2015/08/13 のログ
ご案内:「部屋」にレイチェルさんが現れました。
レイチェル > 「ただい、ま~……っと」
真っ暗な部屋に、響くのは凛とした――いや、今はそうとも言えない、疲弊した少女の声。
部屋の灯を点ければ、整理整頓の行き届いた部屋が彼女の視界に広がる。
つい先日片付けをしたばかりであるし、そもそもここに帰って来ることがあまり無い為に、
変に散らかるようなことも無いのであるが。

壁には幾つかの銃器が掛けられており、あとは机と椅子、ベッドのみといったシンプルな
部屋である。机の上には、主人の帰りを待つように二足歩行の猫のぬいぐるみ――
一部の常世女子に人気のネコマニャンぬいぐるみである――が置かれていた。

気がつけば夏休みももう残り少ない、というか終わりである。
買い物袋をひとまずキッチンに置いた彼女は、台所の灯、それから換気扇をつけて、
ふぅ、と一息ついた。

シンクとまな板、それから包丁を軽く洗浄。
買い物袋からキャベツを取り出せば、その野菜も洗いながら、レイチェルは夏休みのこと
を振り返る。

貴子や華霧と海で遊びもした。五代先輩に海に連れて行って貰ったりもした。
ギルバートと水族館にも行った。そうした、学生の夏休みとしてはおそらく定番
といえるらしいものも、少しは体験することが出来た。

それでも、大半が風紀委員会の仕事であったことは否めない。
もう少し、学生らしいことも出来ただろうか。

新鮮な緑色が眩しいキャベツの上をさらさらと流れていく水を眺めながら、
レイチェルはそんなことを思った。

レイチェル > 料理は、元居た世界で彼女の師匠からひと通り教わっている。
二人旅をしていた時、料理を作っていたのは殆どレイチェルであった。
風邪を引いた時などは師匠自らが作ってくれたのであるが。

常世学園に来てから、自炊は殆どしていない。
風紀委員会の業務に追われて、殆ど外食に頼ってしまっていた。

作るのはキャベツとトマトを使った簡単なサラダだ。
ドレッシングは自作。
一番最初に教わった料理だったと記憶している。

「学生っぽいこと……」
以前に、常世の教師から学生っぽいこととはつまり恋愛である、と。
そんなことを教わった気がする。

「恋愛っつってもなー……」
キャベツをとんとん、と。
スムーズに包丁で切っていく。
久々の調理だったが、勘は失っていないらしい。

レイチェル > 恋愛感情を抱いたことが無い訳ではない。
かつて、自分の生まれた世界で共に組んでいた相棒が居た。
振り返れば、きっとその男のことがレイチェルは好きだったのだろう、と思う。
確信はできないが。
何をするにも、彼女のことをリードしてくれる男で、話していても楽しかった。
だが、結局。手も繋がないままに、その男は魔物に喰われて死んだ。
戦いばかりで、ゆっくり恋愛などしている暇が無かったのだ。

常世学園ではどうか。
思考をしながら、レイチェルはトマトを切り始める。
隣の誰かが、突然死ぬ。ぽっかりと穴が開いたように、自分の前から消えてしまう。
そんな可能性は、魔狩人をしていた頃に比べれば、ずっと低い、だろう。
いや、低くしなくてはいけないのだ。
それが、レイチェルの属する風紀委員の仕事であるし、
レイチェルの願いだった。

レイチェル > サラダを作り、肉を焼いて、スープを作る。
簡単な料理であった。それでも、それなりの味になっている自信はあったが。
師匠直伝の味付けである。


「ま、恋愛する為にもリハビリしとかなきゃな」
それらの料理をテーブルの上に運んで、ずらりと並べたそれを眺めるレイチェル。
やはり料理の出来る女の方がきっと男も喜ぶ……だろう。らしい。多分。きっと。

今や使うのにも慣れてきた箸を器用に振るいながら、料理を食べ始めるのだった。

レイチェル > ぱくり、と一口。
途端に渋い顔をするレイチェル。

「くっ、ちょっと味が違うな、やっぱり……」
不味くは無い。不味くは無いのだが、どうにも元の世界で作っていたそれとは
味が違う。調味料が違うのだから当然であろうが。
今度商店街に行って色々調味料を探してくるか、と。
ついでに新しいレシピを覚える為に料理本も買ってくるか、と。
そんな風に思いながら、ぱくぱくと料理を平らげた。

まぁ、恋愛に関しては追々、レシピを新しく覚えながら考えていこう、と。
そう考えたレイチェルは、思考を切り替える。



料理を食べ終えて片付けを終えれば、続いてクロークを机の上に広げ、
そこから幾つかの武器を取り出す。

「こいつとこいつは使わねーだろうから、まぁ交換だな」
そんな風に呟きながら、大小様々な銃器を、テーブルの隅へ。
クロークの内から現れるのはSMGからライフル、ショットガンまで。
多種多様である。
これらの銃器の殆どが、師匠から譲り受けたものだ。
言ってしまえば、レイチェルの元居た世界の技術から考えれば旧式にも程がある銃器ばかりだ。
師匠から言わせれば、『古い方が味があっていい』だそうである。
実際、レイチェルも銃器に関してはこういった旧式のものの方が使い慣れているし、
どこか愛着もあった。

レイチェル > がらり、とクローゼットの中を開ければ、そこにもぎっしりと銃器が安置されている。
武器を大量に保管してあるので、レイチェルの部屋のセキュリティは万全にしてある。
一週間に一度変わるパスワードに、彼女の右目による認証も不可欠である。

安置されている武器の内にはプラズマライフルなどの旧式でない銃器も存在しているが、
彼女がそういった銃器を使うことはあまり無い。綺麗に並べられた銃器の中から
幾つかピックアップして、それをテーブルの上に置いて、状態を確かめる。
この状態チェックは彼女の《右目》を使えば、すぐに終わる。
内部の問題や、破損などをひと通り走査《スキャン》することで、大抵の問題は発見できる
のだ。
チェックが終わればそれをクロークの内に仕舞いこみ、それでレイチェルの武器交換は終わりだ。


「さて、こんなとこかね……」
ふわあ、と小さな欠伸を一つして、レイチェルは自らのブレザーに手をかけた。
夏休みは終わり、明日からはまた授業が始まる。
次に受ける授業も楽しみだな、などと思いながら
ブレザー、シャツ、下着。そういった物を脱ぎ捨てて、洗濯籠の中へ。
リボンと眼帯も外して一糸纏わぬ姿となった金髪の少女は、
長い髪をさらりと撫でて、そのままシャワールームへと入っていくのであった。

ご案内:「部屋」からレイチェルさんが去りました。