2017/12/03 のログ
■鈴ヶ森 綾 > 「ここの甘味はどれも美味しいものだから、つい夢中になってしまって。
本当にごめんなさい。」
反応が遅くなったことを重ねて侘びながら、向かいの席に座った少年を軽く観察する。
若干、いや、かなり汗ばんでいる様子。
この気候でそこまでとなると、だいぶ激しい運動の後なのだろうか、そんな極普通の感想と共に、
もっと別の、邪な欲望の類が頭を過る。
「どうぞお気遣いなく?賑やかな中で一人は少し寂しいと思っていたところなの。
それにしても…随分汗をおかきになってるようですけど、トレーニングか何かを?」
額に汗が伝っているのを教えるようと、そこと同じ部位にあたる自分の額に手で触れてみせる。
■岡崎燐太郎 > 「や、いいよ。気にしないでゆっくり食べて」
変に気を遣われるのは苦手だ。
全く、というのは無理だろうけれど気楽にいてくれた方がやりやすい。
「あ、ごめん。向こうでちょっと運動してきたばっかで……」
指摘されて額を流れる汗に気付き指先で拭う。
向こうと言って指したのは実習区の方角。
推察通り施設でのトレーニング後ということだろう。
「これ。常世祭の時に貰ってな。
ついでに、と思って寄ったんだけど……今日はタイミングが悪かったかな」
上着のポケットから取り出したのは「お得!」と書かれた長方形の紙。つまりクーポン。
常世祭に出張していたカフェ橘で貰ったもので、普段一人では訪れないようなこの店に訪れた理由だった。
■鈴ヶ森 綾 > 「ええ、そちらも。」
そう言ってスプーンでまた一口。
程よい酸味と甘み、さらに苺の果肉が混じったストロベリーアイスはそれだけで幸せになれてしまう。
思わず頬に触れてはぁ、と吐息を漏らす。
「向こう…あぁ、実習区の。熱心なのね。常世祭の後のせいか、今日は家に篭ってる人が多いみたいなのに。」
表通りの人出はいつもの3割から4割減といったところか。
最も、このカフェは例外だったようだが。
「本当に、ね。ここにはたまに来るのだけど、ここまで混んでる事はあまりないわ。…あら。」
そこで初めて彼の右手に気がつく。
その金属の光沢がある銀色のそれにじっと視線を集中させ、それから改めて彼を顔を見る。
■岡崎燐太郎 > 「まあね。期間中は学園のことで手一杯だったから」
今日は遊んでいた分の遅れを一気に取り戻す算段で訓練施設へと向かった。
もっとも好き勝手やっているだけなので熱心と言えるかどうかはわからないが。
いつもより利用者が少なかったところを見るに幾分熱意はあるかもしれない。
と、雑談を交わしていると注文した品が運ばれてくる。
置かれたのは薄茶色のコーヒーと綺麗にクリームで飾られたケーキ。いずれも割引が有効なメニュー。
店員に会釈をしそれらを手元に引き寄せる。
「あんまり来ないからな……特に一人じゃ。
うん? どうした?」
さっそくケーキを頬張った口元にクリームでも付いただろうか。しかし美味い。
己の腕に向けられた視線をよそに、出てきた感想はそんな感じのもので。
■鈴ヶ森 綾 > 「そうね…何せ二週間近くのお祭り騒ぎだったものね。規模にしても大掛かりで。」
今回はほぼお客として終わったが、出店や催し物を開いたりしていたもの達の苦労は相応のものだろう。
そんな事に思いを馳せながらコーヒーの残りを飲み干す。
「あら、そのケーキ。私も好きなのよ。
特にクリームとスポンジの相性が抜群で、その後にコーヒーを一口飲むと何倍にも美味しく感じられるの。
きっと貴方も気にいると思うわ。」
彼の元に運ばれてきたケーキは自分も食べたことがある大変気に入ってるもので、
思わず聞かれてもいない感想を言葉にしてしまう。
「いえ、変わった手袋…手甲?だと思って。」
少なくとも、手袋と言うには質感がかけ離れている。
かと言って手甲等と、デザイン関係なしにその時点で変わっているだろうに。
彼の右手の特異さについ間の抜けた事を口にしてしまった。
■岡崎燐太郎 > 彼女の食欲をそそる文言に期待を膨らませ、いざ口にしてみればまさに評価通りの味わい。
クリームの甘さ、スポンジの食感、そのどれもが満足感を満たしてくれる。
こういった類のものに詳しくないので半ば適当に選んだ一品だったが当たりだったのかもしれない。
「ん、これは義肢だな。そのまんま俺の腕。」
一旦フォークを置いてテーブルの上に腕を持って行ってみる。
手甲かなにかと思っているらしいので全体図を見せる。
