2015/09/10 のログ
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」に秋月文海さんが現れました。
■秋月文海 > ドリンクバーという物は実に便利だ。
どれだけ砂糖とシロップをコーヒーに詰め込んでも、文句を言われることなんて無い。
「……んんー♪」
ファミレス「ニルヤカナヤ」の隅に、生徒が一人。
使い捨ての安っぽいマドラーでくるくるとカップをかき混ぜつつ、少女は幸せそうな微笑みを浮かべた。
傍らには、ある種異様とでも言うべき量の砂糖とシロップの残骸が置かれていて。
そして何より、彼女の喜びの表情に呼応するようにして、異色の髪が纏う光はちかちかと明滅していた。
……何とも形容しがたい光景が、夜中のファミレスの隅に出来上がっていた。
■秋月文海 > 常世学園の生徒、秋月文海は、説明するまでもなく糖分中毒だった。
加えてカフェイン中毒という厄介な病気も併発しているので、このようなコーヒー(というにはあまりに白っぽい)を飲むのもさもありなんという話ではある。
……多少やりすぎな所もあるが。
「いただきます、です」
マドラーを端によけて、丁寧に手を合わせて挨拶をしてから、ゆっくりと味わうように一口。
見てる方が甘味に胸焼けを起こしそうなそれも、彼女によっては丁度いいらしく、蕩けるような笑顔を浮かべた。
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」に轍 ヒロムさんが現れました。
■秋月文海 > 「もう九月、ですか」
ふと机の横に置かれた新作メニューの広告を見て、ぽつりと呟く。
水が苦手で海には行ってないわ、虫があまり好きではなくて山にも行ってないわ。
そして夏休みは全部魔術の研究に費やしていたので、当然の結果として季節感が無くなっていた。
というよりも、だいたいの長期休みがそんな感じであるため、イベントにとんと縁がない。
「……」
「いやまあいいけど、です」
学生の本分は学業だ、と。
そう考えながら飲むコーヒーは、先ほどと同じ甘さで慰めてくれた。
■轍 ヒロム > 「ベッラッルーシ♪ バッシッルーラ♪」
自作の謎な歌を歌いながら、通路を歩いてくる。
コーンスープの入ったマグカップを持ちドリンクバーから戻ってきたところ、
もの凄い量の砂糖とシロップの残骸に囲まれてかつてコーヒーと呼ばれたものを飲んでいる少女を見つけ、目をまん丸くする。
「ちょっ、砂糖入れすぎ!! トーニョーになるよ!!」
言わずにはいられなかった。糖尿病は恐ろしい。
■秋月文海 > 「……?」
夜中のファミレスに響く歌声の主に目を向けると、はたと視線がぶつかった。
いや、多分だがコーヒーと、その横にある砂糖の残骸を見ていたようだったのだが。
「……あー」
「大丈夫です。砂糖とった分は全部使ってるから、です」
口元を手で隠し、くすりと微笑んだ。
「そっちこそ……その歌は何なのかな、です?」
「聞いたことがない歌、でした」
■轍 ヒロム > 「それもうシロップ入れたコーヒーっていうより、
コーヒー風味のシロップになってるよね!?」
驚きに目をぐりぐり。
摂取した糖分は消費していると聞き、きょとんとした表情で少女を見る。
「へー。バリバリのたいくかい系なんだ?」
糖分消費の方法が運動以外に思いつかず、体育会系?と尋ねる。
「あーうん、ヒビキが似てるものの歌」
あの国名とあの呪文名は似ている、ただそれだけの歌。
小学生ばりのセンス。流石に聴かれて少し照れくさそうな顔。
■秋月文海 > 「……まあ、そうとも言います、です」
手元にあったスプーンで底を掬って見せると、多少ざらざらした物が残っていた。
理科で習う『飽和水溶液』という単語を嫌でも思い出させるような有様である。
しかし少女はそれを全く意に介していないのか実においしそうにそれを頬張った。
「……私、運動はできない、です。お勉強の方、です」
「もっと言うと魔術、ですね」
彼女の言葉に苦笑をもらしつつ、そう訂正する。
確かに彼女の腕や脚は、運動をしている人のそれにはどう足掻いても見えそうになかった。
「……なるほど……です?」
「面白いことを考える人もいます、です」
バシルーラ(?)の方は聞いたことがなかったので、首をかしげつつ。
それでも言いたいことは分かったのだろうか、小さく微笑を漏らした。
「……座るところない、でしたら」
「同じ席に座る、ですか?」
周囲にはまだ学生の姿は多い。
せっかくの縁だしもう少し話してみたいなと、そう思いつつ相席を提案した。
■轍 ヒロム > 「とけのこってる!!!!」
衝撃。しかも食べた。
「まじゅつ?
