2017/09/17 のログ
宵町 彼岸 >   
「なんだか、良い事があったみたい、な感じがする?」

顔の判別がつかないので雰囲気でしか判断できないのだけれど。
それでも以前の彼女であればそっとスルーされていただろうという
間違った方向の自信があった。誇れることではないかもしれないけれど。

「どした、のぉ?
 あ、これは季節病、みたいなもの、だからぁ
 気にしない、で、ほしーなぁ」

投げかけられた疑問ににこっと微笑みを返す。
要はまだ喋る事にこの体が慣れていないだけ
もう少しすればしっくりくるだろう。
初めから完全同期させるよりも
慣れるまでのこの時間を楽しむ方が色んな意味で楽しい。
体と心は同期するというけれど、
幾分かそちらに引っ張られて
子供らしくなっているような気もしなくもない。

「おじゃま、しますぅ」

引かれた椅子にちょこんと人形のように腰掛け、
そのままメニューに手を伸ばす。
はた目から見ても明らかに楽しみですといった様子で

「そっか、初めてどーしなのかな?
 ふふー。こういう、の、ちょっとドキドキ、するね。
 わぁ、どれも美味しそうだねぇ」

キャッキャと小さな子供のような反応を見せながら
じ――っとメニューに目を通すが……
次第にその表情が曇っていく。
そのくせメニューを何度も見直してみたりして。

和元月香 > 「夏を満喫できたっていう良いことはあったよ」

海にも山にも行っていない。
だけどたくさんのひとと出会い、初めての感情を感じた。
この夏を、月香はきっと何億年経っても忘れない。

「...?なんか具合悪いって感じするんだけど、大丈夫ならいーや」
(具合悪いってか、なんというか...)

違和感が拭えない。
顔を合わせたのは随分前だが、どうも違った雰囲気だ。
感情ではなく、丸ごと。
だが見た目は変わっていなくて、気のせいかなと締めくくる。

「へいらっしゃい」

ファミレスに似合わぬ居酒屋のような迎え入れ。
その声色も前より少し明るかった。
表情は変わらないように見えるだろうが。

「やっぱりいいよねお店のご飯って」

キラキラとした笑顔で、パスタをフォークに巻き付けてぱくりと一口。
花を飛ばさんばかりの幸せオーラでパスタを頬張っていた月香は、
表情の曇った相手を見てもぐもぐと咀嚼し、飲み込んだ後不思議そうに尋ねた。

「どしたー?好きなもんない?」

宵町 彼岸 >   
「そっかぁ
 楽しそう?嬉しそう?
 んー……うまく表現、できないけど、
 良い感じ?」

メニューからちらっと眼を放し、
柔らかい笑みを見せる。
感情は感染すると耳にする。
少なくとも一緒に座っている相手はとても楽しそうで……
表情が分からなくても今を思い切り楽しんでいる事だけは伝わってくる。
それをなんだか少し羨ましく感じる。

