2015/09/11 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」にラスタチカさんが現れました。
■ラスタチカ > 怒涛の如くのランチタイムも終われば、今はゆったりカフェタイムという所か。
カウンターの奥のキッチンでは、最近入ったばかりのアルバイトが、何やら香ばしい香りを漂わせる大元たるオーブンを覗き込んでいる。
「そろそろかな…」
オーブンの中ではアップルパイが焼き上がりを待っていた。
■ラスタチカ > まだ、昼間の気温が高い季節柄、焼きたてのアップルパイよりはアイスクリームの方が良いのか、それとも焼いたパイ生地にコンポートを載せて冷やして食べるタイプの方がいいのか、そんな試行錯誤中。
「でも、早生のりんごが出てくるようになる季節なんですよ?なんか作りたくなるじゃないですか。初物は縁起がいいっていいますし。」
とはいえ、これだけでは心許ないのか、オーブンを離れると、冷凍庫を開け、りんごのシャーベットの残りを確認している。
■ラスタチカ > 「紅玉りんごのタルト・タタンも美味しいんですよね…」
アルバイトの身分では流石に仕入れに口を出すのもアレかなと。
今は願望をため息混じりに呟くのみとし、冷凍庫を閉じた。
「ケーキは間に合いそうですか?
焼き菓子でいいなら、少し作っておきますが。」
それとも、夕方に向けて何か仕込みでも始めた方がいいのかと指示を仰いだりしている。
ご案内:「カフェテラス「橘」」に美澄 蘭さんが現れました。
■美澄 蘭 > 蘭の主な勉強場所は、自宅に図書館、そして教室棟のロビーである。
上質なお茶と、たまの焼き菓子。カフェテラスでの勉強は、週1の贅沢だ。
「こんにちは」
日傘を閉じ、そう言って店内に入ってくると、窓から差し込む光が明るさをプラスにしてくれる、ギリギリの席に腰掛ける。
■ラスタチカ > 新たな来店者の訪れに、今までまどろむようであった昼下がりの空気に動きが生まれた。
微かな秋の香りを含んだ風がキッチンまで通り、バターとりんごの香りが撹拌されて店内にも漂い出す。
「あ、はい、ただいまー!」
運悪く、ウェイトレスは出払った後だ。
コック帽子を取ると、メニューボードを手にぱたたっと席まで早足で向かう。
優雅さには欠けるがそこは愛嬌だと言い切ることにしている。
「ご注文は?あ、メニューにはありませんが、アップルパイがそろそろ焼き上がりますので、いかがでしょうか。」
そこまで言って、初めて相手を確認するように視線を上げる。
■美澄 蘭 > 蘭が入って来たのに呼応してか、厨房から小柄な少女ー少なくとも、見た目は蘭よりやや下、くらいに見えるーが出て来た。
どうやらウェイターの手が足りていないようだ。
「あっ、えぇと…」
厨房から出て来た様にちょっと戸惑いながらも
「…そうですね、それじゃあそのアップルパイと…アイスティーを…えぇっと、ダージリンでお願いします」
そう、厨房から出て来た少女にオーダーする。
■ラスタチカ > 「………」
お人形さんが喋ってる、じゃなかったら、絵本から出てきたお姫様かも知れない。
思わずそんな子どもじみた感想を抱く程には可憐な美貌を目の当たりにし、どんぐり眼をぱちぱちっと瞬く。
「…え、あ、は、はいっ!ダージリンのアイスティーですね」
オーダーに反応が遅れること、きっかり3秒。
焼き上がりを知らせるオーブンのアラーム音に、はっとわれにかえると、あはは、とバツが悪そうに愛想笑いを零す。
「あ、丁度焼き上がりみたいです!あったかい所を今すぐ持ってきますから!」
回れ右すると、ぱたぱたっと再び早足で厨房へと戻っていく。
■美澄 蘭 > (…?)
