2017/09/13 のログ
ご案内:「常世公園」に和元月香さんが現れました。
神代 理央 > 「暑苦しい格好をしている自覚はあるんだが…風紀委員がだらしない格好をしている訳にもいかないだろう?」

釣られるように苦笑いを零しつつ、彼女の視線を追うようにセーラー服に視線を落とす。
女子の制服は涼しそうで良いなあ、とぼんやり思った後、我に返って視線を反らせた。

「勿体無い。月一と言わずせめて週一くらいで行けば良いじゃないか。それとも、月一のご褒美と決めていたりするのか?……何だ、俺の顔に何かついているか?」

結構な頻度であのカフェテラスを訪れている自分としては、月一というのは中々我慢の仕切れない頻度。彼女の懐事情も露知らず、至極真面目にコテンと首を傾げた。
何だか妙な笑みを浮かべている事には、突っ込んだら負けだと本能が訴えていたが―それでもつい尋ねてしまった。

「…そこまでムキにならなくても、流石に公園で会ったばかりの生徒を補導したりはしない。無論、歓楽街だの落第街だので会えば話は別だがな」

大袈裟な身振りで主張する彼女に少し意地の悪そうな笑みを向ける。ちょっと脅かしてやろうかとも思ったが、流石に自重した。

「身分証さえあれば、此の島では割りと自由がきくからな。違法に入島した連中にとっては、喉から手が出る程欲しいものなんだろうさ」

本来は公安とか生活委員の仕事ではないかと内心愚痴を零しつつも、相も変わらず淡々と、若干の呆れを滲ませた声色で答える。

「…ん、いや、職務柄相手の持ち物は気にしてしまう質でな。そうだ。どうせ何も出ないとは思うが、軽く所持品検査だけさせてくれないか?何も無ければ、俺の名前を出して検査済みといえば他の風紀委員の所持品検査も今夜は断れるだろうし」

彼女の同様は露知らず。何の気もなしに彼女のスクバに視線を向けながら一歩近づこうと。
本当に何も疑ってはおらず、単に気が向いたから軽く検査しようか程度のものなのだが―

和元月香 > 「真面目だなぁ...。
あ、悪い意味じゃなくてその通りだと思うよ!」

ほぉ、と素直に感心して目を見張る。
真面目なのはいいことだ。
息抜きさえできたらだが。

(...真面目すぎないといいけどね...)
...と、また再び馴染みの風紀委員の顔が出てきてちょっと悲しくなった。

「あー、うん。お金がね、足りなくて!
夜に出歩くの、バイトのせいだったりもするんだよ!
毎日行けるなら行きてーよ!」

やけくそ気味に叫ぶ。
別に当たっている訳ではなく、寧ろ本土にいる
頭がおかしくなってしまった両親に恨みの念を込めた叫びだ。
食べ物の恨みは重い。

「...んふふ、なんでもなーいよ」

非常に微笑ましそうな和やかな笑みを浮かべて言葉を濁した。
母のような、無駄に慈愛の籠った視線で「君はそのままでいいと思う」
とこれまた無駄に優しい口調で諭してみたり。

「ほ、補導は勘弁して下さいねお代官様!」

思い当たる節がありすぎて、代官に媚を売る商人のようになってしまった。口調が。
パニクると意味不明な事を口走る、それが月香だ。

「...ん、お疲れさん」

疲れが籠った言葉に気づいて、そっと肩を叩く。
手伝えるもんなら手伝いたいが、月香は風紀委員なんて柄じゃない。
事情からすれば、寧ろ...。

「...っ、う、うーん...」

いきなりの荷物検査発言に、思わず声が裏返る。
誤魔化すのはまずい。より疑われるとしか思えないからだ。
...月香はこの本の危険性を理解しているつもりだが、
禁書を持ち出しているという自覚はあまり無く事態をあまり重く見てはいなかった。

少し固唾を飲んで、「...いいけど」と頷く。
一見普通の中身だろうが、中で不気味な存在感と魔力を漂わすページも表紙も全て黒い本が彼の目にすぐ入るだろう。

神代 理央 > 「…それに、制服や腕章っていうのは分かりやすいシンボルマークだからな。例え裏で何をしているか分からない奴も、風紀委員の目の前では流石にしないだろう?取り敢えず風紀委員が居るってだけで犯罪が減るなら、幾らでも暑苦しい格好くらいしてやるさ」

