2015/09/11 のログ
茨森 譲莉 > 『ええ!』と声を荒げて、身を乗り出してくる洒落た眼鏡(仮)に、アタシは逆に仰け反った。
なんだ、この質問はそんなに琴線に触れたのか。新入生フェチとかなんだろうか。
人間の性癖というのはまるで大空のように広大で、海のように深い。
人間というのはその空を飛ぶ旅行者だ。そういった性癖の一つ二つあっても何もおかしくは無い。

恥ずかしげに姿勢を戻す女性をじっとりと睨みながら、
自分の頭のモップ髪をくるくると弄ぶ。なるほど、人は見かけによらない。
ふぅ、とため息をつく。

「異世界から―――という事は、異邦人ですか?
 耳とかは生えてはないみたいですけど、異邦人全てが変わった見た目ってわけじゃないんですね。」

なるほど、確かに似たような世界もあるのかもしれない。
人型の異邦人が居てもおかしくはない、か。……なんだか、恐ろしい話である。
異星人が次々と要職についていき、ゆるやかに人類を支配するというSFを思い返す。
案外、既にそういう時代は近づいてきているのかもしれない。

「アタシは外からです。」

意味も無く外を指差す、外では僅かに雨がちらついていた。
帰るまでには止むといいんだけれど。
冷静に考えると、ここで外を指差したらファミレスの外からという意味にならないだろうか。
そんなボケをかましたつもりは無いが、後悔先に立たずである。やれやれ。

「えっと、島のです、島の外から。

 ………異能は何か使えるんですか?」

もはやお約束である、とはいえ、折角この学園に通うならばこれを聞いておいて損はない。
個性的な異能の数々を見るのは、アタシの楽しみでもある。
それに、もし、この学園に通っている無能力者が居るのなら聞いてみたい事もある。

サリナ > 「異邦人と言っても別の世界から来た人間ってだけで種族的な差異は恐らくありませんね」

異邦人と聞くとやっぱり耳が長いとか肌が青いとか頭が獣のそれとか、そういうのを想像するのだろうか…
彼女には一度異邦人街にでも行って多種族間の交流を間近に見てもらいたい所である。

「外?」

指された方向を見れば曇天の下、雨がちらちらと降っている。
この店の外という事だろうか?もしやこれは冗談なのでは?と思ったら続く言葉に主語が抜けているだけなのにようやく気付いた。

「ああ、島の外ですね。つまり島の外の学校…と、私は異能の類は使えませんね。魔術なら覚えがありますが……」

言葉の途中でやってきた店員にステーキを注文すると席を立つ。

「何か披露しましょう」

と言ってドリンクバーへと向かった。

茨森 譲莉 > 「……なるほど。いえ、失礼しました。」

―――成程、そういうものなのか。
ようするに異世界から来た人、ということだ。
まるで異界のようなこの学園に紛れ込んだアタシという異分子も、
あるいは、異邦人のようなものなのかもしれない。目つきも悪いし。
異世界に色々な世界があるのなら、人型のものも居るか、とただ納得する。

「魔術、ですか。」

異能は使えなくとも、魔術は使える。
しかも覚えがあると自称するのなら、相当な使い手なのだろう。
私のように指先にマッチの先程の灯りをともすとか、そんなレベルじゃなく。
……ちなみに、スマートフォンのライトのほうがまだ有用である。

「えっ、あのっ―――。」

『披露しましょう。』と席を立つ彼女の後を追いかける。
向かう先はドリンクバーだ、そういえばアタシもまだ取りに行ってなかったか。
アタシはとりあえずコップを手に取る。さて、何を飲んだものか。

サリナ > 彼女は島の外から来たというし恐らくは、普通の人間だろう。
この島にも普通の人間というのは多く存在する。こういう場で幾度となく魔術を披露した事があるし、
喜ばれたり、魔術に興味を持ってくれたりとそういった事がある。それが純粋に楽しくもあり、嬉しいのだ。