機械的な重厚感から義手、もしくは異形の体とでも想像できる。
「変わっている……のかなぁ。一応魔道具ではあるけど」
機械義手自体はそう珍しくないとしても、
魔術や超科学を組み込んだ義腕となれば話は変わる。
彼女が不思議に思う部分があるとすればそこだろうか。
ちなみに本当に鼻先にクリームがついていることは知る由もない。
■鈴ヶ森 綾 > 「義肢…?これが…。」
義手義足をつけた者を見たことがないわけではない。
特に古い時代では、機能も見た目も人のそれとはかけ離れたものであった。
だが昨今の技術であれば、機能はともかく見た目は極めて人間のそれに近いものとする事ができる。
しかしこの銀の腕の異様は、人間の見た目に近づけようとする事より、もっと別の事を重要視した結果のように見える。
その所以が彼の口にした魔道具という言葉である程度理解に及ぶ。
とは言え、どうして彼がそのようなものを付けているのかまでは、到底分かるはずもないが。
「…ごめんなさい、変なことを聞いてしまったわね。…あら。」
それ以上言及するのも野暮であろうと口を閉じるが、
ふと見れば彼の鼻先に何か白いものが。
軽く身を乗り出してよくよく見れば、ケーキのクリームである事が確認できた。
「ちょっと失礼。そのまま動かないで…。」
身を乗り出したまま、テーブルに備え付けのナフキンを手にすると、彼の鼻先についたクリームを拭い取ろうとする。
■岡崎燐太郎 > 一口に魔術といっても科学的結晶によるものや魔法的力から生み出されたものと様々である。
彼女がさらに深層の、不可視の部分を知覚できる存在であれば、
あるいはそのいずれかを感じ取れたとしてもおかしくはない。
「別に。減るもんじゃねーし」
本来人にあるはずの腕が一本無いとすればそれだけで異常となる。
それは理解しているし引け目を感じているわけでもない。
「なに……」
今度はなんだろう。
自身の間の抜けた顔面など露知らず、とぼけた言葉をこぼし。
その指示に従って不動のままいればその鼻先が拭われる。
「あ……ついてた?」
この状況を客観的に見れば結論にたどり着くのは容易い。
照れくさそうに鼻を撫でれば、ちらりと拭ってくれた少女に目をやる。
■鈴ヶ森 綾 > 彼女は魔術的な能力を持ち合わせてはいるが、それは生まれ持った彼女独自のものであり、
体系化された魔術や、まして科学的なものとはまったく理を異にする。
故に、彼の腕から何かを感じ取ることや、学術的な興味を引かれることはなく、
どちらかと言うと未知の玩具に対する興味と言ったほうが近い。
「そう、なら良いのだけど…。」
だがそれをこの場でこれ以上表に出すことは控えた。
「…取れたわね。ええ、鼻先に少し。ケーキ、気に入ってくれたみたいで嬉しいわ。」
そこにクリームがつくのに気が付かない程度には夢中になった、そういう解釈らしい。
満足そうに少し笑って、乗り出していた身体を引っ込める。
それから隣の席にかけておいたコートと伝票を手にすると立ち上がる。
「じゃ、私はそろそろ行くわ。ごゆっくりどうぞ。」
最後にそう一言告げて、コートに袖を通しながらレジの方へと歩いていった。
■岡崎燐太郎 > 「悪い、ありがとう」
確かに普段口にしない甘味にがっついてしまったのは否めない。
情けない部分を晒してしまったが、彼女の満足そうな顔と比べたら些細なことだろう。
いまだ湯気の立つカップを手に、口元で傾ける。
「ん、ああ、またな。
あ、俺、岡崎燐太郎、二年生。君も学園の生徒……だよね?」
カップを置き去り際を見送ろうとし、こちらからも最後に一言。
少女の風貌、制服らしき服装から恐らくそうだろうと思い。
■鈴ヶ森 綾 > 「どういたしまして。
綾よ。じゃあね、燐太郎君。」
短く下の名前だけ告げると、最後にひらりと小さく手を振り、
そのまま会計を済ませて店の外へと出ていった。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から鈴ヶ森 綾さんが去りました。
■岡崎燐太郎 > 「おう。ケーキ、美味しかったよ」
彼女の気に入っているケーキを賞賛し、その背を見送る。
テーブルに向き直って改めて騒がしさの残る店内でしばし堪能。
やがて皿だけが残りカップも空にすれば、会計を済まして店を後にする。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から岡崎燐太郎さんが去りました。