それ故に落第街なんかだと悪目立ちするけどな、と面白そうに小さく笑みを零した。

「…あー。その、何だ。悪い。確かに、夜のアルバイトは時給が良いと聞く。学業に支障をきたさなければ、学生が夜働いているくらいじゃ風紀委員だって補導したりしないさ」

間近で耳を打った叫び声に思わず肩を震わせた後、何とも言えない表情で慰める様な口調と困った様な笑みを見せる。
自分が裕福であることを隠す質では無かったが、流石に今回は自重した。甘味仲間を傷付けるのは本意では無かったし。

「……何だか色々と勘ぐりたくなるが…取り敢えずは保留しておこう」

妙に優しげな口調と和やかな笑みに、疑念と困惑が入り混じった様なジト目を彼女に向ける。
悪意は感じないので追求はしないが…どうにも自分にとっては宜しくない評価を下されている様な気がする。

「誰がお代官様だ誰が。心配しなくても、規則を破った時には問答無用でしょっぴいてやるから安心しろ。勿論、生徒指導室と担当教授への報告書付きでな」

クスクスと含み笑いを零しながら、彼女の茶色の瞳に視線を向ける。髪の色と瞳の色が同じなんだな、と今更ながら気が付いていたり。

「…自分で選んだ仕事だし、別に労いの言葉なんて必要無い…が、まあ、その、うん…有難う」

ややぶっきらぼうに彼女の言葉に対して礼を述べる。
そんな和やかな空気で所持品検査も直ぐに終わる筈―だったのだが―。

「……へぇ?中々面白い物を持ち歩いているじゃないか。女性の護身用にしては随分と大袈裟だな。折角だ、俺にも少し見せてくれないか?」

魔術そのものを行使するには至らなくとも、その禍々しい魔力を感知する程度の知識と能力は身に着けている。
彼女のスクバに入っていた黒い表紙の本。明らかに一般の生徒が持ち歩く様な物とは思えないソレを見れば、無造作に手を伸ばしてその本を手に取ろうとするが―

和元月香 > 小さく笑みを零す相手に、少し怪訝な目を向ける。

「...君腹黒なのかクソ真面目なのかよう分からんね?」

思わず本音が漏れた。
何となく容姿と言葉遣いから引っかかっていたので、
腹にどうも一物抱えているようなと思っていた。
...もしかして両方か、と首を傾げる。

「...妖しい仕事はしてないよ。
コンビニとか健全なお店の夜勤だよ」

何だか自分までいたたまれなくなったのか、
若干視線を逸らして言い訳のように呟いた。
なんだか親切を無下にしたような気分だ。
...ぼそっと「助かる」と礼を付け加える。

「規則は破らないんで、どうぞ報告だけは...!」

平頼みである。
これが親に伝わってみろ、益々仕送りが減り
毎日カップ麺生活にもなりかねない。
甘味が食べられない死活問題に陥る。

「...素直じゃないね、もうっ」

嬉しそうにそこはかとなくウザい事を言う月香。
笑い話で和やかに時間は過ぎていくはずだった。しかし____。

「あ、あのマジで辞めといた方がいいと思うんだけど...!?」

スクバを触ろうとする相手の手を取り、さり気なく本に触れさせないようにする。
見るだけかと思ったが触るのか。まずい。かなりまずい。
ただでさえこのメンヘラ魔導書は最近気が立っているのだ。
今変に刺激してしまえば____。

ブワッと真っ黒なページが捲れる。
そこからトラウマを呼び出し負の感情を増幅させる闇が溢れ出してきて、
相手を包み込もうと大きく膨張した。

神代 理央 > 「真面目だけが取り柄の、品行方正な風紀委員だよ。それ以上でも、それ以下でも無いさ」

口元に緩やかな弧を描くような笑みと共に、小さく首を振る。
至って《真面目に》自分の目的を達成する為に動いているだけなのだから。

「…何か学生生活で困った事があれば、生活委員会でも尋ねてみるといい。彼処なら、少しはお前の力になれる事もあるだろう。風紀委員は、取り締まるばかりで学生生活の補助は出来ないからな」

夜勤等、夜の労働を止めるつもりは無い。違反部活やいかがわしい店でなければ、働いた分の労働を得るのは当然だし高い時給の夜間労働を選ぶのもまた然り。
とはいえ、働きすぎで身体を壊したりしたら元も子もない。自分に出来る事といえば、彼女の役に立ちそうな委員会を紹介する事くらいだ。
若干歯痒い思いを感じつつも、礼を告げる彼女に気にするなとばかりに首を振った。

