2016/10/20 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」に巓奉さんが現れました。
巓奉 >  
「…………。」

常世学園の制服を着た女生徒が一人、頭から煙を上げつつテーブルに突っ伏している。
さほど珍しい光景では無い、よくある日常の一ページとしか周りの人間には写らないだろう。
本人にとっては日常であって欲しく無いだろうが。

「……ぐぬぬ。」

女生徒は唸る。『魔術の講義を受けに行ったつもりが何故か外国語の講義に来ていた。な、何をいっているか』そんな気持ちであった。
講義を受けたものの序盤も序盤から付いていくことが出来ず、ただ頭痛を発症させただけ。
この女生徒──巓奉はまだ痛む頭を抱えつつ何とか身体を起こしてオーダーを取りに来た店員にいくつかの甘味を頼み、完全に沈没したのだった。

巓奉 >  
「な、なんじゃあ……あの珍妙な学問は……。」

巓奉は語る。何か知らんけどよく分からん理論がよく分からん作用をもたらしよく分からん結果を発現させて──
まあ、よく分からん。

とにかく魔術の学習は一歩踏み出した瞬間に挫折してしまった。
1コマ分の浪費と頭痛という要らない土産を背負ってしまった彼女は頑張った自分への御褒美と称してカフェにやってきたのである。

巓奉 >  
彼女のテーブルに次々と運ばれてくる甘味。
パフェにケーキにホットケーキ、そしてパフェとパフェ。

まだ頭痛が治まらない頭を重たそうにゆっくりと持ち上げつつ、運ばれてきた品に手を伸ばす。
例え頭痛が相手だろうが食うものは食う。その気持ちが強く伝わる動作である。
食い意地が張ってると言ってしまえばそこまでだが。

「うう……甘味が……糖分が……沁みる……!」

疲れきった身体に文字通り染み渡る感覚。巓奉は打ち震えつつもそれを歓迎した。
自然と涙がぽろぽろと零しつつ、スイーツを頬張っていくだろう。

巓奉 >  
「美味い……美味いのに……気分はどん底だ。」

あっという間にパフェは完食。そのままの勢いでホットケーキに挑む。
4段重ねのホットケーキは一枚一枚が分厚い。中々食べ応えのある一品。
遠慮なくシロップをかけてまず一口。フワフワの生地に薫り高いバターとメープルシロップのほのかな風味と甘さが見事にマッチしていた。
アイスと一緒に口にすればまた違った一面を見せるであろうホットケーキに夢中になり頬張る巓奉。

ご案内:「カフェテラス「橘」」にシング・ダングルベールさんが現れました。
巓奉 > しまった、と巓奉は悔やむ。ホットケーキをゆっくりと味わっている間にもパフェのアイスが徐々にとは言え溶けつつある。
ああ、アイスのなんと儚き事か。泡沫の夢とは言え、このまま溶かしてしまうには惜しい。惜しい、が。
その瞬間、彼女は閃いた。

「む……い、いやしかしこれは……。」

だが、それは彼女にとって邪道も邪道である。
ホットケーキにパフェのアイスを載せようと言うのだ。

パフェのアイスとホットケーキの二種類の甘味を味わえる。だがしかし同時にパフェのソースがホットケーキの良さを打ち消してしまう危険性もはらんでいる。
巓奉は思わず唸ってしまう。

シング・ダングルベール > 「すごい食べっぷりだなあ……。」

思わず声が出たのは近くのカウンター席から。
驚きの程大層なもので、パスタを巻き取るフォークの手が止まるほどだ。
巓奉の注文したホットケーキよりも早く到着していたこのボロネーゼは、まだ皿の半分を埋めている。
声の主は見覚えがあるだろうか。先の教室の最前列でノートを取っていた青年である。
図体の大きさ故に目立ちはしていたものの、グロッキー状態では記憶の残滓に残ってはいまいか。
シングの方はというと、巓奉が同じ授業にいたことには気づいてない様子であるが。

巓奉 > ピタっと、パフェに向かわんとするスプーンが止まった。
恐る恐る声がしたカウンター席へと視線を移す巓奉。
邪道に奔ろうとする自分を見られているとは夢にも思わなかったのだろう、その表情は引きつっていた。

「……な、なんだいキミは人の食べている姿をじっと見つめるのは礼儀に反しているとは思わないのかい。」

どこかで見たことがあるような、無いような。
はて、どこでだか── 思い出そうとする巓奉に襲い掛かる鋭い頭痛!