――目下のところはそんな感情よりも大事な問題がある。
それは彼女にとっては今一番の問題で……

「えっと、えっとね、
 どーしよぉ、つきか」

小さく漏れ出た声は
落胆と言うより期待の混じった戸惑いの声。

「あの、ね、グラタン、もあるの。
 アイスもある、しね?パフェもある、の。
 カード、は持ってる、からどれで、も頼めるの
 けど……」

戸惑いが揺れる瞳を上げ、
本当に本当に困ったような声色で続けた。






「――流石に、この量、全部は、食べれないの」

……食べたいものを全部頼むという無節操な謎行動が
当たり前のように彼女の中で採用されかけていた。

和元月香 > 「類を見ないほど沢山外に出たからね、
いいもんにもわるいもんにも会えたから楽しかった!」

朗らかに笑う。
まだまだ月香の「問題」が解決したなんて到底言えないし、
寧ろその感情を得たことでこの先いいことばかり起こるとは限りそうもなかった。

しかしながら、いま月香は楽しい。
それだけは、はっきりとした事実だった。

「なんだい困ったことでもあったのか?」

身を乗り出して尋ねる。
パスタをもう一口、口の中に入れるのも忘れない。
口を動かして咀嚼しながら、緩んだ表情で彼女の言葉を聞いていたが____。


「ごふッ!?
.....っ、え、もしかして全部食うつもりなん!?」

笑いか驚きか。
思わず口の中のものを全部吹き出しかけて、慌ててお冷で胃に流し込む。

呼吸を整えて、小さく息を吐く。
そして爆笑しそうな笑顔と苦笑の混ざった複雑な表情で。

「ファミレスは逃げないからさ、また来たらいいと思うよ?」

流石にその量は無理がある。
グラタンだけで腹が膨れてしまう。

宵町 彼岸 >   
「うぅ……どれか一つ、なんて選べないよぉ……
 甘いのも、ほしーしぃ」

ちょっと膨れてみせる辺り、もう完全に子供の行動。
一応記録上は19なのだけれど、ある意味見た目通りかもしれない。
けれど、ファミレスは逃げない。
それは確かにその通りだとも思う。

「じゃぁ……今回は……グラタンとこれ、にするぅ」

好奇心を抑えきれずドリンクバーの表示を見つめ
しぶしぶと言った様子でメニューを閉じかけ……

「ひらめいた」

悪戯っ子のような表情で目を輝かせ
小さく手を打つ。
よっぽど嬉しかったのだろう。
何度かうんうんと頷くと……

「ねーぇ、つきかぁ
 えっとね、えっとね、デザート代、私がね?
 出すから、シェア、しよ?」

お砂糖もかくやと言ったような甘い甘い蠱惑的な表情で
上目遣いで両手を合わせて見上げてみる。
文字通り完成された角度と表情。
これでコロッと行く相手は多いだろう。

……最も相手はそれよりも別の優先順位があるタイプ。
むやみやたらに艶に傾くタイプでもない。
しかし本人も完全に無意識だったりもする。

和元月香 > (うーん、可愛いなオイ)

思わずノックアウトしたかのように、
注文を渋る相手の前でのげぞった。
可愛いものには弱いのである。

「...ん?」

しかし諦めたはずの相手が可愛らしく手を叩いて、
とある提案を男を悩殺するような表情でするやいなや...。

「.....っしかたないなぁ、
...喜んで」

親指を立てて、真顔で頷いた。
確かに優先順位は他にあるし、惚れたわけではないが。
月香は金欠、及び無類の甘味好き。

断る理由は無かった。

宵町 彼岸 >   
「やったぁ。何食べるぅ?なんでもいーよぉ
 ふふー……、楽しみだよぉ。
 ……えと、呼び鈴ってこれ、でいーんだよねぇ?
 これ押したら、ちゅーもん、を、聞きに来て、くれるって
 誰か言ってたけどぉ」

楽しそうに、けれど何処か恐る恐る呼び鈴をそっと押して
ぱっぽぅ!と言う何処かで聞いた鳴き声のような音の後に返された
少々お待ちくださーい!という声を聴くと安心したように小さく頷いた。
そうしてゆっくりと目の前の彼女へと向き直る。

「良い事、も悪い事も
 沢山、あったんだ?
 たのしそーだねぇ。
 うん、幸せっていう感じがするよぉ」

机の上に両手を乗せると
先ほどまでの小さな子供のような雰囲気とは打って変わって
落ち着いた穏やかな表情を見せた。

「きーてもいい?
 私、興味、あるよぉ。
 どんなことが楽しくって、嬉しかったのか」

話をしたければだけれど。
そんな言葉を言外に含ませながら
ただただ静かに耳を傾ける。
別に話題は他の何かでもいいのだけれど、
何だかとても楽しそうだったから……
そういう時誰かに話したくなることがあると彼女は知ってはいる。
それに人の話を聞くことは元々とても好きなのだから。

和元月香 > 「んー、彼方が決めればいいよ。
私甘いのは全部好きだし。
始めてきた記念だし、色んなの頼みな!」

先輩ぶるようなドヤ顔で。
奢るのは相手だし、下心スケスケの台詞。
明らかに大量のスイーツ獲得を狙っている。

「...ん。
まぁ、あんまり大したことじゃないのかもなぁ」

へらりと笑って、頷く。
ささやかな楽しみと、虚ろな闇の重ね合わせ。
でもそれが、幸せになるのか。

「あのね、友達が沢山できたんだよ!
いい人も、悪い人も、好きな人も、ちょっと苦手な人も。
いっぱい話して、すごい世界が広がったような気がするよ!」

はしゃいだように体を動かして喜びを表現する。
だからなんなのだ、と言われても構わない。
誰かと語り合うことで、月香は色のついた世界を垣間見れる。
そして安心するのだ。穏やかな気持ちになれるのだ。
____自分はまだ、独りではないかもしれないと。

