2015/07/16 のログ
■ヨキ > 「面白そう、か。ふふ、それでいい。
そう感じて参加を決めてくれたならば、幹事としてはしめたものだ。
それに……君の書いた返事。ふざけてくれた方がヨキも楽しいでな」
(マティアスのカトラリー使いには、特に口を挟むこともしない。
彼が湖城に尋ねるのを見ながら、その白い肌を見る)
「今日はやたらと暑くなったが、君は何とも涼やかであるな。
その肌の色、種族柄によるものかね?」
(『有事の際に腹を出す』。変わった作法もあるものだと、半ば感心しながら湖城の言葉を聞く)
「君は……神職か。
ならば、カミと人とを繋ぐ務めでもあるのだろう?
カミを知り、人を知ることに、役に立たないことなどあろうか。
辿り着く答えはどうあれ、見識を広げる手掛かりにはなろう。
あの朗誦される歌……のようなもの、祝詞と言ったな。あれはヨキの耳にも見事であった」
(湖城の訝しげな様子にも、然して気にした風もなく)
「安心できるのは、今のところ君と敵対することがないからさ。
人を不快にしたくないのと同じように……荒事もまた、無用に重ねたくはないからな。
……覚えておこう、仕事人。だがヨキは、単に人に任すを是としないのでな。
もしものときには、君の背中を借りるとしよう」
(やがて飲み物や、彼らの選んだデザート――トリプルベリータルトと、それにやや遅れてザッハトルテが運ばれてくる。
ヨキの顔が見る間に晴れ渡り、いかにも甘味好きが見て取れる)
■マティアス > 「なんとなく、ですよ、色素が薄いほうが「雰囲気出る」でしょう?」
(ヨキの問いに悪戯っぽく笑う)
(その気になれば肌の色は自由に変えれるし、普通の肌色にすることもできる、幽鬼の如き白はただの趣味だ)
「タッパがこんなんなので、こういう細かいところで雰囲気出さないと舐められやすいんですよ」
(魔術師を外見年齢で判断するなんて無理ですよ、と呟きながら、お冷を飲み干す)
「そうですか? なら大丈夫ですね」
(湖城の丁寧な受け答えにあっさりと引く、本人が大丈夫というなら大丈夫だろう)
(しかし慎重に喋る男だな、と思う、もう少し気を抜いて自然に喋れれば、愛想良く見えるだろうに)
(まあその場のノリでベラベラ喋って敵増やす自分よりはマシだが)
(とかやってたらケーキが運ばれてきた、期待を隠しきれない表情でザッハトルテを切り分けていく)
■湖城惣一 > 運ばれてきたタルトやザッハトルテ。
それに表情を晴れ渡らせるヨキには少々意外な印象を受けた。
次いで、やはりマティアスも表情を弾ませているように見える。
喜色の浮かぶ白い肌。
続く言葉に彼の"不思議な空気"が魔術師であるからくることかと納得した。
ヨキの、感心したような言葉から続く神職への言及。
これはいかにも教師、といったような言葉であった。
嫌ではない。あれが人との会話に役に立つことがある、と聞いて。
ふむ、と改めて考えなおしてみることにした。
「……自分も切った張ったを進んで演じることはありません。
しかし、ええ。力になれることもあるでしょう」
自分の力を押し付けることはしない。流儀でもない。
今はひとまず、切り分けられたザッハトルテを器用な手さばきで皿へと移して配膳するだろうか。
トリプルベリータルトも同じように。
■ヨキ > (マティアスの微笑みに、共犯者めいた笑みで返す)
「雰囲気か。なるほど分かりやすい。
何だ、この広い学園とあって、まだ背丈で人を判断するような者が居るのか?
異能や魔術の前には、命取りとなりかねんな。
では……むしろよい血色を装って、油断を誘うことも可能な訳か。なかなか巧みだな。
ヨキには魔術の素養がないでな、使い手には何かと感心させられる」
(湖城の冷静な受け答えには、目を伏せて)
「そう。答えはどうあれ、というのは、それが決して望まれたものとは限らないからだ。
異能に、出自に、責務に――望まずと過酷な環境へ身を置く者は少なくない。
ヨキは教師として、それ以前に異能の使い手として、それらに携わる人間を支えるのが務めだからな。
君こそ、ヨキのことを覚えていてくれたまえ。
芯まで潔白――を謳うつもりはないが、少なくとも君の味方であることは確かだ」
(だから、と笑い掛ける。
切り分けられたタルトやケーキをにこやかに受け取って、今はこの時間を楽しもう、と。
飲み物を手に取って、二人へも改めて乾杯を促す)
■マティアス > 「魔術に異能に異世界にと闇鍋状態な常世に比べれば、外には結構そういう人いますよ?」
(というか常世の人材の質がおかしいのだ、外では中々お目にかかれない怪物がゴロゴロ転がりすぎである)
「私にはヨキ先生のほうが感心しますがねー、ここの教師はなにかと大変じゃないですか」
(個性的な生徒達を纏めあげ、道を外れないように教え導く)
(自分には到底できないことだと思うし、そういう道を歩くのはどんな魔法よりも難しいし大変だと思うのだ)
(ヨキの掲げたグラスに自分のオレンジジュースを小さくぶつけ、乾杯と笑う)
(そのまま「いただきます」と律儀に呟き、ザッハトルテにフォークを刺した)
■湖城惣一 > 「真の潔白など、先ず居ないものでしょうから。
ええ、約束しましょう、ヨキ先生。
そして、マティアス、よろしく頼む」
グラスを鳴らしこちらもゆっくりと食べ始める。
男の食事は非常にゆったりしたものだ。
物を噛んでいる最中は喋らないし、精々頷く程度。
噛んでいる回数も時間も、一般的に言えばかなり長い方だった。
「相手を外見で判断する、というのは一長一短かと。
未だ世では只人が多数おりますし、
小さな子どもを守ろうとしなくなったら世も末かと」
あまり他者、世間というものには興味がないが、そのために分かることもある。
外見で差別しないということは、外見で区別をしないということだ。
男も一度剣を抜けば、一切の区別を失う故によく分かる。
だからこそ。
ジュースを一口飲んで、二人を見渡すように。
平時の時ぐらいはつながりを大事にしなければ。
■ヨキ > 「ヨキは島の外については不勉強であるからな……うむ、君は日本、ないしは地球の出身者か。
世界の異なるヨキにとっては、海の向こうもまた異邦でな。
君の故郷は、どんな土地だったのだね?