相手が一瞬ぼーっとしたようだが、その理由に気がつかず、内心首を傾げる。
色気付き始める年頃、男子との関係が基本的に険悪だった蘭は、自らの可憐さに自覚が薄いのだった。
「あ、はい…お願いします…」
ばたばたと厨房へ戻っていく背中に、独り言じみた声をかけながら見送り…そして、ブリーフケースから勉強道具を準備しにかかる。
今日は、魔術学概論の復習だ。蘭にとっては授業が少々難解なので、解説された理論を何度か振り返り、咀嚼する必要があった。
■ラスタチカ > この島に来てまだ日が浅いためか、どうも相手の容姿に過敏に反応してしまう。
客商売にはまずい、と自省しつつも、手は休めない。
トレイにアイスティーとまだ湯気をたてるアップルパイが乗った皿を載せ、再び席へと向かう。
「おまたせしました。
アイスティーとアップルパイです。
早生のりんごなので香りはまだそれほど強くはありませんが、甘みは爽やかなのでさっぱり食べられるかと思うんです…」
説明を加えつつ、グラスと皿をテーブルに置こうとして勉強道具が目に入った。
「勉強熱心なんですね」
感心したように、目を瞬かせた。
■美澄 蘭 > アップルパイがまだ湯気を立てている。本当の本当に焼きたてで、ちょっと目が輝く。
「ありがとうございます…林檎って、取れる時期でも味が違うんですね」
品種が色々あるらしいのは知っているが、時期によっても味が変わるのか…と、興味深そうに頷き、勉強道具を一旦脇に避ける。
せっかく焼きたてを出してもらったのだし、先に食べないのは勧めてくれた彼女にも、そしてアップルパイにも失礼だ。
…が、彼女は勉強道具に興味を持ったらしい。
「…ええ…せっかくこの学園に来たので、ここ以外では勉強出来ないことを吸収していこうと思って…
………あなたも、学園の学生さんですか?」
相手の言葉に答えた後、仕事の邪魔にならないだろうか、と少し躊躇してから…そう、尋ねた。
■ラスタチカ > 「日本本土で収穫されるだけでも、品種が沢山あるんです。
それぞれ風味も味も違ってきますよ。
晩生の林檎の濃厚な甘さもいいですが、この時期の爽やかさもいいものです。」
ついつい饒舌に語ってしまいつつ、空けてもらったスペースへそっとグラスや皿を配置してゆく。
「あ、わかります。
僕も最近、こちらに来たばかりですが…ここはすごい興味深いことだらけですよね。」
向学心の高さを示す言葉に、やはり、学園都市、志があるなあ…と目を輝かせる。
あなたも?という言葉には、肯定を示すように何度も大きく頷きを返した。
「あ、申し遅れました。僕はラスタチカです。ここへは料理の勉強に来ました。」
相手の抱いた配慮も知らず、同じ学園の生徒を見つけたことでちょっと舞い上がっている。
■美澄 蘭 > 「ええ…お菓子作りには紅玉が良い、なんて、母も言っていましたから」
そう言って、注文したものがテーブルに配置されきるとすぐ、フォークでアップルパイを少し切り、クリームを優しく添えて、一口。
綺麗な食べ方をしている。
「………♪」
甘く煮られた林檎の柔らかい瑞々しさと酸味が、アップルパイの温かさでほんのり溶けるクリームのまろやかさと合わさって絶妙なハーモニーを奏でている。
自然と、口角が横に、上に引っ張られた。
「美味しい…
あ、最近なんですね…じゃあ1年生で、同級生かしら?
確かに、ここは色々あり過ぎて…忙しいけど、充実してて楽しいですよね」
そう言って、柔らかい笑みを零す。
「ラスタチカさん、ですね…
私は美澄 蘭(みすみ らん)。今年度入ったばかりの1年生です。
料理の勉強、ですか…明確な目標があるって、凄いですね」
私はまだ…と言って、苦笑する。
■ラスタチカ > 「いいですよ、紅玉りんご。
生だとちょーっよ酸っぱいんですけど、バターと砂糖でソテーするだけで、香りが出て、そこにバターのコク、砂糖の甘み、そこに酸味が調和すると………、はっ」
ほわん、と恋する乙女のように頬を押さえてついつい自分の世界に入り込みそうになった。
喋りすぎたことを戒めるように口元を押さえ、洗練された所作にどきどきしつつ、彼女の食べる様を見守る。
大袈裟に言ってしまえば、料理人にとっては審判の瞬間だ。
「お粗末様です。そう言っていただけると嬉しいです。」
美味しい、という言葉とその言葉が嘘でないことを示すような微笑みに、ぱああっと満面の笑みを浮かべると、慌ててぺこり、と頭を下げた。
「蘭さん、ですね。蘭さんも、同じ一年生なんですか!?うわあ、なんか嬉しいな。」
同じ一年生、とおもうと急に親近感が湧くというもの。
まだ不慣れな場所で、仕事と勉強でイッパイイッパイではあったのだが、それもまた、自分だけではないという事実だけで十分に勇気づけられるものだ。
「まあ、それぐらいしか取り柄もないってだけですし。