「悪いこともあったよ。
嫌なことを、いつもより思い出して、退屈になった」

ちょっと文脈がおかしいと感じたかもしれない。
この感覚は月香からしても形容しづらい。
月香の悪いことは、普通の悪いことより随分ズレているから。

ちょっとだけ無表情になった月香だったが、
次の瞬間には穏やかな笑みを浮かべて。

「でもさ、それを見抜いて声をかけてくれた人がいたんだよ。
その人から、わたしはきっとずっと味わえないと思ってた感情を貰った」

にやりとした笑み。
しかしそれは悪巧みしているようなそれではなかった。
ある意味、心から幸せを感じているような。

宵町 彼岸 >   
「そーぉ?じゃぁねぇ……
 えと、これと、これと、あ、こっち、のシャーベットも、おぃしそぉ……
 あと、このクレープ、も、お願いしま、すぅ
 それから、それから……」

注文を取りに来た店員さんに
諦めきれなかったのであろう幾つかの注文を
迷いながらゆっくりとしていく。
……どうやら見事大量スイーツ獲得になりそうだ。

「うんうん……」

わくわくした表情で去っていく店員を見送った後、
溢れ出るような言葉に穏やかに相槌を打っていく。
本人はあまり知らないが、なんだかんだ人望がある理由の一つに
ただ話を聞いてくれるという事もある。

「友達、いっぱい?
 つきか、凄いねぇ。
 それだけ素敵っていう、事、だよ?」

そしてこういう言葉を臆面なく口にするという事もある。
友達が増えた、それは凄い事だと思う。
それだけ沢山心を重ね合わせる事が出来るという事だから。
それだけ誰かを想う事が出来るという事だから。
その程度に差はあれど……目の前の彼女は確かに生きていると伝わってくる。

「そっか、そっか、
 素敵な人、に会えたんだ、ね。
 退屈な相手でも、なさそう、だしぃ」

その相手はただ優しいだけでも、ただ聡いだけでもないだろう。
摩耗した心はそんなものだけでは動かないと彼女は知っている。
それが動いた……ある意味とても羨ましい感情だと思う。
それを感じられること、それを大事にできる事が。

「ふふ、今ね、凄く、幸せそうだよぉ
 ちょっと羨ましい、位」

きっと言葉にしなくともいいのだろうけれど、
けれど敢えて言葉にしても良い物があると思う。
例えば、溢れるような温かい感情のような。

和元月香 > 「...よし」

大量のスイーツ注文に、
テーブルの下で小さくガッツポーズする。
今日はいい日だ。もう終わってるけど。

「へへ、そうかな」

素敵、と真正面から言われて照れたように頭をかく。
そんな事言われるような人間じゃないけれど。
素直に、嬉しかった。
うん、と花の咲くような笑顔で頷くも。

「.....自慢できるような奴じゃないけど」

一言答えて、ちょっと居心地悪そうに視線がさ迷う。
その頬は、僅かに紅に染まっていて。
はじめて執着心を抱いた彼を思い浮かべて、慣れない感情に未だ戸惑う。

「.....だからこそ、ちょっと嫌なんだけどね」

今ある溢れんばかりの幸せを、心から喜べない自分がいるのも事実。
だがそれは仕方ない。仕方ないのだ。
喪うのが怖いのではなく、喪った後の自分を好きになれない。
この幸せは、永久には続かないから。

「...彼方は、友達いる?
大切な人とか、いるかな?」

少し冷めたパスタをそのままに、
笑みを浮かべているが静かな口調で尋ねる。

宵町 彼岸 >   
「うん、だって、その人達思い出し、て
 そんなに幸せそう、だものぉ。
 それだけ、幸せを振りまいてるって、ことだよぉ?」

こっぱずかしいような台詞も特に恥ずかしがらず口にする辺り
真面目にそう思っているのが伝わるかもしれない。
元々色々と世間ずれしているが、ある意味箱入り娘と言うのは伊達ではない。