感心してもらえるか? ふふ、有難う。
大変さが付き纏うのは、いかなる職業とて同じさ。
その中で――ヨキの幸運は、その大変さの中にも救いの多いことだ。
例えば……君らのように、たまの悪ふざけに乗ってくれる者のあること、とかな」
(マティアス、そして湖城の顔を見比べる。
能天気なまでにリラックスした顔で、笑ってみせた。
湖城の言葉には、ああ、と頷いて)
「何も、誰も彼も十把一絡げに平等に見ろ、ということではないさ。
年齢や性別、異能の有無に関わらず、強者が弱者を守るのは、世の秩序の礎であるよ。
だが……ここは常世島だ。君らのように真っ当に暮らす者が大半なれど、中には不法を働く者も居る。
生徒を守るのが教師の務めだが、各々には自衛をも努めてもらわねばならんのでな」
(乾杯を済ませ、取り分けられたデザートを大きな口で頬張る。
うまい、と唸って、一口ずつもぐもぐと噛み締める)
■マティアス > 「私の故郷はヨーロッパですよ、私がいた頃は魔術、というか教会の認めないものへの弾圧がかなり厳しいところでしたね」
「まあ今はかなり自由らしいですが、ここ百年のことはあんまり知らないですね、日本暮らしが長くて」
「そう言って頂けると嬉しいですね」
「何かしたくなったらご自由に呼んでください、私ならいつでも悪ふざけに乗りますよ?」
(そう微笑んで、ザッハトルテを食べ始める)
(まずはザッハトルテを一口、甘さ控えめなチョコレートと生クリームの風味が良く合う)
(そしてオレンジジュースを苦味の残る口の中に流し、苦味と爽やかな柑橘のコラボレーションを楽しむのだ)
「んふー……♪」
(至福の時間、綺麗な顔立ちをほころばせながら、ザッハトルテを楽しむ)
(来てよかった、と心の底から思った)
■湖城惣一 > 「俺は見ての通りの日本の僻地だな。魔が多く潜むだけで、あとは鬱蒼とした山が広がっている」
マティアスの故郷の話を聞きながら、自分も話を添える。
「しかし、百年か。そうなると俺が一番の若輩ということになるな」
明らかに気にした素振りはない。話の種がわりなのか。
見た目通り、かどうかはともかくとして18歳。まだ青春の盛りである。
思っていたより和やかに進行している。自分が混ざって違和感がないかとも思ったが、どうやらそうでもないらしい。
ヨキという教師もマティアスという少年も、気さくに話が通じる一点で好印象だ。
「ええ。これが救いに通じるというのなら、いかようにも」
笑ってみせるヨキの姿には、大きく頷いてタルトを口に運ぶ。
たっぷりと咀嚼しながら、ヨキの話に耳を傾けた。
聞き終えて、たっぷり十度咀嚼して飲み込むと、
「ええ。多少のいざこざでまで仲裁に入っては手が足りないですが、
ここでは異能のすれ違いが危険にもなりますね。
用心するに越したことはないのでしょうが、そのバランスが難しい」
などと答えながら再びデザートを口に運んだ。
■ヨキ > (おお、欧羅巴、と目を輝かせる)
「ますます異国ぞ。本物は写真の中でしか見たことがないのだ。
異邦人街にも似たような情緒はあるが、現地となれば、吹く風や緑の色も異なるであろうからな。
そうすると、君はなかなか長く生きて居るのだな。
日本で百年と暮らせば、文化の移り変わりも顕著であろう? 長命の者が人里で暮らすには、相応の柔軟さが求められそうだ」
(ケーキとタルトとを贅沢に食べ比べながら、悪戯めかしてにんまりと笑む)
「ふふ、愉快な仲間が出来て嬉しいことだ。
君こそ、何か悪巧みがあればこのヨキを頼るがいい。
『文字どおりの』悪巧みでない限り、最大限の協力はさせてもらう」
(大きな手の短い四指でフォークを摘むように持ちながら、時折紅茶で喉を潤す。
湖城の話に、ほう、と笑って)
「僻地で、鬱蒼とした山か。ヨキの故郷も、そうした緑の奥であったよ。
みなの話を聞くだに日本と似た場所であるから、ともすればルーツが同じであるのやも知れん。
湖城君は、人間どおりの年齢であるのだな。それでも随分としっかりしている。
君より心の幼い大人とて、少なくはないぞ。このヨキとかな」
(タルトを口に運びながら、やはり君の目は確かだ、などと舌鼓を打つ。
話の合間に、視線を天井へやって考える風の顔で、)
「一筋縄では行かぬ、とは、まさにこの島全体のことだ。
生真面目な君にとっても、心休まる時間が少しでも多ければいい。
それで、だ。心休まると言えば――せっかくの男子会であるのだし」
(視線を正面に戻す。
わざとらしく目を細め、これこそ本題と言わんばかりに)
「ベルンシュタイン君に、湖城君。
君ら、気になる女子などは居らんのかね。まだ居はしなくとも、好みのタイプとか?」
■マティアス > 「……これ、もしかして私が一番歳食ってたり?」
(メンタルが永遠の若者なのでよく忘れるが、自分は寿命を投げ捨てかれこれ千年以上も生きてるのだ、爺どころかミイラである)
「ええ、一般人と一緒に暮らすのって本当に大変ですよー? 主に認識の操作と戸籍問題」
「まあそこそこ権力ある人間と仲良くして、そこらへん融通するのが一番簡単ですね、権力者に取り入るのは錬金術師の十八番なんで」
(タルトを口に運びながら、さらっと黒い事を言ってのける)
(一応学生証は本物だが、取得に使った戸籍はぶっちゃけ真っ黒だ)
「魔術に恋してます」
(ノータイムで言い切った)
(恋愛感情を人間に抱いたことはないが、よく「恋」と説明される精神的変調を魔術と接しているときは感じられるのだ)
(つまりこれは魔術に「恋」しているのではないのだろうか)
■湖城惣一 > 仲間、と聞こえてきた言葉を口中で反芻しながらタルトを咀嚼。
飲み込み、軽くジュースにくちづけながら再び頷いた。
「言った通りに自分は対人関係が特に苦手でして。
マティアスのような腹芸も得意ではありません。
人生経験という点において、先生より大人びているかは分かりませんね」
客観的に物事を見ることも、主観的に物事を判断することも。
どちらも苦手なのが湖城惣一という男だ。
権力者に取り入り、仲良くするというマティアスにも、
こうして、まさに教師然とした振る舞いでありながら人生を楽しむようなヨキにも。
どちらとくらべても己が大人びているとは思っていなかった。
なにせ、と。二口目のタルトを咀嚼しながら思う。
その折、ちょうどヨキの最後の問いが重なり。
「この間、ようやくこちらでの友人が出来たばかりでして。
彼女のことは好ましいとは思いますが」
思ったままのことを答えた。
漫画の知識で、そういった問いが色恋の話であることはわかっていた。
そのため一応はすんなりと話を返し。
しかしながら、恋だとか、愛だとか、そこまでは未だ想像もつかない男であった。
■ヨキ > 「ふふ、どうだか。ヨキが暦の区切りを意識するようになったのは、この島へ来てからのことであるから……
あるいは本当に、君がいちばんの年長であるやも知れんよ」
(そうは言ったものの、ヨキのその顔を見るに、年齢というものを本当に数えたことがないらしい。
実際の答えは、杳として知れない)
「錬金術師も、芸術家も、パトロンの獲得は死活問題であろう?