蘭さんこそ、僕じゃそのテキストの文字も読めませんよ?それを一生懸命自分のものにしようとしているだけでも、僕にはすごいことに思います。」
いかんせん魔法には興味も才能もなかった身だが、地道に何かを成し遂げようとしている姿勢ぐらいはわかるつもりだ。
と、厨房の方向から若干苛ついたような咳払いが聞こえた。
どうやらお喋りが過ぎたらしい。
「…っと、ちょっとお邪魔が過ぎたかな…。
あ、僕は戻りますけど、ごゆっくりどうぞ。
次はまた違うお菓子を出せるようにしておきますね!」
■美澄 蘭 > 「………いいえ、面白いお話ですよ」
熱中して、自分の世界に入り込みかけて我に返るラスタチカに、そう言って笑みかける。
「ええ…去年、中学校を卒業して、そのままこっちに」
蘭の発言から、年齢が類推出来るだろうか。
蘭はその勤勉さ故に、かえって平均的な学生とは言い難いかもしれないが…それでも、人の縁には違いない。
「…今のところ、魔力の方には不自由していないし…異能は「私には」ないから、とりあえず、この学園で勉強出来ることはこれかな、と思って。
…理論は、やっぱり難しいですけど」
そう言って苦笑する。もっとも、彼女の履修している魔術学概論は、難解なことで有名な獅南教員の講義だ。
…と、厨房からやや通る咳払いが聞こえて来て。
「…こちらこそ、引き止めちゃってごめんなさい…
今度は、教室棟とかで…お互い、「学生として」お喋りしたいですね」
そう言って、ややはにかむように微笑んだ。
■ラスタチカ > 気遣いとも言える言葉に恐縮したように縮こまったまま、ぺこりと頭を下げる。
落ち着いた言動や所作の優美さから大人びたように見えているが、彼女の言葉から察するに、まだ世間一般の高校生と呼べる年齢であるらしい。
落ち着きのない我が身と比べることすら無理はあるが、どうであれ、慣れない環境や新しい知識に立ち向かっている存在がいる、という点だけでも己には十分勇気づけられるに足る。
「だいたい、それだけでも、結構、スゴイですよ?
いや、この学園、すごい人だらけで、ちょっと感覚がマヒしてくるんですけど、「外」じゃ普通は魔法も使えませんからね?」
ましてやそれ以上の高度なものになると、己の脳ではもはや理解の範囲の外だと笑った。
「引き止めたなんてとんでもない。
僕が勝手にお邪魔しただけですから。
こちらこそ、その時には同じ1年生として、よろしくお願いしますね。」
それではごゆっくり…、と1礼をすると、慌てて厨房へと戻っていって…。
■美澄 蘭 > 「そうですね…獅南先生の講義は、脱落者も多いみたいですから。
…魔力に困らないのは…まあ、色々理由もありまして」
そう言って苦笑する姿は、やっぱり彼女が暗に申告する年齢からは大人びて見えるだろう。
…「理由」というのが、少々引っかかる表現だったが。
「ええ…それじゃあ、また。頑張って下さいね」
厨房に戻るラスタチカを見送る。
その後、焼きたてのアップルパイを堪能し、少し勉強をしてから、店を後にしたのだった。
ご案内:「カフェテラス「橘」」からラスタチカさんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から美澄 蘭さんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」に四十万 静歌さんが現れました。
■四十万 静歌 > のんびりと本を読みながら、
メロンソーダを飲んでいる。
優雅な一時というものだ。
「――」
予定もなく、ただのんびりと。
退屈といえぱ退屈かもしれないが、
これもまた日常というものだろう。
ご案内:「カフェテラス「橘」」に薬師寺 瀬織さんが現れました。
■薬師寺 瀬織 > 訳もなく暗い気分になった午後。瀬織はとぼとぼと学生街を歩いていた。
ここまでの道のりの中で普段から通っているレンタルビデオ店と古書店に立ち寄ったものの、何も借りず、何も買っていない。
せっかくだからとカフェテラスに立ち寄り、しばし店内の様子を窺う瀬織の目に入ったのは、
メロンソーダに口をつける、見覚えのある黒髪少女――四十万静歌の姿。
それを確認するや否や、彼女の方へゆっくりと近づいてはみるも。
「……四十万、さん……」
瀬織が発した声は、どこか弱々しい。
■四十万 静歌 > 「……!」
弱弱しい声にきづいて本に栞をはさんで閉じ、
瀬織のほうをみる。
弱弱しい声、弱弱しい様子をみて――
「どうかなさいましたか、瀬織さん。
とりあえず、相席して、
何か飲み物でもいかがでしょう?」
微笑みながら首をかしげそういって――
「――私でよければなんでも聞きますよ。」
と頷くだろう。
■薬師寺 瀬織 > 「……そうね。相席させてもらうわ」
そう言って、四十万の向かい側に腰掛ける瀬織。
まず、彼女に言っておかねばならないことがあった。