「まあ、目的もなく夜間の徘徊をしていました…くらいの報告は上げるべきかもしれないが。はてさて、どうしようかな?」

無論、そんな事を報告するつもりはないし、そもそもそんな些事で報告等基本的にはしない。ただ、眼前の彼女の様子を眺めていたら、少しだけ誂いたくなってしまった。

「…全く。本当に深夜徘徊で生徒指導室に叩き込むぞ?」

軽いジト目を彼女に向けて幾分低い声で小さく呟く。勿論、先程と同じ様に突き出すつもりは毛頭無いのだが。

―そんな学生らしいやり取りも、彼女が持つ本から闇が溢れ出すまでの事。
夜の帳よりも尚深い漆黒の闇は、此方が身構える間も無く己を包み込んだ。尤も、反応が間に合っても魔術を行使出来ない以上どうしようも無いのだが。

しかし、自身の精神を包む負の衝動に一瞬耐える事は出来た。
これは己の精神が強靭であるとか、特殊な才能があったという訳ではなく、単純に是迄の人生の中でトラウマと呼ぶべき体験をしていなかったから。裕福な家庭で育ち、大人達に囲まれた中で強かな生き方を学び、異能の才能を期待されながら父親との確執を深めていく。ありきたりではあるが、不幸では無い。
従って、彼女の本が呼び出したトラウマと増幅させた感情はそれぞれ別個のものとなった。
増幅されたのは、己の内面に潜む嗜虐心や加虐心。呼び出されたのは、異能が顕現した日、父親だけが目にしていた、能力も発動条件も知らぬ異能が発動したあの日―

「…お、前っ…!その本、いや、ソレを何とかしろ…!頭が…ガンガンする…!」

自分でこの状況を招いておいて情けない話ではあるが、それでも何とか本の闇を抑えろと彼女に叫ぶ。

和元月香 > 「それ自分で言うんかい」

真顔でツッコミながらも、それ以上の詮索はしない。
さっきはつい本音が漏れてしまったが。
彼の目的がどうあれ、きっと自分にはさして悪影響は無い。
自分にとっては夜の公園で知り合った美少年にしか過ぎないのだから...!

「そうさせてもらうよー。
んー、君にもあんま迷惑かけたくないし、安定したバイト探したいなぁ」

若干歯痒い思いをしている相手に気づいたのか気づかなかったのか、
んーっと軽く言いつつ伸びをする。

「え、あの、まじで?やめて?」

あわあわと乗せられてしまう月香。
普段はここまで馬鹿ではないが深夜テンションというやつだ。

「やーめーてー!」

生徒指導室。なんと恐ろしい言葉か。
叫びながら相手にタックルをしかけている。
ノリもあるだろうが、ガチで信じているような気がするのは
やはりテンションがぶっ壊れているのが影響か。

____だが全て、闇が覆った。
ドロリとした粘着性のあるそれは、どこまでも不快。
目にしただけで言いようも無く気分が悪くなり、吐き気さえ感じる。
醜いわけでは、無いのだが。

それに包まれた相手を見た月香は、
「...あちゃー」と小さく小さく呟いた。
いっそ薄情としか言いようの無い言葉の響き。
しかしながら月香は闇に触れ、闇を掴んだ。

「なにしとんじゃてめぇ!ばか!」

黒い本を罵りながら、闇を無理やり引き剥がしていく。
しかし闇は抵抗し、ページに『やだ』の言葉を羅列する。

「っ、ごめん君!今何とかする!」

力ずくで、引き剥がす。
自分をも否応無く痛みつける記憶が、見えていないかのように。

神代 理央 > 「何を言うか。真面目に生きるというのは結構大変だし面倒なんだぞ?だからこそ、それに見合ったリターンがある訳だが」

フン、と偉そうな鼻息と共に堂々とのたまう。
夜の公園で女子相手にのたまっても仕方のない事なのだが、それはそれである。
昼間の学校では品行方正で愛想の良い優等生を演じているだけに、その言葉には無駄な自信が篭っていたことだろう。

「…別に俺に迷惑とかそういうのは考えなくていい。余計な事は考えず、自分の事だけ心配してろ」

どうにも彼女は自分に構わず人を気遣う様子が見て取れる。
人前では出さないだけかも知れないが、負の感情がほぼ見受けられないというのは、それはそれで大変なのではないだろうかと頭の片隅で思案していたり―