なるほど、魔術でもカロリー消費するんだねー。
どんな魔術がとくいなの?」
感心しながら。
バシルーラは某ゲームに出てくる呪文なのだった。
「ありがとー! 立ち話もなんですしねえ」
遠慮なく、少女の向かいに体を滑り込ませて座る。
「私、二年の轍ヒロムっていうんだー。
なまえ聞いてもいい?」
ニコニコと楽しげに名を問う。
「ねえ、さっきから髪の毛ひかってない??」
最初は砂糖の量に目が行ったが、髪も気になる。
髪の毛をじっと見ながら、コーンスープをすする。
「あちっ」
■秋月文海 > 「……これくらいなら、全然、です?」
「3杯目なので、ちょっと控えめ、です」
あろうことか、これと似た液体(よりも更に酷いらしいもの)を既に2杯飲んでいるらしい。
未来どころか明日医者から病気を宣告されても何らおかしくない食生活である。
「私の魔術、ですか?」
「説明が難しいですけど……魔力操作、です」
「ある意味一番基本の部分かも、です」
ぴ、と人差し指を立てつつ、自分の専攻する魔術について説明する。
魔術行使の方法はたくさんあるが、それの基本となるものの一つ、らしい。
「……二年のヒロムさん、ですね。はい、よろしく、です」
「私は秋月 文海(あきづき あみ)。三年生、です」
後輩さんですね、などとニコニコしながら呟いた。
「ああ、これ……ですか」
「これは私の体質、です。面白い、です?」
髪をひと房、手の上に載せながら問い返す。
それは丁度、髪色が白からつつじ色に変化し始める部分だった。
「ああ、気をつけて飲まなきゃ、です。熱いです」
■轍 ヒロム > 「さっ、3杯め!?!?
そんでこれで甘さひかえめ!?!?」
どんだけなの!と驚愕の表情。
「もう農業区に、マイさとうきび畑持ったほうがいんじゃない??」
そういうレベルだ、と。
「まりょく操作っていうと、
たとえば火をつくりだしてそれを大きくしたりちいさくしたり、
あっちに飛ばしたりこっちに飛ばしたりの操作?」
釣られて人差し指を立て、それをあっちこっちに指しながら。
「わあ先輩だ!
小柄だから年下かとおもいましたー。
よろしくです、あみ先輩」
朗らかに。
「みてる間に変化があるって、フシギだしおもしろいですよ。
あ、色がかわってく……」
手のひらの上の髪を、身を乗り出して見つめる。
「……さわってみても、いいですか?」
許可をもらえれば、色を変えていく髪にちょんと触れてみたり。
「そうですよね。猫舌なんですけど待てなくて……」
苦い顔でマグを見下ろす。せっかちなのだった。
■秋月文海 > 「……」
「その発想は無かった、です」
一回天井を向いて何かを考えた後、ヒロムへと向き直る。
その瞳はきらきらと輝いていた。……本気にしてしまったのかもしれない。
「まあそれに近い、です。うまくできると、おもしろい、です」
「えっと……こんな風に、です」
立てていた指先に光――彼女の髪と同じつつじ色――が灯る。
文海が「んっ」と小さく声を漏らすと、それは見る間に蝶の形へと姿を変えた。
それも、まるで硝子細工のように精巧な造りをしている。
「ふふ、あまり先輩っぽく見えない、です?」
先輩と呼ばれ、くすりとどこか擽ったそうに微笑んだ。
「自分では見慣れちゃった、です。それに少し目立つ、ですね」
「……? いい、です」
はい、と髪を差し出す。ヒロムは容易にそれに触れることができるだろう。
薄ぼんやりと光る髪は、丁寧に手入れがされているのか、さらさらと気持ちのいい感触をもたらす。
文海は、彼女の手が触れている部分をじいっと見つめていた。
■轍 ヒロム > 「草むしりくらいなら、お手伝いしますよ」
輝く瞳に、グッと親指を立てて応じる。
本気でもこちらは問題ない様子。
「……あっ!?」
現れた光には驚かなかったものの、蝶への変化には声が漏れる。
それは細部まできちんと蝶を模していて、今にも飛び立ちそうに見える。
「すごい、ちょうちょだあ!
