2017/12/16 のログ
■岡崎燐太郎 > 公園内の一角、落ち葉の絨毯の中に置かれた自動販売機の明かりに照らされる人影。
その人影は財布を片手に商品が表示された液晶とにらめっこをしていた。
「…………」
少しの沈黙のあと返金レバーをひねる。
しかし金銭が出てくる気配はない。再度レバーをひねるも反応はなし。
画面に購入が可能になった表示や投入金額を示す数字は現れていない。
その様子を知ればいささか不審に見えるかもしれない。
(あー、くそ……飲まれた……)
小銭がないからとお札を突っ込んだのが運の尽き。
自動販売機も急な寒さに調子を狂わされたのか、無反応を貫き通した。
分かりやすくうなだれ、力を込めて握った拳で機体を軽く突いた。
■鈴ヶ森 綾 > 何秒ほどそうして黙祷していただろうか、目を開くと立ち上がってふぅ、と小さく息を吐く。
手についた土は軽く叩いて落としたが、洗わないままもう一度コートのポケットに戻すのは憚れる状態だ。
冷え切った土を弄ったせいで手先はますます冷えてしまった。
どこか水場かトイレでも見つけない事には、この冷えた指先をどうにもできない。
柵を乗り越えて道に戻ると暫しの間手を寒風に晒したまま歩いていく。
「あれは…。」
前方に街灯以外の灯りを見つける。さらに近づくと、それが自動販売機のものであると知る。
あそこで何か暖かい飲み物でも買ってカイロ代わりにしようかと寄っていくと、その前で何やら自販機に絡む人影を見つけ眉を顰める。
(酔っぱらい…?)
背後から近づいてみるとどうも見覚えがあるような背格好をしているが、
今は冷えた手をなんとかしたいという気持ちが勝り、記憶を精査するのは後回しにして声をかけた。
「もし?そこで何をしているのかしら。」
■岡崎燐太郎 > 「ん……」
うなだれていても仕方がない、今日は諦めようとかぶりを振る。
と、背後の人の気配と声に気付き、首元のマフラーに顔をうずめて振り返る。
「あぁ、いつぞやの……
や、ちょっとね。不運に見舞われたというか……」
暗闇から現れた見覚えのある姿。
少し記憶の辿ってみればすぐに行き着いた。
そして今の状況を抽象的に返答する。曖昧な表現だが大方の察しはつくだろう。
「綾、だよな。ここで買おうつもりなら、やめておいた方がいい。
俺だけかもしれないけど……勧めはしない」
傷口を抉るようなので明確に口にはしないものの、
何かあったのは事実のようだった。
■鈴ヶ森 綾 > 「…あぁ、カフェの。こんな所で奇遇ね?」
酔っぱらいか、あるいは不埒な自販機強盗の類かと思ったが、振り返ったその顔と、
その右手を見るとすぐに曖昧だった記憶が像を結ぶ。
こんばんは、と小さく挨拶するとその隣に並んだ。
「ふーん…?さて、どうなるかしらね。」
少年の言葉を特に気にした風もなく硬貨を投入する。
投入金額を示す液晶に正しい数字が表示され、多数ある購入ボタンが一斉に点灯する。
その中から暖かいミルクティーのボタンを押すと、低い駆動音の後、取り出し口に熱い缶が転がり落ちてきた。
「…普通に買えるようだけれど?」
冷え切った手には熱すぎる程に感じる缶を手に、そのまま立ち去ろうかと思ったが、
手にした缶を少し見つめていたかと思えば、それを彼の方に差し出して。
「…ねえ、良ければこれ、開けてもらえないかしら?指に上手く力が入らないの。」
■岡崎燐太郎 > 僅かな制止をきかず購入を試みる姿に顔に心配の色を浮かべ、一連の様子を見守る。
しばらく待っていると、自動販売機は正常な動作をし、
飲み物もしっかりと取り出し口に落ちてくる。
「……まじですか」
唖然とした表情で今しがた起きた現象を整理してみる。
……が、やはり納得のいく結論は見つからなかった。
「あ、おう……
……はい、火傷するなよ?」
この寒さで指も動かなくなるのも納得だ。
缶を受け取りカコッと音を立てて開封し、冗談交じりの忠告とともに返す。
「にしても、今日はついてないな……流星群は見られないし、お金は飲まれるし……」