「あら?」

道すがら、彼女がついて来ている事に気付いた。席で披露するつもりだけれども…彼女も飲み物が要るんだろう。
ドリンクバーについたらコップを取って水を入れる。元より決めていた行動なのですぐに終わって席に戻る。

「席の方で見せますので、先に戻ってますね」

茨森 譲莉 > ああ、良かった『ドリンクバーを派手にぶっ壊す』だとか、そういう方向ではなかったらしい。
アタシはひとまず胸をなで下ろした。魔術を見せるというのなら、こう、御淑やかに粛々と見せて欲しい。
人は見かけによらない。ドリンクバーを爆破してから、
にっこりと笑顔で席に向かって「うふふ、これが魔術ですよ。」とか声をかけられては、
アタシの平穏な学園生活が一瞬で水泡に帰す。

いや、そこまで非常識な人間には見えなかったが、念のためだ。そう、人は見かけによらない。

彼女が席に戻るのを後ろから追いかけ、席に戻る。
忘れかけていた筋肉痛が今更存在を主張して、コップに入ったメロンソーダが少しだけ手にかかった。

「―――それで、一体どんな魔術を使うんですか?」

席につくと、彼女の手元を覗き込みながら、備え付けのペーパータオルで手とコップを拭う。
同学年ならもうこの不格好な丁寧語もやめてもいいかと考えつつも、
たまたま会っただけの名前も知らない相手には失礼だし、今更変えるのも変かと考え直す。

サリナ > 水を持ってすぐに席に行こうとしたら何か彼女が安堵したような表情になったが気のせいだろうか…
ともかく席に戻れば、テーブルの真ん中に水の入ったコップを置いた。

「ええ、それではよく見ていてくださいね。 …… …」

グラスの淵に指を置き、小さな声で詠唱。そうすればたちまちグラスの表面が白くなる。
それから5秒程してからグラスを持ち、それを逆さにする。水が落ちてこない。いや、もう中身は氷になっている。

「水を凍らせたんです。どうでしょう?」

そう、グラスの中身の水を氷結させたのだ。
初歩的な魔術ではあるが、店の中でできるものといえばこんな感じのものぐらい。

凍ったそれをまたテーブルに置いて差し出した。

茨森 譲莉 > 彼女がコップを返すのに合わせて、
反射的に慌てて注文の品とコップを持って立ち上がる。
「何をしやがる水がかかるところだったじゃないか」と抗議の声を上げようとしたアタシの眼に映ったのは、
ひっくり返してもこぼれないほどに、既にカチコチに凍りついた水だった。

時間にして、五秒程だろうか。見事な早技である。

試しにこんこん、と、手にしたコップでつついてみる。
当たり前だが、ガラスのコップとコップが当たる音がして中の水、否、氷はびくともしない。
なるほど、見事な魔術である。手がふさがっているアタシは、心の中で賞賛の拍手を送り、改めて席につく。

「確かにすごいですね、これなら、異能者と比べても遜色ないです。」

それなら、この洒落た眼鏡の女性に聞いても仕方がない。
いや、本当にそうだろうか。逆の立場から見るなら、どうだろう。

「―――あの、失礼ですけど、魔術が使えない人を見下したり、
 異能者を妬んだり、あるいは敵視したりはしないんでしょうか。」

確かに彼女は見事な魔術を披露してくれた。
でも、見事だからこそ、その魔術に強い自負を抱いていても違和感はない。
……彼女は、無能力者を見下したりはしないんだろうか。

サリナ > グラスを翻した時に彼女が立ち上がったのを見て少し驚いた。そんなに驚く事だっただろうか…こっちが驚いてしまった。
彼女がグラスの様子を見ていれば、少し不思議そうに見るので反応としてはよかっただろう。
そんな彼女の感想に続く言葉に首を傾げた。

