2016/01/05 のログ
獅南蒼二 > 年末と年始の期間中は学校の殆どの機関が休業となる。
授業もなく生徒も居ない…といっても、この島の生徒は“帰省”出来ない生徒も多いため、言うほど誰も居なくなるわけではないが。

そんな時間はこの男にとって、非常に有意義な研究の時間となったようだった。
………その顔色の悪さからも、彼の年末年始の過ごし方は簡単に想像がつく。

今日はまだ授業があるわけではない。
研究室から出たのも…カフェが開いたから、という理由でしかなかった。
こうして珈琲を飲み、煙草を吹かす時間が、忘れかけていた人間性を思い出させてくれるような気がする。

獅南蒼二 > とは言え、その手元にはいつものように、複雑な術式が無造作に描かれたメモ用紙。
いつでも、どんな場所であっても、湧き出た発想を決して漏らすことなく書き留められるように。

「……授業が始まれば、実証実験も可能か?」

メモは殆ど読み取れないが、日本語で「魔力生成実験と同時に、魔力に溢れた空間での魔力制御訓練」と走り書きされている。
魔力に溢れた空間の中であれば、魔力を内包しない生徒であっても魔術を行使することができる。
なかなかに得難い経験を得ることが出来るだろう。

だがその為には、魔力操作に長けた生徒をピックアップする必要がある。

ご案内:「カフェテラス「橘」」に美澄 蘭さんが現れました。
獅南蒼二 > そうして生徒たちの顔と名前を思い出そうとして……
…研究に時間を使い過ぎ、授業に出席している生徒たちをおざなりに扱っていることを省みた。

無論、能力に長けた何名かの生徒はすぐにその名と顔が浮かぶ。
だが、そうでない大多数の生徒に関しては、以前ほど手をかけられていない。

長く、長く、白い煙を吐き出す。

美澄 蘭 > 年末年始の帰省から、再び島へやってきた蘭。
荷物の整理が一段落したところで、気晴らしに散歩に出かけ(東北の血が入っているためか、蘭は見た目よりは寒さに強い)…そして、カフェテラスでほんでも読もうかとやって来た、ところで。

「けほっ、………?」

微かに感じる煙草の煙に、少し眉を寄せて煙の元を視線で探すと…

「………あ、獅南先生………」

視線の先には、蘭が取っている中でも恐らくもっとも難解な授業をしている教師。
元々不健康そうなイメージはあったが…以前にも増して、顔色が悪いように見える。

「…」

煙の臭いを意識しないよう、呼吸法に気をつけて。
獅南の方に向かって行く。

「………獅南先生。明けましておめでとうございます。
昨年は講義でお世話になりました」

今年も、よろしくお願いします…と頭を下げて、顔を上げた時にははにかんだ笑みを浮かべている。

獅南蒼二 > 時間も資金も限られているのは確かだが、やっていることは本末転倒だ。
そう自分で自分を嗤いながらも、まだ、それを改めるつもりはない。
研究が成れば、これまでの比ではないほど多くを生徒たちに教えることができるだろうから…

「……ん?」

咳き込む音、それから、自分の名を呼ぶ声。
視線をそちらへ向ければ、見覚えのある顔…すぐに名も分かった。特徴的な外見もそうだが、一目置くだけの才能もある。

「美澄、蘭…だったかな?
 そう畏まった挨拶は必要ない…が、そうだな、今年もよろしく頼む。」

煙草は苦手だろうか、そう見て取った獅南は携帯灰皿に吸い殻を入れて、蓋を閉じた。

美澄 蘭 > 獅南が煙草の吸い殻を携帯灰皿に納めると、

「あ………すみません、気を遣わせてしまって。
家族に吸う人間がいないので…あまり、得意ではなくて」

と、申しわけなさそうに軽く目を伏せて、頭を下げる。

「…でも、覚えていて下さったんですね。ありがとうございます。
やっぱり…途中から講義に参加した生徒だから、でしょうか?」

曖昧な微笑を浮かべて、そう問う。
蘭は、魔力や、その元素への変換が人並み以上である自覚は出来つつあるが、その魔術の才が、獅南から見て一目置くに値するものだとはあまり考えていない。
だから、覚えているとしたら参加時期の問題か…あるいは、外見のことだろうと思ったのだ。

