2015/06/29 のログ
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」に桐竹 琴乃さんが現れました。
桐竹 琴乃 > 「おおおおおお……」
ファミレス「ニルヤカナヤ」の端っこの方の席。
そこで彼女は呻く。
ひたすらに呻く。
遂に頭を抱えだす。

とはいえ、店員の目やら他の客の目もあるので大袈裟には抱えない。
呻く理由は二点。
通帳と、開かれた参考書・ノート。
学生にとっての苦の代表格二つ。
「全っ然たまらん」
通帳の残高は増えていない。
じり、じりと削れていっている。
まあ、そっちはいい。
節約すればいいのだ。
問題はこっちである。
「全ッ然わからない」
サボれる授業をサボり倒す結果である。
はた目からもわかる自業自得であった。

桐竹 琴乃 > 基本教科から何から絶望的なまでにさっぱりであった。
教科書・ノート・参考書を尞の自室で開いていたが、余りに鬱屈としてきたので気分転換に24時間営業をいい事に来てみた。

当然部屋でわからないものがファミレスに来た所でわかるものではない。
トン、トンとシャーペンでノートを叩くものの、一向に問題は解けない。
ただドリンクバーがあるので飲み物には不自由していないだけだ。

「なんで私は真面目に授業を……」
100%真面目に授業などを受けなかった時の昔の自分への怨嗟だけが積もってゆく―――。

桐竹 琴乃 > わからないドリンクを飲むわからないドリンクを飲む。
ぐるぐる回る行動を続け。
「……っ」
思考が別の思考へと到達する。
到達してしまう。

そもそもだ。

「試 験 範 囲 と は ?」

それすら聞いていなかった。
見ていなかった。
ただ焦りを感じて一式もって飛び出してきただけだ。

今やっているのは本当に試験範囲か?
前回の試験範囲より後というだけでやっているだけだぞ?
そもそも試験形式だったか?
実技形式ではないのか?

「……」
震える。

これでは暗闇のなか松明も持たずに何もわからないまま真っ暗なダンジョンを進む冒険者である。

桐竹 琴乃 > ただせっぱつまってしまった彼女の思考では。

【携帯で連絡して聞けばいいのでは?】

という簡単な解決法すら現時点で思いついていない。

―――このままなら彼女の心が折れるまでそう時間はかかるまい。

そう、【明日があるさ】。
【明日から本気出す】という。
所謂【絶対に本気を出さない】パターンへ。

ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」に湖城惣一さんが現れました。
桐竹 琴乃 > だがここで通帳がその効果を発揮する。

「ただでさえ少ない手持ちを切り崩してまでファミレスに来たのだぞ?」
という事実をブチ込んでくるように。

彼女を今押しとどめているのは。
【折角お金まで払って少しでも勉強をしにきているのにこのままでは帰れない】というだけの意地であった。

まあそれももうへし折れかけているのだが。
「ドリンクバー最高ー」
見るも無残に折れそうであった。
と言うか折れている。

湖城惣一 >  カランコロン、と月並みな入店音が鳴り響く。
 それと共にファミリー向けレストランに足を踏み入れたのはおおよそそれとは無縁そうな不審者だ。
 和装ベースのジャケットに、腹丸出し傷丸出し。竹刀袋を肩につっかけた目つきの悪い大柄の男。
『あのー。お、お一人様でしょうか?』
 戸惑う店員の声に、一度頷き。
少々お待ちください、なんてウェイトレスが店内を見回した。
 現在、試験勉強をする(したかった)学生で溢れかえった店内は、満員御礼。
 かろうじて残された二人がけの席に通される。
 ――その真横の席に、見知った顔がいた。
「む」
 しかも、かなり死に体で。

桐竹 琴乃 > 「いやーはは、ドリンクバーは本当最高ですね」
目は死んでいた。
「何杯飲んでも値段一緒だし、そりゃー流行りますよええ」
ずずーと飲む。
隣に知り合いが来たことなぞ現時点で気づくわけも無かった。
ぶつぶつと独り言をのたまう。
それほど彼女は荒んでいたのである。

吹っ切れてとにかくやっちまえと言えず。
かと言って折れる訳に行かず(既に折れてる)
そももそも吹っ切れてお前は勉強が進むのか?
と聞かれればNOと声を大にして言う現状。
そんな状況である。
ひとまずの逃避を楽しんでいる。
そんな折。
ドリンクが切れた。
適当に入れようと立ち上がる。
無論隣が目に入る訳である。