これ、飛ばせるんですか??」
わくわく。
「アハハ、すいません」
後輩と思っていたことを、軽く謝罪。
髪に触れる。さらりと髪の束が動き、
「きれー……」
ほう、と息をついて、しばらくの間色の変化をぼーっと見続けてしまう。
「…………あ、すいません!
私、ゆっくり色の変わるイルミネーションとか
ずーっと見ちゃうタイプで」
見惚れすぎていたことに気づき、乗り出していた身を席に戻す。
自分の短い髪をつまみ、
「私の髪も、夜になるとひかるんですけど。
先輩も、もしかしてウチュー人の血ひいてたりします?」
人間の異能なのか、或いは異邦人ゆえの能力なのかと尋ねてみる。
■秋月文海 > 「……ありがとう、です。私、体力無いので、です」
文海もグッと親指を立て返す。
こうして彼女は自家製サトウキビ畑の協力者を一人得たのだった……のだろうか?
「ふふ、もちろん……です。えいっ」
指を一度軽く曲げてから、す、と勢いをつけて立て直す。
その力を借りて、光の蝶はふわりと空中に浮かんだ。
蝶は二人の上を遊ぶように飛んだ後、光の粒となって消えていった。
「ん、全然大丈夫、です」
「……でも、そう言ってもらえると、うれしい、です」
ヒロムが体を戻すと、文海は照れくさそうにそう言って微笑んだ。
そしてそれをごまかすためなのか、カップを手にとって、今までよりも多くコーヒーを飲んだ。
「んんー……、多分ですけど、私は人間、です」
「……ヒロムさんはその、ウチュー人、です?」
じっと彼女の瞳を見つめながら、質問を返した。
■轍 ヒロム > 「あー、たしかに。
腕とかほっそいですもんね」
相手の華奢な腕を見ながら頷く。
「ほわー!」
飛び立つ蝶を見上げ、その動きから目を離さず。
消えてもなお、少しの間視線は空中に留まる。
「うーん、ステキですね!
見せてくれてありがとーございます!」
この魔術、サーカスに使ったら素敵だろうなあと考えながら。
照れ隠しにコーヒーをぐいぐい飲むさまを見て、
「あまいあまいあまい、見てるだけで口のなかがあまい!」
甘さが伝染る!と。
「そうでしたかー。私はウチュー人です。
つっても、1/4だけですけどね」
あははと笑いながら。
「髪の毛がひかる体質っていうのは、異能ですか?
それとも魔術?」
興味津々で髪を見つめる。
■秋月文海 > 「自慢じゃないけど……腕立て伏せできない、です」
「でも、徹夜とかは平気、です。カフェインのおかげ、ですね」
本当に自慢にならない。
「……ふう、どういたしまして、です。これが魔力操作の……」
「まあ、普通な使い方ではないかも、です。お遊び、です」
「ヒロムさんは、何が得意、です?」
蝶がきちんと動いたことに安心したのか、深く息を吐いて。
そういえば彼女の力を聞いていなかったと、質問を投げかけた。
「……飲みます、ですか?」
彼女の様子に苦笑しつつ、カップを差し出す。半ば冗談である。
「うちゅー……ですか。……?」
無言で天井を見つつ、人差し指を立てる。
別にそこに何があるという訳ではなく、空の上のまた上にある宇宙のことを言っているのか、と聞いているようだ。
「これはですね……半分くらいは異能で、半分くらいは魔術、です」
「まあ、いろいろと事情がある、です」
髪に手櫛を通してみる。さらりと流れたそれは、やはり刻一刻とグラデーションを変えつつあった。
■轍 ヒロム > 「私のぎゃくだー。
腕立てはまあできるけど、徹夜はぜったいむりです」
笑いながら。
「私のとくいなもの?