ダメだ、思い出せない。

シング・ダングルベール > 「ああ、いや。ごめん。申し訳ない。あまりにもショッキングな映像だったもので、つい。」

そう、つい。ついオブラートも破れて中身がこぼれ出てしまう。
彼の知るかぎりこの学園の女性陣は強烈なタイプが多かったものだが、その一角に新たなモデルの出現であった。
いつもの笑顔も引き攣るというものである。

とはいえ、親しい間柄でもない。からかうわけにもいかず、自らの皿に再び手を付ける。
一口目とは違い舌ざわりはぬるくなっていた。おいしいといえばおいしいのだが、小首をかしげたくなるような曖昧さだ。
彼はひき肉や玉ねぎといっしょに、なんだか勿体ない気分も噛み締めていた。

巓奉 >  
「……キミはなかなか面白いね。本人を目の前にストレートに物を言えるとは、気に入ったよ……。」

オブラートもへったくれもない率直な感想を受け、巓奉はカウンター席の彼に最大限の笑顔を見せ付けるだろう。
『お前、覚えとけよ』と言わんばかりの悪そうな笑顔を。
だがよくよく観察してみれば耳は赤く染まっており照れ隠しなのは違いない。

「キミも付き合え給え、今日はムシャクシャしてるんだ。」

吹っ切れたのだろうかパフェのアイスを遠慮なく丸ごとどかっとホットケーキに乗せそれを一口で頬張ってしまう。
直後もごもごと何か言っているようだが、全く理解出来ないであろう。いわゆる食事語だ。

シング・ダングルベール > 「ええ……。」

面倒な人に絡まれてしまったなあ、というのが本音。
シングが皿を平らげることには、彼女はまだスイーツをかっ食らっている。
その所業修羅の如く。鬼気迫る勢いに乗せて。
聞き取れない言葉に耳を傾けながら、啜るコーヒーは苦い。

「それ、行儀悪いよ。古人曰く、『千年の恋も冷める』とのことだ。」

愛嬌のある人であるなあと感じたのも本音であったが、どうにも定まらない。
抱いた感情を改めて頭の中のミキサーにかけて絞り出せば、最終的に珍獣の二文字が現れる。

巓奉 > もごもごと咀嚼し胃に送り込んで言の葉を紡ぐだろう。

「んぐっ。その程度で冷める恋ならば所詮その程度だったという事。捨て置けば良いじゃないか。」

ドライ。非常にドライな返答。
ムシャクシャしている精神状態も関係があるのだろうが。

テーブルいっぱいに広げられていたスイーツも、ケーキワンカットを残すだけである。
店員は巓奉を化け物を見るような目で見つめていた。
それらが全て彼女の小さな身体に収まっていると言うのだから致し方ないか。
最後のケーキは『お上品』に食べることにしたようで、ゆっくりと味わいつつ彼に語りかけるだろう。

「最近の魔術とやらは何なんだい、ガチガチに固めた理論に縛られた袋小路みたいな分野じゃないか!」

真面目に専攻している人物に喧嘩を売っているとしか思えない言い草であった。

シング・ダングルベール > 「1と1が合わさって2になるように、物事には始まりがあって終わりがある。経緯と結果。因果関係というか。
 魔術というものは、その当然を自分と世界に当てはめて、力を行使するものだからね。
 火を放つ。離れたものを持ち上げる。風を起こす。結果は違えど、単純な見方をすれば全部そこに行き着くものさ。
 そうやって術式を経て、術は完成する。

 これを誰にでもできるように教えると、理論ばかりが先にきてどうしても難しくなってしまうものなんですなあ……。
 だからそうやってアレルギーも出るし、記憶というスポンジに浸透しないこともある。
 まあ、無理に理解しようとしても仕方ないからね。
 オーバーワークしても体がついていかないのが人間ってやつだ。
 そりゃあ武術だって魔術だって、結局のところ同じ同じ。」

と講師のような口ぶりで解説してみせる彼も、一般生徒ではあるのだが。

「まあ、人には向きと不向きもあるしねえ。
 君だって、あるでしょう? 得意なものが。」

巓奉 >  
「ぶーぶー、つまらなーい。つーまーらーなーいー。」

まるで子供の様にぶーたれる巓奉。
そして一欠ケーキを口に放り込み、咀嚼しつつ考える。
自分の得意なもの──

「ああ、うん。そりゃ私にだって一つや二つあるさ。えーと……夜伽とか?」

したり顔でかつ彼にしか聞こえないように小声で言ってくる巓奉。
無論からかっていますよーと言う調子で。
『しがない鍛冶師さ』と、肩をすくめながら本当の事を言うのだった。