「ふふぅ、大切なんだねぇ。
 その人の事」

そのあとに続けられなかったであろう言葉を
判ってるよと言う様に小さく頷く。
彼女は数えきれないほどの別離を経験してきている。
それでも手を伸ばす事が出来た。それだけでも十分賞賛すべき事だろう。

「ボク……は」

何気なく返された言葉に
少しだけ瞳の奥がチラつく。
友達……大切な人……
ある意味彼女にとってはとても大きな事。
けれど……

「どう、なんだろぉ
 友達、は、いる、のかなぁ?
 顔、分からないけど、ずっと世話して、くれるヒト、とかはいる、よ?
 けど、友達って、ボクが言って、も、いいのか、は判らないから」

何処か少し寂しそうな表情を見せた。
友達だと言い切れたらどれだけ良いだろう。
友達で居られたなら、どれだけよかっただろう。
世界はそれを許してはくれないけれど。

「大切、な、人……は、ボク、にはまだ、わかんない、かなぁ……?
 あはは、まだ早い、のかもしれないねぇ」

ふにゃりと笑みを浮かべて自信なさげに少しだけ言葉を濁す。
……言い切れるはずがない。
誰かを愛する方法を、実感としては一つしか知らない。

「ボク……は研究、馬鹿だ、から
 あんまりおもしろい事、言えないよぉ
 だから、つきかのこと、聞きたいなぁ」

誰かの口からきけば、欠片だけでも理解できるかもしれないから。

和元月香 > 「前から思ってたけど、彼方って凄いまっすぐ思ったこと言ってない?
...ちょっとなんか、恥ずかしいわ」

ぱたぱたと熱くなった顔を冷ますように手を振る。
こんなにも真っ直ぐに褒められて、褒められて、褒められて。
...ちょっとどうにかなりそうだ。

「うん。
たいせつって、もう無理だと思ってたし、
今も思ってるけど、なんとかなるもんだね」

大切なものを何とも思わず壊す。
まるでそこらにあった石ころのように投げ捨てれる。
その程度の感情だろうけど、幸せになれる力はある。
...きっとずっと後にまた、あの虚ろな感情を抱くことになるだろうが。

「そっか。
彼岸も色々あるんやね」

曖昧な言葉には、それだけ言って笑いかける。
事情は少し、ほんの少し知っている。
だからこそ、余計な言葉は不要だと判断した。

「いつか見つかるといいね。
どんな形でも、一時的にでも幸せになれたらいいような気がするんよ」

お互い、ありふれた穏やかな幸せを望めないから。
一瞬でも、大切な人と幸せになれるのを祈っておこう。

「私もあんまり面白い話はできんよ?
どんな話かによるけどさぁ」

軽く笑って、冷めたパスタを食べた。

宵町 彼岸 >   
「あはは、よく、言われるよぉ
 でも、ほんとのこと、だし、ほんとにそう、思うんだもん」

隠すこともすり替える事も得意だけれど。
私が私である内は、今みたいに素直でも良いと思う。
例え効率も何もあったものではない
リスクとリターンが到底釣り合わないような行動だったとしても。

「そっかぁ……
 今度は大丈夫、だよ」

根拠も何もないけれど
確信しているかのように透明な笑みを浮かべながら
短く、けれどきっぱりと言い切る。
危うさなんて、何よりも本人が一番わかっているのだから。


「……そだね」

ある意味目の前の彼女は自分とよく似ていると言えるのかもしれない。
生きた年数で言うなら比べようもないと“知って”しまっているから。
それでもなお、何かを愛せる事が本当に羨ましかった。

「折角素敵、なんだから
 大事にして、貰わないと、だよぉ?」

少し揶揄う様に、けれど柔らかい笑みも纏いながらくすくすと笑う。
彼女は愛されること、愛する事をもっと我儘に願っていい。

――もう私は十分愛されたから。
そんな言葉を削った氷の上に落とした水滴の様にひっそりと飲み込む。
それは静かに染み入り、凍りつきながら
まるで初めから何も無かったかのようで……

「何でも、良ーよぉ。
 なんでも、面白いもん。
 つきかに、とってふつーでも、
 ボクにとってはそうじゃない、こと、沢山、だから。
 それに、話すのじょーずだし」