べらべらしゃべることとかー、ってそうじゃないですね。
ふわふわうかぶ、とか、ねてる人にこわ~い夢みせたりとかですね」
人の悪い笑いを浮かべながら、悪夢で脅すように。
差し出されたカップに、
「いやいいです!
……と思ったけど、ちょっとだけ。
あ、かわりにどうぞ」
ものは試し、とスススと代わりの冷めたコーンスープを相手の前へ送り、コーヒーを恐る恐る一口。
恐らくは、喉が熱くなるような甘さ。
「…………あま!!あっまい!!!!
予想どおりのあまさです!!!!
よくこんなの3はいも飲めますね!?!?」
口を開けて舌を出しながら、カップを戻す。
飛んで火に入る夏の虫、或いは好奇心猫を殺す状態。
「じじょー、ですか」
誰にでも事情はあるもの。
頷いて、本当はしつこく聞きたいのを我慢。
視線はやはり相手の髪に行く。うっとり。
■秋月文海 > 「まあでも……徹夜はしない方がいいらしい、です」
「……こうなる、です?」
頭の上で手のひらを水平に動かす。
多分『身長が伸びない』とか、そういうことが言いたいのだろう。
自虐である。
「浮かんだり……怖い夢、です?」
「ひぃ。あまり怖いのは好きじゃない、です」
体の前で腕をクロスに組んで、ガードの姿勢。
表情は笑っているので、本気で嫌がったり怖がったりしているわけではなさそうだ。
「あ、ありがとう、です。あっ、でも量には気をつけ――」
言うのが遅かった。
胸焼けどころか大火災レベルの強烈な甘さが襲ってきたに違いない。
若干申し訳なさそうにしつつ、差し出されたコーンスープを一口。
おいしいです、と感想を述べてから、同じように彼女の元へと返した。
「慣れっていうものがある、です」
「ヒロムさんもずっと飲んでたら慣れる、です」
「です。……まあ、たいしたものでもない、です」
「それより……ヒロムさんのウチュー人っていう方が、私は素敵だと思う、です」
■轍 ヒロム > ぽんと手のひらを打ち、
「ああ、なるほど!
睡眠時間が身長にどう影響するかのいい見本ですね、私ら」
めっちゃ寝ますもん私、と相手の仕草を真似して無駄な高身長をアピール。
「あみ先輩はなにがこわいですか?
オバケ系? 虫系?
それとも──高いところから落ちるやつとか?」
調子に乗って冗談で脅かしを続ける。
帰ってきたコーンスープをゴクゴク。
「すごい……コーンスープがぜんぜんあまくなく感じる」
甘みがあるはずのコーンスープが、むしろしょっぱく感じられる。
それだけコーヒーが甘かったということ。
「なれ…………たくないです」
ぼそり。
慣れたら多分、自分なら糖尿病コースだろう。
「ばーちゃんがウチュー人なんですけど、
門で地球にきちゃった人で。
だから私もおかーさんも、
ばーちゃんの故郷のオーリオン星には行ったことないんです。
行けたらもっとウチュー人ぽくなれると思うんですけどね」
ざんねん、とため息。
■秋月文海 > 「……ちょっとうらやましい、です?」
「棚の上の物とか取るの、結構大変、です」
相手の手を何となく見上げる形で眺めつつ、そう零した。
困る理由が利便性に絡んでいるあたりが学者肌といえばそうかもしれない。
「きゃー。大きい虫も怖いですし落ちるのもだめ、です」
「あー、あとたくさん甘いもの食べる夢とか、いっぱい研究できる夢もだめ、です」
ちらっちらっ。
明らかに途中から『饅頭怖い』のノリになってきている。
「……ん、やっぱり私にはこっちの方があってる、です」
「それは……まあ、そっちの方がいいかもしれない、ですね」
一方の文海はというと、先ほどと相も変わらずに調子よくコーヒーを飲み続ける。
彼女の喉は何か特殊な金属でできているのではないだろうかという疑惑さえ浮かばせるような様子だ。
「ヒロムさんにも、いろいろ事情がある、ですね……」
「……ウチュー人ぽくなってみたい、です?」
■轍 ヒロム > 「でも小柄なひとが高いところのものを
背のびしてプルプルしながら取ってるのとか、
かわいいですよ?」
笑顔で小首を傾げる。
「私はぎゃくに、
作業するテーブルとかがひくい位置にあるのがめんどくさいかな。
ながくやってると腰いたくなります」
「よしじゃああみ先輩がわるいことしたらおしおきに、
高いところから落っこちながらおっきい蛾に
甘いものいっぱい口に入れられて、
しかも手にはなんかの研究の資料をもってるっていう
夢を…………んん?