シング・ダングルベール > ウィスパーボイスの結果はなかなかのもので、シングはカップの中身を盛大に吹き出し、纏うローブ全体が、芳醇な豆の香りに包まれたのであった。
慌てた店員が駆け寄るも、「なんでもない。」とおしぼりだけ受け取った。

「あーあーあー……もう。洗うの面倒なんだよ、これ……。」

まったくなんて女だ、と。そう言葉に出さずとも、全身が舌のように物語る。

「ったく。それで、鍛冶屋が魔術の勉強とは珍しいものだけど。
 炉に火を入れるのや、鋼を冷やすのに使うのかい?
 確かに考えてみればこの上なく便利になるだろうけど。」

巓奉 > おや?と尚一層悪そうな笑みを浮かべた巓奉。

「ふふん? 実は興味あったりするのかい?
 いやなに、隠す事は無いさ。健全な男子なら誰だって興味はあるよね。」

わかってるよ、と言わんばかりに頷く巓奉は実に楽しそうにしている。
目の前の男子生徒に対する興味がますます高まっているようだった。

「いやいやいや、そんな事しても出来上がるのは粗製の武具だろうさ。
 然るべき道具と手順、そして経験が揃ってこそ良い武具が生まれるんだ。それに労を惜しんではいけないよ。
 ……ところで私は十八代目巓奉と言う、キミのお名前は?」

子を諭すような調子で己の経験則を語ったと思いきや突然自己紹介を促してくる。
一体どんな脈略があればこうなるのだろうか、自由奔放ここに極まれりとは良く言ったものだ。

シング・ダングルベール > 「シング。魔法使いをやっている。君のように何代目、といった呼び名があれば良かったんだけどね。
 であれば返しの名乗りで、もう幾らか箔が付いたのに。」

からからと笑声交じりに己を語る。
先の口振りからして、それが嘘でないことは明白だ。

「鍛冶の労は惜しまないが、勉学の方はそういかないようだけど?」

なんて、やけ食いの原因を再度つついて見せる。
蛇の巣を前にして木の枝を握りしめた子供のように。

巓奉 >  
「成程成程、魔法使い。いやなに、無駄に代を重ねているだけで箔も何も無いよ。」

シングにくすくすと笑い返し『気にするな』とジェスチャーをしてみせる。
そして熱っぽい瞳で彼をじっと見つめぺろりと舌なめずりして言うのだ。

「私は頭よりも先に身体が動いてしまうんだ。何事も、経験が大事って言うだろう?」

そうやってひとしきりからかってから本題に入るのが巓奉という人間を表現しているようで。
何とも掴み難い雰囲気を纏っていた。

「シング君。キミは見たことがあるかい?
 御伽噺や英雄譚に出てくる伝承に登場する武具を。
 キミ達風に言えば──そう"レガリア"とでも訳そうか。」

シング・ダングルベール > 「生憎とこう見えて異邦人なんだ。最近来島したばかりのね。
 君が言うのはつまり……聖遺物? いや、これも違うな。そうだなあ、それこそお話の上での"伝説の武器"を指すわけか?
 一振りで空を焼く剣(つるぎ)や、大地を穿つ矛、そういうものか?
 それだったら話はわかる。どんな世界であれ、空想は人に許された権利だものな。
 それならわかるよ。

 ただそれが、今の話にどう関係するっていうんだ?
 それはわからないな。」

巓奉 >  
「その空想を魔術を駆使してどうにか再現できないかって事さ。
 色々な世界から人や物が辿り着くここなら出来る気がしてね。
 さて、そろそろ退散するとしよう。また機会があれば。」

残り一口となったケーキ放り込み、立ち去る巓奉。
自分の支払いはきっちりと済ませて。

シング・ダングルベール > 「それはかなりの野望だけど、おそらく実現は難しいだろうねえ……。
 さっきも述べたけど、魔術というのは術式を経るものだからな。
 より大きな結果を求めれば求めるほど、術式は複雑になり、より膨大な媒介が必要となるんだ。
 ようするに、マジックアイテムの上位品をつくりたいって話だろう?
 俺が知る限りだと、鍛冶の他に錬金術を嗜んだ魔術師に聖者が清め銀塊に……と、もう行くのか?

 なんだこう……色々と唐突な。」

まあいいか、と背中を見守って二杯目のコーヒーを啜る。
騒がしかった店内も、またいつもの穏やかな空気を取り戻しつつあった。

「しかし『レガリア』ね。なるほど、こっちの世界はまだまだ知らないものが多いようだ。」

こうして彼のメモ帳に、新たな語句が加わった。

ご案内:「カフェテラス「橘」」からシング・ダングルベールさんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から巓奉さんが去りました。