ただ…自分が「普通」でありえないことを帰省で再確認してしまった蘭には、自ら外見のことに触れるのは、少々躊躇われて。
それで、そちらには言及出来なかった。

獅南蒼二 > 「ん…あぁ、気にしなくていい。
 こんなもの、得意にならん方が身体にも財布にも優しいだろうからな。」

携帯灰皿をポケットにしまい込みながらつづけられた言葉を聞き…
…肩を竦めて、楽しげに笑った。

「そんな目をしている生徒は少ないから印象には残りやすいだろうが…。
 …お前は自分で思っているよりも高い魔力への親和性を持っている。」

蘭があえて言及しなかった外見のことを、あっさりと言葉に出してしまう。
けれどそこには一切の差別や偏見の感情が込められず、ただの特徴として一蹴される。

「……何より、途中参加でここまで付いてくる生徒は、そうそう居るものではないよ。」

座らんのか?そう声を掛けつつ、珈琲を啜った。

美澄 蘭 > 「…まあ、それは確かにそうですね」

喫煙者でありながら「得意にならない方が良い」とばっさりの獅南の様子がどこかおかしくて、くすりと笑みを零す。
…しかし、それから、蘭のことを評する獅南の言葉を聞いて、表情を失う蘭。
「高い魔力への親和性の前には、左右で色の違う瞳など些細なこと」と言わんばかりの言葉に覚える安堵と…少しの引っかかり。
しかし、その「引っかかり」を言葉にする術を、まだ蘭は持っていなかった。
少し固まった表情のまま、何とか言葉を返す。

「………そう…なんですか。
この島に来る前は、本格的に魔術を学べる環境にいたわけでもないですし…講義も、結構必死でついていっている感じなので…そこまで出来ている、という実感はあまり無くて」

獅南の講義の難解さはどこから生まれているのか。その源泉を、蘭は肌感覚で掴みかけながらも、まだ言葉にすることができない。
獅南の講義の難解さが自分以外の生徒の多くを、自分以上に突き放していることについては、そこまで深刻に考えてもいなかった。
…と、席を勧められれば

「…いいんですか?………それでは、お言葉に甘えちゃいますね」

その表情を和らげて、同じテーブルの席に着く。
店員を呼んで、アップルティーと焼き菓子のセットを注文した。

獅南蒼二 > 相手の言葉やその表情から全てを読み取ることはできなかった。
だがこの少女が“瞳の色”に大なり小なり拘りを感じているのは分かる。
「気にされたいのか、それとも、気にされたくないのかな…?」
肩を竦めつつ楽しげに笑って、真っ直ぐにその瞳を見つめる。
男の瞳は疲労を感じさせるだろうが、決して澱んではおらず、むしろ澄み切っているように見えるだろう。
男の言葉は、少女の中の“引っかかり”をあえて刺激するように紡がれる。

「さて、できているのかどうかは知らんが、生まれ持った才能には恵まれているだろう。
 それに、学べる環境にいなかったのが幸いだ…才能をもちながら半端に学んだ者ほど、始末に負えないものはない。
 まだ壁にぶつかっていないのなら、その壁が見えてくるまで深く学ぶことだな。」

一つテストをしてやろう。と、メモの中から1枚を取り出して、蘭の前に置いた。
そこには一般的には理解不能だろう複雑な術式が描かれている。

「これが何を意味するのか、分かるか?」

蘭の学習深度なら、恐らくその術式を見ただけでは、分かるまい。

だが、魔力を流せば……魔力を“蓄積する”術式なのだと、すぐに分かるだろう。
……貴女が、魔力を本質的に操ることのできる才能をもった者であれば。

美澄 蘭 > 気にされたいのか、されたくないのか。
その問いに、少し視線を迷わせて…悩むように、きゅっと眉をよせ。

「あまり、気にはされたくないんですけど…
………何ていうんでしょうか、こう………ないもののように扱われると、ちょっと、違うような…そんな、感じがして。

…上手く、言葉にはできないんですけど」

それがアイデンティティの問題なのだという言葉を得られていない蘭には、的確な言葉を選ぶ術は無かった。
ただ、自分の実感だけを表現する言葉を、悩みながら紡いだ。

「生まれ持った………そう、ですね。亡くなった祖母が、魔術師だったらしいので。
母が幼い頃に亡くなってしまったので、私も母も、魔術は全然詳しくないんですけど。

壁は………今は、そんなに理論的に難しい実技はほとんどやっていないので、たまに制御が気になるくらいですね。難しいことは、魔術の周りの知識を固めてからでも遅くないかな、と思うので…
………テスト、ですか?」