「―――」
この世の終わりが始まる。

湖城惣一 >  顔。テーブル。それぞれに視線を移す。
なるほど、試験勉強か、と得心したが。
――完全に目が死んでいる。
虚無めいた瞳は最早ドリンクの黒だか緑だか白だかなんだかしか映していない気がする。
 諦めたのか、桐竹。などと心中で分析しつつ。
「勉強か、精が出るな」
 真逆の感想。腹芸ではなく、単なる二律背反の心持ちである。
 うん。まあ。――ちらりと見えたノートが少しばかり悲惨だったが。
それも彼女なりの努力だったのだろう。

桐竹 琴乃 > さながら映像を逆再生しているようにスーっと逆スローモーションをするように席へと戻る。

落ち着いてカップを置く。
「ふー」
隣を見る。
見覚えのある顔。
姿。
努めて冷静に髪を少し弄る。
もう一度息を吐く。
「や。コジョー」
表情だけは何時もの彼女である。

無かったことにした。
したかった。

湖城惣一 >  ――見事な動きだ。
洗練されたその滑らかな動きは、その一瞬だけ"和"を感じた。
恐るべきは桐竹琴乃。忘我の域において、神域へと踏みこみかけたのではなかろうか。
「応。腹が減ったので補給にとな」
 メニューを開き、目を通し。少女に語りかけるときだけそちらに視線を向ける。
 いくつかの候補を心中にピックアップしてから。
「しかし」
 ぱたんとメニューを閉じると、自らの顎を撫で。
「試験範囲の手前から学んで基礎を固めるとは、思っていたより堅実なことをしているな」
 君の努力は忘れない。
 ピンポーン。店員を呼ぶチャイムの音が空白の時間に響き渡った。

桐竹 琴乃 > ダァン。
机に突っ伏す。
限りなく最高に近い一撃は狙いを誤らず、琴乃の僅かに皮一枚でつなぎとめていた心を刈り取った。
折れ掛けていた、ともすれば折れていた心が真っ二つに片方は地平線の彼方へと弧を描き飛んで行った。


「やあああっぱりこれ範囲違うじゃああああああん!もおおおおお!」
じたばたする。
声は流石に抑え気味ではあるが。

戦士だけで松明も無しにダンジョン突っ込んで罠探知してくださいってそりゃ無理だ。
無理なのだ。

湖城惣一 > 「…………」
 じたばたしてる。
ああ、試験範囲も分からなかったのか……という無言の感想が瞳に乗った。
「桐竹」
 あたりに散らばっている参考書の種類から、幾つか見知った教科を割り出して。
さらさらと、アンケート記入用のボールペンを、軽く紙に走らせた。
「お前の履修している教科に関しての試験範囲はこんなものだ」
 などと、差し出してみた。
 最早彼女のHPはゼロのようにも見えたが、その努力(?)は無駄にはできまい。
 なんだったら教えようか――という言葉が口をつこうとした途端、彼の後ろから店員が現れた。
「む。大葉ハンバーグのBセットと辛鍋うどん。あとオレンジハニーパンケーキを頼む」
 注文によってその言葉は霧散したようだが。

桐竹 琴乃 > がばっと起き上がりメモに目を通す。
「まじ?え?ホントこれ?」
目がキラキラして始めた。

ぶっちゃけもはや躁鬱のレベルなのではと疑える範疇でもある。
「コジョーありがと!マジ助かる!」
何か言いかけたのか―――それを今の琴乃が気づけるわけもなかった。
そう感謝を唱えればすぐに範囲のページを開く。