山師と目されることも少なくないとなれば、難儀な生業だ。
……だがその難儀のうちにも、君は秘儀の術を愛して止まぬのだな。天晴れなことだ」
(魔術への恋、大いに結構、と満足げに頷く。
湖城の真摯な受け答えにも、特に鼻白む様子はない)
「大人びているとは分からない、か。
ならばヨキは、これから大人になろうとしている君と、今こうして話をしているのだな。
男子三日会わざれば何とやら、だ。このヨキを、大いに刮目させてくれたまえ」
(そうして、湖城が好ましい、と思う『友人』の話には、穏やかに笑みを深めて)
「そうか。好ましい娘が居る――か。いいことだ。
男が娘から学ぶことは、男が男に施せるものではないからな。
その娘もまた、君から学ぶことも多かろう」
■マティアス > 「そういう風に捉えれるならそれでいいんじゃないですか?」
(二切れ目のザッハトルテに口をつけながら、湖城に視線を向ける)
「自分の劣っている部分をちゃんと理解して、伸ばす努力もしている、そこらへんちゃんとできる人は将来成長できますよ」
(一つ一つ言葉を考えながら喋るのは相手を思いやった結果だ)
(そういう風に努力していけるのなら、将来きっと善い人間になれるだろう、まだまだこれからということだ)
「……ええ、私にとって魔術とは、守り高め求めるもの」
「研究を守るためならば聖水も飲み干せる、研究を高めるためなら何人でも斬れる、魔を求めるためなら心臓だってくべられる」
「魔性に惹かれるこの感情は、まさしく恋でしょう」
(頬を僅かに紅潮させ、恋する化生は語る)
(魔術のためならば毒も刃物も望むところ、マティアス・ベルンシュタインという化生を突き動かすのはただそれだけなのだ)
■湖城惣一 > 将来成長できますよ。マティアスの言葉には、ふむ、と顎を撫でながら思案した。
「そうであることを願うばかりだ。いや、そうであろうと思う」
願うだけでは叶わない。だからこそ、その言葉に沿うように自分を律さねばならない。
いずれの二人の言葉からも、こちらを慮るような意識が感じられる。
空気も感情も読めない男であったが、それでもなおそう感じた。
続くマティアスの朗々とした語りには、湖城も一つ思う所があった。
彼もまた剣に生涯を捧げてきた身だ。
しかし、目の前の少年――否、魔術師ほどの熱量はなかった。
まるで"剣を磨くしかすることがなかった"とでも言うが如く、
ただ当たり前のものとして剣の境地に挑み続けていた。
マティアスのような熱意があったならば、己の剣に対する心境もまた変わったのだろうか――と、思うところがないでもなかったのであった。
しかしいずれにせよ、湖城惣一という男は今変化を迎えようとしてはいる。
だからヨキに対しても、
「ええ。学ぶことばかりです。どこまで行けるかは分かりませんが……。
やれるだけはやりましょう」
■ヨキ > (半ば蕩けるようなマティアスに、ふっと笑った。
さながら熱意への褒美のように、彼の皿へタルトを取り分ける)
「大したものだ。すると、聖水にそれだけリスクを負うとは……魔の眷属か。
まあ、それだけの意欲は大いに結構だが、くれぐれもこの島では暴れぬように。
このヨキが、君のせっかくの勉学を阻まねばならなくなってしまうからな」
(あっけらかんとした調子で口にする。
それから、自分とマティアスと、あまりに性質のかけ離れた湖城の顔を見遣る)
「後悔だけはするな。
ヨキが時として君の考えに異を唱えようと、君が何かを成そうとすること、それ自体に反対はせんよ。
教師とて単なる木偶ではない――君にとって、何かしらの意義があればいい」
(言って、湖城の皿へはザッハトルテを取り分ける。
自分は残りのケーキとタルト、半ピースずつを)
■マティアス > (魔術への愛で正気を失っていたが、お皿にタルトが分けられたあたりで正気に戻る)
(わりと現金な奴である)
「ええ、わかっていますよ? 研究は誰にも邪魔されたくないですし、邪魔されるようなコトはやらかしませんって」
(研究も大事だが、それに執着しすぎてヘイトコントロールを疎かにするつもりはない)
(ヨキの忠告を受け流し、さっそく分けてもらった分のタルトを食べる)
■湖城惣一 > 目礼でザッハトルテの礼をヨキに対して告げる。
それを口に運びながら、湖城はヨキをじっと見つめていた。
もとより、人と話すときは相手の目を見返すことを常としているが、
やはり目の前のヨキという教師は手馴れている。
幼い、とはいうもののこの場の会話の手綱を握り、
マティアスと、自分の間で上手く話を進めていると思う。
警告にせよ箴言にせよ、ヨキの言葉は相手に対して受け止め返すような言葉に感じる。
会話とは、こういうものだろうか。と。
そこまで考えて、ようやくザッハトルテを飲み込むのである。
「ええ。自分は莫迦故、ただ道を往くしかできませんので。
進んだ先で何かをつかむ、その道標とさせていただきます」
と、感謝を述べた。
■ヨキ > (タルトで正気に戻るマティアスに、愉快げにくつくつと笑う。
“くれぐれも『この島では』”。理性的な人物と見えて、マティアスへそれ以上の示唆はしなかった)
「このヨキも、自分の作品については随分と我侭であることだ。
よく寝食を忘れては、保健委員などに呆れられてしまってな。
……君ともなれば、そのような粗相をしそうには見えんが」
(ザッハトルテを口へ運びながら、湖城からの視線に気付く。
が、その心中を想像するまでには至らずに、不思議そうに片眉を上げてみせるに留めた。
話の合間に視線を動かしたとて、このヨキが持つ金色の双眸は、常に自分が声を掛ける者、人から声を掛けられた者へと注がれている。
もはやそれがひとつの習性であるらしい)
「君ならば……均された道を行くことも、道なき道を切り開くことも可能であろうな。
