2015/07/23 のログ
日恵野ビアトリクス > 鈴成静佳と直接会話をしたのは一度だけ。
その時の印象は確かに『ろくでもないやつ』ではあった。
しかし。
女性が男性用の浴場に堂々と入る、これはシャレにならない案件である。
そういうガチな事をしでかす人物――とまでは、ビアトリクスも想定していなかった。
だから、間違っているのは自分の認識か、記憶なのでは――?
と、自身に原因を求めてしまうのは、当然の帰結であった。
あったのだが。

「…………」

目をこする。
支離滅裂なことを言い始めた。明らかに不審だ。
『え? そうだよ、男だよ』
ぐらいいけしゃあしゃあと言われていたら、本当に騙されたかもしれない。

「……あのさ」

ゆっくりと近づく。湯気によるベールの向こう、明瞭になる視界。
不躾なほどにつぶさに観察する。曲線で作られた身体の輪郭。薄すぎる筋肉。

「…………女でしょ」

やっぱ女だった。

鈴成静佳 > (じろじろと裸体を見つめてくる視線に、静佳は羞恥や警戒を見せる様子はない)
(固い笑みを張り付かせたまま、こちらもまっすぐにビアトリクスさんの顔を見つめている)

(相手の警戒レベルが上がっている。これ以上上げてはいけない。でも、誤魔化す段取りを考えていなかった……!)
(エロ男子ならいくらでも懐柔できようが、相手はそういったことにほとんど興味を示さない堅物の男子。そのことは前回の接触でよく分かっていた)
(そして、静佳はこの手の男子がもっとも不得手なのだ)

……えーと。うん、やっぱり女ッスね。アハハー。
(とりあえず素直に答える。静佳は嘘が苦手でもあるのだ)

でも、さっき言ったように、男にもなったっていうか。これもホント。前にロビーで話した、その後にね。
信じられないかもしれないけど、ほら、ここ、常世島だしー?
(自販機に会ったせいでこうなったのもまた事実。とはいえむちゃくちゃな台詞ではある)
なんなら証拠みせよっか? んん?
(シャワーを止めて壁に引っ掛け、腰のタオルに手を当てながら。立ち上がろうとすればいつでも立ち上がれるという体勢)

日恵野ビアトリクス > 仮にも異性の身体を見つめているというのに、
ビアトリクスの眼差しは冷たいままで、欲情のかけらも見えない。
あるのは呆れと困惑だけ。

(若い女性の裸をこんなに間近で見たの久しぶりだな……
 仮にも男性と女性なわけだし、無理やり浴場に
 連れ込んだことにされたら面倒だなと思ったがそんな気配はない。
 目的はなんだ? ……痴女的なアレか?
 いやそこまでバカじゃないだろさすがに。
 じゃあなんでだ? わからない、ぼくには何もわからない)

などとぐるぐると思考を巡らせていると、
被告人がよくわからないことを言い出す。

「男“にも”なったァ?」

思わず声が一オクターブ高くなってしまった。
ハァ~お前バッカじゃないの?
いくら常世島がワンダーランドだからってそんな面白い話があるわけないだろ。
言うに事欠いてそれか。脳ミソピンクすぎて頭がイッちまったのか。

「はいはい、見せてみなよ。どんなデリンジャーが飛び出すんだ?」

平静に返す。表情は嘲弄一色。つまらないハッタリだ。ビアトリクスはそう判断した。

鈴成静佳 > (自分の裸体を平然と……いや、呆れをもって見つめてくる男子に、心のなかで悲鳴を上げたくなる)
(まぁセクシーさは無い。自分でもよく分かっている。でも、たとえ自分がセクシーであったとしてもこの子には意味が無いのだろう)
(ちょっとだけ悲しい気持ちにもなる。欲望がないか、欠乏している人間なのだろう。そのような生き方をした人間は、静佳の記憶にはあまりいない)
(もったいない……)

(とはいえ、見せろと言われれば見せるしかない)
……よーし、言ったッスね、見せろって言ったッスね! じゃあ今から起こる事は同意の上ッスからね!
あとで変質者呼ばわりとかは勘弁してほしいッスからね!
(現時点で十分変質者ではあるが。洗い場の椅子から立ち上がり、腰に手を当ててビアトリクスさんに正対する)
目を逸らさずに刮目せよ!
(ガバッ、とタオルを一瞬だけ開き、1秒ほどで閉じる)
(これぞまさしく変質者のムーブメント。露出狂の気はいままでなかったのだが、何か熱いものが心の片隅に灯った気がする)