だが彼女はいずれ知る。
というか数分後に知る。

っていうか知った。

「だからああああ!わからないんだってえええええ!」
頭を抱えた。

「そりゃわか……わからなかったけど!これじゃあ前回の試験範囲じゃんこれ!それより進んでて私がわかるか!」
ぺしんとシャーペンを叩きつける。

結論から言うと【ああコイツもうダメだ】である。

湖城惣一 >  ……見ていて気持ちのいいぐらいの浮き沈みである。
基本的にあまり感情の振れ幅が大きくない湖城にとって、
彼女のその一挙一動は、有り体に言うと面白かった。
「あ、ああ。まあ礼には及ばないが……」
 喜び勇んで挑んでいった数分後。
こういうのをフラグ、というのだろうかと覚えたての漫画知識で空想する。
 些かそれは外れた意味であったが、まあ引き起こされる事態は似たようなものである。
「…………」
 運ばれてきたサラダを咀嚼しながらそれを眺めること数分。
「桐竹。俺の分かる範囲でよければ教えようか」
 幸いながら、桐竹より彼は年上であったし。学年で言えば同級生。
彼女の学ぶ基本教養の範囲であれば、概ね守備範囲内であった。

桐竹 琴乃 > 【桐竹。俺の分かる範囲でよければ教えようか】
【俺の分かる範囲でよければ教えようか】
【よければ教えようか】
【教えようか】

反芻されるその言葉。
たっぷり1分もの時間を噛みしめ。
ふら、と顔を上げる。
死中に活を見出した顔で。
「コジョー……わかんの?」
藁にも縋る。
カンダタの糸。
そんな限りなく少ない語彙からそれっぽい言葉が彼女の頭を通り過ぎていく。

湖城惣一 > 「……ある程度はな。さすがに専門教科は分からんが……
文系寄りだが、理系の教科も分からんわけではない」
 かくいう湖城は、成績自体は悪いものではなかった。むしろ良い方だと言える。
勉強も剣術も、ある種彼にとって必要な要諦は変わらない。
 集中し、授業を自分の知識を落としこむ。そういった作業は得意であった。
問題はそれをどう噛み砕いて教えるかであったが――まあ、そんなものはやってみないとわからない。
「教えられるかは分からんがな」

桐竹 琴乃 > 「~~~!」
瞳を潤ませ、がっしと湖城の手を掴み、ぶんぶんとする。
ここが公共の場で無かったら抱き着いていたであろう勢い。
「ありがと!マジで助かる!」

少なくとも彼女一人ではもはや詰んでいるのだ。
湖城がどれほど教えてくれるかはこの際問題ではなかった。
とにかく赤点だけは避けねばならない―――。
その一点のみがあっさりと男性の手を握り、一目さえ無ければ抱き着くぐらいの。
それほどに浮かれていたのであった。
だが彼女はまだそれには気づかない。

―――彼の反応一つでこの先は決まるだろう。

湖城惣一 > 「………………」
 手を握られれば、沈黙。
 湖城惣一というのは、見た目通りの古風な男であった。
最近は、"オン"と"オフ"の意識の区切りすら出来てきた気がする。
 今、たっぷりと食事を咀嚼しながら友人と話す彼は、いわば"オフ"の意識であった。
 繰り返すが、湖城惣一という男は古風な男である。
 理由も無しに女性に触れたりはしない。
あの時<自販機事件>は勢いで肩に触れたが、今回はそうではない。
「――――」
 ――漫画のハレンチ表現にすらページをめくることを躊躇う男は。
桐竹琴乃の体温に触れ、完全に硬直していた。

桐竹 琴乃 > 「えっ」
固まる湖城を見て自らも固まる。
「えっえっ」
視線を落とせば手を握っている。
そのまま「おう、任せておけ」なぞ言ってくれれば彼女もこうはなからなかった。
感情とは伝播するものである。
「あ、えーと」
すごすごとゆっくり手を放す。
「じゃ、じゃぁ……よ、よろしく……」
極めて小声できちんと椅子に座り、膝の上に掌を置き、下を向く。
表情は読み取れなくなったがわかりやすい表情をしているだろう。

湖城惣一 > 「………………応」
 硬直している間に、いつの間にかオレンジハニーパンケーキが届いていた。
誤魔化すように咳払いをすると、パンケーキ攻略にとりかかる。
横目で一度彼女の顔を見やるも――。
 いまいち、上手くいかない。
生来他者への関心をが薄い彼であったが、
少なくとも今この場ではそうだと言い切ることは難しかった。
 パンケーキを半分ほど切り分けた後、心を落ち着けるように咀嚼する。
たっぷり百度は噛んでからこれを飲み込むと、
「……ここで教えたほうがいいか」
 ここにそれだけの教材があるようにも見えなかったが。
ひとまず、相手のプランを尋ねた。

