2018/01/28 のログ
■久遠寺 精斗 > 「ここに来た決め手、ですか?
ううん……僕自身はあんまり来る気無かったんですけどぉ。
両親がどうしても、って。外の世界を見て来なさいって言うんで。」
だからですねー、とゆるーく笑みを浮かべて答える。
「でも来てよかったなーって思います。
先生も言う通り、本当に色んな人や建物や場所があるから。毎日退屈はしないですもん。」
故郷と較べものにならないほど発展した都市部があれば、懐かしさを覚える森林もある。
一通り見て回った結論として、精斗は『来てよかった』と告げる。
きっとまだまだこれからもその感想は事ある毎に口にするだろうが、誰かに言うのは初めてのことで少しばかり気恥ずかしさがあった。
■ヨキ > 「この島は、新しい価値観を掴むには絶好の場所だ。
自由が過ぎて、逆に面食らってしまう者も少なからず居るがね。
来てよかった、退屈しない、とそう思ってもらえるなら、君はこの島と相性が良さそうだ」
あたたかな陽射しに倣うよう、穏やかな口調で続ける。
「真新しい物事を学べる一方で、ここには心のゆとりを見失って訪れる生徒も多い。
ヨキは元から美術が好きだった者はもちろん、美術を知らぬ者にも豊かな世界を楽しんでほしいと思ってね。
稼いでゆくには少々心許ない科目だが、だからこうしてずっと美術を教えているよ」
精斗の表情のわずかな変化をも受け取ろうとするよう、微笑んで受け答える。
長身に比べて歳相応の顔立ちに向けて、ゆったりと目を細めた。
「そんな風に、君の将来につながる『何か』が見つかってくれたら嬉しいよ。
夢や目標や、もちろん友情や恋でもいい。ふふ、今はまだ、途方もない話だろうがね」
■久遠寺 精斗 > 「新しい価値観……そうですねえ。
僕の故郷は田舎も田舎だから、ここだと何を見ても新鮮ですし。」
ゆっくりと咀嚼する様に何度か頷いて、そして思い出す様に目を瞑る。
島に来てから今日まで見た物、人、それらをゆっくり思い浮かべる。
全部を思い出すには少し時間を要するから、半分ほどで目を開けるのだが。
「美術……ですか。
この島の学園の美術の授業も、絵を描いたり粘土をこねたりですかぁ?
故郷の学校ではそんな感じだったんですけど……」
田舎の学校とこの島の学校の授業が同じ物とは限らないのではないか。
そんな疑問を敢えて訊ねてみる。もし仮に全く違う物を美術として扱っていたらどうしよう、そんな不安が──まあ全く感じられない笑顔なのだけど。
「夢や目標……友情や恋……
うん、両親も言ってました。お友達いっぱい作って来なさいって。」
■ヨキ > 「毎年いやになるくらい雪の降る土地、か。
まだ日本の本土をよく知らぬヨキには、そちらの方が新鮮やも知れん。
雪国の酒は美味いとも聞くしな」
先ほどまで缶コーヒーを持っていた空の手で、猪口を傾けるジェスチャをして笑う。
「ああ、そうだよ。絵も描くし、粘土も捏ねれば木も彫るぞ。
だが、ヨキの最も得意とするは金属だ。鉄や銅や、真鍮や、そういったものを焼いたり、叩いたりする。
何だって作れるぞ。食器もアクセサリも、駅前の銅像のようなオブジェでも、何でもな」
金工。意識されることこそ少ないが、よくよく考えてみれば誰しも心当たりのある分野といったところだろう。
声の明るさからして、このヨキという教師は金細工をよほど好き好んでいるらしい。
「学園を卒業すれば島を離れる者が大半だが、一生ものの付き合いだって珍しくない。
……今のところ、特に興味のある科目や、学んでみたいことはあるかね?」
■久遠寺 精斗 > 「あいにく酒蔵は山二つ越えた町まで出ないと無いんですよね~
月に一度父さんが買いに行くのについて行きましたけど、うちの村で作るには人手が足りないみたいです。」
少しだけ困ったように首を傾ける。
故郷の人口減少を憂う大人たちの姿を少しだけ思い出したのだろう。
「金属?
