2015/07/16 のログ
ご案内:「部屋」に日恵野ビアトリクスさんが現れました。
日恵野ビアトリクス > 「…………」

夕方頃。男子寮、ビアトリクスの一人部屋。
普段なら魔術なり絵なりの鍛錬をしているところだったが、
その日は何かする気も起きず、部屋に閉じこもっていた。
居間のテーブルに座り、見舞いにもらったが、まだ食べきれていない枇杷を
手にとって眺めている……。

ご案内:「部屋」に神宮司 ちはやさんが現れました。
神宮司 ちはや > (ビアトリクスの部屋の前に来ると、控えめにノックをする。
 それから外から呼びかけ。)

トリクシーくん、いる?
ぼくだけど話があるんだ。

(手には近所の和菓子屋で買った水まんじゅうの紙袋を携えている。)

日恵野ビアトリクス > 外から呼びかけがあると、枇杷を置いてのろのろと立ち上がり、
部屋入口へと向かい、ドアを開ける。

「……やあ。
 もう体調は大丈夫なのかい?」

出迎えたその表情には、若干の疲れが伺える。

神宮司 ちはや > う、うん。もう平気……。
あの、これあげる。良かったら食べて。

(疲れの見える顔にやや不安になるもそれを顔には出さぬよう
 努めて微笑を浮かべて出迎えを受ける。
 紙袋を相手に差し出してから)

今、大丈夫?入ってもいい?

日恵野ビアトリクス > 「ん、ああ、ありがとう。
 もちろんさ。あがっておいで……」
紙袋を受け取る。
不安を感じ取ったか、薄い笑みを作った。

部屋に入って行くなら、大量の書籍が詰まった棚が
所狭しと並んでいることがわかる。
デッサン資料、図鑑、画集、魔道書、参考書……
その中にはスケッチブックだけで埋められている本棚もある。
百冊はゆうに超えていた。
ものは多いが、比較的整頓されており、几帳面な性格が伺える。

小さいテーブルまで案内され、そこの椅子に座るように促す。
椅子は二つで、もう片方は荷物が詰まれていたので、それをどけて自分が座る。

神宮司 ちはや > お邪魔します……。

(そろそろと部屋に上がると、物珍しそうに周りをきょろきょろと見る。
 油絵の具や木炭、紙の匂いがする部屋。本の多さに圧倒される。
 これだけ集めるのは大変だろうし、スケッチブックの冊数からみるに
 ビアトリクスがずっとたくさんの絵を描いてきたことをうかがわせるものだった。

 そろそろと椅子に座ると足を揃え、うつむく。
 いざ向かい合って話そうという段階で何から話せばいいか分からず困ったような顔で)

……えっと、トリクシーくん、元気だった?
あれから怪我とかしてない?大変だったよね……ごめん。

(弱々しく申し訳なさそうにそう切り出した。)

日恵野ビアトリクス > 「あ、飲み物でも出そうか」
一度席を立ち、グラスにペットボトルの烏龍茶を注いで出す。

ちはやの言葉には首をかしげた。
「全然元気さ。大した怪我は負ってなかったし、
 治癒符も使わせてもらったからね」

一度言葉を切って。
「それに大変だったのはちはやのほうだろ。
 ……なにか後遺症とか残ってないかい?」
ちはやの見せた供犠の舞。
具体的にどういう能力なのかビアトリクスの知るよしもない情報だが、
ある程度は検討がつく。

神宮司 ちはや > あ、うんありがとう……。

(烏龍茶を受け取り、グラスを握ったまますぐには口にしない。
 本当に元気かどうかは怪しいものだと、さっきの表情を思い返す。)

……本当?でも入院していたんでしょう?
それに、何か疲れていたように見えたし……
ぼくを助けようとして、大変なことに巻き込んじゃって、ごめんね。

(頭を下げる。
 相手の気遣いの言葉には首を振って)

ううん、ぼくは平気。大丈夫。
治ったから退院できたし、後遺症とかも全然無いから。
トリクシーくんたちが守ってくれたおかげだね。

(とりあえず安心させるように微笑を浮かべた。)

日恵野ビアトリクス > 「そうか。……それならいいんだが」
平気、という主張に安堵のため息を漏らす。
とはいえ完全にその言葉を信用したわけではなかった。
ただでさえ体力のないちはやだ、
あの能力は文字通り命を削るようなものだっただろうから。