「…?」

中々に変わった質問だ。魔術を披露した後にこういう質問をされるのは初めてだと言ってもいい。
彼女は何か、そういう差別意識があるのかもしれないし、第三者の視点から異能者、魔術師を見て、興味本位で聞いているだけかもしれない。
それはまだ推測の域を出ないが、彼女の言った質問の意味をよく考えてからそれに答えた。

「…いえ、そういう事は特に思っていたりしません。
 異能に関しても私は魔術が使えるからか、羨ましがったりとかはしてませんね。

 それと、魔術を披露したのはですね、楽しんでもらったり、魔術に興味を持ってほしいとか、そういう思いがあるんです。
 私も魔術師としてはまだまだだと思いますし…それに、そんな私に頼って魔術を教えて欲しいと言ってくれる子もいるんです。

 だから…そういう、魔術が使えないからと言って見下したりとかそういうのは私にはできません。
 私にも、それが使えなかった時代はあったから……それに、魔術以外でできない事も沢山あります」

魔術が使えない、異能が使えない、それでも、他に何かできる事はあるのだと思う。
私にもできない事はある。それは魔術を以ってしてもできない事だ。

だから、私の言った事はただの謙遜ではない。

茨森 譲莉 > 「丁寧に答えて頂き、ありがとうございます。

 ……変な質問をしてしまってすみません。アタシ、最近ここに来たばかりなので、気になって。」

目の前の眼鏡の下の顔が困惑の色に染まるのを見て胃を痛めていたが、
どうやら、この眼鏡の彼女はアタシの質問の意味をしっかりと考えて、答えを出してくれたらしい。
見た目通りに落ち着いていて、しっかりとモノを考える出来た人なのだろう。
解答の内容もまた、出来た人間の回答だ。

アタシは、そんな純粋な気持ちで魔術を見せてくれたのに、
穿った見方をしてしまった自分をただ恥じた。
……これで新入生フェチという妙な性癖がなければ完璧なのだが。
えてして、人間というものはそう都合よくは出来ていないらしい。

小さく頭を下げてから、サラダを口に運んで、もくもくと咀嚼する。
何の事はない、普通のサラダだ。南国風の妙な名前がついているからといって、別に南国風でもなんでもない。
看板に偽りあり、と言いたいところだが、別に看板に偽りはない。ここはファミレスだ。

「アタシは異能も魔術も使えないので、どうしても少し怖いのかもしれません。
 魔術師も、異能者も、アタシからすればどっちも未知の存在ですから。

 ………アタシ、茨森譲莉って言います。シノモリユズリ。
 その人達と同じく、貴女に魔術を習う事があるかもしれません。
 その時は宜しくお願いします。」

ふぅ、とため息をつく。
いい加減、不慣れな丁寧語にも疲れて来た。
不慣れというか、苦手なのだ、どうしてもカタコトになってしまう。
とはいっても初見の相手にこの目つきの悪さで話しかけると委縮させてしまう事が多いから、また悩ましい。

「あと、疲れたから、丁寧語やめてもいいかしら。
 ……同学年よね、あなた。」

サリナ > 質問の意図は興味本位だったか、でも自分の意思を再確認する機会だと思ってよしとしよう。
しばらく彼女が野菜を食べる様を眺めていれば、私が頼んだステーキがやってきた。
じゅわじゅわと熱した鉄板の上の肉が焼ける音がする。

早速ナイフとフォークで肉を切っていると彼女が言った。
…未知の存在。ここに半年ぐらい居る身としてはあまりその実感、自覚はなかった。
私は得体の知れないモノは嫌いだが、島の外から来た人には私も得体の知れないモノとして映るんだろうか。