「あの……四十万さん。まず、謝らなければいけないことがあるのだけれど。……この前、四十万さんが入院していたという話……私は保健課だから一応耳に入ってはいたのだけれど、その時は違う仕事があって……結局、四十万さんが退院するまでお見舞いにも行けなくて。……ごめんなさい」
四十万静歌が入院していた際、瀬織は病室の彼女に直接会いに行くことは無かった。
それは決して瀬織が薄情な訳ではなく、たまたまその時には保健課の異なる仕事があり、スケジュールの調整が困難だったのである。
そして四十万の退院後もなかなか瀬織は彼女と直接出会う事が無いまま、今日この日に至った。
他に聞いてほしい、いわば本題となりうる話題はあったものの、まずはそのことについて話し、彼女へ詫びる。
■四十万 静歌 > どうぞどうぞと勧めて、
ごめんなさいっていわれて、
ん?と首をかしげ――
「――大丈夫ですよ、
ちょっと無理いって退院が早かったですしね。」
えへへ、と照れたように笑って、
「保険課の人は皆いろんな人の怪我や病気で忙しいですし、
そうでなくても、
色々ありますし、気にしなくても大丈夫ですよ。」
だから気にしないで元気出していきましょう?
と笑って――
「私は追加でメロンソーダ注文しますけど、
瀬織さんはどうします?
別段それだけというわけでもないのでしょう?」
なんて尋ねるだろう。
■薬師寺 瀬織 > 「……そうね」
瀬織が伝えたいこと、聞いてほしいことは、その謝罪だけではない。
「今は……烏龍茶がいいわね」
瀬織は炭酸飲料をあまり好まないくちだ。
それだけ伝えると、また暗く真剣な面持ちになり、話の本題に入らんとする。
場合によっては、瀬織の命に関わるであろう事象だ。
「四十万さん。落ち着いて聞いてほしいのだけれど……私……狙われているようなの。この右腕を。今この瞬間も、誰が私の腕を狙っているかわからない」
銀色の右腕――装甲義手を、左手で指し示す。
その右腕を狙っているのは、主に落第街の住人と――そして。
「嶋野陽子さんを知っているかしら。彼女が伝えてくれたの。彼女が知っている人物の一人も、私の腕を狙っているかもしれないって」
保健課の同期、嶋野陽子と面識のある人物。それが誰かは、今の瀬織にはわからない。
しかし、陽子が語るには、彼女の戦闘能力を以てしてもとうてい敵わない相手であるらしいことは確か。そのことについても説明を試みた。
■四十万 静歌 > 「では、烏龍茶を。」
といって、烏龍茶とメロンソーダを注文して、
じっと真っ直ぐ目を見て聞く体勢に入ると――
「大丈夫です、
分かっています。
ええ、実は陽子さんから多少話を聞いて――
その話を聞いて――
その右腕をもっと詳しく調べたら何か分かるのではないか、
という話はしました。」
一つ頷いて。
「それにしても、複数人から狙われるとは、
なんというか、やっぱり凄い義手なんですね。
しかも陽子さんより強いだなんて考えたくないですね。」
なんて苦笑して――うーん、と考え――
「――話し合いで解決出来る相手がいればいいのですが……
いってもしょうがないですね。
それで――どうしたいとお考えですか。」
とじっと真剣に見つめて聞くだろう。
■薬師寺 瀬織 > 「凄いのはこの義手そのものではないわ。嶋野さんの知り合いが調べてくれたのだけれど、中に何かの設計図が隠されていたらしくて」
嶋野陽子と、神を名乗る少女・ミウ。
彼女らの協力で先日明らかになった瀬織の装甲義手の秘密とは、謎の駆動部品の設計図であった。
恐らく義手を狙う者たちの目的がその設計図であることは、疑いようがない。
「私は……元より、腕を差し出すつもりは無いわ」
どうしたいかと問われれば、そう述べ。
「私が望むのは力だけよ。今よりも強い力。腕を狙う人たちからも自分で自分の身を守れるだけの、強い力」
力が欲しい。それは瀬織の最も根本的な行動理念である。
そのために瀬織は自らの異能と、学園で学んだ元素魔術を応用するための訓練を日々積んでいたのだ。
時折力への執念のために道を踏み外しかけることもあれど、ひたむきに高みを目指すその態度のためか、
彼女が出会う人々はその都度、彼女を正しい方向へと導いてくれている。
しかし今、瀬織の精神は再び危うい状態にあった。
■四十万 静歌 > 「設計図ですか。
もう、その設計図を手放してしまうのも手ですが――
何の設計図なのか分からないと、
どうにもなりませんか。」
なんて苦笑して、
「まぁ、当然ですよね。」
差し出したくないという言葉を聞いて深く頷き、
力が欲しいというと。
「……力が欲しければあげましょう。
なんていえたらいいんですけどね。」
残念ながらそんな力はないのである。
だが――
「瀬織さんは、目指しているものや、
目指している誰かはありますか?