「謝る必要はない。
 ……むしろ、謝るのはぼくのほうだ」
烏龍茶を一口飲んでから、重く口を開く。

「ぼくが未熟なために、あいつの目玉への攻撃が中途半端に終わって
 あいつを逆上させてしまい……
 結果として、きみに余計な負担を強いることになってしまった。
 本当にすまない」
グラスから手を離して膝の上に置く。
そうして、座ったままちはやと同じように頭を深く下げた。

神宮司 ちはや > (ビアトリクスが頭を下げるのを慌てて押しとどめようとする。)

や、やめてよ。それこそトリクシーくんが謝ること無いよ。
ぼく、詳しいことはあんまり覚えていないけど……
でも、トリクシーくんがイカをやっつけてくれなかったら
ぼくは今頃海の底で食べられちゃってたかもしれないし……
津波もトリクシーくんとかミウさんとか……他の人達がいなかったら全然止められなかった。
だから謝らないでよ……。

ねぇ、もしかして元気がなかったのはそれをずっと気にしていたから?

(恐る恐るそう切り出してみる。)

日恵野ビアトリクス > 「そうかな……」

ちはやの最後の問いかけには、少し間を置いて、
「……」
無言で小さく頷く。
そしてテーブルの上に肘をついて、耐え切れなくなったように頭を抱えた。

ビアトリクスにとってちはやの危機を救うことは当然のことだった。
当然過ぎてそれは何ら誇るべき話ではなかったし、
ちはやに傷を負わせてしまったのは自分の失点だった。
ビアトリクスはひどく内罰的な性格だった。

「だって……
 あんなに血が、……」
あの時の光景を思い出してしまったのか、
頭を抱えたまま弱々しく、小さく震えた。

神宮司 ちはや > (弱々しく震えるビアトリクスを見て、胸を突かれるような苦しさを覚える。

 どう言えば彼を慰められるかわからず、視線を彷徨わせるが、
 結局言葉では何も伝えきれることがないような気がして席を立つ。
 そっと、相手の背後に回ると、後ろからビアトリクスを抱きしめるように腕を回そうとした。)

あれは……、別にトリクシーくんのせいじゃないよ。
トリクシーくんだって、スケッチブックの絵を食べちゃったり、歩けなくなるぐらい魔術を使ったりしたでしょ。
そういう、なにかそういう代償みたいなものだから……。

それにぼくら、今ちゃんとここで無事にお話出来ているんだよ。
それのほうが大事なことじゃないかな。

……トリクシーくんが助けに来てくれたのは嬉しいしありがたいけど、
そのせいでずっとトリクシーくんが苦しんでいるのは、ぼくはいやだなって思うんだけど……。

ぼくが何かできることで、和らげられることはある?

(優しく小さな声でそう背後から言い聞かせるように問うてみる。)

日恵野ビアトリクス > 腕を回されれば、びくりとひときわ大きく身を跳ねさせる。
まるでその事自体が恐ろしい、というふうに。
しかし拒むことはしない。

「こわい、んだよ」

「ぼくたちが、こうして話せている事自体が
 幸運に幸運が重なっただけで……」

「本当は、たやすく失われてしまいかねない」

座ったまま、ちはやのほうへ振り向く。
怯える子供そのものの表情で見上げる。
いろいろなものが怖い。
はぁ、はぁと息をつく。

どれだけ傷つかないでほしい、とビアトリクスが願ったとしても、
ちはやがそうなることを望んだなら、ビアトリクスはそれを止めることはできない。
ちはやはビアトリクスのものではないのだから。

「ぼくは……」

立ち上がる。ちはやによりかかるような姿勢で、密着しそうに歩み寄る。
しかしそれ以上何をするでもなく、戒めに抵抗するように、
あるいは逆に衝動を戒めようとするように、ただ手指をぎこちなく手の中で動かすだけ。
息が荒い。瞳が潤み、視線が熱を持っている。

神宮司 ちはや > (怯えるビアトリクスの言葉に目を伏せる。
 そう、本当はいつだって人同士が当たり前のように会えるわけじゃない。
 明日にはなにか事故が起こってもう話しも出来ないことだってあるかもしれない。
 何らかの事情でお互い遠くへ離れ離れになることだっていくらでもあるだろう。
 理解はしている。あの事件を乗り切ったことは幸運だっただけかもしれないと。

 でもそれをずっと怯えるだけ怯えて毎日を享受するのは果たして正しいのだろうか?)