早くも一日を振り返って、晴れない気分とは裏腹に輝く星空を見る。
なにやら不幸が続いた一日だったらしい。
■鈴ヶ森 綾 > 何やら複雑そうな少年を横目に取り出し口から取り出した缶を手の中で弄び、その後彼に手渡す。
「どうもありがとう、助かるわ。」
開封された缶を受け取ってまずは一口。
ミルクのまろやかな味わいと程よい甘さが舌に嬉しい。
冷えた身体が手と胃袋からほんのり暖められ、思わず眦が下がる。
「あら、そういう事。最近の自販機は喋ったりもするようだし、お客を選り好みする事もあるかもしれないわね。
…開けてもらったお礼と言ってはなんだけど、これで良ければ、一口いかが?」
缶の口を相手の方へ向け、いましがた受け取ったそれを再度相手に向けて差し出す。
■岡崎燐太郎 > 彼女の幸せそうな顔を傍目に、いっそう先ほどまでの不幸が悔やまれた。
「もしそうだとしたらメーカーに文句言ってやりたいな」
製造者の気まぐれでギャンブルを強いられては堪ったものじゃない。
まあ機械相手にムキになるほど子供でもないし、
もう諦めはついているのだから本気にはしないが。
「え……じゃあ、一口……」
不意な申し出にたじろぐも自力では手に入れられなかったそれに、
厚意を素直に受け取ることにした。
缶から伝わる暖かさは銀色の腕を通じて全身に広がる。
次に缶を傾けて喉へと流し込むと内側からさらに暖められるのを感じる。
身体がいつもより冷め切っていたからか、勢いを増して滲んでいく。
「悪ぃ、ありがとう。……救われた気がする」
やや大げさに感謝を伝え、同じようにして缶を差し出した。
■鈴ヶ森 綾 > 「その前にこの子の好みを聞き出すほうが早いかもしれないわ?
あらそう、100円より500円玉が好きなのあなた。
だそうよ?」
物言わぬ自販機とあたかも会話をするように、冗談めかしてそんな言葉を口にする。
「火傷しないように気をつけて。」
先程言われたのと同じ言葉を返し、彼の手にそれを握らせる。
まだ熱を保ったままの缶は自分の手を離れて彼の手に渡り、
それが口元へと運ばれ、彼が喉を潤すのをじっと見守る。
「いいえ、どういたしまして。それにしても…もう少し気にするかと思ったけど、意外と淡白な反応ね。」
返された缶を両手で受け取り、ぽつりと一言。
半分程になった小さめの缶の中身を一息に飲み干し、
最後に互いが使った飲み口の部分をこれ見よがしに舌先で小さく舐めあげる。
「ふぅ…ごちそうさま。それじゃあ、私はこの辺で。」
空になった缶を自販機横のゴミ箱に落とすと、暖まった身体の熱を逃さぬようコートの前をしっかりと合わせ歩き出そうとする。
■岡崎燐太郎 > 「贅沢な奴め……好き嫌いするんじゃねーっての」
いつもなら軽く笑い飛ばせたのだろうが、今回ばかりはそうはいかず。
恨めしそうにただ闇を照らす機械をにらんだ。
「あっ、わ、ごめん! ついだな、他意はなくて……」
言葉の意味を理解し大振りに首を振り否定を示す。
事実、ただ暖への欲求に負けて貰ってしまっただけであるが……
このからかい甲斐のある取り乱し方を見せた。
此方の心を弄ぶかのような仕草に自販機に向けていた目を少女にやろうとして。
「このやろー……暗いし気をつけて帰れよ」
小さく毒づきながらも去り際には気にかけて。
一度手を振ってその背中を見送ることなく別の方角へと歩き出していった。
■鈴ヶ森 綾 > 「別に良いのよ、無理をしなくても。単に私が意識するのに値しないだけのことだもの。」
そのような言葉を、科まで作ってことさら深刻ぶって口にしたかと思えば、
慌てる彼の様子に小さく笑いを漏らす。
「ええ、そちらもね。あまり自動販売機をいじめてはダメよ?」
最後まで冗談めかした言葉を残し、
背を向けたままひらひらと手を振って、そのまま木々の間の道を去っていった。
ご案内:「常世公園」から鈴ヶ森 綾さんが去りました。
ご案内:「常世公園」から岡崎燐太郎さんが去りました。