(さてさて、そんな静佳の下腹部には確かに銃口が備わっていた。その銃身はモーゼル級か。歳頃にしては大きめといえる)
(しかし、弾倉が備わっていないように見える)
……と、いうわけッスよ。(ドヤ顔)

日恵野ビアトリクス > 「えっ」
確かに見た。見てしまった。
わずか一秒の間とはいえ、それもまた見間違えようもないものだった。
あまりのインパクトに、重要なものが欠けていることには気づかない。
信じられないものをこのシーンだけで二つも目にしてしまった。
表情から色を失う。口元を手で覆った。
ごくり、と唾を飲み込む。

「……そ、それ本物なのか? なんというか、その、
 でかい、な……」

目をそらす。腰に巻いていたタオルの端を握る。

「そうか……男なのか。じゃあ、しょうがない、な……」

先ほどまでの冷静さはどこに行ったのか、目をそらしたまま、
ぼそぼそとしゃべっている……
もっと問いただすべきことはあるが、混乱でそれ以上何も言うことができなかった。

鈴成静佳 > わかればよろしい。フフッ、でかいでしょ~。
(ドヤ顔のまま頷きつつ、洗い場に座り直す。そして再び腰に巻いたタオルを取り去り、洗面器にお湯を取って濡らしていく)
(一度見られて文句を言われなければ、隠すことに固執する必要はない)
(むやみに見せつけるのもそれはそれでよくないが、鏡に向かってまっすぐ座っていれば、もう下腹部の様子は容易には窺い知れないであろう)

(そのまま、動揺の欠片も見えない澄ました手つきで体を洗っていく静佳)

いやー、アタシもこれは予想外の展開なんスけどね。
島のあちこちに出没してる謎の『自販機』。ビアトリクスくんは知ってる?
遭遇した時に、試しにジュースを何本か買ってみたんスよ。で、それを飲んだら……ここが、こうなったと。
いやぁ男の子って便利ッスよね~、トイレがしやすくなって重宝してるッスよ。アハハ~。
(気の抜けた声で喋りながらも、チラチラと横目でビアトリクスさんの様子は伺う)

日恵野ビアトリクス > (まずい、ペースが向こうに行った)
歯噛みする。冷静になれ。魔術師はいつでもクールに、だ。

「……いやしょうがなくないだろ、
 身体はそうでも、メンタリティは――」

言葉を途中で止め、ギョッとしたような、戦慄の表情を浮かべる。
今、自分がとてつもなく恐ろしいことを言いかけた、そんな様子。

「…………」

本当に、何も言えなくなった。

立ち尽くしているわけにもいかないので、自分も静佳の隣の洗い場に座る。
俯いて、身体を洗うでもなく、時折ちら、ちら、と横目で彼女(……?)の様子を伺う。
どこか顔が赤らんでいるようにも見える。

「……『自販機』か」

神妙に、その単語を口にする。
ビアトリクスも噂程度なら知っていた。
まさかそんな都合の良すぎる効用を示すとは、想像もしていなかったが。
実際、なってしまっているのだから、しかたない。

「それを飲めば――」

頭を振る。またしても声が途切れた。

「……なんというか。
 おまえって、人生楽しそうだよな」

代わりに口をついて出てきたのは、どこか疲れ果てたような、そんな言葉。

鈴成静佳 > (会話が続くようであれば、静佳のビアトリクスさんをチラ見する視線の頻度も減ってくる)

メンタリティっすか。そうねー、その点じゃアタシは……うーん……?
(ビアトリクスさんの言葉が詰まった理由、戦慄の表情は伺えない。静佳も少しだけ戸惑ったからだ)
(……自分は女なのだろうか? 「性自認」というものをメンタリティという言葉で問われたとき、素直に女だと答えられない自分がいたような気がした)
(これは後天的両性具有云々の問題ではない、もっと前から。自分の「女性性」はゆっくりと……)

(……少なくとも今、自分は男子寮の浴室で、男子の隣で裸体を晒している。それになんの感傷も抱いていない)
(静佳の本能はこれをおかしいと思わない。しかし、理性は……隣のビアトリクスさんの思考を推察するという客観的な視点では、これはおかしいのだ)