そういうとき、人や獣や、星さえも、何もかもが君のしるべにも、慰めにもなる。
君と巡り会えたこの悪戯は、ヨキにとっても一つのしるべと成り得たのだよ」
■マティアス > (タルトをもりもりしながら二人の会話を傍観していたが、ここで携帯のアラームが鳴った)
「……あー、そういえばそろそろ帰らないとヤバい時間ですね」
(アラームを解除しながら呟く)
(現在自室に試作品の使い魔特化の黒猫を飼っているのだが、もうすぐ定期検査の時間だ)
(とりあえず残ったタルトを腹に詰め、帰り支度をする)
「と、まあ帰宅時間になったので、そろそろ帰ります」
「湖城さん、ヨキ先生、本日はありがとうございました」
(ぺこりと一礼)
■湖城惣一 > 「ああ。……また、会う機会があればその時ゆっくり話の続きでも」
思えば、あまりマティアスに話をつなげることはできなかった、と。
そこを少し反省してから目礼で別れを告げる。
こちらもそろそろ儀式を行なう時間だろうか、と時計を眺めた。
彼と同じく、話をしている相手に対して視線を向ける様、
何度も目を合わせる機がかぶっただろう。
「……出会う全てが。なるほど、確かに今それを実感しています」
他者への感心が極端に薄かった男にとって、
今、その意識がやや外に向いただけでもめまぐるしいほどだった。
去りゆくだろうマティアスと、そして話を続けるヨキに。
それぞれ視線を向けてから、静かに頭を下げた。
「いずれも心に留めるとしましょう」
そう言ってから、最後の切れ端を口に放り込んだ。
■ヨキ > (マティアスの言葉につられて、おお、と柱の時計に目をやる)
「いや、すっかり時間を忘れて話し込んでしまったな。
君らが良い話し相手となってくれたお陰だ」
(最後のデザートと紅茶を味わったのち、それではご馳走様でした、と笑って手を合わせる。
食物への畏敬とはつかず、日本人の慣習に従っているだけ、という具合に見える)
「湖城君も、ベルンシュタイン君も、今日は来てくれて感謝する。
広い上に人も数多い学園だが、このヨキとの縁を覚えていてくれれば嬉しいよ。
そう、君らもまたそれぞれが『出会ったうちのすべて』だからな」
(心底から満足した様子で席を立つ。長身の湖城より、更に大きい……が、大柄というよりは、細長い印象が勝る)
「では、そろそろ出るとしよう。
またの機会を、ヨキは楽しみにしているぞ。何度でもな」
(そうして二人に先んじて出口へ向かい、三人分の会計を済ませる。
これにてお開き、と。年かさの友人のような顔をして、笑って別れるのだった)
■マティアス > 「そうですね、次は湖城さんの話を聞かせてほしいです」
(自分のことは結構語ったし、次に会うときには彼の話を聞かせてほしいものだ)
(彼の喋り方は結構気に入っているし、次に会ったときはどういう風に成長しているのか楽しみだ)
「ええ、ヨキ先生も今日はありがとうございます」
(よい笑いかたをする男だった、教師として生徒と真摯に向き合う姿をきっと忘れない)
「それでは皆さん、本日は本当にありがとうございました!」
(最後は笑顔で別れよう、そう思いながら手を振り、二人の姿が見えなくなったら帰路につくのだった)
ご案内:「カフェテラス「橘」」からマティアスさんが去りました。
■湖城惣一 > 「ええ。忘れはしないでしょう。今度は学園ででもお会いしましょう」
そういってヨキを見送った。
湖城が立ち上がったのは最後だった。
ゆっくりとザッハトルテを咀嚼し、最後まで味わいきって飲み込んだ。
その代金を幾ばくか払おうかとも思ったが、ここはそういう場所で、
むしろ支払おうとすることこそが無礼に当たるはずだ。
今はただ、二人との会話を思い返して軽く目を閉じる。
悪くない、いや、いい時間だった。
次に会うときは何か己は変わっているだろうか、と。
無表情で淡々と話をしていた湖城だったが、最後の瞬間、ふと小さく笑みを漏らした。
そうしてようやく踵を返し、カフェテラスをあとにするのであった。
ご案内:「カフェテラス「橘」」からヨキさんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から湖城惣一さんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」にリーセ・グリエさんが現れました。
■リーセ・グリエ > ――紅茶を注文し、
ゆったりと紅茶を飲んでいる。
「ふぅむ――」
じっくりと紅茶の水面をみて考えている事はたいした事ではない。
この値段でこの味を出すには――
と、記憶と照らし合わせながら、
ゆっくり吟味しているだけである。
別に再現するつもりはない。
主には最高級のものを
最高の淹れ方をして、
最高のタイミングで出すものだ。
だが、
最高であるには研鑽が必要だ。
どんな場所からでも学び、
最高を研ぎ澄ませる。
■リーセ・グリエ > 「――いかんせん悩ましいものですね。」
ふぅ、とため息を一つついて、
紅茶を一口。
優雅な一時、
まぁ、これくらいの余裕の一つや二つくらい、
たとえ激務でも作れねば超一流とはいえまい。
というのが本人の談ではあるが。
問題はそこじゃない。
そう問題は――
「ここに美人の女の子がこう、
微笑みかけて前に座っていてくれたら――」
最高なのに。
つまりは
まぁ、そういうことである。
■リーセ・グリエ > 仕方ない、仕方ないのである。
私は 一人。
欲しい存在は目の前にはいない。
ならば、どうする。
君ならどうする。
そう私ならば――
「美少女ウォッチするしか……
ありませんね!」
ぐるりとテラス内を見渡しながら、
美少女を探してじっくり見るのである。
見てるだけだから大丈夫だ、問題ない。
■リーセ・グリエ > 「まぁ、軽くお茶のお相手してくれる人がいれば、
奢るんですけどね。」