……わかってる、と思う。ぼくもたぶんトリクシーくんがどうにかなってしまったらと思うと、怖い。

たぶんがっかりさせちゃうと思うけど、ぼく、また同じようなことが起こって同じような選択を迫られたら、きっと同じことしちゃうと思うんだ。
トリクシーくんが悲しんでも、怪我をしないとか逃げるとかそういう約束とか保証はできないと思う。

(そこで、するりと立ち上がったビアトリクスの身体が自分の身体とくっつく。
 少し気圧されたように壁へ後退るが、回した腕を解こうとは思わなかった。
 彼の視線の熱が持った意味を、その先をどうすればいいのか困ったように見上げて)

……心配かけて、ごめんなさい。

あのね、この間の試験。ぼく攻撃魔術とかの実技やっぱり悪かったんだ……。
だからね、医療魔術とか白魔法とか、そういうのを学ぼうかなって思うの。
もしトリクシーくんが怪我してもちゃんと治せるように、足手まといにならないようにね。

……トリクシーくん、ぼくは皆と過ごすここでの日々が好きだよ。
だからえっと、それが脆いものだっていうのもわかっているから、なるべく守るためにぼくも頑張りたいって思うんだ。

そういうのは、だめかな?できないとおもう?

(少しだけ腕に力を込めながらそう囁く。)

日恵野ビアトリクス > 「……ぼくがほんとうに怖いのは」

たとえば今この瞬間にも空が裂け隕石が降り、
なにをするいとまもなく二人して粉々になってしまうことだってあるだろう。
そんなことに怯えたってしょうがない。

けれど。
赤と白の色をした死神ががんがんと頭の内側を叩く。
いつか失われるかもしれないというなら。
いっそ。


この場で、どこにも行けないようにしてしまえば。


ああ、と呻く。
見えない鎖に戒められていた腕が動く。
そして背中に回される。

傷つけず、壊さないように、できるだけ優しく。

「少しだけ」

「……すこしだけ、こうさせてくれ」

神宮司 ちはや > トリクシーくんが、本当に怖いものは……?

(彼の何かを受け答え間違えたらしいことを悟るも
 そこに込められた意味には辿りつけなかった。

 こんなに近くにいるのに、込められたものの大きさとか機微を感じられない。
 そのことにとても大きな隔たりを感じるような気がする。

 背に回された腕を受け入れて、頷いた。)

うん、わかった。
トリクシーくんの気が済むまで、いいよ。

(ぽんぽんと相手の背中を優しく叩く。)

日恵野ビアトリクス > 身体の中心が醜い鎖で繋がれている。
自分はそれに操られている。
それを外さなければきっとどこにも行けない。
高いところまで飛び立つことができない。
したくないことをしたいと思ってしまう。
それは抑えつけるたびに膨らんでいき、
自分が自分に火薬をつめていく。
いつかきっとなんらかの形で彼は自分の前を去るだろう。
そのとき自分はどうするのか。

逃げ出しますか? 闘いますか?

膝を折り、身体を顔を押し付ける。
体温が、匂いが、声が、心が。
今はここにある。
死神が姿をくらますのがわかった。

「…………ありがとう」

本当はもっと言うべきことがある。
言いたいことがある。
言ってはいけないことがある。
しかし今はまだこれだけ。

その場から動けず、しかしビアトリクスの腕の力は緩められる。

神宮司 ちはや > (お礼をいうのならば、自分のほうだと思う。
 そばに居て、自分のことを想ってくれているということに対して何度言っても足りないぐらい感謝している。

 黙ってその場でビアトリクスを受け止めていたが、
 腕の力が緩められたのなら少しだけ体を離し、
 それから相手の腕をとって、椅子を通り過ぎビアトリクスのベッドに並んで腰掛けようとする。

 身体の側面だけをくっつけて、相手を気遣うように見る。)

