
だが敢えて、月香は悪くないと思う事にした。
自分はいつだって全力で楽しむだけだ。
「…何かあったら連絡よこせよ?」
不穏な事を呟く黒龍は、じとりと睨んでおいた。
___連絡先を交換し、二人で適当な事を喋って帰った道の最中、月香は思
った。
(黒龍と会えたのは、本当に偶然なんかな)
あまりにも共通点がありすぎて、自らばらしてしまった。
そんな二人が出会ったのは本当に、偶然なのか。
(…まぁ、いいや)
月香はあっさりと思考を放棄して黒龍と帰宅をいそいだ。
ご案内:「常世公園」から和元月香さんが去りました。