なんて、と聞こえるよういいつつ紅茶を一口。
うん、美味しいと頷く。
■リーセ・グリエ > 「――まぁ、こう気だるい午後の一時を過ごすのも悪くない。
そう、
悪くない気分――」
仕事ーとかいわれそうであるが、
緊急の仕事でも入らない限り、
こいつは常にバカンス気分だ。
はやくどうにかしないと。
■リーセ・グリエ > 「――あ、すみません、
アップルパイとお代わりをいただけますか?」
なんて注文をしながら、
美少女ウォッチを続ける。
眼福眼福。
しかし眼福で押し留めねばならない。
OSHIOKIは嬉しいけど、
避けねばならぬが故に。
■リーセ・グリエ > 「くっ、私の左腕がッ……!」
お尻触りたいのを我慢しつつ、
かくして時間は過ぎ去っていくのである
ご案内:「カフェテラス「橘」」からリーセ・グリエさんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」に渡辺慧さんが現れました。
■渡辺慧 > カウンター席。
いつものパーカー姿に、フードを頭に被って。
いつも通りにそこにいた。
いつも通りのブレンドのホット。それのカップをテーブルの上に置き、いつも通りな……。
――それはいつも通りだろうか。
時計塔の出来事から1日を置いて。頬の熱は収まった。
「……うぅ……」
……時折、脳裏によぎりそうになるのを、振り払って。
熱がこもるのを阻止しているのだから、それは“ほぼ”正しい表現だ。
■渡辺慧 > ふぅ。
と小さく息を吐いてコーヒーを喉奥へ流す。
冷静さ――冷静、ではある。
思考を回す余裕があるほどには冷静だ。
そうなると。
後ろばかりではない。
前。先への思考が、頭をよぎる。
それはこの先。
もう会えないかもしれないな、なんて。
どうしようもなく繋がりが薄い、感覚。
ご案内:「カフェテラス「橘」」に朽木 次善さんが現れました。
■渡辺慧 > 時計塔と言う、あの不思議な雰囲気の隔絶されたような。
あの感覚の中で過ごす時間は、自分にとって、ひどく好ましく。
また。彼女自身に対しても、友達と言ってくれた、そんな存在に会えなくなる、というのはまた。
それは寂しい、と言えるものだ。
――だけれども。
彼女が何を感じたのか。それは自分では断言できない。
自分は彼女ではない。
あの兎じゃあるまいし、自分は彼女の内心を知ることは不可能だ。
だから、まぁ。どうなるかなんてわからない。
――そもそも、あの時間はひどく幻想的な雰囲気だった。
だったら。それこそ、魔法でも解けたかな。なんて。
自らのくだらない冗談に肩を震わせた。
コーヒーを口に含む。
■渡辺慧 > そもそも、だ。
自由になりたい、なんて言っている自分が。
誰かに固執しすぎるというのも変な話だ。
――だから、いつも通り。
いつも通り、気楽に。普通に。自由に。気まま、に。
そして、それで過ごしてるさなか。
また会えたなら、その時は――。
「ごめんなさい、だな」
一人嘯く。
そのぐらいは、子供にだって言える。
■朽木 次善 > 「あの……すみません」
慧がコーヒーを口に含んだところで、一人の男が声をかけてくる。
目が泳ぎ、自分から声を掛けたにも関わらず、どこかそれを後悔するような表情で。
先ほどの呻き声を聞いたのか、下から覗き込むようにして尋ねた。
「大丈夫、ですかね。
ああいや、俺の勘違いなら、それでいいんですが。
どこか、悪くされていたらと、思ったのですが……。
もしかして、お邪魔、でしたかね……」
事情は分からない。
だが声を掛けるだけなら、恥をかくのは自分だけでいい。
もし勘違いであればただそれだけのことと思いながら、男は愛想笑いを浮かべた。
■朽木 次善 > 「あっ……これは、お邪魔、でしたね」
続く言葉を聞き、そこに込み入った事情を感じた男は、
愛想笑いを強くして謝辞を述べた。
「大丈夫そうなら、何よりです。
すいません、お邪魔してしまって」
■渡辺慧 > 「あ、お、え?」
急に声をかけられて戸惑う。
自らの嘯いた声が聴かれていたのだろう。
ひどく気が抜けていた。
しかしながら……傍目に分かるほど気落ちしていた、いや。
態度があからさまだった、ということであり。
そしてなにより、この目の前の人物は、それを見かねて声をかけてきてくれた、そのぐらいは――考える知性はある。
「……あー、っと」
「いや、ありがとう」
「大丈夫と言えば、大丈夫」
苦笑まじりにそう言う。
だけれど、折角だ。
折角、声を。
「お邪魔なんかじゃないよー」
「折角だし……」
と、自らの座るカウンター席の横を、視線で示した。
そこにはもちろん――空席、である。
■朽木 次善 > 苦笑交じりに慌てて返されれば、同じように驚いたような表情を浮かべ、
だが自分を受け入れる姿勢を見せてくれた相手に失礼がないように、苦笑いに変換した。
「ハハ、すいません。
仕事柄、節介とわかっていて首を突っ込むことも多くて……。
ああ、生活委員なんですが、一応職業柄、になるんですかね。
すいません、大丈夫であれば、それに越したことはないので」
視線で示された先に空席がある。
だとしたら、自分の読みはそう大きく外れてはいなかったのだろう。
苦笑をしながら、ではすみません、お邪魔しますと頭を下げて座る。
「……『大丈夫そう』、ではあるんですが。
……たまに。夜中に仕事をしていると、俺も独り言を言うときがありまして。
もし、そこに相槌を打つ相手が居たらなと思うときがあるんです。
はい、でも、うんでもいいので、ただ自分の考えをまとめる壁があればと」
これも、壁や床を整備する者としての職業病になるのですかね、と冗談めかす。
「『折角』であるのであれば……懊悩を吐き出す壁にしていただければ嬉しいのですが。
差し出がましい、ですかね。ハハ」
■渡辺慧 > 「いらっしゃい、来てくれてうれしいよ」