先輩、あまいもの大すきじゃなかったでしたっけ?」
気づきました。
激甘コーヒーを平然と飲む姿を、何とも言えない表情で見守る。
「んー、私自身はべつにどっちでもいいんですけど。
よくあるのが、友達が私のしらない友達に、
ウチュー人の轍ってやつがいてさーみたいな前フリして
その友達の友達が私と実際会うと、
めちゃくちゃ地球人じゃん!!ガッカリ!!みたいな。
きたいはうらぎりたくないのです」
ため息。
■秋月文海 > 「……あれ、こっちとしては必死、です」
何となく不満げにそう返す。
楽に作業ができればそれに越したことはないのだ。
「でも……それを聞くと、適材適所かな、です」
「というか、向き不向きはある、ですね」
「ひえー、もう怖くて寝られないです、甘いものたくさんなんてー」
「怖すぎて一日十時間しか……、あっバレた、です」
てへ、と口元を隠す。
要はヒロムが悪夢を見せる存在であろうと、彼女は怖がらないということなのだろう。
それはきっと、既に文海がヒロムのことを友達だと思っているからである。
「……それは、どうでしょう、です?」
くす、と小さく微笑んだ。
「ヒロムさんは、自分がウチュー人だと、自信を持って言える、です」
「だったら……あなたは絶対、ウチュー人です」
「ですから、怖がらないで。あなたはあなたでいれば良い、です」
彼女の想いがもし他の人からの視線を気にした物であるのなら。
きっとそれは、自身が感じているよりもずっと重い無形の鎖になりかねないから。
気にしなくてもあなたはあなただと、そう伝えたかった。
――遠くで、電車が走っていく音がした。
夜も眠らない常世学園の施設といえど、そろそろ休む時間帯かもしれない。
先ほどまでは多かった学生の姿も、既にまばらになっていた。
それを察知したのか、文海はコーヒーを一気に飲みほして、立ち上がった。
「そろそろ帰らないと、です。明日も授業がある、です」
「……またヒロムさんと、お話したい、です。それでは……」
ぺこり。頭をさげると、とてとてと会計の方へと向かっていく。
その手には二人分の伝票。どうやら彼女は有無を言わさずおごるつもりのようだった。
……そういえば、あの甘さのコーヒーを一気飲みした彼女は、なぜ無事なのだろうか?
永遠の謎が残る夜となった。
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」から秋月文海さんが去りました。
■轍 ヒロム > 「ですよねー。けどかわいいっす!」
不満げな相手に、なおも笑顔で。
「ちいさい人もでっかい人も、それぞれなやみはありますねー」
適材適所に頷く。
「いやいや!!ここのこれ!!
むしろこれら!!!!」
複数形に訂正し、砂糖やシロップの空き容器を激しく指差す。
半端ない甘党でしょうと。
優しい言葉に驚いて相手を見る。
「…………あ、ありがとーございます」
柄にもなくちょっと照れる。視線は手元のマグ。
「ほんとだ、いい時間ですね。私もかえります。
こちらこそ!またお話してください!