続く自己紹介、その後にいきなり砕けた口調がやってきて少しだけ笑った。

「ふふ…構いませんよ。私も一年生ではありますので……
 私の名前はサリナ・イバルラ・アマビスカ…サリナとお呼びください、茨森さん。

 魔術であれば魔術系の授業も数多くありますので、まずはそういう所から受講してみてください。
 私に教えを請う前にそれらの授業に出てみる事をお勧めしますよ」

言い終わり、切り分けた肉を口に運ぶ。

茨森 譲莉 > 失礼な質問を投げつけた後に、無礼な口調。
本当に無礼な奴だな、アタシ、と思うような事でも、
にっこりとそれを受け入れてくれる眼鏡の彼女、サリナ・イバルラ・アマビスカ。
―――サリナには、只管頭が下がるばかりだ。

「そうね、折角この学園に来たんだし、異能とか魔術の授業は一通り受けてみるつもり。
 それ以外の授業も、受講は自由らしいから一通り受けたいかな。」

アタシは、パリパリとサラダを食べながら、ゆっくりと思考の沼に沈み込む。

この学園に居る人間は、アタシとは、いや。
アタシの居た地域の人間とは、根本的に違う考え方をしているのだと思う。
この常世学園の人間には、嫉妬という感情は無いのだろうか、警戒心や恐怖心。
自分と違うものを自分とは違うものとして考えるという発想は、本当にないのだろうか。
逆に、自分より劣るものを劣るものとして見下すという発想は、ないのだろうか。

そんな汚い考え方しか出来ない自分が嫌で嫌で仕方がない。
けれど、むしろアタシのそうであってほしいという願いなのかもしれない。
自分が汚れていると感じたくはないから。汚れに、救いを求める。

考えれば考えるほど、沼にずぶずぶと沈んで行けば行くほど、
自分が嫌いになる気がして、思考を打ち切った。

「……サリナね、覚えておくわ。
 分からない所とかあったら、頼りにするから。」

カチャンとサラダの皿を置いて、メロンソーダを一気に飲み干す。
炭酸が喉を焼いて、小さく咽た。
肉を美味しそうに口に運ぶサリナを見て、アタシも肉とか頼めば良かったかと思うが、
時すでに遅し、アタシは相席を早く終えたいがためにサラダだけしか頼まなかった。
サリナとはもう少し話してみたかったし、追加の注文をしてもいいかとも思うけれど、
それはそれで何となく気恥ずかしい、つっけんどんな態度なまま、自分の伝票を持って立ち上がった。

サリナ > 肉を食べながら彼女の様子を時たま見ていたが、飲み物を一気に飲んで少し咽ている。
緑色の飲み物は炭酸飲料と記憶しているが、それなのに一気に飲むのか…
その後すぐに伝票を取ったので、もう帰るのかと思った。

「ああ、お帰りですか?相席、ありがとうございました。またどこかで会いましょう、茨森さん」

見てて思ったが、彼女はサラダしか食べないのだろうか。
見た目はそういう風には見えないが、案外"べじたりあん"というものなのかもしれない。
何にせよ席を分けてくれた彼女には感謝しつつ別れと告げ、残りの肉も口に入れるのだった。

茨森 譲莉 > またどこかで、という言葉に手を挙げて答えつつ、アタシは会計を済ませて店を出た。

幸いにして、雨はもうあがっているようだった。
空には虹はかかっていないが、細々と日差しが差し込んでいる。
この後はピカピカ快晴になっていくのだろう、まだまだ熱さの残る季節、
雨上がりの景色は水が反射して綺麗なものだが、今葉々に乗って輝いている水が蒸発して湿気になれば、
さながら蒸し器に入れられた肉まんが感じるような不快感に襲われる事になるのだろう。

先ほど見た魔術を思い出して、是非とも習いたいと思った。
外で氷が作れるなら夏には非情に便利そうだ。羨ましい。

―――まだ秋先だけれど、肉まんは売っているだろうか。
そう考えながら、足先を併設と言えるような距離にあるコンビニに向ける。

炭酸飲料はなんとなくお腹を膨らませてくれるけれど、
すぐにまた、あの空腹感に襲われる事になるのだ。

先の思考に出てきた肉まんを求めて、アタシは歩き出した。

ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」から茨森 譲莉さんが去りました。
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」からサリナさんが去りました。