「いやはや、此れも学園の風紀を守るためだから仕方ない事。職務を果たさねばならないからなぁ……って、こら。いきなり体当たりかましてくる奴があるか」

わざとらしい程の真面目くさった口調と、楽しげな含み笑いという相反する様を見せつけていたが、仕掛けられたタックルには慌てて両足を踏ん張って受け止めようと。
あと少し油断していたら女子に押し倒されるという悲しい絵面になっていたかもしれないが、委員会の活動で鍛えた両足はギリギリ、辛うじてタックルに耐えきる事だろう。


可笑しな話ではあるが、正常なトラウマを抱えていれば闇に飲まれて終わりだったのだろう。
しかし、そうはならなかった。寧ろ、自身にとってのトラウマ、負の感情とは、己の内面にある極端なまでに歪んだ加虐心。それを理解はしていても、理性によって常に押し殺していた――抑えきれず漏れ出してはいたが――ことこそが、自身に取ってのトラウマだったのだろう。
だが、己を飲み込んだ闇はその理性の蓋をこじ開け、振るった事の無い異能と共に全て解き放つ―筈だった。
彼女が我が身を顧みず、闇を掴むまでは。

「……悪い、何とか、耐えるから。ごめん…頼、む…」

もういい子ぶる必要も、発揮されていない異能を眠らせる事も無いと訴える《ナニカ》に必死に抵抗しながら、弱々しく彼女に呟いた。

和元月香 > 「なんか頑張ってることは伝わってきたわ...。
我が道を爆走する私には分からぬな、真面目の苦労は」

偉そうに宣う相手に気圧されたように、
ごくりと息を飲んでわざとらしく重々しく呟いた。
一応授業には出て、テストを受け、そこそこ高い成績を維持している月香だって真面目は真面目だ。
...だが相手の真面目は次元が違う。そう思ったのだ。

「...?今更自分の心配してもなぁ...」

他人でさえ本当に寄り添ってやれないというのに。
言われなくとも自分の為ばかりに生きてきたから、
最終的にこうなったのだが...?
最近よく言われる言葉に、月香は本当に不思議そうな顔をした。

「だって、えーと、君が!意地悪してくるから!
...って君名前なんだっけ?聞いたっけ?!」

ぷりぷり怒りながら(怒ってない)、どさくさに混じってタックルから
単純に抱きつく姿勢に組み替える月香。馬鹿だ。
文句を言おうと名前を呼びかけたが、そもそもその名前を知らないことに気づいた。馬鹿だ。


彼の為ではない。
彼を壊したくなかったのは事実だが、それは優しさとか思いやりとか、
そんな情に溢れたものでも、かと言って悪意による行動でも無い。

月香はそんなものは、生憎持ち合わせていない。
今だってトラウマに抉られるはずの心は、ちっとも痛みに悲鳴を上げていないのだから。

「...大丈夫だから。あの、えと、うん。大丈夫だから」

これ以上ないほどの、しかし月香にとって最大な動機となり得る
【自分勝手な理由】だったが、彼を助けようとしているのは事実で。
痛みを知らない子供の如く、戸惑いながら一生懸命、何とか彼を慰めようと声をかける。

ぐい、と闇が押しのけられる。

「よっこいせっと!!」
間一髪で体を滑り込ませて、
崩れる闇から彼を守ろうと咄嗟に抱きしめようとする。
自らの心は鉄壁。ならばそれで、心を傷つける闇から守れる。
指1本触れさせないように。

神代 理央 > 「…まあ、善いことも悪い事も全力で取り組めばそれは真面目と言えるのかも知れないけどな。自分で偉そうに言っておいてなんだが、品行方正だけが真面目って訳でもないかもしれないぞ?」

何だかんだ、落第街では法に触れない範囲で手を回している事もある。だからこそ、結局真面目というのは己が取り組むべき事に全力で取り組んでいる事なのではないか。と、僅かに息を吐き出して呟くだろう。

「…まあ、少しは自分を大事にするべきだとは思うが、それを決めるのは自分自身だ。人の価値観なんて、変えることも理解することも難しい事だからな」

不思議そうな表情を浮かべる彼女に対して、小さく笑みを浮かべて肩をすくめてみせる。
結局、互いの事を真に理解しない限りは、彼女の生き方や考え方に口出しする権利は無い。もう少し自分の事を気遣っても良いのではないかと思うのだが、それを口に出す事は無いだろう。

「…全く。意地悪されたからって体当たりするなんて、小学生じゃあるまいし。…ああ、そう言えば名前も名乗って無かったな。俺は神代理央。学園の一年生で見ての通り風紀委員。宜しく………ていうか、引っ付くんじゃない、離れろ」