取り出されたメモに描かれた術式を見て、眉をひそめる。
蘭の受けている獅南の授業では、まだ扱っていないものだ。
復習はきちんとしているので、そこは断言出来る。

「………そんなに、危険なものには見えませんけど…
………魔力、流してみても大丈夫ですか?」

困ったような顔をして、獅南の瞳を見て問うた。

獅南蒼二 > 少女の表情と言葉に詰まる様子を見れば、それ以上言及することはない。

「……その悩みは恐らく、心理学の分野だろうな。
 だが私は、お前の瞳が何色だろうと特別扱いするつもりは無い…悪くは思わないでくれよ?」

自分のスタンスを伝えるにとどめて、それ以上は何も言わなかった。

「魔力との親和性や、身体に内包する魔力の量に関しては遺伝による部分もまだ大きい。
 祖母は優れた魔術師だったのだろうな…お前は恐らく、私よりよほど魔力親和性も内包量も優れている事だろう。」

珈琲を飲み干したころに、アップルティート焼き菓子が運ばれてくる。
そのタイミングで、おかわりを注文し、

「さて、危険なものに見えないのなら、やってみるといい。」

事も無げに、そう告げた。
僅かでも魔力を流せば、魔力は術式の中でループし、紙に蓄積される。
……現象の上では何も起こらないから、それを目で、ないし感覚でつかむことができるのなら、魔力との親和性は十分だ。

美澄 蘭 > 「あ…特別扱いして欲しいとか、そういうのじゃないんです。
………そうですね、心理学とか、カウンセラーの先生に相談してみようと思います」

そう言って、少し恥ずかしそうに笑んだ。

「まだ世界が混乱してた頃、祖母は祖父と一緒にあちこちで活躍してたなんて話も聞きましたけど…話だけ聞くと、本当に、夢物語みたいなことばっかりで。
…私が同じことが出来るとも思えないですし…内包量はともかく、親和性はよく分からないですよ」

魔術師だった蘭の母方の祖母…イーリスは、異変後に現れたニューカマーとの融和を拒むもの達と時には話し合い、時には力をぶつけ合ったのだ。
その中には、恐らく【レコンキスタ】の支部との抗争もあっただろう。
しかし、詳細は蘭の与り知らぬところであった。

「………それじゃあ、やってみますね」

こともなげに告げられれば、少し緊張に顔を強張らせつつも宣言した。
メモの術式に手を当て、魔力を流し込む。
見た目上、何も起こらないが…

「………?」

何か気になるのか、不思議そうに眉を寄せながら、魔力を流したメモ用紙を手に取ってまじまじと見つめたり、ひらひらさせたりしている。
何か集中して考え込んでいるのか、注文の品が届いたことに気付く様子も無い。

獅南蒼二 > この女生徒の身辺を漁るようなことはしていないし、するつもりもあまりない。
【レコンキスタ】と過去に抗争を起こしていようとも、今この場では何のかかわりも無い事だ。
……尤も、祖母がどれほどの使い手だったのかくらいは、後で調べることになるのだろうが。

「さて、同じことが出来るかどうかはお前次第だ。
 学び方によっては、祖母を超える事さえ可能かもしれん。」

よく分からんものを、分かるようにするのが“学ぶ”ということだろう?
なんて、運ばれて来た珈琲を啜りながら、苦笑する。
メモ用紙を前にして集中している様子を横で見ながら、魔力の流れやそれを制御する術式構成や反応を観察し…。