「さぁ自分の家のように寛いでおくれ」
なんて、冗談交じりに言う。
目の前の青年は、どことなくうかがい知れない雰囲気がある。
だけれど、そんなものは今は些事だろう。
気落ちしていているように見えるあかの他人へ、職業柄、という話で声をかけられる。その事実に、それは関係ないだろう。
――タブンネ。
「生活委員会……。……なるほど」
「恥ずかしながら、生活委員会、ってーと」
「…………こう、掃除とかしてるイメージが強くて」
あの、生真面目な少年を思い出す。笑い方を練習中の彼だ。
あの少年のイメージが、そのままでてきてしまっているのだろう。
「シッ」
だから。
職業柄、という冗談めかした言葉に笑いがこぼれた。
あんまり、間違っていないのかもしれないな、なんて。
「……うん。じゃぁ」
「少しだけ、壁に……と言っても」
「壁さんにだって意思はあるだろうし。つまらない話――いや」
青い話なだけかもしれないけど、と言って。
独り言を言う。
と、言っても、それは長くもなく。複雑な話でもない。
ただ。
「少しばかり、友達に……失礼をしてしまってねー」
■朽木 次善 > 「それは光栄ですね……しかも楽しい同居人付きですか」
冗談に冗談を返して、自分の手に持っていたコーヒーカップを改めてテーブルに置いた。
「ああ、間違ってませんよ」
「最もそういうのを見て頂いてるってことが、俺達としては嬉しいところなんで……」
誰を思い浮かべたのだろう、だが誰を思い浮かべたのであっても、勤勉に仕事をこなしている誰からしい。
そういう意味では良く働いてくれているその誰かに感謝した。
生活委員会の仕事の殆どは、そういった泥臭い仕事という言葉に尽きる。
「いいえ、大丈夫ですよ」
「これもまた、職業柄という話になってしまうのですが、慣れていますので」
「しかも今回は、その悩みを、俺が解決しなくてもいいって前提つきだ」
「普段は、その悩みを解決する立場にあるわけで」
「ああ……ダメですね。今回は話を聞かせてもらう側、でしたね」
自分の話は、またこの自分の家に帰ってきたときにしよう。と苦笑しながら言葉を止めた。
慧の言葉に、相槌を返す。
「友達に、ですか」
「……それは、かなり相手を傷つけるようなこと、だったんですかね」
「ああでも、それじゃ……大丈夫、とはならないか」
あくまで相手の話の壁になろうという意思を言外に伝えるように、
短く切ってコーヒーに口をつけた。
■渡辺慧 > 「いいや、どちらかというと住み着いた野良猫かもしれない」
雰囲気は軽く。その方が自分に合っている。だからそれを続けて、コーヒーを再び口に含んだ。
「すっげー、真面目な……いや生真面目すぎる生活委員に友達がいてさ」
「おにーさんも……どうだろうな。仕事熱心な感じ、あるね」
もっとも、それは掃除に対して、かどうかはわからないけれども。
「壁さんにも意思はある」
「なら何言ってんだこいつ、とでも思ったらどついてくれたっていいさ」
「『折角』ですもの」
先程言った言葉。相手も使った言葉。
それを繰り返し使う。そっちの方が気楽でいい。
自ら話しているだけ、なんて。自分のペースには、ほど遠い。
「んー……どう、なんだろう」
「俺は、ちょっと。そういう機微に疎くて。でも」
「ばかーーーーーっ」
そのときあった言葉をまねるかのように。
もちろん、声量は小さく、だが。
「そう言われて、そのまま」
今日にいたる、って話。
曖昧模糊とした話。相手も反応しづらいだろうな、なんて思いながら苦笑する。
まぁ……しかし。聞いてもらえるのは、確かに気分が楽になる。
それは間違いないようだ。
■朽木 次善 > 「いや、俺は、そういう子に比べたら適当、ですよ」
「今回も、話しかけやすい相手かどうかを、ちょっとだけ伺ってたわけですし」
「もしタトゥーばりばりの筋肉ムキムキのモヒカンの青年が悩んでたら」
「ちょっと声掛けてたか分かんないですからね」
「まあそういう意味もこめて、『折角』、ですし……」
コーヒーを混ぜながら、冗談を重ねる。
この手のやりとりが出来る相手は、朽木もやりやすくあった。
深刻にならず、単調になりにくい。
「それは」
馬鹿。
直接的な物言いだ。余程のことをしたのだろう、と思った。
だが、その言い方が余りにも子供のようで、少しだけ表情に苦笑が載ってしまった。
そのモノマネが正しいなら、それに吐いて悩んでいる彼自身にも、可愛げを感じざるを得ない。
「ただ、そう言われてなお」
「相手のことについて一人頬杖をついて悩んで貰えてるというのは」
「馬鹿と言ったその人も幸せ者だとは思いますけどね。個人的には」
「……『馬鹿なこと』を、されたんでしょうか……ああもちろん」
「話しにくければ結構ですので。適当に濁してもらえれば」
壁としては不完全ではあるのだろうが、
それでも誰もいないよりはマシかもしれないという思いだけで、生活委員会はそこに座って尋ねる。
■渡辺慧 > 「なら、今回は。生活委員会の新たな実態を勉強させてもらった、ということで」
「おにーさん、限定なのかもしれないけどね」
「でも、いい活動内容だと思うよ」
そう言って楽しげに笑う。
でも、そのモヒカンの青年が悩んでるところも見たくあるな……。なんてふと呟いた。
馬鹿なこと……どうだろうか。
実際、あの時の事は。何が起こったか正直、一番分かっていないのは自分だろう。
だけれど、それが起きた過失が自らになかったとしても、彼女の――…………一瞬、またよぎりそうになって、頬に熱がこもりそうになる。頭を振って、笑みで誤魔化した。
「どーかな。俺は、友達だと言ってくれた人がいなくなるのが寂しいだけで」
「人のことをなんら、考えていない愚者かもしれない」
「しかしながら、それでも考えてしまうあたり……」
続く言葉がなかったのか、そこで一息ついて、また。