……あっ、まってー、でんぴょー!」
流石に初対面の学生に奢ってもらうのは気が引ける。
走って追いかけて、その後はどうなっただろうか。
どちらにせよ、途中まで帰り道を共にしたことと──
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」から轍 ヒロムさんが去りました。
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」に茨森 譲莉さんが現れました。
■茨森 譲莉 > ファミレス特有の柔らかいとも硬いとも取れない椅子に腰かけながら、
気だるげに湿布が大量に貼られた足を片手で揉む。
季節外れの登山に挑んだ結果は見ての通り、風邪ではなく筋肉痛だった。
べたべたと湿布の貼られた足はお世辞にも見栄えがいいものとは言えないが、背に腹はかえられない。
まぁ、学生ばかりのこの都市なら、部活動をちょっと頑張りすぎたのかな?くらいの印象を持たれるだけだろう。
―――そうだと、信じたい。
「我ながら、バカな事をしたわ。」
溜息をつきながら、アタシはメニューを捲る。
ほんの少し南国っぽい装いの店内は、適度な個性をそのファミレスに与えているが、
メニューの内容はごくごく普通の内容だ、しばしば同一視されている竜宮城に準えて魚料理が無駄に豊富、という事もなく。
一般的なファミレスのメニューが一通り揃っている。
先だって運ばれてきた水を一口飲む、別段、美味しくも不味くもない。
間違いなく、ごくごく普通のファミレスだった。
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」にサリナさんが現れました。
■茨森 譲莉 > ―――数分前、アタシは空腹を覚えた。
授業を終え、昇降口で外履きに履き替え、
手紙とか入ってたりしないかと小さなロマンスに胸を躍らせて下駄箱を覗き込み、
別段何も入ってなかったことに特に落胆する事もなくつま先を叩いて外に躍り出た。
秋の涼しい風が頬を撫でるのを感じながら、アタシは思ったのだ「小腹がすいた。」と。
以前と同じくカフェテラスで何か食べようかと思ったが、そのカフェテラスで聞いた話を思い出したアタシは、
スマートフォンを取り出し、『ファミレス ニルヤカナヤ』と打ち込んだ。
ここまで独特な名前なのに、チェーン店らしい。
候補は何件か上がっていたが、一番近いのは今いる店舗だった。
そうして無事このニルヤカナヤの門を開いたアタシは、
店員の「いらっしゃいませー」という軽快な出迎えの声と共に、今いるこの席についた。
以上、回想、終わり。
机の端にあるボタンを押すと、軽快な音が鳴って店員が呼び出される。
来るまでのわずかな時間をぼんやりと足を揉みながら、待った。
■サリナ > 店内は少し混みあっている。それでも中に入れば店員がやってきて待ち時間がどうとか、いつも聞く台詞。
辺りを見回せば、相席できそうな所がいくつかある。店員の人にそれを言うと、理解したのか下がっていった。
相席は日常茶飯事。この島の飲食店は席が足りなくなる事が多く、相席は一つのルールとなっている感じもある。そしてそれに私ももう慣れた。
「失礼、相席よろしいですか?」
言ってからその席の主の顔を見れば、随分と目付きが悪いように見える。もしや、機嫌が悪かったのだろうか…
口から出た言葉は戻せず、返事を待つ。
■茨森 譲莉 > 「あー、じゃあ、とりあえずこのサラダと―――。」
完全にぼんやりとしていたアタシの耳の右から左に、その声が抜けていく。
メニューを指示しながら南国風味の難解な名前のサラダを注文して、そこでようやく違和感に気が付いた。
相手はファミレスの制服ではなく、アタシと同じ学園指定の制服を着ている。
この店がそういった趣向の店ではない事は疑い用も無い事だ。
つまり、この洒落た色の眼鏡の女性は店員ではない。
「―――相席、ですか?」
先ほど右から左に抜けて行った言葉をちょっと待てと呼び戻しながら、
その随分と洒落た眼鏡の女性に聞き返す。
そういえば、メニューの末尾に「当店大変込み合いますので、相席にご協力頂く事が御座います。」