桐竹 琴乃 > 「い、今?」
現実的に考えれば今からやらねば到底範囲などカバーは出来ない。
が、今は。
そう、今はまずい。
今は流石に彼女の精神が保つまい。
「い、今からはうん、いいかな」
あは、あはははと笑う。
代替え案を出さなければならない―――。
が、今の彼女はただ現状の気まずさから断っただけで具体的にどうだという案を出していなかった。

湖城惣一 > 「なるほど」
 もぐ。オレンジハニーパンケーキの半分を食べ終わり、ゆっくりと目を伏せる。
 今からはいい、という彼女の言葉。ならば代替案を出さねばなるまい。
寮内は男女間の移動は問題であるし、図書館も今の時期はごった返しているだろう。
 そうなると選択肢は限られてくるが――。
「…………ふむ」
 顎を撫でながら思考した後、ゆっくりと一枚の紙を取り出して。
すっと桐竹のテーブルにおいた。
「今の仮宿だ。幸いスペースは空いている故、勉強するには困らんだろう」
 ――仮とはいえ自分の部屋に誘うのはいかがなものか。
そんな思考は頭から吹き飛んでいた。彼は彼なりに判断力を失っていたらしい。
 ゆっくりと立ち上がると、
「頭脳労働に甘いものは欠かせないだろう。……良ければその残りを」
 最初に切り分けた半分のパンケーキ。まあ少なくとも間接ナニガシではない。
珍しく既に満腹で、頭を掻きながら背を向けた。
「日取りが決まったら言ってくれ。
早ければ早いほど勉強にはいいだろうが」
 些か彼も照れがあるのか。もう一度咳払いをすると、領収書を片手に歩き出す。

桐竹 琴乃 > 「―――う、うん」
メモを貰う。
思考は真っ白である。
今何を判断すべきなのか。
その判断する思考は全て掻っ捌かれている。
パンケーキを言われるがまま自分のテーブルに運びもそもそ食べ始め。
とにかく了承した意を伝える為に。
「え、ええとじゃあうん。後でメール……する」
それだけを絞りだした。
とにかく勉強を教えてもらうだけだ。
そうなのだ。
言い聞かせる。

湖城惣一 > 「ああ。メール、待っていよう。……ではな」
 恐らく、今はだいぶ平静を取り戻しているように思える。
多少なりちょっと考え方はおかしくなっている気がするが。
多分大丈夫だ。大丈夫に違いない。
 支払いのカードのかわりにポイントカードを取り出して決済にそうになっているが大丈夫だ。
 今この場に暴漢が現れたらば彼の意識も即座に切り替わるのだろうが、現実はそうでもなかった。
 手を一度、ひらりと振って。ゆっくりと立ち去っていった。

ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」から湖城惣一さんが去りました。
桐竹 琴乃 > 「……」
一人になったテーブルでメモを手で遊ばせる。

何でこうなったのか。
ちら、と空のカップを見る。
もう飲む気も無くなった。
範囲のメモと住所のメモ。
二枚を乱雑にノートに挟む。
そして広げていた教科書などを片付ける。
結局数ページも進まず。
というかそれは前の範囲であり全く進んでおらず。
何をしたのかといえばドリンクバーを飲みにきたのと友人に醜態を晒し。
挙句の果てに自宅で勉強会の約束と来た。
携帯を見る。
次第に冷えていく感情と思考は。

「あっ」

遂にソレを気付かせるに至る。
そもそも同じ授業を取っている同性の友人に声を掛けるべきだと言う事に今更気づく。
「っていうか範囲もメールで……」
クールダウンしていく思考は。
こうなる前の最適解をいともあっさりと提示する。
時間も遅いが、まあまだ起きている奴はいただろうに。
今からでも、遅くは無い。
彼にメールを送り丁重に断りを入れ―――。
「……」
途中まで操作したメール文面を消し。
ぽちぽちと文章を打ち直し。
送信。
題名は。
【明日、放課後にて】

傍から見れば決闘を申し込む文面に見えない事も無い。
ぱたりと携帯を閉じ、乱雑にポケットへねじ込み。
鞄を引っ掴み。
伝票を更に乱雑に掴むと。
溜息を一つついて。
覚悟を決めた顔でファミレスの席を後にした。

ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」から桐竹 琴乃さんが去りました。