コーヒーを含む。苦味が、ちょっとした苦笑を生んだ。
「あぁ、うーん……」
話しづらいことだろう。
何をやったわけでもない、というより。
ただ、見た。それを。それだけだったとしても。
「なんつーか……。……えーあー。んー……」
「み、見ちゃって」
本当にそれだけ。
それ以上は口にすると、どうにも。
■朽木 次善 > 「それは、ありがたいですね。こちらとしても今後の活動がやりやすくなる」
見ていると表情が、何か意図的に外側に出ないように努力しているのが見て取れた。
何かを思い浮かべ、首を振り、笑みを浮かべるその様子は、見ているだけでも楽しいと思える。
「……友達、ですか」
「それもまた、羨ましいですね……」
ちょっとした苦笑を眺めながら。
不可解な間とともに、吐き出された言葉を吟味する。
吟味して、それでも理解出来ず。
その言葉はそのまま口から出てきた。
「………?」
「見ちゃって」
事故、ということだろう。
事故で見た。……ああ、成る程。もしかしたら。
慧の態度等を見て、思索を巡らした壁は一つの結論に行き当たる。
「……その誰かは、もしかして女の子、なんでしょうか」
「嗚呼、でもこれは、間違っていたら少し下世話な詮索になります、かね……?」
角度によっては突き刺さりかねない言葉を、知らずに推測として呟いた。
■渡辺慧 > 「生憎、宣伝能力は低いから期待しないでおくれよね」
友達、と言う単語は。自分にとって少しばかり、そう軽くはない。
と、思う。
「どうにも、普段から」
「のらりくらりしてるせいか、多くないんだよね」
「……だーからこそ、そう言ってくれる数少ない、子」
と。
そこまではよかった。そこまでは、順調に言葉を吐きだせた。
この、目の前の青年が、吐いた。
分かりやすく。急角度に刺さる。
その、推測。
「ひぐ」
意味のないうめき声。
自分の頬の温度が上がっていくのが分かる。
それだけで、1日以上過ぎた今でも。
簡単に動揺するのだから、冷静に等やはり。
なり切れていなかったのだろう。
――浮かび上がり、浮かび上がり。
慌てて、それを消す。
「そ………………の通りです、はい……」
事実上の、降伏宣言、それにひどく似ていた。
なにに降伏したかは、誰にもわからないままだろうが。
■朽木 次善 > くすり、と。
やはり笑みが溢れる。苦笑としてした表出してこないそれは、しばしば他人を怒らせる。
今回もそうならないように、少しだけ顎を引いて相手を馬鹿にしてるわけではないことを伝え。
相手の頬が紅潮していくのを見た。
放り投げたボールは、綺麗に鳩尾に突き刺さったのだろう。
それほどきつい角度で投げたつもりも、勢いをつけて投げたわけでもない。
それでも、当事者にとって受けたボールの重みだけで十分に衝撃があったらしい。
言いよどみ、言葉に詰まる慧を見て、とんとんと自分の眉間を指で押した。
「成る程、それは」
「悩むかもしれませんね」
「俺だったら、悩んでましたし、壁として受けておいてなんですが、大丈夫と箔を押すことはきっと出来なかった」
「ああこれは、俺自身の性質のせいですので、ご安心を」
コーヒーを、スプーンで少しだけ混ぜる。
視線を落として。
「大丈夫そう、でしょうか……?」
「何を見たかは聞きませんが、見た記憶は消せないなら」
「大事なのはこれからだと、ああ、こんなことは伝えるまでもなく、知っているからこそ」
「大丈夫、なのかもしれないですね」
苦笑いを浮かべ。
「俺も、大丈夫かな、と思います」
「まだ伝えられるなら、きっとそれは伝わるということですから。何を伝えるかは、別にしても」
「馬鹿と言われてなお、何かをしようとしてくれる誰かの心を無碍に出来るほど、人は一人じゃ生きられないと、俺も思いますよ」
それに。
まだ『伝えられる』ことは。自分にとっては少し羨ましくもあった。
■渡辺慧 > 「う、ぅ……」
片手のひらで顔を覆うと、深く息を吐き。
落ち着かせる。
やはり、まだ。顔が熱い。
のらりくらり……そう自らが言った筈なのに、これじゃあ。
ひどくわかりやすい。
相手の様子を見る余裕はない。
ないけれども……この状態においても。
なんとなく、笑ってくれている気がした。なら……少しは、大丈夫なのだろう。
もう一つだけ。小さく息を吐き出すと。
コーヒーへ手を伸ばし。片手を眼前から外して。
少しだけ赤くなった顔で、青年を横目で見ながら。
ぐびり。喉がなりそうな。
「……ふぅ」
「…………慣れてない。いや、慣れていたら、まずいんだろうけどね」
ぎこちないながら、その顔に苦笑を浮かばせる。
――あぁ、実に。
この壁さんは…………話しやすい。
「そ。……これから」
「でも。俺は断言できないし……さっきも言ったように機微に疎い」
「だから、どうなるか、わからないけれども」
でも。
「おにーさんが大丈夫だって言ってくれるなら、一つの材料にはなる」
「だから、ありがとう」
青年の心情はわからない。
自分は、やはり。色々余裕はない。
だけれども、伝えることは出来る、と。
だから今、必要な言葉を、そうやって。
聞いてくれた、この。壁さんへ投げかけた。
『折角』だから。
■朽木 次善 > 結局のところ。
自分の申し出や存在は無粋であり、必要はなく。
最初から彼の中に答えはあったのだろう。
そしてその答えを、どうにかこうにか、自分の中にある勇気で外側にだそうと、
最後の一歩を踏みだそうとして力を込めていたのだろう。
それが、呻き声として出ただけ。
いずれ、多分その一歩は自分の力で踏み出していただろう。
苦笑を浮かべる相手に、同じようにコーヒーを口にした。
「どうなるか分からなくても」
「きっと、それがキミが選んだ道でしょうからね」
「どうなるか、その先までは生活委員でも見通せないですが」
「自分たちの舗装した道の上で、誰かが万全にその道を歩んでくれるかもしれないというのは」