……そ、そうそう、自販機。変な自販機なんスよ! 電源がないのにブーンって動作音がしたり、いつのまにか消えてたり。
(顔を上げ、正体不明の疑問を振り払うように別の話題に乗る。ごしごしと腋に石鹸を塗りたくりながら)
……フフッ、楽しそうッスか。そうね、人生めっちゃ楽しいよ。
いや、人生は楽しくなくちゃいけないと思ってるからね。
だから、面白そうなことは色々試すし、こんなとこでこんな変な事もする。まぁ、変なことしてるってのは解ってるんスよ。
身を滅ぼさない程度には、身の程はわきまえてるつもりではいるけどね。
ちょっと今日は勇気を出しすぎたかなー? あとは、自販機に会ったときもね。アハハ。
(こともなげに語る)

……ビアトリクスくんは、人生、楽しくないんスか?(横を見ずに問う)

日恵野ビアトリクス > 言葉を交わしているうちに、本来の冷静さも幾分か戻ってくる。
何度も窺い見るのも、自分がされたら嫌なことをしているな、と気づき、やめた。
蛇口を捻り、湯がだばだばと垂れ流されていくのをぼうっと眺める。
静佳の陽気なしゃべりに、その体勢でじっと耳を傾けた。

「まあ、無茶し過ぎ、だな。扱い上は女子なんだろ。
 ……もしここに来たのがぼくじゃなかったら、
 てひどい目にあっていたかも知れないよ」

どことなく、優しい口調。
彼女の奇行を咎めようという気持ちは、ほとんど消え失せていた。

「……楽しいこともあるさ。
 楽しくないことのほうが、多いけどね」

無表情に目を伏せる。つぶやくような言葉。

鈴成静佳 > (静佳も、脚の先まで石鹸を塗り終え、座ったままシャワーで静かに泡を落としていく。お尻は後で女子寮の風呂で洗えばいいだろう)
……フフッ、そうッスね。まぁでも、保健委員……ひいては生活委員でもあるんスよ。
前も言ったとおり、女子寮と男子寮の違いくらいは自分の目で見ておきたいなーっていう動機もあったの。だから、こうやって身を持って体験。
やっぱり差は歴然ッスねー。(あらためて天井や壁を眺めながら)

てひどい目はある程度ならむしろ歓迎ッスねー、殺されない程度ならね。
まぁさすがに風呂場で女子を見かけたからって問答無用で攻撃してくる無粋な男子はいないっしょー?
そうでなく、互いに気持ちよくなれる行為だったらむしろ……って、こういう話はビアトリクスくんが苦手だったッスね。失礼失礼……。

(シャワーで全身を洗い流した後は、絞ったタオルを太ももの上に乗せ……まだ立ち上がらず)
楽しくないことのほうが多い、かぁ。
アタシもそういう時がない、ってわけじゃないなぁ。頻度は少ないけどね。
そういう時はアタシは、どんな些細な事でも楽しいことを見つけるよう努力するよ。
「今日の晩御飯は美味しかったなー」とか「いますれ違った子かわいいなー」とか「さっきのトイレ気持ちよかったなー」とか。
そういう小さな楽しいを積み上げて、膨らませて、楽しくないことを押しつぶす。それがアタシの生き方。
こうやってビアトリクスくんと裸でお話してることも、アタシはとっても楽しいよ!(にっこりと微笑む横顔)

そういう生き方って、そんなに難しく無いと思ってるけど、どう、かな……。

日恵野ビアトリクス > (だからといって裸で確かめる理由にはならないだろうに)
楽しさ優先なのだろう。わざわざ問いただす手間も煩わしい。

「人生甘く見過ぎだろ……
 それに、男に裸を見られて傷つく女がいるのと同じで
 女に裸を見られたくない男だっているんだぞ」

はあ、と溜息。説教じみたことを口にしては見たが、
こいつには何を言ってもどうせ通じまい。

「難しくない……か」

どこか気遣うような言葉遣いが癪に障る。
奇人のくせに、こういうところは妙に優しい。

「ぼくは劣った人間だからな。
 どうってことないようなことが出来ないんだよ」

吐き捨てる。

鈴成静佳 > 女に裸を見られたくない男……そっか、そうッスよね、そういう人もいるッスよね。うん。
(もしかすると、隣にいる男子がそうなのかもしれない。そう考えると、ちょっとずつ気が重くなってくる)
……まぁ、おっぱいなくて余計なものが生えてる女の子なんて正直目の毒ッスよねー! アハハー……。
(乾いた笑いを浴室に響かせる)