日恵野ビアトリクス > 腕を取られれば顔をあげて目を丸くするものの、
それに従ってベッドまで連れられていく。
身体をくっつけられれば、かっと顔を赤らめる。

「……。
 あまりぼくみたいなやつに優しくするなよ。
 つけあがって調子に乗るぞ」
恥ずかしそうに俯いて、そう言い捨てる。

こんなに優しくしてくれるのは、
きっと自分の醜い本性を知らず、理解していないからだ。

「…………ぼくは、とても、とても、
 いやで、おそろしいやつなんだよ」

顔を背けながらも、なんとか心を言葉にしようとする。
ほんの少しずつでも、自分のことを知ってもらいたい。
それは欲求でもあったけど、果たすべき礼儀でもある気がした。

「だけど……いや、だから、ぼくを含めた、
 あらゆるおそろしいことから」

「きみを守りたい」

ぼくのものになんて、なってくれなくていいから。

神宮司 ちはや > (んんーと少し足をぱたぱたと振りながら考えて)

トリクシーくんがぼくに優しくしなかったら
ぼくも優しくしなかったと思う。
だから、優しくされたらするよ。お返し。

(相手が顔を背けていう言葉を足先に視線を落としながら黙って聞く。

 聞き終えてから少し間を置いて、ちょっとずつ、だがしっかりと言葉にする。)

トリクシーくんはぼくからみたら全然いやなやつでもおそろしいひとでも何でもないよ。

……本当にトリクシーくんがそうだったとしても、
ぼくもたぶん同じくらい、いやでおそろしい生き物だから
きっと……大丈夫だと思う。

(自分の弱さや醜さはきっと自分にしかよく見えないものなのだ。
 本当に何でもは分かり合えないけれど、だからこそ見せたいものと見せたくないものをより分けて
 そうして共有できたものがなにか一つでもあるのなら心が少しだけ楽になるのかもしれない。)

じゃあぼくも、トリクシーくんのこと守るね。
トリクシーくんが自分のことやだやだって思っても、
大切な友達だからいやな気持ちとかから守ってあげたいな。

(なんて、できるかなぁとたよりなく笑ってようやくビアトリクスの顔を見た。)

日恵野ビアトリクス > そんなはずはない、と反射的に返しそうになる。
自分がそうでないという言葉にも、
ちはやがそうかもしれないという言葉にも。

「……」

ちはやの言葉がゆっくりと染み渡っていく。
彼にそう言われると、自分の抱えているおぞましく呪わしいものが
案外さほどでもないように感じられてくる。
ただ優しいだけではなく、不思議と説得力が感じられた。

顔を背けるのをやめ、ちはやに再び向き合う。
穏やかに微笑む。瞳を閉じる。
心地よく、澄んだ表情。
ちはやの腕を取って、自分の胸に添わせる。

「大丈夫、できてるよ」

……いままさに、ぼくはきみに、守られているんだ。

神宮司 ちはや > ……よかった。

(ビアトリクスの表情が澄んだものに変わったのなら
 心の底から喜んでいるように鮮やかな笑顔を浮かべる。

 自分が友達の力になれたことが嬉しいような少しだけ誇らしげな照れ方も見せる。
 しばらく腕を取られ、にこにこと何も言わずに黙っているが
 だんだんと自分たちの距離が近すぎるかもしれないということに気づいて
 気まずいような恥ずかしいような心地になる。

 そっと、控えめにビアトリクスへ離れ時の視線を送る。)

日恵野ビアトリクス > 与えられた優しさに、まごころに、
どうすれば報いることができるだろうか。
彼のためになら、地獄の業火に身を躍らせることだって構わないけど、
きっとそれは彼の望まないことだ。

視線を向けられて、ごほん、と咳払いをひとつ。
手をとり、ごくさり気ない動きで手の甲にそっと口付けた。

身を離し、ベッドから立ち上がる。

「悪いな、長話になってしまった。
 付き合ってくれてありがとよ」
流し目で皮肉げに笑う。いつもの表情。

神宮司 ちはや > (手の甲に口付けられれば、びっくりしたように身体がびくりとはねた。
 が、さり気なさゆえに嫌がることもない。
 ただ、真っ赤になってじっと手の甲を見つめる。

 同じようにそろそろとベッドから立ち上がって)

ううん……いいよ。ぼくも急に押しかけちゃってごめんね。
ありがとう。

ねぇ、トリクシーくん……



トリクシーくんは、よく、キスするね……。
おうちの習慣……とか?

ぼ、ぼくもしたほうが、いい?