“私の事”等と言う重いだけの話など面白くもない。
そんな事(ありふれた喜劇)などはどうでも良いのだから。

和元月香 > 「そういうとこ嫌いじゃないけどさ!」

にひっと笑ってカタンとフォークを皿に掛ける。
そして、サイドメニューに頼んでいたサラダをしゃくしゃくと食べ始めた。

「...そうだといいね」

まるで他人事のように、呟く。
少しも変わらない、かもしれない。
だがその答えに、少しだけ安堵した。

「案外、私と彼岸、友達みたいなもんかもしれんね。
私は勝手にそう思ってる」

対にして双、と言える程には似て異なる境遇かもしれない。
そんな2人がこうして、ありふれた光景の中で語り合う。
ある意味ひとつの、友人の形かもしれない。

「んんん...。
愛される、かぁ...」

しきりに頬を染めて、頭を掻く。
想像出来ない。
最初から望んでいた相手に、愛されるってどんな感覚なのだろうか。
彼はそんな人物では無いが、想像するだけで未知の感覚に月香は高速で頭を掻き続けた。

「うーん。
...なんだろー。彼方ってアニメとか観てる?
今期のアニメがすごく面白くてだね」

迷った挙句、今ハマっているアニメについて語る事にした。
...相手の異変に、気づけないまま。

宵町 彼岸 >   
「あはは、それも良く、言われるぅ」

悪びれもせず、けれど嫌味にならないような自然さで
小悪魔めいた笑みを浮かべて。

「友達?うれしーなぁ。
 友達、の顔も、覚えられないん、だけど、ねぇ」

けれど続く言葉には
たはは。と少し弱ったような笑みを浮かべる。
きっと自分の事を友達と思ってくれている人は多いだろう。
そのように振舞っていて、それらはある意味完璧にかみ合っている。
彼らが思う友達の形とは実情が違えども。
けれど、それでも良いと……そう思いたい時もある。

「大事だよぉ。
 そう思え、る事も、そう思える、つきか、も。
 もちろん、その人の事、もだけど
 だから、ちゃぁんと、大事、にしてね?」

自分の知らない、けれど求めているそれを
自らの内に感じられる彼女の事は
純粋に羨ましく思う。
人を好きと言えるその強さが何よりも羨ましい。
ある意味近しい境遇だからこそ、どこかで何かを重ね、
幸せになってもらいたいと願う事は
……きっと嘘ではない。

「アニメ―?実は、ぜーんぜん見た、ことないよぉ
 でもきょ―みあるぅ」

ぱぁっと明るい笑みを浮かべてアニメの話を楽しそうな表情で聞いていく。
その間にやってきたグラタンを食べた直後に
自分が猫舌であることを思い出したり
大量に運ばれてきたスイーツ軍を色々と試食してみたりしながら
その笑みは崩れる事もなく、心底楽しそうに話を聞いていた。
……少なくとも傍から見れば仲睦まじい女子生徒の夜の会だろう。
完璧に演じる事など造作もない事だったから。
だれも疑う者もいないように。
内心に巣くう嘆きの川など微塵も伺わせずに。

和元月香 > 「覚えられないのは仕方ないよ!
多分その子らも分かってくれるからさ」

失礼だが、こんなふわふわした子と付き合っているような友達だ。
自分が彼女の記憶に残っていなくても、嬉嬉として世話を焼くだろう。
人望があるのは、そういうことかもしれない。

「うん、うん。
...彼岸も、きっと出来るよ」

胸を張って言える強さじゃない。
汚い、薄暗い、どうしようもないもの。
でも、それを褒めてくれる人がいることで
いつものように笑うことが出来た。

「も、もったいない!人生の6割損してる!!
まず、ギャンブルアニメの主人公のやばさが____」

大袈裟な口ぶりで熱くアニメについて語り始める月香。
グラタンで猫舌を思い出す相手にほのぼのしたり、
スイーツを頬張って満面の笑顔になったりと終始楽しく過ごした。
今日もまた、夏の終わりの素敵な思い出になるだろう。

そう、素敵で楽しい。
きっと、それだけの。

ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」から和元月香さんが去りました。
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」から宵町 彼岸さんが去りました。