……劣った人間、ねぇ。そういえば前にもビアトリクスくん、自分を「汚れてる」とか言ってたけど。
(俯きながら、腰を隠すタオルの端っこを手持ち無沙汰にいじる静佳)
……ごめんね、アタシまだよくビアトリクスくんのことよく分からないから、その辺のニュアンスがよく分からない。
だから、正確なアドバイスはできないと思うけど、でも……放っておけないよ、アタシ、そういう性格だから。

(ビアトリクスさんの方を見て話したい。でも、相手にそれを拒絶されている気がする。顔を上げられない)
……そういう考えに陥ると、どんどん自分のいいところを見つけられなくなる。負のスパイラルって奴ッスよ。
そんな時はさ、あえて他人を頼ってみるのも大事ッスよ。きっと、ビアトリクス君の綺麗なところ、優れてるところを見つけられる人がいるハズ。
アタシだって、見つけたい。他人のいいところを。そして伸ばしたい。だから、ビアトリクス君のことはよく知りたいと思う。

アタシは保健委員だし、みんなの心身の健康を大事に思ってる。だから、できれば信頼して欲しい。
でも、アタシみたいな変態が嫌なら……そういう友達を探してみようよ。ね。
(あくまでも優しく、言い聞かせるように言い放つ)

日恵野ビアトリクス > 「そんな風に言うな!」

微かな悔しさと憤りが滲んだ叫びは、さて、何に対するものなのか。

「……なあ、鈴成。おまえはいいやつだよ。
 それはぼくが保証する。でもな――」

洗面器を浴室のタイルに叩きつける。
くわんくわん! と音を立てて何度か回転し、止まる。

「……ぼくを、そうやって気遣うのはやめろ。
 まだわからないのか。
 ぼくはおまえが変態だから嫌いなんじゃない」

立ち上がる。静佳を見下ろす。凍りついた刃物のような視線。

(こいつに憐れまれるのだけは)
(我慢がならない)
(なぜなら、こいつは――)

静佳の真摯な語りかけは、しかし真摯すぎるがゆえに、届かない。
そのまま踵を返し、大浴場を逃げるように立ち去る。

ご案内:「大浴場」から日恵野ビアトリクスさんが去りました。
鈴成静佳 > あっ! 待って、ビアトリクスく……!
(洗面器を鳴らしながら立ち上がるビアトリクスさんの姿を、目を丸くして見上げる。視線が痛い)
(風呂場から逃げ去っていく彼を、静佳は追えなかった。ただ、固まった表情のまま、後ろ姿を見つめるのみ)

………。

(視線を脚の間に戻す。泡を含んだ水が、未だに排水口に残ってコポコポと鳴っている)

……気遣うよ……。だって、アタシ、保健委員だもん……。

(風呂に侵入した時と同じく、これは一種の言い訳だ。これは、自分がそうしたいからしているのだ)
(拒絶されるのは悲しいが、あきらかに自分に非があることもわかる。しかし……)

……分からないッスよ、アタシ。ビアトリクスくんのことが……。

(自分は今まで、多くの人の「扉」を開けてきたつもりでいた。その調子で、この島でも、いろんな人と分かり合えるつもりで。その方法を学べるつもりで……)
(そして今、ビアトリクスさんからは頑なに拒絶されている。真っ暗闇の部屋で、鍵穴も鍵もない扉を開ける方法……)

(自分は一種の傲慢にあったのだろうか。自分の半生で築き上げてきた生き様が、揺らいでいるのを感じる)
(そしてその不安は別にいまに始まったことでもない。くくる先生の時といい……)

………。

(俯いたまま、更衣室の気配を探る。そして、ビアトリクスさんが去ったのを察知すると、静佳の姿はフッと掻き消える。瞬間移動だ)
(そのまま更衣室で手早く着替え、ロビーを経ること無く、最低限の瞬間移動のみで、男子寮を離れる)

ご案内:「大浴場」から鈴成静佳さんが去りました。