ああ、鍛冶屋さんみたいな事もするんですね。
よく母さんがお鍋とか作って貰ってました。」
其方の方も後継者が居ないと嘆いていたのも思い出す。
ふむふむ、と少しばかり考え込むようなしぐさをしたのち、精斗はふわっと笑顔を浮かべた。
「興味があるとか、学んでみたいってわけじゃないですけど……
少しでも故郷の助けになるような事を覚えて帰れれば良いかなって、今思いましたぁ。」
でもそれは、多分精斗一人でどうにか出来る問題ではない。
■ヨキ > 「なるほど、ひとえに雪国と言っても広いだろうからな。
本土のユニークな銘柄の酒を取り寄せるのが好きだが、過疎地であれば資源にも乏しかろう。
ヨキが島を訪れるずっと昔には、小さな村が次々に合併したと言うし……。
それが自分自身の故郷であれば、尚のこと放ってはおけぬな」
精斗の言葉に頷き、手振りを交えて話す。
「君の母君が世話になったその職人も、きっと腕がよかったのだろうな。
日々の暮らしに息づく品々こそ、細工の手が行き届かねはならんものだ。
一歩を踏み出すことに、明確な言葉は要らんよ。
そうしたいと思えたら、そのために何かをしようと思えたら、そこから既に学びは始まっている。
これから先、君が過ごす日々がその糧になるといいな?」
今思った、というそのひらめきに、どこか眩しいものを目の当たりにしたように目を細めた。
優しく微笑んで、うん、と頷く。
「そろそろヨキも、次の仕事に向かわねばな。
うかうかしていては、君を学園に迎える日がすぐに来てしまうから」
シャベルを拾い上げ、ベンチから立ち上がる。
「ヨキはいつも美術室に居る。いつでも遊びに来てくれて構わんよ」
■久遠寺 精斗 > 「ええ、広いんです。
というか、山の方なら大体の場所で雪ですよ、日本……ええと、本土、ですかぁ。
へへ、ちょっとまだ言い慣れないですね、本土って。
うちの近くの村も、くっ付けるか潰しちゃうかでどんどん数は減ってるみたいです。
確かに不便だし最新のモノも無いですけど……でも、たくさんある物だってあるんですよぉ。」
無くなっちゃうのは寂しいですねえ、と笑顔を浮かべてはいるものの、その眉尻は下がる。
「ええ、村の鍛冶屋さんはよく外の町からも依頼が来てました。
長持ちするらしいです、包丁とかお鍋とか。」
えへへ、と自分の事のように嬉しそうに語りつつ、
「はぁい、僕あんまり言葉で何かを表すの、得意じゃなくって。
ともかく、生徒になったらいっぱい勉強して故郷に帰ろうと思います。
ありがとうございました、ヨキ先生。」
ぺこり、と丁寧にお辞儀をしてからヨキに続いて席を立つ。
そうして公園を去っていくヨキを笑顔で見送るのだ。
「美術室、遊びに行きますねえ。
入学してすぐは、バタバタしてると思いますけど、余裕が出来たら、かならず。」
■ヨキ > 「常世島は海に囲まれているだけあって、買い物をして取り寄せるにも送料が嵩んでな。
だがそれを差し引いても満足できるくらい、よい品物や美味しい食べ物に恵まれている。
ヨキもそうやって、人の少ない土地にも少しは支えになればよいと思っているのさ」
眉を下げる様子を見守って、言葉を続ける。
「いいな。ヨキもそんな風に長く愛される作り手になれたらいい。
それを自分のことのように誇ってくれる君もまた、尊い心掛けだ。
君と語らうのは心地がいい。きっとすぐに友だちも増えるだろうさ。
さまざまな知恵を分け合って、互いに高め合うような関係を築いてくれたまえ」
来たときと同じように、シャベルを肩に担ぐ。
「ああ。待っているとも、久遠寺くん。
入学するまでに身体を壊さぬよう、暖かくして養生するのだぞ」
空いた手をぱたぱたと振って別れを告げる。
踵を返して、次なる雪かきの場所へと歩み去ってゆく。
ご案内:「常世公園」からヨキさんが去りました。
■久遠寺 精斗 > 「本当に、色んな人が、居る。」
シャベルを担いで公園を去っていったヨキの後ろ姿が見えなくなってから、白い息とともに吐き出す。
この島に来てからというもの、驚きと発見の連続で休んでる暇もないと常々思っていたが。
「あんな先生が居るんだから、きっと学校はもっと凄いよねぇ」
これからの事を考えると、驚き過ぎて倒れちゃうんじゃないだろうか。
そんな事を心配しつつ、男の子も帰路に着いたのだった。
ご案内:「常世公園」から久遠寺 精斗さんが去りました。