と、小さくだが確かに書いてあったような気がする。
アタシは若干顔を顰めたが、そういうルールならば仕方がない。
郷に入らば郷に従え、である。
「……どうぞ。」
アタシは向かいの席を指示し、頬杖をついた。
■サリナ > ちょっと間を見誤ってしまったか、注文の最中に横入りする形になってしまった。
返事も素っ気無いし、頬杖をついている。うんざりしているといった風に見えた。
それでもこの人は相席を了承してくれた事に違いはないのでありがたく座らせてもらう事にする。
「…ありがとうございます」
礼を言って席につけば、メニューを開いた。
何を食べるか考えつつ、開いたメニュー越しにちらりちらりと様子を伺う。
■茨森 譲莉 > 改めて現れた店員に簡単に注文を済ませると、注文の品が届くまでのんびりと待つことにする。
向かいの女性はメニューを開いて思案中、かと思いきや、アタシのほうをちらちらと見てくる。
なんだ、折角だからお話したいとかそういった意思表示か。
この学園の人間は、外の人間よりも馴れ馴れしいような気がする。
そこまで見られるとスマートフォンのゲームをやるにも居心地が悪いし、
鞄の中で眠っている先日借りてきた本を開くにも忍びない。
アタシは、小さくため息をつくと、不本意ながら意を決して向かいの女性に話しかける事にした。
「……学生さんですか?」
思巡し、口から出たのはそんな言葉だった。
制服を着てるんだから、確認するまでも無かろうに、
我ながら、もう少し気の利いた事でも聞けないものか。
■サリナ > 何か気の利いた事でも言って目の前の彼女の悪そうに見える機嫌でもなんとかできないものかと観察していた。
いざ口を開こうと思い立った時に相手に先手を打たれた。
「へ?…ええ、学生…ですけれど……あなたもこの学園の生徒ですよね?」
なんて事はない質問だった。私のような制服を着ている人は他に大勢居るし、見ればわかるとは思うが…
制服の規定はあまり定まっていないので、学生と尋ねるという事はもしかしたらこの学園には来たばかりなのかもしれないなと推測した。
■茨森 譲莉 > 「はい、そうですね。」
………しまった、会話が終わってしまった。
まさに一問一答、お互いに学生である事が確認できたからといって何が変わると言うのか。
お互いの制服を見れば分かる話なのだ、確かに、この学園には色々な制服の生徒がいるけれど、
学生服というのはどれもさほど大きくは変わらない。この異能学園であってもだ。
近い年代の女の子と話す機会に恵まれて来なかったアタシは、
さて、何を聞いていいものか、とぐるぐると思考を巡らせる。
「えっと、アタシは学校に来たばかりなんですけど、
あなたは、この学校は長いんですか?」
随分とぎこちなく、アタシはようやくそう問いかける事に成功した。
前菜とばかりに南国風の難解な名前のサラダが運ばれてきたが、
今このサラダに手を付けたらこれ以上喋る事を放棄しそうだ。
小腹がすいたと主張するお腹に鞭を打って、相手の注文した品が来るのを待つことにする。
注文した品が揃えば、お互いに食べているだけでも間は持つだろう。
そうなれば、この気まずいコミュニケーションを続ける必要も無くなる。
■サリナ > なるほど、この学園の生徒か
……あら?会話が終わった?はいそうですねで終わってしまった…?
早々に会話を打ち切ってさっさと一人でゆっくりしたいとかそういう感じのアレだろうか?
ど、どうしよう。やはり私が居ると迷惑なのだろうか……
このままだと居心地が悪く、どうしようかと身じろぎを何度か繰り返した所にやってくる質問。
「ええ!」
しまった、飛び込んできた言葉にちょっと声を荒げてしまった。ついでにちょっと前のめりになっていたので姿勢を戻す。
「……ええ、長くもなく短くもない感じでしょうか。三月からこの学園に居ますね。
…私、異世界から来たんですよ。あなたはどちらから?」
ああ、推測通りにこの学園に来たばかりなのか、とりあえずは会話が続いたようで安心した。
ついでに呼び出しボタンを押して店員を呼び出す。メニューに一瞬視線を戻し、適当に目についたこれ、ステーキでも頼む事にする。