呆れた様な溜息と笑みを同時に零すという我ながら器用な事をしつつ、抱きつく彼女を見下ろして名前を名乗るだろう。
名乗った後、ふと彼女との距離に気が付いた様に押し黙った後、ふいと視線を逸らせて不機嫌な様な、困惑した様な声色で告げるだろう。


大丈夫だ、と此方に告げる彼女こそ大丈夫じゃないのではないだろうか。
ガンガンと痛む頭と、胸の奥から湧き上がる黒い衝動に苛まれつつ、そんな事を思考の片隅でぼんやりと考えていた。
だが、己の中で異能が発動しようと蠢く力を感じ、最後に彼女を突き飛ばそうとふらつく頭で身体に指示を出そうとした時―

「…馬鹿か、お前。そんな事して、お前が辛いだろうに。初対面の相手の為に、良くも、まあ…」

彼女に抱きしめられた瞬間、己の箍を食い千切ろうとしていた闇が漣の様に引いて行くのを感じる。それと共に、頭の痛みも、発動しようとしていた得体の知れない異能の力も、ゆっくりと引いていく事だろう。
荒く息を吐き出しながら、吐き出す言葉は厳しく。しかし、その口調は拙いながらも感謝の念を込めたものだろう。

和元月香 > 「...そうかな?
...うん、そうかもね...」

少し笑う。
自分も傍から見たらきっと真面目。
生き方にせよ、行動にせよ、真面目は様々な基準で定まるのだろうか。

「.....自分を、ねぇ。
もうちょっと甘味を増やす、とか...なんとか...」

真剣な話をしていたというのに、
真剣な表情でそんな馬鹿げたことを考えている。
月香の価値観はある意味ぶっ飛んでしまっている。
だから彼の言うとおり、口出しする権利は互いに無いのだ。

「こういうテンションなんだ!!許せ!!
.....私は和元月香、1年生だよ!よろしく神代君!」

ひょいっとあっけなく体温を離し、元気良く挨拶する。
いつもの、明るく朗らかな笑顔で。


月香はその笑顔のまま、相手を抱きしめていた腕を解いた。
痛くない。大丈夫。平気。.....何も感じなかった。
絶叫と痛みの渦に、何の感情も抱かなかった。
そんな事をつらつらと考えながらも、相手には笑いかけた。

「平気だよ?」

残念ながら、平気なのだ。
理由はまだ、知らなくていい。
メンタルをまともにやられた彼を家へきちんと送り、
月香は黒い本を厳重に抱えたまま帰宅しただろう。

.....もちろん黒い本は、限界一歩手前までライターの火で炙られた。
黒い本は、本らしく火には滅法弱いらしい。

ご案内:「常世公園」から和元月香さんが去りました。
神代 理央 > 「…まあ、別に無理して真面目である必要なんてないさ。肩の力もたまには抜いてやらなきゃ、疲れちまうからな」

何だかんだ言いつつ、最後は力を抜くことも大事なのだろうと思う。思うだけで、それを実践出来ているかはまた別問題だが―

「それはとても良い考えだと思うぞ?カフェテラスを月一から月二回だとか、小さな事で良いから自分が幸せだと感じる事を真面目に考えていれば良い。難しい事かもしれないけどな」

甘味万歳派の自分としては、彼女の意見には深く頷かざるを得ない。
所詮は夜の公園での戯れめいた言葉の投げかけ合い。小難しく意見を出し合うより、こうやって自由に好きな事を言い合う事が本来あるべき姿なのだろうと思う。

「つまり、小学生並の精神とテンションということか。成る程、理解した。……ん、宜しくな。和元。俺に補導されないようにしろよ?」

舌の上で転がすように相手の名前を小さく呟いた後、僅かに笑みを零して彼女の笑みに応える。
離れた体温に安堵した様な、少し残念な様な思いを抱きながら。


「―…そうか。だが、すまない。不用意な行動で迷惑をかけた。何か身体に異常があれば何でも言ってくれ。可能な限り、手助けしよう」

結局、あの本は一体何なのか。そして、闇に包まれながら平然としていた彼女は一体何者なのか。
痛む頭で纏まらない思考を抱くが、身体と心がついてこない。
結局、ふらつく足取りで彼女に家まで送って貰う事になったのだろう。

再会した時は、先ずきちんと礼を言わねばなるまいな、と。
倒れ込んだ自宅のベッドで微睡みながら、そんな思考に耽っていた。

ご案内:「常世公園」から神代 理央さんが去りました。