「……さて、何か見えたかな?」

珈琲を飲み干せば、そうとだけ言って、先ほどと同じように、真っ直ぐに色違いの瞳を見つめた。

美澄 蘭 > 「…同じことをする「必要」がないのが…平和なのが、一番ですけどね。
自分がどこまで出来るのかに、興味はあります」

本当に、すごい話ばっかりだったんですよ…と、苦笑しながら言う。
数キロメートルも延びた雷の幕など、実現する必要が生じてはいけないだろう。
祖父の語った昔話が、真実ならばだが。

メモと格闘しているところに、獅南からの問いかけが飛んでくる。
やはり、言葉を選ぶようにしながら、

「…見える?というよりは感じる?という感じですけど。
普段私が使う魔術と違って………魔力、溶けて消える様子が無いなぁ…と思いまして」

首を傾げながら…それでも、獅南の視線には応えた。

蘭としては、「ただ魔力を流してみただけ」だろう。
実際、術式構成の効率に特筆すべき点はないが…流された魔力の量は、中級の治癒魔術を発動させるのに十分なほどだった。

獅南蒼二 > 「尤もらしい言葉だが…この島を見渡しただけでも、平和とは言い難い。
 ここでしっかりと学んでおけば…お前の力が誰かの役に立つ日が来るかも知れないな。」

後で聞かせてもらおうか。なんて言いつつも、蘭の周囲の魔力を観察する。
尤も、親和性に乏しい獅南は魔力を直接感じたり、観察したりすることはできない。

「多くの魔術は、魔力が現象に変換された後、与えられた指向性に沿って発動する。
 お前の言うように、魔力のうち変換されなかった分や、現象が失われた後に残る魔力は空間に霧散するのが通常だ。
 だが…ここでは何の現象も発生していない。」

ひらりと右手を振れば魔力の可視化術式が展開され、蘭が“魔力を流し込む際に用いた術式”がネオンのような光を伴って再生された。
美しい輝きを放ってから、それはすぐに消失する。
術式構成は授業の中で扱った初歩のものを踏襲しており、特筆すべき点はない。
だが、その魔力量は一般的な生徒のもつそれをはるかに凌駕している。
面白い。

「その術式がどんなのもなのか、次の授業までの宿題だ…その紙はお前にやろう。
 自分の感覚を信じ、過去の文献に学び、自分の力を試し……可能性を切り開け。
 もしかしたらお前は、将来、優れた魔術師になるかも知れん。」

そうとだけ告げて、獅子南は立ち上がった。
伝票の上に置かれた代金を見れば、自分の分と、蘭の分も置いてあることが分かるだろう。
どこか楽しげに笑って、獅子南はカフェを後にした。

ご案内:「カフェテラス「橘」」から獅南蒼二さんが去りました。
美澄 蘭 > 「………そう、みたいですよね。
歓楽区にも、用が無いならあまり近づかないようにはしてますけど…

…私も、そんなに詳しくは聞いてないですけどね。細かい部分は、今もめんどくさいらしいです」

話を聞きたいと言われればそう言って苦笑する。
蘭の祖父母と対立した勢力が今もどこかでくすぶっているならば…それを詳しく説明しなかったのは、あり得ない話では無いだろう。

「ええ…というか、残ってます?よね?
何も起こってないし、形にもなってないのに…変なの…」

やっぱり首をひねりながら、紙をひらひらさせる。

「…宿題、ですか…」

降って湧いた思わぬ課題に眉を寄せる。
上手く出来たら加点してくれますか?とは、流石に言い出せなかった。

「…期待に応えられるようには、頑張ってみますけど………あっ」

紙と睨めっこしていたら、獅南がさっと席を立ってしまった。
しかも、蘭の分のお代まで置いて。

「………頑張らないと」

変なところでプレッシャーを感じて、真顔になった。

美澄 蘭 > 「………でも、獅南先生、大丈夫かな…顔色悪かったけど。

治癒魔術かけましょうか、って、聞きそびれちゃった」

ちょっとしょんぼりしながら、冷めつつあったアップルティーをすする。

(今度の授業で宿題のことを報告する時に…体調のことも聞いてみよう。
まだ疲れてるようなら、今度はちゃんと聞かないと)

そう決意を固め、術式との睨めっこを挟みつつも紅茶とお菓子を楽しみ。
蘭は術式を調べるべく図書館に足を向けたのだった。

ご案内:「カフェテラス「橘」」から美澄 蘭さんが去りました。