守る為だけに力が欲しいのですか?」
――力が欲しい、
でもどこに向かっているんだろうと思ってふと、
そんな事を聞いてみた。
■薬師寺 瀬織 > 「目指しているもの……」
異能の扱いが自身よりも得意な友人や先輩、ということもできるだろうが、
友人たちの異能については、瀬織自身は知らない部分のほうが多い。
では、以前図書館で借りた本に出ていた、瀬織と同じような異能を持ち、7種類の薬を異能だけで生成した人物は?
――それも違う。そもそも瀬織が自身に不足していると感じ、希求している『力』とは戦闘能力のことだ。
ヒトを超えた超常の暴力が大切な人々を襲った時、その暴力から彼らを守り抜くための力。それが建前であった。
しかし、それ以外に力を求める理由が瀬織にあるとして――それは、一体?
「私の、目指しているもの……私は、何のために……?」
言葉に詰まり、しばし考え込む。
■四十万 静歌 > 「――」
そういっているうちに飲み物が運ばれてくるので一口飲み――
「そうですね。
上を見上げればきりがなく、
到達するのも馬鹿らしいものもありますが――」
うん、と一つ頷いて。
「とりあえずの目標、
最終的な目標。
それがなくただ闇雲に力を求めても――
天からふって沸いたような力が手に入るとは限りませんし、
力を手に入れる代わりに、
自分が本当に欲しかったものを見失ったりする事ってあると思うんです。」
そういって一つ頷いて。
「だから、何のために、何を目指しているのか。
そこから考えてみるといいと思いますよ。」
そうしたら――と目を覗き込むように顔を近づけようとしつつ、
「自分だけでなく、瀬織さんの友達、周囲、
ひょっとしたら私だって、
何か瀬織さんのために出来ることがあるかもしれませんしね。」
そして、にっこりと笑って――
「――自分の……自分だけの力は、
自分で最終的には身につけないといけないかもしれませんが、
そのとっかかりは他を頼ってもいいと思いますし、
誰かの力を借りて、誰かの手助けをする。
それも立派に自分の力だと思いますし?」
なんて、とそこまでいって照れくさそうに頬をかくだろう
■薬師寺 瀬織 > 瀬織もまた、運ばれてきた烏龍茶を一口。その後。
「…………そう、かしら。他人の力はその人のものよ。私の力じゃない」
力を得るためのとっかかりとして、あるいは誰かの手助けをするために、他人の力を借りる。
他者の力、すなわち借り物の力は自身の力ではない、という信念のもとに訓練を積んできた現在の瀬織には、まだ完全には理解しがたい感覚である。
「私は強くならなくてはいけないの。人の力に縋る必要がないように。それなのに」
左手を上げ、そこに装着している腕輪を意味ありげに見つめながら。
「それなのに……人の力は……借り物の力は。私の力ではないというのに。それに縋ってしまって。私は。……私は」
言葉を続ける瀬織は、涙ぐんでいた。
■四十万 静歌 > 「……」
じっと見つめて、涙ぐむ様子に、
そっとハンカチを差し出して――
「――そうですね。」
うん、と一つ頷いて。
「――本当に、一人で……誰の力も借りずに生きている人間は、
どれくらいいると思いますか?」
■薬師寺 瀬織 > ハンカチを差し出されれば、抵抗はせずその涙を拭き取られるであろうか。
「本当に……一人で……」
その問いに、瀬織から答えを出すことはない。否。正答は容易に導き出せる――
だからこそ。瀬織は答えと向き合う事を拒んでいた。
その答えとまっすぐに向き合ってしまえば、瀬織が力を求める意義は消滅しかねない。
■四十万 静歌 > 「――ひょっとしたらいるかもしれませんけど、
殆どの人間が誰かの力を借りていきてますよ。」
うん、と頷いて。