(言い終わってから、なんてはしたないことを聞いてしまったのだろうと口元を押さえ視線を逸らす。
頬を真っ赤に染めて、怒られやしないかと身を縮こまらせた。)

日恵野ビアトリクス > 「えっ」
思わず気をつけの姿勢を取ってしまった。
“したほうがいい?”なんて言われては。

手の甲へのキスというのは敬愛の表現であり、
その手の作法は確かに母から教えられたものだった。
だから邪な気持ちなどない、と主張し言い聞かせたかったが、
もちろんそれは嘘であり、
彼を汚さないギリギリで彼に深く触れたかったのだ。

数秒の沈黙。
ゆる、と立ったまま身体から力を抜く。
くす、と笑う。

「じゃあしてもらおうかな。
 ……いや、しなくてもいいけどさ」

(……これくらいの贅沢はゆるしてほしい)
胸中で誰かに詫びた。

神宮司 ちはや > (相手の反応から
 そっか、やっぱりお家の習慣なのかな、などと考える。
 そもそもビアトリクスが他所の国のハーフめいた容貌だし
 女の子の格好なのもそういう個人の自由が尊重されるような国だったのかもしれないし……とは思っていたが。

 じゃあ自分にキスをくれるのも敬愛とかそういうものかと納得するとそっと相手に近寄った。)

じゃ、じゃあするよ?いやだったら突き飛ばしてね?

(いくら仲の良い友達同士だとしても、キスなんて家族にも殆したことがないし
 この間やっと他人にキスを教わったぐらいだからとても緊張する。

 頭も身体も少し熱い気がする。はぁ、と少しだけ息を吸い込むと背伸びをして、ビアトリクスの頬に自分の唇を押し付けた。
 勢い余ってちょっとおでこをぶつけたかもしれない。

 時間にすれば一秒もしないですぐ離れたが、キスをしたという事実にいっぱいいっぱいになると紅潮させた顔のまま、押し黙って俯いた。
 そのまま後ずさりして、ドアまで逃げようとしそうになる。)

日恵野ビアトリクス > 「…………」

ぼんやりと頬を擦る。
真似して手の甲にされるかと思っていたら違った。
顔が赤くなる。
自分でする分には大したことがないし、
他人にされた分にも、こんなにドキドキするなんて初めてだ……。
ほんのささやかな口づけだというのに。

「あっその……無理させちゃった? ごめん」
ものすごい勢いで後ずさっていくちはやにあわてて声をかける。

神宮司 ちはや > (口をぱくぱくと金魚のようにするも声は出ない。
 声というかあ、とかう、とか呻くような言葉にすらならないような何かをうにゃうにゃと言いながら
 ドアの所まで後ずさると背をピッタリとくっつける。

 無理させちゃった?と問いかけられると視線を床に向けたままぶんぶんと首を横に振った。必死に。

 心臓が飛び跳ねたまま、どうすればなだめられるか分からず何故かじわりと目元が潤んだ。
 しちゃった。何かものすごいことをしてしまったような動揺を抱えたまま叫ぶように言う。)

ぼぼぼぼぼくそろそろ行くね!ごめん!
今日はありがと!ごめんね!気にしないで!ほんとうにごめんね!

(そのまま後ろ手にドアを開けると滑るように身をくぐらせて部屋を出て行った。)

ご案内:「部屋」から神宮司 ちはやさんが去りました。
日恵野ビアトリクス > 「気にしないで、って」
言われてもなあ。

高鳴る鼓動の中、ちはやの心理状況を魔術師らしく
理論的に冷静に分析しようとして――やめた。
多分明らかにしないほうがいいこともある。

再び椅子に腰掛けて、肘をつく。
今のは、よかった。とても。

「……もっと、してほしいな」

はぅ、と湿った吐息を漏らす。
おとなしくなったはずの赤と白の死神が、
醜い鎖をがちゃがちゃと鳴らしはじめた。
(ええい、鎮まれ!)
頬をぱん、と張る。
しかし、そのおぞましさは少し前よりは減じているような気がした。

“それは君の心に確かなものがあるからだ”――

この心にある確かなものは、肯定するべきものなのかもしれない。あるいは。

心の中で、いろいろな人に礼を言う。
きっと明日からは、いつもどおり過ごせるだろう。

ご案内:「部屋」から日恵野ビアトリクスさんが去りました。