「励みになりますよ。なので、どういたしまして、と返します」
なんだか、きっと少しばかり特別な空気になりすぎた。
この形で去ってしまえば、なんだか恩着せがましいように思えて。
青年は少年に、最後に言葉を、問いを投げることにした。
「……その子は」
「キミから見て、魅力的な子、ですか?」
「それだけは、具体性を確認してから帰ろうかなと思うのですが。出来れば教えていただきたいですね」
「インフラ整備は、環境の確認を行い、それを報告してからでないと、仕事が出来ない業種なので」
「俺が今感じている先の光明は、本当に光明なのか、確認させてもらいたいなと思いますね」
悪戯めいた苦笑で、肩を竦め。
「すいません、それもこれも、職業病なので」
と、口の端を持ち上げた。
■渡辺慧 > 最近。
自分は変わってきたと、そう自覚することも多い。
その結果がこれで、またはあれで。そして。
前なら、きっと。この青年に対しても。
大丈夫。それだけ言って終わっていた、それは自分でもわかる。
だから、最後の問いに。
悪戯気なその笑みへ。――分かっている、その意図も。
だから、意趣返しでもなんでもない。
ただの……いま思いついたこと。
「……その問いに答える代りに、あれだ」
「おにーさんの名前と」
「あと、その敬語なしで」
自分だけ、砕けて話すなんて。なんだかすこし、ずるいじゃないか、そんな自分勝手な理由かもしれないけど。
相手の方が、年上なのは見て取れるのだけれど。
「そーだな」
「仕事を少し位……手伝ってもばちは当たらないし」
「魅力的だと思うよ?」
その答えを言った時の自分の顔は、恐らく。
いつもみたいに。猫のような、笑い方をしていたと思う。
■朽木 次善 > 「……ハハ。そう、ですね。いや、そうかな」
「それを望むんでしたら、まあ、努力はしますね」
「ハハ、こればっかりは、キミの勇気の方がずっと俺の物より強いようだ」
「中々に、染み付いてしまっているので、次会えたときに自然に言えるようにしますよ」
少し努力はしてみたが、やはり自分には中々難しくあるようだ。
すぐに言葉を変えられる程器用ではない自分に比べて、
打ち解ける速度の早いこの少年のなんと器用なことだろう、と思う。
だからきっと、この件は大丈夫なのだろう。
彼の言葉通りに。
「朽木、次善といいます」
「生活委員会、二年目……もしかしたら、先輩に当たるのかな。いやそうとも限らないか」
「……そうですか。魅力的なら、きっと大丈夫ですね」
言いながら席を立ち。
自分の分のレシートを取る。
「もし」
「もう一度会えたときは、その時は、是非ともその魅力的な友人と三人でお会い出来れば嬉しいですね」
「きっとそうすれば、何を話し、何を語り合ったかも、その時に自然と見えてくるでしょうから」
「その時に、最初に不審がられないように、まるで友達のように名前を呼ばせて貰えればと思うので」
「こちらも名前を貰っても、よろしいですかね」
■渡辺慧 > 「シシシ」
どことなく。不器用ながら、努力しているその姿に、笑い声。
「勇気かどうかは知らないけど。ただ……お気楽なだけさ」
「だから、それにも一応の期待を、させてもらうよ」
自らにはない、その……受け止め方。
あぁ、ある意味。憧れにも似たものなのかもしれない。
聞こえたその学年が、同じだったことに、笑みを深めて。
――いろんな人がいる。
だから、実に……楽しいのだろう。
「渡辺慧」
簡潔に。名前だけ。
きっと……なんとなくそっちの方がおもしろいし。
そしてなにより、それが今の気分だからだ。
「うん。それでは、またお会いしましょう」
「次善にーさん」
からかいを含めた言葉だが……なんとなく、ひどくその呼び方はしっくりくるような気がした。
次回まで、その気分が続いてるかは……自分だけが知っているのだろうけど。
■朽木 次善 > 「ええ、また。慧サン」
言って、手を振り、その場を辞する。
随分と、直球を打ち返してくれたものだ。
自分の軽い変化球は、見事にその柔軟な体勢からのフルスイングで打ち返されてしまった。
慧に背を向けて心の中で思う。
(随分と。――素直に、『魅力的』だと言うものですね)
もう少し、もしかすれば躊躇いがあると踏んでいた。
それは、自分には出来ない。
彼と彼女がどういう関係なのかは知らないし、もしかしたらこの先も知ることはないのかもしれない。
それでも、シンプルにそう言ってのけた彼に対して、笑みのようなものがこぼれ。
そして他人ごとながら、少しだけ頬が紅潮した。
これは、すでに歪んでしまった者が、真っ直ぐな気持ちに触れたとき特有の。
……ただの照れである。
背中が慧から見えなくなるまで一度も振り返らなかったので、
きっとその顔は見えなかっただろう。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から朽木 次善さんが去りました。
■渡辺慧 > 手を振る。
いつも通りの片手をひらひらとさせるあの動作。
あぁ、先程も言ったように……。
軽くなった。
何が、とは言うまでもなく、それは。
おもしろい……いや。
……おもしろい、でいいか。
あんな人もいる。それは実に不思議で。
一人で出した結論には、そこまで変わりはない。
ない、が。
あぁ、しかし。
それは、だからこそ。
――いつも通り、と言う奴なのだろう。
カップの半分を切った、そのコーヒーを一気に煽るように飲み干し……同じように席を立った。
「ひぐ」
……また、先程のように。
あらわれそうになった、幻想の類を振り払うと。
やはり、どうにもかっこつかない、その表情で、少年はその場を去った。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から渡辺慧さんが去りました。