「――だからこそ、自分だけの。
これが自分の力だといえる何かが欲しくなるのでしょうね。」
なんて笑って――
「借り物、いいじゃないですか。
人の力を頼る、いいじゃないですか。」
でも、と人さし指を立てて――
「縋るのがいやならば、返せる自分になればいい。
別の形で返す事もできるのですから。
たとえば、怪我をしたら私が手当てをするとか、
お食事を奢るとか。」
なんて、クスっと笑うだろう。
「まぁ、だからといって――
自分だけの力を得る事は悪いとはいいません。
それはそれで――瀬織さんを大いに助け、
――いざという時に護ってくれるでしょうから。
……大切なのは、何のために何を目指すのか。」
そこまでいって、首を振り、
「まぁ、偉そうなこといってるけど、
私の場合も目指す目標とかなくて闇雲なんですけどね。
ただ――
私は目標を見つけるって目標がありますね。」
なんて、照れたような笑顔を浮かべるのである
■薬師寺 瀬織 > 「返せる、自分に」
殆どの人間は誰かの力を借り、支え合って生きている。それはこの常世島においても例外ではない。
互いに支え合っているのだから、誰かの力に頼ったならば、その分自分も相手にそれを返せばいい。
ごく当たり前ともいえる価値観ではあるが、今までの瀬織はそれを受け入れられずにいた。しかし。
「……そうね」
四十万が笑顔を見せれば、まだ涙の乾ききっていない顔で、笑顔を返す。
「誰かに力を借りたら……今度は自分がそれを返せばいいのね。力を借りることを恐れて、負い目を感じる理由なんて……何も、なかった」
制服の左腕で涙を拭い取り。
「私は……自分だけじゃなくて。もしヒトを超えた力が友達を襲っても、みんなを守り抜けるような。そんな力が、欲しかったの」
ほんのわずかな間だけ見えなくなっていた、自身が力を求める目的。
かつては建前にすぎなかったそれは、今や瀬織の心からの原動力となりつつあった。
それを改めて、四十万に話す。
■四十万 静歌 > 「――はい。」
柔らかい笑みを浮かべながら、
大きく頷く。
負い目なんて感じる必要なんてない。
力を借りてばっかりで、
護られてばっかりの私でも――
それでも返せているものはあると信じているから。
しかし――
「――それにしても、素敵な夢ですね。
確かにそんな力は得るのが難しそうです。」
なんて素敵な夢なんだろう。
なんて高潔な夢なんだろう。
「――今すぐには難しくても、
そのことを忘れて歩むことをわすれなければきっと――
届きますよ。」
そっと瞳を閉じて自分の心臓の辺りを両手で押さえ――
「――そういえる瀬織さんは、
この短い間で、確かに……一つ強くなったと思いますから。」
■薬師寺 瀬織 > 「……ありがとう」
四十万の言葉に、瀬織はまた、ほろりと涙を流す。
しかしその涙は、先程のような負の感情に起因するものではない。
「私……これからも頑張るわ。いつかきっと、望む力を手に入れるまで……いいえ、手に入れたとしても」
もし今日この時四十万に出会わなかったとしても、瀬織が研鑽を止めることはなかったであろう。
しかし、彼女の暖かい言葉があったからこそ、瀬織は自身の目的を再確認し、再び己を磨き続けることへの決意を固めることができたのだ。
この島を訪れてから、瀬織は彼女に何度も救われてきた。その恩を『返す』ことができるのは、いつのことになるだろうか。
■四十万 静歌 > 「いつだって応援してますよ。」
と、再びハンカチを差し出しつつ――
「手に入れてからが本番ですもんね。」
なんて笑って――
「――でも、ちょっと妬けますね。」
と人さし指を口元にあてて――
「今の瀬織さん凄く輝いてますもん。」
なんていってウィンクするだろう。